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超・極低出生体重児の両親が語る家族レジリエンス

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Academic year: 2021

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超・極低出生体重児の両親が語る家族レジリエンス

Family resilience according to the narratives of parents

of very low and extremely low birth weight infants

香 奈(Kana MINAMI)

*1

島 田 啓 子(Keiko SHIMADA)

*2

藤 田 景 子(Keiko FUJITA)

*3 抄  録 目 的 超・極低出生体重児を持つ夫婦の語りより,子どもがNICUを退院するまでの期間における家族レジ リエンスについて探索すること。 対象と方法 超・極低出生体重児を持つ夫婦8組(16名)を対象に半構造化インタビューと参加観察を実施し,解 釈学的現象学アプローチを用いて分析を行った。 結 果 超・極低出生体重児が生まれた夫婦は,子どもが退院するまでの間に,《突然の衝撃に混乱し揺さぶ られるとき》,《非日常と日常が融合するとき》,《この子に応じて我が家のライフスタイルを立て直すと き》といった3つの様相の変化を辿りながら,家族の再構築に向けて歩みを進めていた。また,その過 程における家族レジリエンスとして,【 】で示す6つのテーマが導き出された。 夫婦は,相手への気遣いから互いにかける言葉を選び,【感情のキャッチボール】を行いながら,相互 理解を深めていた。また,【「普通の子じゃない」という事への捉われからの脱却】をすることで,現実 を受容し,ありのままの子どもを「我が子」として受け入れていた。それには,【共有する時間を積み重 ねる事により育まれる家族の絆】が重要であり,相互作用を通して子どもに対するポジティブな感情が 育まれていた。また,【地域社会との繋がりから得た仲間との交流】により共感が生まれ,必要な資源を 得る機会となっていた。退院が迫ってくると,【子どもを優先する生活との折り合い】をつけながら【親 としてのアイデンティティの擦り合わせ】を行い,子どもを含めた我が家独自のライフスタイルの確立 に向けて,立て直しを図っていた。 結 論 本研究で導き出された6つの家族レジリエンスは,夫婦の相互作用を円滑にし,子どもを含めた再構築 に向けて歩みを進める上での必要な力として示唆された。看護者は,対話や関わりを通して夫婦の持つ 2017年5月8日受付 2017年10月14日採用 2017 年12月11日早期公開

*1金沢大学大学院医薬保健学総合研究科博士後期課程(Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University, Doctoral Course) *2元金沢大学医薬保健研究域保健学系(Former Graduate School of Medical Pharmaceutical and Health Sciences, Kanazawa University) *3静岡県立大学看護学部(School of Nursing, University of Shizuoka)

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力に着目し,親になるという自然のプロセスにおいて発揮・促進できるよう支援する事が重要である。 キーワード:家族レジリエンス,超・極低出生体重児,家族

Abstract Purpose

This study aimed to examine the family resilience during the period up to discharge of the baby from the neonatal intensive care unit on the basis of the narratives of both parents of very low and extremely low birth weight infants.

Participants and Methods

We conducted semi-structured interviews and participant observations in 8 married couples (16 individuals) who had a very low and extremely low birth weight infants (<1500 g). The interpretative phenomenological analysis was used in this study.

Results

During the period up to discharge of their babies, families of a very low and extremely low birth weight infants advanced toward a sense of reconstruction, while taking one step forward and one step backward from the shock, through three-phase changes: the phase of confusion and perturbation by the sudden shock, the phase of integrating reality and unreality, and the phase of family-life reconstruction for the baby. Furthermore, with regard to family resilience throughout this process, the following 6 themes within brackets were observed.

Concerning feelings of their partner, parents chose their words carefully, and through thoughtful 【emotional interactions】,they deepened their mutual understanding. Furthermore, to 【break free from a preoccupation that “it is not a normal baby”】,parents accepted their reality and accepted their baby as who he/she is and as “our baby.” This indicated that【fostering family ties by accumulating shared time】 is important, which led to positive feelings toward the baby were developed through interaction. Moreover, 【social exchanges with people the parents who became acquainted with through connections in the local community】 gave rise to empathy, which alleviated solitude, and created an opportunity to obtain necessary knowledge and resources. As the day of discharge was approaching, 【ad-justing one's identity as a parent】 while making 【lifestyle compromises to prioritize the baby】 helped to re-construct the family toward establishing a unique lifestyle that suited their own family inclusive of the baby.

Conclusion

It was suggested that the six family resilience found in the present study facilitated smooth interaction between the parents, and were necessary strengths to progress towards reconstruction of the family unit to include a baby. Results indicated that it is important that nurses focus on the strengths of the parents through conversations and their relationship, and then provide support that enables such strengths to be exhibited and promoted in the natural process of becoming a parent.

