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FrHa1-2 Measurement of the Spatial-radiation Characteristics of the Sound of Musical Instruments: Player s Skill and Signature of Supreme Instrument K

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楽器演奏音の空間放射特性の計測:奏者の熟練度と名器の特徴

○牧 勝弘(愛知淑徳大学)

Measurement of the Spatial-radiation Characteristics of the Sound of Musical

Instruments: Player’s Skill and Signature of Supreme Instrument

∗K. Maki (Aichi Syukutoku Univ. )

Abstract– The spatial-radiation characteristics of the sound of musical instruments during performance were

measured by using a 42-channel microphone array, and the proficiency of the instrumentalist and signature of supreme instrument manifested in those characteristics were investigated. The results revealed that in the case of the violin, the proficiency of the player is expressed in the strength of the radiation directivity of the violin sound. Note that radiation directivity indicates the property of sound by which it is radiated under bias in a particular direction. It is considered that the strength of that property is highly likely to contribute to the evaluation of the timbre produced by the violin; accordingly, a bowing technique that brings out strong radiation directivity balanced between frequencies is a key factor in regard to proficiency in playing the violin. The acoustic characteristics of a Stradivarius–generally considered to be the supreme violin–were investigated next. The results indicated that in terms of peak and dip frequencies expressed in the strength pattern of radiation directivity, the Stradivariuses expressed characteristics that were not expressed by other old violins, modern violins, and contemporary violins. It can be said that those acoustic characteristics do not reflect the oldness of the materials present in the old violin; instead, they reflect the structural features of the violin’s body, and in the future, they are likely to be the key to help elucidate the timbre and manufacturing process of a Stradivarius.

Key Words: Microphone array, Proficiency, Radiation pattern, Violin, Stradivarius

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はじめに

楽器の演奏には,ヒトならではの高度で複雑な技能 が必要とされる.その高度で複雑な楽器演奏の技能を 解明するためには,ヒトの身体動作の計測とその結果 の現れである楽器演奏音の両方の計測が必要である.本 研究では,このうち楽器演奏音の測定に焦点を当てる. 楽器の演奏音に現れる演奏技術として,次の二つが 挙げられる.一つ目は,楽譜に従いイメージ通りの高 さや大きさ等の音を正確に鳴らすという楽譜から音へ のマッピング技術である1, 2, 3, 4).例えば,「音を外す」 といった場合は,この技能の未熟さ故であると言える. 二つ目は,その楽器の持っている振動特性を引き出す 技術である.例えば,バイオリンの場合,擦弦点から 一様に音が空間に拡がる訳ではなく,ボディの振動特 性により音が放射される方向や強度が周波数に依存し て変化する5, 6, 7, 8).コンサートホールのような反射・ 反響のある空間では,このバイオリン音の空間放射特 性が音色に大きく寄与する可能性が高い.よって,ボ ディを適切に振動させることができなければ「真のバ イオリンの音」にならないかもしれない.楽譜を正確 に演奏することができるにも関わらず,評価の低いバ イオリン奏者は,この技能が低い可能性がある.これま で,楽譜から音へのマッピング技術に関する技能につ いて研究されてきた9, 10, 11, 12, 13, 14, 15, 16).しかし, 楽器の振動特性,あるいは空間放射特性に関する技能 についての研究例は少ない17, 18, 19).そこで本研究で は,楽器としてバイオリンを取り上げ,バイオリン音 の空間放射特性に現れる奏者の熟練度の特徴について 調べた.本稿では先ずその結果について紹介する. バイオリンの場合,「ストラディバリウス」が歴史的 に最も評価が高いということに対して,異論を唱える 物は少ないだろう.実際に 17 世紀から現在に至るまで 名立たる奏者のほとんどはストラディバリウスを愛用 しており,また,現在製作されている多くのバイオリ ンの形状はストラディバリウスに倣っている20).一方, こうしたストラディバリウスに肯定的な歴史的事実に 反して,ストラディバリウスの音色に対して否定的な 心理実験結果も近年報告されている21, 22, 23).このよ うにストラディバリウスの評価に関しては賛否両論あ るものの,この評価に関する最も大きな問題はそもそ も二百数十年の間ストラディバリウスの「音の特徴」に ついて明らかにされていないことである24, 25, 26).こ の原因の一つとして,ストラディバリウスの音を録音 する際,機械で弓を駆動したり,駒に機械で圧を加え たりするなどして必ずしも人が演奏していないことが 挙げられる.楽器は人が演奏するものであり,その性 能を引き出すには人の高度で複雑な演奏技能を要する と考える.そこで本研究では,極めて高い演奏技術を 持つ奏者に実験協力を仰ぎ,かつ,バイオリン音の空 間放射特性に着目することで,他のバイオリンとは異 なるストラディバリウスの音響的な特徴について調べ た.本稿では明らかになったストラディバリウスの音 響的特徴の一つを紹介する.

