東京大学 高齢社会総合研究機構(ジェロントロジー:総合老年学)
飯島
勝矢
「ニッポン一億総活躍プラン」 フォローアップ会合
(2018年5月30日)
「一億総活躍社会」の実現へ
~高齢者の活躍できる生涯現役社会の創出~
安心につながる社会保障
(5)健康寿命の延伸と介護負担の軽減
資料4
【地域共生社会の実現】
高齢者の皆がいつまでも快活に活躍できる
「生涯現役社会」を改めて国をあげて創出していく
「多様な選択肢」、「新規性」、
そのための「システム づくり、まちづくり」
【雇用促進】 <培ってきた経験・能力を活かす> ・定年延長(雇用継続) ・新規の就労促進 ・多様な選択肢 <雇用の場を拡大> ・民間企業等を積極的に活用 ・起業促進~助成培ってきた経験・能力を
【社会貢献・社会参加】 【生きがい・やりがい】 【健康増進との連動】 【地方創成】 ・地域の活躍の場:多様性と新規性 ・住民主導の推進 健康増進活動の活性化と新規性 NPO・ボランティア活動・地域活動 地域(多世代)交流 ・先進的取り組みの『集約』と『見える化』 ⇒情報センター的な役割 ・アカデミアの参画と役割:『総合知』地域で、皆で、工夫して
地域での基盤構築・整備
65歳で定年となったら、培ってきた経験・能力を活かせる形で、
地域で活躍
する、
貢献
することが当たり前の社会を構築すべき。そのための体制整備が必要である
【1】
‘‘フレイル予防’’を通した
健康長寿のまちづくり
ニッポン一億総活躍プラン
(2016年6月2日 閣議決定)
‘‘フレイル予防’’を通した
総合知による健康長寿のまちづくり
(その1)
2016年6月2日に閣議決定されたニッポン一億総活躍プランの中に「フレイル対策」はすでに盛り込まれてある。 今後さらに高齢化が進むなかで、このフレイル対策を国全体に普及していく(すなわち、国家プロジェクトとしての取り組 み)が必要不可欠である。【フレイル対策に含まれる多面的な意味と狙い】
フレイル対策という言葉の中には、すでにフレイル状態に陥ってしまっている方への改善方策と同時に、元気な状態の方もフ レイル状態にならないよう予防し健康長寿を実現していくことの両面の意味がある。さらには、中年~壮年期からの意識啓 発、ひいてはより若い世代からのフレイル予防に資する意識・行動変容(健康リテラシーの向上)も包含される。 その健康リテラシー向上のために「早期からの教育」をより積極的に導入すべきである。なかでも栄養管理(特に摂取カロ リーも含め、世代に合わせた適切な食習慣管理・口腔機能維持など)の重要性、フレイル予防のためには社会参加が必 要不可欠であることなど、様々な視点での意識啓発が鍵になる。 今後に向けて、「フレイル」の認識率の向上、対策可能であることとその具体策の理解を国民全体に対して行う。フレイル 予防と介護予防の観点から、個人で対応可能なこと、地域や社会で対応すべきこと、医療機関や介護施設で対応すべ きことについて役割分担したものを明示して、国民が「フレイル対策」を具体的に理解して自らが取り組める状況を推進する。【フレイル予防~対策:アクティブエイジング実現から自立支援ケア型体制構築も】
フレイルには「機能を戻せる可逆性」という意味も含んでいる。人生90年を見据え、より早期からの予防対策を実行しなが ら、高齢期においても少しでも機能を改善させていくという視点が重要である。そこには専門職種のさらなる強い連携による 質の高い自立支援にこだわったケア体制構築が求められる。また、アクティブエイジングを実現するための国家プロジェクトが 求められ、高齢者医療に携わる専門職能を中心に、ダイナミックな政策も必要である。 さらに、フレイルの前段階(プレフレイル)からの予防対策として、どんな高齢者でも容易に参加できる、身近な場での住 民主体による運動活動や会食その他の多様な社会参加の機会を拡大することが重要であるが、大規模コホート研究によ る解析結果からしても、「①栄養 (食/口腔機能)」、「②運動/身体活動」、「③社会参加/社会貢献」の3つの要素全て において、個々の国民の日常活動に取り組まれ、その継続性が担保されることが大前提にある。その視点を各専門職能お よび市民サポーターなどは十分に掌握した上で、より多くの住民への啓発に臨むべきである。‘‘フレイル予防’’を通した
総合知による健康長寿のまちづくり
(その2)
【全世代を見据えた切れ目のない対応策:予防概念の適切な切り替え】
