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購買力平価説と均衡為替相場-香川大学学術情報リポジトリ

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(1)

購買力平価説と均衡為替相場*

宮 田 亘 朗

均衡為替相場が正面から経済学の問題として取り扱われたのは,第一次大戦 後の経済的混乱期に金本位制の停止とその後の復帰の過程を通じてであった。 そして,第二次大戦後には,IMF体制下における IMF平価の設定と収支の基礎 的不均衡および為替相場の安定性問題、へとその中心論点を移してきた。以下, われわれは,これらの議論のなかにある均衡為替相場概念をカッセルの購買力 平価説と対比しながら考察すると共に,そこに国際的貨幣ベール観の存在を見 出そうと思う。なお,本稿は

1

9

6

0

年以前を主に取扱う。第I節において長期均 衡相場へのカッセル的接近を取扱い,第

I

I

節においてその需給による接近を取 扱う。そして,最後の第III節において,メッアラーの論文から初期のIMF平価 と購買力平価の比較を掲げて,結びとする。

I

国際的貨幣ベール観とカッセル的接近 圏内諸取引と同じように国際諸取引を分けるなら,われわれは大別して貨幣 的側面と財の側面を考えることができる。国際諸取引を貨幣の側から把えるも のは,いわゆる国際金融の理論である。外国為替の理論は,その中に含まれる。 そこで,直ちにこの外国為替の理論が財・サービスの流れをどのように把握し ているかということが,問題となる。 *本稿は,拙稿「均衡為替相場について(其ー)J国際経済学研究シリーズNo.14,1958年7月 と「均衡為替相場について」大泉行雄博士還暦記念論文集『経済政策の現代的課題』頚草書 房昭和38年,および「国際収支の均衡」香川大学経済論叢第43巻1・2・3号昭和45年8 月,さらに「国際収支表とその均衡(l)j香川大学経済論叢第53巻2号昭和55年10月を再 考し加筆修正したものである。

(2)

369 購買力平価説と均衡為替相場 -25-ヵ、って, われわれは国際的貨幣ベール観を次のようなものとして規定した。 先ず,それは, (イ)通常の圏内における貨幣ベール観を含む。すなわち, 圏内の 通貨の変動は,財・サービスの側に何の影響も与えない。 この考えは,特別目 新しし、ものではなく, そこに国際的と云う形容調を付す理由はない。そこで, 第二として, (ロ)国際的決済手段(金および外為)が国際的財・サービスの流れ に何の影響も与えないとする考えをつけ加えねばならない。国際間の財・サー ビスの流れは, 各国圏内の財の生産や消費などの諸活動に依存することは云う 迄もない。 したがって, この(ロ)の規定は, (イ)の規定と明確に分離しえないもの のように思われる。しかしながら,われわれはなお両者を区別せねばならなし、。 それは, かりに国内通貨が完全に満足し得るような形で各国圏内において財・ サービスの流れと関係し理論付けられたとしても, 国際間を流れる金あるいは 外貨が国際貿易の結果を単に事後的に決済する手段でありそのためにのみ授受 されるにすぎないとするなあ, そこに貨幣ベール観の存在をみなければならな いからである。 このような国際的貨幣ベール観は,既に考察した如く

JS

,ミルの外国為替理 論に現われており,またより明確には

G

カグセルの購買力平価説にみることが できる。それらを要約すれば,次のようである。先ず,

J

s

,ミルの国際的貨幣 ベール観は, その貿易の理論的支柱である比較生産費説と相互需要均等の原理 が貨幣の存在しない物の世界の原理として組み立てられ, したがって貨幣は単 に機械油の役割しか演じないとすることから生じるものである。比較生産費の 原理は輸出され輸入される財がし、ずれであるかを決定し,相互需要均等の原理 はそのときの輸出入の比率を決定する。そして貨幣は,単にその結果を実現す るように国際間を動くに過ぎないものとされる。そこで,必然的に

JS

わミルの 外国為替相場の変動は,物の世界の原理でなされるこのような商品の交換が実 現しうるように変動するという一定の枠をはめられることとなり, し

T

こカ:って (1) 拙稿「購買力平価説と国際的貨幣ベーノレ観」香川大学経済学部研究年報,Na24, 1984年。 (2 ) 拙稿 上掲論文および「カグセノレの購買カ平価説」香川大学経済論叢 第57巻3号, 1984年12月。

(3)

-26- 第58巻 第2号 370 国際的貨幣ベール観に立脚するものとなる。なお, この場合国際的貨幣ベール 観の前記二つの規定のうちで,げ)の規定は比較生産費の原理と直接関係し,他 方(ロ)の規定は相互需要均等の原理と関係している。すなわち,後者の相互需要 均等の原理は,貨幣を除いた物に対する国際的需要(純需要〕の均等となる点 において輸入品の価値が決定されること,また貨幣の存在がこの需要に何の影 響をも与えず国際間を無色透明な決済手段として流出入するにすぎないことを 意味しているからである。そして,この原理と外国為替相場の関係は,その均 衡相場がこの原理により与えられた均衡点に定まり行くこととして表現され る。すなわち,物の世界の落ちつく点は相互需要均等点であり,一方為替の落 ちつく点は収支均等点すなわち均衡相場である。そして,そこにベール的為替 手形の授受が仮定されているのである。 他方, G カッセルの購買力平価説は,周知のように為替理論におけるインフ レーション説とまで言われるように,全く国際的貨幣ベール観に立脚したもの であった。彼の理論の根本的欠陥は,彼の貨幣観に起因するものであったが, この点を度外視しても次のことを指摘することができる。相対的形式によって みる場合,カッセルの理論は,先ず実際に収支が均等で、あった時点の為替相場 を基準年度としてとり,次いでそれに(例えば

$1

=詑〉各国の物価水準のそ の後の変化を表わす指数の商を乗じる(例えば

$1

= ヂ2x200j300)ことによ り現在の均衡相場を導出しようとするものである。しかしながら,この計算が 正当であるためには,基準年度において財の

$1

分とヂ

2

分とが実際に相等しい ものとして取引されていたこと,および比較される当該年度においても釘× 300と 詑x200とが相等しくなるであろうことの両者が成り立つことを必要 とする。前者は基準年度を注意深く選ぶことによって実現可能である。しかし ながら,後者はこのことから直ちに成り立つものとは云い得ないようである。 もし基準年度における取り引きに入った総てのもの並びにその構成が不変のま まに維持され物価のみが比例的に300倍と 200倍になったとすれば,そのと (3) 例えば,金原賢之助『為替理論概要』昭和15年。

(4)

371 購買力平価説と均衡為替相場 -27-きの両国における $lx300と子'2x 200は同量の財・サービスを購入でき相等 しいと置くことができることになる。そしてこのケースを除けば,本来無関係 な $1x 300と 詑 x200が相等しくなるとすることはあり得なし、。したがっ て,購買力平価説が妥当するには,基準年度の $1ニ ヂ2の相場を作り出した背 後の物の世界(財の側面〉が本年度においても再び繰返され,そして新しい商 品の出現や交易条件の変化など生産と需要の諸関係を不変のままに残し,ただ 基準年度の価格のみが300倍と 200倍になるような状態が生じることを不可 欠とする。換言すれば,カッセルの購買力平価説は,全く国際的貨幣ベール観 に立脚するものであると言える。 カッセルの購買力平価説が出てのち,

F

.

.

D

引グレーアムおよび

J

H..ロジャー ズさらにH..

G

ホワイトや

M

J

ワッセノレマンなどの実証研究を経て,購買力 平価説の非妥当性についての数多くの議論がなされた。そのうち,ホワイトは, 1930年代初めのイギリス,スウェーデン,アルゼンチンの実証研究にてらして, 外国為替相場と圏内物価との聞に特別の関係を見出し得ず,したがってそこに 購買力平価説を設定することは全くの誤りであり何の有意義な成果も得られな いと論じた。このような考え方は, 1919年 -1926年のフランスの卸売物価変 動を研究したワッセルマンについても同様であった。しかしながら,他方で購 買力平価説を否定せずその非妥当性を是正しようとする試みも存在した。例え ば Kデ、ィ一川

2

,)第一次大戦後のドイツのインフレを三期に分けて考察し, 購買力平価説と収支説(需給説〉が全期間に亘って妥当せず各期においてその いずれかが主役を演じていることを見出し,そして収支説を因果論において上 位を占めるものとし紙幣の増大・インフレの生じる場合のみ購買力平価説を第

( 4) Graham, F..

