家族関係と児童の抑うつ・不安感に関する研究
−子どもの認知する家族関係−
内田 利広・藤森 崇志
*A study on the connection between family relationship and children's depression and fear
Toshihiro UCHIDA, Takashi FUJIMORI*
Accepted November 29, 2006 抄録 : 本研究では,子どもの家族認知に重点をおき,子どものとらえた家族関係と抑うつ状態・不安感との関連 を調べた。その結果,現在の児童の抑うつの現状としては,抑うつ得点が設定値を超えた児童は全体の 14.6%に のぼり,性差・学年差については抑うつ得点・不安得点ともに女子のほうが男子よりも高く,不安得点は 5 年生 のほうが 6 年生より高かった。認知した家族関係と精神的健康の関連については,子どもの認知している家族パ ターンは 5 パターンに分類され,家族間の認知した距離よりも,家族成員間のバランスが子どもの抑うつ状態,不 安感の低減につながることが示唆された。家族に対する満足度が,子どもの抑うつ状態・不安感に影響しており, 特に父子・母子間の満足度よりも夫婦間における満足度が子どもの精神的健康に影響していた。また,必ずしも 子どもは接近を希望するわけではなく,父親においては理想よりも近くにいる過干渉状態の時に,子どもの抑う つ状態が高まることが示された。 索引語:家族関係,抑うつ,子どもの認知
Abstract : In this study, we examined the connection between family relationship assessed by children and the cognition of their families. As a result, we found 1) the number of children whose depression scores exceeded the standard ones was 14.6%, 2)girls had higher scores both in depression and fear, 3) fifth grade children had higher fear scores than sixth grade ones. As for the connection between family relationships and mental health, families were categorized into five patterns. And it was suggested that the balance between family members led to a decrease in a child's depression and fear compared to the distance between family members. The degree of satisfaction among family members has great influence on children's depression and fear. Especially, the satisfaction between father and mother has greater influence on children's mental health than that of father-child or mother-father-child relationships. Also, it was shown that father-children did not necessarily want fathers to approach them, and that children's depression worsen when fathers had a closer relationship if they kept an ideal distance.
Key Words : family relationship, depression, fear, child's cognition
Ⅰ 問題と目的 子どもの学校現場における精神的健康に関しての問題は,近年ニュースや新聞でよく取り上げられ ているように,社会的関心が向けられている問題である。不登校は平成 17 年に示された文部科学省の 学校基本調査報告書によると,平成 16 年度に不登校を理由に長期欠席をしていた小・中学生徒の数は 12万 3 千人であり,全生徒数の 1%にもなる。うち小学児童の不登校は 2 万 3 千人であり,前年度よ りも 1 千人減少したとはいえ,長期欠席児童のうち約 4 割をも占めている。不登校は長期欠席者のう ち経済的理由によるもの,あるいは病気による欠席以外のくくりの中に示されている。文部科学省は 不登校の分類として,①学校生活に起因するもの,②遊び • 非行型,③無気力型,④不安など情緒の混 乱,⑤意図的な拒否型,⑥複合型,⑦その他という分類を示している。この分類の中にも見られるよ うに,子どもの精神的な不安定さが不登校に大きな影響を与える要因であるととらえられている。そ のため,子どもの心の問題に対して近年ますます注目され,様々な方面よりケアが行われている。不 登校の一因となる精神的な不安定さの一つとして,先にあげた分類の③に該当すると思われる抑うつ 状態,また④に該当すると思われる不安の高さがあげられる。抑うつ状態・不安は不登校の一因とな るだけではなく,登校できている児童生徒の活動にも悪影響を及ぼすものである。抑うつ状態・不安 は感情のコントロールがうまくできない情緒不安にむすびついたり,極度の学習不振や学習障害を疑 われるような状況にもつながりうると示されている(辻井・堀,2002)。 子どものうつ病・抑うつ状態の概念は,1970 年代以前まではその存在が認知されていなかった。そ の背景としては,精神分析の見地より,自我構造が未発達で安定した自己表象を維持することができ ない子どもは,罪悪感を引き起こす葛藤を生じず,また現実自己と理想自己の間の不一致が生じない と考えられていた。抑うつ状態に類する事例も示されていたが,大人と同様の病相を呈すものではな いという否定的な見解が中心であった。
