[
前期の復習]
行列の基本変形.m
× n
行列A
をA =
a
11· · ·
a
1n..
.
..
.
am1
· · · amn
とし,A
の行ベクトル分割をA =
a
1..
.
a
n
と します. 行列A
の行基本変形とは,次の3つの操作のことです.(1) A
のある2つの行を入れ換える.(a
i↔ aj,
第i
行と第j
行以外は不変).
(2) A
のある行に零ではない定数を掛ける.(a
i→ cai
, c
̸= 0,
第i
行以外は不変).
(3) A
のある行に別の行の定数倍を加える.(a
i→ ai
+ ca
j, j
̸= i,
第i
行以外は不変).
ここで「行」を「列」で置き換えたものを列基本変形と呼びます. 行列の階数. 行列A
に行基本変形を繰り返し行い,次のような階段行列に変形します.
O
1
A
110
A
120
∗ 0 A
1k0
O
1
A
220
∗ 0 A
2k0
O
1
∗ 0 A
3k0
..
.
..
.
1
A
rkO
O
O
このときの零ベクトルではない行ベクトルの数(
行の左端の“1”
の数,あるいは基本ベクトルと なっている列ベクトルの数)
をA
の階数といい,rank A
で表します. 連立1次方程式.x
1, . . . , xn
を変数とする連立1次方程式(1.1)
a
11x
1+
· · · + a
1nxn
= b1
..
.
am1x
1+
· · · + amnxn
= b
m に対してm
× n
行列A
とベクトルb, x
をA =
a
11· · ·
a
1n..
.
..
.
am1
· · · amn
, b =
b
1..
.
bm
, x =
x
1..
.
xn
とおきます.このとき連立1次方程式(1.1)
はAx = b
と表されます.A
とb
を並べてできるm
× (n + 1)
行列A = (A
e
| b)
を拡大係数行列と呼びます.A
e
を行基本変形して(A
′| c) =
1
A
110
A
120
∗ 0 A
1kc
10
O
1
A
220
∗ 0 A
2kc
20
O
1
∗ 0 A
3kc
30
..
.
..
.
..
.
1
Ark
cr
O
O
O
c
′
1
となったとき,
c
′= o
であれば(1.1)
は解を持ち,Ax = b
の解は方程式A
′x = c
の解と一致 します. 逆行列.A
をn
次正方行列,I
n をn
次単位行列とします.n
× 2n
行列(A
| In
)
を行基本変形して(I
n| X)
と左半分を単位行列に変形できたとき,A
は正則でA
の逆行列はX
です. 行列式.A
をn
次正方行列とします.A
の行列式|A|
はA
の基本変形によって(1)
行または列を入れ換えると符号が変わる.(2)
行または列をc
̸= 0
倍すると,行列式もc
倍される.(3)
ある行に別の行のc
倍を加えても行列式は変わらない.列に関しても同様. となります. またA
に対してA
の第i
行と第j
列を除いてできるn
− 1
次行列の行列式の(
−1)
i+j 倍をA
の(i, j)
余因子といいます.A
の(i, j)
余因子をaij
f
とおくと行列式|A|
は|A| =
n∑
k=1a
ikea
ik=
n∑
k=1a
kjea
kj と余因子展開できます.特に基本変形と組み合わせてa
11a
12· · · a
1n0
a
22· · · a
2n..
.
..
.
..
.
0
an2
· · · ann
=
a
110
· · ·
0
a
21a
22· · · a
2n..
.
..
.
..
.
an1
an2
· · · ann
= a
11a
22· · · a
2n..
.
..