D

, Excha冗ge,Priω, and Production in

H

.

:

究per-Injlation Ge門 匁any,

1920-1923, 1930 Rogers, J H, The Process

0

/

Injlation in Franじe,1914-192,71929 White, H.. G. JR, Foreign Exchange Rates and Internal Prices under Inconvertible Paper Cunencies, A..E R引Vo125,No..2, June 1935 Wasserman, M J , The Compression of French Wholesale Prices during Inflation : 1919-1926, A.E R.VoL 2, Mar, 1936. ( 5) Diehl, K, Theoretische Nationa必定'onomie,Band I,I!

s

.

.

343-67

(5)

-28- 第58巻 第 2号 372 二の要因として加えるべきであると主張した。また,わが国の高田保馬教授も, 収支説は動態の説明原理であり平価説は静態の説明原理であるとなし,両者の 統一を企図した。そして,このような説を「緩和された購買力平価」と呼んだ のである。これらの考えは,従来存在した金本位制下の為替相場の説明原理で あった金平価と収支説(需給説〉の関係を不換紙幣下に援用して購買力平価に 収支説を結合しようと試みたものであると言いうる。 第二次大戦後,このような購買力平価説と収支説(需給説)は,国際通貨基 金

(

I

M

F

)

平価の設定とその協定第 4条にある基礎的不均衡併mdamental dis -equilibrium)の解釈をめぐって再び形をかえて登場してきた。前者の購買力平 価説は,上記のような単純な収支説との結合の形態ではなく,むしろ外国為替 市場で生じる需要と供給を背後で操る根本的要因を国内の物価水準とは別のも のに見出し,それによって長期の均衡相場を規定しようとする形態で出現した。 その代表的なものは,A.Hハンセンの生産費構造平価(ωststruc抑repar.か)で ある。ノ、γセンは,

1925

年-1930年のポンドの高評価時代にその高評価が国 際収支(需給〉の不均衡(すなわち金や短期資本の移動〉に反映されず国際的 な費用一価格構造の差異に反映したことに着目し,各国において完全雇用が維 持されるように生産費水準と価格水準とが正常な一定の均衡を保っており国際 貿易が人為的干渉のない状態で自然資源を基礎にして比較優位にもとづいてな される場合における生産費の平価をもって均衡相場を規定しようとしたのであ る。他方,またわが国では,鬼頭教授が生活水準による平価を提唱し♂;それ は,国際取引の主なものが商品取引であることおよびその商品取引が結局その 国の消費力と生産力によって規定されることからみて,各国の消費と生産を端 的に表現する生活水準をとりあげ,それによって平価を規定しようとしたもの (6) 高田保J罵「購買力平価説の一考察」経済学論叢第30巻 6号および第 31巻 l号。 (7) これらは,いずれも購買力平価説の欠陥を根本的に是正するものではなし、。

( 8) Hansen, A. H, A Brief N ote on “Fundamental Disequilibrium", R..E. Stat, Vol

26, Nov.1944. (reprinted inForeign Eeonomic Polic.y for the United States, ed by S

E.. Harris, 1948, pp 379-83)

(6)

373 購買力平価説と均衡為替相場 -29-である。例えば,ある国の普通労働者一カ月分の消費量を算出しわが国の

1

/

3

であったとし,その価格をわが国で

90

円外国で45 ドルとするなら, 45 ド ル =

90

1

/

3

すなわち1..

5

ド ル =

1

円と言う生活水準比の平価が見出され る。したがって二国労働者一ヵ月分の所得を !,!fとし,それで買いうる財の量 の比を Q/Qfとするなら ,!=!IQ/QIゆえに

R

=

(Q/QI)([I/1)となる。 これらニ説のうち前者の生産費構造平価は,具体的形式(計算方法〉を明示 していない。したがってそれは,かりにニ国聞の生産費構造の指数として賃金 指数の比をとって代用するとしても,結局それがどれほど購買力平価と異なる ものを表わし得るものかと批判される。また後者の生活水準による平価につい ても,具体的形式は明示していると言えども,それがどれほど各国通貨価値の 指標として役立ちうるものか著だ問題であるとされるのである。 さて,われわれは,このような購買力以外のものに為替市場における需要と 供給の背後にある根本的変動要因を見出しそれによって長期均衡相場を規定し ようとする考えを,均衡為替相場に対するカッセノレ的接近と呼び,他のものと 区別することにする。本節は,以下このカッセノレ的接近を取扱う。 このカッセル的接近には,第二次大戦煩から

1960

年までをとるとき,以上の

A

H.ハンセンと鬼頭教授のほかに

M

E

ガーンズィや片野教授を挙げること ができる。先ず,ガーンズィは,

1

9

3

5

年のベルギーにおけるフランの切下げに言 及し,それを背後で支えた理論として次のものを考え,その妥当性を主張した。 イギリスの金王子価復帰と平価切下げに続いてベルギーは,

1

9

3

5

年にそのフラン を切下げた。当時の状況において,それはかなりの成功をおさめた。その経験 は,ガーンズィによると第二次大戦後の!MF平価や基礎的不均衡の概念に重 要な示唆を与えるべきものであった。一般均衡理論によれば,経済諸力は相互

(10) 例えば, Tamagna, F.. M, The Fixing of Foreign Exchange Rates,

J

P E, Vol

53, no..1, Mar..1945

(11) 拙稿「均衡為替相場について(其ー )J国際経済学研究シリーズ No.14, 1958年7月。 (12) Garnsey, M. E, Postwar Exchange-Rate Parities, Q J E, vol60, no“1, Nov

1945

Katano, H, Reconstruction of the Theory of Purchasing Power Parity, Kobe

(7)

-30- 第58巻 第 2号 374 依存の関係にある。そこで,彼は,このことを前提として当該国における経済 的資源を基礎においた圏内および圏外に対する一定の価格関係〈体系〉の形成 を主張した。そして, もしその国の経済にゆがみが生じている場合には,それ はその国の価格体系の不釣合に表われてこなければならないと言う。いま ,X を金で測ったスターリングのベルギー・フラン価格

y

をブリュッセルにおけ るスターリング相場の三カ月移動平均値,UOU1を基準時点と現時点のイギリ スの生計費,

BoB1

を基準時点と現時点、のベルギーの生計費とする。このとき彼 の云う価格不釣合は,

U

O

B

1

X/

U

1

Bo

Y

となる。あるし、はより簡潔にニ国の生計 費指数を金で換算することによって価格不釣合指数(inde

.

x

of

ρ

rice d;向仰nか) として求められる。 /イギリスの生計費指数

1

価格不釣合指数 100( ~,,/' :;::~~~.;:~~~ 1) (1) ¥ベルギーの生計費指数 / 彼によると,この指数は,負値をとるときイギリスに対しベルギーが不利すな わちベルギーの相対的価格末調整を表わしている。なぜなら,イギリスでは為 替相場の切下げが行われそれに応じた価格調整が既に終っていると考えうるか らである。かくして彼は,この価格構造(pri

C

e

structure)のゆがみによる指数に よって

IMF

の言う基礎的不均衡を表示しようと試みたのである。 ここに言う価格構造のゆがみは,ガーンズィによると対外的ゆがみ(external distortion)を表示したものである。これに対し,彼は対内的ゆがみ

(

i

n

t

e

r

n

a

l

d

i

s

t

o

r

t

i

o

n

)

