要旨 この論文は,東京都立産業技術高等専門学校(以下,本校と略す)において,2010 年度から実施してい る『医療福祉経済学』の授業内容を概観したものである。この科目は,本校の医療福祉工学コースの 5 年生 を対象に,一般教養系の教員ながら専門工学科目を担当する選択科目として設置された。今回の論文では, 設置の経緯や,社会保障や福祉制度の入門的な教育単元をどのように配列したか,どのような教材を準備し たかを説明し,教育単元の成功した部分や反省点を紹介する。 キーワード:高等専門学校,医療福祉工学コース,社会保障入門,福祉制度入門,授業計画
Ⅰ.開講の経緯
本論文では,東京都立産業技術高等専門学校荒川 キャンパスで 2010(平成 22)年度から開講した『医療 福祉経済学』の授業内容を紹介する(以後,授業とし, 名称を略す場合がある)。開講の経緯と授業の概要, 各回の授業の内容を詳しく説明し,授業で取り上げた 用語や統計データ,人物名などを分析した後,評価方 法,授業の反省点などを記述する。学術的な内容では なく,授業実践の報告である。 まず,開講の経緯であるが,2004 年度,独立行政 法人国立高等専門学校機構の発足という外部環境の中, 大学評価・学位授与機構による試行的認証評価を本校 が受け,12 月には東京都教育委員会と都立 2 高専1)に よる「高専改革検討委員会報告書」が公表された。そ の報告書の中には都立 2 高専の再編・統合と,専攻科 の設置,新高専のものづくり工学科には医療福祉工学 コースの設置が記載された2)(参考文献[1]p.13)。 報告書を受け,2005 年度には新高専の設立準備会 が設置され,教員の業績表を提出,文部科学省に申請, 7 月に認可された。各教員の就任承諾書3)を東京都教 育委員会に提出し,2006 年度から東京都立産業技術 高等専門学校が発足した。筆者は,ものづくり工学科 専任教員として政治経済などの一般教養科目と,専門 工学科目の医療福祉経済学等を担当することになった。 医療福祉経済学については,医療・福祉機器の開発 等に貢献する実践的技術者を育てるため,医療福祉工 学コースの一部分に,経済系の制度的な授業を設置す ることを,企画立案者は準備を進めていた。専門科目 と一般科目の境界線上の科目となるので,5 年選択 1 単位で,教育課程表では,専門科目の一番端に記載す ることを計画した4)。科目名の候補としては,保健医 療経済学,保健医療福祉システム論,保健医療統計学, 医療経済論などがあったが筆者の担当は困難で,一方, 福祉経済学,社会保障論,社会福祉論などは教育課程 表の一般科目に記載すべき科目であり,名称決定は難 しかった。最終的にはコース名をとって医療福祉経済 学と決まり,講義概要は,「社会科学分野から見た, 現代社会における医療制度や社会保障制度について, 基礎的な知識の習得と,医療福祉工学系技術者として の福祉国家に対する思考方法を養う。国内外の社会保 障制度の歴史と,医療保険や年金保険などの社会保険 制度,社会福祉,公衆衛生等を学習するとともに,福 祉機械や医療機器を生産する産業と,各制度との関係 について理解し,公益事業的な側面を考えることによ り,経済学的に見た医療・社会保障システムを分析す る」となった。医療福祉工学コースの学生が学ぶ医高等専門学校で実施した
社会保障の入門的な授業
The Journal of Economic Education No.36, September, 2017Introductory Lectures on Social Security in our Technical College
TANAKA, Jun
療・福祉・経済制度論的なものとなったことで,筆者 の担当が実現した。
Ⅱ.教育計画の編成
筆者は 2004 年度に旧航空高専の電子工学科から授 業についての打診を受け,カリキュラムの検討を開始, 2005 年度に概要を提出,2010 年度に開講という日程 になったが,時間的余裕がある割には,シラバス編成 には苦労した。当時,他の高専の類似する科目を見つ けられず,また,大学での科目は学部によって内容も 異なり,高専生に向きそうな基礎的な内容の事例を見 つけられなかったからである。特にシラバスについて は,本校が設置された 2006 年度には内容を示せず, 各週の授業計画を除く,以下のような概要のみを決定 し,教材準備の必要な各週の授業は 2009 年度に決定 した。教科書は使用せず,プリントを使用,書籍は参 考書(参考文献[2])として示すことにした。 