原 著
抗がん剤の病院内汚染を把握する拭き取り分析法の研究
高野 匠巳
1,鈴木 茂
1,築山 郁人
2,斎藤 寛子
3 1中部大学大学院応用生物学研究科
2愛知医科大学病院
3名城大学薬学部
抄録:抗がん剤の病院内汚染を把握する拭き取り分析 法の研究:高野匠巳ほか.中部大学大学院応用生物学 研究科―目的:がん治療に使用される抗がん剤の多く のものは健常者にとって有害な物質である.近年抗が ん剤による医療従事者への職業性曝露,健康障害が危 惧および報告されている.著者等は使用頻度や有害性 が比較的に高い抗がん剤10種について,医療従事者の 曝露に繋がる可能性の高い病院内汚染を把握するため, 床や机に残留する抗がん剤を拭き取りLC/MSにより一 斉分析する方法を開発した.対象と方法:使用頻度や 有害性が比較的に高い抗がん剤パクリタキセル,ビン クリスチン,ドセタキセル,ビノレルビン,イリノテカ ン,メトトレキサート,オキサリプラチン,ゲムシタビ ン,シクロホスファミド,フルオロウラシルを対象とし た.多くの病院の床と同じ素材であるP-タイル上の抗 がん剤を少量のメタノールに浸したセルロースろ紙ま たはポリプロピレン不織布で拭き取り,ヒドラジン一水 和物含有メタノール5 mlで抽出およびろ過した.抽出 とろ過を2回繰り返し,ろ液を1 mlまで濃縮しLC/MS にて測定した.また,安全キャビネット等と同じ素材 であるステンレスプレートについても検討した.結果: P-タイル上に散布した対象の抗がん剤10物質のうちフ ルオロウラシルを除く9物質の回収率は37∼101%, 相対標準偏差1.8∼19%であった.ステンレスプレー ト上からは対象10物質の回収率は35∼111%,相対標 準偏差は1.3∼11%であった.考察と結論:対象とし た抗がん剤10種は,分子量,オクタノール/水分配係 数(logPow)等の物理化学的性状が多様であるため,1 つの拭き取り素材では良好な回収率を得られなかった. しかし,拭き取りにセルロースろ紙とポリプロピレン 不織布を対象物質によって使い分けることで,P-タイ ルではフルオロウラシルを除く対象抗がん剤9物質,ス テンレスプレートでは対象10物質すべてについて汚染 を定量的に把握,またはそれには劣るが床およびステ ンレス表面に残留する抗がん剤量を十分推定できる分 析法の開発に至ったと考えられる. (産衛誌 2015; 57(6): 275–285) doi: 10.1539/sangyoeisei.B15004キーワード:Anti-cancer drugs, Hospital contamination, LC/MS, Smear method I. はじめに 抗がん剤を使用し治療する薬物療法は,がんの三大 療法の1つであり,近年は入院患者のみではなく外来患 者にも行われている1). 他方,抗がん剤の多くは健常者にとって有害な物質 である.米国国立労働安全衛生研究所(NIOSH)2)は, 保健医療現場において有害な医薬品を使用することや, その付近で作業をすることで皮膚発疹,不妊症,流産, 先天性異常,白血病その他のがんを発症する恐れがあ ると警告している.抗がん剤の発がんリスクについて は,国際がん研究機関IARC3)の分類によると,シクロ ホスファミド,エトポシド等がGroup 1(ヒトへの発 がん性を有する),ドキソルビシン,カルムスチン等が Group 2A(ヒトへの発がん性を高い確率で有する),ブ レオマイシン,ダカルバジン等がGroup 2B(ヒトへの 発がん性を有する可能性がある),フルオロウラシル, ビンクリスチン等がGroup 3(実験動物では発がん性の 十分な証拠があるが,ヒトにおいては不十分な証拠で あり,分類できない)に指定されている.加えて,タ キサン系抗がん剤(パクリタキセル,ドセタキセル等) やビンカアルカロイド系抗がん剤(ビンクリスチン, ビノレルビン等)は組織障害性が高い. また,抗がん剤を扱う医療従事者への職業性曝露が 報告されている.Falckら4)は,1979年に抗がん剤を扱 う看護師の尿中から変異原性物質が検出されたことを 2015 年 3 月 9 日受付;2015 年 7 月 7 日受理 J-STAGE 早期公開日:2015 年 8 月 12 日 連絡先:高野匠巳 〒487-8501 愛知県春日井市松本町 1200 中部大学大学院応用生物学研究科(e-mail: [email protected])
報告した.これ以降,欧米では抗がん剤による職業性 曝露への関心が高まり,上記以外にも職業性曝露の報 告や研究5–7)がされてきた. 職業性曝露の予防策として,抗がん剤の取り扱いに関 するガイドラインが各国で制定されている.1980年代 から1990年にかけてオーストラリア,カナダ,イギリ ス,アメリカ等の諸外国においてガイドラインが制定さ れ,日本でも1991年に日本病院薬剤師会によって勧告 された8).欧米ではガイドラインを遵守するよう国や各 種医療団体が勧告している9).日本では近年まで国レベ ルの施策はなかったが,2014年5月に厚生労働省労働基 準局安全衛生部の化学物質対策課長からの通知,「発が ん性等を有する化学物質を含有する抗がん剤等に対する ばく露防止対策について,基安化発0529 第2 号」が出 され,行政による曝露防止の取り組みが始まった10). 抗がん剤の分析法について,Sessinkら11)がGC/MS を用いた尿中のシクロホスファミドの分析法を報告し ている.病院内汚染の評価については,吉田ら12)が 0.03M水酸化ナトリウム水溶液とティッシュ(JKワイ パー)を用い,シクロホスファミド,フルオロウラシル, 白金製剤,ゲムシタビンを対象とした拭き取り調査を 行っている.その他にも,松本ら13)はドキソルビシン を中心にアントラサイクリン系の抗がん剤を対象とし HPLC蛍光法を用いて定量限界1.5 ng/100 cm2で調査し ており,濱らは,シクロホスファミド測定を行ってい る公的機関および民間分析機関両者に拭き取りキット に染み込ませたシクロホスファミドの測定を依頼し, 分析精度比較をしている14). 