.
an2
· · · ann
と次数を下げることができます. 写像f : A
→ B
を写像とします.つまり全てのA
の要素a
に対して,B
の要素f (a)
が1つ定め られているとします.(1)
任意のb
∈ B
に対してb = f (a)
をみたすa
∈ A
が存在するときf
は全射であるとい います.(2) a, a
′∈ A
がa
̸= a
′ であるとき常にf (a)
̸= f(a
′)
をみたすときf
は単射であるといい ます. したがってf : A
→ B
が単射⇐⇒ a ̸= a
′ ならばf (a)
̸= f(a
′)
⇐⇒ f(a) = f(a
′)
ならばa = a
′が成り立ちます.
f
が全射かつ単射であるとき,単にf
は全単射であるといいます. 写像f : A
→ B, b ∈ B
に対して集合f
−1(b)
をf
−1(b) =
{a ∈ A | f(a) = b} ⊂ A
で定め,これをf
によるb
∈ B
の逆像と言います.f
が全単射ならばf
−1 は写像になり,対応f
−1: B
→ A
をf
の逆写像といいます.またB
の部分集合S
に対してf
−1(S) =
{a ∈ A | f(a) ∈ S} ⊂ A
をf
によるS
の逆像といいます.[
ベクトル空間]
以下K
をR (
実数全体のなす集合)
またはC (
複素数全体のなす集合)
とし,K
n をn
次元 ベクトル全体のなす集合(
したがってR
n またはC
n,以下同じ)
とします.x = (x
i), y = (y
i)
∈ K
n, λ
∈ K
とします.集合K
n には和x + y = (x
i+ y
i)
∈ K
n と 定数倍λx = (λxi
)
∈ K
n が定義されて次が成り立っています.(1) (
交換法則)
任意のx, y
∈ K
n に対してx + y = y + x.
(2) (
和の結合法則)
任意のx, y, z
∈ K
n に対して(x + y) + z = x + (y + z).
(3) (
零ベクトル)
あるo
∈ K
n が存在して,任意のx
∈ K
n に対してx + o = x
をみたす.(4) (
逆ベクトル)
任意のx
∈ K
n に対して,x + x
′= o
をみたすx
′∈ K
n が存在する.(5) (
スカラーの分配法則)
任意のx
∈ K
n, λ, µ
∈ K
に対して(λ + µ)x = λx + µx.
(6) (
ベクトルの分配法則)
任意のx, y
∈ K
n, λ
∈ K
に対してλ(x + y) = λx + λy.
(7) (
スカラーの結合法則)
任意のx
∈ K
n, λ, µ
∈ K
に対して(λµ)x = λ(µx).
(8) (
単位元倍)
任意のx
∈ K
n に対して1
· x = x.
ここで(3)
のベクトルo
は全ての成分が0
であるようなベクトルで,ベクトルx = (x
i)
に対し て(4)
のベクトルx
′ は第i
成分が−xi
であるようなベクトルです. これを一般化します.V
を集合とします.集合V
に和が定義されているとは,任意のx, y
∈ V
に対して和x + y
が定義されていてx + y
∈ V
をみたしていることをいいます.またK
とV
の積が定義されているとは,任意のλ
∈ K
と任意のx
∈ V
に対して積λx
が定義されていてλx
∈ V
をみたしていることをいいます. 定義. (
ベクトル空間,線形空間)
集合V
がK
上のベクトル空間または線形空間である.⇐⇒ V
に和とK
との積(
定数倍)
が定義されていて上の(1)
∼ (8)
をみたす.K
が実数全体の集合R
のときV
を実ベクトル空間,K
が複素数全体の集合C
のときV
を 複素ベクトル空間といいます.K
を成分とするn
次元ベクトルの全体K
n はK
上のベクトル空間です.これをK
上のn
次 元数ベクトル空間といいます.またV =
{o}
もベクトル空間になります.ベクトル空間{o}
を 零ベクトル空間といいます.この他にも(1) K
を成分とするm
× n
行列全体の集合M (m, n; K) =
{(aij
)
| aij
∈ K}
(2) K
の元を係数とするn
次以下の多項式全体P
n(K) =
{a
0+a
1X +
· · ·+an
X
n| ai
∈ K}
(3) K
の元を係数とする多項式全体K[X] =