Key words: family resilience, very low and extremely low birth weight infants, family

Ⅰ.緒   言

近年,新生児医療の発展,不妊治療による多胎率の 増加など,さまざまな要因により低出生体重児(出生 体重が 2500g 未満の児)の割合が増加しており,1980 年に5.2%だったものが2013年では9.6%まで上昇して いる。その中でも出生体重が1500g未満の超・極低出 生体重児は,身体機能が未熟であり,誕生直後より新 生児集中治療室(Neonatal Intensive Care Unit 以下, NICUとする)に入院となり,高度な急性期医療を要 する。また,脳性麻痺,聴覚障害などの神経学的障害 が残りやすく,長期的な支援が必要となる事が多く (三科:2006),さらに発育の遅れや学習障害(LD), 注意欠陥多動障害(ADHD)など,発達の側面からも 養育上の問題を抱える家族が増えている(板橋,三 科,河野他,2003;Whitaker, VanRossem, Feldman: 1997)。 超・極低出生体重児の誕生は予期せぬ事態として起 こることが多く,ほとんどの家族が危機的な状況を迎 えると言われている(Caplan, 1960)。周産期医療で は,救命とともにこれらの問題に直面する家族への支 援の重要性が示唆されており,単に「生死」の問題の みでなく,将来への「Quality of Life(QOL)」を追求す る事が求められる。 先 行 研 究 に よ る と, こ れ ら の 家 族 は ト ラ ウ マ ティックな傷つき体験をしており(長濱,松島,石崎

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ら,2006:飯塚,2013),正期産で産めなかった事に 対する自責の念や,喪失体験(Kaplan, Mason, 1960: 中島,2002:橋本,2011)を経験している事が明らか となっている。またこのような背景から,正期産で出 産した母親と比較し,産後うつや育児ストレスを抱え るリスクが高い事が示されている(神田,本間,白石 他,2007;田中,鈴木,古溝他,2011)。 さらに,母子分離による愛着形成の障害や,子ども の育てにくさなどの問題より,乳幼児虐待のハイリス ク要因である事も明らかとなっており(松井,谷村, 小林,1991;小泉,2000;渡辺,2013),虐待予防の 見地からも家族支援は喫緊の課題となっている。 NICUに お け る 家 族 支 援 に お い て, 1960 年 代 に ウィーデンバックが提唱した Family Centered Care (以下,FCC とする)の概念が取り入れられるように なり,これまでの医療中心のケアから,家族にケアの 主眼が置かれるようになった。これは,家族が自らの 力で立て直していく事が出来るよう,医療者が協働す る事の重要性を示しており,我が国においても看護者 の多くが FCC の重要性を認識している事が明らかと なっている(木下,2001;横尾,2002;笹本,2002)。 しかしその一方で,実践とのずれが生じている事も指 摘されており,具体的な支援方法の探索が急務と なっている(浅井,森,2015)。 そこで本研究では,家族レジリエンスの概念に着目 した。これは,危機的状況にありながらも強さと問題 解 決 能 力 を 発 揮 し て い る 家 族 の 存 在 か ら, Walsh (2003)により,「危機的状況を通して家族が家族とし て回復する可塑性」と定義されている。得津ら(2006) は,有効な家族支援とは家族レジリエンスを促進する ものであると述べ,高橋(2013)は,病気や障害を抱 える子どもの家族支援に有用な概念である事を示唆し ている。しかし,家族レジリエンスは概念そのものが 新しいことから,研究の数の少なさが指摘されてお り,また存在する研究のほとんどが個々の家族成員の みを対象をしたものであることより,家族を1つのシ ステムとして捉えた研究の必要性が示唆されている (河原,本郷,小林,2014)。現在,日本における健康 障害のある子どもの家族レジリエンスに関する先行研 究 で は, 知 的 発 達 障 害, ダ ウ ン 症, 筋 ジ ス ト ロ フィーの数件しかなく,養育期の家族を対象としたも のは見当たらなかった(石井,2009;大久保,杉田, 藤田他,2012)。 そこで本研究では,超・極低出生体重児が誕生した 夫婦の語りより,家族レジリエンスについて探索し, その促進を目指す支援への示唆を得る事を目的とし た。 [用語の定義] 超低出生体重児:出生体重が1000g未満の児。 極低出生体重児:出生体重が1000g~1499gの児。 家族レジリエンス:家族が危機的困難な状況の中で 恒常性を維持するために,回復・成長する力。 家族:互いに情緒的,物理的,経済的サポートを依 存し合い,その人達自身が家族であると認識してい る人々。本研究では,共に生活し,相互作用する夫 婦とその子どもを主とする成員を対象とした。

Ⅱ.研 究 方 法

1.研究デザイン Benner(1994/2012)の解釈学的現象学アプローチを 用いた質的記述的研究。 Heideggerの存在論を基盤とした研究方法であり, 概念に説明された経験ではなく,生きられた経験に接 近し,現象をそれ自体の見地から明らかとすることを 重要視している。生活世界の中にある存在や,その経 験の意味をありのままに理解するための研究方法とさ れており,当事者の視点より探求する事を目的とした 本研究に適していると考えた。 2.研究参加者 超・極低出生体重児を持つ夫婦で,子どもの状態が 急性期を脱し,先天性疾患がない事を前提条件とし た。10 組(20 名)に参加依頼をし,そのうち 8 組(16 名)に研究参加の同意が得られた。 3.協力依頼の方法 研究者と機縁のある,NICUを有する医療機関,お よび市町村の保健センターの代表者に研究協力の依頼 をし,同意を得た上で,研究参加者の紹介をしても らった。また,スノーボール方式により,研究参加者 より知人を紹介してもらった。 4.調査期間 2016年1月~2016年6月