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実験方法

2.1 バイオリン 人により年代区分の差はあるものの,1820 年頃より 前に製作されたバイオリンは「オールド」バイオリン, そこから 1945 年頃までのバイオリンは「モダン」バイ オリン,これ以降は「コンテンポラリ」バイオリンと 呼ばれている. 本研究では,ストラディバリウスとして,1696 年製ス トラディバリウス(愛称なし),「Dolphin」(1714 年製), 「Baron knoop, Ex-Bevan」(1715 年製),「Wilhelmj」 (1725 年製)の 4 挺を使用した.1713 年から 1715 年に

製作されたストラディバリウスは,ストラディバリの 人生の中でも黄金期中の黄金期と呼ばれ,ストラディ

第60 回自動制御連合講演会(2017 年 11 月 10 日~ 12 日・東京) 17PR0002/0000-0008 © 2017 SICE

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バリウスの中でも特に評価が高い.また,Dolphin は 世界三大ストラディバリウスの一つである.

ストラディバリウスと同じオールドバイオリンに属 するバイオリンとして,「Gasparo da Sar`o」,(159x 年製),「Nicolo Amati」(1647 年製),「Guarneri del Ges`u」(173x 年製),「Michele Bergonzi」(175x 年製), 「Lorenzo & Tomaso Carcassi」(1750 年製),作者未

確定(1727 年製)の 6 挺のバイオリンを使用した(以 降,本稿で単にオールドバイオリンと書いた場合は,ス トラディバリウスを除くオールドバイオリンを指すも のとする). モダンバイオリンとして,「Stefano Scarampella」(19 世紀初頭製),「Hannibal Fagnola」 (1907 年製, およ び 1929 年製),「Ferdinando Garimberti」(1957 年製) の 4 挺を使用した. コンテンポラリバイオリンとして,練習用バイオリ ンである「Pygmalius:Derius Standard」(2016 年製), 現役製作者として極めて評価の高い製作者のバイオリ ン 3 挺(Violin M, Violin Z, Violin C と呼ぶ),およ びその他のコンサート用バイオリン数挺を使用した. 2.2 演奏方法および奏者 バイオリン奏者は,アマチュア 5 名,国内で活動す るプロ 3 名(以降プロと呼ぶ),音楽大学学生 1 名,世 界的に活躍するプロ 5 名(以降「ワールドクラスプロ」 と呼ぶ)であった.全ての奏者は,肩当てとあご宛て を使用して演奏を行った.弓は,奏者が普段愛用して いるものを使用してもらった. 熟練度評価実験(3.1 章)では,使用したバイオリン は全て奏者が所有,あるいは貸与されているバイオリ ンではなかった. ストラディバリウス評価実験(3.2 章)では,対象と するバイオリンの性能をできる限り引き出すために,極 めて熟練度の高い奏者(ワールドクラスプロ)が弾い たバイオリンの演奏音を対象とした.この中の 4 名は 普段からストラディバリウスを愛用しており,4 挺のス トラディバリウスはそれぞれの愛用者が演奏した. 2.3 録音方法 バイオリンの演奏音は,無響室内で,サンプリング 周波数 48 kHz,量子化ビット数 24bit で記録した.音 を記録するためのマイクロホン(DPA 4060,または JTS CX-500)は,演奏者の周囲に球状に配置した.球 の半径は 80cm であった.マイクロホンの配置は,正 20面体から多面体分割法27)により 80 面体を構成し (正 20 面体の中心から各辺の中点に向かって線を延ば し,正 20 面体に外接する円との交点を新たな頂点とし て構成),その近等密度配置の頂点 42 点とした. 本研究では,方位角を水平面上での正中面からの角 度,仰角を矢状面上での水平面からの角度であると定 義する.奏者がバイオリンを自然に構えた状態で,f 字 孔(の切り込み)間の中心が球の中心にくるように,ま た,楽器の長軸方向(ネックの付け根からエンドピン を結ぶ軸)が方位角-90 °から方位角 90 °の線上にでき る限り位置するように球状マイクロホンアレイの位置 を調整した. 2.4 データ分析 記録されたバイオリン音に対する時間および周波数 処理は,以下の手順で行った.バイオリン音に対して, 16384ポイントのハミング窓をフレームシフト間隔 4096 ポイントで適用し,その後,各時間セグメントに対し て,16384 ポイントの FFT を施した(サンプリング周 波数 48 kHz).人の聴覚末梢系で分解されない細かい スペクトル成分を除去するため,聴覚フィルタを想定し た方形窓(10log BW = 8.3logf0− 2.3,ここで BW は 窓幅)28)で振幅スペクトルを平滑化した.この平滑化 は窓の中心周波数 100 Hz から 0.0286 オクターブ(中 心周波数の 2%)間隔で適用した. 楽器音の放射指向性は,全 42 チャンネルの信号音の 音圧分布情報にベクトル演算を適用することで評価し た.すなわち,記録方位をベクトルの向き,ある時刻, ある周波数での音圧レベルをそのベクトルの大きさと 見なして,42 方位ベクトルの平均ベクトルを計算し, その平均ベクトルの方向および大きさを,それぞれ楽 器音の放射方向および放射指向性の強さとした. 本稿では音階の演奏音を分析対象とした.各弦の開 放弦の音を基準にして,各弦共に 1 オクターブ上,あ るいは 2 オクターブ上の音まで下げ弓で奏者に演奏し てもらった.音階の各音の演奏により得られる多数の 時間セグメントのデータはすべて平均した.また,解 析の際は,音階の各音のデータを平均する場合もあっ た.例えば,上記の「放射指向性の強さ」の場合,各 音で放射指向性の強さを算出後に,それらを平均した.