しかし,1980 年に DSM- Ⅲ(American Psychiatric Association)に代表される操作的診断基準が用いら れるようになってくるに従い,大人と同じ抑うつ症状を持つ子どもが,着目されるようになってきた。 現在抑うつに関しては DSM- Ⅳの診断においても,すべての年齢において同一の基準で示されており, 子どもに関してもうつ病があり,抑うつ状態を呈すことが示されている(高岡・高田,2002)。 抑うつ状態は,通常うつ病と認識されている内因性の軽度のものと,かつては抑うつ神経症と示さ れ,現在では DSM- Ⅳにおいては気分変調性障害,適応障害の抑うつ気分を伴うもの,適応障害の不 安と抑うつ気分の混合を伴うもの,特定不能のうつ病性障害の小うつ病性障害などに該当する (傳田, 2005)ものに分けられる。両者間には中核症状の有無,病前性格,発病の誘因といった違いがみられ るが,軽度抑うつ症状に関しては明確な判断が難しいとされる。 うつ病の基本的特徴は DSM- Ⅳにおいて①抑うつ気分と②興味・楽しみの減退という二つの症状を 中心に,③体重減少・食欲減退あるいは亢進,④不眠あるいは過眠,⑤精神運動性興奮あるいは遅滞, ⑥疲労や活力の低下,⑦無力感や罪悪感,⑧集中力・思考力の低下,⑨自殺念慮などの症状から構成 されている。児童期の抑うつ状態に関してはこれらの基準のうち,身体的訴え,イライラ感,社会的 引きこもりなどとして現れることが多く,逆に精神運動遅滞や,過眠,幻覚などは少ないことが示さ れている。 抑うつ神経症は,発症の前より持続している周囲との関係において葛藤を抱き苦しんでいることが 多い。周囲との関係の中で葛藤となるのは「自身を受け入れてほしい,人と親密になり心を通わせた
い,甘えたい」といった対人希求場面と,「人から見放されるのではないか」といった他者から拒まれ ることに対する不安にとらわれる場面であり,この二つの場面の葛藤で不安がさらに大きくなること により,心理的苦痛が大きくなっていくと考えられている。よって,持続する心理的葛藤の結果,抑 うつ状態を生じることが多いとされる。また,抑うつ神経症に特徴的に見られる病前性格として,未 熟であること,依存的であること,わがままであること,自己中心的であることといった,児童期に 多分に該当すると思われる性質の報告もされている(傳田,2002)。 抑うつ状態が,うつ病の軽度のものか,あるいは神経症によるものかという明確な判断は難しいと ころであるが,子どもがそのような状態にあり,生活の中で苦しんでいることを考えれば,うつ病,抑 うつ神経症双方に関しての理解を深め,スクリーニングに際して一つの目安として,抑うつ状態に着 目することは非常に大切なことである。 子どもの抑うつ症状への着目に伴い,成因論に関しても様々な観点からとらえられている。抑うつ の発生のメカニズムについては,個人内要因と子どもを取り巻く環境要因に分類される。個人内要因 としては精神分析の立場から,Hammen が,発達的精神病理学の見地より,抑うつ状態の起源は初期 の対人関係にあることを示し,①家族との非適応的な愛着パターンにより初期の社会的機能が損なわ れ,②非健康的な認知スタイルやコーピングが発達し,③抑うつ反応の発達・維持につながるという モデルを示した(六角,1999)。また,認知的要因に焦点を当てたモデルに関しては成人と同様に原因 帰属スタイルを扱った研究が多くなされているが,明確な立証は見られない(黒田・桜井,2001)。こ の背景には,抑うつに関する子どもの認知的発達が明確にされていない事があげられる。 環境要因としては家族関係と友人関係といった対人関係要因が代表的なものである。これは抑うつ 神経症の発症においても共通して見られる病因である。周囲環境において子どもの認知枠を超えるよ うな状態が持続してあることや,認知枠を超えるストレスフルな出来事が起きたり,周囲の対人関係 において葛藤が生じることは,子どもの不安を高め,抑うつ状態に結びつくと示されている(六角, 1999)。 不安は文科省の不登校の分類に見られるように,子どもの情緒不安定さを示す指標となるだけでは なく,抑うつのプロセスにおいても大きく影響する精神的健康の尺度である。抑うつ状態発症のプロ セスを考えると不安の増大が大きく関わっている。このことからも抑うつ状態を調査する上で,不安 感について考えることは抑うつ状態の調査には必要であると考えられる。 子どもの身体的・精神的健康を考える際に,家庭が大きな役割を担うことは想像に難くない。特に 親に対する物理的・心理的依存が大きい幼児期・児童期ほど,子どもの精神的健康への影響力は大き いものである。家庭が安定した状態にあることは,子どもにとって情緒的な安定を供給することにつ ながる。また子どもは家族とのコミュニケーションを通して対人関係能力の基盤を発達させていき,抑 うつ状態や不安の原因となる対人問題に対する適応力を培っていく。さらに家庭で適時の親から子ど もへの声かけを通して子どもをほめてやることは,子どもの自己価値観を高め,抑うつ状態の改善に つながることが示されている(高岡・高田,2002)。また,心的表象として内在化された親との養育体 験が,抑うつへの脆弱性を理解するうえでの中心的な構成概念である(Blatt&Homann,1992: 六角,1999 による)と考える見地も示されている。 以上より,子どもの抑うつと家族関係に焦点を当ててみていくことは,児童の不登校,学校への適 応状態へのケアを考える上で,必要なことであると考えられる。 しかし,親子関係と子どもの抑うつ・不安感についての研究はまだ少ない。児童の抑うつ状態と親