抗がん剤の使用頻度について,本研究で対象とした 抗がん剤は,様々ながん種のキードラッグ(効果が明 らかである薬剤)となっているものが多く,罹患率の 高いがん種に使用される汎用性の高い抗がん剤である. フルオロウラシルは大腸,食道といった消化器がんお よび頭頸部がん,ゲムシタビンは膵がん,パクリタキセ ルとドセタキセルは乳がんおよび卵巣がん,イリノテ カンとオキサリプラチンは大腸がんのキードラッグと して使用されている.その他にもビンクリスチンはリ ンパ腫,ビノレルビンは乳がんおよび肺がんの治療で 使用されている. 著者等は使用頻度や有害性が比較的に高い抗がん剤 10物質について,医療従事者への曝露に繋がる可能性 が高い病院内汚染を把握するため,床,机等に残留す る抗がん剤を拭き取りにより採取しLC/MSにより一斉 分析する方法を開発したので報告する. II.方 法 1. 試薬および対象物質 使用した試薬および有機溶媒は,以下のとおりである. メ タ ノ ー ル(HPLC用 ) は メ ル ク 製(Whitehouse Station, NJ. USA)を,アセトニトリルはシグマアルド リッチ製(Saint Louis, MO. USA)を,ギ酸(特級,純 度98.0%以上),蒸留水(HPLC用)は関東化学製(Tokyo, Japan)を,ヒドラジン一水和物(純度79.0%以上)は 東京化成工業製(Tokyo, Japan)を使用した. また,対象物質である抗がん剤10種の分子構造を Fig. 1に示す.使用した抗がん剤10種のうちフルオロウ ラシルを除く9種は実際に医療現場で使用しているもの を,フルオロウラシルは標準品を使用した.抗がん剤 10種の詳細は以下の通りである. パクリタキセル(パクリタキセル点滴専用)およ びビンクリスチン(オンコビン注射用)は日本化薬製 (Tokyo, Japan),ドセタキセル(ワンタキソテール点滴 静注液)およびイリノテカン(トポテシン点滴静注液) は第一三共製(Tokyo, Japan),ビノレルビン(ナベル ビン注射用)は協和発酵キリン製(Tokyo, Japan),メ トトレキサート(メソトレキセート点滴静注液)はファ イザー製(New York, NY. USA),オキサリプラチン(エ ルプラット点滴静注液)はヤクルト製(Tokyo, Japan), シクロホスファミド(エンドキサン注射用)は塩野義 製薬製(Osaka, Japan),ゲムシタビン(ジェムザール 注射用)はイーライリリー製(Indianapolis, IN. USA), フルオロウラシル(5-フルオロウラシル特級)は和光 純薬工業製(Osaka, Japan)である. 上記抗がん剤10種の二次標準液,およびそれらの混 合標準液は,メタノールで溶解し調製した. 2. 器具と装置およびLC/MS測定条件 拭き取り実験用素材として,セルロースろ紙(5C, 110 mm, ADVANTEC, Tokyo, Japan)とポリプロピレ ン不織布(マスクフィルター用不織布,以下「不織布」 と称する,倉敷繊維加工,Osaka, Japan)を使用した. ろ紙および不織布からの抽出には超音波洗浄機(アズ ワン,Osaka, Japan)を用い,抽出後の溶媒のろ過にメ ンブレンフィルター(DISMIC-13HP, ADVANTEC)を 使用した.濃縮は窒素吹付器を用いた. LC/MS測定には,Alliance2695/Micromass ZQ(Waters, Milford, USA)を用いた.LC/MS測定条件をTable 1に 示す.カラムはL-Column2 ODS(化学物質評価研究 機 構,Tokyo, Japan),TSK-GEL Amide-80( 東 ソ ー, Tokyo, Japan)を使用した.フルオロウラシル,ゲムシ タビンを除く8種をL-Column2 ODSを用いた逆相モー ドで,上記2種をTSK-GEL Amide-80を用いたHILIC
モードで測定をした.対象物質はすべてESIによりイオ ン化し,選択イオン検出(SIM)法で測定,定量した. 3. 分析方法 拭き取り分析法のスキームをFig. 2に示す.多くの病 院の床と同じ材質であるP-タイル,安全キャビネット 等と同じ材質であるステンレスプレートに抗がん剤10 種の各10 mg/l混合標準液を10 µl添加し10分程度放置 後,少量のメタノールに浸したセルロースろ紙または 不織布で拭き取った.拭き取りは同じ素材を2枚使用 し,同じ箇所をそれぞれ1回ずつ,計2回拭き取る方法 で行った.拭き取ったろ紙または不織布を風乾後ハサ ミで細かく切断し,0.01%(v/v)ヒドラジン一水和物 含有メタノール5 mlに浸して超音波抽出(40° C,10分) を2回行った.その後抽出した液をメンブレンフィル ターに通し,ろ液を窒素吹き付けにより1 mlとし,LC/ MSで測定した. III. 結 果 1. P-タイルの拭き取り効率,精度 P-タイル上に添加した抗がん剤をセルロースろ紙, 不織布により拭き取る検討を行った.その回収率を Table 2に示す.Table 2に記載したMDLは,Carolynら の報告15)を参考にMDL = t (a)×σ(t (a): 片側危険率5% のt値,σ : 添加回収率の標準偏差)で算出した. 対象とした抗がん剤10物質は,分子量が130∼854, logPowが–1.28∼3.54と幅広く,物理化学的性状が多様 であるため,拭き取りにセルロースろ紙と不織布を対 象物質によって使い分けることで,拭き取りはフルオ Fig. 1. Chemical structures, molecular weights and logPow values of the anti-cancer drugs.