【授業の概要】 科目名:医療福祉経済学 単位:後期 1 単位,医療福祉工学コース専門・選 択科目,1 回 90 分(開講当初は 100 分)× 15 週 学年:第 5 学年(高専なので 20 歳相当),コース 定員 40 名の中から選択する。1 名でも開講。 講義概要:社会科学分野から見た,現代社会にお ける社会保障・社会福祉制度について, 基礎的な知識の習得と,医療福祉工学 系技術者としての福祉国家に対する思 考方法を養う。少子化の問題,世界の 社会保障制度の歴史と日本の社会保障 制度の歴史,医療保険や年金保険など の社会保険制度,社会福祉制度,公的 扶助等を学習するとともに,経済社会 の医療・社会保障システムを考える。 評価方法:期末試験と数回の課題の累積点から, 欠席や遅刻,課題の取り組み状況を平 常点として増減して評価する。配分は, 試験:課題= 1:2 である。 授業形式:座学形式(実験・実習系科目ではな い) 2008 年度になると,参考文献[3]~[8]を中心に 教材研究を始め,プリントを作成した。プリントの編 成を検討していき,各週の授業内容を順次確定,課題 用紙などを決めていった。開講した 2010 年度は完全 に完成できず,年度中にプリントの修正・加筆を進め, 2011 年度,各週の授業計画は表 1 の通りとなった。Ⅲ.各回の授業内容
各回の授業内容は以下のとおりである。 第 1 回:ガイダンス 前半は,受講生の確認や講師紹介,成績評価の説明, シラバスの説明などのガイダンスを行った。後半は, 社会保障制度の簡単な紹介,バリアフリー社会につい ての演習を行った。演習では,バリアフリーの図や, 高齢者や障害者に配慮した住宅設備や製品の一覧を見 て,どういった配慮がなされているかをワークシート に記入させた。ユニバーサルデザインに基づく製品を 紹介したプリントを用意したのは,本校の学生がもの づくり工学科だからである。学生の様子は,真面目に よく聞いていたが,事前の質問で意外にも製品を挙げ られない学生が多かった。 第 2 回:社会保障制度の概観 前回の復習として,社会保障制度の 4 分野(社会保 険・公的扶助・社会福祉・公衆衛生)についての簡単 な説明をした。次にサービスの種類を,福祉的サービ ス・医療的サービス・金銭給付の 3 つに分け,社会保 険や社会福祉がどのサービスを実施しているかを講義 した(参考文献[3]pp.1-11)。演習としては,学生が 3 年生で習った必修科目『政治経済』の「高齢社会と 少子化」の穴埋めワークを実施し,2 つの図表を学習 した。図表は「日本の将来推計人口5)」と「人口ピラ ミッド6)」である。さらに,【課題Ⅰ】7)を宿題として 出した。学生の様子は,将来の人口ピラミッドの形状 に驚いていたことと,介護保険導入の意味などを理解 したようだ。 第 3 回:グラフで見る高齢社会Ⅰ 第 3 回,第 4 回はグラフの読み取り演習で,【課題 Ⅱ】8)を授業中の個人ワークにより完成させる作業を した。このグラフを読み取る作業により,後の少子化 を考える作文の参考資料になった。読み取るグラフは, 世界の人口,日本の人口,出生率,出生数と死亡数, 平均初婚年齢(厚生労働省),未婚率(国勢調査),希 望する子どもの数,家事時間(参考文献[11])など である。学生の様子は,日本の人口が 500 年ほどで著 しく減ることや(参考文献[10]),あまりにも少ない 夫の家事時間に驚きながら,読み取って分かったことを書く作業がつらいと言っていた。 第 4 回:グラフで見る高齢社会Ⅱ 前回に続く【課題Ⅱ】の演習で,高齢化率,東京と 地方の高齢者比率の比較(国立社会保障・人口問題研 究所),一人暮らし世帯数(厚生労働省),65 歳以上 の割合の各国比較(国勢調査),55 歳から 65 歳の就業 率(経済協力開発機構),老後の生活が心配などのア ンケート(金融広報中央委員会)のグラフ9)を読み取 り,分かったことを書かせた。 第 5 回:社会保障の歴史Ⅰ 第5回から第11回までは単調な講義となった。まず, 個人ワークとして,社会保障制度の年表を読み取って, 主要な法律の成立を書き込ませた。次に,エリザベス 救貧法などの初期の社会福祉の歴史,慈善組織協会, セツルメント運動を説明した。学生の様子としては, 真面目に聞く学生と寝てしまう学生など様々であった。 第 6 回:社会保障の歴史Ⅱ ヨーロッパ,アメリカの 社会保障 第 6 回は世界の社会保障の歴史で,ベバリッジ報告 を始めイギリス,ドイツ,北欧の社会保障の歴史と, アメリカの社会保障の歴史を説明した。学生の作業と してはプリントを見ながらの例題演習(一問一答式) があった。学生の様子は,今までまったく知らなかっ た内容・分野で,例題はプリントを見ながら出来るが, 用語を覚えることに難しさを感じていた。 