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5.データ収集方法 データ収集はインタビューガイドを用いた半構造化 インタビューと参加観察を実施した。 1)インタビューの方法 研究参加者への倫理的配慮より,子どもの状態が落 ち着き,すでにNICUを退院した夫婦による後ろ向き 調査を行った。実施時期は,子どもの退院後約1か月 (28日)より1年4か月であった。子どもの誕生後より 退院するまでの期間を中心に,その時の体験や,それ をどのように受け止め,家族で乗り越えてきたかにつ いて自由に語ってもらった。インタビューは,全ての 参加者において最低 2 回実施した。1 回目は相互作用 の観点から事象に迫る事を目的とし,夫婦同席で 行った。また相手がいる事で会話の内容に制限が生じ る可能性を考慮し,2回目は夫婦別々で行った。範例 (Paradigm case:研究者が関心ごとを表している顕著 な事例であると選択したもの)とした事例1 例につい ては,より深く体験を語ってもらう事,研究者の分析 した解釈が飛躍したものとなってないかを確認する目 的で3回目のインタビューを行った。 インタビュー内容は同意を得て IC レコーダーに録 音し逐語録を作成した。 インタビュー時間は 43 分~106 分(平均 73.5 分)で あった。 2)参加観察の方法 相互作用の視点より実際の反応を観察する事で,語 られた意味内容の洞察を深め,分析データとの融合を 図る目的で実施した。協力の得られた参加者7組は家 庭訪問を実施,1組は外来受診の様子にて夫婦の関わり や子どもとの関わりについての観察を行った。これら の情報は速やかにメモし,時間経過に沿ってフィール ドノートに詳細に記入した。また,研究者の存在によ りその場の流れを壊すことがないよう留意した。 6.分析方法 得られたデータは,先行研究を参考に以下の手順で 行った。また,Caplan(1961/1968)によると,家族集 団は相互依存的な体系であるとし,家族成員の問題は 家族全体に影響する事を示唆している。このように家 族のもつ全体性(Wholeness)の特性を考慮し,本研究 では共に生活し,相互作用する夫婦それぞれの体験を 捉え,分析を行った。 1)範例のテクスト全体を厳密かつ専門的に読み込 み,語られたストーリーに想像的に入り込んだ。 2)参加者のストーリーがなぜそのように語られる のか,参加観察によって得られた反応を示すデータと 融合させながら解釈し,その現象の中で生じている家 族レジリエンスとして表現されている文脈の記述を分 析対象とし,意味のパターンやスタンス,関心ごとに ついて文脈を整え,客観的な意味に書き換えて「意味 のある単位(meaning unit)」として抽出した。 3)テキストの部分と全体との間を行ったり来たり しながら,また解釈者の姿勢も参加者の世界に想像的 に住み込む所から,他者として距離を取り,参加者の 世界に問いかける事へとシフトしながら,類似した意 味のある単位をテーマとして統合したり,細分化した りし整理した。 4)範例の解釈やテーマの分析を裏付ける記述を事 例ごとに類似性と差異性に留意しながら擦り合わせ, テーマの確証性を高めていった。 7.真実性の確保 より深い語りを得られるよう,研究参加者と信頼関 係を築く努力を行い,最低 2 回,(範例とした 1 例は 3 回)のインタビューを参加者のペースに合わせて実施 した。自由な形で経験を語る事が出来るよう,参加者 が語る事を支持的に傾聴するスタンスに徹した。ま た,研究者の経験や価値判断が加わらないよう留意し た。事前にプレテストを行い,より深い体験の理解に 繋がるよう,インタビュー方法の見直しを行うととも に,研究者の立ち位置と態度についての振り返りを 行った。分析に関しては,解釈学的現象学的な視点に 基づいたプロセスで行われているか,個人的な主観が 先行していないかなどについて,質的研究経験者の スーパーバイズを受けながら行った。 8.倫理的配慮 研究参加者には,書面と口頭にて研究の参加や途中 辞退は自由意思であること,研究参加を拒否したり, 途中辞退した場合であっても一切不利益は被らない事 を説明した。また,研究により得られたデータは研究 以外には使用せず,既定の管理方法に則って厳重に保 管すること,研究終了をもって安全に消去・破棄する 事も説明し,同意を得た。インタビューの実施そのも のが研究参加者の負担にならないよう,事前に話した くない事は話さなくていい旨を説明するなど,配慮を 行った。なお,本研究は金沢大学医学倫理審査委員会 の承認を得て実施した(審査番号630-1)。