ロウラシルを除く9物質の汚染を把握できる拭き取り効 率を得た.すなわち,ビンクリスチン,オキサリプラチ ン,ゲムシタビン,フルオロウラシルはセルロースろ紙 で,パクリタキセル,ビノレルビン,イリノテカン,メ トトレキサート,ドセタキセル,シクロホスファミドは 不織布で拭き取る方法とした.パクリタキセル,ドセ タキセル,シクロホスファミドはP-タイル上に散布し た50%以上が回収され(以下「回収率」と称す),その 相対標準偏差は10%前後であった.ビノレルビン,イ リノテカン,メトトレキサートは,回収率が40%程度 であったが,相対標準偏差は10%未満であった.ビン クリスチン,オキサリプラチン,ゲムシタビンは,回 収率は45∼82%だが,相対標準偏差が15%以上であっ た.フルオロウラシルは回収率が20%未満と顕著に低 かった.このように,対象とした抗がん剤10物質の拭 き取りによる回収率の標準偏差は1.8∼19%で,フル オロウラシルを除く9物質については,標準偏差が10% を超えるものの定量精度は高くないが,P-タイル表面 に残留するいずれの抗がん剤の量も推定できると考え られる.オキサリプラチン,ゲムシタビンは標準偏差が 19%,15%とそれぞれ高く,拭き取りの回収率と4. 2で 記述する溶媒によるP-タイルからの直接抽出の回収率 が,t検定(5%危険率)により有意差がないとされた (Table 3).このため,標準偏差が10%を超えるものの 中でも特に定量精度は低いが,汚染の濃度レベルは推 定できると考えられる.フルオロウラシルを汚染の評 価ができる物質から除いた理由および拭き取り分析法 の効率についての詳細は4. 2で記述する.また,2. 1で 記述したようにフルオロウラシルのみ標準試薬を使用 したため,医薬品で使用される際の添加物の影響はこ の結果に反映していない.
Table 1. Measurement conditions of LC/MS
LC Conditions MS Conditions Equipment : Waters alliance 2695 Equipment : Waters micromass ZQ Column : L-column2 ODS, 2.1 × 150 mm, 3 µm
(except fluorouracil and gemcitabine) Ionization mode : ESI-Positive (L-column2 ODS) TSK-gel Amide-80, 2.0 × 150 mm, 3 µm
(fluorouracil and gemcitabine) ESI-Positive and Negative (TSK-gel Amide 80) Mobile phase of L-column2 ODS : Capillary voltage : 3 kV
A : 0.1% (v/v) formic acid in Water Source temperature : 100°C B : Methanol Desolvation temperature : 300°C C : Acetonitrile Cone gas flow : 60 L/Hr 0–2 min A : 98% B : 1% C : 1% Desolvation gas flow : 600 L/Hr
2–6 min A : 98% → 0% B : 1% → 80% C : 1% → 20% Monitor Ion : 876.6 (paclitaxel, Positive) 6–20 min A : 0% B : 80% C : 20% 825.8 (vincristine, Positive) 20–21 min A : 0% → 98% B : 80% → 1% C : 20% → 1% 807.8 (docetaxel, Positive) 21–36 min A : 98% B : 1% C : 1% 779.6 (vinorelbine, Positive) Mobile phase of TSK-gel Amide-80 : 587.2 (irinotecan, Positive) A : 0.1% (v/v) formic acid in Water 455.1 (methotrexate, Positive) B : Acetonitrile 420.7 (oxaliplatin, Positive) 0–2 min A : 10% → 50% B : 90% → 50% 264.1 (gemcitabine, Positive) 2–11 min A : 50% B : 50% 261.0 (cyclophosphamide, Positive) 11–11.1 min A : 50% → 10% B : 50% → 90% 128.9 (fluorouracil, Negative) 11.1–26.1 min A : 10% B : 90%
Flow : 0.2 ml/min
Column oven temperature : 40°C Injection volume : 10 µl
