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臨床神経 indd

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目的  アロマテラピー(以下,アロマ)は植物療法やハー ブ医学から派生した民間療法の 1 つである。アロマの 生体に与える効果については,中枢神経系や自律神経 系,内分泌系,免疫系などへの作用が解明されつつあ る1)。アロマのなかでも,ラベンダーの香りは研究で 頻繁に使用されている。これまでのラベンダー精油に 関する研究では以下のことが示されている。第 1 にラ ベンダーの刺激は自律神経に対しては副交感神経を賦 活する2)。第 2 に脳波において自発脳波ではα波が増 加しリラクゼーション効果が高く,誘発脳波では中枢 神経系を抑制する3)。第 3 に中枢神経系に与える薬理 作用として,抗けいれん作用,鎮静作用,抗不安作用 がある4)。ラベンダーはこのように中枢神経系や自律 神経系に主として抑制性の効果の作用を及ぼすことか ら,何らかの機序で,筋緊張に影響を及ぼすことが考 えられる。しかしながら,アロマの筋緊張に及ぼす影 響についての検討はこれまで殆どなされていない。香 りが筋緊張に対して何らかの影響を及ぼすならば,理 学療法と併用することで相乗効果を得る可能性があ る。  筋緊張を評価する 1 つの指標に F 波がある。F 波は 脊髄前角細胞の興奮性の 1 つの指標であり,筋緊張の 変化にも関与するといわれている5)。そこで,ラベン ダーの刺激が上肢脊髄神経を介して,筋緊張にどのよ うな影響を及ぼすのかについて F 波を指標として検 討した。実験は 2 つからなる。研究 1 はラベンダー 1 滴の刺激が上肢脊髄神経機能に与える影響について, 研究 2 ではラベンダー 3 滴の刺激が上肢脊髄神経機能 に与える影響について検討した。

アロマテラピーが上肢での脊髄神経機能の興奮性に

与える影響について

由留木裕子

1),2),3)

  鈴 木 俊 明

3),4)

  文 野 住 文

1),3)

  岩 月 宏 泰

1) 要旨 健常者を対象にラベンダーの香りが筋緊張(上肢での脊髄神経機能の興奮性)にど のような影響を及ぼすのか F 波を指標として検討した。研究 1 ではラベンダー 1 滴 (0.05 ml)の刺激が,研究 2 ではラベンダー 3 滴(0.15 ml)の刺激が上肢脊髄神経機能に与 える影響について検討した。対象は研究 1 の健常者 18 名,研究 2 の健常者 26 名,コント ロール群の健常者 9 名であった。方法はラベンダー精油 1 滴または 3 滴をフリーザーバッ グ内のティッシュペーパーに滴下し酸素マスクに装着,背臥位で 2 分間自然呼吸を行わせ た。F 波測定は安静時,吸入開始時,吸入 1 分後,吸入終了直後,吸入終了後 5 分,10 分 および 15 分で行った。研究 1 と 2 の結果,ラベンダーの刺激終了後に上肢での脊髄神経機 能の興奮性が低下することが示された。また,アロマテラピーの経験ない対象者において 3 滴でのラベンダー刺激中は上肢脊髄神経機能の興奮性が増加し,刺激終了後は上肢脊髄神 経機能の興奮性が抑制することが示唆された。 1) 公立大学法人青森県立保健大学大学院 2) 白鳳女子短期大学 3) 関西医療大学 保健医療学部 臨床理学療法学教室 4) 関西医療大学大学院 受付日:2013 年 7 月 26 日 採択日:2014 年 6 月 30 日