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Ⅲ.結   果

1.参加者の概要(表1) 研究参加者は超・極低出生体重児を持つ夫婦8組16 名であり,全員が初めて子どもを迎える夫婦であり, 核家族であった。子どもの出生体重の平均は 1040g (SD±392.7g)で, 入 院 期 間 は 6 週 間 か ら 22 週 間 で あった。子どもの状態については,退院後も在宅酸素 療法が必要となった4例以外は,自宅で医療行為を行 う必要はなかった。 2.家族の再構築に向かう様相と家族レジリエンス (図1) 超・極低出生体重児が誕生した家族は,一進一退を 繰り返しながらも子どもを含めた新たな家族の再構築 に向けて歩みを進めていた。その現象には時間性があ り,《突然の衝撃に混乱し揺さぶられるとき》,《非日常 と日常が融合するとき》,《この子に応じて我が家のラ イフスタイルを立て直すとき》といった3 つの様相の 変化が見られた。 また様相の変化に応じて,6つの家族レジリエンス を示すテーマが導き出された。 以下に,家族の再構築に向かう様相を《 》で,そ の家族レジリエンスを【 】で示し,解釈を記述した。 研究参加者の実際の語りの内容は“ ”で示した。な お,( )内の言葉は状況を補足するために研究者が書 き入れた。 表1 研究参加者の概要 父 母 妊娠経過の異常 分娩様式 出生週数 出生体重(注 1) 子どもの入院期間 A 20代後半 20代後半 妊娠高血圧症候群 帝王切開 26週 600g 16週間 B 20代前半 20代前半 切迫早産前期破水 経腟分娩 23週 500g 22週間 C 30代後半 20代後半 子宮内胎児発育遅延羊水過少 帝王切開 32週 1400g 6週間 D 20代前半 20代前半 切迫早産骨盤位 帝王切開 28週 1100g 20週間 E 30代前半 30代前半 妊娠高血圧症候群 帝王切開 31週 1400g 8週間 F 20代後半 20代後半 妊娠高血圧症候群 帝王切開 24週 500g 20週間 G 30代前半 30代前半 子宮内胎児発育遅延 帝王切開 33週 1300g 10週間 H 30代後半 30代前半 前期破水 帝王切開 28週 1100g 12週間 注1)研究参加者が特定出来ないよう,下2桁は切り捨てとした。 ෌ ෌ ᵓ ⠏ ༴ ᶵ Ꮚ䛹䜒䛾ㄌ⏕ ㏥㝔 ឤ᝟䛾䜻䝱䝑䝏䝪䞊䝹 䛂ᬑ㏻䛾Ꮚ䛨䜓䛺䛔䛃䛸䛔䛖஦䜈䛾ᤊ䜟䜜䛛䜙䛾⬺༷ ඹ᭷䛩䜛᫬㛫䜢✚䜏㔜䛽䜛஦䛻䜘䜚⫱䜎䜜䜛ᐙ᪘䛾⤎ ᆅᇦ♫఍䛸䛾⧅䛜䜚䛛䜙ᚓ䛯௰㛫䛾䛸䛾஺ὶ Ꮚ䛹䜒䜢ඃඛ䛩䜛⏕ά䛸䛾ᢡ䜚ྜ䛔 ぶ䛸䛧䛶䛾䜰䜲䝕䞁䝔䜱䝔䜱䛾᧿䜚ྜ䜟䛫 図1 超・極低出生体重児が誕生した家族の再構築に向かう様相とレジリエンス

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1)《様相1:突然の衝撃に混乱し揺さぶられるとき》 突然の子どもの誕生やNICU入院によって,個々の 成員が衝撃と混乱を体験しており,それが家族全体に 波及することで,これまでの生活や家族機能が激しく 揺さぶられていた。妊娠期間中より,早産の可能性を 告げられていたケースもあったが,そのほとんどが突 然の出産となっており,精神的・社会的準備が整わな いまま子どもの誕生を迎えていた。また誕生直後よ り,「死」や「障害」と言った意味合いが含まれた子ど もの予後についての厳しい説明を受けており,思い描 いていた誕生の喜びとは程遠いものであった事が体験 として語られた。 妻 F:“なんかもう,突然って感じで,訳分かんな いですよね。いきなり今日お腹切るって言われて, それだけでも,えっ!?って感じなのに,その後も どんどん人工呼吸器つけるとか,生きられる可能性 は何%ですとか。もう怖くて,怖くて。” 夫B:“あいつ(妻)のいない所で医者と喧嘩しまし た。障害が残るなら助けないでくれって。22 週と か法律とかなんか知らんけど,お前ら(医者)がそ の先の責任とってくれるんかって。いっそのこと死 んでくれたらって。” 夫 A:“全く訳が分からない感じでした。とにかく その日,その時間を乗り越えるっていうか。とにか く言われた事を無心でこなす感じ。考えると止 まっちゃうし。” 《様相1》における家族レジリエンスとして,【テーマ 1:感情のキャッチボール】,【テーマ 2:「普通の子 じゃない」という事への捉われからの脱却】の 2 つの テーマが導き出された。 【テーマ1:感情のキャッチボール】 夫婦はそれぞれが混乱の渦中にいながらも,相手へ の気遣いから,互いにかける言葉を選び,適度に距離 を取るなど,配慮されたコミュニケーションを図って いた。それは,自身の感情を押し殺して相手を立てる ものではなく,相手の感情もしっかり受け止めて労い ながらも,自身の感情も表出し,上手く相手に届ける 事であった。 しかし,子どもの誕生によって置かれた困難な状況 において,時には膨れ上がった感情に任せて,ありの ままを相手にぶつける状況もあった。その際,受け手 は上手く受け流す事で,自身の感情との調整を図って いた。全てを受け止める事のみが上手なキャッチ ボールという訳ではなく,受け止めきれない時には, 相手に不快感を与えないような受け流しを行い,自身 の感情をコントロールしていた。これは,単なる「ス ルー」とは異なり,一旦相手の感情を受け止め,共感 を表現しつつも,受け止めきれない部分のみをかわし て行くような,調整されたやり取りであった。 妻 B:“聞いてくれる安心感って言うんですかね。 結構色々きつい事も言ったと思います。でもどっし り構えててくれて,それが救いでしたね。” 妻 A:“「大丈夫,大丈夫」って言われて,最初は (この状況の)何が大丈夫なんだーって,ヘラヘラ する旦那にすごい腹が立ちましたね。さすがにその 時はカーッとなって「もう帰って」って。あの時は イライラしました。けど,そんなのいちいちずっと 気にしてられないので。” 夫H:“自分も結構心が乱れてて。1番傷ついてるの は向こう(妻)だろうから受け止めなきゃいけない ん だ ろ う け ど。 ま あ, 出 来 な い 時 も あ っ て。 ギャーって興奮してるところに,自分もギャーって なると煽っちゃうから。(感情を)逆撫でしたり, ね。だからこう,ね,「分かった,よしよし」って。 ふわーっとかわす感じ。 【テーマ 2:「普通の子じゃない」という事への捉わ れからの脱却】 夫婦の語りの中で,「普通の子じゃない」「うちは特 別だ」という言葉が度々聞かれた。夫婦が思い描き, それが当然の事として自分たちにも訪れると思ってい たもの,それは,異常なく経過する妊娠,我が子の誕 生であった。子どもが未熟な状態で早産に至った事実 は,そう簡単に受け入れられるものではなく,「普通 の子じゃない」という捉われが,夫婦を孤立させ,現 実を受け入れる妨げとなっていた。目の前の我が子を 自分たちの子として認知し,ありのままに状況を受容 出来るようになるためには,「普通の子じゃない」とい う事への捉われから脱却する事が求められた。「この 子はこの子」という事を語る夫婦は,子どもを無二の 存在として受け入れ,困難な状況も「この子がもたら してくれたもの」として捉えていた。 妻 H:“この子しかいないから,私達の子は。だか らこの子はこの子でいいのかなーって。最初はそう は思えなかったんですけどね。でも,私だって私だ し。そういえば主人が昔,私に同じことを言ってく れたなーって。” 妻A:“神様,なんでうちだけ特別なのーって。(中 略)でもねー,不思議とうちの子が1番可愛いんで