2. ステンレスプレート上の抗がん剤の拭き取り ステンレスプレートは安全キャビネット等に使用さ れ汚染の可能性は高いが,曝露の対象者,場所が限ら れるため,ステンレスプレートの拭き取り効率は3回の 実験で評価した. ステンレスプレートの拭き取りではメトトレキサー ト以外の9物質をセルロースろ紙で,メトトレキサート のみを不織布で拭き取ることで,10物質の汚染を把握 できる回収率を得た(Table 4). ステンレスプレートの拭き取りはP-タイル拭き取り よりも全体的に回収率が高かった.このことは,ステ ンレスプレートでは浸透や酸化分解等の影響を受けに くいためと考えられる. IV. 考 察 1. 拭き取り素材の性質と抗がん剤の回収率 1)セルロースろ紙によるP-タイル上の抗がん剤の拭 き取り セルロースろ紙は分子構造に親水性(OH基)部分を 多く有するが,疎水性の構造も持つ素材である.その ため,添加した抗がん剤は疎水性相互作用および静電 相互作用によりセルロースろ紙に保持されると考えら れる.セルロースろ紙の拭き取りでは,親水性物質の オキサリプラチン,ゲムシタビンが高い回収率であっ た.これはセルロースろ紙のOH基と対象物質との静電 相互作用による効果と考えられる.パクリタキセル,ド セタキセル,シクロホスファミドはセルロースろ紙の 疎水性部分が捕集に寄与し74∼102%の拭き取り回収 Table 2. Smear recoveries of the anti-cancer drugs spread on a P-tile with cellulose filter paper and polypropylene
nonwoven (n=7)
Recovery (%) (SD (%)) MDL* (ng) Recovery (%) (SD (%)) MDL* (ng) with cellulose filter paper with polypropylene nonwoven
vincristine** 45 (16) 14 36 (9.6) 6.7 oxaliplatin** 82 (19) 30 13 (3.1) 0.8 gemcitabine** 73 (15) 21 10 (1.5) 0.3 fluorouracil** 18 (2.8) 1.0 13 (2.4) 7.8 paclitaxel*** 85 (13) 21 101 (13) 26 docetaxel*** 38 (10) 7.4 74 (5.5) 7.9 vinorelbine*** 15 (2.6) 0.8 41 (1.8) 1.4 irinotecan*** 23 (4.0) 1.8 44 (2.7) 2.3 methotrexate*** 18 (3.5) 1.2 37 (7.5) 5.3 cyclophosphamide*** 42 (9.6) 7.8 83 (6.2) 10
*5% error. **by smearing P-tile surface with cellulose filter paper. ***by smearing P-tile surface with polypro-pylene nonwoven.
Table 3. t-test results comapiring anti-cancer drug recoveries from a P-tile between the smearing analysis and the rinsing analysis t value* p value** paclitaxel 0.0367 1.86 docetaxel 0.514 1.86 vincristine 0.000 1.86 vinorelbine 5.11 1.86 irinotecan 0.463 1.86 methotrexate 5.04 1.86 oxaliplatin 0.491 1.86 gemcitabine 0.505 1.86 cyclophosphamide 0.685 1.86 fluorouracil 4.27 1.86 *t = {(recovery in the smearing analysis) – (recovery in the rinsing
analysis)} / [{(population variance in the smearing analysis recovery) ^2 / (number of samples in the smearing analysis)} + {(population variance in the rinsing analysis recovery) ^2 / (number of samples in the rinsing analysis)}] ^0.5.
**5% error degree of freedom = (number of samples in the smear-ing analysis) + (number of samples in the rinssmear-ing analysis) – 2 .
Table 4. Smear recoveries of the anti-cancer drugs from a stainless steel plate with cellulose filter paper and polypropylene woven (n=3)
Recovery (%) (SD (%)) with cellulose
filter paper with polypropylene nonwoven paclitaxel* 75 (5.2) 54 (17) docetaxel* 83 (6.8) 79 (7.8) vincristine* 74 (11) 66 (14) vinorelbine* 35 (2.9) 17 (0.42) irinotecan* 51 (6.6) 23 (0.17) oxaliplatin* 74 (6.1) 59 (8.9) gemcitabine* 111 (9.4) 32 (0.69) cyclophosphamide* 81 (2.8) 71 (6.5) fluorouracil* 47 (1.3) 22 (4.9) methotrexate** 29 (1.6) 61 (4.7)
*by smearing stainless steel plate surface with cellulose filter paper. **by smearing stainless steel plate surface with polypro-pylene nonwoven.