をこれと類似の方法で導出する。すなわち,ベルギーにおける工業 用原材料卸売価格に対して,小売価格と生計費および賃金の比率を計算し上式 の方法を用いておのおのの指数を求める。そして,これらの指数の聞の比較を 行う。この場合,小売価格や生計費並びに賃金等は,工業用原材料の卸売価格 に較べて対外的変化に反応する程度が鈍い。したがって,これらの指数の動き の聞に差異を生じる。この差異は,ベルギー自体の経済における価格構造のゆ がみを反映したものであると言える。かくして,ガーンズィは,この指数の動 きの差異を対内的ゆがみとして把え,これらと対外的ゆがみを勘案して対外的 ゆがみが当該国の経済内部に原因したものか否かの判断を行い為替相場切下げ

(8)

375 -30 -20 -10 +10

¥¥戸

1

J 1931 購買力平価説と均衡為替相場 第 1図 価 格 不 釣 合 指 数 一 一 一 ーイギリスベルキー (対外的ゆかみ) 1931-1936(1930=100 ) 賃 金 h , .,~ , 、 r

"

J I , 、 、 II rv I 1 II I I + 1 1 1 1 1932 1933 1934 1 t 1 + s a -31-生計費 1935 1936 の必要度を見出そうとした。そして彼は, このような考えこそ,

1

9

3

5

年のベル ギーにおける為替相場切下げの背後に存在した理論であると主張したのであ る。第

l

図は,

1

9

3

0

年を基準にとった場合の

1

9

3

1

-1936

年のガーンズィ自 身の導出した対外的ゆがみを表わす指数を再掲したものである。 また,第

2

図 U主, 同じく彼がベルギーの対内的ゆがみとして導出した各種指数を再掲したも (13) 彼は,当時のベルギー・フランスの切下げ率につき次のように言う。当時ベルギー当局 は1928年を基準年に使用した。その場合,対外的価格不釣合指数は160となる。しかし, 基準とした1928年において約20%の不均衡を示すゆがみが存在した。したがって,調 整すべき値は, 160/120

=

1..33であった。すなわち,ベルギ一フランスは1/3の過 大評価といえた。この値は,フランの金内容の25%減によって均衡の回復可能なことを 示していた。ところが,当時ベルギーの生計費指数は,もしフランの切下げを行うなら輸 入食料の上昇によって価格騰貴を生じることを示していた。そこで,これを考慮して,当 局はフランの切下げ率をお%に決定したのであると。

(9)

-32 第58巻 第2号 376 第2図対内価格不釣合 (対内的ゆがみ) 1930-1936 -50

{

'

I

!

i

J

べルギー

)

ス 倍 令 ι ・ │ -20 -10

+10

ーーー小克価格 γ

:

語二l高格 一一生計費イキリス │ 小 川 凶 +2 L-_____ i _ _ _ _ _ _ _ _ I -_ _ _ _ _ _ - I一一ー生計費三万三ヰー

1930 1931 1932 1933 1934 1935 1936 ペイルギギリ日一ス 1930=100 oct

1930~sep.

1931=100 のである。このうち第

2

図は,ベルギーの対内的ゆがみを示す三つの系列が

1

9

3

5

-1936

年にかけて相互に大きく議離してくることを示している。この ことは,この期間ベルギーにおいて比較的伸縮性の高い価格が国際的動きくイ ギリスの為替切下げによる〉に反応して調整したのに対し,他の価格が調整せ ずそのため対内的ゆがみを生じたことを物語っている。そこで,彼はこのこと からして第2図で対内的ゆがみを表示することによって第l図に示す対外的不 均衡がベルギーの経済内部のゆがみに原因して生じたことを読みとることがで きると結論するのである。 ガーンズィは,この価格不釣合指数による平価を提唱するに際し,その多く

(10)

377 購買力平価説と均衡為替相場 -33-をF.

.

cミルズに負ったことを述べる。しかしながら,彼の説がA.

Hハンセン によって同時代に主張された生産費構造平価の一種であること,またその意味 で新しい衣を着た購買力平価説であることは,疑う余地のないものである。ガー ンズィによると,この価格不釣合指数による平価は,購買力平価説よりも, (a) 価格構造のゆがみとし、う概念を使用したこと, (b)そのゆがみを対内と対外にわ けゆがみの源泉をたどり得たこと, (c){面格体系のゆがみと生産構造の誤った調 整を強調することにより短期不均衡の問題を解決したこと,等の点において優 れているとされる。しかしながら,これらの諸点についてRF.マイクセルは, 次のように批判する。すなわち, ( i )工業用原材料価格が比較的外国の影響を受 けずそのため生計費指数との聞に大きな差異を生じないような大国アメリカの 場合に, この方法では価格構造のゆがみを見出しえなくなる, (ii)価格不変で町 生産量や交易条件の変化というようなリアノレの関係に変化を生じるときは,対 内的および対外的価格構造のゆがみを除去するだけでは国際収支の均衡を回復 させ得るものではない, (iii)価格不釣合指数の変化が対内的ゆがみに原因する 場合,それを通貨切下げによって解消するならば,近隣窮乏化政策の道をたど ることになる,等々である。このうち(i )の諸価格の指数間の差異が生じない ようなケースは,必ずしも大国だけでなく小国においても時代によって起こり うることが知られている。この点は,既にガーンズィに賛同する

L

H.デュプ リーによって指摘されたところである。また, (ii)の価格関係や為替相場に関 係なく経済的不均衡が雇用水準にのみ反映されることについても,既に

A

.

H. ハンセンによって指摘されている。 これらのマイクセルの批判のうちで (ii)の点は,われわれにとって特に興味 あるものである。すなわち,ガーンズィの価格不釣合指数による平価は,それ (14) Mills, F.. C, Prices and Recession and Recoveryを指している。 (15) Micksell, R. The DF,. etermination of Postwar Exchange Rates, Southern Econ,

1

VoL 13, Jan 1947

(16) Dupriez, L H., Postwar Exchange-Rate Parites: Comment, Q ] E, Vo.I60, no 2, Feb 1946

(11)

-34 第58巻 第2号 378 が購買力平価の一種であり基準時点からの変化をとる限り,たとえ価格として 生計費指数やその他諸々の価格指数をとりその聞の比較を行うとしても,指数 聞の差異を是正するように為替相場の調整を行う以上,経済のリアルな関係を 基準時点に存在したままに維持しようともくろむ点では何等変わるものではな いからである。しかも,国際取引において国際的決済手段に対する需給を全く 考慮していない。したがって,われわれは,ガーンズィの平価説を国際的貨幣 ベール観に立脚したものであると結論することができるのである。この点につ いては,完全雇用における生産構造の平価を主張するハンセンの生産費構造平 価についても同様である。すなわち,基準時点、として完全雇用で、かっ収支が均 衡にあった時点をとり何等かの方法で生産費構造の指数を計算しハンセンの言 う平価を導出できたとする。このとき,彼の平価は,生産費の構造が基準時点、 以降現時点まで一定であることを仮定することになる。したがって,そこに新 商品や生産技術の改善などは入り込めないことになるのである。 次に,われわれは,カッセル的接近として片野教授の社会所得率(socialrate of income)による平価を考察せねばならない。教授は,先ず購買力平価説の理 論的欠陥を考察し,それが基準年度の選択の誤りおよび人為的統制や貨幣の価 イ直への期待並びに為替投機などが存在するときまた各国の相対価格変化が生じ るときに妥当しなくなることを述べる。そして, このうち最も重要な相対価格 変化につき,基準年度を1930年にとり

1

9

2

1

-1936

年の期聞の購買力平価 と日米間実際相場を比較することによって検討した。その場合,購買力平価は 両 国 の 卸 売 物 価 指 数 を 用 い て 計 算 し , 基 準 年 度 の 相 場 は 当 時 の 金 平 価 ¥ 100

=

$

49845

をとる。その結果は,第

1

表に再掲した通りである。この表に おいて

E

欄の購買力平価と

F

欄の横浜・ニューヨーク間7T売相場との聞の 相関係数は -0.0620である。これは,両者の聞にほとんど関係がないことを示 している。しかしながら,教授は,全期間のうち部分期間をとり

1925

-1929

年に限定してみると,その相関係数が0.9277と高い値を示すことに注目した。 (18) Katono, H., op.. cit

(12)

379 購買力平価説と均衡為替相場 -35ー 第1表 購 買 力 平 価 の 推 定 アメリカの 物日本価の指卸数売 (A) 金 平 ? 価) 横 浜 ・ 卸 売 物 価数 (B) (100=$

!