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結果

3.1 熟練度評価実験 3.1.1 熟練度と放射パタンの関係 異なる熟練度の奏者が G 線で G3(ソ)を演奏した 場合のバイオリンの音響空間放射特性を Fig.1 に示す. 奏者は全て同じバイオリン(Pygmalius: Derius Stan-dard)を使用して演奏を行った.Fig.1 右コラムに示す 空間放射パタンでは,各周波数において全測定点中の 最小音圧レベルを各測定点の音圧レベルから差し引い て表示している.したがって,放射分布の空間的な拡 がりは演奏音の大きさ自体を示すものではなく,最小 音圧レベルからの差分を表している.つまり,特定の 方位に分布が拡がっている場合は,放射指向性がある と言える. アマチュア,プロ,およびワールドクラスプロによっ て演奏されたバイオリンの放射パタンを比較した場合 (Fig.1 右コラム),特に 1kHz 以下における放射パタン の拡がりに差が見られる.アマチュア,プロ,ワールド クラスプロの順で練度が上がるにつれて,分布の拡が りが大きい.言い換えるなら,アマチュアでは,1kHz 以下では音が空間に均等に放射されているのに対して, ワールドクラスプロでは,ある特定の方位に偏って音 が放射されている. プロおよびワールドクラスプロの演奏音では,1kHz 以下では概ね前方斜め下方向,1kHz 以上では前方斜め 上方向に音が放射されている(Fig.1 c, d).アマチュ ア B でも,指向性は弱いものの放射方向はこれと類似 している(Fig.1b).しかし,アマチュア A では,1kHz 以下であっても下方向への放射はほとんど見られず,常 に上方向へ音が放射されている(Fig.1a).また,ワー ルドクラスプロでは,1kHz 前後で音が前向きに(聴衆 の方向に向かって)放射されている点はプロと異なる. Fig.1左コラムは,G3(ソ)演奏時の放射指向性の強

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front left right b a d c f e 0.1 1.0 10.0 20 dB Amateur A Amateur B left right front 20 Professional 120 100 80 60 40 20 0 120 100 80 60 40 20 0 120 100 80 60 40 20 0 120 100 80 60 40 20 0 0.1 1.0 10.0 0.1 1.0 10.0 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz)