率が得られたと考えられるが,他方,セルロースろ紙 は不織布よりも疎水性が低いため,不織布による拭き 取りと比べ回収率が低かったと考えられる.同じく親 水性物質であるイリノテカン,メトトレキサート,フル オロウラシルの3物質と疎水性物質のビノレルビンは回 収率が20%程度と低かった.ビノレルビンの低回収率 については,セルロースろ紙の性質からでは十分説明 できない. これら4物質を含め抗がん剤の拭き取り素材,床材上 等における挙動については4. 3で考察する. 2)ポリプロピレン不織布によるP-タイル上の抗がん 剤の拭き取り ポリプロピレン不織布は疎水性の素材で,表面積も 比較的小さいため,logPowが高い物質や分子量の大き い物質を保持し,そこから溶媒抽出できると考えられ る.不織布の拭き取りではフルオロウラシル,ゲムシ タビンの回収率が顕著に低かった.この2物質は不織布 に抗がん剤を直接添加し抽出した場合も同様の傾向が あった.炭素鎖のみからなる分子構造の不織布は疎水 性が高く,logPowが低いフルオロウラシルとゲムシタ ビンは素材に保持することが難しいと考えられる.他 方,パクリタキセル,ドセタキセル,シクロホスファミ ドは対象とした抗がん剤10物質の中では比較的logPow が高く,セルロースろ紙よりも不織布のほうが高い回 収率を得たため,不織布との疎水性相互作用が捕集に 大きく寄与したと考えられる.logPowが低いにもかか わらずセルロースろ紙よりも回収率が高かったイリノ テカンとメトトレキサートは,フルオロウラシル,ゲム シタビンと比較して分子量が大きく,分子内に比較的 広く分布する疎水性構造部分とポリプロピレンとの相 互作用により捕集されたと考えられる. 2. P-タイルおよびステンレスプレートに添加した抗が ん剤の溶媒による直接抽出効率 P-タイルに添加した抗がん剤の拭き取り分析法の効 率を,溶媒で直接抽出する方法と比較した(Fig. 3). P-タイル拭き取りでは,ビンクリスチン,ビノレル ビン,イリノテカン,メトトレキサートの拭き取り回収 率が40%程度であったが,溶媒による直接抽出でも同 程度の回収率であった.詳細は4. 3で考察するが,これ らの物質は添加量の4割程度がP-タイル表面に残留し ていたと考えられ,残りはP-タイルへの浸透や分解等 により失われたと考えられる.したがって本拭き取り 分析法によりP-タイル表面に残留するこれら4物質は, ほぼ全量回収できたと考えられる.フルオロウラシル はP-タイルの拭き取り回収率が18%と顕著に低く,溶 媒による直接抽出の回収率も37%と低かった.詳細は 4. 3. 4で考察するが,P-タイルの拭き取りで,フルオロ ウラシルの残存量の評価は難しいと考えられる. ステンレスプレートの拭き取り回収率とステンレス プレートを溶媒で直接抽出した回収率の比較をFig. 4に 示す.ビノレルビン,フルオロウラシルは拭き取りで 50%前後しか回収できなかった.原因については4. 3. 3 および4. 3. 4で考察するが,直接抽出の回収率から表面 の残留の約半分は拭き取ることができていること,拭 き取りの標準偏差が低い(3%未満)ことから,この2 物質の大凡の汚染レベルは評価できると考えられる. Fig. 3. Comparison of anti-cancer drug recoveries from a
P-tile by rinsing and smearing with cellulose filter paper
and polypropylene nonwoven. Fig. 4. Comparison of anti-cancer drug recoveries from a stainless steel plate by rinsing and smearing with cel-lulose filter paper and polypropylene nonwoven.
3. 抗がん剤の分子構造,物理化学的性状とそれらの拭 き取り回収率への影響 P-タイルからの拭き取り回収率について,それに影 響する可能性が考えられる抗がん剤の分子構造,分子 量,π電子,分子に占める酸化されやすいアミノ基(後 述する)の割合について考察する.P-タイルからの拭 き取り回収率と抗がん剤の分子に占める酸化されやす いアミノ基の割合,π電子の保有数の関係を示したグ ラフをFig. 5に示す. P-タイルから高い拭き取り回収率を得られた抗がん 剤(Fig. 5では径の大きい円で示されている)は,分子 量200∼400程度のオキサリプラチン,ゲムシタビン, シクロホスファミドおよび800以上のパクリタキセル, ドセタキセルである.一般に分子量が小さいとP-タイ ルの内部への浸透が多く,P-タイルとの分子間力は小 さいと考えられ,分子量が大きいとその反対になると 考えられる.対象とする10種の抗がん剤で,分子量が 200∼400程度の物質で低い拭き取り回収率の物質はな かった.他方,分子量800前後では,拭き取り回収率が 40%台の物質(ビンクリスチン,ビノレルビン)も存 在した. π電子はπ-π相互作用の対象となり,π電子の保 有数が多い物質ほどP-タイル表面や添加物との吸着を 起こしやすいと考えられる.しかしながら,必ずしも π電子の保有数と回収率の相関が見られたわけではな かった. 酸化されやすいアミノ基が分子に占める割合が高い 物質は,全ての物質が当てはまるわけではなかったが, 回収率が低い傾向が見られた.酸化分解物を確認した わけではないため可能性の域ではあるが,酸化分解を 起こしている可能性が高いと考えられる.対象の抗が ん剤はアミノ基を含むものが多いが,アミノ基のN原 子が非共有電子対を持つものであれば酸化されやすい と考えられる.N原子が芳香環に含まれる,あるいは他 の原子と接触し共役している場合,またはN原子の非 共有電子対が金属原子に配位して安定となっている場 合(オキサリプラチンのような形)は,酸化の影響を 受けにくいと考えられる. 拭き取り回収率への分子構造,物理化学的性状等の 影響について,物質ごとに考察する. 1)パクリタキセル,ドセタキセル,シクロホスファ ミド パクリタキセルとシクロホスファミドは,P-タイル 拭き取りの回収率がそれぞれ101%と83%,直接抽出の 回収率が98%と102%で,拭き取りと直接抽出どちらも 回収率が80%以上であった.P-タイルはポリ塩化ビニ ルからなり,不織布と同じく疎水性であるが不織布よ りもソフトであることから,可塑剤等の添加物が含ま れ,分子と分子の間隔が大きいと考えられる.パクリタ キセルは分子量853と分子が大きく,P-タイルの分子と 分子の隙間に入りにくいため浸透しにくいと考えられ る.また,パクリタキセルは分子に占める酸化されや すいアミノ基の割合は低く,酸化分解の影響も受けに くいと考えられる.シクロホスファミドは分子量261と Fig. 5. Correlations of three elements. Recoveries from P-tile by smearing; π electrons
and amine-N, except that in aromatic rings, and low reactivity of lone-pair elec-trons /molecular weights of anti-cancer drugs.
