1. はじめに
近年、地方銀行の再編が話題になって いる。銀行は民間企業である一方、規制 産業であり、その行動が地域経済、企業、
社会へ与える影響が大きいため、再編の 是非についても国内外で様々な論点から 評価されてきた。そこで本稿では先行研 究を展望し、再編が金融機関の経営に与 える影響と、借手企業へ与える影響とい う二つの側面から論点整理を行い昨今の 地方銀行再編の動きについて評価する。
2. 地方銀行再編の背景と現状 メガバンクを中心に、
90
年代から大 規模な金融再編が起こった。背景には、金融ビッグバン、
IT
投資の増大、不良 債権問題等があり、1998年に銀行持株会社が解禁されたことが後押しとなって 再編が進み現在の
3
大メガバンクが形 成された。この当時、経営状態が悪化し た信用金庫、信用組合についても公的資 金注入を伴い、主に救済措置を目的とし た再編は多数あったが、地方銀行の再編 については大きな動きにはならなかっ た。しかし、近年、経営基盤である地域 経済の縮小予測(図1)
、低金利政策に よる利鞘低迷(図2
)、当局による再編 促進的な動きなどにより1、地方銀行の 再編が活発になっている(表1
)。地方銀行の再編
Consolidation of Regional banks
島袋 伊津子 Itsuko SHIMABUKURO
1. はじめに
2. 地方銀行再編の背景と現状 3. 再編の影響に関する先行研究
(1)金融機関の経営に与える影響
1.1. 日本の金融再編による効率性や収益性の変化 1.2. 小規模銀行優位仮説
(2)競争環境と借手の中小企業へ与える影響 4. おわりに
1 橋本(2016)pp.75-76、日本経済新聞電子版2014年1月15日「金融庁、地銀に再編促す『統合を』長官が異例の 言及」等。
検 索
6.9 6.97.67.6 6.2 6.26.56.5
7.3 7.3 667.37.3 5.8 5.86.16.1 4.8 4.8 4.9 4.95.25.2 3.9 3.94.94.9
5.4 5.4 3.9 3.94.24.2
5.3 5.36.26.2 4.5 4.5 4.5 4.55.15.1 3.7 3.7 4.2 4.24.54.5
44 3.9 3.9 4.6 4.6 5.3 5.3 4.9 4.9 5.5 5.5 4.3 4.3 3.1 3.1
4.2 4.2 3.5 3.5
5.6 5.6 4.3 4.3 4.9 4.9 4.9 4.95.25.2
5.6 5.66.76.7 5.4 5.4 4.3 4.35.75.7
6.1 6.16.76.7
-11.98 -11.98 -16.88
-16.88 -15.32
-15.32 -7.15 -7.15 -19.12
-19.12 -14.96 -14.96 -11.93 -11.93
-8.93 -8.93 -8.81 -8.81 -9.32 -9.32 -5.69 -5.69 -6.23 -6.23
-2.94 -2.94 -3.44 -3.44 -12.55
-12.55 -11.64 -11.64 -8.09 -8.09
-10.78 -10.78 -11.52 -11.52 -11.46 -11.46
-10.11 -10.11 -9.58 -9.58
-3.44 -3.44 -9.43
-9.43
-3.13 -3.13 -7.51 -7.51 -7.83 -7.83 -8.03 -8.03 -10.78 -10.78 -14.74 -14.74
-12.84 -12.84 -14.39 -14.39
-8.57 -8.57 -8.02 -8.02 -13.67
-13.67 -14.12 -14.12 -11.30 -11.30
-12.80 -12.80 -15.63
-15.63 -6.49 -6.49 -10.02 -10.02 -13.59 -13.59
-9.69 -9.69 -10.22 -10.22 -10.47 -10.47 -11.84
-11.84 -0.38 -0.38
-20 -15 -10 -5 0 5 10
-20 -15 -10 -5 0 5 10
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表 1. 地方銀行の再編
3.再編の影響に関する先行研究 表
1
にあるように、近年、地方銀行 の再編の動きが活発になっている。しか し、90
年代から2000
年代初め頃まで は地方銀行の再編は限定的で、地方金融 市場の分断が指摘されていた。このこと について筒井(2007)は、寡占による 弊害の可能性を指摘し、地域の銀行が地 域を越えた相互参入を行わない場合、貸 出ポートフォリオの分散化が十分になさ れないという点で金融機関として非合理 な行動であり、相互参入による競争度の 上昇が自身の利潤を減らすと見越した結 果であるならば利用者にとって不利益で あるとしている。一方、同論文は、金融 機関にとっても利用者にとっても合理的 となる理由として情報の非対称性がもた らす問題を指摘し、金融機関がこの問題 を解決するために店舗を一定程度集中させ、これが現実の行動に表れている場合 を挙げている。しかし、この論文が発表 されてから
