三重県桑名市にみるプレイス・ブランディングの展開
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(2) デザイン学研究特集号 Vol.28-2 No.104. 課を廃止し,桑名市の魅力を発信するブランド推進課を新設した。また,桑 名市の魅力や価値をブランドとして積極的に展開するため,企画立案や調査 および既存組織との連携役を担う「ブランド推進委員会」が発足した。ブラ ンド推進委員会は,顧問1名,委員5名,専門委員2名の計8名で構成さ れ,筆者は委員長を拝任し,継続されている。 ブランド推進委員会では,先ずロゴマークやキャッチフレーズなど「一次 連想」の基盤となるブランドブック[図1]の作成が発案された。ロゴマー クは市民公募,キャッチフレーズは調査をもとに作成された。ロゴマーク は,桑名市が木曽三川の河口部に位置していることや,桑名市の蛤,海,川 といった豊かな自然をイニシャルへまとめたものである。形は普遍的に美し いと言われている黄金比を取り入れている。キャッチフレーズは,歴史や文 化,リゾート施設などの他には真似できない桑名市ならではの本物があると 図1 桑名市のブランドコンセプトブック. して,その力を「本物力」と名付けている[図2]。 そして,その力を桑名力と解釈し,「本物力こそ,桑名力。」と定義され た。ブランドブックは,桑名市民が桑名市に愛着や誇りを持てるように,桑. 脚注 桑名市のロゴマークは,桑名の立地が扇の要であるこ と,桑名城の扇型の形状や桑名の千羽鶴,ハマグリなどの. 名市の過去や現状のデータに加え,未来に向けて「一次連想」の展開事例に ついて記載されている[注3]。 . イメージ,また木曽三川や,市が持つ海,山,河などの豊 かな自然の融合などを,イニシャルである桑名のKのマー クに集約したデザインとなっている。見る人,使用する人 が多様なイメージを膨らませ,「本物力」によって未来へ と羽ばたいていくことが意図された。 形状は長方形の縦横の比率など,古くから普遍的に美し いとされる黄金比率1:1.618を随所に取り入れ,使用す. る字体には,流行に左右されないスタンダードなモリサワ リュウミンの明朝体を採用している。また,二色の色彩 は,混じり気のない純粋な本物として,マゼンダとシアン を100%で使用している。. 図2 桑名市のロゴマークとキャッチコピー. 2015年度より,ブランドコンセプトブックを体現できる「二次連想」の一. 脚注 桑名ほんぱくのねらいは,開催することで「地域力の向 上」に寄与することである。具体的には,桑名ほんぱくに 参加することで,参加者は桑名の魅力を知り,桑名に対す る愛着や誇りを抱くというシビックプライドを育む機会に なることと位置づけている。さらに,桑名に愛着を持つこ とで,市民の方からは「桑名に住み続けたい」と,市外も しくは県外の方からは「桑名にまた来たい」 「桑名に住み たい」などと,桑名が「選ばれるまち」となることを期待 して継続的に開催されている。 3)桑名市デザインマニュアル,桑名市ブランド推進課, 2015.1. つとして,「桑名ほんぱく(桑名本物力博覧会)」を開催している。桑名ほん ぱくは,桑名市の地域資源を活用した小規模な地域体験プログラムの集合体 である[注4]。2001 年に大分県別府市で開始した「オンパク(温泉博覧 会)」の手法を参考に実施された。 桑名ほんぱくでは, 「桑名にこんないいものがあったんだ」と気づき,感動 を味わえる時間の提供を目指して,少人数でじっくり,ゆったりと取り組め るものから,大人数でわいわいとにぎやかに楽しめるものまで食,伝統文化, アート,自然,歴史,エクササイズ,音楽など充実した内容となっている。. http://www.city.kuwana.lg.jp/index.cfm/ 25 , 43077 ,c,h. 「桑名ほんぱく」をきっかけに,興味があるジャンルはもちろん,様々な歴史・. 4)伊藤孝紀,松岡弘樹,他:プレイス・ブランディング. 文化との出会い交流の場となっている。初年度は,50日間に渡り9プログラ. tml/43077/20150114-112919.pdf. 構築に向けた地域資源イベントの事例研究 ─ 三重県桑名市における桑名本物力博覧会の評価と 課題 ─ デザイン学研究,64(1),29-38,2017. ムが開催され,2016 年度は 41 プログラム,2017年度は63プログラムと年々, 充実した内容となり,参加者も増加し市民に定着しながら継続されている。. 75.
