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課題の誤用に及ぼす影響

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(1)

課題の誤用に及ぼす影響

著者 松山 奈美, 伊藤 友彦

雑誌名 東京学芸大学紀要. 総合教育科学系

巻 57

ページ 161‑169

発行年 2006‑02

その他の言語のタイ トル

The Effect of Correlation between Case

Movement and Change of Verbs on the Errors of the Syntactic Task in Hearing‑Impaired

Students

URL http://hdl.handle.net/2309/1479

(2)

* 東京学芸大学大学院修了

** 東京学芸大学(184-8501 小金井市貫井北町4–1–1)

東京学芸大学紀要 総合教育科学系 57 pp.161〜169,2006

1 .問題と目的

受動文や,やりもらい文,格助詞は聴覚障害児にと って獲得が困難な文法的側面として古くから知られて いる(我妻・菅原・今井,1980;我妻,1981,1986,

1990a,1990b;小田島・都築・草薙,1983;南出・新 藤,1984;南出・中牟田,1989;伊藤,1996,1998; 龍崎・伊藤,1999;田中・南出,2000)。

特に受動文は聴覚障害児だけでなく,健常児におい てもその獲得は他の構文に比べて遅れることが知られ ており(Turner and Rommetveit, 1967; Sano, 2000a, 2000b; Sano, Endo and Yamakoshi, 2001;松山・伊藤,

2003),言語学の領域でも興味深い構文のひとつとして

多 く の 研 究 が 行 わ れ て い る ( 中 村 ・ 金 子 ・ 菊 地 , 1989;中村,1991;Hagiwara, 1993;三原,1994;高 見,1995)。また近年では特異的言語発達障害(Specific Language Impairment, SLI)児も受動文の獲得が困難であ ることが報告されている(Fukuda and Fukuda, 1999,

2001a, 2001b)。しかし,受動文の獲得の困難さの要因

について詳しいことはまだ明らかになっていない。

寺村(1982)は能動態や受動態などの態(ヴォイス)

の問題を格の移動(主格から目的格への移動など)と 動詞の形態(例:おいかける,おいかけられる)との 相関という視点から捉えている。格の移動と動詞の形 態との相関が受動文などの獲得の遅れに影響を与えて いるとするならば,格の移動と動詞の形態変化との相 関がある文は,そのような相関がない文(格が移動し ても述語の形態が変化しない文など)よりも獲得が困

難であると予測される。

格の移動にともなって動詞の形態が変化する文には,

能動文と受動文との関係のように,接辞(例:られ)

の有無によってその派生が規則的になされるものと,

「あげる」を含む文と「もらう」を含む文のように,異な る 動 詞 に 変 化 す る も の と が あ る 。 接 辞 を 伴 う 述 語

(例:おいかけられる)のような,レキシコン(lexicon)

の領域外で処理されるものは比較的遅れて獲得される という知見がある(Fukuda and Fukuda, 1999, 2001a, 2001b)。このような知見をふまえると,述語が文法的 に変化する能動態と受動態との関係は,述語が語彙的 に変化する「あげる」と「もらう」の関係よりも獲得が困 難であると予測される。

したがって,格の移動と動詞の形態的変化との相関 という視点にたった場合,獲得の困難さの順序として,

格の移動にともなって述語が文法的に変化する文の獲 得がもっとも難しく,格の移動にともなって動詞が語 彙的に変化する文がそれに続き,格が移動しても述語 が変化しない文がもっともやさしいと予測される。本 研究はこの点を検討することを目的とする。

2 .方 法

2 .1  対象児

対象児はろう学校高等部に在籍する生徒25名であっ た。そのうち,重複障害をもつ対象児 1名と幼少期の 言語環境が日本語ではなかった対象児 1名を除いた23 名を分析の対象とした。

格の移動と動詞の形態との相関が聴覚障害児の 統語課題の誤用に及ぼす影響

松山 奈美 * ・伊藤 友彦 **

特別支援科学

(2005年

9

30

日受理)

キーワード:聴覚障害,統語課題,誤用,格

(3)

2 .2  統語課題 1)判断・修正課題

表1は対象児に提示した判断・修正課題における課 題文の種類とその例を示したものである。格の移動と ともに述語の形態が文法的に変化するもの(タイプA)