(C)・(D) こユューヨーク

t

(TTF売相場〉 A B

c

D E 1921 113 0 146 6

o

771 38 430 48 050 1922 111 9 143 2

o

781 38 928 47918 1923 116..4 145 6

o

799 39826 48 816 1924 113 5 151 0

o

752 37483 41 978 1925 119 8 1475

o

812 40 474 40 801 1926 115 7 130 8

o

885 44 112 46 856 1927 110 4 124 1

o

890 44 362 47.425 1928 1119 125 0

o

895 44 611 46457 1929 110.3 12L5 0907 45209 46069 1930 100 0 100 0 1 000 49 845 49845 49367 1931 84 5 84 6

o

999 49795 48 871 1932 75 0 89 1

o

842 41 969 28 099 1933 76 3 992

o

769 38 331 25 220 1934 867 98 2

o

883 44 013 29 511 1935 92 6 102 5

o

903 45 010 28 570 1936 935 109 2

o

856 42.667 28959 そこで,日米両国で比較的ウェイトの高い商品を 6グループに分けてとりあげ その各々の商品の卸売価格の全商品卸売価格に対する割合(相対価格〉を求め た。すなわち,第

3

図および第 4図である。教授は,この両図から相対価格の 散らばりの比較的小さい期聞が両国同時にみるとき

1926

-1929

年である ことを見出した。そして,この期間が上記の購買力平価のよく妥当した期間と 一致していることを指摘するのである。 このように購買力平価説の最も重要な欠陥を相対価格の変化に求めたのち, 教授は,購買力平価説の誤りの原因が貨幣の購買力を価格水準の変化に結びつ (19) 両図は,各年につき計算した割合を直線上に並べて構成したものである。第3図の 1921年を例にとってみると,全商品の卸売価格に対する個々商品の卸売価格の割合が最 も大きいものは1.355の鉄鋼であり,最も小さいものは0641の米穀であった。その他 商品(小麦,絹,綿,石炭〉は1921年の直線上のこの最大値と最小値の聞にそれぞれマ ノレ印により示された値をとっている。

(13)

-36- 第 58巻 第 2号 380 第3図 日本における相対価格変化 第4図 アメリカにおける相対価格変化 7aphu に daqnztυ

。 ,

b 1 ょ の υ Q d n δ 々 t F O -T よ 1 4 t i T よ t A T よ 唱 i n υ ハ U A リ ハ υ

o

8 1 2 1 1 1 0 0.9 1925 1930 1935 1925 1930 1935 けた点にあると考えた。そこで,別の形で貨幣の購買力の推定を試みる。先ず 教授は,貨幣の価値がそのー単位に含まれる金の量によって表示されることに 着目し, 1932年-1936年の期間に関する金の価格変化をとり検討する。その 結果,金の価格から導かれた為替相場と実際の為替相場との聞に相関係数がG 8482となることを見出した。しかしながら,教授は,各国で公的金価格設定が 行われていず単に国際間で金による決済が行われているにすぎない現状におい て,金の市場価格が比較的有効な平価設定手段であると認め得るとしても,各 国における金の市場価格の入手困難であることを考えるとき,かかる方法を放 棄せざるをえないとした。 そして,これに代る次善の策として社会所得率ρによる平価を提唱した。い ま,第

t

商品の平均的生産方法を (an,…,ain)とする

u

=

1

,… , n)。この場 合,労働に対する付加価値率は, ρi

=

(ρ i-~a iJρ j)/ れとなる。ただし , ai.jは

商品

t

をl単位生産するに必要な生産財 jの量を表わし,れはそのときの直接 労働量,また

ρ

z

は商品

t

の価格を表わす。もし異なる部門で平均的生産方法が

(14)

381 購買力平価説と均衡為替相場 -37-一定であるならば, このρzは,その合計である労働に対する純国民生産物の割 合

Y/N

に等しくなる筈である。 ρ一

ρ

1-

~a iJPj 一 -ti ~(ρ? 二 ~a,iJ主j) -

L

~ti N'

1

,“ ,

n

(

2

)

そして,このような場合,

M

~aup.j+ ρれが成り立ち,また l 単位の生産に 支出された平均労働時間

t

i

に関してん

=

~autJ+

t

i

が成り立つ。 したがっ て,

ρ

t

i

ρ ρ

t

i,ゆえ γー←一一一 」

ρ

t;

(

3

)

を得る。すなわち, この背後には,価格と価値は互いに等しいと云う関係が含 このような価格が価値に等しくかっ異なる部門の生産方 平均所得率ρは(第

t

財を貨幣商品とするとき明ら かなように),貨幣商品の価値の逆数を表示することとなる。ただし,不換紙幣 まれている。そして, 法が一定である場合には, の流通する状況では, ρは価格が不換紙幣によって表示される関係上不換券で、 表示された本位商品の価格の価値に対する割合となる。かくして,ρの逆数は貨 幣の購買力であると云い得る。 しかしながら,実際の社会で異なる生産部門の 平均所得率ρ2が互いに相等しくなることはありえない。そこで,教授は,社会 所得率

F

を導出し,それによって貨幣の価値を表示しようと試みる。すなわち, r - Z &五

Y

ド ~ti -

N

(

4

)

である。 このとき ,

p

は異なる部門の労働時間でウェイトした加重平均所得率 である。そこで, この場合の貨幣の購買力(価値〉は, この社会所得率

F

の逆

1

9

2

1

-1936

年の期間について, 数で表示されることになる。第

2

表は, 日 本の純国民生産物と労働者およびアメリカの民間生産所得と有給労働者のデー タを用いて ,1930年を基準とした社会所得率

F

の指数を計算し,それを 1930 年の金平価に乗じることによって, 各年の平価を導出したものである。それと 実際の為替相場とは,

K

欄と

L

欄に掲げられている。両者の相関係数は,

α

9404の高い値を示す。かくして, これらのことから教授は,社会所得率を用い た平価がより妥当なものであることを主張したのである。なお,教授は,1930

(15)

第 2 表 社会所得率による為替相場の推定 民間生 the U.S.A Japan 1930 年に 横浜・ 産所得 有給労働者 (A) ((CC 〉〉 '30 純国民生産物 労働者 (E) (G) (D) おける ニューヨ -lJ (単位 100 (単位1. ωo 人) (B) (単位 1 仰万円) [単位 1.000 人) (F) (G)'30 (H) 金平価 ([)・(J) 間 TT 売相場 万ドノレ〉 (¥ 100= $ ?) (A) (B) (C) (D) (E) (F) (G) (H) (I) CJ) (K) (L) 1921 48 , 763 42 , 445 1. 149 0.909 12.055 27 , 497 0.438 1. 152 0.789 39.327 48.050 1922 49 , 036 42 , 966 1. 141 0.903 12 , 107 27 , 733 0.437 1. 150 0.785 39.128 47.918 1923 57 , 213 43 , 760 1. 307 1. 034 12 , 117 27 , 969 0.433 1.140 0.907 45.207 48.816 1924 58 , 178 44 , 549 1. 306 1.033 13 , 702 28 , 205 0.486 1. 279 0.808 40.274 4 1. 978 1925 60 , 949 45.009 1. 354 1.071 14 , 304 28.441 0.503 1. 323 0.810 40.374 40.801 1926 63 , 857 45 , 962 1. 389 1.099 13.344 28 , 676 0.465 1. 224 0.898 44.761 46.856 1927 63 , 942 46.939 1. 362 1.077 13 , 051 28 , 912 0.451 1.187 0.907 45.209 47425 1928 65 , 653 47.914 1. 370 1. 084 13 , 464 29.148 0.462 1. 215 0.892 44 .4 61 46.457 1929 58 , 872 48.354 1. 217 0.963 13 , 941 29 , 384 0.474 1. 247 0.772 38.480 46.069 1930 61 , 968 49 , 006 1.264 1. 000 11 , 245 29 , 620 0.380 1.000 1. 000 49.845 49.845 49.367 1931 50.066 49 , 597 1.009 0.798 10 , 678 28 , 990 0.368 0.968 0.824 4 1. 072 48.871 1932 37 , 132 50 , 132 0.741 0.586 11 , 591 29 , 176 0.397 1. 045 0.561 27.963 28.099 1933 35 , 074 50 , 691 0.692 0.547 12 , 963 29 , 777 0.435 1. 145 0 .4 78 23.825 25.220 1934 40 , 205 51.267 0.778 0.615 13.670 30.794 0.444 1.169 0.526 26.218 29.511 1935 44 , 037 51 , 769 0.851 0.673 14.952 3 1. 400 0.476 1. 253 0.537 26.767 28.570 1936 49.852 52 , 237 0.954 0.755 16.645 30 , 859 0.539 1. 418 0.532 26.517 28.959 む 3 c6 滋忠誠獄 む、a <l1D ω∞N