{a
0+a1X+
· · ·+anX
n| ai
∈ K, n ∈ N∪{0}}
(4) K =
R
として,R
上連続な関数全体C(
R) = {f(x): R → R | f(x)
は連続}
(5) K =
R
として,R
上C
∞ 級関数全体C
∞(
R) = {f(x): R → R | f(x)
はC
∞ 級}
などがあります. ベクトルには和とスカラー倍が定義されています.そこで次のように定義します. 定義. (
1次結合,線形結合)
V
をK
上のベクトル空間とします.V
のr
個のベクトルx
1, . . . , xr
について,次 のような和λ
1x
1+
· · · + λr
x
r, (λ1
, . . . , λr
∈ K)
をx
1, . . . , xr
の1次結合または線形結合という.[
1次独立性]
V
をK
上のベクトル空間とします(
R
n またはC
n でよい)
.V
のベクトルa
1, . . . , a
r に対 してa
1, . . . , ar
の1次結合で表される部分集合W =
{λ
1a
1+ λ2
a
2+
· · · + λr
a
r| λ
1, λ
2, . . . , λr
∈ K}
を考えます.W
のベクトルx
はあるλ
1, λ
2, . . . , λ
r∈ K
でx = λ
1a
1+ λ
2a
2+
· · · + λr
a
r と表されますが,このような表し方が複数通り存在することがあります.そこでW
のベクトルを 表すために必要な最小のベクトルの組を考えます. 定義. (
1次独立)
V
のr
個のベクトルa
1, a
2, . . . , a
r が1次独立である.⇐⇒ λ
1a
1+ λ2
a
2+
· · · + λr
a
r= o
ならばλ
1= λ2
=
· · · = λr
= 0
である.a
1, a
2, . . . , ar
をn
次元数ベクトルとします.λ
1a
1+ λ2
a
2+
· · · + λr
a
r= o
はn
× r
行 列A = (a
1a
2. . . ar
)
とベクトルx =
λ
1..
.
λr
を用いてAx = o
と表されますからa
1, a
2, . . . , ar
が1次独立である⇐⇒
連立1次方程式Ax = o
がo
以外の解を持たない となります.したがって次が成り立ちます. 定理. (
1次独立)
a
1, a
2, . . . , a
r∈ K
n としA = (a
1a
2. . . a
r)
とする.このとき次は同値.(1) a1
, a
2, . . . , ar
が1次独立.(2) Ax = o
の解はx = o
のみ.(3) rank A = r.
特に,a
1, a
2, . . . , ar
が1次独立であるときx
∈ W
に対してx = λ
1a
1+ λ2
a
2+
· · · + λr
a
r という表し方は一意的です. ベクトルa
1, a
2, . . . , ar
が1次独立ではないとき1次従属といいます. 定義. (
1次従属)
V
のr
個のベクトルa
1, a
2, . . . , a
r が1次従属である.⇐⇒ a
1, a
2, . . . , ar
たちは1次独立ではない.⇐⇒ λ
1a
1+ λ
2a
2+
· · · + λr
a
r= o
となる(λ
1, λ
2, . . . , λ
r)
̸= (0, 0, . . . , 0)
が存在 する. したがって次が成り立ちます. 定理. (
1次従属)
V
のr
個のベクトルa
1, a
2, . . . , a
r が1次従属である.⇐⇒
あるa
i はa
1, . . . , ai
−1, ai+1, . . . , ar
たちの1次結合で表される. ここでa
1, . . . , ar
∈ V
が1次従属としてもa
1 がa
2, . . . , ar
の1次結合で表されるとは限りま せん.同様にa
r がa
1, . . . , a
r−1 の1次結合で表されるとも限りません.適当に番号を付け替えてa
1 がa
2, . . . , ar
の1次結合で表されるようにすることはできます.[
部分ベクトル空間]
K
をR
またはC
として,V
をK
上のベクトル空間とします.W
をV
の部分集合とします.x, y
∈ W
に対して,これをV
の要素と見て和x + y
