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『相良氏法度』

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(1)

「 文化紀要」第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 2 3

﹃相 良 氏 法 度 ﹄ の 研 究

(一

)

は じ め に 安 野 真 幸

小 本 稿 の 課 題 は ' 九 州 ・ 肥 後 ・ 人 吉 の 戦 国 大 名 、 相 良 氏 の 制 定 し た 戦 国 家 法 ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ を 分 析 す る こ と に あ る 。 ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ は 全 部 で 四 十 一 ヵ 条 か ら な る が 、 詳 細 に 観 察 す る と 、 こ れ は さ ら に 次 の A ・ B 二 つ の 法 令 か ら で き て

い る こ と が わ か る 。

た め つく な が つわ A ・ ﹃為 続 ・ 長 毎 両 代 之 御 法 式 ﹄ 二 十 ヵ 条 。

B ・ 「天 文 廿 四 ( 一 五 五 五 ) 年 乙 卯 弐 月 七 日 」 付 け ﹃晴 広 様 被 二仰 定 一候 条 々 ﹄ 二 十 一 ヵ 条 0

A の 末 尾 に は 「美 文 十 八 ( l 五 四 九 ) 警 月 ‑ 押 之 税 所 新 兵 衛 尉 継 恵 (花 押 ) 」 と の 日 付 奥 栗 あ り 、 A が 相 良 晴 2

広 [戦 国 相 良 氏 七 代 目 の 当 主 ' 天 文 十 五 ( 一 五 四 六 ) 年 よ り 弘 治 元 ( 一 五 五 五 ) 年 ま で 、 治 世 十 年 ] の 代 に 壁 書 と し

て 掲 げ ら れ た こ と は 明 ら か で あ る o l 方 ' B は そ の 名 称 か ら も 明 ら か な よ う に 、 相 良 晴 広 自 身 の 制 定 し た も の で あ る O

今 後 の 作 業 の た め に 、 こ こ で は こ れ を ︽晴 広 法 ︾ と 名 付 け る こ と と す る 。 と こ ろ で 、 前 者 A は さ ら に 次 の 二 つ の 法 令 た め つぐ なが つね ‑ ‑ 11 か ら な っ て お り 、 B と 同 様 に そ れ ぞ れ を

法 ︾

法 ︾ と 名 付 け た い 。

(2)

『 相良氏法度』の研究 ( ‑)

2 4

A ‑ ・ 相 良 為 続 [戦 国 相 良 氏 二 代 目 の 当 主 、 応 仁 二 ( 一 四 六 八 ) 年 よ り 明 応 九 ( 一 五 〇 〇 ) 年 ま で 、 治 世 三 十 三 年 ]

の 制 定 し た 法 令 七 ヵ 条 で 、 日 付 に は 「明 応 二 ( 一 四 九 三 ) 年 卯 月 廿 二 日 」 と あ り 、 事 書 は ﹃申 定 粂 々 ﹄ と あ る 。

「申 定 」 の 主 体 は 当 然 為 続 で 、 こ の ﹃申 定 粂 々 ﹄ を よ り 丁 寧 に 表 現 す れ ば 、 B と 同 様 、 ﹃為 続 様 被 仰 定 侯 粂 々 ﹄ な

ど が 考 え ら れ る 。

A ⁚l ・ 相 良 長 毎 [戦 国 相 良 氏 三 代 目 の 当 主 、 明 応 九 ( I 五 〇 〇 ) 年 よ り 永 正 九 ( 一 五 二 l) 年 ま で 、 治 世 十 三 年 ] の

制 定 し た 日 付 ・ 事 書 の な い 法 令 十 三 ヵ 条 。

つ ま り 通 常 ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ と 呼 び 習 わ さ れ て い る も の は 、 A ‑ の ︽ 為 続 法 ︾ と A HII の ︽ 長 毎 法 ︾ と B の ︽ 晴 広 法 ︾

の 三 者 か ら な り 、 ︽ 為 続 法 ︾ と ︽晴 広 法 ︾ と の 間 に は 六 十 二 年 も の 開 き が あ る の で あ る 。 3 と こ ろ で 服 部 英 雄 の 研 免 に よ れ ば 、 鎌 倉 時 代 、 肥 後 国 球 磨 郡 に は 東 方 の 多 良 木 に 総 領 の 多 良 木 相 良 氏 が 、 西 方 の 人

吉 圧 に は 人 吉 相 良 氏 が お り 、 こ れ を そ れ ぞ れ 上 相 良 氏 ・ 下 相 良 氏 と 呼 ん だ 。 一 方 、 近 世 の 人 吉 藩 主 に 連 な る 戦 国 大 名 な が つぐ 相 良 氏 の 祖 は 下 相 良 氏 の 庶 子 の 永 富 相 良 氏 で 、 永 富 相 良 氏 の 長 続 が 「下 池 上 」 し て 宗 家 の 下 相 良 氏 を 逐 い 、 次 い で 上

相 良 氏 を 滅 ぼ し て 、 球 磨 郡 内 を 統 f L 、 球 磨 郡 の 覇 者 と な っ た の は 文 安 五 年 ( 1 四 四 八 ) 年 の こ と と い う 。

「文 安 五 年 の 内 証 」 を 治 め た 相 良 長 続 の 球 磨 郡 統 一 よ り 四 十 五 年 た ち 、 二 代 目 の 相 良 為 続 が 治 世 の 終 り こ ろ に 出 し

た も の が A i の ︽ 為 続 法 ︾ で あ る 。 為 続 は 相 良 氏 と し て 初 め て 西 隣 の 八 代 郡 を 獲 得 し た 武 人 で あ り 、 ま た 九 州 で た だ

一 人 ﹃新 撰 菟 久 波 集 ﹄ に 選 ば れ た 文 人 で も あ っ た 。 そ れ ゆ え こ の ︽ 為 続 法 ︾ 制 定 の 背 後 に は 、 球 磨 ・ 八 代 ・ 葦 北 三 郡

の 覇 者 と し て の 地 位 を 安 定 さ せ 、 三 郡 に 対 す る 支 配 の 正 当 性 を 主 張 し ょ う と の 努 力 が あ っ た と 思 わ れ る 。

次 に 戦 国 相 良 氏 の 系 図 を 掲 げ 、 当 主 と な っ た 人 物 に 番 号 を 付 け る 。

(3)

「 文化紀要」第3 9 号 ,1 9 9 4 年 2 5

縁 町 ・= .It nu R 定 3 長 毎 4

⊥ ‑: : (義 滋 )

.A「

歴 代 参 考

に よ れ ば 、 三 代 目 の 当 主 、 相 良 長 毎 の 嫡 子 は 長 唯 (義 滋 ) 、 次 男 は 長 隆 、 三 男 は 長 献 な の だ が 、 長 唯 ・

長 隆 が 妾 腹 な の に 対 し 、 三 男 長 紙 が 本 妻 の 「伊 東 殿 御 科 人 」 の 腹 な の で 、 こ れ に 家 督 を 譲 る よ う 、 隣 国 の 島 津 ・ 伊 東

両 家 か ら 圧 力 が か か り 、 長 毎 は 島 津 氏 の 申 し 出 を 受 け て 隠 居 し 、 家 督 を 長 蔵 に 譲 っ た と あ る 。 し か し 、 こ の 系 図 か ら

も 明 ら か な よ う に 、 長 毎 の 没 後 、 戦 国 相 良 氏 の 内 部 は 当 主 の 座 を 目 指 す 一 族 間 の 争 い が 絶 え ず ' ( こ れ を 「大 永 の 内

証 」 と い う 。) 当 主 の 地 位 は 安 定 し な か っ た 。

こ の 長 毎 の 治 世 の 最 後 に 出 さ れ た も の が A ⁚11 の ︽ 長 毎 法 ︾ で あ る 。 そ れ ゆ え こ の ︽ 長 毎 法 ︾ を 理 解 す る ポ イ ン ト は 、

一 万 で は 他 家 か ら の 要 請 に よ り 、 隠 居 を せ ざ る を え な か っ た 主 体 性 の な さ で あ り 、 他 方 で は 領 国 法 を 制 定 し 、 三 郡 の

支 配 を 確 実 な も の に し ょ う と す る 主 体 性 ・ 積 極 性 で あ り 、 ま た 両 者 の 関 係 で あ る 。 5 と こ ろ で ﹃洞 然 長 帆 ﹄ か ら 明 ら か な よ う に 、 六 代 目 の 当 主 長 唯 (義 滋 ) と 七 代 目 の 当 主 晴 広 の 時 代 に は 、 為 続 ・ 長

毎 親 子 の 時 代 を 「両 代 」 と 呼 び 、 理 想 化 す る 動 き が あ り ' 次 い で 、 相 良 氏 一 族 間 の 争 い が 収 ま っ た 晴 広 の 段 階 に 至 り 、

晴 広 に と っ て 長 毎 は 遠 縁 の 人 で 、 曾 祖 父 、 為 続 こ そ が 重 要 の は ず な の に も か か わ ら ず 、 ︽ 為 続 法 ︾ ︽ 長 毎 法 ︾ の 二 つ が

晴 広 に よ り 、 ﹃為 抗 ・ 長 毎 両 代 之 御 法 式 ﹄ と し て 一 括 し て 壁 書 と し て 掲 げ ら れ 、 そ の 後 、 さ ら に B の ︽晴 広 法 ︾ が 制 定

さ れ 、 両 者 共 に 壁 書 と し て 掲 げ ら れ た の で あ る 。

(4)

『 相良氏法度』 の研究 ( ‑) 2 6

6 一 方 ﹃ 八 代 日 誌 ﹄ に は 、 相 良 長 唯 (義 滋 ) が 天 文 十 四 二 五 四 五 ) 年 二 月 五 日 に 制 定 し た ﹃義 滋 法 式 ﹄ 五 ヵ 条 や 、

翌 年 の 天 文 十 五 年 八 月 十 五 日 に 制 定 し た ﹃義 滋 公 御 式 目 二 十 1 ヵ 条 ﹄ の 記 載 が あ る O つ ま り 、 晴 広 は 自 ら の 法 ︽ 晴 広

法 ︾ を 制 定 す る 十 年 前 に 、 既 に 先 代 の 制 定 し た ﹃義 滋 法 式 ﹄ ﹃義 滋 御 式 目 ﹄ が あ っ た に も か か わ ら ず 、 こ れ は 取 り 上 げ

ず 、 む し ろ 五 十 年 以 上 も は る か 昔 の ︽ 為 続 法 ︾ ︽ 長 毎 法 ︾ を 取 り 上 げ て い る の で あ る 。 ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ と は 何 か 、 改 め