(16)

383 購買力平価説と均衡為替相場 -39-年

-1955

年の日本およびアメリカにつき,ともに純国民生産物と労働者の データを用いた場合の社会所得率による平価をも計算し,それが同期間の卸売 物価にもとづく購買力平価や金の価格から求めた平価と較べて優れていること を付言する。 以上が片野教授の社会所得率

F

による平価の概要である。それは, (3)式から 推察しうるように基礎を置塩教授の考えに置きそれを国際面に拡張したもので あり労働価値説の裏付けを持ったものであるといえる。そして, (3)式の平価所 得率ρや上記の社会所得率

F

は,純国民生産物の労働者に対する割合すなわち 労働者一人当りの国民生産所得によって表現されうる。いま,労働者一人当り の国民生産所得をめで表わし,為替相場を

R

t

で表わすと,この社会所得率に よる平価は,

R

t

=

R

o

倣?

(5) として求められる(ただし,添字/は外国を,添字 tは時点を表わす〉。この

(

5

)

式は,

R

!

t

R

o

=

(

Y

{

/

Y

6

)j

(

y

t

!

y

o

)

を意味し,背後に基準時点において金平価と社 会所得率の聞に

Y

o

R

o

=

Y

6

の関係を含んで、いる。労働者一人当たりの国民生産 所得

Y

t

あるいは労働者一人当たりの社会的付加価値

F

は,本来二国間で異質 な財あるいは労働からなり単位を異にする比較不能なものである。したがって, 関係式

y

o

R

o

=

Y

{,は,この比較不能なものを基準時点の金平価を通じて均等で あると仮定することによって,比較可能にした換算式を意味していると言える。 そして

(

5

)

式は,

t

時点の為替相場丸がその換算の下で導出されることを表わし ている。

(

5

)

式の労働者一人当たりの国民所得れは,社会所得率

F

によって表示され る貨幣の価値の指標である。そして,労働者一人当たりの国民所得

Y

t

は,いわ ば労働者の所l得に関する平均的生産力である。したがって,

(

5

)

式は平価をニ国 の生産力によって規定しようとするものであると言える。このように生産力に (20) よって平価を規定しようとする考えは,前述の鬼頭教授に既に存在した。すな (20) 鬼頭仁三郎上掲書。

(17)

-40- 第58巻 第2号 384 わち,教授の生活水準による平価は, 国際的商品取引の主たる決定因が各国の 消費力と生産力であるとする考えにもとづいてそれらの指標として生活水準を とりあげていた。ゆえに, この観点からみる限り,片野教授の社会所得率によ る平価も,背後の理論を異にするといえども,その形式においては鬼頭教授の 生活水準による平価と大きく異ならないものであると言うことができる。 しカミ しながら,鬼頭教授の生活水準による平価(下記の

(

6

)

式〉は, それを相対的形 式に書き改めると片野教授の社会所得率による平価と形式的にも多少異なるこ とがわかる。

R=If/QY-Q I

f

一 一 一

I

/

Q

- Qf 1

Rt = R

。袋持与

一 -

J(

/U

t -" 0

Q

{

/

Q

{

It/lo (絶対的形式〉

(

6

)

(相対的形式) (7) すなわち, (6)式は, 普通労働者が両国において同質の財にのみ支出を行いその ため彼等の一カ月分の消費量が比較されうる場合にはじめて成り立つ式であ る。さもなければ,割合

Q/Qf

の導出は無意味で、あるからである。他方,

(

7

)

式 は,基準時点における為替相場を通じて両国の生活水準(ん

/

Q

o

)

R

o

=

(I

t

/

Q

{

)

のように均等になると仮定されてはじめて成り立つ式である。そして,この

(

7

)

式は,物量比

(

Q

{

/Q

o

)

/

(

Q

{

/

Q

{

)

を右辺にもつ点で前述の片野教授の(5)式と異 なっているのである。 最後に,繰返しになるけれども鬼頭教授の生活水準による平価は勿論のこと, 片野教授の社会所得率による平価も,為替相場が各国々内の経済的要因たる生 活水準や社会的所得率によってのみ決定されるものとしている点を看過できな そこに国際的決済手段に対する選好が入る余地は,全く存在 しない。ゆえに,われわれはそこになお国際的貨幣ベーノレ観の残潰をみること ができるのである。 したがって, し、。 II 均衡為替相場と需給による接近 われわれは, 前節において第二次大戦後から 1960年頃までの為替の平価決

(18)

385 購買力平価説と均衡為替相場 -41ー 定に関するカ yセル的接近を考察してきた。これに対し同時代に,購買力平価 説の批判を通じその欠陥の克服を行った場合, このカッセノレ的接近を放棄し元 来存在した市場における需要と供給の均等によって為替相場の決定を説く立場 にもどろうとする人々が数多く存在した。われわれは,以下このような人々の 考えを一括し均衡為替相場への需給による接近と呼ぶことにする。 需給による接近には次のような人々を挙げることができる。先ず,R.ヌルグ セである。彼は,購買力平価によって均衡相場を規定しえないと述べ r均衡相 場の定義の唯一の満足すべき方法は,ある一定期聞に亘って収支が均衡にある ような相場として規定されるべきである」とした。そして,その一定期間とは, 五 十年を指し日々の変動や一カ年以内に回復するような変動さらに景気的変 動などを包括しうる期間であり,またここにし、う収支とは当該国の対外勘定を パランスするために必要とされる金や流動準備および短期資本移動(均衡不均 衡いずれのものでも〉を除外した他の項目からなる収支である。そして,彼は このような規定を貿易統制や大量の失業およびインフレなどの生じない場合に 限るべきであると付言する。他方,

G

.

.

ハーパラーは,購買力平価を均衡相場を 表わす数多くの指標のうちの一つであり粗い近似物を提供するにすぎないもの であるとなし,ある相場が均衡であるかどうかは金または均衡化的資本移動に よってカパーしえない経常収支の赤字や小額の対外準備保有さらに大量の失業 などのどの指標をとってもそれだけで充分に規定しうるものではないとした。 例えば,大量の失業は世界的不況にはいずれの国にも存在し,また収支赤字も 為替相場の切下げによって回復しうると限らない。さらに,小額の対外準備保 有の是否もその供給との関連で論じられねばならなし、。要するに,ある相場が 基礎的不均衡をもたらすかどうかは,実際の収支に赤字の発生をみてのち,こ のようなあらゆる指標を考察してはじめて個々に判断されるべきものであると (21) N urkse, R, Conditions of IntemationaJ Monetary EquiJibrium, Essays in Intern

-。

tionalFinan正e,no 14, 1945

(22) Haberler, G., Currency Depreciation and the IntemationaJ Monetary Fund, R E Stat, Vo.J26, 1944, pp. 178-81およびTheChoice of Exchange Rates after the War, A.R.. E, Vo.J35, no..3, June 1945

(19)

-42- 第58巻 第2号 386 言う。 (23) また,

F

.