Strength of sound radiation directivity (dB)

gh i b a d c f e g h i b a d c f e g h i b a d c f e g h i b a c d e f g h i b a c d e f g h i b a c d e f g h i b a c d e f g h i World-class professional A Backward radiation

Frequency

Low

High

Backward radiation (a) (b) (c) (d)

Fig. 1: The spatial-radiation characteristics of violin sound played by violinists with different level of proficiency. All violinists played music note“ G3 ”, and used the same violin“ Pygmalius: Derius Standard ”. The panels of the left-hand column indicate the strength of the radiation directivity as a function of frequency. In the panels of the right-hand column, at each frequency, the minimum sound pressure level is subtracted from the sound pressure level at each measurement direction.

0 20 40 60 80 100 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) World-class professional C Violin G (2007) Violin H (2013) Violin I (1907) 0 20 40 60 80 100 120 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) World-class professional A Violin A (19xx) Viloin B (2009) Violin C (2010) 0 20 40 60 80 100 120 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) World-class professional B Violin D (2016) Violin E (2016) Violin F (1957)

Strength of radiation directivity (dB)

Fig. 2: The radiation directivity pattern of the sound of scale played by three world-class professionals. Each violinist played the three different types of violins respectively. World-class professional A is the same player indicated in Fig.1d. The directivity pattern derived by averaging the data at each sound in the musical scale.

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さを周波数の関数として表したものである(2.4 参照). アマチュア A と B では,プロとワールドクラスプロと 比較した場合,全周波数域で指向性が弱い.プロでは, ワールドクラスプロと比較した場合,3kHz 前後の高域 の指向性は強いものの,1kHz 以下では逆に指向性が弱 い.また,マチュア,プロ,ワールドクラスプロの順で 練度の上昇に伴い,400Hz 前後の低域のピーク,1kHz 前後の中域の二つ(あるいは一つ)のピーク,および 3kHz前後のピークの存在がより明確になっている. 3.1.2 ワールドクラスプロ同士の比較 ワールドクラスプロ 3 名によって演奏された音階演 奏音の放射指向性を Fig.2 に示す(2.4 参照).各ワー ルドクラスプロはそれぞれ異なる 3 挺のバイオリンを 用いて演奏を行った. 各ワールドクラスプロは異なる 3 挺のバイオリンを 演奏しているにも関わらず,各奏者内ではその放射指向 性のパタンはバイオリン間で類似している.特にワー ルドクラスプロ B(Fig.2 中央)が使用したバイオリン D(Pygmalius: Derius Standard)とバイオリン F で は価格差が 50 倍以上あるにも関わらず(D < F),そ れらの放射指向性が類似している点は驚きに値する. 奏者および使用したバイオリンが異なるにも関わら ず,400Hz 前後の低域のピーク,1kHz 前後の中域のピー ク,3kHz 前後の高域のピークはいずれの奏者の場合に も現れている(Fig.2).ただし,1kHz 前後のピークは 1kHzを境に 2 つ現れる場合と 1 つしか現れない場合が あることや,高域の指向性の強さの程度,および高域 の細かいピークの数については,奏者やバイオリンの 種類によって異なっている. 3.2 ストラディバリウス評価実験 3.2.1 放射指向性のパタン 各時代のバイオリンの音階演奏時の放射指向性の強 さ(2.4 参照)を算出した結果を Fig.3 に示す.Fig.3 に 示した各種バイオリンの奏者,および弓は同じではな くバラバラである. 低域の 400Hz 前後,中域の 1kHz 前後,高域の 3kHz 前後の指向性が高い性質はバイオリンの種類に関わら ず共通している(Fig.3a∼1d). ストラディバリウスでは(Fig.3a),指向性の強さに 差はあるものの,指向性のパタンが互いに類似してお り,900Hz と 2700Hz の指向性が特に高い点も互いに 一致している.Fig.3 では,この 900Hz と 2700Hz に点 線が引かれている. オールドバイオリンでは(2.1 参照, Fig.3b),中域 (1kHz 前後)の指向性が高い点は類似しているが,スト ラディバリウスで指向性が特に高かった 2700Hz におい て局所的なディップが見られる点は似ていない.また, 高域(3kHz 前後)にピークが複数あり,ストラディバ リウスよりも多峰的である. モダンバイオリンでは(Fig.3c),ストラディバリウ ス,およびオールドバイオリンと比較して 1.5kHz 前後 に見られるディップが浅く,全体のパタンとしてピー クのメリハリが小さい.また,高域のピーク周波数は, 明らかにストラディバリウスよりも高い. コンテンポラリバイオリンでは(Fig.3d) ,中域 (1kHz 前後)にピークが 2 つ見られるものが多く,こ れらがほぼ重なっているストラディバリウス,および 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) Stefano Scarampella, 19xx Hannibal Fagnola, 1907 Hannibal Fagnola, 1929 Ferdinando Garimberti, 1957