子関係を調べた研究については,両親が認知している親子関係や,母親がとらえている家族像といっ た両親が評価した親子関係に重点をおいているものが多い。これは子どもの認知能力の未発達さ,心 理的表象を表現する能力が成人に比べて低いことを配慮した結果であると考えられる。しかし,子ど もに抑うつ症状や,不安障害が見られることからも,子どもであっても十分に心理的表象を内在化し ていること,認知を持続することが可能であると考えられる。これは,Onannessian,Lerner が縦断的 な児童研究において,家族に不満を持つ児童は精神的健康度が低くなることを示したこと(亀口, 1997),また西出・夏野(1997)が子どもの認知する家族機能の障害が,抑うつの促進因子となること を示していることからも,家族評価において,子ども自身の認知をより重点的に見ていくことが大切 であると考えられる。子どもの家族評価において子どもの認知に加え,認知の質(満足度)を加味し, 精神的健康との関連を調べている研究はまだ少ない。子どもの家族認知についての理解を深めること は,子どもが日常表出しない家庭環境の健常性を測るうえでも大切であり,また子どもの認知スタイ ルに歪みがある場合,その補修を行う際に必要なことであると筆者は考える。 よって,本研究では子どもの認知形態に重点を置き,子どもの認知する家族関係と,子どもの精神 的健康(本研究では抑うつと不安に焦点を当てて)との関連を調べることを目的とする。その中で,子 どもの認知する家族関係においては,実際に認知している家族形態に加え,理想とする家族形態を尋 ねることより,子どもの家族認知に対しての考察を深めていきたい。また,まだ児童を対象にした抑 うつ状態の調査が少ないことからも,本研究を通して,抑うつ状態にある児童がどれほどいるのかと いう現状理解をすることを目的とし,現状への対処,一次予防をするうえでの指標をつかめればと考 える。 なお本研究の仮説として ①「認知している親子間の距離が離れているほど,子どもの抑うつ感・不安感は高まる。」 ②「家族に対する現実と理想の間の認知のズレが大きいことは,子どもの家族に対する不満につな がり,子どもの抑うつ・不安感は高くなる。」という仮説を設定した。 Ⅱ 調査方法 各公立小学校の校長先生に,調査を依頼した。調査は質問紙で行い,調査に協力してくれた児童の 所属する学級単位で行われた。調査における教示は学級担任に依頼し,実施時間は 15 分から 25 分程 度であった。配布は学校ごとに手渡しで行い,回収は学校ごとに郵送していただいた。 1)調査対象:石川県金沢市内の公立小学校 6 校の 5 年・6 年児童 1043 名。回収したアンケートのう ち有効回答は 901 人であり,それらを今回の調査対象とした。内訳は 5 年生 450 人(男子 249 人,女 子 201 人),6 年生 451 人(男子 226 人,女子 225 人)である。 2)調査時期:平成 17 年 9 月 3)質問紙構造: ①家族関係単純図式投影法 水島恵一によって考案された図式投影法の一種。家族成員を表す一円玉 大の円形ゴマを用いて,直径 12 センチの円(家族枠を示す)が書いてある B5 判の台紙に,現実お よび理想の家族関係を表現してもらった。自由記述を設け,記入できる児童のみに記入を促した(草 田 2002)。
② DSRS-C Birleson らが子どもの抑うつ状態のスクリーニングのために作成した 18 項目からなる自 己記入式評価尺度。村田(1996)が邦訳し,最近 1 週間の状態について子ども自身が 3 段階評価を 行う。回答に応じて 0 点,1 点,2 点と点数化し,full score は 36 点で Cut off score は 16 点に設定さ れている。本調査では 3 項目を削除した全 15 項目を用いて調査を行ったため,full score は 30 点。 Cut off scoreを 14 点に設定した。
③日本版 STAIC スピルバーガー(1973)らが作成したものを曽我(1983)が邦訳した日本版 STAIC より特性不安尺度を,子どもにとってよりわかりやすい文章にするため一部修正して使用した。全 20項目を 3 件法で回答してもらった。回答に応じて 2 点,1点,0点をふりあて Full score は 40 点である。 Ⅲ 結果 DSRS-Cの検討:901 名から得られた結果より信頼性の検討を行ったところ α=0.74 という結果が得 られ,DSRS-C の内的整合性が示された。次いで,各項目の因子分析(最尤法,プロマックス回転)を おこなった。固有値が 1 を超える因子は 3 つあったが,DSRS の因子モデルを検討した先行研究(佐 藤・新井,2003)において因子モデルは斜交 2 因子モデルが適切と示され,また今回のスクリープロッ ト斜交 2 因子が適切と解釈されたため,2 因子を抽出した。第 1 因子は,「抑うつ・悲哀感」尺度,第 2因子は「楽しみの減退」尺度と命名した。第 1 因子と第 2 因子間の因子間相関は 0.47 であった。表 1に因子分析結果を示す。 STAIC の検討:同様に信頼性の検討を行ったところ α=0.88 という結果となり,こちらも内的整合 性が示された。STAIC に関しても,下位尺度としてどの性質があるかを把握するために因子分析(最 尤法,プロマックス回転)をおこなった。スクリープロットより判断し,2 つの因子を抽出した。第 1 因子は「周囲に対する不安」と命名し,第 2 因子を「問題直面時の不安」と命名した。因子間の相関 は 0.74 であった。表 2 に因子分析結果を示す。 今回精神的健康の目安として,抑うつ状態・不安感を尺度として使用するが,抑うつ得点と不安得 点,そして各下位尺度(「抑うつ・悲哀感」「楽しみの減退」「周囲に対する不安」「問題直面時の不安」) ごとの関係を示すため,各尺度間の相関を計測した。その結果を表 3 に示す。 表 1:DSRS-C の因子分析(因子パターン行列) 項目 / 因子 第 1 因子 第 2 因子 抑うつ・悲哀気分 楽しみの減退 第 1 因子:抑うつ・悲哀気分 うつ 14 とても悲しい気がする 0.75 -0.02 うつ 3 逃げ出したいような気分がする 0.65 -0.03 うつ 12 泣きたいような気がする 0.63 0.00 うつ 5 独りぼっちの気がする 0.62 0.06 うつ 11 こわい夢を見る 0.50 -0.12 第 2 因子:楽しみの減退 うつ 10 いつものように何をしても楽しい -0.06 0.73 うつ 1 楽しみにしていることがたくさんある -0.09 0.67