.Mタマグナも類似の考えに立つ。彼は,経済政策の一貫としての為 替相場の設定が第二次大戦後の状況に応じて考えられるべきであるとなし,各 国を主事事的に占領され戦時中の継続とみられるべき期間と戦争から平和への移 行期間さらにその後の平和期間にわけて考察した。すなわち,戦時中ドイツに よって占領された国や戦後連合軍の占領した敵国の戦後の相場は,戦時中に連 合軍当局によって設定された相場の継続であった。そこに,正常な貿易関係は 存在せず,厳しい公的統制と軍事上の必要品の輸入や各国国民の最低生活維持 のための物資の輸入と当該閣の軍当局への財・サービス売却という輸出があり, 他面で戦時中から蓄積された莫大な現金と生産や輸送体制の崩壊による物資不 足にもとづく高度のインフレが存在した。したがって,為替相場は,インフレ 対策からして低水準に固定されるべきものではなく,圏内の闇市場における投 機や圏内の人心を沈めるための経済上行政上の観点によって妥当と思われると ころに政治的に決定されるべきものであるとした。そして,その相場の設定に は,戦時中からの公的価格機構を維持するように努め,統制を通じ圏内通貨が 直ちに購買力にならぬようすべきであり,そしてもし正当な相場が見出し得な い場合には各国通貨を多少過大に評価しようとも高めに設定するのが望ましい とした。それは,アメリカ軍の占領下の軍事支出を含むインフレ傾向の発生を 考慮、してそれを阻止するためで、あることは言うまでもなし、。次に,この戦争直 後から進んで平和期に入る移行期間においては,彼はこのような相場が下方に 調整される傾向のあることを認めた。すなわち,それは,戦争による破壊と占 領費用の負担や賠償のために各国通貨がより一層その価値を減じ,しかも引締 政策を採用することが圏内経済をより混乱に導くと予想したからである。最後 に,平和期に移行した場合の為替相場は,国際貿易を含む商取引の回復に伴っ て自由市場において決定されるべきものであるとした。そして,彼はこの場合 の為替相場の設定に購買力平価を妥当とする意見に反対し,その多くの欠陥と (23) Tamagna, F M , op. cit

(20)

387 購買力平価説と均衡為替相場 -43-公定価格に加えて闇市場が存在す}ると言う二重構造の現状とからみて不適当な ものとした。また,彼は,生産費による平価についても同様に反対した。すな わちそれは,結局購買力による平価設定と大きく異ならず,また戦時中の生産 費構造を平和時代において参考になしえず, さらに生産費の動きの価格に較べ た遅れのために生産費によって平価の設定をする場合に国内にかなりのデフレ を強いねばならなくなるからであると言う。かくして,彼は妥当な均衡相場の 定義として「現在の国民所得と対外投資の状況下で当該国の収支の均衡を達成 し維持しうるような相場」を与えた。ここに言う収支とは経常収支および長期 資本収支の合計を意味し,そしてそのときの相場とは購買力や生産費構造を考 慮しながら国民所得の増進と正常な国際取引の進展に寄与し国民の信頼をかち うるものである。 他方,

JP

ヤングもまた,需給によって均衡相場を定義

L

た。彼の均衡相場 とは,-政策や政治プランを含む将来の状況にてらし数カ年に亘り一国の対外勘 定に近似的バランスを約束する相場であり,かっ同時に圏内で、高水準の経済活 動を保ち外国との聞に極大の貿易の流れと生産費および所得の関係をもたらす ようなもの」である。同様に,

P T

エノレスウアースも,購買力平価説を放棄す べきならば別の方法として,-不均衡化的資本移動は,望ましくないものである から,均衡相場のテストに用いられる収支の中から除外すべきものである。そ して,標準的期間(例えば,五年〉を越えて不均衡化的資本移動を生じない」 ような収支の均衡によって規定すべきであるとなした。この場合の収支とは輸 出入と貿易外収支および長期資本収支からなる基礎的収支であり,他方標準期 間とは景気変動を含む期間である。そしてヌノレクセと同じように,貿易および 為替の統制がなく大量の失業とインフレのないこと等を条件に加えた。また, キンドゥルパーガーも同じく均衡為替相場を需給によって定義した。ただし, 彼は,均衡を静的と動的にわけ,前者iを貿易収支の均衡,後者を時聞に対する 均衡と規定し,さらに時間に対する均衡を二分し,輸出入の差が金や短期資本

(24) Young, l P, Exhange Rate Determination, A..E R, VoL 37, no.. 4. Sep引1947 (25) Ellsworth, P T, The International Eωnomy, 1950, pp. 597-98

(21)

-44- 第58巻 第2号 388 の移動の差に等しい一時的な短期の均衡と,輸出入の差が長期資本移動に等し い金や短期資本の移動を生じない長期の均衡とにわける。そして, このうち長 期均衡に大量の失業やインフレのないことを条件として附加する。また,不均 衡撹乱的な短期資本の移動を他の論者と同じように予め除外する。 ところで,

J

ロビンソンは,均衡相場が需給の弾力性や雇用水準と利子率等 の変動に依存することを指摘し次のように言う。すなわち rし、かなるトランス ファー借入や金移動も起こらないとし、う意味での均衡は,完全雇用と同じもの ではない。いやしくも貸付や借入が少しでも行われている間国際収支の完全長 期均衡は成立しない。なんとなれば借入が行われる限り,利子の支払を意味す る用役輸入が累積して行き,そのため時間の経過につれて,他の事情が等しい とすれば,借入の連続は貿易差額の減退をもたらすだろうからである。完全長 期均衡を達成するのは,ただ投資と貯蓄が零となり, さらに輸入が輸出に等し くなる状態に限られるのである。」そして,通常の均衡相場とは,貿易差額と貸 借差額を一致させる相場であるとしたのである。また,彼女は,この均衡相場 以外に最適為替相場をも規定した。それは,賃金水準を与えられたものとした ときの弾力性の観点からみた貿易差額を最大にする相場を意味している。 このように弾力性分析との関連で均衡相場を規定しようとしたものには前述 のR.F.マイクセルがある。彼は,均衡相場を,完全雇用を維持しデフレを生じ ないような相場であり,短期の景気的撹乱およびその他偶発的撹乱によって影 響されず,ただ新商品の出現や生産コストの変化および永久的需要シフトなど の構造上の変化によって生じる持続的不均衡の場合にのみ変更し,かつ世界的 視野の下で近隣窮乏化を生じない調和のとれたものでなければならないとし た。そして, 1938年の収支を基準として世界を主要先進国とその他諸国のニグ ループにわけ,為替相場不変と相対価格および生産費不変の仮定(生産性やそ の他のリアル要因のうちで貨幣価格や貨幣生産費に反映されるものを除き〉の

(26) Robinson, ,JThe Foreign Exchanges, Essays in the Theoη10/ Emplo戸時e, nt,1947 (reprinted inReadi'ngs in the TheoηI

0

/

International Trade, 1953, pp,,83-103)

(22)

389 購買力平価説と均衡為替相場 -45-下に ,1950年における収支を推計しそれにもとづいた収支均衡相場を導出し た。他方で,国民所得に対して輸入額を,世界貿易額に対して輸出額を,また その他個々の項目(例えば,運送費,利子配当,旅行者支出,保険料,特許料, 送金額,政府海外支出,金の生産と輸入,さらに長期資本の流れなど〉を個々 別々に推計してそれらにもとづく相対価格変化の効果を見積り,そしてその見 積を用い上記収支均衡相場の修正を行うと共に, さらに修正後の相場について 各国の貨幣賃金率の指数を用いた調整をも行った。かくして,彼は,このよう な手続きによって導出した最終的な均衡相場を最良のものとして提案したので ある。この導出過程で彼が用いた武器は,いうまでもなく各種弾力性であった。 (28)