10
年を経た現在、地域を越 えた地方銀行の再編の動きが活発になっ ている状況は、これまで地方銀行が地域 に留まっていた理由が必ずしも情報の非 対称を解決するという合理的なものでは なかった可能性を示唆する。あるいは、依拠する地域の経済的衰退が著しく、外 に出ていかざるを得ないという事情や低 金利政策による利鞘の低迷などのマクロ 経済に起因する問題も大きく影響してい るだろう。さらに、近年の当局による再 編促進的な動きも指摘されている。この ように様々な要因が近年の地方銀行再編 の背景にあると考えられるが、金融機関 の再編の是非については多くの論点があ り、研究の蓄積が国内外に豊富にある。
そこで本稿では、先行研究で議論された、
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(出所)全国銀行協会ウェブサイト、各銀行ウェブサイトより筆者作成
金融機関の再編が(1)金融機関の経 営に与える影響、(2)競争環境と借り 手の中小企業へ与える影響という二つの 側面から整理する。
(1)金融機関の経営に与える影響 1.1 日本の金融再編による効率性や収益 性の変化
再編が是とされる根拠の一つに規模の 経済性の存在がある。金融機関経営にお いて規模の経済性が存在するのであれ ば、合併によって規模を拡大することが 金融機関経営の改善に資するという解釈 ができる。地域金融機関を対象とした分 析で、規模の経済性が存在することを示 した研究は多く存在する。信用金庫につ いては宮村(
1992
)、宮越(1993
)、堀 江(2015b
)、 井 上(2003
)、 信 用 組 合 については岩坪 (2004
)、労働金庫につ いては晝間(1990)、村本(1996)、地 方銀行については、上田(2006
)、堀江(2008)などである。
直接的に再編の効果を検証し、是非を 示した研究もある。再編によって効率性 や収益性が高まったということを示唆す る結果を得ている研究には次のようなも のがある。
Yamori et al.(2003) は、地方銀行の 金融持株会社は、単独の銀行よりも費用 効率性では劣るが利潤効率性については 勝るという結果を得ている。
坂井、その他(
2009
)は、合併した 信用金庫は経費率が削減され、90
年代 の収益性の改善は経営の効率化と市場支 配率の強化によってもたらされていると いう。ただし、合併前の自己資本比率の 毀損を埋めるまでには至っていないとし ている。井上 (
2003
) は、信用金庫の合併によ る経費削減効果は、特に人件費について 明確であるが、合併効果は短期間であら われるものではなく、平均すると合併後5
~6
期をかけて経費効率が平均的な水 準にまで改善されており、ある程度の時 間をかけなければ効果はあらわれにくい としている。上田(2006)は地方銀行を対象に分 析し、多くのケースで合併後の効率指標 は改善しており、合併・統合による相対 的な費用効率の向上を達成し、多くの合 併で規模の経済性の効果を発揮している と推察している。
茶野、その他(
2012
)は、信用金庫 の効率性は市場が分断しているかどうか というような地域特性よりも合併したか どうかに強く依存しており、合併が信用 金庫の効率性向上に結びついているとい う。また、合併した信用金庫の方が効率 性の上昇が大きかったのは、合併により 規模の経済性が働いたためであるという 結果を示している。原田・北村(2016)は、信用金庫に ついて合併直後、一時収益性は低下する ものの、数年以内に合併以前より高くな ること、経費削減によって効率性は高ま ること、特に人件費率の削減が進むこと、
自己資本比率の改善が見られることを明 らかにしている。
Baighya
・ 中 東(2016
) は、 地 方 銀 行は合併することで効率性の改善がもた らされる規模に関する収穫逓増であるこ とを示し、地方銀行の合併は経済効率性 を高める可能性を示している。一方、再編が経営改善にはつながって いないという結果を示す研究も存在す る。
星 野 (
1999
) は、 昭 和47
年3
月 期 か ら平成9
年3
月期決算までのデータを 用いて、合併・非合併銀行の財務データ を比較し合併は負の効果があることを示 している。橘木・羽根田 (
1999
) は、1960
年代か ら1990
年代に実施された都市銀行の合 併について、資金調達コスト、β係数、ROE、全要素生産性、労働生産性が合
併前後で改善したという効果を確認でき ないとしている。播磨谷(
2011
)は、地方銀行、信用 金庫ともに費用効率性に対して合併ダミ ー変数(合併直後、2
年以内)の係数値 が有意に負、堀江(2015a
)は地方銀行 の利益率に対して合併ダミー変数の係数 値が有意に負という結果を得ている。岡田(
