1.はじめに
前回の報告書(新垣武、2011)において八重山西表島トゥドゥマリ浜や南風見田の浜の海 岸浸食状況の現地調査結果を報告した。本報告書においては、トゥドゥマリ浜を対象として台 風に伴う波浪による海岸浸食について数値シミュレーションによる検討結果を報告する。
2.調査期間等
プロジェクト期間:2009年4月〜2011年3月 調査地:竹富町上原 トゥドゥマリ浜(月が浜)
現地調査日程:
第1回調査 2009年9月9 〜11日 第2回調査 2010年3月11〜13日 現地報告会: 2011年2月25日
3.調査地の概要
トゥドゥマリ浜は西表島の北西に位置する弧状の浜である(航空写真1)。トゥドゥマリ浜 は西側が開いた湾の奥部に位置しているが、湾内の水深は浜辺近くまで深く沖合からの波浪が あまり減衰しないままに浜辺まで到達する構造となっている(図1)。また、海岸線には護岸 等の整備もなされていない事から台風等による荒天時の高波による海岸浸食に脆弱な海岸とな っている。
荒天時に高波により巻き上げられた土砂はその場の潮流の状況や地形等によって移動の様相 が変わって来るが、トゥドゥマリ浜のように沖合側が急に深くなっている場合には沖合側への 土砂の移動は不可逆的移動に近いと考えられる。また、陸地側に護岸等がない場合には高波に よる陸地側への土砂の移動も生じる事から高潮時の高波による海岸浸食が起きやすいと考えら れる。
最近10年間では2005年台風9号、2006年台風13号の接近時にトゥドゥマリ浜の海岸浸食が
Vol.2 March 2012, pp. 41−56
海岸資源に与える台風の影響(2)
−西表島トゥドゥマリ浜−
新垣 武
航空写真1:トゥドゥマリ浜 「国土画像情報(カラー空中写真) 国土交通省」
図1:トゥドゥマリ浜前面海域の水深分布「海底地形デジタルデータ (財)日本水路協会」
4.数値シミュレーションによる海岸浸食の検討
今回調査したトゥドゥマリ浜の海岸浸食については台風接近時に著しい浸食が報告されてお り、沖縄県は台風常襲地域であることから今後も台風による浸食が起こる可能性が高い。台風 による海岸浸食については近年のコンピューターの高速化と普及により数値シミュレーション による解析が行われるようになって来た。今回の調査においてはオープンソースの海岸浸食シ ミュレーションソフトウェアーである XBeach(Deltares and Delft University of Technology) を 使って台風来襲時のトゥドゥマリ浜の海岸浸食について種々の条件下でシミュレーションを行 った。
1) シミュレーションの設定条件
(1)地形
海岸地形と水深についてはデジタル海図 M7021 (先島海域)日本水路協会を使用し た。シミュレーション時のメッシュは5m X5mの長方形に設定した。浸食される 海岸線の高さは水位基準面から2mに設定した。
写真1:トゥドゥマリ浜の海岸浸食状況
潮位の設定
0.5m、 1m、 1.5m、 2m、 2.5m その他の設定
風速 0m
風向 270°(北から時計回り)
波高境界条件 波高 3m、 周期 10s 荒天継続時間 1時間
河川流量 0k/s
波高による変化の計算
波高の設定(湾口部における波高)
1.0m、 2.0m、 3.0m、 4.0m、 5.0m その他の設定
潮位 1.5m 風速 0m 風向 270°
波高境界条件 周期 10s 荒天継続時間 1時間 河川流量 0k/s
風速による変化 風速の設定
0m、 15m、 20m、 25m、 35m
その他の設定 潮位 1.5m 風向 90°
波高境界条件 波高 3.0m、 周期 10s 荒天継続時間 1時間
河川流量 0k/s
風向による変化の計算
風向の設定(北から時計回り)
0°、45°、90°、135°、180°、225°、270°、315°
その他の設定 潮位 1.5m 風速 20m
波高境界条件 波高 3.0m、 周期 10s 荒天継続時間 1時間
河川流量 0k/s
河川流量による変化の計算 河川流量の設定
0k/s、 50k/s、 100k/s、 150k/s、 200k/s
その他の設定 潮位 1.5m 風向 90°
風速 0m/s
波高境界条件 波高 3.0m、 周期 10s 荒天継続時間 1時間
地点による浸食量の違いの計算(風速は20m/sに設置)