Strength of radiation directivity (dB)

100 80 50 40 20 0 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) Gasparo da Saro, 159x Nicolo Amati, 1647 Del Desu, 173x Michele Bergonzi, 175x

Strength of radiation directivity (dB)

60 40 20 10 0 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz)

Strength of radiation directivity (dB)

100 80 60 40 20 0 Practice violin, 2016 Violin M, 2007 Violin Z, 2009 Violin C, 2010 Stradivarius Old italian Modern Contemporary (a) (c) (b) (d) 0 20 40 60 80 100 0.1 1.0 10.0 Frequency (kHz) Stradivarius, 1696 Stradivarius, 1714 Stradivarius, 1715 Stradivarius, 1725

Strength of radiation directivity (dB)

Fig. 3: The strength of the radiation directivity as a function frequency for various kind of violins. (a) Data from Stradivarius. Players were different for four Stradivariuses. (b) Data from old Italian violins. (c) Data from modern violins. (d) Data from contempo-rary violins. Practice violin means Pygmalius: Derius Standard. オールドバイオリンとは異なっている.また,モダン バイオリンと同様に高域のピーク周波数が高く,かつ, 多峰的である.Violin C は,2700Hz(点線上)にピー クがあるものの,ピークを含む山の重心はストラディ バリウスよりも高いように見える.

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600 900 1200 1500 4800 4200 2600 3000 2400 3rd peak frequency (Hz) 2nd peak frequency (Hz) Stradivarius Old Italian Modern Contemporary

Fig. 4: Peak frequency distribution of the radiation di-rectivity pattern. Second and third peaks were found in the directivity pattern around 1 kHz and 3 kHz, respectively. 3.2.2 指向性のピークとディップの周波数比 バイオリンの種類によって,指向性のパタンに見ら れるピーク周波数が異なる傾向が見られたため,各種 バイオリンの指向性のパタンのピーク周波数を求めた. この際,細かな局所的ピークにピーク周波数の検出結 果が左右されないように,Fig.3 のデータに対して 0.4 オクターブ幅で平滑化した後にピーク周波数を求めた. 中域に見られる第 2 ピークと高域に見られる第 3 ピー クの検出結果を Fig.4 に示す.ストラディバリウスの第 3ピーク周波数は,他のバイオリンと比較して低く,す べて 3kHz 以下である.一方,第 2 ピークは,900Hz 前 後に集中している(Fig.4 赤三角).オールドバイオリ ンのピーク周波数分布は,ある程度固まっており,第 3ピーク周波数はストラディバリウスよりも高く,第 2 ピーク周波数はストラディバリウスよりも低い(Fig.4 青三角).ただし,オールドバイオリンの中で Guarneri del Ges`uだけは例外で,これはストラディバリウスの 群の中に位置している.モダンバイオリンとコンテン ポラリバイオリンのピーク周波数の分布は特に傾向は なく広範囲に分布しており,中にはストラディバリウ スに近いものもある(Fig.4 四角とバツ印). ストラディバリウスでは,指向性パタンの第 2 ピー クが 900Hz 付近,第 3 ピークが 2700Hz 付近に分布し ていた(Fig.4).第 3 ピークと第 2 ピークの周波数比 (第 3 ピーク周波数/ 2 ピーク周波数)がちょうど 3 に なるため,第 2 ピークと第 3 ピークの間のディップ周波 数との比等も求め,様々な組み合わせで周波数比の分 布を調べた.結果を Fig.5 に示す.Fig.5 中の第 1 ディッ プは,指向性のパタンにおける第 1 ピークと第 2 ピー クの間に見られるディップを表し,第 2 ディップは第 2 ピークと第 3 ピークの間に見られるディップを表す. 4挺のストラディバリウスのピーク/ディップの周波 数比は,互いに密集して分布しており,かつ,Guarneri del Ges`uを除く他の全てのバイオリンから孤立してい る(Fig.5).Guarneri del Ges`uを除くオールドバイオ リンについては,ある程度集団を形成しているが,ス Stradivarius Old Italian Modern Contemporary 1.0 1.5 2.0 Frequency ratio: 3rd peak / 2nd peak Frequency ratio: 3rd peak / 2nd dip