として能動態「追いかける」と受動態「追いかけられる」,

格の移動とともに述語の形態が語彙的に変化するもの

(タイプB)として「あげる」と「もらう」,格が移動して

も述語の形態が変化しないもの(タイプC)として「結 婚する」の5種類の文を用いた。それぞれの述語につい て,正文(文法的に正しい文)と非文(文法的誤りを 含む文)を作成した。非文は,正文の述語の直前の格 助詞を,1つの文中に同じ格助詞が含まれないように 配慮しながら,他の格助詞に置き換えて作成した。5 種類の述語について,正文を4文,非文を4文ずつ作 成した。したがって対象児に示した課題文は計40文で あった。

2)述語挿入課題

述語挿入課題に用いた述語は判断・修正課題と同様,

「追いかける」,「追いかけられる」,「あげる」,「もら う」,「結婚する」の5種類であった。提示した刺激文と 同じ意味になるように,述語を挿入して文を完成させ る課題であった。上述の 5種類の述語について刺激文 を4文ずつ作成した。したがって対象児に示した刺激

文は20文であった。

3)格助詞挿入課題

格助詞挿入課題では述語挿入課題と同じ刺激文を用 いた。提示した刺激文と同じ意味になるように格助詞 を挿入して文を完成させる課題であった。述後挿入課 題と同様,「追いかける」,「追いかけられる」,「あげ る」,「もらう」,「結婚する」の5種類の述語について刺 激文を4文ずつ作成した。したがって対象児に示した

刺激文は20文であった。

2 .3  手続き

判断・修正課題,述語挿入課題,格助詞挿入課題の 3課題はすべて課題シートを用いて文字提示し,解答 も文字で記入させた。実験はすべて個別に行った。な お,教示は音声,書字,日本語対応手話を交えて行っ た。各課題とも,例題を行い,対象児が課題の手続き を正しく理解したことを確認してから本題に入った。

制限時間は設けず,対象児自身が終ったと判断した時 点で課題を終了した。提示した 3つの課題シートの一 部を表2に示した。

判断・修正課題はすべての対象児に行ったが,述語 挿入課題,格助詞挿入課題は,課題に対する対象児の 負担を考慮し,判断・修正課題に誤反応がみられなか った対象児にのみ行った。提示順序による影響を取り 除くため,述語挿入課題と格助詞挿入課題は,対象児 の半数には述語挿入課題20問の後で格助詞挿入課題20 問を行い,残りの半数には逆の順序で行った。

3 .結 果

3 .1  判断・修正課題

図1は判断課題における誤反応の総数を,誤反応数 の少ない対象児から順に並べて示したものである。縦 軸は誤反応数,横軸は対象児を示している。なお,本 研究では非文を正文とした反応を誤反応としたため,

対象児一人あたりの全反応数は20反応である。この図 から,対象児a〜jの10名は誤反応をまったく示さな かったこと,対象児k〜wについては,誤反応数が少 ない者から多い者まで連続的に分布していることがわ かる。

表 1  判断・修正課題における課題文例

(4)

松山・伊藤:格の移動と動詞の形態との相関が聴覚障害児の統語課題の誤用に及ぼす影響

図2は判断課題(図1)で誤反応がみられた対象児 k〜wの誤反応数を文のタイプごとに示したものであ る。縦軸は誤反応数,横軸は文のタイプを示している。

なお,文のタイプによって用いた課題文の数が異なる ため,タイプAでは能動文と受動文の平均誤反応数を,

タイプBでは「あげる」と「もらう」の平均誤反応数を求 表 2  判断・修正課題,述語挿入課題,格助詞挿入課題

図 1  判断課題における誤反応総数

(5)

めた。したがって対象児一人あたりの全反応数は各タ イプ4反応である。この図から,どの対象児もタイプ Aに誤反応を示し,その誤反応数は多様であったこと がわかる。タイプBとタイプCに誤反応を示したのは 対象児u,wの2名だけであったことがわかる。

図3は判断課題で誤反応がみられた対象児k〜wの 平均誤反応数を文のタイプごとに示したものである。

縦軸は平均誤反応数,横軸は文のタイプを示している。

分散分析の結果,文のタイプの主効果が有意であった

(F (2, 24) = 18.3, p < .01)。LSD法を用いた多重比較の 結果,タイプAとタイプB,タイプAとタイプCの間

に5 %水準で有意差が認められ,タイプBとタイプC との間には有意差は認められなかった。

図4は修正課題における誤反応率を示したものであ る。縦軸は誤反応率,横軸は対象児を示している。な お,ここでは判断課題で正反応であった文,つまり非 文を非文であると判断した文を分析の対象とした。し たがって,誤反応率は非文と正しく判断したにもかか わらず,正しい文に修正できなかった文の割合を示し ている。なお,非文を非文であると判断した文の総数 は対象児一人あたり11〜20(平均17.7)であり,修正 課題の誤反応数は対象児一人あたり 0〜6(平均0.83)