2007
)は、合併による収益率・効率性の上昇はなかったとしている。ま た、被合併行と対等合併行は合併によっ てメリットを享受する一方、合併行はそ れほどメリットを享受していないと指摘 している。
再編の是非を評価する際、再編の動機 を区別して分析することも重要である。
上場企業である以上は、株主利益の最大 化を目的に行動し、経営効率を高めるこ とを再編の動機とするべきだろうが、金 融機関は公的な役割を担っている規制産 業であるためそのような単純化はできな い。実際、
90
年代の日本の金融危機時 に実行された合併の多くは公的資金注入 を伴うもので地域の金融システムの健全 化が目的であった可能性が大きく、この ような合併をサンプルにした実証分析で は、合併によって経営効率が悪化するという結果になるだろうが、救済という目 的を達成していたならば単純に否定する ことはできない。再編の目的を明らかに し、経済厚生への影響を検討することで 正確な評価を行うことができるだろう。
Hosono et al.
(2007
) や坂井、その他(2009)は分析対象とした金融機関の合 併の目的は当局の金融システム安定化で あったと示唆されるが、そのような効果 は得られていないと結論付けている。
岩坪(2012)は、
Hosono et al.(2007)
による手法を援用して分析し、吸収合併、対等合併において合併を実施した銀行に は低い健全性と非効率性がみられるとい う結果を得ており、これは合併動機が当 局による地域金融システム安定化である ことを示唆するとしている。
再編を株主・投資家がどう評価してい る か と い う 観 点 で は、 原 田、 そ の 他
(
2008)は個別の金融再編事例に関する
株価をイベント・スタディによって分析 し、15事例のうち
9
事例が有意に正の 反応を示したという。また、岡田(2007
) は、合併によって株価の超過収益率が上 昇していたという。しかし、それは収益 率・効率性の上昇を伴ったものではなく、都市銀行の合併の動機として、効率性の 追求というよりも“too-big-to-fail”を 狙っていた可能性が示唆されたとしてい る。これは株主にとっては、望ましいだ ろうが株主と納税者の利害が一致しない 場合、経済厚生上望ましくない。
また、そもそも日本の銀行業で十分に 株主ガバナンスが機能していないという 指摘もある2。粕谷・武田(2000)によ れば、地方銀行に対するガバナンスにお
2 日本経済新聞電子版(2017年2月21日)によれば、主な生保会社は上場地銀の株式を数多く持つにも関わらず経営 の監視役を果たしていないと金融庁は不信感を募らせているという。
いて、日本的系列関係にある都市銀行が 外部株主として影響を与えているという 仮説が棄却されたという。株主ガバナン スが十分に機能した上で地域金融システ ムの健全性が損なわれない仕組みが望ま れるところである。銀行の再編の是非に ついて、多くの研究で様々な論点が存在 する理由として、金融業の公的役割があ る。一般の民間企業であれば再編の是非 は株主による評価すなわち株価の動きに 集約できるが、公的役割を担い地域経済 への影響が大きい金融業においてはそう はいかないため、単純に評価することは 難しいのである。
以上をまとめると、日本の銀行業にお いて多くの研究で規模の経済の存在性を 認めているが、再編によって効率性や収 益性が改善したとはいえないケースも多 く指摘されている。しかし、再編目的が 金融システムの安定や、市場支配率の強 化、
too-big-to-fail
を狙ったものであっ た場合は、目的は達成しているといえる。しかし、その目的設定が経済厚生上望ま しいかはまた別の問題である。
1.2 小規模銀行優位仮説
再編が進むということは、小規模な銀 行が大規模な銀行に吸収されるというこ とである。「大は小を兼ねる」のであれ ば問題ない。しかし、先述した規模の経 済性という大規模銀行が享受するメリッ ト以上の、小規模であることに何らかの 優位性が存在するならばそうならない。
この「小規模銀行優位仮説」を支持する 研究がある。
Berger and Mester
(1997
) は、銀行のcost effi ciency
お よ びprofi t effi ciency
を計測し、cost effi ciency
については最 も規模が小さな銀行よりも最も規模が大 き な 銀 行 が 約2.5%
高 い が、profi t effi ciency
については小規模な銀行が高 い値を示しているという。中小企業は情報開示コストの負担が困 難なため、貸出に際して判断材料となる 企業情報が不透明になる点が大企業向け 貸出との大きな違いの一つである。その ため、中小企業向け貸出においては貸手 と借手とのリレーションシップ構築と、
ソフト情報3の収集と活用によって融資 判 断 の 質 が 高 め ら れ る。
Cole et al.