中間試験は実施しなかったので,中間試験に代わる 【課題Ⅲ】10)を宿題とした。課題Ⅲは各種統計データ を調べることと,少子化を食い止める方法を考える記 述式問題である。 第 7 回:社会保障の歴史Ⅲ 日本の社会保障の歴史 第 7 回は,日本の社会保障の始まり,方面委員制度, 第二次世界大戦前後の社会保障の歴史を学び,例題演 習を行った。人物と用語が多いので学生の学習は大変 だっただろう。 第 8 回:社会保障の歴史Ⅳ 日本の社会保障の歴史 前回の続きの内容と,高度経済成長期の社会保障, その後の制度の移り変わり,社会保障制度の問題点を 例題で演習した。例題では 3 年次科目の『政治経済』 の教科書を復習した。制度の説明が続き,学生にはつ らいところである。表 2 の第 8 回には習った用語が示 されているが,詳しく説明しているわけではなく,そ のような名称の法律があるといった学習である。 第 9 回:社会保障の行政 9 回は社会保障に関する行政と,福祉事務所等の設 置,福祉関連資格について学ぶ教育単元で,学生には 特に理学療法士などの資格を持つ人が,どのような場 表 1 各週の授業計画 2011 年度 回 授業内容 使用する教材・参考文献 1 ガイダンス プリント,図,参考文献[4],[5] 2 社会保障制度の概観 プリント,課題Ⅰ,参考文献[3]pp.1-11,参考文献[7]pp.174-175 3 グラフで見る高齢社会Ⅰ プリント,グラフ多数,課題Ⅱ , 参考文献[9]などの新聞記事のグラフ ,[10] 4 グラフで見る高齢社会Ⅱ プリント,グラフ多数,課題Ⅱ , 参考文献[9]などの新聞記事のグラフ 5 社会保障の歴史Ⅰ プリント,参考文献[4],[12],[13] 6 社会保障の歴史Ⅱ ヨーロッパ, アメリカの社会保障 プリント,参考文献[4],[12],[13] 7 社会保障の歴史Ⅲ 日本の社会保 障の歴史 プリント,参考文献[4],[12],[13] 中間試験 課題Ⅲに代える 8 社会保障の歴史Ⅳ 日本の社会保 障の歴史 プリント,参考文献[4],[5]pp.8-15,[6]pp.146-151,[12],[13] 9 社会保障の行政 プリント , 参考文献[4]pp.152-159,[5]pp.16-19,[13] 10 社会保障の財政 プリント , 参考文献[2],[3],[8]pp.224-235 11 社会保障と経済的機能 プリント , 参考文献[2],[3],[8]pp.224-235,[14] 12 給与明細の中の社会保障費 プリント , 参考文献[2],[3] 13 各保険制度について プリント , 参考文献[2],[3] 14 医療機器業界の産業動向 プリント , 参考文献[15]~[25]や本校の進路データ 期末試験 テスト用紙 15 期末試験の返却とまとめ テスト解答
所で働いているか等を学んだ。医療福祉工学コースの 学生は医療機器メンテナンスなどの職業を目指すので, 授業の興味がわいてよく聞いていた。 第 10 回:社会保障の財政 第 10 ~ 11 回と 2 回にわたり社会保障に関する経済 的な話題を取り上げた。まず,国家財政の歳出と歳入 (一般会計予算)の円グラフを見させて,気づいたこ とを挙げさせた。ここで学生に気づいて欲しかったこ とは,多額の社会保障関係費を特例国債発行でまか なっていることである。次に社会保障関係費に国民 (事業主を含む)の保険料を加えると社会保障給付費 相当になることをグラフで確かめ,国家財政において は,特別会計も見なければ社会保障関係の財政は分か らないことを説明した。さらに,社会保障の財政は, 国から地方に付け替えがなされ,地方財政の「民生 費」や特別会計の名称などを学ばせた。また,グラフ で国民負担率を見て,日本とスウェーデンやアメリカ との比較をした。 第 11 回:社会保障と経済的機能 前回できなかった公債残高の推移をグラフから読み 取らせ,国民が将来負担する借金を確認した。次に, マスグレイブの財政の機能として,所得再分配,ビル ト・イン・スタビライザー等を学習し,ローレンツ曲 線とジニ係数をグラフや計算過程を用いて説明した。 学生の様子は,マスグレイブは 3 年次の『政治経済』 で知っていたが,ローレンツ曲線は知らなかったので 興味を示していた。 第 12 回:給与明細の中の社会保障費 この授業は座学中心で,制度論ばかりでは学生が飽 きてくる。そのため,就職した後,給料の明細がどの ような内容となっているか,給与明細書の例を示して 説明した。当初はいくつか項目(健康保険・厚生年 金・雇用保険・所得税など)を空欄にしておき,学生 に金額を記入させたが,約半数の学生が健康保険や厚 生年金の保険料を大きく逸脱するような金額を回答し た。