中年層を中心としてメタボリックシンドロームへの予防意識を高めるべく、わが国は保健活動を行ってきた。しかし、超高齢社 会への突入を目前にした現在、むしろフレイルに対する予防意識を高めることも重要である。言い換えれば、「世代が進むに あたり、メタボ予防概念からフレイル予防概念への適切な切り替え (ギアチェンジ)」が求められる(後述)。 この認識の普及に対しては、様々な場面(専門職能による医学的知見に裏付けられた助言、自治体での地域予防活動、 住民同士による地域活動など)での積極的な取り組みが望まれる。 特に低栄養や低栄養リスクにある高齢期の方々も 地域では決して少なくなく、その1で前述したように、筋肉減弱(サルコペニア)を早期から予防することも含め、高齢期に おける食の安定性をもっと地域の中で精力的に推し進めるべきである。【フレイル予防はまさに「まちづくり」そのもの】
多面的な側面をもつフレイルに対する予防~対策は、単に医療的アプローチだけでは実現できない。むしろ産学官民すべて を巻き込んで、「まちづくり」として取り組む必要がある。 そこには、専門職種による多職種連携だけではなく、各自治体行政内の庁内連携、専門職-住民協働、そして住民主体 の活動の推進など、従来の枠組みを超えた新たな発想での取り組みを精力的に取り入れ、実現していくことが求められる。【フレイル対策を実現するための総合的・包括的な高齢者支援を】
重複かつ複雑な病態を併せ持つ高齢期の方々に対して、総合的・包括的に高齢者支援(評価・治療・助言、全てを含 む)を全国で展開することは急務である。そのために、老年医学・高齢者医療における人材育成、および診療・研究・教育 の融合を目指した拠点形成も並行して推し進めるべきである。そして、地域と研究施設の連携も加速しながら、高齢者医 療に関する住民教育・啓発のさらなる推進も求められる。 住民目線での相互の「住民主体のフレイルチェック活動」は非常に有用であり、さらなる広域展開が望まれる(後述)。さら に、それにとどまらず、すべての医療職、特に「かかりつけ医」がフレイルの早期発見と対策への誘導を行うことを積極的に推進 する。後者は、フレイル者への適切な医療の提供と医療費の削減、多職種連携の窓として、持続的な対応の窓として重要 である。‘‘フレイル予防’’を通した
総合知による健康長寿のまちづくり
(その3)
【健康増進/予防からエンドオブライフまで見据えたデータ活用、および地域へのフィードバック】
従来の介護予防事業を振り返ると二次予防事業の低い参加率(高齢者の0.7%に留まり、目標の5%に到達できず) など、様々な課題が存在する。その原因として、事業内容の筋力トレーニングなどへの偏り、虚弱高齢者の不十分な把握、 継続性にしっかりとこだわった事業終了時の出口対策の不足など、複数の原因が積み重なり、費用対効果も含めて方向転 換を余儀なくされた経緯もある。 個々の事業に対する効果判定の見える化、同時にそれらのデータベース構築も必要である。さらに、行政等が保有する全 国的に入手可能なデータ群(例えば、健診データ、医療レセプト、介護レセプト、日常生活圏域ニーズ調査、要介護認定 調査など)を活用して、ビッグデータ化からの多面的なエビデンス蓄積も目指すべきである。そこに予防活動に関するデータ 集(フレイルをスクリーニング/アセスメントなど)も一緒に連結させ、個人単位や地域単位、活動の効果判定や医療経済 的視点も解析し、地域で実施されている事業や活動へフィードバックできる基盤を構築していくべきである。 すなわち、このフレイル対策の分野においても、全国を視野に入れたマクロデータと、個々の情報を経年的に追っていくミクロ データを相互リンクを精力的に図っていくべきである。(現在、東京大学高齢社会総合研究機構と健康生きがい開発財団 との協働により、「住民主体のフレイルチェック活動」のデータをIT化する段階は鋭意進行中)虚弱(Frailty)⇒
フレイル
心身
の
能力
天寿
剛健
(健康)
併存症
要介護
(身体機能障害)
プレ・フレイル
(前虚弱)
フレイル
(虚弱)
生物学的寿命
健康寿命
身体的
フレイル
身体的
フレイル
心理的
認知的
フレイル
心理的
認知的
フレイル
ロコモティブシンドローム サルコペニア、等 うつ、 認知機能低下、等 独居、経済的困窮、 孤食、等①中間の時期
(⇒健康と要介護の間)
②可逆性
(⇒様々な機能を戻せる)
③多面的
(⇒色々な側面)
フレイルとは、 加齢とともに心身の活力(運動機能や認知機能等)が低下し、複数の慢性疾患の併存などの影響もあり、生活機能が障 害され、心身の脆弱性が出現した状態であるが、一方で適切な介入・支援により、生活機能の維持向上が可能な状態像 (東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢 作成 葛谷雅文. 日老医誌 46:279-285, 2009より引用改変)健康長寿のための『3つの柱』