て 考 え な け れ ば な ら な い わ け で あ る 。

と こ ろ で 、 義 滋 か ら 晴 広 へ の 政 権 の 移 動 は 、 上 村 家 に よ る ク ー デ タ I ' 戦 国 相 良 家 の 再 度 の 乗 っ 取 り と 見 る こ と も

で き る の に 、 1 族 間 の 血 生 臭 い 争 い の 記 録 は な い 。 こ れ は 暗 広 政 権 樹 立 に 上 村 頼 興 や 上 村 洞 然 の 力 が 大 き ‑ 作 用 し て

い た か ら で 、 し か も こ の 後 当 主 の 座 は 晴 広 の 子 孫 に 相 続 さ れ 、 近 世 の 人 吉 藩 主 に 連 な る の で あ る 。 そ れ ゆ え 晴 広 が

︽ 晴 広 法 ︾ と 並 ん で ﹃為 続 ・ 長 毎 両 代 之 御 法 式 ﹄ を 掲 げ た と す れ ば 、 こ の 壁 書 の 成 立 に は 晴 広 の 正 統 性 獲 得 の 努 力 が

あ っ た と 考 え ら れ よ う 。

次 に A ‑ の ︽ 為 続 法 ︾ 七 ヵ 条 、 A ‖11 の ︽ 長 毎 法 ︾ 十 三 ヵ 条 、 B の ︽ 晴 広 法 ︾ 二 十 1 ヵ 条 を 分 析 す る た め の 手 順 と し

て 、 各 法 令 に 命 名 を 試 み た い 。 そ の た め に 、 法 令 の 内 容 を 簡 潔 に 示 す 表 題 を 見 つ け て 行 き た い 。 本 文 中 に 「 一 〇 〇

之 事 」 と 事 書 の あ る 条 文 の 場 合 は 、 そ れ を 尊 重 し て 「 0 0 之 事 一 と し (短 か く し た 場 合 も あ る ) 、 幸 吉 の な い も の に

は ' 私 の 考 え た 表 題 八 〇 〇 之 事 ) を 付 け る と 、 ︽ 為 続 法 ︾ ︽ 長 毎 法 ︾ ︽晴 広 法 ︾ は そ れ ぞ れ 次 の よ う に な ろ う 。

︽ 為 続 法 ︾ ・ 第 一 条 か ら 第 七 条 ま で の 七 ヵ 条 。

第 一 条 「買 免 之 事 」

(5)

「 文化紀要」第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 2 7

第 二 条 「無 レ文 男 免 之 事 」

第 三 条 (転 売 地 之 事 )

第 四 条 「普 代 下 人 之 事 」

第 五 条 「悪 銭 時 男 地 之 事 」

第 六 条 「法 度 之 事 」

第 七 条 (所 務 沙 汰 之 事 )

︽ 長 毎 法 ︾ ・ 第 八 条 か ら 第 二 〇 条 ま で の 十 三 ヵ 条 。

第 八 条 (本 田 ・ 新 田 の 水 之 事 )

第 九 条 (内 之 者 、 別 人 扶 持 之 事 )

第 一 〇 条 「牛 馬 放 す べ き 事 」

第 二 条 ( 盗 物 買 置 之 事 )

第 二 一条 「読 者 之 事 」

第 二 二 条 「落 書 ・ 落 文 の 事 」

第 一 四 条 「入 た る 科 人 之 事 」

第 一 五 条 「小 者 い さ か ひ の 事 」

第 二 ハ 条 「文 質 物 の 事 」

第 一 七 条 「他 所 よ り 尋 来 候 老 之 事 」

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『 相良氏法度』 の研究 ( ‑) 2 8

第 一 八 粂 「諸 沙 汰 之 事 」

第 一 九 条 ( 両 売 ・ 両 質 之 事 )

第 二 〇 粂 「売 買 の 和 市 の 事 」

︽ 晴 広 法 ︾ ・ 第 二 一 条 か ら 第 四 ‑ 条 ま で の 二 十 ヵ 条 O

第 二 一 条 (井 手 溝 奔 走 之 事 )

第 二 二 条 「買 地 の 事 」

第 二 三 条 八 田 銭 之 事 ) (付 、 買 地 之 事 )

第 二 四 条 (検 断 作 子 之 事 )

第 二 五 条 (検 断 縁 者 之 事 )

第 二 六 条 (検 断 む す め 之 事 )

第 二 七 条 ( 百 姓 検 断 之 事 )

第 二 八 条 へ懸 持 検 断 之 事 )

第 二 九 条 ( 女 房 と か づ し 売 候 事 )

第 三 〇 条 (養 置 人 を 売 、 質 物 と な す 事 )

第 三 1 条 「売 地 之 事 」

第 三 二 条 へ 下 人 逃 亡 之 事 )

第 三 三 条 「人 よ り や と は れ 候 而 、 夜 討 ・ 山 立 ・ 屋 焼 之 事 」

(7)

「 文化紀要」第 39

,1 99 4 年 2 9

第 三 四 条 (欠 落 入 札 銭 之 事 )

第 三 五 条 (祝 ・ 山 伏 ・ 物 し り へ 宿 之 事 )

第 三 六 条 「 1 向 宗 之 事 」

第 三 七 条 (素 人 の 祈 念 ・ 医 師 之 事 )

第 三 八 条 へ 男 の い と ま き れ ず 侯 女 子 之 事 )

第 三 九 条 へ外 城 町 に て な し か 之 事 ) 「付 、 す り 取 之 事 」

第 四 〇 条 (井 手 満 古 杭 ・ 樋 之 事 )

第 四 一 条 ( さ し 杉 ・ 竹 木 切 る 事 )

な お 紙 幅 の 都 合 に よ り 、 こ こ で の 分 析 は ︽ 為 続 法 ︾ ︽ 長 毎 法 ︾ に 限 り 、 ︽晴 広 法 ︾ の 分 析 は 機 会 を 改 め る こ と と し た 。

第 一 章 で は ︽ 為 続 法 ︾ の 中 で も 土 地 の 売 買 に 関 連 す る 法 令 、 第 一 、 第 二 ' 第 三 、 第 五 条 を 取 り 上 げ ' 相 良 氏 権 力 が 共

同 体 の 慣 習 法 「古 き 良 き 法 」 の 再 建 を 試 み て い る こ と を 明 ら か に し た 。 第 二 章 は ' そ の 補 論 と し て 証 文 を 伴 わ な い 売

買 契 約 一 般 に つ い て 考 察 し た 。 第 三 章 で は 残 り の 第 四 、 第 六 、 第 七 条 を 分 析 し ' 「所 衆 」 の ヘ ゲ モ ニ ー が 貫 徹 さ れ て い

る こ と を 明 ら か に し た 。

︽ 長 毎 法 ︾ の 第 八 、 第 九 、 第 十 、 第 十 一 条 に は ' 利 害 の 相 対 立 す る 両 当 事 者 に 対 し 、 相 良 氏 が 第 三 者 と し て 臨 む と

い う 共 通 性 が あ り ' こ れ を 第 四 章 で 取 り 上 げ た 。 次 に 第 十 二 、 第 十 三 、 第 十 四 、 第 十 五 条 で 問 題 と し て い る 事 柄 は い

ず れ も 私 戦 へ の 発 展 の 可 能 性 の あ る も の で 、 相 良 氏 は こ れ ら に 対 し て 、 共 通 し て 「平 和 」 を 命 じ て い る の で あ る 。 こ

れ を 一 括 し て 第 五 章 で 取 り 上 げ た 。 残 り の 五 ヵ 条 は 、 あ え て 言 え は ' 領 国 法 と い う 共 通 性 が 見 ら れ る の で 、 こ れ を 第

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『 相良氏法度』 の研究 ( ‑) 3 0

六 章 で ま と め て 取 り 上 げ る こ と と し た O

一 「古 き 良 き 法 」 の 再 現 ‑ ‑ ‑ ︽為 統 法 ︾ ‑

こ こ で は A ‑ の ︽ 為 続 法 ︾ 七 ヵ 条 の う ち ' 土 地 の 売 買 契 約 に 関 す る 法 令 で あ る 第 一 ' 第 二 ' 第 三 ' 第 五 条 の 四 ヵ 条 〟 を 分 析 し た い 。 ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ を 校 注 し た 勝 俣 鋲 夫 に よ れ ば 、 第 t ' 第 二 条 の 「買 免 」 と は 「買 い 戻 し 」 を 意 味 し ' 第

三 条 の 「買 取 ・ 売 」 や 第 五 条 の 「買 地 」 も ま た こ の 買 免 形 式 に 基 づ ‑ も の と い う 。 そ れ ゆ え こ こ で 問 題 と な る 売 買 は

い ず れ も 「永 代 売 買 」 で は な ‑ 、 あ る 一 定 期 間 だ け は 相 手 に 引 き 渡 す が ' 年 季 が あ け た ら 請 け 戻 す 「年 季 売 り ・ 本 銭

返 し 」 の よ う な 特 約 付 き 売 買 の こ と と な る 。 8 ま た 勝 俣 の 「地 発 」 に つ い て の 研 免 に よ れ ば ' 中 世 に お い て 土 地 を 開 墾 し 土 地 に 命 を 吹 き 込 ん だ 人 は ' そ の 土 地 の

「本 主 」 と 観 念 さ れ ' 売 買 に 際 し て も 「本 主 権 」 は 変 わ ら な い と さ れ て お り 、 概 念 上 「売 買 」 と 「質 入 れ 」 の 間 に は

大 き な 隔 た り は な か っ た と い う 。 こ こ か ら 売 買 に よ る 土 地 の 移 動 は 「 一 時 的 な 仮 の 姿 」 を 示 す も の に す ぎ ず ' 「本 主 」

の も と に あ る の が 本 来 の 正 し い 在 り 方 で あ る と の 観 念 が 導 き 出 さ れ る こ と に な る 。 そ れ ゆ え こ こ で 分 析 す る 四 ヵ 条 は 、

い ず れ も こ の よ う な 考 え に 基 づ ‑ も の と な ろ う 。

第 1 条 「買 免 之 事 」 を 理 解 す る た め に は 、 「子 々 孫 々 無 レ文 侯 老 」 の 部 分 の 解 釈 が 問 題 と な る O 最 初 の 売 買 契 約 の 際

契 約 状 は 作 成 さ れ た が ' 売 主 ・ 買 主 共 に 死 去 の 後 「子 孫 が そ の 契 約 状 を な ‑ し て し ま っ た 場 合 は 」 と の 解 釈 も 一 応 は