(3) 76. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 図3 桑名本物博覧会パンフレット2019. 図4 桑名市本物博覧会の市民活動を中心に,地域資源を活かした多様なコンテンツ. 3.ブランド推進に基づいた再開発や PFI 事業の展開. ブランド推進委員会では,「二次連想」をイベントや広報だけでなく,都. 市計画や建築計画にも展開できる共通したデザインコードを設定した。桑名 市は,徳川家の名将・本田忠勝が藩主となり江戸時代の宿場町を形成し,明 治,大正時代には,建築家ジョサイア・コンドルによる六華苑を中心とする 和洋折衷建築が現存していることから,それぞれの本物を融合させるべく 「時代の折衷」をコンセプトにしている。色彩は,本田忠勝の甲冑より「漆 黒」とコンドルが用いた色彩の折衷とし,素材も木材と石材の折衷として仕 様を設定した。これらのデザインコードは,スケールの異なる店舗などファ サードやインテリアから公共空間,景観形成など全ての対象に該当するよ う,庁内の全ての部局と民間事業に促している。既に幾つか具現化に向けた プロジェクトが進行している。 桑名駅においては,2017年に東海旅客鉄道(株)と近畿日本鉄道(株)と 図5 桑名駅自由通路の完成イメージ. 桑名駅自由通路等の整備に関する施行協定を締結し,同年度より桑名駅自由. 脚注. 通路の整備が始まった。両鉄道会社とは合意形成し,共通したデザインコー. 従来まで桑名駅の東西を行き交う際には,駅の入場券を 購入し改札内を通るか,踏切まで迂回しならなかったが, 桑名駅自由通路が完成すると東西を自由に通行できるよう になる。自由通路は,現在の桑名駅(JR 関西本線,近鉄. 名古屋線,養老鉄道養老線)がある位置から南へ約80m の 位置に整備。あわせて JR 桑名駅,近鉄桑名駅及び養老鉄 道桑名駅を自由通路に面する形で移設している。. ドが用いられている[図5]。また,自由通路の整備に合わせて桑名駅東・ 西口駅前広場の整備を行い,桑名駅及び駅周辺が生まれ変わろうとしてい る。桑名駅周辺整備については2018年8月に「桑名駅周辺地区整備構想」を 策定し,桑名の玄関口としてふさわい交通結節点づくり,市民生活と観光交. 図6 PFI 事業に選定された桑名駅再開発 と駅広場のイメージ 脚注 桑名健康増進施設は,かつて,多度大社にあった神宮寺 の施設として,湯屋があったと文献が残っていることや, 南北朝時代より続く「上げ馬神事」,白馬伝説にあやかり 「神馬の湯(しんめのゆ)」と命名された。. 図7 PFI 事業に選定された健康増進施設「神馬の湯」.
(4) デザイン学研究特集号 Vol.28-2 No.104. 図8 ブランド推進のデザインコードを展開した街並みの様子. 流の拠点づくりの構築を目指し桑名駅周辺複合施設等整備事業プロポーザル をおこなった。2020年3月に,地元の長島観光によるホテルと連携した駅広 場の提案が選定された[図6]。 他方,桑名市の遊休地を活用した健康増進施設整備事業プロポーザルにも 同様にブランド推進の概念が反映されている。2020年冬のオープンに向け て,選定された民間事業者によって,予防を重視した温浴施設「健康予防」 図9 ターゲットを想定したビジネス展開. を中心に,自ら健康を改善する「健康改善」と,自らが健康を維持する「健 康維持」の3つの機能が備わった健康増進の拠点が建設中である[図7]。. 4.桑名ブランド協議会の発起とマスタープラン 市長より発信したブランド推進の活動は,商工会議所や青年会議所,観光 協会や商店街組合など既存団体や国土交通省の地方整備局を巻き込み,民間 発意の活動へと発展していく。その一つとして,2018年12月には,地元企業 の若手経営者が中心となり,民間主体の「桑名ブランド協議会」が発起し た。ソフト対策とハード整備に加え,まちづくりファンドの導入など見据え たビジネススキームも描いた,独自のマスタープランを作成する[図8− 図10 将来ビジョンを示した街並み 脚注 桑名ブランド協議会は, 「宿場の茶店 一(ハジメ)」の 運営もおこなっている。東海道四十二番目の宿場であり, 伊勢国の東の玄関口にあたり,多くの旅人が行き交い,旅 の疲れを癒した宿場町であった。その象徴である『七里の 渡し跡・一の鳥居』の目の前に,桑名の特産品や名産品を 詰め込んだ小さな茶店としてオープンしている。. https://kuwanajuku.com/hajime/. 10]。また,「桑名ほんぱく」の民間事業化や,都市再生推進法人の認定を見 据えた公共空間を利活用した収益事業も試行している。 筆者は,時には自治体側の委員長や座長,審査員として,また民間側の監 修者や建築家として,デザインを糧にしながら,プレイス・ブランディング の実現に向けて尽力している。その一つ一つが実現することで,市役所職員 の意識変革や担い手となる市民の増員や成長が見られる。ハード整備に目が 行きがちだが,市民を巻き込み,マネジメントまで含めて環境をデザインと 捉えて取り組むことの意義を牽引していきたい。 . 77.
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