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GIS Theory and Applications of GIS, 2017, Vol. 25, No.2, pp フリーのデータ, ツール, サービスによる地点間距離 移動時間の計算実験 * 増山篤 An experimental result of distance and tr

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Academic year: 2021

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フリーのデータ,ツール,サービスによる地点間距離・移動時間の計算実験

増山 篤*

An experimental result of distance and travel time calculations between two locations using

freely available spatial data, GIS software, and web services

Atsushi Masuyama*

Abstract: We often want to repeatedly calculate the distance and travel time between two locations, and GIS has been used for this purpose. However, it is generally assumed that such calculations re-quire expensive software and data and therefore they may be considered not readily available. In the meantime, there currently are freely available spatial network data, GIS software, and web services for optimal path search, and therefore it may appear that it is possible to calculate the distance and traveling time for many sets of pairs of locations without spending any monetary cost. This study conducts an experiment of the calculation of the distance and travel time between locations using freely available data, software, and web services and reports the results. Specifically, we use Open-StreetMap data, QGIS, and Google Maps Distance Matrix API, in this experimental calculation. From the results, we demonstrate the possibilities and limitations of using freely available data, soft-ware, and services.

Keywords: 地点間距離(distance between locations),移動時間(travel time),OpenStreetMap データ(OpenStreetMap data),QGIS,Google Maps Distance Matrix API

1.はじめに さまざまな地点のペアについて,その間の距離や 移動時間を求めたいというニーズは非常に大きい. 例えば,近接性という観点から施設配置を評価した り,地点間距離・移動時間を変数とする空間分析を 実行したりする上で,このような計算は必要不可欠 である.そして,GISはこの種の計算を実行するた めに活用されてきた. 利用実績も多く,その有用性も明確でありながら, GISによる距離・移動時間の計算は,未だに全く手 軽とは言い難い部分がある.特に,道路網を考慮し た計算となるとなおさらである.その理由はいくつ かありうるが,有力な一つは経済的コストであろう. GISを利用し,道路網を考慮した上で地点間距離・ 時間を求めるとなると,有償の経路探索用データを 購入し,ネットワーク解析機能を備えた商用ソフト ウェアを用いるのが一般的である.そして,データ, ソフトウェアも決して低価格ではない場合が多い. 一方で,最近では,一切の経済的コストをかける ことなく,道路網を考慮した地点間の移動距離・時 間を計算する方法も考えられる.一つは,フリーの ネットワークデータやGISを利用するという方法で ある.もう一つは,ウェブ上の経路探索サービスを 利用する方法である.これら二つの(地点間の移動 距離・時間を計算する,コストのかからない)方法 が考えられるものの,それぞれどのような利点と限 界があり,どこまで実用的に用いうるのか明らかで はない.そこで,本稿は,具体的な市街地をケース スタディ対象地区として,この二つの方法を用いた 計算実験を行う.そして,計算実験結果から,それ ぞれの方法の利点と限界について考察し,さらに, その限界を踏まえた上での実用可能性について検討 する. 本稿では,青森県弘前市の人口集中地区(DID) を計算実験のケーススタディ対象地区とする.ま ず,経路探索用データとしてOpenStreetMapデータ * 正会員 弘前大学人文社会科学部(Hirosaki University)       〒 036-8560 青森県弘前市文京町 1  E-mail:[email protected] GIS−理論と応用