表 2:STAIC の因子分析(因子パターン行列) うつ 7 元気いっぱいだ 0.03 0.60 うつ 9 落ち込んでいてもすぐに元気になれる 0.02 0.48 うつ 4 やろうと思ったことがうまくできる -0.10 0.46 うつ 13 とても退屈な気がする 0.21 0.44 うつ 2 遊びに出かけるのが好きだ 0.09 0.31 うつ 15 とてもよく眠れる 0.24 0.30 うつ 6 おなかが痛くなることがある 0.28 0.03 うつ 8 食事が楽しい -0.01 0.11 因子寄与 3.27 1.17 因子寄与率(%) 21.82 7.80 累積寄与率(%) 21.82 29.62 第 1 因子 第 2 因子 周囲に対する不安 問題直面時の不安 第 1 因子:周囲に対する不安 不安 20 ほかの人が私をどう思っているのか気になります 0.74 -0.11 不安 14 心の中で色々気にすることがあります 0.71 0.12 不安 15 家族のことが気になります 0.58 -0.14 不安 17 何か起こらないかと気になります 0.54 0.12 不安 11 学校のことが気になります 0.53 -0.01 不安 6 色々と気にしすぎます 0.49 0.23 不安 13 心臓がドキドキするのがわかります 0.49 -0.05 不安 9 何か不安な気がします 0.47 0.28 不安 2 泣きたいような気持ちになります 0.47 0.16 不安 10 小さなことでもくよくよ考えてしまいます 0.41 0.26 第 2 因子:問題直面時の不安 不安 4 なかなか決心がつきません -0.23 0.81 不安 12 どうしたらよいか、なかなか決められません 0.09 0.62 不安 5 難しいことから逃げようとします -0.07 0.57 不安 3 何をしてもうまくいかないような気がします 0.15 0.49 不安 8 恥ずかしがりやです 0.08 0.35 不安 18 夜なかなか眠れません 0.12 0.33 不安 1 間違いをしないかと気になります 0.28 0.25 不安 19 おなかの調子が悪いようなきがします 0.27 0.12 不安 16 手に汗をかきます 0.16 0.14 不安 7 家にいるときでも気持ちが落ち着きません 0.22 0.28 因子寄与 5.79 0.59 因子寄与率(%) 28.96 2.97 累積寄与率(%) 28.96 31.92
表 3:各尺度の相関係数 1.抑うつ得点と不安得点 DSRS-Cで得られたうつ得点の平均点は 8.79 ± 4.57 であり,STAIC で得られた不安得点の平均点は 15.86± 8.10 となった。 うつ得点について,学年と性差による 2 要因分散分析を行ったところ,性差において主効果が認め られ[F(1,897)=7.15,p<0.01],男子よりも女子の方がうつ得点が高いことが示された。しかし,学 年差においての主効果,交互作用は見られなかった。うつ得点の平均点は 5 年男子 8.65 ± 4.67,5 年 女子 8.95 ± 4.23,6 年男子 8.12 ± 4.33,6 年女子 9.46 ± 4.93 となった。 先行研究を参考に,本研究では DSRS-C の Cutoff Score は 14 点と設定している。本調査ではこの Cutoff Scoreをこえた児童は 134 名(男子 59 名,女子 75 名)で,全体の 14.6%(男子 12%,女子 18 %)を占めている。 不安得点においては性差,学年ともに主効果が見られ[性差:F(1,897)=42.12,p<0.01,学年差: F(1,897)= 5.19,p<0.05],女児のほうが男児に比べて不安得点が高いこと,また 5 年児童の方が 6 年児童よりも得点が高いことが示された。しかし,交互作用は見られなかった。不安得点の平均点は 5年男子 15.08 ± 7.85,5年女子 18.00 ± 7.74,6年男子 13.37 ± 7.84,6年女子 17.31 ± 8.19 となっている。 2.子どもの認知する現実の家族パターンの分類 家族関係単純図式投影法より,子どもの認知する現実の家族関係を分類した。投影法に作成された 家族関係より父子間,母子間,夫婦間の距離を計測し,クラスター分析を行ったところ 5 つのグルー プに分類された。なお,分析に際して父子・母子・夫婦距離を基準にしたため,父子・母子家庭はこ の家族分類の分析対象とはせず,父母同居の 788 名を対象に分析を行った。 分類されたグループは① 3 者均等近接型(386 名)② 3 者均等中距離型(258 名)③父子近接型(36 名)④母子近接型(61 名)⑤夫婦近接型(47 名)である。(クラスター分析によるグループのイメー ジを図 1,2,3,4,5 に示し,最終クラスター距離を表 4 に示す。) 表 4:家族クラスター分類 抑うつ感 楽減 うつ得点 周囲不安 問直不安 不安得点 抑うつ感 − 0.39** 0.75** 0.65** 0.49** 0.66** 楽減 − 0.87** 0.41** 0.53** 0.49** うつ得点 − 0.60** 0.61** 0.67** 周囲不安 − 0.63** 0.94** 問直不安 − 0.83** 不安得点 − **;P<.01 クラスター 3者近距離 3者中距離 父子接近 母子接近 夫婦接近 父子距離 23 39 34 68 74 母子距離 22 32 68 39 71 夫婦距離 22 38 62 72 34 単位:mm