フレイル(虚弱)予防を実現するために、より早期から筋肉減弱(サルコペニ
ア)予防が重要
健康長寿の実現のために、下記の3つの要素を地域住民にいかに包括的に伝
えるのかが鍵
「自分なりの三位一体としての底上げ」の重要性と、「継続性の重要さ」を、いかに
本人に気づかせ、自分事化させるのか
(東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢 作図: フレイル予防ハンドブックより)栄養
食・口腔機能
身体活動
運動、社会活動
など
社会参加
就労、余暇活動、
ボランテイア
①食事(タンパク質、そしてバランス)
②歯科口腔の定期的な管理
①たっぷり歩こう
②ちょっと頑張って筋トレ
①お友達と一緒にご飯を
②前向きに社会参加を
フレイル予防の
’’鍵’’
東京大学高齢社会総合研究機構・飯島勝矢 フレイル予防ハンドブックより 広報紙KOBE平成30年3月号より
年齢別カロリー摂取に関する考え方の「ギアチェンジ」
葛谷雅文. 医事新報4797 「高齢者の栄養管理」p41-47 の図4から引用改変 高齢者ケアに携わるすべての方へ 『食べるにこだわるフレイル対策』(東大・飯島勝矢)【高齢期における『食力』:食の向上から健康長寿を再考する】
国民、特に高齢者の食事摂取に対する認識はどこにあるのか。 なぜならば、全国的にみても、後期高齢者(もしくは70 歳以上)の中でまだ体重を2~3kg減量しなければならないと常に考えている高齢者も決して少なくはない。これは、メタボ 概念(言い換えればカロリー制限の意味にもなる)を中年の頃から意識してきたため、かなり上の年齢にあった時期でもダ イエット志向を残しているのであろう。 この考え方のギアチェンジ(スイッチング)は、今後フレイル対策を進める中で非常に重要な鍵になる(図)。それこそイ メージからすれば、65~74歳の前期高齢者の時期は、その考え方の移行期であり個別対応が大きく求められるのであろう。 すなわち地域ごとの従来の介護予防事業を今まで以上に底上げし、さらに専門職の支援活動(栄養、口腔、服薬、 等)に加え、国民目線での活動(自助・共助・互助)を軸とするまちづくりの中で、「しっかり噛んでしっかり食べる」という原 点をいかに各国民が改めて自分事化し、大きな国民運動にまで発展させ、最終的には包括的な介護予防等の施策改善 に資する流れに繋げるべきである。【栄養・運動・社会参加の三位一体】 サルコペニアとの関連
新たな学術知見(エビデン
ス)から裏付けられる
フレイル予防の’’鍵’’
栄養(食と口腔)・運動・社会参加の
三位一体
食力の維持~向上。そのための新概念
「オーラルフレイル」
社会参加、なかでも「人とのつながり」
より早期からの「フレイル・ドミノ」の予防
そのための本人の気づき~自分事化
フレイルトレーナー/サポーター 体制の確立
市民主体(フレイルサポーター)によるフレイル予防活動へ
【栄養・運動・社会参加の包括的フレイルチェック事業】
市民主体(フレイルサポーター)によるフレイル予防活動へ
【栄養・運動・社会参加の包括的フレイルチェック事業】
栄養(食・口腔機能)・運動・ 社会参加の包括的フレイルチェック (些細な衰絵に対する早期の気づき・自分事化) 栄養(食・口腔機能)・運動・ 社会参加の包括的フレイルチェック (些細な衰絵に対する早期の気づき・自分事化) 自治体との協働による フレイルサポーター養成自治体との協働による フレイルサポーター養成 (元気高齢者で構成) トレー ナー サポーター 地域住民 フレイルチェックデータと 他のデータベースを統合 実施自治体における 健康長寿のまちづくりへの参画 【アクションリサーチ】 エビデンスを地域へ フィードバック 産官学民を巻き込む 全国規模のビッグ データベース構築・分析フレイル予防を通した健康長寿のまちづくり
【エビデンス】 三位一体の重要性 (食/口腔・運動・社会参加)大規模高齢者長期縦断追跡コホート研究
【柏スタディ】
大規模高齢者長期縦断追跡コホート研究
【柏スタディ】
【悉皆調査】 地域診断
50,000人データベース 基本チェックリスト、 身体活動、他 【目的】 • 「プレフレイル~フレイルの兆候」のエビデンス化 • エビデンスからの簡易評価法の開発と科学的検証 【対象】 地域在住自立高齢者 (無作為抽出:H24~) 【包括的データ収集】 身体計測、運動機能、 口腔機能、認知機能、心理社会面、血液データ等①
②
③
~フレイルチェック事業の全国展開へ~
栄養・運動・社会参加の包括的【フレイル予防活動】