介護保険料の徴収が 40 歳から始まることも数人 しか正答できなかった。学生にとって社会人としての 経験が無いので,このような給料の構造はまったく知 らなかったと言える。学生の感想は,「手取りが意外 に少ない」「住民税が翌年の 6 月からかかることを知 らなかった」「残業代の影響が大きい」「様々な控除が あることがわかった」「アルバイトからでは分からな かった」などであるが,「思っていたより支給額(手 取り)が高い」という感想もあった。授業の後半は健 康保険の説明で,健康保険組合の制度や給付の制度に ついて解説した。 第 13 回:各保険制度について 前回の医療保険に続き,年金保険,介護保険,雇用 保険,労災,生活保護,社会福祉についての各制度の 概略を簡単に説明した。この部分は,高度な内容の学 習は必要ないので,本校の卒業生が社会人として働き 始めたとき,知っておいて欲しい内容を,用語を中心 に学習させた。ここでも,学生は年金の 4 階建て構造 や,雇用保険の給付,労災の通勤災害など,知らない ことばかりで覚えきれないと言っていた。 第 14 回:医療機器業界の産業動向 日本の医療機器業界は意外なほど小さく,2008 年 度で輸入を含めて 2 兆 7831 億円程度である11)。しか しながら,画像診断システムに強く,X 線撮影装置や 超音波診断装置,内視鏡など高い製品技術を持ってい る。本校の学生の就職先として,複数の医療機器メー カーがあり,設計・開発やメンテナンス業務に就いて いる。そのため,この授業の特徴の 1 つとして,他の 授業からはなかなか学べない,医療機器メーカーの紹 介を行った。参考文献[15]~[23]のデータを始め, 『会社四季報』『就職四季報』などから選抜した約 90 社を各社数行の解説入りの一覧にして配付した。学生 の興味・関心はすごく高かったが,5 年生の卒業直前 にこの授業内容を聞いても,すでに就職が決まってい るので遅く,もっと早く聴きたかったと意見が出たた め,最近の授業では,この回では実施していない。 第 15 回:期末試験の返却とまとめ 第 14 回の授業の後,期末試験を実施,本校では試 験期間後,1 週間,答案を返却し,解答や点数を確認 して学生に周知させる授業期間が存在する。学生の全 答案と課題は,スキャナーで PDF 化するか,コピー をとって保存しなければならない。さらに評価の計算 根拠を示す素点表も本校に提出した。
Ⅳ.授業で用いた用語や人物
本稿Ⅲでは各回の授業の概要を紹介したが,表 2 に は,学習させた主な用語と人物をまとめた。Ⅴ.受講の状況と成績評価
Ⅴ- 1.受講の状況 2010 年度から開講した『医療福祉経済学』の受講 生の推移を表したものが,表 3 である。2010 年度だけ表 2 授業で習った用語や人物 回 この回の授業で習った主な用語や人物 1 【ガイダンス】 【主な用語】社会保障の 4 分野,社会保険,公的扶助,社会福祉,公衆衛生。社会保険の 5 分野,医療保険,年金保険, 雇用保険,労災保険,介護保険。バリアフリー社会,高齢者や障害者に配慮した住宅設備や製品。【人物】なし。 2 【社会保障制度の概観】【主な用語】社会保障の 4 分野,介護保険,社会的入院12),高齢社会,積み立て方式,賦課方 式,合計特殊出生率,人口ピラミッド。【人物】なし。 3 【グラフで見る高齢社会Ⅰ】 【主な用語】世界人口,発展途上国,日本人口,出生率,平均初婚年齢,未婚率,希望する子どもの数,家事時間。 【人物】なし。 4 【グラフで見る高齢社会Ⅱ】 【主な用語】高齢化率,一人暮らし世帯数,高齢化の各国比較,55 歳から 65 歳の就業率。【人物】なし。 5 【社会保障の歴史Ⅰ】 【主な用語】エリザベス救貧法,劣等処遇の原則,COS(慈善組織協会)運動,ケースワーク,YMCA(キリスト教青 年会),社会調査,セツルメント運動,トインビー・ホール,キングスレー館。 【人物】ヴァンサン・ド・ポール,エリザベス女王,トーマス・チャルマーズ,ジョージ・ウイリアムズ,ブース, ラウントリー,デニソン,サミュエル・バーネット,ジェーン・アダムス,片山潜。 6 【社会保障の歴史Ⅱ ヨーロッパ,アメリカの社会保障】 【主な用語】ベバリッジ報告,ナショナル・ミニマム,NHS(国民保健サービス),シーボーム報告,ノーマライゼー ション,高福祉・高負担,ケースワークの母,社会保障法(アメリカ),メディケア(高齢者医療),メディケイド (低取得者医療),自立生活センター。 【人物】ウィリアム・ベバリッジ,フレデリック・シーボーム,リチャード・ティトマス,サッチャー,ビスマルク, バンク・ミケルセン,ニィリエ,メアリー・リッチモンド,ローズヴェルト,エド・ロバーツ。 