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 88  方法  対象者の条件としては,呼吸循環器疾患,嗅覚障 害,現在治療中の疾患や妊娠している可能性がない成 人とし,実験当日には既往,現在の健康状態を聴取し 本実験に該当するか否かを確認した。研究 1(精油 1 滴)の対象は,健常者 18 名(男性 11 名,女性 7 名), 平均年齢 27.2±7.9 歳である。これらの対象を,アロ マの経験あり群 10 名(男性 6 名,女性 4 名),平均年 齢 28.9±9.2 歳,アロマの経験なし群 8 名(男性 5 名, 女性 3 名),平均年齢 25.0±1.1 歳の 2 群に分けた。ア ロマの経験の有無については,日常において習慣的に 精油を使用しているかいないかで群分けを行った。  研究2(精油 3 滴)の対象は健常者 26 名(男性 16 名, 女性 10 名),平均年齢 27.4±8.3 歳である。これらの 対象を,アロマの経験あり群 15 名(男性 9 名,女性 6 名),平均年齢 28.8±9.7 歳,アロマの経験なし群 11 名(男性 7 名,女性 4 名),平均年齢 25.5± 5.9 歳の 2 群に分けた。  安静やマスク装着によるストレスが F 波へ影響を 及ぼしていないことを示すため,研究 1,2 のコント ロール群として健常者 9 名(男性 6 名,女性 3 名), 平均年齢 29.1± 8.8 歳を対象とした。  研究 1 では気温 24.0±0.8℃,相対湿度 55.2±8.8% の室内で,被験者を背臥位にした。匂いを嗅いでいる 時と嗅いでいない時の条件を一定にするため,中濃度 酸素マスク(中村医科工業株式会社製)のコネクター をはずしマスクのみの状態で装着した。また,マスク 装着の影響を考慮し 1 分程度の安静をとらせた。そ の後,左側正中神経刺激による F 波を左母指球筋よ り導出した。この時,上下肢は解剖学的基本肢位で左 右対称とし,開眼とした。F 波刺激条件は,刺激頻度 0.5 Hz,刺激持続時間 0.2 ms,刺激強度は M 波最大 上刺激(最大M波振幅が得られる刺激強度の 120%), 刺激回数は 30 回とした。次に旭化成のフリーザーバッ グ(273×268 mm)とティッシュペーパーを用意した。 そして,フリーザーバッグ内にティッシュペーパーを 挿入し,そこにラベンダー精油 1 滴を滴下した。ラベ ンダーの精油は Mont Saint Michel 製の精油を使用し た(学名:Lavandula angustifolia,原産国:フランス)。 その後,ハンディーにおいモニター(神栄テクノロ ジー株式会社,OMX-SR)でフリーザーバッグ内の香 りの強度を測定した。香りの強度が 24.4±4.3 のフリー ザーバッグをマスクに装着し 2 分間自然呼吸を行い, F 波測定を吸入開始時,吸入 1 分後,フリーザーバッ クをはずし吸入終了直後,吸入終了後 5 分,吸入終了 後 10 分,吸入終了後 15 分で行った。F 波分析項目は, 出現頻度,振幅 F/M 比,立ち上がり潜時とし,事後 検定を行った。また,アロマの経験あり群と経験なし 群に分けても同様な検討を行った。実験直後,対象者 に香りの好き,嫌いについての聞き取り調査を行った。  研究 2 においては使用する精油を 3 滴とし,研究 1 と同じ条件で日を変えて実施した。その際フリーザー バッグ内の香りの強度は 74.2±8.1 とした。F 波分析 項目,アロマの経験あり群となし群に分けての検討, 香りの好き嫌いについての聞き取り調査についても研 究 1 と同様の内容で実施した。  コントロール群はフリーザーバッグ内に無臭の ティッシュペーパーのみを挿入し,ラベンダー精油を 滴下しない条件で,研究 1,2 と全く同じ形態で実験 を行った。その際,ハンディーにおいモニターでフリー ザーバッグ内に匂いがないことを確認した。  統計学的検討は研究 1,研究2ともに Kolmogorov Smirnov 検定を用いて正規性の検定を行った。その結 果,正規性を認めなかったために,ノンパラメトリッ クの反復測定(対応のある)分散分析であるフリード マン検定で検討し,安静時試行と各条件下の比較をボ ンフェローニ検定で行った。  なお,本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認 (承認番号 11 09)を得て実施し,全対象者に本研究 の主旨を十分説明し,同意を得た上で実施した。  結果  フリードマン検定の結果を表 1 に示す。 コントロール群の F 波出現頻度,振幅 F/M 比,F 波 の立ち上がり潜時において有意な差は認められなかっ た(図 1)。  研究 1 では F 波出現頻度は安静時と比較して吸入終 了後 10 分[F(6,102)=4.03, p<0.01],15 分[F(6,102) =2.75, p<0.05]において有意な低下を示した。振幅 F/M 比と立ち上がり潜時は各試行ともに,安静時と比 較して有意差を認めなかった(図 2)。アロマの経験 の有無による F 波変化には有意差はみられなかった