(
2004
) は通説的に知られている、大規 模銀行と小規模銀行の中小企業融資に際 した判断の相違、すなわち、大規模銀行 は 標 準 化 さ れ た 定 量 的 な 基 準 (cookie cutter approach
) で判断し、小規模銀 行は融資担当者のパーソナルなインター ア ク シ ョ ン に 基 づ い た 質 的 な 基 準(character approach)で判断している という仮説を支持する結果を示してい る。Stein(2002) は、銀行の組織構造に 関し、ソフト情報については分権化され た組織の方が効率的に扱えるということ を理論的に示した。
Berger et al.
(2002
) では、規模が小さい組織(小銀行)が分 権化された組織であるという前提を置 き、この理論を実証的にサポートする結 果 を 得 て い る。 ま た、Berger et al.
(
2015
) は地域経済が悪化した際に小銀 行が比較優位性を増すという結果を示し ている。Peek
(2007
) は、中小企業向け 融資の代理変数として、100万ドル以下 の商業用および工業用(C&I
)ローンを3 「ソフト情報」とは、他者に伝えることが困難な主観的、定性的な情報などを指し、逆に、財務データなどの客観的な、
他者に伝達が容易な客観的な数値情報などを「ハード情報」という。
使用し、小銀行の場合は小規模な
C
&I
ローンの方が大規模なC
&I
ローンよ りも自身の市場価値を増加させるが、大 規模な銀行では差異は見られないという 結果を示し、小規模銀行がリレーション シップ型貸出における比較優位をもつこ とを示唆している。
Carter et al.
(2004
) は、 リ ス ク 調 整 済みの商業貸出からの収益が、市場環境 や資金調達コスト等をコントロールした 上でも小規模銀行が大規模銀行よりも大 きいという分析結果を示し、小規模銀行 優位仮説を支持している。一方で、小規模銀行優位仮説に否定的 な 研 究 も あ る。
McNulty et al.
(2001
) は小規模銀行が貸出の質を評価・モニタ リングする上で情報生産において優位性 を有するという仮説について、非大都市 圏の小規模銀行については支持されうる が、小規模銀行の方が不良債権が高いと いう結果もあり、必ずしも仮説を支持で きる結果とはならなかったとしている。Akhigbe and McNulty
(2003
) は米国の 大銀行と都市部の小銀行、地方部の小銀 行 の 収 益 性 の 違 い を 分 析 し 次 のSP・
EP・RD hypothesis
の要因が大きいと している。・
SP(Structure-performance)hypothesis
; 小都市の小銀行は競争が少ないため低 金利で預金を集めて高金利で貸し出 す。・
EP
(expense-preference
)hypothesis
; 非競争的市場の銀行経営者は利潤を浪 費する。・
RD
(relationship-development)hypothesis;非競争的市場では借り
手が他の銀行に乗り換える可能性が低 いので借り手とのリレーションシップを構築するインセンティブが生まれ、
それによって情報の非対称性を減らし 企業価値を高めるので非競争的市場の 小銀行の効率性は高い。
Jayaratne and Wolken(1999) は、
中小企業貸出においては大銀行より小銀 行が費用効率的であるという仮説につい て、米国のデータによって実証分析し、
小銀行が少ないエリアにおいて長期の中 小企業向け貸出は減少しない、小銀行の 少ないエリアで中小企業の資金制約は少 ないという結果により、仮説に否定的な 見解を示した。
さらに、
Ergungor
(2005
) は、中小企 業向け貸付の多い小規模コミュニティバ ンクは、相対的に中小企業向け貸付の少 ない金融機関よりも統計的に効率性が劣 り、さらに、効率的な金融機関において も中小向け貸付からの収益は大企業向け 貸付からの収益を下回るという。日本の研究で小規模銀行の優位性を支 持するものに、内田 (2010a) がある。こ れによれば、小規模な銀行ほど貸手と長 期的・多面的な取引を行い、借手の近く に立地し、借手と頻繁に接触していると いう実証結果を示している。つまり銀行 規模が小さいほどリレーションシップバ ンキング(以下、リレバン)に比較優位 を持っている可能性が高いとしている。