7 【社会保障の歴史Ⅲ 日本の社会保障の歴史】 【主な用語】恤救規則(じゅっきゅうきそく),四箇院(しかいん),岡山孤児院,孤女学院,北海道家庭学校,二葉 幼稚園,整肢療護園,消費生活協同組合,済世顧問制度,方面委員,救護法,健康保険法など各法律。 【人物】光明皇后,渋沢栄一,石井十次,石井亮一,留岡幸助,野口幽香,岩田民次郎,高木憲次,糸賀一雄,賀川 豊彦,笠井信一,林市蔵,小河滋次郎。 中間試験 ※この科目は中間試験を実施しないが,代わりに課題Ⅲを宿題とした。学ぶ内容は,統計データを調べ ることと少子化を考えることである。統計データについては註の 10)に記載した。 8 【社会保障の歴史Ⅳ 日本の社会保障の歴史】 【主な用語】タケノコ生活,国民総飢餓,預金封鎖,生活保護法,児童福祉法,身体障害者福祉法,社会福祉事業法, 知的障害者福祉法,老人福祉法,母子及び寡婦福祉法,高額療養費制度,福祉元年,石油危機,朝日訴訟,ゴールド プラン,介護保険。【人物】なし。 9 【社会保障の行政】 【主な用語】厚生省,労働省,社会・援護局,老健局,社会保険庁,社会保障審議会,福祉事務所,社会福祉主事, 児童相談所,児童福祉司,身体障害者更生相談所,補装具,知的障害者更生相談所,婦人相談所,DV 防止法,社会 福祉士,介護福祉士,ホームヘルパー,ケアマネジャー,理学療法士,作業療法士,義肢装具士,診療放射線技師。 【人物】なし。 10【社会保障の財政】 【主な用語】一般会計,社会保障関係費,国債費,社会保障給付費,社会保障給付費の財源,特別会計,国庫負担, 地方財政,民生費,国民負担率,潜在的な国民負担率。【人物】なし。 11【社会保障と経済的機能】 【主な用語】公債残高,国家のバランスシート,高齢無職世帯の家計収入,社会保険の機能,セーフティネット,所 得再分配機能,経済安定化機能,ビルト・イン・スタビライザー,累進課税,フィスカル・ポリシー,ポリシー・ミ ックス,モラルハザード,ローレンツ曲線,ジニ係数。 【人物】マスグレイブ,マックス・ローレンツ,コッラド・ジニ。 12【給与明細の中の社会保障費】 【主な用語】初任給,可処分所得,基本給,時間外手当,控除,健康保険,介護保険,厚生年金,雇用保険,所得税, 住民税,医療保険,健康保険証,健康保険組合,国民健康保険,後期高齢者医療保険,混合医療,定率負担,高額療 養費制度,診療報酬点数表,薬価基準,レセプト。【人物】なし。 13【各保険制度について】 【主な用語】年金制度の体系,第 1 ~ 3 号被保険者,基礎年金,厚生年金保険,厚生年金基金,確定給付企業年金,確 定拠出年金,給付(老齢年金・障害年金・遺族年金),積立方式,賦課方式,介護保険,要介護認定,ホームヘルプ, デイサービス,ショートスティ,ケアプラン,オンブズマン,雇用保険,ハローワーク,求職者給付,労働者災害補 償保険,通勤災害,生活保護,無差別平等の原理,ミーンズテスト(資力調査),必要即応の原則,申請保護の原則。 社会福祉,子ども手当。【人物】なし。 14【医療機器業界の産業動向】 【主な用語】医療機器産業,GE ヘルスケア,心臓カテーテル,心臓ペースメーカー,整形インプラント,人工透析, 内視鏡,超音波診断装置,X 線撮影装置,MRI(磁気共鳴画像診断装置),生体情報モニタ,各医療機器メーカー(各 企業名はここでは省略)。【人物】なし。 期末試験 15【期末試験の返却とまとめ】 【主な用語】なし。【人物】なし。
受講者数が多いが,これは当時,必修科目と誤解した り,同時間に他の科目が開講されない場合,原則的に 全員が履修すると思われたからである。2011 年度か らは,そのような混乱は無くなり,選択科目として周 知された。受講者数は段々と減少してきており,近年, 不可の者が多く発生してきている。不可になった学生 の原因は,長期欠席や,途中で単位取得をあきらめて 欠席した者であった。5 年次の後期開講科目であるか ら,すでに卒業単位を満たしていると思った学生は期 末試験を欠席した。また,次節で述べる成績評価方法 で,授業時に課される課題をその時にやらないと不可 になる可能性が高くなるからである。 Ⅴ- 2.成績評価方法 成績評価の概要はすでに述べたが,2011 年度より, 具体的には,課題Ⅰ,課題Ⅱ,課題Ⅲ,期末試験,平 常点で評価した。式は,課題Ⅰ(50 点)+課題Ⅱ (50 点)+課題Ⅲ(100 点)+期末試験(100 点)-平 常点= 300 点満点であった。配分は試験:課題= 1:2 である。平常点は減点法で欠席 1 回 3 点,遅刻 1 回 1 点,授業中に行う例題や個人ワークの取り組みの低い 者に1回マイナス10点を計算した。