E

グディンと}キングストンも,弾力性を用いかつヌノレクセにしたがし、収 支説に立って戦後のブラジルの為替相場の推定を行った。彼等は,購買力平価 説の理論的欠陥を考察しそれが戦後のブラジルに妥当しないことを結論し,次 いで均衡相場を「ある一定期間収支を均衡に維持しうる相場」と定義したので ある。それは,彼等によると,対外準備を不変に維持するような相場と同義で ある。ここに言う一定期間とは一年 数カ年を意味している。また,他の論者 と同じく人為的制限や大量の失業および長期に亙るインフレ等は,予め除外さ れている。いま,基準年の輸入を/, ドル(世界価格〉表示のブラジノレ輸入品価 格指数をρ'と、すると,輸入額はドノレで、表して/t'となる。そして,ブラジルの 通貨がqの割合で切下げられたとし,他方でプラジル圏内の価格指数が

ρ

へ騰 貴したと仮定すれば,切下げ後のブラジノレの輸入額は,相対価格ρ'/ρqと輸入 需要の価格弾力性ふとから, /(ρ'/q)(ρ'/ρq)一向となる。ただし, ρqは,ブラ ジル通貨表示の輸入品価格で、ある。サービスに対する支払は,為替相場変動か ら独立の部分

S

とそれに依存する部分

S

とからなるものとする。これらを上 (28) Gudin, E and J Kingston, The Equilibrium Exchange Rate of the Cruzeiro,

Economia lnternationale, VoL 6, no. 1, Feb 1951

(29) Clark, C, The value of the Pound, E J, VoL 59, June 1949によると,所得変化か ら推定しうる輸入(まは輸出〉額を Y,相対価格をP,輸入(または輸出〉の価格蝉力性 をeとする場合,価格変化から生じる輸入(または輸出〉の額yは,logy

=

log Y -e log P,すなわちy= yp-eで表わしうるものとされている。

(23)

46- 第58巻 第2号 390 の輸入額に加え,収支勘定のうち債務額を求めると,クルゼーロ表示で,I(ρ'/

q

)(ρ'/ρ

qt"+5+5

'jqを得る。他方,収支勘定のうち債権額を求める。ブラジ ルの輪出をコーヒーの輸出とその他商品輸出に分け,前者に関し世界価格で表 わした一定額

C

を仮定し,後者に関しブラジル通貨表示の価格〆'とその弾力 性εeを仮定することにより,為替切下げ後の輸出総額として

C

/

q

十E〆,

(〆/

ρ

q)εeを導出する。ただし ,

E

は基準年のその他商品の輸出量である。外国資本 については,切下げ後流入することが考えられ,その額を

K

," となし,それをブ ラジル通貨表示

K

,"

/

q

に改める。これを上記輸出に加えることにより,総債権額 を求めれば,

E

ρ

"

(

ρ

/

q

)

ε

e+C/q+K

,"

/

q

を得る。そこで,収支を均衡にする相 場は,

ρ/ργ

<t

5

ργ

e,

C

K

ψ 一一(q¥ρ~_) +5+ 一一 =Eρ 卜~)

q

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q

¥ρ

q

/ q q

+

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:

+

"

_

V

'

を解くことにより見出し得ることになる。かくして彼等は,1950年のブラジノレ の均衡相場について,弾力性むと εeに関する推定値およびその他必要な値を それぞれ上式に代入し q

=

0.73-0.66とするときの為替相場が,

$1

=

Cr$

25

.3

45 -

Cr$

2

8.028の範囲にあると結論するに至ったのである。 最後に,

JE

ミードの需給による接近を挙げることができる。彼は,上記の 規定と多少趣を異にし,実際の収支(α

c

t

仰 1 balance)の均衡を自発的(autono -mous)な貿易と一方的移転からなる勘定が零となることをもって定義した。す なわち,収支勘定項目のうち他の項目に依存しない独立のものを自発的項目と し,これに対し他に依存する項目を調整的(αωommodating)項目とした。そし て,前者の項目の均等によって均衡相場を規定しようとしたのである。調整的 項目には,金および均衡化的短期資本の移動が含められた。勿論,貿易や為替 の統制および大量の失業の発生などは,潜在的(potentialor true)な赤字と考 え,予め除外された。また,均衡を一時的と多少永久的(temporaり and less

ρ

ermanent)とに分け,後者の規定を重視した。 (30) Meade, l E, The Theoη of lntemational Policy, V 011:The Balanαof Pay -ments, 1954, chap 1, pp.. 18-19.

(24)

391 購買力平価説と均衡為替相場 -47-かつて, F.マハラップは,収支の均衡概念に三つあるとし,会計上の収支 (αωounting bαlance)と市場での収支(market balance)および計画上の収支 (programme balance)の考えを提起した。このうち,会計上の収支とは,上記 ミードの実際の収支と同じものであり,国際収支表の上に線を引き,それまで の受取と支払によって均衡不均衡の判断をする方法である。国際収支表が対外 取引の実際に起こった記録である以上,この会計上の収支は事後的な収支概念 であるといえる。これに対し,市場での収支は,人為的干渉のない抽象的な世 界の対外需要と対外供給を意味し,理論的で事前的な収支概念である。しかし ながら, この市場での収支は,上記会計上の収支に密接に関わっている。それ は,市場での収支を事後のデータで把握しその背後にある理論を実証し経済政 策の指針をえようとするならば,会計上の収支のほかに頼るものがなく,その ため市場での収支を出来る限り反映しうるような会計上の収支を作成しようと 試みるからである。最後に,計岡上の収支とは,抽象的に考えられた収支とい う意味では市場での収支の範時に入るものであるが,それが政策目標の達成と いう価値判断の下での理論的な対外需要と対外供給を意味している点で,市場 での収支とは異なる概念である。例えば, この範時に入るものとしては,上記 のミードの潜在的な収支を挙げることができる。すなわち,それは,完全雇用 の達成とかインフレのないこと等の政策目標を設定したうえでの対外な需給を 意味するからである。 ところで,このマハラップの計画上の収支は,今まで考察じてきたすべての 論者についても大なり小なり当てはまっている。なぜなら,国際収支表から予 め不均衡化的撹乱的短期資本移動を除きその後を自発的項目と調整的あるいは 誘発的項目に分類し収支を規定しようとなし(需給による接近),ほぼ共通に購 買力平価の代って国際収支表上でなんとか長期の均衡を定義しようとする意図 する限り,五年 十年のような期間の設定あるいはインフレや失業などの形で 不均衡が顕在化されないこと等の条件を付加することによってその目的を達し (31) Machlup, F, Three Concepts of the Balance of Payments and so-called Dollar Shortage, E ], VoL 60, Mar 1950

(25)

-48- 第58巻 第2号 392 ょうとすることになり,そのためそこに提起される会計上の収支が,物価安定 や完全雇用などの政策目標の設定とL、う価値判断を含んだものとならざるをえ ず, したがって計画上の収支を国際収支表上で把握しようとする色調を強く帯 びてくることになるからである。 これに対し特にこのような政策目標を設けず世界共通の収支概念の確立に努 めたのは ,IMFがそのマニュアル第二版で主張した調整的公的金融(compen・ satory official financing)による収支規定であったといえる。それによれば,上 記需給による接近の多くの論者にしばしばみられるような外貨準備のほかに均 衡化的短期資本移動の項目を誘発的あるいは調整的な決済項目として除外し, 残りの収支によって均衡を規定するためには,その規定の背後に対外不均衡が 利子率の変化を導きその利子率の変化によって短期の資本が誘発されるという 連鎖が存在せねばならないことになる。しかしながら, このような連鎖は,そ の後の短期資本の中央銀行利子率に関する感応性の研究のなかで数多くの疑問 を投ぜられ,外貨準備と短期資本がともに誘発的とする考えを放棄すべきもの とされるに至った。そこで,これに代る各国聞に実際に決済を目的として移転 されたもののみをとり出し画線下 (belowthe line)に置き,それを除いたαb(o -ve the line)項目によって収支の規定を行おうとする試みがなされた。このと き,画線下に置かれるものは,調整的公的金融項目と呼ばれた。そして ,IMF のマニュアル第二版は,このような調整的公的金融による収支概念を,通貨当 局がどの程度金融行為をとらされたかを測る最も妥当な尺度であり最も現実的 で世界的に共通な赤字・黒字に関する尺度であると考えたのである。その結果, 国際準備,IMFおよび IBRDに対する負債,未償還の公的長期債務取引,国際 収支の均衡を目的とした公的借款や贈与などは,画線下に移されることになっ (32) 調整的公的金融の概念は, IMF, Balance o} Payments Manual, 1st.ed. 1949に初めて 出され,その2nd,ed.. 1950において明確な定義を与えられたものである。それは, 1961 年の3rd,edまで保持された。