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すよ。小さい姿が愛おしくて。” 2)《様相2:非日常と日常が融合するとき》 子どもが生まれる前まで慣習化されていた当然の日 常の中で,夫婦は突然の子どもの誕生によって,これ までとは全く異なる状況に身を置くこととなり,その 中で非日常的な体験をしていた。 しかし,仕事など,守らなければならないこれまで の日常もあり,非日常を,従来あった日常に上手く取 り込みながら擦り合わせ,少しずつ新しい日常へと融 合していく様相が語られた。 夫 E:“異様な時間と空間でした。最初はね。違う 世界に来たみたいな。見る物も聞くことも全部が異 様で。妻と僕だけが違う世界に飛び込んだ感じ。 で,病院から一歩出ると,ふぁーっと戻るんです。 あっ,仕事行かなきゃーって。” 夫 A:“ちょっとずつ,こう,前みたいになったか なって。正確には,生活自体は前とは全然違うんで すけどね。(中略)人間って状況に慣れてくるんだ なって。仕事も普通に行ってたし。まだ(子ども と)一緒に住んでなかったから,感覚がなんとなく 2人っていうのが強くて。こっちが会いに行くから (そこに子どもが)いる感じかな。” 妻 F:“私だけ先に退院しかたら,家に帰ると,意 外と入院前と変わらない感じでした。でも,それが 逆に変な感じでもあって。(中略)おっぱいが張って 来ると,そっか,現実なんだーって。泣きながら 搾ってましたね。” 《様相2》における家族レジリエンスとして,【テーマ 3:共有する時間を積み重ねる事により育まれる家族 の絆】,【テーマ 4:地域社会との繋がりから得た仲間 との交流】の2つのテーマが導き出された。 【テーマ 3:共有する時間を積み重ねる事により育 まれる家族の絆】 誕生直後は子どもを受け入れる事が難しかった夫婦 も,子どもと共有する時間を積み重ねる事により,少 しずつ子どもに関心が向くようになっていた。「目が あったような気がする」などという,子どもとの相互 作用により得られる喜びは,夫婦が子どもを受け入れ る糧となっていた。また,子どもとの触れ合いや成長 を通して,共通の喜びが生まれると,そこから家族と しての新たな目標や希望が生まれ,それを繰り返しな がら更に絆が深まっていた。誕生当初は「この子が (このような状態で)生まれたせいで」と否定的な感情 を抱く夫婦もいたが,時間を共有しながら共に歩む中 で,「この子が生まれてきてくれたから」と,子どもの 誕生に意味を見出し,守ってあげたい存在へと変化し ていた。 また,不安定な児の状態に合わせた育児技術の獲得 は,初めての子どもを迎える夫婦にとっては決して容 易な事ではなく,時に葛藤が生じる事もあった。しか し,その葛藤を共有する事もまた,親としての協働を 生み,絆を深める要因となっていた。 夫 A:“あのー,それまで服を着た ○○(ちゃん) を見たことがなかったんですよ。で,いつか着せた いねーって,一緒に可愛い洋服を買いに行って。そ したら服を着た○○(ちゃん)を見る事が目標みた いになって。で,それが叶った時,本当に嬉しく て。この喜びは他じゃ味わえないねって。” 妻 F:“正直,あの子が生まれてから,めっちゃ喧 嘩が増えました。なんで?なんで?って思う事 ばっかりで。でも⋯。うーん,なんて言うのかな。 不思議なんですけど,反対にあの子がおるから,今 でも夫婦でおれるんかなって。喧嘩して,もう顔を 見たくないって思ったとしても,結局あの子の事で 話さんなん事が出て来て。そしたらいつの間にか普 通に戻ってる感じ。あの子のおかげかなって。” 【テーマ 4:地域社会との繋がりから得た仲間との 交流】 夫婦は,「うちは特別だ」という思いや否定的な感情 より,家族内で抱えている問題やそれぞれの思いを開 放することができないまま,孤独を強いられていた。 閉ざされた状況をオープンにする事が出来るように なった時,地域社会との繋がりが生まれ,新たな知見 や必要な資源を得る機会となっていた。特に同じ境遇 下にあり,思いを共有できる仲間との交流は,共感を 生み,また1つのモデルケースとして現実的な将来を 見通す一助となっていた。 妻 A:“同じ境遇の人がいて。ちょっと目標ってい うか。自分たちもあれくらいの大きさになったら, あんな風に退院出来るのかなって。” 妻E:“NICUって,他の子やご両親と関わったらダ メみたいな雰囲気が出てて。他の子は見ちゃダメみ たいな。余計に孤独でしたね。ある日,向こうから 声をかけてもらったんです。それから,「そうそう, うちもー」っていう話が出来て。なんかそれまで は,うちが1番不幸だーくらいに思ってたから,い やいや,そうじゃないってようやく思えて。”