Theory and Applications of GIS, 2017, Vol. 25, No.2, pp.15-22

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を利用し,フリーのGISであるQGISの最短経路探 索機能を繰り返し利用した結果を報告する.次に, Google Maps Distance Matrix APIを用いて,徒歩・自 家用車それぞれの移動手段による地点間距離・時間 を求めた結果を報告する.そして,OpenStreetMap デ ー タ お よ びQGISに よ る 結 果 とGoogle Maps Distance Matrix APIによる結果を比較する.さらに, 計算実験に対して考察を加え,これら方法の実用性 についても考察し,今後の課題を述べる. 2.先行研究のレビュー 本稿に関連する研究として,まずは,Cipeluch et al. (2010) が挙げられる.この研究では,アイルラ ンドの5都市を対象として,OpenStreetMap,Google Maps,およびBing Mapsを比較し,いずれのデータ・ サービスが道路ネットワークの現状を正確に記録し ているかを検証している.そして,特に明白に秀で たデータやサービスがないと結論付けている.ただ し,ここでは,そもそものデータとしての正確性を 検証しているものであり,これを用いた距離・移動 時間計算結果を比較したものではない. 道路ネットワークデータを用いた地点間移動距 離計算結果を扱った先行研究としては,森田ほか (2014) がある.この研究では,日本の主要112都市 を対象とし,地点間の最短経路距離と直線距離の 比率が現実にどうなっているか明らかにしている. この研究では,フリーのGISソフトウェアやネット ワーク解析用ツールも用いられているが,道路網 データは有償のものを利用している. ソフトウェアやサービスの間での移動時間計算結 果を比較したものとしては,Wang and Xu (2011) が ある.この研究では,ルイジアナ州バトンルージュ を対象としたArcGIS Network AnalystとGoogle Maps Distance Matrix APIによる地点間移動時間結果を比 較し,後者の方がやや長い推定移動時間を返すこと などを示している. このように有償のGISソフトウェアとフリーのウェ ブ上のサービスによる移動時間計算結果を比較した 先行研究はあるが,フリーのソフトウェアやサービ スを比較した研究は見当たらなかった.そこで,本 稿では,全くフリーのもの同士の間で,それらを用 いたときの移動距離・時間計算結果を比較する. 3.フリーのデータ,ツール,サービスによる 地点間移動距離・時間の計算実験結果 3.1.計算実験の対象地区,データ 本稿では,青森県弘前市の人口集中地区(DID) をケーススタディ対象地区とし,計算実験を行った (図1).同DIDは,平成22年国勢調査結果に基づい て設定されたものであり,その面積は約25.2平方キ ロメートルである. まず,出発地点,目的地点となるポイントをそれ ぞれ1000個ずつランダムに発生させた(図1では, 出発地点の1000ポイントの分布も表した).そして, これらを組み合わせ,出発地点と目的地点のペアを 1000個作成した.この地点間ペアのすべて,ある いは,その一部を計算実験に用いている. よく知られているように,OpenStreetMapでは, 誰もが自由に空間データの作成に参加でき,その データは,一つの主体だけによって作成されてい るとは限らない.ただし,わが国に関して言えば, 図 1 計算実験対象地区