∈ V
やスカラー倍λx
∈ V , (λ ∈ K)
が 計算できますが,これらがW
に入っていてベクトル空間の条件をみたすときW
をV
の部分ベ クトル空間であるといいます. 定義. (
部分ベクトル空間)
K
上のベクトル空間V
の部分集合W
がV
の部分ベクトル空間である.⇐⇒ W
はV
の和とスカラー倍によってベクトル空間をなす.W
がV
の部分ベクトル空間であるときo
∈ W
であって,x, y
∈ W , λ ∈ K
に対してx + y
∈ W , λx ∈ W
が成立しています.逆にV
の部分集合W
がo
∈ W
であり,任意のx, y
∈ W , λ ∈ K
に対してx + y
∈ W , λx ∈ W
をみたしているとしましょう.このとき和と スカラー倍はV
のものですので,和について(1)
交換法則,(2)
結合法則をみたし,さらにスカ ラー倍に関する条件(5)
∼ (8)
もみたします.さらにo
∈ W
なので零ベクトルが存在し,また−1 ∈ K
に対して−x = (−1)x ∈ W
であり,さらにx + (
−x) = (1 − 1)x = o
ですので逆 ベクトルも存在します.このことから次が成り立つことがわかります. 命題. (
部分ベクトル空間)
K
上のベクトル空間V
の空でない部分集合W
がV
の部分ベクトル空間であること と次の2条件は同値である.(1)
任意のx, y
∈ W
に対してx + y
∈ W
である.(2)
任意のx
∈ W , λ ∈ K
に対してλx
∈ W
である. 特に{o}
とV
自身はV
の部分ベクトル空間です.これをV
の自明な部分ベクトル空間とい います. 先に述べた通りW
がV
の部分ベクトル空間であるとき必ずo
∈ W
をみたします.したがっ てo
̸∈ W
となるV
の部分集合W
はV
の部分ベクトル空間ではありません. 例.(1) V = C
0(
R)
を連続関数全体のなす集合とします.f, g
∈ C
0(
R)
に対して和f + g
と 実数倍λf
を(f + g)(x) = f (x) + g(x), (λf )(x) = λf (x)
で定義するとf + g, λf
もR
上連続な関数であり,この和とスカラー倍でC
0(
R)
は定数関数O(x)
≡ 0
を零ベクトルとする実ベクトル空間となります.C
∞ 級関数は連続ですから実数上のC
∞ 級関数全体のなす部分集合W = C
∞(
R)
はC
0(
R)
の部分集合であり,C
∞ 級関数どうしの和とC
∞ 級関数の実数倍もC
∞ 級ですからC
∞(
R)
はC
0(
R)
の部分ベクトル空間です.(2) V = Seq(
R)
を実数列全体のなす集合とします.数列{an}
∞n=1,
{bn}
∞n=1 と実数λ
に対 して和と実数倍を{an}
∞n=1
+
{bn}
∞n=1=
{an
+ b
n}∞n=1, λ
{an}
∞n=1=
{λan}
∞n=1で定義すると
Seq(
R)
は定数列{0}
∞n=1 を零ベクトルとする実ベクトル空間となります.収束する実数列全体のなす部分集合
W = Conv(
R)
はV
の部分ベクトル空間です.さらに0
に収束する実数列全体のなす集合Conv
0(
R)
はW
の部分ベクトル空間であり,V
の部分ベクト ル空間でもあります.c
1, . . . , ck
∈ R
を定数として漸化式an+k
+ c1
an+k
−1+
· · · + cnan
= 0
をみたす実数列{an}
全体のなす部分集合U =
{{an}
∞n=1∈ Seq(R) | an+k
+ c1
an+k
−1+
· · · + ckan
= 0
}
はV
の部分ベクトル空間となります.[
和空間]
V
をベクトル空間とし,W
1, W
2 をV
の部分ベクトル空間とします.集合W
1+ W
2 をW
1+ W2
=
{x
1+ x2
| x
1∈ W
1, x
2∈ W
2}
と定めるとW
1+ W2
はV
の部分ベクトル空間になります.これをW
1, W
2 の和空間といい ます.和空間W
1+ W
2 の任意のベクトルx
は,あるx
1∈ W
1 とあるx
2∈ W
2 を用いてx = x
1+ x2
と表されます.任意のx
∈ W
1+ W2
に対してこのようなx
1, x
2 がただ1通りし かないとき和空間W
1+ W
2 はW
1, W