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3)《様相3:この子に応じて我が家のライフスタイル を立て直すとき》 退院の見通しが立ち,家族の生活が子どもを含めた 新しいものへと変化するにあたり,夫婦はこれまで 培ってきた生活スタイルを見直し,子どもに合わせた 新たな生活を「我が家」のオリジナルとして柔軟に調 整することが求められていた。しかし,初めての育児 という事に加え,退院する子どもの中には在宅酸素な どの医療処置が必要なケースもあり,困難感や不安よ り,期待される親役割への負担感が増強し,葛藤が生 じる夫婦も見られた。夫は「自分は仕事もしているの に」,妻は「なぜ自分ばかりが」と言った感情が膨ら み,自分のみが子どもとの生活に犠牲を払っているよ うな思いに駆られるケースもあった。このような場 合,上手く対処出来ないままそれが長期に及ぶと,関 係性に摩擦が生じていた。 このように,子どもの誕生後の困難な状況や,その 後の育児は,夫婦のみで解決できない新たな問題を生 むこともあった。しかしその反面で,祖父母など,夫 婦を取り巻く他の家族との結び付きを深めるきっかけ ともなっており,家族全体の関係性の変化が見られ た。 妻 A:“退院の練習みたいな日が何回かあったんで すけど。その時,仕事で疲れてるのは分かるんです けど,夜,隣でグーグー寝てて。こっちは酸素が下 がったらどうしようとか,授乳とかで気が張って全 然寝れないのに。「お前は,日中寝ればいい」って, 簡単に言うんですよ。” 夫 A:“さあ,これからどうしようかって話になっ て。感染とかもあるでしょ。(中略)妻は掃除が苦手 でして。(中略)「私にそれは求めるな」って先に言 われちゃってね。えー,じゃあ僕?って感じで。で も仕事もあるじゃないですか。” 妻D:“自分の母親とは仲が悪かったんです。でも, こんな状況で,助けも必要になって。そこから ちょっと近くなったっていうか。向こうのご両親と も。みんなでやらないと,太刀打ち出来ない状況で した。” 《様相3》における家族レジリエンスとして,【テーマ 5:子どもを優先する生活との折り合い】,【テーマ6: 親としてのアイデンティティの擦り合わせ】の2 つの テーマが導き出された。 【テーマ5:子どもを優先する生活との折り合い】 夫婦は目の前にいる我が子を,自分の子として受け 入れ,この子の親としてこれから生きていく覚悟をし ながら,子どもに応じた生活に向けた役割調整を 行っていた。新たな役割の見直しを行う際,夫婦それ ぞれが納得と相手への感謝を持って臨むことが出来る 時,再構築は良好に進んでいた。しかし,これまで 培ってきた生活を,子どもを含めたものに変化させて いくためには,自分の事よりも優先しなければならな い事も多く,その中で「なぜ自分だけが大変な思いを しなければならないのか」という負担感と,相手への 批判の思いが積み重なった場合,夫婦の関係性に摩擦 が生じていた。上手く対処し前に進むためには,その 役割分担が妥当かどうかに捉われるのではなく,互い に相手の状況を思い合い,折り合いをつける事が重要 であった。また,取り決めた役割の持続が困難に なった時は,コミュニケーションを図りながら再度役 割の見直しを行う事で,より持続性を高めていった。 妻 C:“損得勘定は捨てました。だって自分の子や し。あっち(夫)が出来ないんだったら,自分がす ればいいだけなんです。それでみんなが,笑って, 状況がよくなるんだったら,それでいいんです。” 夫 D:“そりゃ,大変ですよ。だって自分の時間な んて全然ないですもん。まあ,でも妻はそれ以上に 大変なんかなって。子どもがいるってそういう事で すよね。(中略)感謝してるし,それを伝えるように もしてます。” 【テーマ 6:親としてのアイデンティティの擦り合 わせ】 この子の親としてどうありたいか,どのような家庭 にしたいかについて,それぞれが持つアイデンティ ティを互いに擦り合わせる様子が語られた。これは親 としての自分,親としての相手を見つめる機会とな り,親役割獲得に向けた前向きな協働であった。 しかし,夫婦は時に相手と自分の価値観のずれに悩 む様子を見せていた。その際は,異なる価値観を互い に認め合い,それを踏まえて「私たち」の親像をイ メージしていた。また,それぞれが持つ親像には,何 らかのモデルが存在する事が多く,それは自分自身の 親である場合が多かった。このように,夫婦は子ども を持つことで,自分たちの親を見つめ直す機会とも なっていた。 夫 B: “自 分 の 親 を 見 て て, 父 親 っ て こ ん な 感 じー,みたいなのがあって。母親に対してもなんか イ メ ー ジ が あ っ て。 そ れ が(妻 と)似 て い る なーって。実際産まれてみて,(子どもを)抱っこし