一方、対照的な結果を出している研究に は、小倉・その他 (
2012
) がある。金融 機関へのアンケート調査にもとづいた小 倉・その他 (2012
) の分析では、金融機 関の規模とソフト情報の活用には正の相 関があり、Berger, et al.(2005) とは逆 の結論を示している。また、支店への融 資決定権限の委譲の程度とソフト情報利 用には弱いながらも正の相関が観察されたという。つまり、規模が大きくても、
意思決定の分権化によって、ソフト情報 を活用した融資を実践できるということ を示唆している。
(2)競争環境と借手の中小企業へ与え る影響
2017
年に発表された、ふくおかフィ ナンシャルグループと十八銀行の経営統 合について、2018
年に入ってからも公 正取引委員会による審査が完了せず延期 されているという報道があった。地域金 融機関の再編によって競争が緩和される ことは個々の金融機関の経営にはプラス になるだろうが、その地域の顧客にとっ ては独占的利益の搾取というマイナスな 側面も想定されうる。そのため再編が認 められるには総合的に地域経済にとって 悪影響がないと判断される必要がある。金融機関の再編は、
1990
年代におい て世界的な潮流であった。背景にはIT
投資の増大によりコスト負担を規模拡大 によって緩和する動きや、米国において は 、R i e g l e - N e a l B a n k i n g a n d Branching Effi ciency Act
の 制 定( 銀 行の営業に関する州際規制の撤廃)もあ った。そのため小規模銀行が次々に吸収 されて大規模化することで金融空白・地 域独占が懸念され、中小企業の資金調達 に悪影響があるのではないかという問題 について多くの研究によって議論され た。再編によって中小企業向け貸出が減 少 す る と い う 説 を 支 持 す る も の に、Keeton
(1996
)、Berger et al.
(1995
)、Berger et al.(1998) が あ る。 一 方、
Peek and Rosengren
(1998
) は、 す べての再編が中小企業向け貸出を減少さ せるわけではなくむしろその多くは増加させるとしている。
Strahan and Weston
(1998
) は小規模銀行同士の合併は中小 企業向け貸出を増加させるが、一方が大 規模銀行あるいは両方とも大規模銀行で ある合併の場合は中小企業向け貸出に与 える影響は明確でないという結果を得て いる。Whalen(1995) によれば、州外の 銀行持株会社の子会社による中小企業向 け融資の規模は、独立銀行および州内銀 行持株会社の子会社と比較して有利であ るという。さらに、州外の持株会社の子 会社が貸出金利を通じて中小企業の借入 を妨げているわけではないとしている。地銀再編がリレバンないし中小企業向 け貸出に与える影響は、懸念される影響 もある一方で、先述したように金融機関 が再編によって大規模化しても意思決定 を分権化することによってソフト情報を 活用できる可能性はある。あるいは、そ の金融機関の意思決定が集権的になった としても、周辺の金融機関や新規参入者 が差別化のためにソフト情報を活用した リレバン強化に取り組む可能性もある。
このように再編の動きが借手企業に与え る悪影響が限定的であるケースが理論上 は想定可能である。先述の
Stein(2002)
の理論からは、金融再編が進み地域の金 融機関が大規模になれば、意思決定が集 権的になりソフト情報の活用ないしリレ バンへの悪影響が懸念される。Berger et al.
(2005
) が 行 っ た 実 証 分 析 で はStein
(2002
) の理論を支持しているが集 権的か分権的かを示す変数を、規模を表 す変数で代理しているため、大規模であ っても分権的あるいは小規模であっても 集権的な組織がある場合、妥当ではなく な る4。 こ の 問 題 を 改 善 す る べ く、Degryse et al.