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Yahoo! Japanが他を大きく引き離して,データ作成 に寄与している.具体的には,旧アルプス社が数 値地図25000(空間データ基盤)を基に作成・編集 した空間データを,OpenStreetMapに提供している. この提供されたデータに記録された地物の種類を挙 げると,道路(ライン),河川・水系(ライン),鉄 道路線(ライン),施設(ポイント),公園・大規模 建物(ポリゴン),などがある. OpenStreetMapからは,osmという拡張子の付い たXMLデータをダウンロードできる.このファイ ルは,Node,Way,Relationを基本要素とする.こ の う ち,Nodeが ポ イ ン ト オ ブ ジ ェ ク ト,Wayが ラインおよびポリゴンオブジェクトに対応する. Yahoo!Japanが提供したデータとの関連で言うと, 道路,河川・水系,鉄道路線,公園・大規模建物 は,すべてWayとして扱われることになる.拡張 子osmのファイルはQGISで開くことが可能であり, 具 体 的 に は,lines,multilinestrings,multipolygons, other_relations,points の五つのレイヤに分ける形で 開くことができる.Wayのカテゴリーに含まれるオ ブジェクトのほとんどは,この五つのレイヤのうち のlinesに含まれる.そのため,Yahoo!Japanによっ て提供されたデータに含まれる地物うち,道路,河 川・水系,鉄道路線,公園・大規模建物なども, linesレイヤに含まれる. この研究では,まず,QGISのOpenStreetMapプラ グインを利用し,弘前市DIDを含む範囲のデータを ダウンロードした.次に,QGISによって,このデー タをレイヤに分けて開き,属性情報によって判断可 能な限り,linesレイヤから道路以外のオブジェクト を削除した.このレイヤの各オブジェクトの「name」 属性をみると,鉄道路線にあたるオブジェクトに関 しては,例えば「JR奥羽線」というような,一目で それと分かる文字列属性が与えられていた.また, 「waterway」属性をみると,河川・水系にあたるオブ ジェクトについては,「river」,「canal」などの空白で はない文字列属性が与えられていた.なお,鉄道路 線と河川・水系以外に,属性から道路ではないと判 断できるオブジェクトはなかった.こうした属性の 特徴を利用し,鉄道路線,河川・水系にあたるオブ ジェクトを除いたものを,経路探索用データとした. なお,このデータにおいて,ケーススタディ対象地 区内のラインオブジェクト総数は4663,ラインオブ ジェクト同士が交差するノード数は18336である. 3.2. OpenStreetMapデータとQGISによる最短経 路距離計算結果 QGISでは,経路探索に用いるネットワークにあ たるレイヤを指定し,「道路グラフプラグイン」を用 いると,一つの地点ペア間の最短経路距離を求める ことができる.ただし,ArcGIS Network Analystの ように,複数の地点ペアについて最短経路距離を求 めるような機能は備わっていない.一方,QGISの 各種機能はプログラミング言語Pythonを通じて利 用することもできる.そこで,1000個の地点ペア に対し,道路グラフプラグインの機能を繰り返し用 いるPythonスクリプトを作成し,これを計算実験 に用いた. まず,そもそも距離計算が実行されないペアが全 体の4.2%(42ペア)存在した.QGIS道路グラフプ ラグインでは,出発地点および目的地となるポイン トから最も近いネットワーク上のポイントを探し, これらの間の最短経路探索を行う.したがって,出 発地点と目的地点がそれぞれネットワークの非連結 な部分に割り当てられた場合,経路探索が実行され ないことになる.ここでの経路探索用データを改め て精査すると,明らかにネットワーク主要部分と非 連結となっているオブジェクトが散見された.具体 的には,建物輪郭,公園内経路,全く不要とおぼし き微細なラインオブジェクト,などがあった(図2). 実際,これらが存在する場合としない場合とでは, 道路グラフプラグインによる経路探索・距離計算が 実行されるかどうかが違うことを確認した. これらのうち,図2における建物輪郭や公園内経 路は,元をたどれば,Yahoo!Japanが提供したデー タにおける公園・大規模建物ポリゴンと考えられる. これらは鉄道路線などと異なり,属性情報から特定 されなかったため,経路探索用データに残されてい たと思われる.一方,微細なラインオブジェクトに ついては,なぜここでの最短経路探索用データに含

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まれているのか,実際にこれに相当する地物が何か, などは明らかにできなかった. このような非連結オブジェクト削除を効率的に行 う方法としては,最短経路探索用データに対してご く小さなバッファ距離を用いたバッファリングを実 行し,ネットワーク主要部分からのバッファに含ま れないものを空間検索し,削除するという方法が考 えられる.ただし,ネットワークの主要部分と非連 結なオブジェクトの中には,大規模建物や公園以外 のものもあり,その中には,単に接続ミスに過ぎな い道路オブジェクトなど,必ずしも削除すべきでは ないものも含まれる可能性がある.また,ネットワー ク主要部分のごく微細な不連続箇所を見出すもので もない. 最短経路探索が実行された958ペアについての計 算結果は以下のようになった.図3は,地点間の直 線距離を横軸,計算された最短経路距離を縦軸に とって作成した散布図である.この散布図からわか るように,直線距離,最短経路距離には非常に強い 相関がある.最短経路距離を目的変数y,直線距離 を説明変数xとし,さらに切片を0に固定して,回 帰分析を実行したところ,以下の回帰式が得られた.         y=1.22117x (1) 決定係数は0.96912という極めて1に近い値であった. この回帰式より,直線距離の1.2倍強の値を最短 経路距離として得ていることになる.このことは, 直線距離と道路距離に関してよく知られた知見(腰 塚・小林,1983)と一致する.それゆえ,経路探索 が実行される限り,フリーのOpenStreetMapデータ や,やはりフリーのQGISを用いても,妥当な最短 経路距離が算出されると考えられる. なお,図3の中の直線はここで得られた回帰式を 表すものである.また,以後の散布図においても, 同様の回帰直線を描き加えている.