風速の設定 20m
地点による変化 ①、②、③、④、⑤ 地点位置については写真1を参照
その他の設定 潮位 1.5m 風向 135°
波高境界条件 波高 3.0m、 周期 10s 荒天継続時間 1時間
河川流量 0k/s
2) シミュレーション結果
(1)潮位による浸食状況の変化
潮位の高低による海岸浸食量の違いについては、浸食される海岸線の高さよりも潮位が低い と浸食量は小さくなり、海岸線の高さが潮位と同じ程度になると波浪が直接海岸線に当たるた めに浸食量が大きくなると考えられる。また、潮位が浸食される海岸線の高さよりも高くなる と海岸線が水没する為に浸食量は低下すると考えられる。図2に潮位の違いによる浸食状況の 変化を示した。
潮位が0.5mから2.0mまでは潮位が高くなると浸食も大きくなるが、計算条件とした海岸線 の高さ2.0mよりも高い2.5mになると浸食量の低下が見られる。浸食による海岸線の低下は1 時間で最大80cmに達している。
図2:潮位変化による浸食の違い
(2)波高による浸食状況の変化
図3に湾口部における波高の違いによる浸食状況の変化を示す。湾口部から入射した波浪は 湾内で減衰しながら海岸へ到達し、海岸線を浸食する。湾口部における波高が高い程、高い波 が海岸へ到達することになり、海岸の浸食は大きくなると予想される。今回のモデルシミュレ ーションでも、入射波高が高い程、海岸の浸食は大きくなっている。湾口部での波高が5.0m で最大80cm程度の浸食となっているが、波高が4.0mと5.0mでは1時間後の浸食量はあまり変 わらない結果となっている。
図3:波高変化による浸食の違い
(3)風速による浸食状況の変化
荒天時には湾口部から入射して来る波浪以外に、湾内で発生する風浪による海岸浸食も生じ ると考えられる事から風速の変化による海岸浸食の違いをシミュレーションした結果を図4に 示す。風速を0m/sにした無風時に比べて15m/s、20m/s、25m/s、35m/sにした場合は浸食 が大きくなっているが、有風時の浸食については、それほど大きな変化は見られない。
図4:風速変化による浸食の違い
(4)風向による浸食状況の変化
風速の変化による海岸浸食の変化について前述したが、ここでは風向による変化について図 5に示した。図5から風向が135°(南東)の場合が海岸浸食が最も大きくなっているが、そ の他の風向の場合とそれほど浸食量に著しい変化は見られない。
図5:風向変化による浸食の違い
(5)河川流量による浸食状況の変化
トゥドゥマリ浜の東南端は、沖縄県で最も長く(約18d)、流域面積が最も大きい(54.2h) 浦内川の河口域となっている為に荒天時の豪雨による河川水の流入が海岸浸食に影響を与える 可能性がある。河川水の流入量の変化による海岸浸食の変化について図6に示す。
図6から河川流量の変化による浸食量の変化はあまり見られない。
図6:河川流量の変化による浸食の違い
(6)地点による浸食量の違い
海岸の地点による浸食量の違いを図7に示す。地点位置については航空写真1に示した。地 点による浸食量の差は最大で50cm程度となっており、最も北側で大きく、中間地点で小さく なっている。湾の形状や湾内の海底地形の違いによる波浪や潮流の変化が海岸浸食の地点によ る変化に影響を与えたと考えられる。
図7:地点による浸食の違い
6.まとめ
海岸浸食については沿岸の開発工事に伴う潮流や波浪の変化による漂砂現象が一つの大きな 要因となるがそれ以外に沖縄のような台風常襲地帯では台風来襲時の高波が海岸浸食の大きな 要因となる。本調査においては西表島トゥドゥマリ浜をモデル海岸として台風による荒天時の 海岸浸食について潮位、波高、風速、風向、河川流量、地点を変えてXBeach(海岸浸食シミュ レーションソフトウェアー) を用いて数値シミュレーションにより検討した。
西表島トゥドゥマリ浜での海岸浸食については最近10年間では2005年8月の台風9号と 2006年9月の台風13号が大きな浸食をもたらしたと報告されている(西表島リゾート開発差 止訴訟のHP)。2001年以降西表島から300km以内に接近した台風と大きな海岸浸食をもたら したこれら2つの台風について付録表1と図8及び図9に示す(気象庁気象統計情報)。これ ら2つの台風は西表島を直撃しており、海面気圧の低い強い台風であった。2005年8月の台 風9号の西表島への最接近時は満潮で潮位が2m程度となっており、海岸浸食が起きやすい状 況であったと考えられる(気象庁気象統計情報)。2006年9月の台風13号の接近時は台風によ る影響により欠測となっているが、海面気圧の低下による海水面の上昇(40cm程度)を加味 して前日の潮位から推測すると潮位は同じく2m程度となり、2005年8月の台風9号来襲時 と同じく海岸浸食が起きやすい状況だったと考えられる。