可 能 だ が ' そ の 場 合 は む し ろ 「子 々 孫 々 雄 二無 レ文 慎 二 と あ る べ き で あ ろ う 。 そ れ ゆ え こ こ で 想 定 し て い る 事 態 は ' 最

初 か ら 契 約 状 の な い 場 合 で ' 代 替 わ り の 度 ご と に 契 約 更 新 が 行 わ れ る と 仮 定 し て ' 「子 孫 が 契 約 更 新 状 を 作 ら な か っ

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「 文化紀要」第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 31

た 場 合 は 」 と 解 釈 し た い 。

と す る と ' 第 一 条 は 文 書 の 無 い 時 代 か ら 文 書 の 作 ら れ る 時 代 へ と ' 時 代 が 転 換 す る 過 渡 期 に あ り が ち な 問 題 を 取 り

扱 っ た も の と な り ' 法 令 全 体 は 「売 主 ・ 買 主 が 死 去 し た の ち ' 子 孫 が 改 め て 契 約 状 を 作 成 し な か っ た 場 合 は ' 必 ず 本

主 の 子 孫 に 返 す べ き で あ る 」 と な る 。 と こ ろ で ' 質 券 の 書 き 方 を 定 め た ︽ 長 毎 法 ︾ 第 十 六 条 に は 「質 券 に は 必 ず 質 入

れ 期 間 を 明 示 す べ し 」 と あ り ' こ の 法 令 が 「質 入 れ 契 約 は 文 書 に よ る べ し 」 と す る 「文 書 主 義 」 の 存 在 を 前 提 と し て

い る こ と は 明 白 で あ る 。

そ れ ゆ え ︽ 為 続 法 ︾ の 前 提 に も ' 契 約 は 文 書 で と の 「文 書 主 義 」 が あ り 、 「買 い 戻 し は 文 書 の 記 載 条 件 に 従 う べ し 」

を 前 提 と し た 上 で ' 文 書 の 作 成 さ れ な い 場 合 を 特 に 取 り 上 げ 、 法 令 化 し た も の と 考 え ら れ よ う 。 次 の 第 二 粂 「無 レ文 男

免 之 事 」 は ' 契 約 更 新 状 の み な ら ず 契 約 状 の な い 場 合 一 般 を 問 題 と し た も の で ' 「売 買 契 約 状 の な い 売 買 に お い て ' 売

買 当 事 者 の 一 方 が 死 去 し た 場 合 は 、 本 主 が 知 行 す べ き で あ る 」 と 解 釈 で き よ う 。 そ れ ゆ え 、 第 l 、 第 二 条 は い ず れ も 「文 書 主 義 」 へ の 転 換 期 の 問 題 を 取 り 上 げ た も の と な る 。

い ず れ に せ よ ' 以 上 第 二 第 二 条 の 二 法 令 か ら 「売 買 当 事 者 の 一 方 が 死 去 し た 場 合 は ' 契 約 以 前 の 状 態 に 戻 す べ き

で あ る 」 と の 原 則 を 導 き 出 す こ と が で き る 。 こ れ は 勝 俣 の い う 「本 主 権 」 の 考 え を 前 提 と し た も の で ' 相 良 氏 は 「本

主 権 」 の 尊 重 を 命 じ た こ と に な る 。 そ れ ゆ え ' 法 の 主 旨 か ら す れ ば ' 第 二 条 が 原 則 で 第 1 条 は そ の 細 則 、 I 具 体 例 と

な る が ' 文 書 の 作 成 さ れ な い 場 合 と し て は ' む し ろ 第 7 条 が 想 定 す る 場 合 の 方 が 多 か っ た の で ' こ の よ う な 配 列 と

な っ た の で あ ろ う 。

現 在 の わ れ わ れ は ' 西 欧 渡 来 の 近 代 法 の 在 り 方 か ら ' 「法 」 と は 本 来 樹 木 を モ デ ル と し ' 原 則 を 「幹 」 と し ' 「枝 」

か ら 「梢 」 へ と 分 岐 し て ゆ ‑ も の と 発 想 す る が ' ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ や 広 ‑ 「戦 国 家 法 」 一 般 に お い て は ' そ の よ う な 発 想

(10)

『 相良氏法度』 の研究 ( ‑) 3 2

は 元 々 な ‑ 、 現 実 に 問 題 に な る 場 合 を 次 々 と 想 定 し 、 場 合 場 合 に 即 し て 逐 T 法 を 定 め た と 思 わ れ る . そ れ ゆ え こ こ か

ら ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ や 「戦 国 家 法 」 一 般 に は 、 非 体 系 性 と 実 際 性 を 指 摘 す る こ と が 可 能 と な り 、 さ ら に 法 令 の 分 析 か ら

は 、 当 時 の 社 会 問 題 の 所 在 さ え も が 想 定 で き る の で あ る 。

そ れ は さ て 置 き 、 一 般 的 に 考 え て 、 売 主 側 が 買 い 戻 せ な い 経 済 状 態 に な っ た 場 合 、 こ の よ う な 請 け 戻 し 特 約 が あ っ

て も 売 主 側 に は 買 い 戻 し を 要 求 す る 力 は な ‑ 、 結 果 と し て 土 地 は 買 主 の も と に 留 ま っ た は ず で あ る 。 そ こ で 次 に 問 題

と な る の が 、 第 三 条 で 取 り 上 げ る (転 売 地 之 事 ) と い う 事 態 で あ る 。 第 三 条 は 「転 売 者 が 経 済 的 な 理 由 な ど で 没 落 =

退 転 し た 場 合 は 、 本 々 の 売 主 に 付 け る べ き で あ る 」 と な る が 、 こ れ ま た 最 初 の 売 主 の 持 つ 「本 主 権 」 の 尊 重 を 命 じ た

も の で あ る 。 9 笠 松 宏 至 の 「徳 政 令 」 に 関 す る 研 免 に よ れ ば 、 こ の よ う に 土 地 支 配 の 在 り 方 を 本 来 の 正 し い 状 態 に 戻 す こ と を 中 世

で は 「徳 政 」 と 呼 ん だ と あ る 。 そ れ ゆ え 、 こ れ ま で 分 析 し て き た ︽ 為 続 法 ︾ 第 二 第 二 、 第 三 条 を 「徳 政 令 」 と み な

す こ と が で き よ う 。 室 町 幕 府 に お い て 「徳 政 令 」 が 将 軍 の 代 替 わ り ご と に 問 題 と な っ た の と 同 様 、 第 二 第 二 条 で は

「売 買 当 事 者 の 一 方 の 死 」 が 「徳 政 」 の 実 機 と な り 、 第 三 条 で も 「退 転 」 と い う 社 会 的 な 「死 」 が そ の 実 故 に な っ て

い る の で あ る 。

こ れ ら 三 法 令 は 、 共 に 土 地 の 売 買 契 約 が 文 書 に よ ら な い 場 合 、 つ ま り 口 頭 で 行 わ れ る 場 合 を 想 定 し て い る 。 と こ ろ

で 、 一 般 に 土 地 売 買 が 口 約 束 で 行 わ れ る 世 界 を 考 え る と 、 そ こ は 、 買 手 と 売 手 と が 共 に 周 知 の 間 柄 で 、 そ の 両 者 を 含

む 周 囲 の 人 々 も ま た 、 両 者 の 取 り 決 め た 口 約 束 を 熟 知 し て い る と い う 共 同 体 的 な 関 係 が 不 可 欠 な 条 件 と な っ て こ よ う 。

さ ら に 考 え る べ き は 、 こ の よ う な 共 同 体 的 な 関 係 を 前 提 と し て い る か ら こ そ 、 「本 主 権 」 に 基 づ ‑ 買 免 = 買 い 戻 し が 行

わ れ た こ と で あ る 。

(11)

「 文化紀 要」第39 号 ,1 994 年 33

な ぜ な ら 、 在 地 の 秩 序 維 持 の 担 い 手 で あ る 共 同 体 は 、 両 当 事 者 間 の 売 買 契 約 を 承 認 し ・ 保 証 し て い る が 、 そ れ 以 上

に 、 そ の 土 地 を 開 墾 し 土 地 に 命 を 吹 き 込 ん だ 人 を 「本 源 的 な 所 有 者 」 「本 主 」 と し て 承 認 し て お り 、 こ こ か ら 共 同 体 自

身 が 、 売 買 に よ る 土 地 の 移 動 は 「 1 時 的 な 仮 の 姿 」 を 示 す も の に す ぎ ず 、 契 約 当 事 者 の 少 な ‑ と も 1 万 が 死 亡 す れ ば 、

当 然 「 一 時 的 な も の 」 は 消 滅 し 、 代 り に 本 源 的 な 「本 主 」 の 土 地 所 有 が 再 現 し 、 本 来 の 正 し い 在 り 方 に 戻 る べ き だ と

考 え て い た と 思 わ れ る か ら で あ る 。

し か し 大 名 の 相 良 為 続 か ら こ の 法 令 が 出 さ れ た こ と は 、 今 や そ の よ う な 「古 き 良 き 法 」 が 共 同 体 自 身 の 内 部 努 力 で

は 維 持 で き な い 事 態 に 、 相 良 氏 の 領 国 全 体 は 陥 っ た こ と を 示 し て い る 。 つ ま り こ の 三 法 令 の 背 後 に は 、 土 地 の 売 買 契

約 が 共 同 体 内 部 で 処 理 可 能 で 、 土 地 の 移 動 の 取 り 決 め も 口 約 束 で 十 分 で あ っ た 「素 朴 」 な 時 代 が 今 や 終 り 、 土 地 の 売

買 ・ 移 動 は 共 同 体 の 規 模 を 超 え て 行 わ れ 、 契 約 に は 文 書 が 必 要 な 「文 書 主 義 」 の 時 代 = 「文 明 」 の 時 代 へ と 時 代 が 変 化

し た こ と が あ る と 思 わ れ る 。

次 の 第 五 条 「悪 銭 時 買 地 之 事 」 は 、 「悪 銭 之 時 」 の 買 い 戻 し の 条 件 を 示 し た も の で 、 相 良 氏 は 「字 大 鳥 十 貫 は 良 銭 四

貫 、 黒 銭 十 貫 は 良 銭 五 貫 」 と い う 条 件 で 買 い 戻 す べ き こ と を 命 じ て お り 、 こ の 法 令 は 「選 銭 令 」 の 一 つ に 数 え る こ と

が で き よ う 。 銭 の 善 し 悪 し を 巡 る 流 通 界 の 混 乱 そ れ 自 体 は 、 流 通 経 済 の 未 成 熟 、 「文 明 」 の 未 成 熟 を 示 す も の で 、 流 通