2 の直和であるといいW
1⊕ W
2 と表します. 定義. (
和空間,直和)
ベクトル空間V
の部分空間W
1, W
2 に対してW
1+ W
2=
{x
1+ x
2| x
1∈ W
1, x
2∈ W
2}
はV
の部分空間であり,W
1+ W
2 をW
1, W
2 の和空間と呼ぶ.W
1+ W2
においてx
1+ x2
= x
′1+ x
′2(x
i, x′i∈ Wi
)
ならばx
i= x
′i であるときW
1+ W
2 はW
1 とW
2 の直和であるといいW
1⊕ W
2 と表す.V
の部分ベクトル空間W
1, W
2 に対して,これらの共通部分W
1∩ W
2=
{x ∈ V | x ∈ W
1 かつx
∈ W
2}
もまたV
の部分ベクトル空間となります.しかしW
1, W
2 の和集合W
1∪ W
2 はV
の部分ベク トル空間とは限りません.有限個の部分ベクトル空間の和空間,直和,共通部分についても同様に 定義されます.V
をK
上のベクトル空間とします.V
のベクトルa
1, . . . , ak
∈ V
についてW =
{λ
1a
1+
· · · + λk
a
k| ∀λi
∈ K}
はV
の部分ベクトル空間をなします.これをa
1, . . . , ak
で生成される部分ベクトル空間といい⟨a
1, . . . , a
k⟩ で表します.⟨a
1, . . . , ak⟩ = {λ
1a
1+
· · · + λk
a
k| ∀λi
∈ K} ⊂ V.
W
1, W
2 は有限生成であるとし,W
1=
⟨a
1, . . . , an⟩, W
2=
⟨b
1, . . . , bm⟩
とします.すると 任意のx
∈ W
1 はa
1, . . . , a
n の線形結合で表され,任意のy
∈ W
2 はb
1, . . . , b
m の線形結合 で表されますからW
1+ W2
の任意のベクトルはa
1, . . . , an, b
1, . . . , bm
の線形結合で表すこと ができます.したがってW
1+ W
2=
⟨a
1, . . . , a
n, b
1, . . . , b
m⟩ となります.ただしa
1, . . . , an
が 1次独立であり,b
1, . . . , bm
がW
2 も1次独立であったとし ても,a
1, . . . , an, b
1, . . . , bm
が1次独立であるとは限りません.x
∈ W
1∩W
2とするとx
∈ W
1かつx
∈ W
2 なので,あるλ
1, . . . , λ
n∈ K
とµ
1, . . . , µ
m∈
K
が存在してx = λ
1a
1+
· · · + λn
a
n= µb
1+
· · · + µm
b
m と表されます.したがってλ
1, . . . , λn
とµ
1. . . , µm
はλ
1a
1+
· · · + λn
a
n− (µb
1+
· · · + µm
b
m) = o
をみたします.これを解いてλ
1, . . . , λn
(
あるいはµ
1, . . . , µn
)
が決まり,W
1∩ W
2 を生成する ベクトルを求めることができます.[
基底と次元]
W
をベクトル空間V
の部分ベクトル空間とします.いまW
はa
1, . . . , a
r∈ V
で生成され ているとします.つまりW =
⟨a
1, . . . , ar⟩
とします.このときW
の任意のベクトルx
はx = λ
1a
1+
· · · + λr
a
r(λ
1, . . . , λ
r∈ K)
とa
1, . . . , a
r の線形結合で表されます.しかし,この表し方は1通りとは限りません.このうち 「無駄な」ベクトルを除いて任意のx
をただ1通りに表すようにすることができます. 以下K
をR
またはC
とし,V
をK
上の(
有限次元)
ベクトル空間とします. 定義. (
基底)
V
のベクトルの組a
1, . . . , an
が次の条件をみたすときV
の基底であるという.(1) a1
, . . . , an
は1次独立である.(2) V
の任意のベクトルはa
1, . . . , a
n の1次結合で表される.V
の基底は1通りとは限りません.例えばR
n の単位ベクトルe
1, . . . , e
n についてλ
1e
1+
· · · + λn
e
n= λ1
1
..