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(図 3,4)。  研究 2 では F 波出現頻度は安静時と比較して吸入終 了後 5 分[F(6,150)=5.17, p<0.01],10 分[F(6,150)= 3.48, p<0.01],15 分[F(6,150)=3.52, p<0.01]にお いて有意に低下した。振幅 F/M 比と立ち上がり潜時 については各試行ともに安静時と比較して有意差を認 めなかった(図 5)。アロマの経験のない対象者では F 波出現頻度についてラベンダー吸入 1 分後は安静時と 比較して増加傾向を示し,吸入終了後 5 分[F(6,60)= 3.84, p<0.01],10 分[F(6,60)=3.73, p<0.01]では安 静時と比較して有意な低下を示した。振幅 F/M 比はラ ベンダー吸入開始[F(6,60)=3.20, p<0.05],吸入 1 分 後[F(6,60)=3.04, p<0.05]は安静時と比較して有意 に増加を示し,吸入終了後 5 分より低下傾向を示した。 立ち上がり潜時はアロマの吸入前後で変化はみられな かった(図 6)。アロマの経験のある対象者での F 波変 化に有意差はみられなかった(図 7)。  研究 1,研究 2 のアンケート調査の結果,実験対象 者の全員がラベンダーは好きな香りであると答えた。  考察  今回,ラベンダーの刺激が上肢での脊髄神経機能の 興奮性にどのような影響を与えるのかについて 2 つの 研究を行った。本研究の特徴的な結果としては研究 1 (精油 1 滴)と研究 2(精油 3 滴)において F 波出現 頻度と振幅 F/M 比に関して,安静時と比較してラベ ンダー刺激中はいずれも増加傾向を,刺激終了後は低 下傾向を示していること,また,研究 1 と研究 2 のア ロマ経験なし群において,F 波出現頻度と振幅 F/M 比は,安静時と比較してラベンダー刺激中は増加傾向 を,刺激終了後は低下傾向を示した。コントロール群 の実験結果からは F 波出現頻度,振幅 F/M 比につい て事後検定を行ったが大きな変化を認めなかった。今 回の研究で嗅覚刺激を行うことで脊髄神経機能にも変 化がみられるということが明らかになったが,その機 序についてははっきりとしていない。しかし,嗅覚が 神経系に与える影響についての先行研究が様々みられ ることから,その結果を踏まえて今回の実験の結果に ついて考察を行いたい。まず第 1 にコントロール群の 結果について,第 2 にラベンダー刺激中に上肢脊髄神 経機能の興奮性が増大することについて,第 3 にラベ ンダー刺激終了後から上肢脊髄神経機能の興奮性が抑 制されたことについて,第 4 に上肢脊髄神経機能の興 奮性を抑制するまでの時間が匂いの強さの違いによっ て変化したことについて,第 5 にアロマの経験者と未 経験における結果の違いについて考察する。  1. アロマなし(コントロール群)における脊髄神 経機能の興奮性の変化  コントロール群の実験結果からは F 波出現頻度, 振幅 F/M 比について事後検定を行ったが大きな変化 を認めなかった。F 波の出現頻度と振幅比は脊髄神経 機能の興奮性に関与する5)といわれていることから, 今回のマスク装着と実験中の安静状態による脊髄神経 機能の興奮性への影響はなかったということが確認さ れた。 表 1 フリードマン検定の結果 Table 1 Result of Friedman s test