分子は小さいが,対象の抗がん剤の中でπ電子の数が 最も少ない.このことからP-タイルとの相互作用は比 較的小さくなり,吸着しにくいと考えられる.一方で, シクロホスファミドの分子に占める酸化されやすいア ミノ基の割合は他物質と比べて高いほうだが,拭き取 りおよび直接抽出の回収率は80%以上であった.原因 については定かではないが,何らかの理由でアミノ基 があまり酸化されず,分解されなかったことが考えら れる. ドセタキセルはP-タイル拭き取り回収率が74%,直 接抽出の回収率が68%で,拭き取りと直接抽出の回収 率はTable 3のt検定による有意な差はなかった.また, 分子構造が良く似たパクリタキセルよりも回収率が低 かった.この両者の分子構造は,Fig. 1の円で示したa, bの2箇所以外は同じである.ドセタキセルとパクリタ キセルの回収率を比較すると,ステンレスプレートの 拭き取りおよび直接溶媒で抽出した回収率については 有意な差は見られないが,P-タイル上では有意な差が 見られる.このことから,P-タイルとの相互作用に相 違があると考えられる.また,P-タイルと同様に疎水 性である不織布からの抽出率は110%であるから,P-タ イルの不織布による拭き取りの違いが回収率に影響し ていると考えられる.すなわち,P-タイルの素材であ るポリ塩化ビニル,それに添加された可塑剤,安定剤 等の添加物と部分構造の違いが影響していると思われ るが,原因を明らかにできる結果は得られていない. 2)オキサリプラチン,ゲムシタビン オキサリプラチン,ゲムシタビンの2物質は,P-タイ ルから溶媒による直接抽出の回収率が拭き取りの回収 率よりも顕著に低かった.この2物質はセルロースろ紙 からは概ね抽出されており,また分子中に酸化されや すいアミノ基が占める割合が少ないため,酸化の可能 性も低いと考えられる.したがって,この2物質は拭き 取る物理的効果が回収率向上に寄与したと考えられる. オキサリプラチンとゲムシタビンは極性官能基を複数 有し,さらに,オキサリプラチンには白金との共有結合 性の低い結合,ゲムシタビンには複数のOH基があり, P-タイルと静電相互作用があると考えられる.それら の相互作用の結果,溶媒で洗い流すだけでは回収され ず,セルロースろ紙による拭き取りでこすり取られた と考えられる. 3)イリノテカン,メトトレキサート,ビンクリスチ ン,ビノレルビン イリノテカン,メトトレキサート,ビンクリスチン, ビノレルビンの4物質は,P-タイル拭き取り回収率が 37∼45%,溶媒によるP-タイルからの直接抽出の回収 率が42∼50%と,どちらも低回収率であった.これら の物質は対象物質の中でも分子量454∼825と比較的分 子が大きく,P-タイル内部へ浸透する可能性は低いと 考えられる. イリノテカン,ビンクリスチン,ビノレルビンは分 子に占める酸化されやすいアミノ基の割合が他物質と 比較して高く,π電子の保有数も多い.これらの物質 は酸化分解もしくはP-タイル表面への吸着により,回 収率が低かった可能性が考えられる.さらに,ビノレ ルビンは浸透,吸着の少ないステンレスプレートで, 溶媒による直接抽出の回収率は80%と高かったが,拭 き取り回収率は35%と低かったため,拭き取り素材に うまく移行していない可能性も考えられる. メトトレキサートは酸化されやすいアミノ基を含む 割合が少ないが,π電子の数はイリノテカンと同程度 である.したがって,メトトレキサートのP-タイル上 での低回収率はπ-π相互作用によるP-タイル表面への 吸着による可能性が考えられる. 4)フルオロウラシル フルオロウラシルは,P-タイル拭き取り回収率が 18%,P-タイルからの溶媒による直接抽出の回収率が 37%と,顕著に低かった. セルロースろ紙からの抽出は54%と概ね5割抽出さ れたことと合わせて考えると,P-タイル表面には添加 したフルオロウラシルの40–50%が残留し,それをセル ロースろ紙で概ね5割抽出したと考えられる.ステンレ スプレートについても同様に,拭き取りが47%,直接 抽出が93%であることから,ステンレスプレートの存 在量をほぼ拭き取り,そのおよそ半分がセルロースろ 紙から抽出されたと考えられる.P-タイルとステンレ スプレートについて,溶媒による直接抽出の回収率を 比較すると,P-タイルの回収率が顕著に低かった.拭 き取りでもP-タイルの回収率がステンレスプレートよ り低い傾向が同様に認められた.フルオロウラシルは 分子中に含まれる酸化されやすいアミノ基の割合が高 く,浸透に加えて酸化分解が起こっている可能性も考 えられる.ステンレスプレートの溶媒による直接抽出 が100%近く回収されたのは,拭き取りよりも溶媒に よる抽出のほうが空気に触れる時間が短いため,酸化 の影響をあまり受けなかったことが考えられる.また, フルオロウラシルは分子が小さいため,P-タイルの分 子と分子の隙間に入り込みやすいと考えられ,P-タイ ル上で浸透の影響を受けた可能性も考えられる. 4. 分析方法に関するその他の検討 セルロースろ紙と不織布以外の拭き取り素材の検討 を行った.その結果について4. 3. 1で述べる.また,拭 き取り素材からの抽出液の濃縮過程における抗がん剤 の分解とその防止方法に関する検討結果を4. 3. 2に示 す.