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てる(妻の)姿を見て,あー,これこれ,この顔い いなーって。” 妻G:“母親だったら子どもが1番だろーって言われ たけど,私は自分も大事にしないと,子どもも大事 には出来ないなって思ってて。(中略)でも,無理に 押し付けてもしょうがないし,それはそれで,ま あ,この人の考え方なんかなって。”

Ⅳ.考   察

1.家族の再構築に向けた歩み 本研究において,超・極低出生体重児が誕生した家 族は,子どもが退院するまでの間に,3つの様相の変 化を辿りながら歩みを進めている事が明らかとなっ た。Heidegger は,現存在の存在意味について時間性 を掲げており(渡邊,2012,p.231-232),過去(既存 性)とは過ぎ去り消えゆくものではなく,社会の伝統 や,自身の経歴として現存在の今現在を形取るとして いる(Leonard, V. W., 2012, p.51)。参加者の物語の中 にも時間性があり,生きられた経験として積み重ねを 見せていた。これらの経験は,家族の再構築に向かう 基盤として層を成しており,今後もなお,家族システ ムに影響し続けるものと考える。 家族の障害受容過程には,心理過程を適応に向けて 段階的に捉えるもの,絶え間なく悲しみが存在すると いう慢性的悲嘆説,適応と落胆の両側面を合わせ持つ 螺旋形モデルなどが提唱されている。(桑田,神尾: 2004)。本研究では,家族は子どもの状態によって一 進一退を繰り返しながら揺れ動く様子が特徴的に示さ れており,螺旋形モデルと類似した構造が示されたの ではないかと考える。 2.家族レジリエンスの特徴と看護支援への示唆 本研究において集約された6つの家族レジリエンス は,3つの様相の変化に応じて発揮されていた。 《突然の衝撃に混乱し揺さぶられるとき》では,家 族成員それぞれが,「なぜこんな事が起こったのか」と 過去に捉われ,後悔としての結びつけが解けずにいる ことで,混乱を招いていた。橋本(2011)は,周産期 において「子どもが生まれ育つこと」,「親が親として 生まれ育つこと」,「親子の関係性が生まれ育つこと」 は,関係の内側から湧き出てくる自然のプロセスであ ると述べているが(p.30),その一方で,子どもが NICUに入院するような思わぬ事態が起こった時,そ の自然のプロセスは凍結したように動かなくなる事を 示している。(p.31)。この時期は家族成員それぞれが, まずは自分自身の均衡を保つためのレジリエンスが不 可欠であった。突然の危機的な状況に揺れ動き,膨れ 上がる感情は,夫婦という信頼する相手がいるからこ そ表出が可能となり,【感情のキャッチボール】を繰り 返す中で自身の感情を整理し,相互理解を深める力と なっていた。Walsh(2003)は家族レジリエンスの主要 な要素として,「コミュニケーションと問題解決」を挙 げており,「オープンな情動表出(感情の共有)」が備 わっている事が重要であると述べている(p.12-13)。 しかし本研究において,ありのままに感情を表出する 事は,時に相手に不快感を与え,関係性の摩擦が生じ るリスクもあることから,適度な距離感を保ち,上手 に受け流すなど,調整された感情のやり取りも必要で あることが示された。これは相互に良好な関係性を保 つためのコミュニケーションの側面として,新たな知 見となるのではないかと考える。 また,早期の段階では現実の受容が困難な夫婦が多 く,見通しが立たない不安から子どもの存在をも揺る がされるようなケースもあった。早産により子どもが NICUに入院するという事は,思い描いていた誕生と は全く異なるものであり,この妊娠中のイメージとの 相違により,喪失体験をすると言われている(Kaplan, D. M., Mason, E. A., 1960)。この喪失体験によっても たらされた不安,敵意,罪責感などの情緒は,自尊心 を低下させ,母親役割の実現を困難にすると言われて おり(新道,和田,2015,p.57),本研究においても, 面会拒否など愛着形成に影響を及ぼしていた。このよ うな中で【「普通の子じゃない」という事への捉われか らの脱却】をし,我が子としてありのままを受け入れ ている夫婦は,障害受容として定義されているWright (1960)や上田(1980)の「価値転換論」と同様の作用が 働いており,子どもの誕生に意味と価値を見出し,積 極的に関わろうとする姿を見せていた。これは夫婦そ れぞれが持つ個人特性や理解度といった内的要因,そ して社会通念など様々な環境要因に加え,医療者の関 わりにも影響されているのではないかと考えられる。 藤野ら(2006)や垣口ら(2014)は,子どもへの否定的 感情からの脱出契機として,医療従事者の誠実な態度 や子どもの様子を話すことなどをあげており,医療者 自身の価値観や言動などもレジリエンスに影響を与え るのではないかと考える。 《非日常と日常が融合するとき》では,子どもの入