    出現頻度 振幅 F/M 立ち上がり潜時 自由度 F 値 p 値 自由度 F 値 p 値 自由度 F 値 p 値 コントロール (n=9) 6,48 0.615 0.8395 6,48 0.459 0.5499 6,48 1.119 0.614 1 滴全体 (n=18) 6,102 4.221 0.0413* 6,102 1.496 0.1273 6,102 2.371 0.212 アロマ経験あり (n=10) 6,54 3.345 0.0727 6,54 0.903 0.8234 6,54 2.875 0.069 アロマ経験なし (n=8) 6,49 0.638 0.2544 6,49 0.159 0.2063 6,49 0.049 0.37 3 滴全体 (n=26) 6,150 4.628 0.0027** 6,150 0.732 0.2689 6,150 0.908 0.314 アロマ経験あり (n=15) 6,84 1.771 0.1321 6,84 0.033 0.4708 6,84 1.098 0.092 アロマ経験なし (n=11) 6,60 4.177 0.004** 6,60 3.063 0.036,60 0.261 0.479    *p<0.05, **p<0.01.

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 90  2. ラベンダー刺激中に上肢での脊髄神経機能の興 奮性が増大したことについて  ラベンダーの成分が中枢神経系への薬理作用を引き 起こすためには時間を要することが考えられ,ラベン ダー刺激直後の脊髄神経機能の変化については感覚刺 激の結果であると考える。  今回の実験後,香りの好みについてのアンケート調 査を行った結果,被験者全員が好きな香りであると答 えている。このことからもラベンダー刺激は被験者が 好ましいと判定する可能性が高い香りであるというこ 図 1 コントロール群の F 波変化(中央値,n=9)     上 : F 波出現頻度,中 : 振幅 F/M 比,下 : F 波立ち上がり潜時。安静時試行と各条件下の比較を 行ったが有意な差は認められなかった。

Fig. 1  F-wave changes in the control group. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio.

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図 2  ラベンダー 1 滴の刺激前後の F 波変化(中央値,n=18)

    上:F 波出現頻度,中:振幅 F/M 比,下:F 波立ち上がり潜時。F 波出現頻度は安静時と比較して吸入終 了後 10 分,15 分において有意な低下を示した。振幅 F/M 比と立ち上がり潜時は各試行ともに,安静時

と比較して有意差を認めなかった。*:p<0.05,**:p<0.01。

Fig. 2  F-wave changes before and after inhalation of one drop of lavender oil. Upper: F-wave persistence. Middle:

F/M amplitude ratio. Lower: F-wave latency. F-wave persistence 10 and 15 min after lavender oil inhalation signifi cantly decreased compared with that before inhalation. No signifi cant differences in F/M amplitude ratio and F-wave latency were observed before, during, or after inhalation. *p<0.05, **p<0.01.

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 92 とがいえると思われる。先行研究において,被験者が 好ましいと判定した香りにより,事象関連電位 P300 の振幅の増大および潜時の短縮が認められた6,7)とあ る。このことから,匂いの感覚が入力され,それによ り注意や集中度が高まり,好きな香りにより情報処理 能力が促進され,覚醒レベルが一時的に高まったので はないかと考えられる。筋緊張の調節は覚醒の状態と もかかわりがある8)ことから,匂い刺激が一時的に脳 幹網様体を興奮させ,覚醒レベルを高め,網様体脊髄 路を通り運動ニューロンへ投射したと考える。そのた 図 3  ラベンダー 1 滴の刺激前後の F 波変化(経験なし群)(中央値,n=8)     安静時試行と各条件下の比較を行ったが有意な差は認められなかった。

Fig. 3  F-wave changes before and after inhalation of one drop of lavender oil in subjects with no previous experience

of lavender oil inhalation. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio. Lower: F-wave latency. No signifi cant differences were observed in the results of the two experiments.

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図 4  ラベンダー 1 滴の刺激前後の F 波変化(経験あり群)(中央値,n=10)

    上:F 波出現頻度,中:振幅 F/M 比,下:F 波立ち上がり潜時。安静時試行と各条件下の比較を行った が有意な差は認められなかった。

Fig. 4  F-wave changes before and after inhalation of one drop of lavender oil in subjects with previous experience

of lavender oil inhalation. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio. Lower: F-wave latency. No signifi cant differences were observed in the results of the two experiments.