ボーダーラインは 6 割の 180 点以上であった。課題Ⅰは,第 1 ~ 2 回の 授業で習った簡単な用語と,板書の書き取りをやらせ たもので,授業の取り組みとして板書することに力点 をおいたものである。課題Ⅱは,第 3 ~ 4 回の授業で 少子化に関する多数のグラフを読み取り,分かったこ とを書く課題で,グラフの読み方を学習し,次の課題 Ⅲの準備となるものであった。課題Ⅲは中間試験にか わるもので,社会保障を学ぶ時に覚えておいて欲しい 経済統計データを調べてくることと,課題Ⅱの延長で 少子化を食い止める方法を問う記述式問題を課した。 期末試験はプリントの用語を中心に出題した。 ここで,もし課題Ⅰ(50 点)が未提出(0 点)に なった場合は,平常点を含め 70 点ぐらいを失うので, 他の課題と試験をすべて 8 割程度とらないと不可にな る計算となり(例として,上式では 0 + 40 + 80 + 80 - 20 = 180 点),近年,初期の授業の課題Ⅰで単位を 諦める学生が増えた。シラバスや認証評価エビデンス の完全履行という時代の流れもあって不可が増え,受 講生も減少していく効果があった。 Ⅴ- 3.学生の感想 学生の授業全体の感想は 2015 年度に書いてもらっ たので,その要約を以下に示す。 「福祉に関する法律や制度は最近になって作られた と思っていたが,かなり古い時代からあるのが分かっ た」「国の財政を学び危機感を持った」「日本の少子化 の現状を数値としてみることができた」「福祉の成立 から日本の問題点,福祉の財政の分析など役に立つと 思った」「授業はプリント中心に行って,重要な部分 については印がついていたためわかりやすかった」 「正直,単位のために授業を受けたが,先生の解説が テレビよりも分かりやすかった。選挙権を持つので考 えていきたい」などであった。
Ⅵ.おわりに
この授業は正直,筆者にとってチャレンジであった。 医療福祉工学コースの企画段階で依頼があり,医療福 祉工学コースの学生に必要な社会的知識は何かを考え たところ,コースの専門性に関連し,かつ,専門工学 の教員が教えにくい分野で,学生の就職先なども考慮 できる科目として,社会保障の基礎的教養が必要と結 論した。早速,教材研究を始めたが,市販のテキスト だと,専門性が強すぎたり,カバーする範囲が狭かっ たり,特定の部分の強調が強かったりして,コースの 学生に合うテキストはなかった。そこで,自分でプリ ントを作るしかないという結論に達し,様々な情報を 再構成してプリントを完成させた。カリキュラムの構 成については,表 2 の学習した主な用語を見れば分か ると思う。卒業生には医療福祉機器のメンテナンスな どの職業があるので,社会保障の中でも福祉の歴史や 福祉制度に力を入れた。 初学者であるから,統計データの名称や,多数のグ ラフを読み取る演習を行って,理論まではいかないが, 表 3 受講生の推移 開講年度 2010 2011 2012 2013 2014 2015 医療福祉工学コース在籍数 37 38 31 41 41 43 受講者数 36 17 18 15 11 11 単位を修得した者 36 15 17 15 6 7 不可だった者 0 2 1 0 5 4感覚的に現状を把握できる内容とした。そのグラフ群 から類推して,少子化を考える記述式問題も実施した。 データやグラフから類推する過程は,工学の学生には 受けたようで課題の書き込みは良好であった。さらに, 社会保障に関する財政も学習したので,より理解が深 まった。 一方で,問題点も多い。 受講生は初学者,かつ学生の身分であるので,筆者 らの社会人には分かる言葉が,学生には入っていない ということである。「厚生年金」「介護保険」などでも 知らない学生がいて,言葉の定義の説明には時間がか かる。第 5 ~ 9 回の授業は高等学校の福祉科では必須 の内容であるが,受講生は,そのほとんどを知らな かった。そのため,用語の説明を含むプリントで丁寧 に解説しなければならず,授業は退屈で面白味に欠け る。学会発表では学生の調べ学習やグループワークを 増やすことが指摘されたが,その通りと思う反面,基 礎知識に欠ける状態でのグループワークも難しいと 思った。また,卒業直前の科目であり,単位数で追い つめられている学生が受講したり,単位数の余裕のあ る学生は途中で放棄する履修の構造的問題があった。 面白味に欠ける授業という点は,筆者の実力のなさを 感じる。筆者の主担当科目は 3 年次の『政治経済』で あり,社会保障について得意ではない。しかしながら, 本校のような小規模校で一般教養科目を運営していく には,経済学や経営学,キャリアデザインなども一教 員が担当しなければならない(本論文では専門科目も 担当することになった)。