図 2  判断課題における文のタイプ別にみた対象児k〜wの誤反応数

図 3  判断課題における文のタイプ別にみた対象児k〜wの平均誤反応数

(6)

松山・伊藤:格の移動と動詞の形態との相関が聴覚障害児の統語課題の誤用に及ぼす影響

であった。

この図から,先の判断課題で誤反応がみられなかっ た対象児a〜jの10名のうち対象児a〜hの8名は修 正課題でも誤反応がみられず,対象児i,jについて も修正課題における誤反応率は低い傾向があることが わかる。対象児wは判断課題における誤反応数がもっ とも多い対象児である。修正課題における誤反応率も 50%以上と高いことがわかる。

表3は修正課題に誤反応を示した9名の対象児の反 応パターンを示したものである。修正課題で誤反応が みられた9名のうち6名がタイプAにのみ誤反応を示 したことがわかる。また,判断課題で誤反応がみられ なかった対象児i とjもタイプAには誤反応を示した ことがわかる。

3 .2  述語挿入課題と格助詞挿入課題

対象児の負担を考慮し,判断・修正課題で誤反応が みられなかった対象児8名にのみ述語挿入課題を行っ た。図5は述語挿入課題における誤反応の総数を示し たものである。縦軸は誤反応数,横軸は対象児を示し ている。対象児一人あたりの全反応数は16反応である。

この図から,述語挿入課題を実施した対象児8名のう ち,対象児a,b,d,gの4名は誤反応を示さなかっ たことがわかる。また,残りの 4名の対象児について も,誤反応数は2以下であることがわかる。

述語挿入課題と同様,課題に対する対象児の負担を 考慮し,判断・修正課題で誤反応がみられなかった対 象児8名にのみ格助詞挿入課題を行った。図6は格助 詞挿入課題における誤反応の総数を示したものである。

縦軸は誤反応数,横軸は対象児を示している。対象児 一人あたりの全反応数は16反応である。この図から,

図 4  修正課題における誤反応率

表 3  修正課題における個人別誤反応パターン

(7)

格助詞挿入課題を実施した対象児8名のうち,対象児 a,b,c,eの4名は誤反応を示さなかったことがわ かる。また,残りの4名の対象児についても,誤反応 数は3以下であることがわかる。

4 .考 察

本研究では,格の移動と動詞の形態との相関が聴覚 障害児の統語課題における誤用に及ぼす影響について 検討した。その結果,以下のことが明らかとなった。

1)判断課題における文のタイプ別の誤反応数は,タ

イプB(あげる,もらう)とタイプC(結婚する)

に比べてタイプA(能動,受動)に有意に多く,

タイプBとタイプCの誤反応数に差は認められな かった。

2)判断課題で誤反応がみられなかった対象児10名の うち 8名の対象児は修正課題でも誤反応がみられ ず,残りの 2名の対象児についても修正課題にお ける誤反応率は低かった。

3)修正課題で誤反応がみられた9名のうち6名がタ

イプAのみに誤反応を示した。

4)判断課題でも修正課題でも誤反応がみられなかっ た8名の対象児に述語挿入課題と格助詞挿入課題 を行ったところ,述語挿入課題でも格助詞挿入課 題でも誤反応はわずかしか観察されなかった。

以下ではこれらの点について考察する。まず,1) について考察する。判断課題における文のタイプ別の 誤反応数は,タイプB(あげる,もらう)とタイプC

(結婚する)に比べてタイプA(能動,受動)に有意に 多かった。まず,この点について考察する。格の移動 と動詞の形態的変化との相関という視点にたった場合,

獲得の困難さの順序として,1)格の移動にともなっ て述語の形態が変化する文の方がしない文よりも難し い,2)格の移動にともなって動詞が形態的に変化す る場合,文法的に変化(接辞の変化など)する文の方 が語彙的に変化する文よりも難しい,と本研究では考 えた。この仮説に基づき,格の移動にともなって述語 が文法的に変化する文の獲得がもっとも難しく,格の 移動にともなって動詞が語彙的に変化する文がそれに 続き,格が移動しても述語が変化しない文がもっとも やさしい,と予測した。したがって,判断課題におけ る文のタイプ別の誤反応数において,タイプB(あげ る,もらう)とタイプC(結婚する)に比べてタイプ A(能動,受動)に有意に多かったという今回の結果 は,タイプAがもっとも難しかったという点では予測 図 5  述語挿入課題における誤反応総数