1)その他の拭き取り素材の検討 石 英 繊 維 ろ 紙(QR-100,ADVANTEC製 ), ナ イ ロ ン ろ 紙(Nylon Membrane, メ ル ク ミ リ ポ ア 製, Darmstadt,Germany),キムワイプ(ワイパー200,日 本製紙クレシア製,Tokyo, Japan)に抗がん剤10種の各 10 mg/l混合標準液を10 µl直接添加し,0.01%ヒドラジ ン含有メタノールによる抽出率を評価した.これらの 抽出率とセルロースろ紙,不織布からの抽出率をTable 5に示す. 石英繊維ろ紙ではlogPowが低い物質の抽出率は比較 的高かったが,logPowが高いパクリタキセル,ドセタキ セルの抽出率が低かった.logPowが低い物質は石英繊 維ろ紙のシラノール基との静電相互作用により保持さ れ,それにメタノールを加えることにより抽出された と考えられる.一方logPowが高い物質は,石英繊維ろ 紙との親和力が小さいことが,素材での保持が非常に 小さかった原因と考えられる.また,石英繊維ろ紙は 壊れやすいため,拭き取りには不向きであった. ナイロンろ紙ではlogPowの低いオキサリプラチン, ゲムシタビン,フルオロウラシルの3物質の抽出率が低 かった.ナイロンは分子内にアミド構造を有している が,分子構造は概ね疎水性であると考えられる.ナイ ロンろ紙はセルロースろ紙と比べると親水性相互作用 が弱く,logPowの低い物質の抽出率が低くなったと考 えられる. キムワイプはパルプからなるため,主成分はセルロー スである.しかし,ゲムシタビンとフルオロウラシル の抽出率がセルロースろ紙よりも低かった.この原因 は不確かではあるが,キムワイプはセルロースろ紙と 異なり,加工の際に使用された添加物の影響,セルロー スろ紙よりも薄く物質を保持する表面積が少ないこと が考えられる. 2)試料抽出液の濃縮過程における抗がん剤の分解と その防止方法に関する検討 試料抽出液を窒素吹き付け濃縮する際,試料抽出液 の液温が50°Cでは10物質すべて回収率が低かった.対 象物質の酸化等の何らかの分解,揮散が原因として考 えられたため,酸化防止剤として抽出溶媒にヒドラジ ン一水和物を添加し,さらに濃縮時の液温を30°Cとす ることで濃縮時の回収率低下を改善した. なお,酸化防止剤としてヒドラジン一水和物の他に L-アスコルビン酸,4-アミノフェノールも検討した. アスコルビン酸は抽出溶媒のメタノールに溶解しにく く,LC/MS測定時に析出してしまう可能性が考えられ, 4-アミノフェノールは使用するとオキサリプラチンと ゲムシタビンの抽出率が低化したため,ヒドラジン一 水和物を選択した. V. まとめ 医療従事者の曝露に繋がる可能性が高い抗がん剤の 病院内汚染を把握するため,床,机等に残るそれらを 拭き取り,LC/MSで分析する方法を検討した.その結 果,セルロースろ紙とポリプロピレン不織布を対象物質 によって使い分けることで,床材として使用されるこ とが多いP-タイル上の9種類の抗がん剤を37∼101%, 相対標準偏差1.8∼19%で,安全キャビネット等に使 用されるステンレスプレート上の10種類の抗がん剤を 回収率35∼111%,相対標準偏差1.3∼11%で,汚染 を定量的に把握またはそれには劣るが汚染を十分推定 できる分析法を開発した.また,一般的にUVと比べて MSは2∼3桁感度が高いと考えられることから,MS を検出手段としている本分析法のMDLは,UVを検出 手段としている方法と比較して2桁程度以上低いと考え られる.阿部らの報告1)では,調査結果でフルオロウラ シルについて,「ND(5-FU < 20 ng/ml)」とされており,
Table 5. Extraction recoveries of the anti-cancer drugs added to cellulose filter paper, polypropylene nonwoven, quartz fiber filter and “Kimwipe”
Recovery (%) (SD (%))
cellulose filter paper polypropylene nonwoven quartz fiber filter nylon filter paper Kimwipe paclitaxel 61 (11) 89 (9.0) 27 (9.1) 64 (3.9) 66 (7.0) docetaxel 60 (5.4) 110 (4.0) 57 (4.4) 90 (6.5) 104 (2.6) vincristine 85 (11) 69 (5.0) 72 (3.4) 67 (8.0) 104 (18) vinorelbine 78 (4.6) 53 (1.4) 38 (3.5) 20 (2.9) 33 (3.0) irinotecan 30 (7.6) 67 (2.5) 61 (5.3) 61 (2.0) 84 (5.6) methotrexate 34 (1.7) 69 (6.0) 27 (4.3) 70 (5.5) 25 (1.0) oxaliplatin 73 (12) 64 (5.5) 44 (9.0) 7.5 (0.70) 79 (1.3) gemcitabine 69 (12) 40 (2.9) 57 (4.6) 5.9 (0.22) 40 (11) cyclophosphamide 66 (6.5) 79 (5.4) 66 (3.8) 70 (3.2) 99 (0.33) fluorouracil 54 (1.2) 36 (5.1) 64 (9.2) 16 (1.2) 33 (1.9) number of experiments n=5 n=5 n=3 n=3 n=3