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 94 め,脊髄神経機能の興奮性を増大させたと考えられる。 また,匂いの情報は嗅球から,大脳辺縁系の扁桃体に 送られ,そこで情動が形成される。次いで,扁桃体の 出力の一部は本能行動の中枢であり,攻撃や逃避の動 機づけを行っていると考えられている視床下部へ送ら れる。視床下部からの出力の一部は,脳幹網様体に入 図 5  ラベンダー 3 滴の刺激前後の F 波変化(中央値,n=26)     上:F 波出現頻度,中:振幅 F/M 比,下:F 波立ち上がり潜時。F 波出現頻度は安静時と比較して吸入終了後 5 分, 10 分,15 分において有意に低下した。振幅 F/M 比と立ち上がり潜時については各試行ともに安静時と比較して 有意差を認めなかった。**:p<0.01。

Fig. 5  F-wave changes before and after inhalation of three drops of lavender oil. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M

amplitude ratio. Lower: F-wave latency. F-wave persistence 5, 10, and 15 min after inhalation signifi cantly decreased compared with that before inhalation. No signifi cant differences in F/M amplitude ratio or F-wave latency were observed before, during, and after inhalation. **p<0.01.

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図 6  ラベンダー 3 滴の刺激前後の F 波変化(経験なし群)(中央値,n=11)

    上:F 波出現頻度,中:振幅 F/M 比,下:F 波立ち上がり潜時。F 波出現頻度においてラベンダー吸入終了後5分,10 分で は安静時と比較して有意な低下を示した。振幅 F/M 比はラベンダー吸入開始時,吸入 1 分後は安静時と比較して有意に増 加を示した。*:p<0.05,**:p<0.01。

Fig. 6  F-wave changes before and after inhalation of three drops of lavender oil in subjects with no previous experience of lavender

oil inhalation. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio. Lower: F-wave latency. Persistence was signifi cantly suppressed at 5 and 10 min after inhalation compared with that before inhalation. The F/M amplitude ratio significantly increased during inhalation compared with that before inhalation. *

p<0.05, **

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 96 り,ここから網様体脊髄路を通って運動ニューロンの 活動を調節している9)。人は常に匂いを嗅いだ時,そ の匂いが自分にとって有害なものであるか否かは本能 的に判断している10)。そして,その匂いが何であるか について記憶などを瞬時にたどり認識する。そのため に一時的に注意が高まり覚醒レベルが上がり大脳レベ 図 7  ラベンダー 3 滴の刺激前後の F 波変化(経験あり群)(中央値,n=15)     上:F 波出現頻度,中:振幅 F/M 比,下:F 波立ち上がり潜時。安静時試行と各条件下の比較を行ったが有意な差 は認められなかった。

Fig. 7  F-wave changes before and after inhalation of three drops of lavender oil in subjects with previous experience of

lavender oil inhalation. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio. Lower: F-wave latency. No signifi cant changes in F-wave persistence, F-wave latency, and F/M amplitude ratio were observed compared with those before inhalation.