.
0
+ · · · + λ
n
0
..
.
1
=
λ
1..
.
λ
n
= o
とすると成分を比較してλ
1=
· · · = λn
= 0
となりますからe
1, . . . , e
n は1次独立です. また任意のx = (x
i)
∈ R
n に対してx =
∑
xi
e
i と表されますからR
n はe
1, . . . , en
の1 次結合で表されます.したがってe
1, . . . , e
n はR
n の基底をなします.これをR
n の標準基底と いいます.R
n のベクトルf
1, . . . , f
n をf
i= e
1+
· · · + ei
(1
≤ i ≤ n)
とします.このときf
1, . . . , f
n もR
n の基底となります.V
の基底を1組選び,これをa
1, . . . , a
n とします.このとき次が成り立ちます. 定理. (
基底の性質)
a
1, . . . , a
n をV
の基底とする.このとき任意のx
∈ V
はx = λ
1a
1+
· · · + λn
a
n と一意的に表される. つまり,任意のx
∈ V
に対してx = λ
1a
1+
· · · + λn
a
n となる定数λ
1, . . . , λ
n が必ず存在 して,x = µ
1a
1+
· · · + µn
a
n でもあるとすると,任意のi
についてλi
= µ
i となります. ベクトル空間V
の基底の取り方はたくさんあります.しかし,基底をなすベクトルの個数は常 に一定です.この数をV
の次元と呼びます. 定義. (
次元)
K
上のベクトル空間V
̸= {o}
がn
個からなる基底をもつときV
はn
次元であると いい,dim
KV = n
と表す.またV =
{o}
のときdim
KV = 0
とする.また,
K
を略してdim V
と表すこともあります.W
をV
の部分ベクトル空間とするとW
自身もベクトル空間ですから
W
の次元dim W
も同様に定義されます.a
1̸= o
とし,W =
⟨a
1⟩ ⊂ R
n とします.このときW =
{ta
1| t ∈ R}
V
の部分ベクトル空間W
がW =
⟨a
1, . . . , ar⟩
と表されているとします.このときa
1, . . . , ar
から1次独立となる最も多くのベクトルを選ぶことによってW
の基底ができます. 命題. (
生成系と次元)
ベクトル空間V
の部分ベクトル空間W
がr
個のベクトルで生成されるとする.この ときdim W
≤ r
である. 特にW
の(dim W + 1)
個以上のベクトルの組は互いに1次従属です.W
をV
の部分ベクトル空間とします.W
の1次独立なベクトルがわかっているとき,このベ クトルにいくつかベクトルを追加してW
の基底を作ることができます. 定理. (
基底の延長定理)
W
̸= {o}
をV
の部分ベクトル空間とし,a
1, . . . , as
∈ W
は1次独立とする.この ときa
s+1, . . . , a
r∈ W
をうまく選んでa
1, . . . , a
r がW
の基底であるようにできる. このことからW
⊂ V
がベクトル空間であるとき,W
の基底を延長してV
の基底を構成す ることができます.したがってW
⊂ V
のときdim W
≤ dim V
が成り立ちます.特にW
にr = dim W
個の1次独立なベクトルa
1, . . . , a
r が存在したとき⟨a
1, . . . , a
r⟩ ⊂ W で任意のx
∈ W
はa
1, . . . , ar
に1次従属ですから⟨a
1, . . . , ar⟩ = W
となります. 系. (
部分空間と次元)
W
をV
の部分ベクトル空間とする.このとき(1) dim W
≤ dim V .
(2) dim W = dim V
ならばW = V .