3.現実の家族パターンと子どもの抑うつ・不安得点の関連について 現実の家族パターンの分類より得られた 5 パターンに父子・母子家庭を加えた 6 パターンについて の抑うつ得点と不安得点の差を見るために 1 元配置の分散分析を行ったところ,抑うつ得点・不安得 点共に差があることが示された[抑うつ得点:F(1,900)= 5.64,p<0.01,不安得点:F(1,900)= 2.42,p<0.05]。各グループごとのうつ得点・不安得点の平均値と標準偏差を表 5 に示し,平均点のグラ フを図 6,7 に示す。 表 5:家族パターンの分散分析 Tukey法による下位検定を行ったところ,うつ得点では 3 者均等近接型の得点が,母子近接型,夫婦 近接型に比べて低いことが示された。また,3 者均等中距離型の得点も母子近接型に比べて低いことが 示された。単親家庭も母子接近型に比べて得点が低いことが示された。不安得点では,母子接近型が 3者均等近距離型に比べて不安得点が高いことが示された。 平均(SD) 主効果 下位検定 3者 近距離 3者 中距離 父子 接近型 母子 接近型 夫婦 接近型 父子・ 父母家庭 抑うつ 得点 8.23 (4.52) 8.83 (4.15) 10.06 (4.22) 10.72 (4.69) 10.57 (4.66) 8.39 (5.19) 5.64 ** 3者近<母子近 *,3者近<夫婦近* 3者中<母子近 *,片親<母子近 * 不安 得点 15.22 (8.16) 15.72 (8.02) 17.14 (7.61) 18.69 (7.74) 15.4 (7.89) 16.63 (8.23) 2.42 * 3者近<母子近 * 人数 386 258 36 61 47 113 **p< .01,*p < .05 図 6: 家族パターンごとのうつ得点 図 7: 家族パターンごとの不安得点
4.現実と理想の家族認知差と抑うつ・不安得点との関連(有効回答数 788 部) 表 6 現実-理想距離の記述統計 単純家族図式投影法で得られた,現実の家族像の父子距離・母子距離・夫婦距離と,理想の父子距 離・母子距離・夫婦距離の差を求め,父子距離・母子距離・夫婦距離においてどれほど認知にズレが あるのかということを調べた。「現実の距離」−「理想の距離」を算出し,認知のズレを示す指数とし た。父子距離,母子距離,夫婦距離における認知のズレの記述統計を表 6 に示す。 父子距離・母子距離・夫婦距離ともに± 8.5 を基準として,それぞれに,接近希望群(認知のズレの 指数が 8.5 より大きい),現状希望群(− 8.5 ∼ 8.5 の間),接近回避群(− 8.5 未満)を設定した。父 子距離・母子距離・夫婦距離それぞれの各群の人数,平均値,標準偏差を示した表を表 7,8,9 に示す。 表 7:各群における記述統計(父子) 表 8:各群における記述統計(母子) 父子(現実 - 理想) 母子(現実 - 理想) 夫婦(現実 - 理想) 平均値 7.58 6.01 6.63 最頻値 0 0 0 範囲 17.17 15.33 17.99 最小値 -55 -48 -68 最大値 84 78 88 単位:mm 平均(SD) 主効果 下位検定 接近回数 現状希望 接近希望 抑うつ得点 9.88(4.96) 8.45(4.33) 9.19(4.52) 4.48 ** 接回>現希 * 不安得点 15.22(8.16) 15.72(8.02) 17.14(7.61) 2.89 + 人数 69 433 286 **p< .01,*p < .05 +p<.10 平均(SD) 主効果 下位検定 接近回数 現状希望 接近希望 抑うつ得点 9.64(4.91) 8.58(4.46) 9.21(4.37) 2.58 + 不安得点 16.90(8.99) 15.42(7.96) 16.18(8.08) 1.37n.s 人数 61 503 224 **p< .01,*p < .05,+p < .10
表 9:各群における記述統計(夫婦) 父子・母子・夫婦それぞれの各群の差を調べるため,1 元配置の分析を行った。その結果,父子間に おいて,抑うつ得点において差が認められ[F(2,787)= 4.48 p<0.05], 不安得点においても有意 傾向が見られた[F(2,787)= 2.89 p<0.10]。抑うつ得点について Tukey 法による下位検定を行った ところ,接近回避群と現状希望群の間とに差が見られた。 母子間においては群ごとの差は見られなかったが,抑うつ得点において有意傾向が見られた[F (2,787)=2.58 p<0.10]。夫婦間においては,抑うつ得点 • 不安得点ともに群間において差があることが 示された[抑うつ得点:F(2,787)=6.48 p<0.01,不安得点:F(2,787)=6.34 p<0.01]。下位検定を 行ったところ,抑うつ得点では,接近回避群と現状希望群の間と,現状希望群と接近希望群の間で差 が認められた。不安得点においても,現状希望群と接近希望群の間で差が見られた。 Ⅳ 考察 1.抑うつ得点・不安得点について DSRS-Cによる抑うつ得点の全体の平均点は 8.79 ± 4.57 であり,小学校 5 年生では 8.78 ± 4.47,6 年生では 8.79 ± 4.68 という結果であった。北海道の小・中学生児童に対して,DSRS-C を行った傳田 (2004)の先行研究においては小学校 5 年生(N=353)では 8.40 ± 5.26,小学校 6 年生(N=346)では 8.96± 6.26 という結果が示されており,また Birlson の実施時の平均点 4.32 ± 3.32 点(N = 19,11 ∼ 12歳),Charman の実施時平均点 6.9 ∼ 7.8 点(N = 268,12 ∼ 13 歳)という結果が示されている。こ れらと比較すると,国内で DSRS − C を施行した点数が高い数値をとることからも,日本の小学校高 学年児童は DSRS-C という尺度を通してみるかぎり,他国よりも高い抑うつ傾向にあることがうかが える。 