界 の 混 乱 は 共 同 体 を 越 え た 広 域 権 力 = 大 名 権 力 に よ っ て し か 収 拾 さ れ 得 な い こ と か ら 、 「選 銭 令 」 の 発 布 も ま た 「素

朴 」 か ら 「文 明 」 へ の 時 代 の 変 化 と 対 応 し て い る 。

貨 幣 流 通 を 前 提 と し 、 支 払 手 段 と し て の 銭 の 善 し 悪 し を 問 題 に す る 点 で 、 こ の 法 令 も 「文 明 」 の 立 場 か ら 土 地 売 買

を 問 題 と し た も の と な る 。 一 般 的 に 考 え て 、 貨 幣 流 通 が さ ら に 進 展 す れ ば 売 買 は 「買 免 方 式 」 か ら 「永 代 売 買 」 に 移

行 し 、 「本 主 権 」 や 「買 い 戻 し 」 の 観 念 は 消 滅 し ょ う 。 そ れ ゆ え ︽ 為 続 法 ︾ ほ 、 「文 明 」 の 立 場 か ら 「文 書 」 の な い ・

(12)

『 相良氏法度』 の研究 ( ‑)

3 4

貨 幣 流 通 の 未 成 熟 な 「素 朴 」 な 時 代 の 問 題 を ど う 取 り 扱 う か を テ ー マ と し た も の で ' 共 同 体 に 代 り ' 相 良 氏 が 新 た な

承 認 主 体 と し て 登 場 し た も の と い い え よ う 。

以 上 の 分 析 か ら ' 第 二 第 二 ' 第 三 ' 第 五 条 の 四 法 令 は ど こ ま で も 「本 主 権 」 が 付 い て ま わ る 売 買 を 問 題 と し て お

り ' 土 地 支 配 が 「 一 時 的 な 仮 の 姿 」 を 改 め ' 本 来 の 所 有 者 ‑ 「本 主 」 の も と に 戻 る こ と を 求 め た も の と ま と め る こ と が

でき'

い ず れ も 「徳 政 令 」 に 数 え る こ と が で き よ う 。 本 来 こ れ ら は 共 同 体 の 持 つ 「古 き 良 き 法 」 で あ っ た の だ が ' 共

同 体 が こ れ ら の 法 を 維 持 出 来 な く な っ た 段 階 で ' 共 同 体 に 代 り 大 名 の 相 良 氏 が ' 分 国 法 と し て 制 定 し た も の と 考 え ら

れ る の で あ る 。

以 上 か ら ' ︽ 為 続 法 ︾ の 成 立 に は ' 共 同 体 側 か ら の 働 き か け と ' そ れ を 受 け て の 相 良 氏 権 力 に よ る 立 法 と い う 二 つ の

契 機 が 導 き 出 さ れ て ‑ る 。 そ の こ と を 次 に ' 第 」ハ 条 の 「法 度 之 事 」 と ' 土 地 の 境 を 巡 る 争 い を 定 め た 第 七 条 の (所 務

.沙 汰 之 事 ) の 分 析 の 中 で 考 察 し た い 。 し か し そ の 分 析 に 入 る 前 に ' 「文 書 な し の 契 約 」 に つ い て 考 え て お き た い 。

二 補 論 ‑ ‑ ‑ 文 書 な し の 契 約

西 鶴 の 文 学 は 元 禄 期 の 風 俗 や 習 慣 を 今 に 伝 え る も の で あ る 。 そ の 中 の ﹃ 日 本 永 代 歳 ﹄ 巻 一 「波 風 静 か に 神 通 丸 」 は '

大 阪 「北 浜 の 米 市 」 の あ り さ ま を 次 の よ う に 記 し て い る 。

両 人 手 打 ち て 後 は ' 少 し も こ れ に 相 違 な か り き 。 世 上 に 金 銀 の 取 り や り に は ' 預 り 手 形 に 請 判 健 か に ︽ 何 時 な り と

も 御 用 次 第 ︾ と 相 定 め し 事 さ へ ' そ の 約 束 を の は し 出 入 り に な る 事 な り L に ' 空 き だ め な き 雲 を 印 の 契 約 を た が へ ず '

(13)

「 文化紀要」第 39 号 .1 9 9 4 年 3 5

そ の 日 切 り に 損 徳 を か ま は ず 売 買 せ L は 、 扶 桑 第 1 の 大 商 人 の 、 心 も 大 腹 中 に し て 、 そ れ 程 の 世 を わ た る な る ・・ ・‑

こ こ か ら 元 禄 期 大 阪 「北 浜 の 米 市 」 で は 、 一 方 で は 、 「預 り 手 形 に 請 判 確 か に ︽ 何 時 な り と も 御 用 次 第 ︾ と 相 定 め 」 と り ま ち た 「文 書 に ょ る 契 約 」 が 存 在 し な が ら も ' 他 方 で は 、 現 在 の 「酉 の 市 」 な ど と 同 様 「手 を 打 つ 」 所 作 だ け の 「文 書 な

し の 契 約 」 が な さ れ 、 「両 人 手 打 ち て 後 は 、 少 し も こ れ に 相 違 い な か 」 っ た こ と が 知 ら れ る 。 恐 ら く こ の 「手 打 ち 」 と 「市 場 」 と は 密 接 な 関 係 に あ ろ う 。 「文 書 主 義 」 が 成 立 し 文 明 の 時 代 に 入 る 前 の 、 文 書 を 伴 わ な い 口 頭 に よ る 契 約 の 時

代 を 考 え る 際 に 、 こ の 「手 打 ち 」 と い う 所 作 は 見 逃 す こ と の で き な い も の と 思 わ れ る 。

日 本 人 で あ れ ば ' 小 学 校 や 中 学 校 の 運 動 会 で 拍 手 の 応 援 を し た 経 験 の な い 人 は い な い で あ ろ う 。 「 三 三 七 拍 子 ! 」 の

掛 け 声 と 共 に 、 「 チ ャ ッ チ ャ ッ チ ャ ! 、 チ ャ ッ チ ャ ッ チ ャ ! 、 チ ャ ッ チ ャ ッ チ ャ ッ チ ャ

チ ャ ッ チ ャ ッ チ ャ ! 」 と 手 を

1

く の で あ る 。 と こ ろ で 、 こ の 「三 三 七 拍 子 」 と 同 じ 拍 手 が 「手 締 め 式 」 に お い て も 行 わ れ る こ と は 、 多 ‑ の 人 が

知 っ て い よ う 。 こ こ で は 「拍 手 」 と か 「手 を 叩 ‑ 」 と か 「手 を 打 つ 」 と い う し ぐ さ に つ い て の 考 察 か ら 「素 朴 」 な 時

代 の 契 約 を 垣 間 見 て み た い 。 ゆヽu 中 田 薫 ﹃徳 川 時 代 の 文 学 に 見 え た る 私 法 ﹄ は 「権 力 関 係 の 法 」 で は な ‑ 「私 的 関 係 の 法 」 を 「 一 動 産 質 」 「 二 動

産 抵 当 」 か ら 始 ま り 「 二 三 隠 居 」 「 二 四 後 見 」 ま で 、 二 四 項 目 に わ た り 取 り 上 げ た も の で あ る 。 そ の 中 に は 「五

手 打 」 と し て 、 「徳 川 時 代 契 約 成 立 の 確 証 と し て ' 当 事 者 互 い に 拍 手 す る の 方 式 あ り 、 こ れ を 手 打 と い う 」 と あ り 、

「借 金 契 約 ・ 売 買 契 約 」 の 例 を 挙 げ 、 ま た 手 打 ち 後 に 酒 を 呑 む こ と が あ り 、 こ れ を 「手 打 酒 」 と 称 し た と あ る 。

と こ ろ で ﹃ い ろ は 歌 留 多 ﹄ の 「わ ん に は わ ん を い れ る 」 の 絵 札 に は 、 証 文 を 前 に 片 手 に 判 を 持 っ た 人 物 が 証 文 を 入

念 に 検 討 し て い る 様 子 が 描 か れ て い る 。 こ こ .で は 文 書 に よ る 契 約 の 場 合 に は 、 契 約 の 中 心 的 な 場 面 が 私 的 な 密 室 空 間

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『 相良氏法度』 の研究 ( ‑) 3 6

に お け る 「文 書 の 黙 読 」 と 、 承 認 と し て の 「捺 印 」 と な り 、 こ の 証 文 の 取 り 交 わ し に 際 し て 「手 を 打 つ 」 動 作 を 伴 っ

て い た か ど う か は っ き り し な い の で あ る 。 つ ま り ﹃ い ろ は 歌 留 多 ﹄ の 世 界 は 現 在 の 不 動 産 売 買 と 同 様 、 文 書 主 義 な の

で は あ る ま い か O

小 学 館 の ﹃ 日 本 国 語 大 辞 典 ﹄ に よ れ ば 「拍 手 」 と は 「両 手 の て の ひ ら を 打 ち 合 わ せ て 音 を 出 す こ と 、 神 を 拝 ん だ り 、

賛 成 や 称 賛 の 気 持 を 表 す た め に 手 を た た ‑ こ と 」 と あ り 、 「手 を 叩 ‑ 」 に は 「イ ・ 神 に 礼 拝 す る 場 合 、 ロ ・ 人 を 呼 ん だ

り す る 場 合 、 ハ ・ 商 談 な ど 話 合 い の 成 立 で め で た ‑ 決 着 の つ い た 場 合 」 を あ げ て い る 。 ま た 「手 を 打 つ 」 に も 「 ロ ・

て の ひ ら を う ち 鳴 ら せ て 礼 拝 す る 、 合 掌 す る 。 ハ ・ 商 談 ・ 契 約 ・ 和 解 な ど の 成 立 し た 際 の 所 作 に い う 。 ま た 祝 っ て 拍

手 す る 。 転 じ て 、 仲 直 り を す る 。 契 約 が 成 立 す る 」 と あ る 。

今 わ れ わ れ が 問 題 と し て い る 「契 約 成 立 の 確 証 と し て の 手 打 ち 」 と 関 係 が あ る の は 「手 を 叩 く 」 の 「 ハ 」 や 「手 を

打 つ 」 の

で あ ろ う 。 と も あ れ 、 「手 を 叩 ‑ 」 し ぐ さ に は 決 ま り が あ り 、 「神 を 礼 拝 す る 」 場 合 は 、 両 方 の て の ひ

ら を ま っ す ぐ に 合 わ せ て 「パ ン パ ン ‑ ‑ パ ン 」 と 二 相 一 礼 一 拍 で 、 こ れ を 「柏 手 」 と 呼 ぶ こ と も あ る 。 「人 を 呼 ぶ 」 場