このNDレベルを計算すると3,200 ngと推察される.方 法が異なり一概に比較はできないが,これを本分析法 のフルオロウラシルのMDL(7.8 ng)と比較すると, 本法のMDLが3桁程低いレベルであった.また,本分 析法と同じくMSを検出器として使用した濱らの報告16) では,測定の対象がバイアル表面の拭き取りで本分析 法と異なるが,シクロホスファミドの単一成分の分析で MDLが16 ng(GC/MS/MS),10 ng(LC/MS/MS)とさ れている.本分析法は10物質の多成分一斉分析で,シ クロホスファミドのMDLは10 ngと同程度のMDLで, シクロホスファミド以外の9物質も同レベルのMDLで 分析できる.本分析法によって病院内の抗がん剤汚染 の把握が進むことを念じている. 一方で,実際の病院内の薬剤調製室等では高濃度の 抗がん剤が扱われている.そのため,医療従事者の作 業環境では,それらの漏れ等による高濃度の抗がん剤 汚染が危惧される.現在施されている汚染対策の1つと して,クローズドシステムがある.大阪府立公衆衛生 研究所の報告17)によると,クローズドシステムは抗が ん剤のバイアルと抜き取るシリンジの間に特別な部品 を装着することで抗がん剤の調製時の漏れを防止する もので,これによって汚染が導入前より約80%減少し たという.神戸市立医療センター中央市民病院では,ク ローズドシステムのBD PhasealTM(Becton, Dickinson and Company, Franklin Lake, New Jersey)の導入によっ てシクロホスファミドの汚染を低レベルに抑えられる との報告16)があるが,完全な除去には至らないという. また,BD PhasealTMはすべてのバイアルの規格に対応 していないという問題も報告されている18). 抗がん剤汚染の防止および除去方法の研究は今後の 重要な課題であり,分析方法および調査の充実も含め, 抗がん剤曝露の低減研究が進むことが望まれる. 文 献 1) 阿部誠治,野田秀裕,宮野正広,ほか.抗がん剤調製者 への被爆調査と閉鎖式調製器具の使用効果に関する研究. 昭和大学薬学雑誌 2012; 3: 77–83.
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17) 大阪府立公衆衛生研究所.大阪府立公衆衛生研究所メー ルマガジン かわら版 @iph- 第 67 号.大阪府立公衆衛生研 究所.[Online]. [cited 2009 Mar 31]; Available from: URL: http://www.iph.pref.osaka.jp/merumaga/back/67-2.html 18) 中山季昭,細谷和良,岩﨑文男.注射薬飛散防止クロー
ズドシステム(Phaseal® system)と,抗がん剤バイアル
の適合性調査.第18 回日本医療薬学会年会講演要旨集
A smear method for measuring anti-cancer drugs residues in hospitals
Takumi T
akano1, Shigeru S
uzuki1, Ikuto T
Sukiyama2and Hiroko S
aiTo31 Graduate School of Bioscience and Biotechnology, Chubu University, 1200 Matsumoto-cho, Kasugai, Aichi 487-8501, Japan 2 Aichi Medical University Hospital
3 Faculty of Pharmacy Meijo University
Objectives: Anti-cancer drugs are harmful to healthy persons. In recent years, occupational exposure to anti-cancer drugs has become a major concern to health care workers. To address this issue, a smear method was developed to measure widely using anti-cancer drugs depositing on the floors, safety cabinet surfaces, and tables in hospital. Methods: Ten kinds of widely used anti-cancer drugs, paclitaxel, vincristine, docetaxel, vinorelbine, irinotecan, methotrexate, oxaliplatin, cyclophosphamide, gemcitabine and fluorouracil were collected by smearing material surfaces with methanol impregnated cellulose filter paper and/or polypropylene nonwoven. The collected anti-cancer drugs are extracted in 5 ml of 0.01% (v/v) hydrazine/methanol solution by sonication. The extracted solution was filtered and concentrated to prepare 1ml of sample solution. Then, the anti-cancer drugs in the sample solution were simultaneously measured by LC/MS. Results: The anti-cancer drugs excepting fluorouracil spread on P-tile surface were measured with recoveries of 37–101% and standard deviations (SD) of 1.8–19%. All 10 of the anti-cancer drugs on a stainless steel plate surface were measured with the recoveries of 35–111% and SD of 1.3–11%. Conclusions: Using this smear method, 9 or 10 kinds of widely used anti-cancer drug residues in hospital, possibly exposed to health care workers, were grasped.