3.3. Google Maps Distance Matrix APIを用いた地 点間の徒歩および自家用車による移動距離・ 移動時間 一般的に,Google Maps(わが国に関して言えば, ゼンリンが作成したデータが用いられている)にお ける経路探索は,ウェブブラウザから行われること が多い.ただし,多くの地点のペアに対して移動距 離・時間を求めるとなると,ブラウザ上での検索を 繰り返し実行するのは現実的ではない.一方,こ の経路探索はAPI(Google Maps Distance Matrix API) を通じて利用することもできる.そこで,Google Maps Distance Matrix APIを繰り返し利用するPython スクリプトを作成して,弘前市DID内の(3.2節で 最短経路探索が実行された)958ペアについて移動 距離・時間を求めた.なお,Google Maps Distance Matrix APIでは,移動手段も設定することができる. そこで,徒歩と自家用車に二つの移動手段どちらに ついても距離・時間を求めた.また,ここで958ペ アに限定して計算を実行したのは, この後の3.4節 において,3.2節および3.3節における結果を比較す るためである. 徒歩による距離・移動時間の計算結果は以下の 図 2  QGIS による最短経路探索が実行されないケースを 生じさせるラインオブジェクト 図 3 直線距離と QGIS による最短経路距離

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通りである.図4は,地点間の直線距離を横軸, Google Mapsによる徒歩移動距離を縦軸にとった散 布図である.ここでも,二つの変数の相関は極めて 強いことが分かる.また,3.2節と同様に,横軸値 を説明変数x,縦軸値を目的変数y,切片を0に固定 して回帰分析を実行したところ,以下の回帰式が得 られた.         y=1.21955x (2) 決定係数は0.97032という極めて1に近いものであっ た. 徒歩による移動時間の計算結果をみたところ,移 動距離とほぼ完全な正比例関係にあった.つまり, 仮定されたほぼ一定の移動速度があり,移動距離を この移動速度で除したものが移動時間となっている ことが分かった.移動距離を移動時間で除した値を 求めたところ,この移動速度はおよそ80メートル 毎分であった. 自家用車による距離・移動時間を求めた結果は以 下のようになった.2017年7月1日午前9時を出発 時刻として設定し,958個の地点ペアについて,自 家用車による移動距離および移動時間を計算した. なお,同日の午後12時および午後5時を出発時刻と した経路探索も実行したが,916ペアにおいて,三 つの出発時刻の結果は一致した.一致しない場合で あっても,出発時刻によって計算結果が大きく異な るようなことはなく,例えば,(三つの時間帯での) 移動時間の最大値の最小値に対する比は,平均して 102.3%であった. 図5は,自家用車による移動距離を横軸,移動時 間を縦軸にとった散布図である.全体的には右肩上 がりに点が並んでおり,特に,多くの点が一定の直 線に沿って分布しているように見受けられる.一方 で,この図における破線の楕円内にみられるように, 直線よりも右下側に外れたものもいくつか見受けら れる.これらの点が意味するところは,距離に比し て移動時間が短いということであり,したがって, 移動速度が大きいことを意味する.法定速度として 大きな値が設定され,大きな移動速度による運転が 可能なように物理的に設計されているのは幹線道路 であることも考えると,これらの点は,あえて幹線 道路へと迂回した移動であることを意味していると 考えられる. 3.4. OpenStreetMapデータおよびQGISによる計 算結果とGoogle Maps Distance Matrix APIに よる結果の比較

この節では,OpenStreetMapデータとQGISによ る 最 短 経 路 距 離 計 算 結 果 とGoogle Maps Distance Matrix APIを用いた計算結果を比較する. まずは,QGISによる最短経路距離とGoogle Maps において徒歩を移動手段としたときの移動距離とを 比較する.図6は,OpenStreetMapデータとQGISに よる最短経路距離を横軸,Google Mapsによる徒歩 経路距離を縦軸にとった散布図である.この両者の 間には非常に強い相関が存在する.実際,縦軸値を 図 4 直線距離と Google Maps による歩行経路距離 図 5 Google Maps による自家用車移動距離と移動時間