これより次もわかります. 系. (
次元と1次独立性)
V
をn
次元ベクトル空間とする.このとき次が成り立つ.(1) n + 1
個以上のベクトルの組は1次従属.(2) n
個のベクトルが1次独立ならば基底をなす.W
1, W
2 をV
の部分ベクトル空間とし,dim W1
= r, dim W2
= s
とします.するとW
1,W
2 の基底を選んでW
1=
⟨a
1, . . . , ar⟩ , W
2=
⟨b
1, . . . , bs⟩
と表すことができます.このとき和空間W
1+ W2
はW
1+ W
2=
⟨a
1, . . . , a
r, b
1, . . . , b
s⟩ と表されます.しかし,これらの生成系は1次独立とは限りません.したがってdim(W
1+ W
2)
≤
r + s = dim W
1+ dim W2
ですが,次が成り立ちます. 定理. (
次元定理)
W
1, W
2 をV
の部分ベクトル空間とする.このとき次が成立する.dim(W
1+ W
2) = dim W
1+ dim W
2− dim(W
1∩ W
2)
[
線形写像]
K
をR
またはC
とし,V
をK
上のベクトル空間とします.V
のベクトルx, y
∈ V
と定 数λ
∈ K
に対して和x + y
∈ V
とスカラー倍λx
∈ K
が定義されていました. いまV , V
′ をK
上のベクトル空間とし,f : V
→ V
′ をV
からV
′ への写像とします.する とx
∈ V
に対してf (x)
はV
′ のベクトルになります.x, y
∈ V , λ ∈ K
に対してx + y
∈ V
ですからf (x + y)
∈ V
′ であり,またλx
∈ V
ですからf (λx)
∈ V
′ となります.一方f (x), f (y)
∈ V
′ ですからf (x) + f (y)
∈ V
′ であり,λf (x)
∈ V
′ でもあります.そこで,「和・ スカラー倍をすること」と「写像で写すこと」を入れ替えることができるとき,つまり(1) f (x + y) = f (x) + f (y),
(2) f (λx) = λf (x)
が成り立つときf
を線形写像といいます.とくにV = V
′ である写像を変換といい,変換が線形 写像でもあるときは線形変換といいます. 定義. (
線形写像)
K
上のベクトル空間V
からV
′ への写像f : V
→ V
′ が線形写像である.⇐⇒
任意のx, y
∈ V
′,
任意のλ
∈ K
に対して(1) f (x + y) = f (x) + f (y),
(2) f (λx) = λf (x)
が成り立つ.特にV = V
′ である線形写像を線形変換という. 例(1) V =
R
n, V
′=
R
m とし,A
をm
× n
行列とします.このとき写像f :
R
n→ R
m をf (x) = Ax
で定義します.すると任意のx, y
∈ V
,任意のλ
∈ R
に対してf (x + y) = A(x + y) = Ax + Ay = f (x) + f (y)
f (λx) = A(λx) = λAx = λf (x)
が成り立つのでf
は線形写像です.(2) V = C
∞(
R)
とし,写像d
dx
: V
→ V
をf
∈ C
∞(
R)
に対してd
dx
f =
df
dx
と定めます. このときd
dx
(f + g) = (f + g)
′= f
′+ g
′=
d
dx
f +
d
dx
g
d
dx
(λf ) = (λf )
′= λf
′= λ
d
dx
f
が成り立つのでd
dx
は線形変換です.f : V
→ V
′ を線形写像とし,V
の基底をa
1, . . . , an
とします.任意のx
∈ V
はx = λ
1a
1+
· · · + λn
a
n と一意的に表され,f
が線形写像であることよりf (x) = λ
1f (a
1) +· · · + λnf (an
)
となります.このようにV
の基底a
1, . . . , a
n のf
による行き先f (a
1), . . . , f (a
n)
が決まると, 全てのx
∈ V
のf
による行き先が決まります.V
をK
上のベクトル空間とします.恒等写像id
V: V
→ V
をid
V(x) = x
と定めるとid
V はV
の線形変換を定めます. 定義. (
同型,同型写像)
K
上のベクトル空間V , V
′ に対して線形写像f : V
→ V
′ とg : V
′→ V
でg
◦ f = idV
, f
◦ g = idV
′ をみたすものが存在するときV
とV
′ は同型であると いいV ∼
= V
′ と表す.V