学生にとって必要なのは, 教員の狭い専門分野の講義ではなく,社会人として役 立つ一般的な広い教養であるから,学生のためになる カリキュラムの構成が必要となる。一方で教員配置に は小規模校の資源的制約がある。産業技術高専が設置 されてから 5 年が経過し,カリキュラムの見直しが行 われた結果,この授業は 2017 年度末で廃止すること になった。改革により,担当科目の時間数の縮減が行 われ,筆者は医療福祉工学コースの科目を担当できな くなり申し訳なく思っている。廃止が失敗かというと, そうではないと思っている。筆者は今まで手持ちの資 源で,科目を作ってきた(たとえば経営学やインター ンシップ)。その結果,本校の卒業生が,経済学部に 編入学することに加え,経営学部に編入する道ができ, キャリア教育系科目の新設により,就職やインターン シップの進展も見られた。この授業で得られたものは 大きかったので,一般教養科目の拡充の時代が来たら, 社会保障系科目の復活をねらいたいと思う。 註 1) 都立 2 高専とは,東京都立工業高等専門学校と東京都立 航空工業高等専門学校(航空高専)のことで,2 高専の廃 校により,2006 年度に東京都立産業技術高等専門学校と して発足した。 2) 東京都立航空工業高等専門学校には,航空工学科(定員 40 名),機械工学科(定員 80 名),電子工学科(定員 80 名)があったが,東京都立産業技術高等専門学校荒川 キャンパスとなり,ものづくり工学科情報通信工学コー ス(定員 40 名),同ロボット工学コース(定員 40 名), 同航空宇宙工学コース(定員 40 名),同医療福祉工学コー ス(定員 40 名)となった。 3) 筆者はものづくり工学科専任教員となり,本校における 担当科目は経済学,政治経済,経営管理論,人文社会特 別研究,都市教養課題研究,キャリアデザイン,医療福 祉経済学となった。後に校務としてインターンシップを 立ち上げ,専攻科の設置でマクロ経済学の科目が加わっ た。 4) 2015 年 2 月の特例適用認定専攻科の認定では,医療福祉 経済学は,関連科目・工学及び周辺技術等に関する科目 となっている。 5) 国立社会保障・人口問題研究所(著)『日本の将来推計人 口平成 18 年 12 月推計』厚生統計協会,2007 年 5 月発行 , 参考文献[6]p.174 の図。 6) 総務庁長官官房高齢社会対策室(編)『数字で見る高齢社 会 2000』大蔵省印刷局,2000 年 1 月発行 , 参考文献[6] p.175 の図。 7) 課題Ⅰは記述式のワークシートで,板書内容を書くこと, 日本国憲法第 25 条を書く,ワイマール憲法を調べて書く, 社会保障の 4 つの分野を書く,社会保険の 5 つの分野を 書く,扶助・寡婦・扶養・公衆衛生の言葉の意味を調べ る,であった。 8) 課題Ⅱは日本の合計特殊出生率や未婚率,夫の家事時間 など,10 種類のグラフを見て,それぞれ分かることを 4 行で記述するワークシートである。授業で順番にグラフ を紹介し,順に記入させた。 9) 金融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査 [二人以上世帯調査](平成 19 年以降)』https://www.shi-ruporuto.jp/finance/chosa/kyoron_futari/ の 1992 ~ 2008 年の時系列データのグラフを用いた。 10) 課題Ⅲは,半分が統計データ調べで,半分が少子化の作 文である。調べさせた統計データは,65 歳以上の高齢者 人口,高齢化率,75 歳以上の後期高齢者人口,後期高齢 化率,平均寿命,出生数,合計特殊出生率,就業者数, 完全失業者数,完全失業率,名目国内総生産,国民所得, 一般会計予算のうちの社会保障関係費,社会保障給付費, 国民負担率,国民年金保険料,国民年金支給額(月額), 国民医療費,国の借金である。 11) 厚生労働省の「薬事工業生産動態統計調査」に日本の医 療 機 器 生 産 額 と 医 療 機 器 輸 入 額 が あ る。http://www. e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02100104.do,2016 年 9 月 4 日 現在。 12) 介護が必要な高齢者が病院に入院するケースで,医療的 な治療ではない場合を指す。 参考文献 [1]『高専改革検討委員会 報告書』東京都教育委員会,2004 年 12 月,PDF 版,p.13,http://www.kyoiku.metro.tokyo.