(2007
) は、金融機関の規模変数とは別の、意思決定の度合いを表 す指標を用いて実証している。その結果、
ライバル行が大規模あるいは集権的な銀 行の場合、自行の支店がカバーする地理 的範囲が狭くなるという結論を得てい る。そして次のような解釈をしている。
すなわち、集権的な組織ではハード情報 に依存した融資が行われるため、このよ うなライバルが近くにある場合は、貸し 手に直接訪問してソフト情報を収集する インセンティブが生まれ、距離的な移動 コストがかさみ、カバーする地理的範囲 が狭くなるということである。金融機関 の再編との関連で考えると、金融機関が 合併によって大規模化あるいは集権的に なれば、近隣の金融機関は差別化を図る ためにリレバンに注力するということで ある。さらに
Berger et al.
(1998
) は金 融再編によって中小企業向け貸出は減少 するがそのほとんどは他の銀行によって 補われるとしている。Haynes et al.(1999) によれば、1994 年 の
Riegle-Neal Banking and Branching Effi ciency Act
により銀行産 業のおけるconsolidation
が空前の勢い で活気づいており、この動きが小銀行を 減少させ、中小企業向け貸出が大銀行へ 振り分けられているがDe Novo banks
5 の参入が中小企業の資金需要に応えてい る と し て い る。 ま た、DeYoung et al.
(1999
) は同じ規模の小銀行よりDe novo banks
のほうが小企業貸出 / 資産 が 大 き い と し て い る。 さ ら に、Berge et al.
(2004
)、Lee and Yom
(2016
)は 金融M&A
がDe Novo banks
の新規参入を促すと主張している。また、
Adams and Amel
(2016
) は米国の非都市部にお いても過去の金融M&A
が、店舗設立 という形の銀行の新規参入に対して正の 影響があるという結果を得ている。つまり米国においては、再編によって 小規模金融機関が吸収され減少してもそ れが新規参入で補われるという金融業の 活発な新陳代謝のおかげで、再編による 借り手企業の資金調達への悪影響は深刻 ではないということになる。
一方、金融業の新規参入が活発とはい えない日本においてはどうだろうか。
日本に関する研究では、次のような主 張がある。渡辺・澤田(
2002
)は、具 体的な銀行統合の事例を分析し、今後、地銀・第二地銀などの再編が進み銀行規 模が大きくなると中小企業向け融資が削 減される可能性があると指摘している。
さらに、野間(
2003)は、90
年代か ら2000
年代の日本の地域金融におい て、オーバーバンキングが顕著だったと ころほどその後経営が不安定になってい る可能性を示している。そして、先行研 究の結果を示し90
年代から2000
年代 の政策である、公的資金の注入による地 域金融機関の再編促進およびこれを通じ た地域における資金の流れの再生という 方向性に疑問を呈し、金融再編によるオ ーバーバンキングの解消という方法が地 域の中小企業の役に立つとはいえないこ とを示唆している。宮 崎・ 阿 萬 (
2013
) は、2003
年 に 行 われた親和銀行と九州銀行の合併のケー スを取り上げ、親和銀か九州銀行、ある4 Degryse et al.(2007) は、銀行規模を示す変数と集権的・分権的の度合いを示す変数との相関係数が0.375という結 果を得ている。
5 De Novo banks とは新しく設立された銀行のことで、Haynes et al.(1999) によれば、1995年以来1000を超える 新しい商業銀行が参入しているという。
いは両行とのみ取引先銀行になっている
150
企業を対象とし、銀行の再編が取 引先企業に与える影響について計量分析 を行い、企業のROA
に対して、再編ダ ミー変数の係数値が有意にマイナスとな ったという結果を得ている。Uchino and Uesugi(2002) は、2005 年から
2006
年にかけて実施された東京 三菱銀行とUFJ
銀行による合併に焦点 を当て合併後に取引関係にあった非上場 企業の支払金利への影響を検証し、有意 に金利が上昇したという結果を得てい る。取引金融機関数の減少により貸し手 金融機関が借り手企業に対する交渉力を 強めたため、もしくは、支店の統廃合な どにより企業-金融機関間関係が変化し て蓄積されていたソフト情報が毀損した ためであるという解釈が可能とする一方 で、大規模な不良債権処理を迫られる中 で行われた合併は、金融システムの安定 化や収益性の改善という面からは、前向 きに評価すべきとの指摘もあり得ると述 べている。銀行間競争の激化が企業にどう影響す るかという点では、