図 6  格助詞挿入課題における誤反応総数

(8)

と一致していた。しかし,タイプBとタイプCに差が 認められなかった。本研究では先に述べたように,格 の移動にともなって述語の形態が変化する文の方がし ない文よりも難しいという仮説をたてた。つまり,タ イプCはタイプBよりも易しいと予測した。したがっ て,タイプBとタイプCに差がなかったという今回の 結果はその予測を支持するものではなかった。この点 については今後,さらに検討する必要があるが,一つ の可能性としてつぎのことが考えられる。タイプB,C はAと異なり,レキシコン(lexicon)の領域外での処 理(語幹に続く接辞を規則的に変化させるなど)を必 要としない。このことをふまえると,日本語の統語知 識の獲得においては,語幹への接辞の付加など,レキ シコンの領域外の処理の有無の影響が強い可能性が示 唆される。

つぎに2)について考察する。判断課題で誤反応が みられなかった対象児10名のうち8名は修正課題でも 誤反応がみられず,残りの2名の対象児についても修 正課題における誤反応率は低かった。このことから,提 示された文が文法的であるかどうかを判断できる対象 児は,文の文法的誤りを修正できることが示唆される。

つぎに 3)について考察する。修正課題で誤反応が みられた9名のうち6名がタイプAのみに誤反応を示 したという結果は,タイプAがもっとも難しいことを 示している点で本研究の予測と一致するものであった。

最後に結果 4)について考察する。判断課題でも修 正課題で誤反応がみられなかった対象児は,述語挿入 課題でも格助詞挿入課題でも誤反応はわずかしか観察 されなかった。このことから,文の文法的正誤が判断 でき,文法的誤りについても正しく修正できる対象児 は,格の移動に伴って述語が変化する文の書換えもで きる可能性が示唆される。

文 献

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我妻敏博(1986)聴覚障害児の文理解方略に関する一考察.

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我妻敏博(1990a)聴覚障害児の文理解方略に関する一考察

(その2).ろう教育科学,32a,33_46.

我妻敏博(1990b)聴覚障害児の文理解方略に関する一考察

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(9)

英語対照研究シリーズ4,くろしお出版.

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寺村秀夫(1982)日本語のシンタクスと意味Ⅰ.くろしお出 版.

Turner, E.A. and Rommetveit, R. (1967) The acquisition of sentence voice and reversibility. Child Development, 38, 649_660.

(10)

*

Formerly belonged to graduate school of Tokyo Gakugei University

**

Tokyo Gakugei University (4-1-1 Nukui-kita-machi, Koganei-shi, Tokyo, 184-8501, Japan)

Matsuyama, Ito:The Effect of Correlation between Case Movement and Change of Verbs on the Errors of the Syntactic Task in Hearing - Impaired Students

The Effect of Correlation between Case Movement and Change of Verbs on the Errors of the Syntactic Task in Hearing - Impaired Students

Nami Matsuyama* and Tomohiko Ito**

Department of Education for Children with Disabilities

Key words : hearing-impaired, syntactic task, errors, case

The purpose of this study was to investigate the effect of the correlation between case movement and change of verbs on the errors of the syntactic task in hearing - impaired students. We have three types of correlation in Japanese. Sentences with the first type of correlation were those in which part of the verbs changed as a result of case movement. Sentences with the second type of correlation were those in which verbs changed into another verb as a result of case movement. Sentences with the third type of correlation were those in which verbs did not change in spite of the case movement. In this study, passive sentences were used as those which had the first type of correlation. Yari-morai (giving and getting) sentences were used as those which had the second type of correlation. “Kekkon suru” (marry) sentences were used as those which had the third type correlation. Subjects were 23 high school students who were attending a Japanese school for the deaf. The results were as follows. In the sentence judgment task, the mean number of errors in passive sentences was significantly higher than in both the “Yari-morai” and “Kekkon suru”

sentences. No difference was observed between the “Yari-morai” and “Kekkon suru” sentences. This result indicates that the sentences which have the correlation in which part of the verbs changes as a result of case movement is most difficult to learn.

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参照

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