今回の調査では,DSRS-C を 3 項目削除して,15 項目での実施を行ったため,先行研究では村田 (1996)が臨床例に実施した結果 16 点と設定している Cut off score を,簡易的な目安として 14 点に設 定している。本調査では Cut off score に達した児童は 134 名(全体の 14.6%)おり,その児童の性別の 内訳は男子 59 名(12%),女子 75 名(18%)である。傳田(2004)の先行研究で得られた Cut off score 到達者との数値である全体 13.0%(男子 9.8%,女子 15.8%)とほぼ同様の結果であった。しかし,村 田ら(1989,1993,1996)が行った研究において得られた数値は全体が 9.6%(男子 8.6%,女子 10.6 %)と示されており,地域差を考慮しつつも,年々 DSRS-C の高抑うつ状態に該当する児童が増加し 平均(SD) 主効果 下位検定 接近回数 現状希望 接近希望 抑うつ得点 9.54(4.65) 8.32(4.26) 9.44(4.68) 6.48 ** 接回>現希 * 接希>現希 * 不安得点 16.04(8.75) 14.68(7.84) 17.08(8.06) 6.34 ** 接希>現希 * 人数 94 429 265 **p< .01,*p < .05,
ていることが推測される。 その背景としては,児童を取り巻く環境の変化,特に情報を得る機会がマスメディアの発達に伴い 増加していること,また仲間内で共有する情報量の多さにより,自己と他者とのズレ,また自身のと らえる現実と理想のズレに直面する機会が増加しているのではないかと考える。抑うつ得点について 本研究では,性差に差が見られ,男子と比べて女子の方が高いという結果が得られた。性差について は DSRS-C を用いた先行研究(村田 1996,傳田 2004)においても,思春期では女子の方が高いという 同様の結果が得られている。また,これは疫学的な調査結果を裏付ける結果となっている。この背景 には,第 2 次性徴が女子の方が早く見られること,それにともない性役割の獲得の早さが見込まれる ことや,自我の芽生えに対する早さの違いという複数の発達的な側面の影響が考えられる。また,学 年別による主効果は見られなかったが,女子の学年別の抑うつ得点に着目してみると,5 年女子の平均 点が 8.95 ± 4.23 であり,6 年女子の平均点が 9.46 ± 4.93 であったことより,学年による変化が伺え る。児童期の抑うつに関しては生徒年齢の相互作用が見られており(六角,1999),女子においては小 学校 6 年以降に著しい増加傾向が示されていることからも(傳田,2004),学年の変化に伴い抑うつ得 点が増加していることは,成長に伴う増加傾向の兆しを示唆するのではないかと考える。 次に不安得点では,性差・学年差共に主効果が見られ,男子よりも女子の方が不安得点は高く,ま た 6 年生にくらべて 5 年生の方が不安得点は高かった。性差については先行研究においても,本研究 と同様に女子の方が男子に比べて高いことが示されている(矢川,2001)。この背景には,抑うつ得点 と同様に発達的側面による理由が考えられる。学年差に関して 5 年生のほうが 6 年生よりも高いとい う結果には,不安の性質が大きく影響すると考える。今回の調査で用いた STAIC の下位尺度は「周囲 に対する不安」と「問題直面時の不安」であり,「周囲に対する不安」は他者がどのように自分を捉え ているかということや,家庭・学校・心配事に関する項目からなるものである。「問題直面時の不安」 は決断しなければならないこと,困難な事に関しての不安に関する項目からなるものである。小学校 5年生である 10 歳,11 歳の時期はエリクソンが示した発達サイクルにおいても,勤勉性と劣等感の葛 藤が危機としてある時期である。つまり,周囲の関係においても,直面する問題に対してうまくやら なければという意識が働く時期と解釈できる。個人差はあるにしろ,発達上 1 年の差による問題に対 しての適応力の違いがこの不安得点においての差となったのではないかと考える。 以上より,小学校高学年児童においては,女子の方が男子に比べて抑うつ状態,不安状態を呈しや すく,また不安状態においては,年齢の増加には必ずしも影響されない現状にあると考える。 2.子どもの認知する現実の家族パターン分類と抑うつ・不安得点の関連について 家族関係単純図式投影法に示された子どもの認知する父子 • 母子 • 夫婦距離をクラスター分析にかけ た結果,3 者間均等近距離型,3 者間均等中距離型,父子接近型,母子接近型,夫婦接近型の 5 つのモ デルを採択した。この 5 タイプに父子・母子家庭を加えた 6 タイプの不安得点・抑うつ得点の差を調 べたところ,3 者均等近距離型・3 社均等中距離型といったバランス型に比べて,母子近接型と認知し ている子どもの抑うつ傾向が高かった。また,夫婦近接型と認知している子どもの方が,3 者近接型に 比べて抑うつ傾向が高いことが示された。平均点よりみると,抑うつ得点では,3 者間のバランスの取 れている 3 者間均等近距離型,3 者間均等中距離型にくらべて,父,母,子のうち,一人が孤立してい る父子接近型,母子接近型,夫婦接近型において抑うつ傾向が高い結果となった。 全体の平均点が 8.79 ± 4.57 であることを基準に考えてみると,3 者間均等近距離型(平均点 8.23 ±