(33) Badger, D. G, Balance of Paymants: A Tool of Economic Analysis, IMF Staff Papers, Vol.2, Sep 1951

(34) Lary, H.. B, Problems

0

/

the United Statesasa Trader and Bankeκ1963, pp. 152

(26)

393 購買力平価説と均衡為替相場 -49-公的短期対外資産,海外で市場性が ありかつ自由に処分できる当該国通貨当局の保有する長期資産 ,

IMF

IBRD

以外の外国政府や金融機関に対する負債などを意味している。 ここにいう国際準備とは,貨幣用金, た。 この調整的公的金融の概念は, H. Gジョンソンのいう伝統的収支概念の一 予め公的な外国為替 機関が常に公的準備を使、って為替相場を動かすように為替相場に働きかける態 それは, つの典型であるということができる。すなわち, 勢にあることを想定しているからである。 ところで, このような考えに立脚す れば,戦後の長期借款や公的贈与は, 自動的に赤字を金融する目的でなされた ものとみなされ,それらをすべて回線下に移さなければならなくなる。 また, このような戦後の長期借款や公的贈与をすべて調整的公的金融とするのであれ f

:

t

それはそれなりの確実な判断材料を必要とする。そこで, その判断材料を それが実際に授受された過去の時点まで遡りそのときの市場状況 を調査し赤字金融であったとの事実を確かめなければならないことになる。 と 見出すため, ころカ~,

F

マハラップの指摘した

UNRRA

(国際救済復興委員会〉の援助のよ うに受取固にとっては調整的赤字金融であったが贈与国にとって必ずしも調整 的性格のものではないということもあるし,またしばしば指摘されるように各 閣の対外収支が実際に不均衡であったか否かを判断するに必要な資料すら得ら れないということが多い。かくして ,

IMF

は,このような資料の入手不可能性 および判断の困難性にかんがみて, 国際収支表作成提要(マニュアル〉第三版 (1

9

6

1

年〉において, このような調整的公的金融による収支均衡の規定を,結 局は主観を含む近似的分析手段にほかならないとし,世界共通の収支の規定を 作成することを不可能に近い努力であると結論した。そして,国際収支の赤字・ 黒字の規定を各国良識にゆだねるとともに共通の概念の確立への努力を放棄し

(35) .Johnson, H G, Towards a General Theory of the Balance of Payments (in International Trade and Ewnomic Growth, 1958, chap 6,小島・柴田訳第IV章)

(36) Machlup, F, op.. cit (UNRRAはUnitedNations Relief and Rehabilitation Ad-ministrationの略である〕

(37) IMFのマニュアノレ第三版とその後の修正の詳細については,拙稿「国際収支表とその 均衡(I)J香 川 大 学 経 済 論 叢 第53巻 2号 昭和55年 10月を参照。

(27)

-50-(38 ) たのである。 第58巻 第2号 394 かくして新たに出された国際収支表作成提要第三版においては,物資やサー ビスまた移転収支等の項目を整備し ,UNゃOEEC方式の国民勘定体系との 整合性をはかり,中央政府,中央通貨機関,その他通貨機関,地方政府等の項 目を設定して機関別分類を行い,部門金融統計との結合に努力をはらうことと なった。そして,国際収支の赤字・黒字に関しては,IMFの『国際収支年鑑』 (Balance of Payments Yearbook)のなかに記載される分析表 (ana

st化

ρ

re -sentation)において行い,IMFがその機能を遂行するために必要な範囲での赤 字・黒字の提示にとどめ,世界共通の尺度を規定することを差し控えるに至っ たのである。IMFの国際収支の総合表に関するその後の修正は w第三版への附 録n(Balanじeof Payments Manzω1, Supplement to Third Edition, 1973)に

よってなされ,より詳しくは国際収支表作成提要(マニュアル〉第四版(1977) においてなされている。しかしながら,国際収支の赤字・黒字に関する定義す なわち均衡の定義については,その後大きな修正をみていない。 以上,われわれは,需給による接近に立った均衡相場に関する規定をヌルク セ,ハーパラー,タマグナ,ヤング,エルスウアース, ロビンソン,マイクセ ル,グディンとキングストン, ミードについてそれぞれ考察し,そしてそれら の均衡概念とマハラップのいう会計上の収支と市場での収支および計画上の収 支の三つの概念を通じてみるときそれらいずれについても計画上の収支の概念 が混在することを指摘した。均衡相場を需給による接近の立場から規定する場 合,対外需要と対外供給が市場において純理論的に均等となることを指摘する だけでは,充分ではない。なぜなら,その対外需要と対外供給が国際収支勘定 のどの項目に対応するものかを明らかにしなければ,均衡相場の推定に役立た なし、からである。したがって,需給による接近のいずれの論者も市場での収支 の規定にとどまらず会計上の収支の規定にまで言及したのである。例えば,ヌ (38) IMF, Balance of P

.

a

仰 ents Manual, 3rd, ed, 1961その他にIMF,Balance of

P

.

a

yments, Concepts and Definition, 1968お よ びHφst-Madsen,P, Balance of Pay -menお"Jぉ,Meaning and Uses, 1967 またIMF,Balance oj P

.

a

ymenお Yearbook, VoL 17, 1960-64,

(28)

395 購買力平価説と均衡為替相場 -51ー ルグセやその他論者のみならず,

E

グディンと]キングストンによるブラジル の均衡相場の説明においても,貿易収支や貿易外収支および資本収支を含む基 礎的収支が均等となることと言う会計上の収支規定を持っていた。 需給による接近は,長期均衡相場を会計上の収支で把える場合には,既述の IMFの規定の如く克服し難い閤難をもっている。しかしながら,これを別とす れば,それは弾力性分析や雇用水準および相対価格の変化などの需要および生 産構造の変化を考慮する点で明らかに購買力平価説を凌ぐ長所をもった相場を 見出し得るもののように思われる。なぜ、なら,それは,単に各国物価の比例的 騰貴のケースだけでなく商品間の相対価格や国際的な交易条件の変化およびそ れら変化を引起こす需要シフトや生産構造変動のケースにも良く妥当するよう であるからである。 しかしながら,いま各論者の需給による接近をより詳しくみるなら,そのい ずれも対外商品取引がすべて各国における圏内の生産と需要の超過額として自 発的に生じ国際決済手段である金や短期資本移動(より一般的に言えば調整的 公的金融項目)がその結果を単に決済するためにのみ誘発的受動的に授受され るにすぎないと言う仮定を暗に保持していることが見出される。例えば,上記 のミードだけでなく,J

w

.

エンジェルにおいても,国際的決済手段である金や 短期資本の移動は新古典派の表現を借用するまでもなく単に誘発されるもの (ind;似 editem)であり,またそれ以外の輸出入や長期資本の移動は自発的なも の (αutonomousitem)であったのである。そこに国際通貨の保有に対する欲求 とそのために生じるその自発的な移動という考えは,存在していない。国際間 の商品取引においてもその輸出や輸入は,貨幣から独立した単なる商品への需 要から生じるものであり,そこに国際通貨に対する保有欲求を考慮に入れ合成 された商品への需要から生じるものではないのである。そして,このような性 格は,たとえ圏内通貨に対する保有欲求を認めそれを理論的分析のなかに組み 入れたとしても,それだけで消滅するものではないといえる。かくして,われ (39) Angell, l W, Equilibrium in International Payments: The United States, 1919 -1935(in Explorations in Economics, 1936).

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