Boot and Thakor
(2000) などのようにリレバンを縮小さ せるという議論がある一方、Black and Strahan ( 2002) や Cetorelli and Strahan
(2004
) のように、銀行業の競 争増加が企業の参入増加につながってい るという分析もある。日本のデータを用 いた内田 (2010b
) の実証分析によれば、銀行間の競争度の違いがリレバン(取引 期間、取引の多面性)に対して統計的に 有意な影響がなかったという結果を示し ている。
茶野、その他(2012)は、貸出シェ アが高いことは信用金庫の競争制限的な
行動に結びつくというよりも貸出金利の 引下げに寄与し、東京・神奈川のように 競争が激しいと推察される市場にある信 用金庫と、市場が分断されている東北・
四国・九州・沖縄のような地域にある信 用金庫とには、
01
年度から09
年度に かけての効率性改善に違いがなかった可 能性が高いとしている。大庫、その他(2017)は、長崎県下 の借入のある企業の取引金融機関数では 一行取引が全体の半数ほどである一方、
十八銀行と親和銀行の
2
行とのみ取引 をしている企業は一般的な市町で3
~4
%程度、その割合が多い市町でも
7%程
度と限定的で、十八銀行と親和銀行の合 併の影響を直接受ける企業が少なく、合 併による経費削減効果というメリットの 方が大きいと主張している。平賀、その他(
2017
)は、過去5
年 分の都道府県別データで推定した貸出金 利関数においてハーフィンダール指数の 係数値が有意に負であるという結果を示 し、日本の地域金融市場では、寡占度が 高まることで貸出金利が上がるという市 場構造成果仮説よりも寡占度が高まるこ とで貸出金利が下がるという効率性仮説 の成果が大きいと結論付けている。尾島(2017)は、銀行間の競争激化 によって借入企業の破綻リスクが低下し 信用コストの減少を通じて銀行経営の安 定性も増すというメカニズムを重視した
competition-stability view
と、逆に競 争激化によって銀行の利鞘が縮小した状 態が続くと損失吸収力が低下するほか、銀 行 が 収 益 維 持 を 目 指 し て リ ス ク テ イ ク 姿 勢 を 強 め る こ と で 銀 行 経 営 が 不 安 定 化 す る メ カ ニ ズ ム を 重 視 し た
competition-fragility view
のどちらが日本の地域金融機関に当てはまるかを実 証している。その結果、
1990
年代前半 までは、競争激化は銀行経営の安定化に 寄与していたが、90
年代後半以降は、むしろ銀行経営の安定性を低下させる方 向に寄与してきたとみられマークアップ の低下として表れている競争圧力の強ま りが、
1990
年代中頃を境に、経営安定 度を改善させる方向から悪化させる方向 へと転換したとしている。また、破綻や 合併によって市場から退出した金融機関 の行動にとして、競争環境が激化してい く中で、リスクテイクの積極化により一 時的に利益が嵩上げされた時期があった ものの、その後は、過去の過大なリスク テイクが損失をもたらし、経営が不安定 化していった傾向を確認することができ たという。堀江(
2015c
)は信金・信組の不良債 権比率の変動要因を、営業地盤を分類し た上で分析し小都市型のエリアではハー フィンダール指数の係数値が有意にマイ ナスという結果を得ており、地域的な独 占度の高さが貸出債権の不良化を抑える 方向に作用していると推察している。少子高齢化が進行中の日本では、もし 金融機関の再編によってその地域の資金 供給が減少したとしてもそれ以上に早い スピードで資金需要の減少が進んでいる 可能性がある。堀江(
2015c
)は人口減 少により金融機関経営は抜本的な見直し が迫られ、特に地方都市型の地域銀行に 大きなインパクトが生ずるとしている。さらに、人口の変動が信金・信組の利益 率に有意に影響することを確認してい る。
近年の地方銀行再編の是非について、
これまでの先行研究に基づいて総合的に 評価すると、現状の日本における地域金 融システムの安定のためには、地方銀行 が再編の道を選択することは否定される べきではないように思われる。また、再 編の形態の一つとして、銀行業務の分業 化を進め