合 は 、 て の ひ ら を 前 後 に ず ら し て 「ポ ー ン 、 ボ ン 」 と 二 相 、 「商 談 ・ 契 約 ・ 和 解 な ど の 成 立 し た 際 」 は 「 シ ャ ン シ ャ ン

シ ャ ン 」 と 三 三 七 拍 子 形 式 の も の と な ろ う 。

ま た 同 辞 典 の 「手 を 締 め る 」 に は 「商 談 ・ 約 束 ま た は 和 解 な ど の 成 立 、 会 合 の 終 り な ど を 祝 っ て 参 加 者 一 同 が 拍 手

す る 」 と あ り 、 「手 締 め 式 」 と し て 著 名 な も の に は 家 の 建 前 ・ 棟 上 げ 式 の 際 や 、 リ ン ゴ や 青 物 ・ 魚 等 の セ リ 市 ・ 証 券 市

場 等 も あ ろ う O ま た 、 宴 会 の 終 り に 「 l 本 締 め ・ 三 本 締 め 」 等 々 も あ ろ う 0 こ れ ら に は 共 通 し て 御 祝 の 感 じ が あ る O

こ の 「手 締 め 」 と い う 言 葉 の 中 で も 、 特 に 「締 め る 」 に は 、 契 約 内 容 に 「手 を 入 れ る 」 こ と を 禁 止 す る 意 味 が 含 ま れ

て い る と 思 わ れ る 。

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「 文化紀要」第39 号,1 994 年 37

つ ま り 一 度 「手 を 叩 ‑ 」 所 作 を 行 う と 、 契 約 内 容 は 動 か せ な い と す る 考 え 方 が こ れ ら の 背 後 に あ る の で は な か ろ う

か 。 こ の こ と と 「手 を 叩 ‑ 」 に 「イ ・ 神 に 礼 拝 す る 場 合 」 が あ り 、 「手 を 打 つ 」 に も 「 ロ ・ て の ひ ら を う ち 鳴 ら せ て 礼

拝 す る 、 合 掌 す る 」 が あ る こ と と 関 連 が あ ろ う 。 つ ま り 「拍 手 」 に は 契 約 成 立 に 際 し て 神 を 呼 び 出 し 、 神 に 証 人 に

な っ て も ら う と い う 考 え が あ り 、 「拍 手 」 で 「神 を 呼 び 出 す 」 こ と を 通 じ て 決 定 事 項 を 神 聖 化 し 、 聖 別 し て い る の で は

あ る ま い か 。 「神 の 立 会 い の 下 で 契 約 す る 」 「契 約 の 場 所 に 神 が 降 臨 す る 」 と 考 え る こ と が で き る と す れ ば 、 祭 礼 の 日 に 神 社 の 境

内 に 市 が 立 つ こ と 、 市 場 に 市 場 神 を 勧 請 す る こ と 、 市 立 て と 市 神 祭 り が 密 接 不 可 分 で あ る こ と 等 々 、 神 社 と 市 場 と の

密 接 な 関 係 が 説 明 で き 、 「文 書 主 義 」 成 立 以 前 の 「未 開 」 な 時 代 に あ っ て は 、 契 約 は 神 事 で あ る と 考 え て い た と す る こ

と が で き そ う で あ る 。 以 上 が 解 明 で き れ ば 、 ヨ ー ロ ッ パ 中 世 の 聖 遺 物 崇 拝 や 「聖 書 に か け て 誓 う 」 ヨ ー ロ ッ パ 世 界 の

契 約 と の 比 較 の 道 が 切 り 開 か れ る の で は あ る ま い か 。

こ れ ま で 「手 打 ち 」 を 商 談 を 中 心 に 考 察 し て き た が 、 次 に 「仲 直 り ・ 和 解 」 な ど 契 約 当 事 者 の 社 会 的 な 在 り 方 が 直

接 変 化 す る 身 分 契 約 を 問 題 と し た い 。 「神 の 立 会 い の 下 で 契 約 す る 」 「契 約 の 場 所 に 神 が 降 臨 す る 」 の 考 え と 、 現 在 の

神 前 結 婚 式 の 儀 式 や 中 世 に お け る 神 社 宅 内 で の 7 味 神 水 に よ る Z 挟 契 約 の 締 結 は 対 応 し て お り 、 ま た や ‑ ざ の 「手 打

ち 式 」 会 場 に は 神 々 が 勧 請 さ れ て い る と い う 。 ま た 兄 弟 盃 の 言 葉 が あ る よ う に 、 義 兄 弟 の 約 束 に は 「手 打 」 よ り も 盃

事 が 重 視 さ れ て い る が 、 こ れ も 神 事 や 「手 打 酒 」 に 起 源 が あ ろ う 0

商 談 ・ 契 約 成 立 に 際 し て 「手 を 打 つ 」 「手 を 叩 ‑ 」 所 作 は 、 現 在 の 我 々 に は な い が 、 「酉 の 市 」 で 縁 起 物 の 熊 手 を 買

う と き な ど に は 、 今 で も 商 談 成 立 を 祝 っ て こ の 「手 締 め 」 が 行 わ れ る と い う 。 逆 に 例 え ば 一 生 に そ う 何 度 と な い 大 き

な 買 い 物 で あ る 家 の 売 買 な ど の 際 、 こ の よ う な 「手 締 め 式 」 ぐ ら い あ っ て も よ い ぐ ら い な の に 、 そ こ に 至 る ま で の 多

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『 相 良氏法度』 の研究 ( ‑) 3 8

‑ の 緊 張 を 思 う と き 、 契 約 自 身 は ば か に あ っ さ り と し て い て 印 象 に 薄 ‑ 、 物 足 り な い 感 じ が し た こ と を 覚 え て い る 。

ま た 一 方 、 家 具 や 家 電 製 品 な ど ち ょ っ と 大 き な 買 い 物 で 、 売 手 が 「 サ ー ビ ス を し ま す 」 な ど と 申 し 出 る 場 合 で は 、

い ろ い ろ 値 切 っ た 挙 げ 句 ' 売 買 契 約 決 定 に 際 し 「ま あ 手 を 打 つ か 」 な ど と い う 会 話 が 交 わ さ れ る の が 常 で は あ る ま い

か 。 つ ま り 「手 を 打 つ 」 と い う 言 葉 が 、 現 在 で は 本 来 の 「所 作 」 か ら 離 れ 「決 定 ・ 契 約 す る 」 を 意 味 す る よ う に な っ

て い る が 、 こ れ は 商 談 ・ 契 約 ・ 和 解 等 に 際 し て 、 相 対 で 両 当 事 者 が 「手 を 打 つ 」 所 作 が 行 わ れ た 世 界 、 契 約 が 神 事 で

あ っ た 世 界 が か つ て 存 在 し た こ と の 名 残 な の で あ ろ う 。

三 「所 衆 」 の ヘ ゲ モ ニ ー ‑ ‑ ‑ ︽為 統 法 ︾ 2

こ こ で は ' 次 の 三 ヵ 条 を 取 り 上 げ る . ‖ 譜 代 下 人 に 対 す る 「人 返 し 法 」 で あ る 第 四 条 「普 代 下 人 之 事 」. 〇 「所 領 の

境 界 に 関 す る 相 論 」 を 中 世 の 用 語 で 「所 務 沙 汰 」 と 言 う が 、 そ の 「所 務 沙 汰 」 の 取 り 扱 い を 定 め た 第 七 条 (所 務 沙 汰

之 事 ). 臼 「立 法 」 に 関 す る 手 続 を 定 め た 第 六 条 「法 度 之 事 」. と こ ろ で こ れ ま で 分 析 し て き た 第 1 、 第 二 、 第 三 、 第

五 条 を 売 買 法 と し 、 第 四 条 を 下 人 の 所 属 を 巡 る 相 論 関 係 法 と す る と 、 第 一 条 か ら 第 五 条 ま で の 五 ヵ 条 は す べ て 民 事 事

件 関 連 の も の と な り 、 中 世 の 用 語 で 「雑 務 沙 汰 」 と な る 。

そ れ ゆ え ︽ 為 続 法 ︾ は 「雑 務 沙 汰 」 「所 務 沙 汰 」 関 連 の 法 令 の み で 構 成 さ れ 、 刑 事 事 件 、 中 世 の 用 語 で 「検 断 沙 汰 」

関 連 は 含 ま な い こ と に な る 。 こ れ に 対 し ︽ 晴 広 法 ︾ の 第 二 四 、 第 二 五 、 第 二 六 、 第 二 七 、 第 二 八 条 に は 「検 断 ま ま た

る べ し 」 の 文 言 が あ り 、 全 体 と し て 「検 断 沙 汰 」 を 中 心 と し て い る こ と は 確 実 で あ る 。 ︽ 晴 広 法 ︾ と 比 較 し た 際 ' ︽ 為

続 法 ︾ が 「検 断 沙 汰 」 を 含 ま な い こ と は 、 こ の ︽ 為 続 法 ︾ の 特 徴 と な る 。 こ の こ と は ︽ 為 続 法 ︾ が 前 述 し た 「古 き 良

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「 文化紀要」 第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 3 9

き 法 」 の 再 建 を 目 指 し た も の で あ る こ と と 密 接 な 関 係 が あ ろ う 。

r ま ず 最 初 第 四 条 を 分 析 し た い 。 「相 互 に 返 さ れ る べ き な り 」 は 「逃 亡 下 人 は 見 つ け 次 第 返 し あ う べ し 」 と の 規 定 で 、 日日■]E' 藤 木 久 志 が 述 べ た よ う に 、 こ れ は 下 人 を 支 配 す る 主 人 相 互 間 に 張 り 巡 ら さ れ た 「人 返 し 協 約 体 制 」 と 対 応 し て お り 、

相 良 氏 は 簡 国 全 体 に こ の よ う な 体 制 を 作 る よ う 命 じ た こ と に な り 、 こ こ か ら 、 こ の 法 令 は 一 投 法 と 連 続 し て い る こ と

に な る . し か し こ こ で 注 意 す べ き は 、 譜 代 下 人 は も ち ろ ん 蘭 内 の 百 姓 が 好 子 に よ ら ず 逃 げ 来 る 場 合 も ま た 、 互 い に 返

す べ き だ と し て 百 姓 の 返 還 を 命 じ て い る 点 で あ る 。

近 世 に な る と 各 藩 で 百 姓 の 人 返 し は 見 ら れ る が 、 戦 国 期 に お け る 百 姓 の 人 返 し は こ の ︽ 為 続 法 ︾ の 特 徴 で あ る 。 後