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被説明変数y,横軸値を説明変数xとした回帰分析 を行ったところ,以下の回帰式が得られ,その決定 係数は0.99135であった。         y=0.99783x (3) ここでの偏回帰係数は0.99783という極めて1に近 い値である.つまり,QGISによって求められる最 短経路距離とGoogle Mapsで求められる徒歩移動距 離とはほぼ等しい. 次に,QGISによる最短経路距離とGoogle Maps において自家用車を移動手段としたときの移動時間 とを比較する.この比較を行うのは,もし両者の間 に強い相関があるとなれば,QGISとOpenStreetMap を用いることでも,結果的にGoogle Mapsによる 自家用車移動時間を確からしく推定できると考えら れるためである.図7は,QGISによる最短経路距 離を横軸,Google Mapsで得られた自家用車での移 動時間を縦軸にとった散布図である.この図から, 両者の間にはかなり強い相関関係があるようにみら れる.実際,QGISによる最短経路距離を説明変数x, Google Mapsによる自家用車移動時間を目的変数y とし,切片を0に固定した回帰分析を行ったところ, 以下の回帰式が得られ,その決定係数は0.87293と いうかなり1に近い値であった.         y=0.21376x (4) 4.考察 この章では,3章における計算実験結果を踏ま えて,QGISとOpenStreetMapデータを用いる方法, Google Distance Matrix APIによる方法,それぞれの 利点と限界について考察する.そして,利点と限界 を踏まえた上で,これら方法の実用可能性について 考えることにする.

相対的に信頼できる移動距離・時間を得られると いう利点があるのは,Google Maps Distance Matrix APIによる方法と考えられる.その理由としては, QGISとOpenStreetMapデータによる方法では,品質 が保証されない経路探索用データに依らざるを得な いことや Google Mapsでは交通規制,実際の交通状 況などが考慮されることが挙げられる.

た だ し,Google Maps Distance Matrix APIに は, そもそも使用すること自体に一定の限界がある.本 稿執筆時点において,無課金での利用は一日最大 2500回までとなっている.したがって,仮に正確 な移動距離・時間が計算できるとしても,限られ た時間内で2500をはるかに超えた数の地点ペア間 について移動距離・時間を求めたい場合,Google Mapsによる方法は必ずしも実用的ではない. 一方,QGISとOpenStreetMapによる方法には,計 算回数の上限などないため,上記のようなGoogle Mapsによる問題点はない.移動距離・時間の計算 結果について信頼性に欠く可能性があるとしても, 3章で見たように,徒歩による移動距離はGoogle Mapsによる徒歩移動距離と極めて強い相関を持つ