4.52)は比較的抑うつ傾向の低い群,3 者間均等中距離型(平均点 8.83 ± 4.15)は抑うつ傾向が平均に ある群,そして非バランス型(父子接近:平均点 10.06 ± 4.22,母子接近:平均点 10.72 ± 4.69,夫婦 接近:10.57 ± 4.66)は抑うつ傾向が高い群と,子どもの認知している家族形態ごとに分類できるよう に推測される。 3者間均等近距離型が抑うつ傾向が低いことは,家族関係単純図式投影法に示された心理的距離が子 どもにとってポジティブ・ネガティブを示す 1 つの指標となり,西出・夏野(1997)が示した「子ど もが家族をポジティブに評価していると,抑うつ感を減じる」という先行結果の主張と同様の結果を 示すものであると考える。 不安得点(全体平均 15.86 ± 8.10)では,母子接近型(平均点 18.69 ± 7.74)が 3 者間均等近距離型 (平均点 15.22 ± 8.16)にくらべて高い不安傾向がみられた。母子接近型について,草田(2002)は家 族関係単純図式投影法に示される家族関係と,家族の健康性について論文の中で「夫婦の結びつきが 弱く,父親が孤立し,母子が密着した類型においては家族の健康度が低い」と示しており,この示唆 を支持する結果であった。また,その先行研究の中で,草田(2002)は両親の駒(位置関係)が極端 に離れ,子どもと一方の親が密接している家族パターンの場合には,家族において何らかの病理性が 見られるのではないかということを指摘している。本研究においては,草田が示した単親疎外の家族 類型には,父子接近型・母子接近型が該当するように思われるが,家族をこの 2 パターンと認知して いる子どもの抑うつ・不安傾向はともに高い結果となっている。 以上より,抑うつ状態・不安ともに子どもが家族をどのように認知しているかということに影響さ れるものと考える。子どもの抑うつ状態に関しては,非バランス型の 3 群がバランス型の 2 群よりも 得点が高いことより,子どもが両親とも自分に対して,夫婦間と同じように接してくれていると認知 していること,または親子・夫婦ともに仲がよいと認知していることが,子どもの抑うつ状態の減少 につながると推測される。これは,子どもの抑うつ状態をよい方向に向かわせる有効的な手段として, 両親の受容・子どもの自己価値観を高めることが大切であることをかえりみて,家庭において両親が 子どもに対して受容的な行動をしていることを反映しているのではないかと考える。 不安得点については,母子接近型に統計上の差が見られたが,父子接近型においても他の群と比べ て得点が高い傾向が見られている。さらに,子どもが家族を,夫婦が近く自分が離れていると認知し ている場合に不安傾向が見られることも,大変興味深いものである。これらより,子どもの不安感に 対しては,子どもが認知している両親への心理的距離のバランスが大いに影響するのではないかと考 える。バランス群(3 者均等近距離型,3 者均等中距離型)にも,夫婦接近型にも共通して見られるの は,子どもと両親間に距離の程度はあるにしろ,子どもからの父母までの距離が同程度であることで ある。子どもの成長が年々早くなっているとはいえ,児童期は心身ともに親への依存が多い時期であ る。この時期において,両親が 2 者とも近くにいることは,子どもにとって安定感を供給することに つながるであろうし,また距離は離れていても,同程度の心理的距離にありバランスが取れているこ とは安定した親子関係を示唆し,ここより子どもに安定した精神状態を供給するように思われる。こ れに対し,草田(2002)が示している,両親の駒が極端に離れ,子どもと一方の親が密接している家 族パターンは,密接している親がいないときの状況的な不安定さや問題突発時の不安を感じさせるも のであり,さらに家族の病理性に対しての不安を反映しているのではないかと考えられる。 以上より,両親との距離が近いと認知していること,つまり両親を友好的・受容的であるといった 肯定的にとらえていることが,子どもの抑うつ状態,不安感を軽減させることにつながるように考え
る。また不安感に関しては,子どもが父母ともに自分に対して同程度の距離にあるととらえているこ とが,子どもの不安感を低減させることが推測された。これは仮説①を支持する結果であると考えら れる。しかし,バランス型と非バランス型で差異が見られたことからも,単純に距離だけではなく,夫 婦間のバランス,また各家族成員間の距離のバランスが影響することも考える必要があると考える。 3.現実と理想の家族認知差と抑うつ・不安得点との関連 家族関係単純図式投影法により得られた父子・母子・夫婦間それぞれの現実距離から理想距離を引 くことで,現実と理想の認知のズレ,すなわち家族に対しての満足度を反映する指標とした。家族に 対する満足度別のグループと子どもの抑うつ・不安感との関係を調べた。なお,「現実距離−理想距離」 の値が正の数であることは,現実の認知距離よりも理想の心理的距離は近く,よりその関係性が密で あってほしいことを示唆し,逆に負の数であることはその関係性に距離をおきたいことを示唆する。そ の結果,父子 • 母子 • 夫婦間とも最頻値は 0 であり,児童の傾向として単純図式投影法を通して家族に関 する不満を見る限り,現状の家族関係でよいと考えている児童が多いことがうかがえた。また,「現実 距離−理想距離」の平均値が父子 7.58,母子 6.01,夫婦 6.63 であることからは,児童は全体的に家族 同士の距離がより密であってほしいと考えていると解釈される。 得られた結果より,父子間距離・母子間距離・夫婦間距離ともに± 8.5 を基準として,それぞれに, 接近希望群(認知のズレの指数が 8.5 より大きい),現状希望群(− 8.5 ∼ 8.5 の間),接近回避群(− 8.5未満)を設定し,抑うつ得点・不安得点についての差を検討した。 1)父子間の満足度について 父子間においては,抑うつ得点で接近回避群と現状希望群の間で差が認められ,不安得点に関して も有意傾向が見られた。接近回避群と現状希望群の間に差が認められたことから,父親に対しては子 どもがこうであってほしいと考えている父親との心理的距離よりも,現実の心理的距離が近いこと,つ まり父親の干渉が多いほど,子どもの抑うつ状態を高めると考えられる。これは,菅原ら(2002)の 先行研究において,父親の過干渉傾向が子どもの抑うつ傾向と関連を示すという研究結果を裏付ける 結果になった。 