IT
設備投資等の規模の経済に よるメリットが大きい業務は集権化し、リレバンなど金融機関の付加価値の源泉 となる業務については多様性を維持する という形が模索されるべきだろう6。例 えば、林(2007)は、オランダのラボ バンク・グループの構造を再編形態の一 つとして提案している。すなわち、各地 域の個人・法人顧客にサービスを提供す る地方銀行が中央組織銀行を保有し、地 方銀行が当該地域の顧客への金融商品・
サービスの提供に徹するのに対し中央組 織銀行が傘下の様々な子会社を活用して 金融商品の製造を行っており、分権化と 集権化を同時追求しているという。この ような構造はわが国における、信用金庫、
信用組合、労働金庫、農業協同組合とい った協同組織金融機関のそれと類似して いる。これら協同組織金融機関は営業区 域の規制があるため一見リスク分散が困 難であるが、営業区域内での貸出から収 益が見込めない場合は中央組織を頼るこ とによって地域との共倒れを回避できる だろう。しかし、今回再編の動きが活発 化している地方銀行は中央組織をもたな い。そのため、経営基盤の経済的縮小が 著しく単独での存続が厳しい場合は時に は都道府県を越えた再編による生き残り を模索せざるをえず、将来的にはかつて
6 高 橋(2017) に よ れ ば、 千 葉・ 武 蔵 野 ア ラ イ ア ン ス、 四 国 ア ラ イ ア ン ス、 北 東 北 参 考 連 携、 じ ゅ う だ ん 会、
TSUBASAアライアンスなど、業務提携が盛んである。
のメガバンク再編のように、大規模な地 銀グループに集約される可能性もあるだ ろう。地銀の大規模化ないし集約化が進 んでも、組織の集権化と分業化の両立が なされ、規模の経済を享受しつつも地域 多様性は維持されることが望まれる。た だし、再編により金融業の寡占化が進み 新陳代謝が活発にならないままの状態が 続けば、やはり将来的に利用者の利便性、
借り手企業の資金調達にはマイナスとな り、実体経済にも悪影響となる可能性が ある。再編を促す理由の一つに、日本は オーバーバンキングであるからという主 張があるが、櫻川 (
2005
) はオーバーバ ンキングとは預金過剰ということであ り、再編で銀行数が減少しても根本的な 解決にはならないという。確かに国際的 にみて現預金の割合が高く株式等のリス ク資産の割合が低い日本の家計資産構造 を変えなければ、高い成長性が見込める 産業への資金の流れすなわちリスクマネ ーの供給は増えない。その結果新たな産 業が育たないので新たな資金需要が生ま れず金融業の収益源は先細るばかりであ る。家計のリスク資産保有を促す環境を 整え、資産運用・資金調達手段の多様性 が維持される金融システムの構築が、根 本的に必要な政策であると考える。この ような金融システムが構築され金融業自 体の新陳代謝が活発になれば、金融再編 イコール寡占化の弊害とはならないだろ う。日本の金融市場において、預金を原 資としないリスクマネーの供給が増える ことで新規企業への資金の流れができ、経済が拡大し、さらに金融市場での資金 需要が増える、といった好循環が生まれ る仕組みづくりが必要とされている。
第5章 おわりに
本稿では先行研究をまとめることによ り、近年の地方銀行再編の是非について 検討した。日本の銀行業において規模の 経済性は広く計測され存在が確認されて いるため、再編によって規模が大きくな ることで規模の経済性によるメリットが 享受できる可能性は高い。しかし、再編 による経営改善の効果を直接的に分析し た研究からは、再編は経営改善につなが っていないという結果も多い。これは日 本で実行された再編の多くが救済を動機 とするものだったことに起因すると考え られる。さらに、米国の経験では、活発 化する銀行再編が金融市場の寡占化を招 き中小企業の資金制約という弊害を生じ させるという懸念から多くの分析がなさ れたが、銀行の新規参入によってその弊 害は限定的であるということがわかって いる。しかし日本では銀行の新規参入は ほとんどないため、再編によって寡占化 が進む可能性はある。ところが先行研究 からは地域の金融業の競争状況と借手企 業の資金調達との関係性は強くないとい う結果が多く、それ以上に、地域の将来 的な人口減少ないし資金需要の縮小への 対応が喫緊の課題となっている現状で は、当面の対応として地方銀行の再編は 否定されるべきではないと考える。
参考文献
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