図 7  QGIS による最短経路距離と Google Maps による自 家用車移動時間

図 6  QGIS による最短経路距離と Google Maps による歩 行経路距離

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ことから,Google Mapsによる徒歩移動距離とほぼ 変わらない結果が得られると考えられる.また,こ れに80メートル毎分という移動速度を乗じれば, やはりGoogle Mapsを用いた場合とほぼ変わらない 徒歩移動時間が計算される.さらに,図7のデータ に対する回帰分析結果から分かるように,QGISと OpenStreetMapデータによる最短経路距離は,結果 的に,Google Mapsによる自家用車移動時間と強い 相関を持つ.したがって,QGISとOpenStreetMapを 用いることでも,結果的には,自家用車移動時間を 確からしく推定できると考えられる. このように,QGISとOpenStreetMapデータによる 方法は,計算回数に上限がないという利点があり, また,結果的にはGoogle Mapsと同等の計算結果が 得られると考えられる.ただし,3.2節でみたよう に,そもそもOpenStreetMapデータとQGISによる 最短経路探索は実行されない場合があり,そのよう なケースはごくまれではなく,ここでのケーススタ ディ対象地区では,4パーセント程度の割合で生じ ていた. 主要な道路ネットワーク部分と連結しないオブ ジェクトを削除することで,このようなケースを 除くことはできる.そして,先に考え方を示した ように,バッファリングと空間検索を利用するこ とでこのような削除は効率的に実行できると考え られる.しかし,こうした方法を用いたとしても, OpenStreetMapデータの性質上,本来削除すべきでな いオブジェクトを削除したり,あるいは,その後も 修正すべき箇所が残ったりする可能性はある.この ように,QGISとOpenStreetMapによる方法は,ある 程度の対処法は考えられるものの,そもそも計算結 果が得られる確実性という点で難点や不安を残すも のであり,そのことが現時点での大きな限界だろう. このようにみていくと,二つの方法にはそれぞれ 利点と限界があり,有償のデータやツールに対して 一歩譲ると言わざるを得ない.しかし,ここでの計 算実験結果とそれに対する考察結果は,フリーの ツール等が実用的ではないと結論付けるものではな い.むしろ,利点と限界を踏まえた上で,フリー のデータ,ツール,サービスを最大限有効に利用 し,活用する道筋を示していると考えられる.例え ば,いくらか計算結果の正確性を犠牲にしてでも, 夥しい数の地点ペア間の移動距離・時間をいち早く 得たいとする.この場合,計算が実行されなかった 地点ペアについては(例えば,三浦 (2008) による 方法により)補間値で代用するとすれば,QGISと OpenStreetMapデータによる方法が利用しうる.別 の例として,数多くの地点ペア間の移動距離・時間 を求める必要があるものの,時間的余裕がある場合 を考える.この場合,相対的に正確な移動距離・時 間が得られると考えられること,データ準備・修正 の必要性がないこと,確実に計算が実行されること, などの利点を考えると,地点ペアを2500ずつに分 割し,Google Maps Disntace Matrix APIを用いて何 日かに分けて計算すればよいだろう. 5.まとめと今後の課題 本稿では,青森県弘前市のDIDをケーススタディ 対象地として,その中で繰り返し出発・到着地点の ペアを発生させ,それらに関して,OpenStreetMap データとQGISを用いた最短経路距離計算,および, Google Maps Distance Matrix APIを用いた徒歩ある いは自家用車による移動距離・時間計算を行った. また,これら計算結果の比較を行った.その結果を 踏まえて,フリーのデータ,ソフトウェア,サービ スによって地点間移動距離・時間計算を行う二つの 方法の利点と限界について考察した.さらに,利点 と限界を踏まえた上で,これらの方法がどのように 実際に利用しうるかを述べた. このような実用可能性を示す結果が得られたの は,ここでケーススタディ対象とした青森県弘前市 の人口集中地区についてであり,逆に言えば,対象 地区やそのスケールを変えたときには,また異な る結果が得られる可能性がある.例えば,QGISと OpenStreetMapデータによる方法では,そもそも計 算が実行できないケースの割合が著しく高くなった り,計算された最短経路距離と自家用車移動時間の 相関が弱くなったりすれば,この方法が実用的であ るとは言い難くなる.もちろん,その逆も考えられ る.そこで,対象地区や対象空間スケールを変える

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などして同様の計算実験を行うことが,今後の課題 として考えられる. 今後の課題ということで言えば,本稿では,フリー のツール,データ,サービスによる地点間移動距離・ 時間の計算結果を比較・考察したが,有償のデータ やソフトウェアによる結果と比較することも考えら れる.特に,筆者の知る限り,OpenStreetMapデー タを用いた地点間距離計算結果と有償のデータを用 いた結果との比較はこれまで行われておらず,研究 に値するテーマと考えられる. 参考文献 腰塚 武志,小林 純一 (1983) 道路距離と直線距離, 都市計画論文集,18,43-48. 三浦 英俊 (2008) 普遍クリギングを用いた最短旅行 時間予測,オペレーションズ・リサーチ,53(3), 173-178. 森田 匡俊,鈴木 克弥,奥貫 圭一 (2014) 日本の主 要都市における直線距離と道路距離との比に関す る実証的研究,GIS −理論と応用,22(1),1-7. Ciepłuch, B., Jacob, R., Mooney, P., and Winstanley, A. C.

(2010) Comparison of the accuracy of OpenStreetMap for Ireland with Google Maps and Bing Maps. Proceedings, In Tate, N.J. and Fisher, P.J. eds. Ninth International

Symposium on Spatial Accuracy Assessment in Natural Resources and Environmental Sciences (Accuracy 2010), Leicester, UK, 337-340.

Wang, F., and Xu, Y. (2011) Estimating O–D travel time matrix by Google Maps API: implementation, advantages, and implications, Annals of GIS, 17(4), 199-209.

(2017年6月13日原稿受理,2017年9月7日採用決定, 2017年10月13日デジタルライブラリ掲載)

参照

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