述 す る よ う に こ の 第 四 条 を 踏 ま え 、 百 姓 の 人 返 し の 部 分 を 軌 道 修 正 し た も の が ︽ 長 毎 法 ︾ 第 十 七 条 の 「他 所 よ り 尋 来

候 老 之 事 」 で あ り 、 ま た 下 人 の 人 返 し の 部 分 を よ り 具 体 化 ・ 撤 密 化 し た も の が ︽ 晴 広 法 ︾ 第 三 二 条 の ( 下 人 逃 亡 之

辛 ) や 同 じ ‑ 第 三 四 条 の (欠 落 入 札 銭 之 事 ) で あ る と 考 え ら れ る 。 つ ま り ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ の 中 で も ︽ 為 続 法 ︾ の 「百

姓 の 人 返 し 」 は 特 異 な 位 置 に あ る の で あ る 。

「寺 家 ・ 社 家 同 然 」 は 、 寺 家 ・ 社 家 の 持 つ ア ジ ー ル 権 の 否 定 を 意 味 し て い る 。 注 目 す べ き は 「其 領 中 よ り 地 頭 に 来

侯 ず る 婦 子 は 、 共 蘭 主 の ま

た る べ し 」 の 部 分 の 「地 頭 ・ 領 主 」 関 係 で あ る 。 こ の 場 合 の 「領 主 」 と は 下 人 を 支 配 す

る 主 人 一 般 で 、 第 七 条 の 言 う 「所 衆 」 の メ ン バ I と 考 え ら れ る 〇 一 万 「地 頭 」 と は ' 南 九 州 に 存 在 し た 「地 頭 ‑ 衆

中 」 体 制 に 基 づ き 、 こ れ ら 「所 衆 ・ 簡 主 」 を 「寄 子 」 と し て 観 織 す る 大 名 相 良 氏 の 一 族 や 有 力 家 臣 で 、 相 良 氏 権 力 内

で は 「内 談 衆 」 を 構 成 し て い た 可 能 性 の あ る も の で あ る 。

藤 木 が 明 ら か に し た よ う に 、 下 人 に 対 す る 人 返 し 協 約 体 制 は 南 北 朝 期 か ら 見 ら れ る が 、 鎌 倉 幕 府 法 で は そ の よ う な

(18)

『 相良氏法度』の研究 ( ‑)

4 0

人 返 し 協 約 体 制 は 見 ら れ ず 、 む し ろ 私 が 既 に 明 ら か に し た よ O 'に 、 逃 亡 下 人 に つ い て は 時 効 取 得 を 問 題 と し て お り 、 9 地 頭 屋 敷 に は ア ジ ー ル と し て の 機 能 が 認 め ら れ 、 そ こ へ 逃 げ 込 ん だ 下 人 に は 主 従 対 論 さ え 可 能 で あ っ た 。 つ ま り 鎌 倉

幕 府 法 で は 、 下 人 の 走 り 入 る 地 頭 屋 敷 の ア ジ

ル 権 を 東 認 す る と い う 形 で 、 「領 主 ・ 所 衆 」 に 対 す る 「地 頭 」 の 優 越 性

が 認 め ら れ て い た の で あ る 。

こ の 鎌 倉 期 の 走 り 入 り の あ り 方 と 戦 国 期 の ﹃相 良 氏 法 度 ﹄ 第 四 条 と を 比 較 す る と 、 こ の 法 令 に お い て は 、 人 返 し 協

約 体 制 に と っ て 目 障 り な 寺 家 ・ 社 家 の み な ら ず 地 頭 屋 敷 の ア ジ ‑ ル 権 が 否 定 さ れ 、 蘭 主 た ち の 人 返 し 協 約 体 制 が す べ

て の 障 害 を 乗 り 越 え て 自 己 貫 徹 し 「地 頭 」 の 権 限 は 縮 小 さ せ ら れ て い る こ と が 明 ら か と な る 。 こ の こ と は ︽ 為 続 法 ︾

が 「蘭 主 ・ 所 衆 」 の 要 求 に 基 づ き 申 請 さ れ 、 「地 頭 」 の 譲 歩 に よ っ て 制 定 さ れ た も の で あ る こ と を 示 し て お り ' 「蘭 主

・ 所 衆 」 の へ ゲ モ ニ I が 強 く 働 い て い る の で あ る o

相 良 氏 が 「領 主 ・ 所 衆 」 と い う 社 会 層 全 体 の 利 益 を 守 る 立 場 に 立 っ て い る こ と と ' 先 に 述 べ た 百 姓 に 対 す る 人 返 し

と は 関 連 が あ ろ う 。 つ ま り 、 国 人 一 挺 体 制 の 解 体 を 目 指 す 戦 国 大 名 の 相 良 氏 は 、 「地 頭 」 と 「百 姓 」 と の 中 間 に 位 す る 「領 主 」 層 を 全 体 と し て 味 方 に 付 け る 目 的 で 、 領 主 た ち の 利 益 を 守 る べ く 、 百 姓 の 逃 亡 を 禁 じ 、 逃 亡 百 姓 に 対 す る 人

返 し を 命 ず る な ど 、 百 姓 を 厳 し く 規 制 し て い る の で あ る 。 百 姓 に 対 す る 人 返 し が ︽ 為 旋 法 ︾ の 中 に 書 き 込 ま れ た 理 由

は 、 こ の よ う な 問 題 と 関 係 が あ ろ う 。

第 一 ・ 第 二 ・ 第 三 ・ 第 五 条 の 分 析 の 結 果 か ら 、 ︽ 為 続 法 ︾ は 「古 き 良 き 法 」 の 再 建 を 目 指 し た も の で 、 ︽ 為 続 法 ︾ の

成 立 に は 共 同 体 側 の 働 き か け と 、 そ れ を 受 け て の 相 良 氏 権 力 に よ る 立 法 と い う 二 つ の 契 機 が 考 え ら れ る と し て き た が 、

第 四 条 の 百 姓 禁 縛 法 も ま た 、 領 主 た ち が 在 地 で 「人 返 し 協 約 体 制 」 と い う 新 た な 法 共 同 体 を 形 成 す る こ と を 、 大 名 相

良 氏 側 が 強 力 に 支 援 し て 作 成 さ れ た も の と 見 る こ と が で き る の で あ る 。 以 上 か ら 相 良 氏 は 領 主 た ち の 要 求 に 応 え 、 在

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「 文化紀要」第39 号,1 994 年 41

地 社 会 に 新 た な 体 制 を 築 こ う と し て い る と い う こ と が で き よ う 。

日 次 に 第 七 条 の (所 務 沙 汰 之 事 ) の 分 析 を 行 い た い . 第 四 条 と 第 七 条 と に 共 通 す る の は 、 両 者 が 後 の ︽ 長 毎 法 ︾ ︽ 晴 広

法 ︾ に 直 接 影 響 を 及 ぼ し て い る 点 で あ る 。 第 四 条 に つ い て は 既 に 述 べ た 。 ま た 第 七 条 が ︽ 長 毎 法 ︾ 第 十 八 条 「諸 沙 汰

之 事 」 と 関 連 す る こ と は 先 学 の 指 摘 の と お り で あ る 。 第 七 条 の 文 面 か ら 、 相 良 氏 の 領 内 に は 「所 務 沙 汰 」 に 関 し 、 在

地 法 廷 た る 「所 衆 談 合 」 の 他 に 、 「子 細 を 披 露 あ る べ し 」 の 文 言 か ら 「大 名 法 廷 」 の 存 在 が 確 か め ら れ 、 相 良 氏 領 内 に

は 二 つ の 裁 判 機 構 が あ っ た こ と に な る 。 「大 名 法 廷 」 の 実 態 は 、 大 名 の 個 人 的 ・ 独 裁 的 な 裁 判 = 「親 裁 」 で は な ‑ 、 む し ろ 相 良 氏 の 重 臣 = 「内 談 衆 」 の 合 議

に よ る と 考 え ら れ 、 こ の 「大 名 法 廷 」 の 任 務 は 「所 衆 談 合 」 が 「無 理 之 義 被 申 乱 侯 ず る 方 」 を 「成 敗 」 す る こ と の 承

認 に あ っ た 。 そ れ ゆ え こ の 法 令 上 か ら は 、 実 際 の 法 執 行 権 は む し ろ 在 地 の 「所 衆 」 の 側 に あ っ た こ と に な り 、 相 良 氏

の 意 志 は 「内 談 衆 」 と 「所 衆 談 合 」 に よ っ て 二 重 に 制 限 さ れ 、 領 国 の 隅 々 に ま で は 直 接 及 ば な い 仕 組 み に な っ て い た

こ と に な る 。

し か し 三 郡 の 覇 者 で あ る 戦 国 相 良 氏 の 存 在 そ れ 自 体 は 、 こ の 法 令 が 示 し て い る 二 重 制 限 状 態 と は 異 な っ て い た と 思

う 。 つ ま り 、 こ の 法 令 は 相 良 氏 の 支 配 の 理 想 や 「た て ま え 」 を 領 民 や 家 臣 団 に 向 か っ て 述 べ た も の で 、 相 良 氏 と し て

は 、 こ の よ う な 二 重 の 権 力 機 構 を 一 方 で は 育 て 上 げ な が ら 、 他 方 で は 権 力 の 暴 走 を チ ェ ッ ク す る も の と し て 、 公 平 な

裁 判 が 行 わ れ る こ と を 期 待 し っ つ 、 両 者 を 自 己 の 統 制 下 に 組 み 込 む こ と で 、 領 国 支 配 を 進 め て 行 ‑ と の 政 治 方 針 を 定

め て い た の で は あ る ま い か 。

そ れ ゆ え こ こ で 注 目 す べ き 点 は 、 「所 衆 談 合 」 に 大 幅 な 権 限 を 認 め て い る こ と で あ る 。 こ れ が 第 四 条 で 分 析 し た 結

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『 相 良氏法度』 の研究 ( ‑) 4 2

果 ' す な わ ち 「領 主 た ち が 新 た な 在 地 秩 序 を 形 成 す る こ と を 大 名 の 相 良 氏 が 支 援 す る こ と 」 と 密 接 に か か わ っ て い る

こ と を 確 認 し た い 。 と こ ろ で ' 雑 務 ・ 所 務 ・ 検 断 の 三 つ の 沙 汰 が 「司 法 」 つ ま り 裁 判 に 関 係 す る 法 で あ る の に 対 し て '

第 六 条 は 「立 法 」 に 関 す る 手 続 き 法 で あ る 。 「立 法 」 に 関 す る 法 を 備 え て い る こ と は ︽ 為 続 法 ︾ の 注 目 す べ き 特 徴 で あ