jp/buka/gakumu/kousenkaikaku.htm,2016.8.25 現在。 [2] 椋野美智子・田中耕太郎『はじめての社会保障第 7 版補 訂版』有斐閣,2010 年 3 月発行。 [3] 椋野美智子・田中耕太郎『はじめての社会保障第 5 版』 有斐閣,2007 年 3 月発行。 [4] 山崎美貴子・村川浩一(監修・執筆)『社会福祉基礎 新 訂版』(7 実教,福祉 011)実教出版,2007 年 1 月発行。 [5] 山崎泰彦・村川浩一(監修・執筆)『社会福祉制度』(7 実 教, 福 祉 009) 実 教 出 版,2005 年 2 月,pp.8-15, pp.16-19。 [6] 大芝亮・大山玲子・山岡道男・猪瀬武則・栗原久・葦名 次夫・新井明・梶ヶ谷穣・富塚昇・宗方秀和(著)『高等 学校 新政治・経済 第 4 版』(35 清水,政経 002),清 水書院,2006 年 2 月 15 日発行,pp.146-151。 [7] 大芝亮・大山玲子・山岡道男・猪瀬武則・栗原久・葦名 次夫・新井明・梶ヶ谷穣・富塚昇・宗方秀和(著)『高等 学校 新政治・経済 改訂版』(35 清水,政経 017),清 水書院,2010 年 2 月 15 日発行,pp.136-140,pp.174-175。 [8] 香川勝俊(編著),以下共著(平川武彦・鬼柳勝一・八田 茂樹・河野通弘・野木邦夫・今田浩之・岩倉秀樹・木原 滋哉・柴田秀幹・山尾徳雄・谷口牧子・高橋秀実・甲斐 エイ子・金井辰郎・遠原智文・遠山恭司・李東彦・田中 淳・澤田大吾・奥平理・浅野敬一・杉浦立明・池谷江理 子)『教養の政治学・経済学』学術図書出版社,2005 年 4 月発行,pp.224-235。 [9]「今さら聞けない+(プラス)平均寿命」朝日新聞 ,2010 年 5 月 10 日 , 週末 be,p.6。 [10]鬼頭宏『人口から読む日本の歴史』講談社学術文庫,講 談社,2000 年 5 月 10 日発行。 [11]内閣府(編著)『平成 20 年版少子化社会白書』佐伯印刷, 2008 年 4 月 30 日発行。 [12]関屋光泰「社会福祉士受験支援講座・教員日記(ブログ)」 http://miseki.exblog.jp/,2016 年 9 月 3 日現在。 [13]小栗正裕「社会福祉概論一問一答式暗記シート」東海大 学福岡短期大学 ,PDF 版(現在入手不明)。 [14]中村和之「所得格差を測る指標-ジニ係数とローレンツ 曲 線 - 」http://www.pref.toyama.jp/sections/1015/ecm/ back/2005apr/shihyo/,2016 年 9 月 3 日現在。 [15]川越満・布施泰男『よくわかる医療業界』日本実業出版 社,2006 年 03 月発行。 [16]久保田博南『いのちを救う先端技術』PHP 新書 540, PHP 研究所,2008 年 9 月発行。 [17]高橋千枝子『図解健康業界ハンドブック』東洋経済新報 社,2004 年 06 月。 [18]田中元『最新福祉業界の動向とカラクリがよ~くわかる 本』秀和システム,2006 年 09 月発行。 [19]東洋経済新報社(編)『会社四季報 業界地図 2011 年版』 東洋経済新報社,2010 年 9 月 15 日発行,p.121。 [20]中村憲昭『介護・福祉業界がわかる』技術評論社,2007 年 02 月発行。 [21]福崎剛『ひと目でわかる最新医療機器業界』ぱる出版, 2008 年 08 月発行。 [22]ヘルスビズウォッチドットコム(編)『健康ビジネス業界 がわかる』技術評論社,2006 年 12 月発行。 [23]吉村克己『よくわかる介護・福祉業界 改訂版』日本実 業出版社,2007 年 07 月発行。 [24]東洋経済新報社(編)『会社四季報』東洋経済新報社, 2009 ~ 2010 年頃の各版を参考にした。 [25]東洋経済新報社(編)『就職四季報 2011 年版』東洋経済 新報社,2009 年 11 月発行。