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ルの興奮性の増加が促された結果,脊髄神経機能の興 奮性が増大したのではないかと考えた。  3. ラベンダー刺激終了後から上肢での脊髄神経機 能の興奮性が抑制されたことについて  ラベンダー刺激終了後から上肢での脊髄神経機能の 興奮性が抑制されたことについては,精油の中枢神経 系への薬理作用と感覚刺激としての効果の両方が関与 していると考える。まず,中枢神経系への薬理作用に ついて述べる。気化した匂いの分子は鼻,鼻腔上皮嗅 細胞から嗅神経,大脳辺縁系,視床下部を経て大脳皮 質を刺激し,短時間で脳に変化をきたす。また,鼻か ら吸い込まれた匂い分子(化学物質)は,咽喉,喉頭, 気管,気管支を通って肺胞へ入り,肺胞でガス交換を 受け血液中に取り込まれ,全身へ循環する。井上ら11) のマウスの実験では蒸気暴露の場合 30 分より 2 時間 の方が血中濃度が高くなり,血中移行が極めて遅いこ とが示されている。今回の実験では精油 3 滴の場合, F 波出現頻度において吸入終了後 5 分から安静時と比 較して有意な低下を示していることから,この吸収経 路で中枢神経に精油の化学成分が作用したとは考えに くい。しかし,川口ら12)によると鼻粘膜から入った 匂い物質が嗅神経周囲腔の脳脊髄液に分配され,脳脊 髄液中を拡散して脳内に直接移行して中枢神経系に作 用する可能性が示唆されている。具体的な作用時間は 不明だが,この場合であれば,肺胞でのガス交換によ る吸収方法より早く中枢神経に作用する可能性が高い ことが考えられる。また,ラベンダーを含む多くの精 油は脂溶性であるため,容易に血液脳関門を通過し脳 内に取り込まれて,中枢神経系に作用すると考えられ ている。以上のことから,精油の化学成分が嗅神経を 直接刺激することだけでなく,鼻の粘膜から脳脊髄液 中を拡散して脳内に直接移行し,短時間で中枢神経系 に作用する可能性が高いことが推察される。  ラベンダーの中枢神経系への薬理作用としては,リ ナロールの関与が高いと考える。リナロールはラベン ダーの主要な成分であり,抗不安作用や筋弛緩作用な どの中枢薬理作用を有する13)といわれている。また, マウスにリナロールを投与すると,NMDA 型グルタ ミン酸受容体のグルタミン酸作用部位に結合すること によって運動活性が低下すること14)や,ラベンダー の催眠作用や抗痙攣作用が神経伝達物質 GABA の増 強によるものである可能性が示唆されている15)こと から,上肢での脊髄神経機能の興奮性が抑制されたの ではないかと推察された。  次に嗅覚刺激の効果としては,ラベンダーの香りと 脳波についての先行研究が報告されている。その報告 によるとラベンダーの香りにより,δ波とθ波の振幅 が徐々に増大し2,3),特に運動前野近傍や運動野近傍で 振幅増加が顕著であった。また,前頭連合野や体性感 覚野近傍でもδ波とθ波の増加傾向がみられた16)と 示されている。脳波は周波数により,β波(13 Hz 以 上),α波(8∼13 Hz),θ波(4∼8 Hz),δ波(4 Hz 以下)に分類される17)。β波は精神活動を行っている 時に,α波は安静時や閉眼時に現れる。θ波は眠くなっ てきた時にδ波はぐっすり眠っている時に現れる脳波 である。このことから,ラベンダーは運動機能系の活 性レベルの低下傾向や傾眠を惹起することが考察され ている16)。何の匂いであるのか,危険なものではない のかという一時的な注意が高まり,その匂いが危険で はないと判断された後に,香りに対する情動が影響し, 扁頭体から視床下部,そして脳幹網様体へ投射し大脳 皮質の覚醒状態を抑制したために,上肢脊髄神経機能 の興奮性を低下させたのではないかと考える。  4. 上肢脊髄神経機能の興奮性を抑制するまでの時 間が匂いの強さの違いによって変化したことに ついて  研究 1 と 2 において同一被験者ではないため,比較 することはできないかもしれないが,ハンディーにお いモニターでフリーザーバック内の匂いの強さを測定 した結果から精油 1 滴と 3 滴とでは揮発する精油の量 に差がある。このことから中枢神経系への薬理作用を 考えると揮発している量が多いということはフリー ザーバック内にある化学成分が多いので匂いを嗅いだ 時に吸い込む化学成分が多く薬理作用が出やすかった のではないかという可能性が考えられる。その結果, 脊髄神経機能の興奮性を抑制するまでの時間に差がで きたものと考えられる。嗅覚刺激の効果としては,精 油の濃度差による効果の差異についての検討より,希 釈倍率が低く匂いの強さがやや強いと感じられる濃度 であっても,その匂いを好ましいと感じる場合には鎮 静効果が得られる18)ことが知られている。ラベンダー 精油 3 滴の匂いは 1 滴と比較して強いと感じられる匂