ろ う 。

耳 臼 こ こ で は 第 六 条 の 「法 度 之 事 」 を 分 析 し た い 。 相 良 氏 に 接 す る 同 じ 肥 後 の 菊 池 氏 の ﹃菊 池 武 重 起 請 文 ﹄ の 第 二 条 に

は 「国 務 の 政 道 は 内 談 の 義 を 賞 す べ し 」 と あ り 、 中 世 の 九 州 に お い て 「立 法 」 つ ま り 「国 務 の 政 道 」 は 「内 談 」 の 場

で 決 定 す る の が 一 般 的 で あ っ た と 思 わ れ る が 、 相 良 氏 の 場 合 は ' こ れ ま で の 分 析 の 結 果 に 従 う な ら ば ' 大 名 相 良 氏 の

意志が

「内 談 衆 」 と 「所 衆 談 合 」 に よ っ て 二 重 に 制 限 さ れ て い た の で 、 第 六 条 の 「相 互 に 」 は 「所 衆 談 合 」 と 「内 談

衆 」 の 双 方 と 理 解 す る こ と が で き 、 第 六 条 は 次 の よ う に 現 代 語 訳 で き よ う 。

ど の よ う な こ と で あ れ ' 法 度 の 制 定 を (相 良 氏 に ) 申 請 し よ う と す る 時 は ' 「所 衆 」 と 「内 談 衆 」 が い か に も 堅 固

に ' 互 い に 合 意 し て お ‑ こ と が 肝 要 で あ る 。 な お ざ り の 場 合 は (相 良 氏 の 方 で ) 聞 き 出 し ' 法 令 と し て 本 来 在 る べ

き 体 を な し て い な い 由 を 厳 し ‑ 言 う こ と と し ま す 。

先 学 が 明 ら か に し た よ う に ' こ の 手 続 き に ょ っ て 代 々 立 法 が な さ れ て い る こ と は ' 戦 国 相 良 氏 の 特 徴 で あ る 。 そ れ

ゆ え 、 こ れ ま で 分 析 を 行 っ て き た 第 二 第 二 、 第 三 、 第 四 ㌧ 第 五 ㌧ 第 七 条 は 、 こ の よ う な 手 続 き に よ り 立 法 化 さ れ た

も の で 、 第 六 条 は そ れ ら を 受 け て 、 相 良 氏 領 国 内 部 に お け る 立 法 の 手 続 き を 一 般 的 に 定 め た も の と な ろ う 。

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「 文化紀要」第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 4 3

四 合 理 的 裁 判 基 準 の 捷 示 ‑ ‑ ‑ ︽長 毎 法 ︾ ‑

こ こ で は ︽ 長 毎 法 ︾ 第 八 条 か ら 第 十 一 条 ま で の 四 ヵ 条 を 順 に 検 討 し て 行 き た い 。 最 初 の 第 八 条 (本 田 ・ 新 田 の 水 之

辛 ) と 第 九 条 (内 之 者 、 別 人 扶 持 之 事 ) の 二 つ は 共 に 「本 主 の 蘭 掌 」 を 定 め て お り 、 「本 主 権 」 を 認 め て い る 点 で ︽ 為

続 法 ︾ と 共 通 し て い る 。 し か し ︽ 為 続 法 ︾ 制 定 の 際 に は 、 そ の 前 提 に 「本 主 権 」 の 観 念 が 存 在 し て い た と し て も 、 「本

主 」 と い う 言 葉 自 体 は 法 令 上 に 登 場 せ ず 、 こ の ︽ 長 毎 法 ︾ に な っ て 初 め て 法 令 上 に 「本 主 」 と い う 文 言 が 登 場 し て い

る の で あ る 。

・ 第 八 条 は 「水 利 権 」 を 問 題 に し た 法 令 で 、 ︽ 晴 広 法 ︾ の 第 二 一 、 第 二 二 、 第 四 〇 条 に あ る 「井 手 清 」 に よ る 潅 慨 や 新

田 開 発 が 地 頭 や 国 人 領 主 の 主 導 す る 村 落 単 位 の 大 規 模 な 低 湿 地 開 拓 な の に 対 し ' こ こ で 問 題 と し て い る も の は 山 間 の

谷 間 や 湧 き 水 や 溜 池 な ど を 利 用 し た 領 主 の 個 人 単 位 の 小 規 模 開 発 で あ る 。 こ の 場 合 、 本 田 の 余 り 水 で 新 田 を 開 発 し て

も 、 本 田 と 新 田 の 領 主 相 互 間 で 「水 争 い 」 の 起 こ る 可 能 性 は 常 に あ り 、 相 良 氏 は こ う し た 紛 争 を 未 然 に 防 ぐ た め 、 古

く か ら 水 利 権 の あ る 本 田 の 領 主 側 に 優 先 権 を 認 め 、 新 田 開 発 の 条 件 と し て 「本 田 の 領 主 の 領 掌 」 を 定 め た の で あ る 。

次 の 第 九 条 は 「人 の 内 之 老 」 と 呼 ば れ る 被 官 ・ 従 者 が 主 人 の も と を 追 出 し 、 新 し い 奉 公 先 を 見 つ け 、 別 の 主 人 と 主

従 関 係 を 結 ぶ 際 の 問 題 を 定 め た も の で 、 こ こ で も 相 良 氏 は 本 主 人 と 新 主 人 と の 争 い を 未 然 に 防 ぐ た め 、 新 主 人 に 仕 え

る た め の 条 件 と し て 「本 主 の 領 掌 」 を 定 め て い る の で あ る 。 本 条 の 最 後 に 「本 王 領 掌 な ら ば 、 相 互 に 許 容 た る べ し 」

と あ る が 、 本 主 が 領 東 し な い 場 合 は 、 相 良 氏 も 新 た な 主 従 契 約 を 認 め な い と し て 、 相 良 氏 は 被 官 ・ 従 者 に 対 す る 本 主

権 の 保 護 を 強 く 打 ち 出 し て い る 。

つ ま り 相 良 氏 は 、 旧 主 人 と 被 官 ・ 従 者 と の つ な が り は 被 官 が 旧 主 人 の 在 所 を 追 出 し た 後 も 存 続 す る と の 社 会 通 念 を

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『 相良氏法度』の研究 ( ‑) 4 4

前 提 と し て 第 九 条 を 作 成 し て い る の で あ る 。 相 良 氏 は こ う し た .社 会 通 念 ・ 道 理 に 従 い 法 制 化 を 進 め 、 裁 判 基 準 を 明 確

化 す る こ と に よ り 、 領 国 内 に お け る 「水 利 権 」 や 「内 之 老 」 の 再 就 職 を 巡 る 紛 争 を 未 然 に 防 ぐ と 共 に 、 紛 争 解 決 の 迅

速 化 を 図 っ て い る の で あ る 。 そ れ ゆ え ︽ 長 毎 法 ︾ は ︽ 為 続 法 ︾ と 同 様 に 、 「所 衆 談 合 」 の 要 求 に 従 っ て 発 布 さ れ た も の

な の だ ろ う か 。

次 の 第 十 条 「牛 馬 放 す べ き 事 」 は 「放 牧 の 時 期 」 を 定 め た も の で 、 「牛 馬 の 放 牧 の 時 期 は 収 穫 後 と す る 」 と し 「年 明

候 は

、 在 々 所 々 に 其 定 の ご と く た る べ し 」 と あ る こ と か ら 、 こ の 法 度 の 施 行 時 期 は 「年 明 け か ら 」 で 、 ま た 「在 々

所 々 」 の 文 言 か ら 相 良 氏 は 領 国 全 体 を 法 度 の 対 象 と し て い る の で あ る 。 つ ま り 相 良 氏 は 田 畑 を 耕 地 か ら 牛 馬 の 放 牧 地

に 切 り 替 え る 時 期 を 法 に よ り 強 制 し て お り 、 西 欧 中 世 の 三 国 制 な ど と 同 様 な 、 一 種 の 耕 作 強 制 を 実 施 し て い る こ と に

な る の で あ る 。

こ の 人 吉 盆 地 は 南 に 「大 畑 (オ コ バ ) 」 と い う 地 名 が あ る こ と か ら も 明 ら か な よ う に ' 「 コ バ 型 」 と 云 わ れ る 照 葉 樹 叫 林 の 焼 畑 農 耕 地 帯 に 属 し て い る 。 佐 々 木 高 明 が 一 九 五 七 年 か ら 五 九 年 ま で 五 木 村 の 梶 原 部 落 を 調 査 し て 明 ら か に し た

よ う に 、 こ の 焼 畑 に は ソ バ ・ ム ギ 、 ヒ エ ・ ア ワ 、 大 豆 ・ 小 豆 、 サ ト イ モ ・ サ ツ マ イ モ 等 々 さ ま ざ ま な 作 物 が 輪 作 さ れ

て い る の で あ る 。 氏 は 耕 作 を 放 棄 し た ア ラ シ コ バ に お け る 放 牧 に つ い て 言 及 し て い な い が 、 調 査 の 時 点 で は な か っ た

も の と 思 わ れ る 。

し か し 、 一 般 に 山 民 の 生 業 と 生 活 は 多 様 な 特 色 を 示 す こ と が 常 で あ り 、 東 南 ア ジ ア の 焼 畑 農 民 が 水 牛 と 豚 ・ 鶏 を

持 っ て い る こ と な ど か ら 、 牧 馬 ・ 牧 牛 を 伴 っ て い た と し て も 少 し も 不 思 議 は な い の で あ る 。 と こ ろ で 、 同 じ 佐 々 木 が 岨 最 近 の 論 文 「畑 作 文 化 と 稲 作 文 化 」 に お い て 「東 日 本 の ナ ラ 林 帯 で は 、 六 世 紀 ご ろ 以 後 ' ア ワ ・ ヒ エ ・ ソ バ な ど の 雑

穀 類 や ム ギ 頬 を 主 作 物 と す る 畑 作 と 牧 馬 の 慣 行 が 結 び 付 つ い た 畑 作 文 化 が 生 み 出 さ れ た こ と は 確 か で あ る 」 と 述 べ て

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「 文化紀要」 第39号 ,1 9 94年

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い る こ と に 注 目 す べ き で あ ろ う 。

佐 々 木 の 議 論 の 根 拠 と な っ た も の は 、 最 近 発 掘 さ れ た 榛 名 山 麓 の 群 馬 県 子 持 村 の 黒 井 峯 遺 跡 と 、 同 じ 村 の 白 井 遺 跡

で あ る 。 前 者 は 竪 穴 式 住 居 の ほ か 高 床 式 建 物 ' 平 地 式 建 物 ' 家 畜 小 屋 を セ ッ ト と し た も の で 、 古 墳 時 代 の 畑 作 村 の 実