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院によってもたらされた非日常的な状況を,これまで の日常に上手く取り込んでいく力が求められた。非日 常が日常へと融合していくためには,家族機能を柔軟 に変化させていく事が重要であり,この変化の過程に おいて,家族の結束と協力は不可欠であった。また, それらを促進する要因として相互の情緒的な結びつき が重要であり,【子どもと共有する時間の積み重ね】の 中で子どもを介した繋がりは,新たな絆として家族を 支える力となっていた。訪れた困難な状況により,時 に夫婦の関係性に摩擦が生じることもあったが,その 反面で困難な状況だからこそ生まれる協働もあり,嬉 しい時間も困難な時間も,それを共に積み重ね,紡い で行くことで,より深い絆を形成していた。いかに自 然な形で家族が子どもと過ごせる時間を提供するかに ついては,これまでも新生児医療の課題として挙げら れており(藤本,城島,宮谷他,1999;原田,2001; 藤野,中山,2011),NICU の構造上の問題や面会時 間などについての検討がなされてきた。しかし,本研 究では,参加者のほとんどが,「抱っこさせてもらっ た」などという表現を用いており,いまだ医療主体に なりがちな急性期医療の現状を表していたのではない かと考える。以上より,家族を生活体としての存在と して捉え,環境に配慮する事は,家族レジリエンスの 促進の視点からも今後も重要であるといえる。 また,非日常に置かれている渦中では,家族は孤立 と非現実的な感覚を抱いていた。家族が危機的な状況 を迎えている場合,家族内に起こっている問題を上手 く開放し,【地域社会との繋がり】や他者からの支援を 求める力も重要であった。大山(2015)は,家族レジ リエンスにおいて「家族の結びつき」の重要性を示唆 した一方で,「強すぎるまとまり」についての懸念を述 べている(p.124)。一見良好に見える家族関係であっ ても,他者との交流を遮断している可能性もあり,社 会性という視点でのアセスメントの重要性という点 で,今後の看護に寄与できるのではないかと考える。 《この子に応じたライフスタイルを立て直すとき》 では,子どもの退院という新たな局面に対応するため の家族レジリエンスが必要であった。本研究結果で は,子どもの入院期間が最長で22週間となっており, 家族は退院を喜ぶ半面で,ようやく平常化した生活が 再度一変する事に不安を示すアンビバレントな心情を 表現していた。大久保(1996)は,「親になること」と は,「子どもの存在に応じて生きること」であると述べ ており(p.85),そこには子どもの生命や,子どもが育 つことに対する「責任」を担っている事を示している。 本研究においても同様に,子どもに応じた生活へと変 化させていく事が求められており,【子どもを優先す る生活との折り合い】をつけるための役割調整を行う 力が必要であった。持続した可塑性を追求するために は,主体性を伴うことが重要であり,相手への感謝と 思いやりの気持ちが相互の折り合いに影響していたの ではないかと考える。また本研究結果では,この時期 の夫婦は子どもの健康管理を含めた育児に不安を抱い ており,「やれそうだ」という自己効力感を高める関わ りが家族レジリエンスの促進に重要なのではないかと 考えられる。 以上,それぞれの様相の変化における家族レジリエ ンスについて述べてきたが,それは必ずしも一定のも のではなく,様々な因子が複合的に絡み合って発揮さ れていた。重要なのは揺れ動く家族の今をアセスメン トし,必要な時期に必要なレジリエンスを発揮できる よう支援する事である。 3.本研究の限界と課題 本研究では参加者に対する倫理的配慮より,子ども の状態が落ち着き,退院した夫婦に後ろ向き調査を実 施している。落ち着いた現状から当時を振り返り,想 起した語りを研究データとしているため,実際の渦中 にいた時の鮮明な思いとの隔たりが生じている事は否 定できないと考える。 また本研究結果は,研究方法の特徴上,研究者の データ収集・分析能力が結果に影響を与えている事も 考えられる。全く異なる夫婦の経験を,研究者と数名 のスーパーバイザーの解釈の及ぶ範囲で浮かび上がら せたテーマであり,今後はさらに確証性を高める努力 が必要であると考える。 また,今回夫婦のみを対象としたことや,研究参加 者全員が核家族であった事より,他の家族メンバーに おける現象についての解釈の限界が生じている可能性 がある。そのため,今後も更なる家族メンバーも含め た幅広い研究の継続と,データの積み重ねが必要であ ると考える。

Ⅴ.結   論

本研究で導き出された 6 つの家族レジリエンスは, 夫婦の相互作用を円滑にし,子どもを含めた家族の再 構築に向けて歩みを進める上での必要な力として示唆

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された。またそれは,共有した時間の中で生じる相互 作用や,子どもがもたらす喜びの体験を通して促進さ れていた。看護者は,対話や関わりを通して夫婦の持 つ力に着目し,親になるという自然のプロセスにおい て発揮・促進できるよう支援する事が重要である。 謝 辞 研究への協力をご快諾いただきご支援下さいました 協力施設のスタッフの皆様,また貴重なお時間をかけ てインタビューにご協力いただきました研究参加者の 皆様に心より感謝申し上げます。 本研究は 2017 年度金沢大学大学院医薬保健学総合 研究科博士前期課程の学位論文に加筆修正を加えたも のである。 利益相反 本研究に関する利益相反はありません。 文 献 浅井宏美,森明子(2015).NICUの看護師が認識する家族 中心のケア(Family-Centered Care)の利点および促 進・阻害要因.日本看護科学学会誌,35,155-165. Benner, P.(1994)/ 相 良 ロ ー ゼ マ イ ヤ ー み は る 監 訳 (2012).ベナー解釈学的現象学健康と病気における 身体性・ケアリング・倫理.pp.93-118,東京都:医 歯薬出版.

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