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臨床神経生理学 42 巻 4 号 98 いであったと考えられる。また,アンケートでの結果 からラベンダーは全員が好きな香りであると答えてい ることから,3 滴の方が 1 滴に比べ,より鎮静効果を 得やすかったのではないかと推察された。しかし,匂 いの濃度の増大が快不快に影響する19)といわれてい ることから,今回の精油 3 滴の匂いの強さは不快感を 起こすほどの匂いではなかったために 1 滴よりも 3 滴 で鎮静効果が得られたのではないかと考える。  5. アロマの経験者において上肢脊髄神経機能の変 化がみられなかったことについて  小林ら20)によると健康に良いという内容のポジティ ブな情報を与えられ,匂いを嗅いだものはその匂いを より快に,そして感覚的強度はより弱く感じるといわ れている。また,匂いに対しての慣れは比較的早くに 生じるとされていることから,アロマの経験者はある 程度,匂いを嗅ぐ前からポジティブな情報をイメー ジできているのではないかと考えられる。そのため, アロマ未経験者よりも匂いをより弱く,そして快に 感じ,慣れが早まったためにアロマ経験者は F 波出 現頻度,振幅 F/M 比において安静時と比較して変化 がみられなかったのではないかと推察できる。また, Cain ら21) は匂いを繰り返し経験することで最初から 快い匂いは不快方向に,不快な匂いは快方向に評定が 変動するとしている22)。このことからアロマの経験者 は同じ匂いを嗅いでも最初に感じた印象と変わる可能 性があると考えられ,その結果アロマの未経験者と経 験者において違いが出たのではないかと考えられた。  今回の研究において,香りは脊髄神経機能に影響を 及ぼすが,作用機序には中枢神経系への薬理作用や嗅 覚刺激による効果の違いなどが多々あり,評価が難し いことがわかった。しかし,ラベンダーの香りは脊髄 神経機能の興奮性を抑制することから,理学療法との 併用が可能ではないかと考える。そのためにも今後は 濃度の違いや刺激時間が脊髄神経機能にどのような変 化をもたらすのか,また自律神経系の変化についても 合わせて検討していきたいと考える。  結論  ラベンダーの刺激が筋緊張にどのような影響を及ぼ すのかに関して,F 波を用いて検討した。ラベンダー の刺激終了後に上肢での脊髄神経機能の興奮性が低下 することが示された。また,アロマテラピーの経験な い対象者において 3 滴でのラベンダー刺激中は上肢脊 髄神経機能の興奮性が増加し,刺激終了後は上肢脊髄 神経機能の興奮性が抑制することが示唆された。 文献 1)青島 均:香りの科学はどこまで解明されたか.嗅覚系と香 り.初版.フレグランスジャーナル社,東京,pp. 52 53, 2009. 2)Sayoowan W, Siriporanpanich V, Piriyapuunyaporn T, et al: The

effects of lanender oil inhalation on emotional states, autonomic nervous system, and brain electrical activity. J Med Assoc Thai 95: 598 606, 2012. 3)井 ゆみ子,木ノ桐三知子,三木佐知子ら:VEP(視覚性誘 発電位)および脳波へのラベンダーおよびペパーミントの匂 い効果.四国医誌 53: 161 170, 1997. 4)梅津豊司:精油の中枢薬理作用の研究と最新動向 . アロマ テラピー誌 9: 1 20, 2009. 5)鈴木俊明:脳血管障害片麻痺患者の痙縮の病態生理と持続 的筋伸張を用いた治療効果に関する筋電図学的検討.藤田学 園医会誌 21: 269 290, 2002.

6)Koga Y: Recent advances in event-related brain potential research. In Ogura C, Koga Y, Shimokochi M (eds). Influence of

Coffee Aroma on Brain Function, Results from studies of rCBF and ERPs. Elsevier, Amsterdam, pp 372 378, 1996.