態 を 示 し て お り ' 後 者 は 六 世 紀 の 中 ご ろ の 休 閑 畑 に お け る 馬 の 放 牧 の 跡 で あ る 。 ま た 佐 々 木 は ﹃ 万 葉 集 ﹄ 「東 歌 」 の 「馬 柵 ご L に 麦 食 む 駒 の 」 か ら 牧 柵 の 存 在 を 確 実 と 考 え 、 こ れ ら を 総 合 し て 、 牧 柵 で 囲 っ た 畑 地 で の 雑 穀 頬 、 ム ギ 類 、

刈 跡 放 牧 と い う 輪 作 の 存 在 を 推 定 し た の で あ る 。

佐 々 木 は さ ら に 「こ の 種 の 水 田 ・ 畑 作 村 に お け る 刈 跡 放 牧 と 輪 作 の 実 態 に つ い て は 中 部 ネ パ ー ル 」 に も 実 例 が あ る

と し 、 「こ の よ う な 畑 作 と 牧 馬 の 慣 行 」 は 「西 日 本 の 地 方 か ら 伝 播 し た と は 考 え が た 」 ‑ 、 「日 本 海 を 横 断 」 し て 直 接 「関 東 地 方 に も た ら さ れ た 」 と し 、 「そ の 伝 統 の 中 か ら 中 世 以 降 に 騎 馬 武 士 団 が 形 成 さ れ た 」 と し て い る 。 相 良 氏 が 関

東 出 身 の 鎌 倉 武 士 で あ る こ と か ら 、 佐 々 木 の 考 え に 従 う 限 り 、 ︽ 長 毎 法 ︾ に 記 さ れ た 刈 跡 へ の 牛 馬 放 牧 の 慣 行 は 、 鎌 倉

武 士 で あ る 相 良 氏 が 関 東 か ら こ の 地 に も た ら し た も の と の 想 像 も 許 さ れ よ う 。

以 上 か ら 、 こ の 法 令 の 前 提 と な っ て い る 刈 跡 放 牧 は 、 H 佐 々 木 が 調 査 し た 時 点 で は 気 が 付 か な か っ た と し て も 、 本

来 照 葉 樹 林 焼 畑 農 耕 に 阻 み 込 ま れ て い た も の か 、 あ る い は 臼 東 国 武 士 の 西 遷 と 共 に 人 吉 盆 地 に も た ら さ れ 、 さ ら に 放

牧 の 対 象 に 牛 も 加 わ っ た も の な の で は あ る ま い か . r と す れ ば 、 牛 馬 の 所 有 者 は 主 に 焼 畑 農 民 と な り 、

と す れ ば 、

牛 馬 の 所 有 者 の 中 心 は 地 頭 な ど 有 力 武 士 と な ろ う . 私 は 現 在 の と こ ろ 臼 の 方 が 良 い と 思 う が 、 断 定 的 な こ と は 何 も い

え な い 。 今 後 の 研 究 を ま つ べ き で あ ろ う 。

一 方 、 こ の 法 令 の 後 半 で は 「万 一 に も 牛 馬 が 作 毛 を 損 さ せ た 場 合 は 、 牛 馬 の 主 人 は 田 畠 の 所 有 者 に 対 し て 損 害 分 を

償 う べ き で ' 過 分 に 損 を さ せ た 場 合 に は 、 田 畠 の 所 有 者 は 牛 馬 を 差 押 え て も 良 い 」 と し て い る 。 こ れ は 、 放 牧 の 際 、

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『 相 良氏法度』 の研究 ( ‑) 4 6

牛 馬 が 他 人 の 田 畠 の 作 毛 を 食 い 荒 ら す 可 能 性 が あ り 、 牛 馬 の 所 有 者 と 作 毛 を 食 わ れ た 田 畠 の 所 有 者 と の 間 の 対 立 が 想

定 さ れ 、 こ れ に つ き 定 め た も の で 、 相 良 氏 は こ こ で も 想 像 さ れ る 争 い に 対 し て 、 予 め 対 策 を 立 て 紛 争 を 早 く 解 決 し ょ

う と し て い る の で あ る 。

こ の 部 分 を む し ろ 田 畑 の 所 有 者 の 利 益 を 擁 護 し た も の と 仮 定 す れ ば 、 相 良 氏 は こ こ で 「牛 馬 の 放 牧 」 の 方 で は な ‑ 、

田 畑 の 耕 作 に 政 権 の 基 盤 が あ る こ と を 明 確 化 し た と 考 え る こ と も で き よ う 。 牛 馬 の 所 有 者 を 焼 畑 農 民 に 系 譜 を 引 く も

の と す る と 、 相 良 氏 は こ こ で 焼 畑 で は な ‑ 水 田 稲 作 の 方 に 比 重 を か け た こ と に な る 。 ま た 、 地 頭 な ど 国 人 領 主 級 の 武

士 を 牛 馬 の 所 有 者 と す る と 、 ︽ 為 続 法 ︾ 第 四 条 で 考 え た と 同 様 、 相 良 氏 は こ こ で も 地 頭 を 抑 え 、 領 主 層 全 体 の 利 益 を 擁

護 し た と 考 え る こ と が で き よ う 。

い ず れ に も せ よ 相 良 氏 は 、 こ の 法 令 に よ っ て 領 内 に お い て 田 畑 を 耕 作 し 、 牛 馬 を 飼 育 す る す べ て の 人 の 時 間 を 支 配

す る と 宣 言 し て い る の で あ る 。 そ の 点 で 、 百 姓 禁 縛 法 と し て の ︽ 為 続 法 ︾ 第 四 条 と の 共 通 性 が 感 じ ら れ る 。 と こ ろ で

1 般 に 、 中 世 後 期 か ら 近 世 に か け て の 時 代 は 、 日 本 に お け る 大 開 墾 時 代 だ と い う . し か し ︽ 長 毎 法 ︾ の 第 八 条 と い い 、

第 十 条 と い い 、 本 格 的 な 開 墾 時 代 に は 未 だ 入 っ て い な い と の 印 象 を 受 け る 。 武 田 の 「信 玄 堤 」 に 対 応 す る よ う な 本 格

的 な 開 墾 時 代 は 次 の ︽ 晴 広 法 ︾ の 時 代 と 思 わ れ る 。

臓 物 法 で あ る 第 十 1 条 (盗 物 買 置 之 事 ) も ま た 、 盗 み に 遭 っ た 「元 々 の 所 有 者 」 と 、 知 ら ず に 買 っ た 「現 在 の 所 有

者 」 と の 間 の 紛 争 を 想 定 し て 定 め た も の で 、 両 者 間 に 争 い が 起 き た と き は 、 現 所 有 者 側 が 所 有 の 由 来 を 説 明 す べ き で 、

購 買 当 時 の 売 主 名 を 指 定 で き な い 時 は 、 現 所 有 者 を 盗 人 と み な す と 定 め 、 「元 々 の 所 有 者 」 の 権 利 を 保 護 し な が ら 、 他

方 で 「泥 棒 市 」 や 「盗 人 宿 」 な ど に 対 す る 規 制 を に お わ せ て い る 。 し か し こ れ ら の 問 題 が 全 面 的 に 展 開 さ れ る の は 次

の ︽ 晴 広 法 ︾ の 世 界 で あ る 。

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「 文化紀要」第 3 9 号 ,1 9 9 4 年 4 7

以 上 か ら 第 八 、 第 九 、 第 十 、 第 十 l 条 の 四 ヵ 条 は 相 良 氏 の 領 国 全 体 を 対 象 と し た も の で 、 利 害 の 相 対 立 す る 両 当 事

者 に 対 し 相 良 氏 が 第 三 者 と し て 臨 み 、 合 理 的 な 判 断 基 準 を 示 す こ と を 通 じ て 、 紛 争 解 決 の 迅 速 化 を 目 指 し た も の で あ

り 、 裁 判 を 前 提 と し 裁 判 基 準 を 客 観 化 ・ 明 確 化 し た も の 、 と い う こ と が で き よ う 。 し か し 各 地 の も め ご と の 持 ち 込 ま

れ る 法 廷 は 、 相 良 氏 の 大 名 法 廷 で は な ‑ 、 む し ろ ︽ 為 続 法 ︾ 第 七 条 の 「所 衆 談 合 」 の 場 、 ︽ 長 毎 法 ︾ 第 十 八 条 の

界 」 の 場 だ と 思 わ れ る 。

一 方 、 第 八 、 第 九 条 の 「本 主 の 領 掌 」 と い い 、 第 十 条 の 田 島 の 所 有 者 の 利 害 の 優 先 と い い 、 ま た 第 十 一 条 の

「元々

の 所 有 者 」 の 権 利 の 保 護 と い い 、 相 良 氏 の 示 し た 判 断 は 「領 主 」 た ち に と っ て は な は だ 常 識 的 で 、 「道 理 の 推 す と こ ろ

・ 民 間 の 道 理 」 と 考 え ら れ る 。 こ こ か ら ︽ 長 毎 法 ︾ は 、 ︽ 為 続 法 ︾ の よ う に 「所 衆 談 合 」 の 要 求 に 従 っ て 発 布 さ れ た も

の で は な く 、 む し ろ 「所 衆 談 合 」 の 場 に お れ る 判 断 の 基 準 を 、 相 良 氏 が 合 理 的 ・ 客 観 的 な も の と し て 提 示 し た も の な

の で は あ る ま い か 。

言 い 替 え れ ば 、 相 良 長 毎 な る 人 物 は 合 理 的 な 法 規 範 を 示 す こ と を 重 視 す る 方 向 で 、 こ の ︽ 長 毎 法 ︾ を 制 定 し て お り 、

政 治 よ り も 法 を 重 ん じ る タ イ プ の 人 物 で あ っ た と 考 え ら れ よ う 。 こ の よ う な 仮 説 を 前 提 と し て 、 次 の 分 析 に 入 っ て 行

き た い 。

五 麦 臣 団 向 け 「平 和 令 」 ‑ ‑ ‑ ︽ 長 毎 法 ︾ 2

こ こ で は 第 十 二 、 第 十 三 、 第 十 四 、 第 十 五 条 の 四 ヵ 条 の 法 令 を 分 析 す る 。 こ れ ま で 取 り 上 げ て き た 第 八 、 第 九 、 第

十 、 第 十 1 条 の 四 ヵ 条 が い ず れ も 相 対 立 す る 両 者 に 対 し て 、 相 良 氏 が 第 三 者 と し て 臨 み 、 こ れ ら の 問 題 を 取 り 扱 う 実

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