今回の西表島トゥドゥマリ浜をモデル海岸とした数値シミュレーションによる検討により、
台風時の潮位の上昇や入射波高の増大による高波が短時間に大きな海岸浸食をもたらすことが 分かった。台風については近年の地球温暖化に伴う海水温度の上昇が原因と考えられる大型化 が報告されており、今後ますます海岸浸食が進む可能性がある(IPCC第4次評価報告書)。沖 縄は観光産業が重要な産業となっており、観光資源として重要な砂浜の流出が観光産業に与え る大きな影響が懸念される。
今後、沖縄県の観光資源等として重要な海岸で同様な調査を行いその対策についての検討が 重要な課題となる。
図8:台風経路図(2005年8月9号) 出典:気象庁
【参考文献等】
1.新垣武(2011)海岸資源に与える台風の影響、経済環境研究調査報告書、第1号p. 95 2.気象庁気象統計情報(http://www.jma.go.jp/jma/menu/report.html)
3.西表島リゾート開発差止訴訟のHP(http://www.geocities.co.jp/NatureLand/2032/)
4.デジタル海図 M7021 (先島海域)日本水路協会
(http://www.jha.or.jp/jp/shop/products/btdd/index.html)
5.XBeach Model Description and Manual 2010年 Unesco-IHE Institute for Water Education, Deltares and Delft University of Technology
6.IPCC第4次評価報告書 第1作業部会報告書 概要(公式版)2007年 環境省
台 風 月30日 月6日 月10日 月3日 月10日 月24日 月18日 月19日 月11日 月4日 月9日 月12日 月24日 月5日 月31日
8号 16号 21号 4号 5号 8号 2号 6号 11号 14号 19号 4号 13号 17号 24号 9号 13号
11.9 10.9 25.7 9.2 24.7 10.2 12.7 30.4 7.3 18.7 11.7 14 23.7 30.6 11.5 25.4 31.6
南 南 北北東 南 北北東 南 西南西 西南西 東北東 西北西 北東 北東 西南西 西南西 南南東 西南西 東北東
1005.1 1004 988.4 1004.9 987.8 991.9 1007.1 994.2 1004.5 997.1 1011.7 1007.6 990.8 973.5 1010 985 984.6
7.5 355.5 112.5 0 104 15 27 86 83 20.5 80.5 249 143.5 264.5 111 265.5 195.5
台風前後の降水量(mm)備 考 最大風速 海面気圧(hPa) 風速(m/s)風向
年 月 日 台 風 2005 2005 2006 2006 2006 2007 2007 2008 2008 2008 2009
9月10日 10月1日 7月13日 8月9日 9月16日 9月18日 10月6日 7月17日 9月12日 9月28日 8月7日
15号 19号 4号 8号 13号 12号 15号 7号 13号 15号 8号
23.5 18.8 16 8.2 39.1 37.4 30.1 10.9 27.8) 19.7 23.4
西 東北東 北東 西北西 西北西 北東 東北東 南南東 東北東 ) 南東 東北東
999.5 1005 980.7 1000.6 982.5 978.7 977.2 999.7 988.7) 998.6 976
82 32 66 50.5 224.5 227 313.5 7 148. ) 133.5 223.5
)は一部欠測があり参考値
台風前後の降水量(mm)備 考 最大風速 海面気圧(hPa) 風速(m/s)風向