とV
′ が同型であるとき,同型を与える写像f : V
→ V
′(g : V
′→ V )
を同型写像という.V
とV
′ が同型のとき同型写像f : V
→ V
′ とg : V
′→ V
でg
◦ f = idV
, f
◦ g = idV
′ を みたすものが存在します.このとき任意のx
′∈ V
′ に対してx = g(x
′)
とおくとf
◦ g = idV
′ なのでf (x) = f (g(x
′)) = id
V′(x
′) = x
′ となり,f
が全射であることがわかります.またf (x) = o
とするとg
◦ f = idV
よりx = g(f (x)) = g(o) = o
となり,f
は単射でもあります.よってf : V
→ V
′ は全単射な線形写像です. 逆にf : V
→ V
′ が全単射な線形写像とします.f
の逆写像をg : V
′→ V
とします.x
′, y
′∈
V
′ に対してx = g(x
′), y = g(y
′)
とおくとf
が線形写像であることからf (x + y) = f (x) + f (y) = f (g(x
′)) + f (g(y
′)) = x
′+ y
′ となります.これからg(x
′) + g(y
′) = x + y = g(f (x + y)) = g(x
′+ y
′)
となります.同様にλ
∈ K
に対してf (λx) = λx
′ よりλx = g(f (λx)) = g(λx
′)
よりλg(x
′) = g(λx
′)
となり,g
も線形写像になります.したがって次が成り立ちます. 定理. (
同型,同型写像)
V, V
′ をK
上のベクトル空間とする.このとき,線形写像f : V
→ V
′ が全単射なら ばf
は同型写像であり,V
とV
′ は同型である.K =
R
とし,A
をm
× n
行列,B
をℓ
× m
行列とします.線形写像f :
R
n→ R
m,
g :
R
m→ R
ℓ をf (x) = Ax, g(y) = By
で定めます.このとき合成写像g
◦ f
はg
◦ f(x) = g(f(x)) = B(f(x)) = B(Ax) = (BA)x
となります.このように線形写像の合成は,行列の積に対応します.特にℓ = m = n
でg
◦f = id
Rn のとき任意のx
∈ R
n に対してx = g
◦ f(x) = (BA)x
ですからR
n の標準基底e
1, . . . , en
に対して(e
1. . . e
n) = (BA)(e
1. . . e
n)
となり,BA = In
であることがわかります.したがってB
はA
の逆行列で,f (x) = Ax
が同 型であることとA
が正則であることが同値になります.[
基底と座標]
V
をK
上のn
次元ベクトル空間とし,V
の基底をe
1, . . . , e
n とします.するとe
1, . . . , e
n はV
の基底ですので任意のx
∈ V
はx = a
1e
1+ a2
e
2+
· · · + an
e
n(a
i∈ K)
と一意的に表されます.そこでx
∈ V
とa
∈ K
n がV
∋ x = a
1e
1+ a2
e
2+
· · · + an
e
n←→ a =
a
1..
.
a
n
∈ K
n と1対1に対応します.つまり,順序付けられた基底E = (e
1, . . . , en
)
が与えられたとき,V
か らK
n への写像φ
E がφ
E(a
1e
1+ a
2e
2+
· · · + an
e
n) =
a
1..
.
an
と定義され,この写像は全単射です.x = a
1e
1+
· · · + an
e
n, y = b1
e
n+
· · · + bn
e
n に対してφE
(x + y) = φ
E((a1
+ b1)e1
+
· · · + (an
+ b
n)e
n) =
a
1+ b
1..
.
a
n+ b
n
=
a
1..
.
an
+
b
1..
.
bn
= φ
E(x) + φ
E(y)
であり,またc
∈ K
に対してφE
(cx) = φ
E(ca1
e
1+
· · · + can
e
n) =
ca
1..
.
ca
n
= c
a
1..
.
an
= cφ
E(x)
となるのでφ
E は線形写像です.φ
は全単射なのでV
からK
n への同型写像です.x = a
1e
1+ a2
e
2+
· · · + an
e
n∈ V
に対応するK
n のベクトルa =
a
1..
.
a
n
をx
の基底E
に関する座標といいます.このようにして有限次元ベクトル空間V
はK
dim V と 同一視することができます.さて