7)谷川富夫,坂口里美,山田聡子ら:各精油における電気生理 学的解析―聴覚事象関連電位 P300 の検討―.日アロマセラ ピー会誌 4: 35 40, 2005. 8)松村道一:脳百話.松村道一,小田伸午,石原昭彦(編). アガる人・キレる人―感情の運動作用.初版.市村出版,東 京,pp 146 147, 2006. 9)Charles TL(松村道一,森谷敏夫,小田伸午(訳)):ヒトの 動きの神経科学.形態と機能の概観.初版.市村出版,東 京,pp 33 38, 2002. 10)坂井信之:においの心理学.綾部早穂,斉藤幸子(編).嗅 覚に関する脳代謝の変化.初版.フレグランスジャーナル 社,東京,pp 70 83, 2008. 11)井上重治 , 山口英世:芳香浴における精油蒸気のマウス吸 収.Arom Res 1: 72 79, 2000. 12)川口建夫,矢島敏行,長谷川哲也ら:天然低分子量物質チミ ジンの鼻腔から脳への直接移行性―アロマテラピーにおけ る,もう一つの作用点の可能性について―.Arom Res 1: 53 57, 2000. 13)梅津豊司:エッセンシャルオイルの薬理と心―アロマテラ ピーの効能の科学―.初版.フレグランスジャーナル社,東 京,pp 119 129, 2010. 14)松浦晶子:精油の成分と脳内神経伝達物質受容体の相互作 用.アロマテラピー誌 6: 1 8, 2006. 15)青島 均:香りの科学はどこまで解明されたか.第 1 版.フ レグランスジャーナル社,東京,pp 80 95, 2009. 16 )渡邊康子,坂本 修,山内貴子ら:脳波解析による脳機能に 対するエッセンシャルオイルの作用.日生誌 65: 434 435,

(13)

2003. 17)香山幸彦:標準生理学.小澤瀞司,福田康一郎(編).脳活 動の非侵襲的計測.7 版.医学書院,東京,p 476, 2009. 18)小長井ちづる,古賀良彦 : ラベンダー精油が脳機能に与える 影響の濃度による差異の検討.アロマテラピー誌 8: 9–14, 2008. 19)斉藤幸子,綾部早穂:においの心理学.綾部早穂,斉藤幸子 (編).においの快不快の特徴.初版.フレグランスジャーナ ル社,東京,pp 172–177, 2008. 20)小林剛史,小早川達,秋山幸代ら:におい刺激に対する感覚 強度に及ぼす認知的要因の影響―短時間・断続的に提示さ れるにおい刺激に対して―.におい・かおり環境会誌 38: 444–452, 2007.

21)Cain WS, Johnson F Jr.: Lability of odor pleasantness: Influence of mere exposure. Perception 7: 459–465, 1978.

22) 阿部恒之,庄司 耀,菊池史倫:嗅覚の単純接触効果―ジャ スミン・ローズの睡眠中呈示―.感情心理学研究 17: 84–93, 2009.

Effects of aroma on excitability of spinal nerves innervating the upper extremity YUKO YURUGI1),2),3), TOSHIAKI SUZUKI3),4), YOSHIBUMI BUNNO1),3), HIROYASUIWATSUKI1)

1)Graduate School of Aomori University of Health and Welfare 2)Hakuho Women s College

3)Clinical Physical therapy Laboratory, Kansai University of Health Sciences 4)Graduate School of Kansai University of Health Sciences

 To investigate the effects of lavender oil aroma on the excitatory state of spinal motor neurons, we performed F-wave measurements as an index for testing muscle tone in the upper extremity. We conducted two experiments. In experiment 1, the effects of one drop (0.05 ml)of lavender oil were studied in 18 healthy volunteers, whereas in experiment 2,

the effects of three drops(0.15 ml)of lavender oil were studied in 26 healthy volunteers. For each experiment, a control group of 9 healthy volunteers was used for comparison. Subjects wore masks and assumed a supine position. Lavender oil was added to a tissue in a freezer bag, and the strength of the aroma was measured. The freezer bag was inserted into the mask worn by subjects who were asked to breathe in the aroma of the lavender oil for 2 min. Persistence, latency, and F/M amplitude ratio were recorded from the thenar muscles of the left upper extremity before baseline, during (0 and 1 min), and after (5, 10, and 15 min) lavender oil inhalation. After lavender oil inhalation, excitability of spinal motor neurons that innervate the upper extremities decreased. Furthermore, inhalation of three drops of lavender oil increased excitability of the spinal neurons in subjects who had no previous experience of lavender inhalation.

Fig. 1  F-wave changes in the control group. Upper: F-wave persistence. Middle: F/M amplitude ratio
図 2  ラベンダー 1 滴の刺激前後の F 波変化(中央値,n=18)
Fig. 3  F-wave changes before and after inhalation of one drop of lavender oil in subjects with no previous experience
図 4  ラベンダー 1 滴の刺激前後の F 波変化(経験あり群)(中央値,n=10)
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参照

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