Frequency ratio: 2nd dip / 2nd peak Frequency ratio: 2nd dip / 2nd peak

5 4 3 2 1.0 1.5 2.0 2 3 (a) (b)

Fig. 5: Distribution of peak to dip and peak to peak frequency ratios of the radiation directivity pattern. The second dip positions between second and third peaks of the radiation directivity pattern.

トラディバリウスとは位置が異なっている.モダンお よびコンテンポラリバイオリンについても,ストラディ バリウスに近いピーク/ディップの周波数比を示すも のはなかった. Fig.5に示した 3 つの周波数比によって張られる 3 次 元空間において,ストラディバリウス群から各バイオ リンへのマハラノビス平方距離を計算し,それに基づ くχ2検定を行った結果,ストラディバリウス 4 挺と Guarneri del Ges`u以外の全てのバイオリンがストラ ディバリウス群とは有意に別属性であることが示され

た(p < 0.0001,マハラノビス平方距離:ストラディバ

リウス 4 挺と Guarneri del Ges`uは 1.44∼2.55,その 他のバイオリンは 103 以上).

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考察

4.1 熟練度評価実験

本研究では,バイオリン演奏音の空間放射特性に現 れる奏者の熟練度の特徴を調べた.その結果,アマチュ

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ア,プロ,ワールドクラスプロの順で練度が上がるに つれて,1kHz 以下の指向性が強くなる傾向が見られ た.また,指向性の方向に関して,ワールドクラスプ ロでは低域は下向き,中域は前向き,高域は上方向で あり,プロでは中域の前方向の指向性がほとんど見ら れず,アマチュアの中には上方向の指向性しか見られ ない奏者もいた.上記の結果とバイオリンのボディ振 動,および奏者の演奏法との関係性について考察する. ワールドクラスプロが演奏するバイオリン音の指向性 の強さのグラフでは,低域,中域(2ヵ所),高域に明 確なピークが見られた.放射方向から考えた場合,低 域のピークは主に裏板の振動,高域のピークは主に表 板の振動によるものであると推測される.また,その 間の中域のピークは,横板の振動が関係して形成され ると考えられる. アマチュア/プロでは,1kHz 以下でバイオリン音の 放射指向性が弱く,上向きの放射しか見られない奏者 (Fig.1a)もいた.熟練度の低い奏者では,低域におけ る下方向の放射を作り出す裏板を振動させる能力が低 いために,このような現象が生じると考えられる.言 い換えるならば,駒が表板に接触しているため振動し 易く,かつ,高域における上方向の放射を作り出す表 板のみが良く振動していたと解釈できる.一方,ワー ルドクラスプロでは,周波数全体を通して指向性が大 きかった.これは,低域では裏板,中域では横板,高 域では表板といったように,バランスよく全ての板が 振動した結果であると解釈できる. ワールドクラスプロでは,奏者依存の多少の個性の 違いはあるものの,奏者内ではどのような楽器であっ ても,同様の放射指向性を示した.すなわち,ワールド クラスプロでは,どのような楽器であってもバイオリ ンのボディ構造を活かした演奏を行うことができると 考えられる.これは,放射パタンに関する一つの技術 的到達点であると捉えられる.しかし,演奏時の身体 的な負荷は同じであるとは限らないため,今後は,そ の点についても調べていきたい29, 30). バイオリン歴 20 年以上のプロであってもボディを適 切に振動させることができない奏者がいるということ が本実験により明らかになった.これは楽器演奏教育 にとって意義が大きいと考える.楽器演奏の指導方法 として,運指と同様にボディを適切に振動させるボウ イング技術の指導がより必要とされているのかもしれ ない.本研究ではバイオリンの空間放射特性の 3 次元 可視化が可能なため,この指導に貢献できるかもしれ ない.アマチュアはもちろんのこと,プロであっても 放射指向性に基づいてボウイングの改善を行うことが できればさらなる演奏技術の向上が望めるのではない かと考える. バイオリンの特性を調べる際,科学的再現性の観点 からは,バイオリンの演奏は機械で行う方が望ましい. しかし,バイオリンの放射特性は熟練度でかなり異な るため(Fig.1 参照),ワールドクラスプロのような放 射特性を得るためには相当の精度の機械が必要になる と考える.