全国の自治体で導入:キックオフ
新たな健康増進活動:【市民フレイル予防サポーターによるフレイルチェック】
【フレイル予防のための市民サポーター養成研修】
フレイル予防を通した快活なまちづくりのモデル構築
~全国展開へ~
集いの場を、気づきの場に
【フレイルチェック】の場(例)
千葉県柏市:【柏フレイル予防プロジェクト2025】より
フレイル予防の 担い手の増加 健康な 市民の 増加 フレイル予防 につながる 多様な活動 ・場の増加 職能団体 フレイル予防の 活動・場・推進者 活動団体 住民組織 地域包括 支援センター 柏市 社会福祉 協議会 介護予防 センター その他 連携 連携 気づき・自分事化の場 フレイルチェック フレイルチェックの担い手 フレイル予防サポーター 栄養 社会 参加 運動 健康長寿 3つの柱 チェック・効果判定の場として活 用 フレイル予防を促す 環境を構築 フレイル予防活動への参加 フレイル予防によるまちづくりの実現 福祉 商業 都市 教育 地域 健康 既存事業の進化・ 見える化 市民の意識・行動変容 エビデンス基盤 【柏スタディ】フレイル予防の概念の下,より早期からの「三位一体
(栄養 ・ 運動 ・ 社会参加)」への包括的アプローチ
~総合知による健康長寿のまちの実現~
【2】
【生涯現役促進】
生涯現役促進
「生涯現役」促進を見据え、以前から推し進められている地域での高齢者就労の取り組みに対して、実
装・拡充・広域展開をさらに実現するべく推進していく。
その中でも、異なる組織・団体間での協働も推進されるべきであり、そこにはあり方(ルール等)の整備も
求められる。
それ以外に、改めて下記の視点も重要と思われる。
「働き方改革」から「生き方改革」へ
日本老年学会・日本老年医学会からの「高齢者の定義と区分の見直し(提言:2017年1月)」に伴
い、准高齢者(65~74歳)・高齢者(75歳以上)・超高齢者(90歳以上)の「生活モデルを確立
する」ことも社会(地域コミュニティ)として必要である。人生100年時代と考えることも現実的になっている
今、それを生きる上で、高齢者観や人生観をポジティブに見直すべき時に来ている。基本の生活モデルとし
て「誰もが就業を含めた地域活動に必ず参加する(できる)こと」を提唱し、社会の支え手として何らかの
「役割」と「機会」を持ち続ける(続けられる)ような社会の仕組みを創造していくことが必要不可欠である。
身体機能も若返っている科学的知見があるなか、その中でもリタイア後もまだ十分な身体的機能を維持で
きている可能性の高い准高齢者(従来の前期高齢者)における生き方(=すなわち生活モデル)づくり
は非常に重要であり、一億総活躍社会を実現する意味でも必要不可欠な視点である。特に、この65~
74 歳の10 年間をいかに生きていくか、この准高齢者(期)のあり方も含めて、大きな課題である。
「生涯現役促進地域連携事業(後述:③の取り組み)」の狙いは、高齢者の雇用促進という重要な社
会的課題に対して、地域が一体となって取り組む“仕組み”を創ることである。まさに“まちづくり”の一環であ
ることは間違いなく、これまでハローワークやシルバー人材センターだけに高齢者の雇用促進の役割を委ねて
いたものを、地域における多様な機関が連携して協働していくことを進めようとしているのである。
※230名就労(H25.9月末時点) 生きがい就労事業の安定化と全市展開を目指すため, H25年10月から,柏市シルバー人材センターとの連携を強化 ①仕事の開拓 ②就労希望者の募集 ③就労セミナーの開催 H23.11~26.3(計8回) 591名 ④就労体験等 ⑤各事業者で面接 ⑥各事業所と雇用契約 → 就労 生きがい就労の オペレーションプロセス
①セカンドライフ 生きがい就労
生きがい就労の創成 柏市シルバー人材センターとの連携 ジョブコーディネーター(JC)を新規配置 (本人と事業者の希望に即した丁寧なマッチング) 背景 現役生活⇒地域生活 「地域で活躍場所があるか!」 そこで 働く 生きがい 生きがい就労 長年の慣れ親しん だ生活スタイル 地域貢献・無理ない範囲・人との関わり 新たな 就労の形 →既存の働き方では,リタイヤ層のニーズに応えきれない →地域との係わりが少なかったため,敷居が高い=
ジョブコーディネーター実績(H26.1~28.3) 人員体制 2名 →4名(H27.4~) 開拓分野 農業,保育,教育,福祉,不動産,食品, 官公庁 など マッチング実績 144名 その他 会員の増加 約1,300名(H25)→1,605名(H27.12)●H28.5.14 窓口をパレット柏に移転