もし,精度の低い機械で演奏した音を対象 とした場合,例えば Fig.1 でのアマチュア A のような 特性となり,それはバイオリンの真の音,あるいは真 の放射特性とは言えないだろう. 4.2 ストラディバリウス評価実験 放射指向性のパタン,それに見られるピークとディッ プ周波数,およびその周波数比にストラディバリウス の音響的特徴が現れることが明らかとなった.4 挺の ストラディバリウスを演奏した奏者はそれぞれ異なり, かつ,使用された弓も異なる.また,製作年について も 29 年の幅がある.それにもかかわらず,放射指向性 のパタン自体が互いに類似しており,ピーク周波数や ディップ周波数の比にその特徴が現れたことは驚きに 値する.この結果から,ストラディバリウスの音響的 特徴の一つが本研究により明らかになったと言ってよ いと考える. ストラディバリウスを含むオールドバイオリンとモ ダン以降のバイオリンとで音響的な差が生じることに ついては,木材の経年変化による硬化を考えれば特段 不思議なことではない.また,ストラディバリウスを 除くオールドバイオリンが互いに近しい所に分布する ことについては,木材の経年変化の影響によるものか もしれない.しかし,ストラディバリウスが,ストラ ディバリウス以外のオールドバイオリンと分布が異な る点については,木材の経年変化では説明できない.な ぜならば,両者は同じ程度に経年変化しているはずだ からである.これは,ストラディバリウス独自の構造 的な違い,すなわち,ストラディバリによるバイオリ ン製作方法の共通性から来ている可能性が高い. 本研究で明らかになったストラディバリウスの音響 的特徴が,どのようにストラディバリウスの音色に寄 与しているかという問題については今後の課題である. また,ストラディバリウス演奏時の身体動作の特徴に ついても研究を進めている最中である.高い演奏技術 を持つ奏者がストラディバリウスを選択する理由が明 らかにしていきたい.

5

おわりに

本研究では,先ず,バイオリン演奏音の空間放射特性 に現れる奏者の熟練度の特徴を調べた.その結果,熟 練度が低い場合,特に 1kHz 以下の指向性が弱いこと が明らかになった.これは,熟練度の低い奏者では,駒 に直接接していないため振動しにくい裏板の振動が弱 く,逆に駒に接しているため振動し易い表板のみがよ く振動していることに起因すると考えられる. 次に,ストラディバリウスの音響的な特徴を他の時 代のバイオリンと比較することで調べた.その結果,放 射指向性の強さのパタンに現れるピーク周波数やディッ プ周波数にストラディバリウスの特徴が現れることが 明らかになった.これらのピーク周波数やディップの 周波数の比をとった所,ストラディバリウスは 1:3 や 2:3に近い値となり,かつ,他のバイオリンとは明確に 異なる分布となった.さらに,Guarneri del Ges`uを除 く他のオールドバイオリンとは分布が異なることから, ストラディバリウスの音響的特徴は材の古さから来る ものではなく,構造的な違いを反映している可能性が 強く示された. 謝辞 本実験にご協力頂いた電気通信大学大学院情報理工 学研究科 饗庭絵里子氏,および小幡哲史氏(現 ヤマハ 株式会社)に感謝いたします.本研究は,JSPS 科研費

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JP16K00255の助成,および愛知淑徳大学の研究助成 を受けた.

参考文献

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J Acoust Soc Am, 126–1, 388/395 (2009)

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Fig. 1: The spatial-radiation characteristics of violin sound played by violinists with different level of proficiency.
Fig. 3: The strength of the radiation directivity as a function frequency for various kind of violins
Fig. 5: Distribution of peak to dip and peak to peak frequency ratios of the radiation directivity pattern.

参照

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