また,抑うつ得点,不安得点ともに共通して見られたのは,現状希望群に対して,接近回避群,接 近希望群といった認知のズレ指数の高い子どもの抑うつ得点・不安得点が高いことであった。これは すなわち家族に対する満足度が,子どもの抑うつ・不安に影響を与えることを示唆しているように考 える。 2)母子間の満足度について 母子間においては,抑うつ得点・不安得点ともに満足度の差による,抑うつ状態,不安感の差は見 られなかった。しかし,抑うつ得点に関しては群間の得点に有意傾向が見られたことから,子どもが 認知する母親との心理的距離にズレがあるほど,子どもの抑うつ状態を高める要因の一つとなること が示唆される。菅原ら(2002)の研究においては,母親の養育の暖かさが子どもの抑うつ得点の低さ と関連することが示されている。今回の調査においては家族に関する満足度を一概に,養育態度の暖 かさと解釈することはできないが,子どもが母子関係において,不満を抱かずに現状を望んでいるこ とは,よい母子関係を推測させるものである。ここからも,子どもが母子関係を肯定的にとらえてい ることが子どもの抑うつ感の低さに影響することが推測されると考える。また,子どもの不安感につ いては母子間の満足度は影響されにくいものと考えられる。
3)夫婦間の満足度について 夫婦間においては,抑うつ得点・不安得点ともに認知群ごとに差があることに示された。抑うつ得 点においては現状希望群に比べて,接近回避群,接近希望群の得点が高く,また不安得点に関しても 現状希望群に比べて接近希望群の得点が高いという結果が得られた。ここより,子どもが認知する夫 婦関係において満足度が低いほど,子どもの抑うつ状態が高まることが推察される。菅原ら(2002)の 研究においては満足度に関しての結果は示されていないが,子どもが両親間の愛情を希薄ととらえて いる群においては,両親を相思相愛ととらえている群よりも,抑うつ得点が高いことが示されている。 また,高橋(1998)の研究においては,両親が互いに情愛的であるという解釈は,間接効果として微 弱ながら子どもの精神的健康の良好さに影響するということを示唆している。以上のように,これま での先行研究においては両親間の心理的距離がより近いように認知されるほど,子どもの精神的健康・ 抑うつ感の良好さにつながることを示唆する結果が多く示されている。本研究においても,子どもが 両親により近づいてほしいととらえている接近希望群のほうが,両親の距離に満足している現状希望 群にくらべて抑うつ得点が高いという同様の結果を得た。 しかしながら,本研究においては,両親の距離が理想としてはより離れていてほしいという接近回 避群も,現状維持群よりも抑うつ得点が高かったことより,必ずしも両親間の結びつきのみが,子ど もの抑うつ感の低減につながるものではないことが示唆されたのではと考える。これより,両親間に 十分な愛情が認知されていても,子どもの理想とする家族像と異なれば,抑うつ状態が低減されない ことが考えられる。この背景には,両親間に十分な愛情が認知されていても,両親と子どもの間に距 離がある場合や,家族自体の凝集性が高すぎて,子どもに心理的な負荷を与えていることが推察され る。 不安得点に関しては,現状希望群と比べて接近希望群のほうが高いという結果が得られた。ここよ り,子どもの認知している両親間の愛情が,子どもの不安感に影響することが考えられる。これは,家 族関係において形態は様々にあるが,父・母といった成人間のかもし出す雰囲気を子どもが十分に感 じ取り,父母の関係性の良好が家族の安定性として反映されているように考える。 4)満足度と抑うつ状態・不安感について 以上より,子どもの認知のズレを通した満足度において,父子,母子,夫婦間ともに,現状に対し て満足度が低い群(接近回避群,接近希望群)が現状維持群に比べて抑うつ得点,不安得点ともに全 般的に高い平均点が得られていた。これは,仮説②を支持する結果であり,子どもの家族に対する満 足度が,子どもの精神的健康に関連していることが示唆された。 父子距離については,認知のズレが理想距離のほうが現実よりも離れているときに,子どもの抑う つ状態が高まることが示された。これは父親の過干渉が子どもの抑うつ得点と関連するという先行結 果を支持するものであった。母親に関しては認知のズレによる抑うつ得点・不安得点への影響は見ら れなかったが,抑うつ得点ではその傾向が見られた。この背景には,一般に現実生活において母子関 係のつながりが多いことが想像され,子どもの中で現実と理想のズレの修正が日々子どもの中で行わ れていて,さほど大きなずれを生じていないことが推察される。父子間,母子間,夫婦間においては, 夫婦間に対する子どもの満足度が一番子どもの抑うつ感,不安感に影響を与えた。夫婦間に対しての 認知が満足している児童に比べ,夫婦間がよりよくなってほしいと認知している児童,夫婦間の距離 をもう少し離れてほしいととらえている児童の抑うつ状態・不安感が高まることが示された。これよ り,子どもが現実にしている認知が一見肯定的なパターンであったとしても,不安感や抑うつ状態と
いった子どもが日常の中より感じるストレス,環境因子に影響される精神的な健康性に関しては,そ の子どもの理想とする認知の側面も配慮することが求められると考える。 Ⅴ まとめ 本研究においては,DSRS-C,STAIC,家族関係単純図式投影法を用いて,子どもの抑うつ状態・不 安感と子どもの認知に重点を置いた家族関係との関連についてみてきた。その結果,抑うつ状態・不 安状態は性別・年齢といった成因に加え,親子関係の認知,そして子どもが理想とする家族像とのズ レといった対人関係要因・認知要因も影響すると解釈できうる結果が得られた。
抑うつ状態においては全体の 14.6%が Cut off score に到達しており,他国と比較しても,過去の施行 結果と比較しても抑うつ傾向が高くなっていた。村田(1996)は Cut off score に到達したうち,うつ病 疾病が疑われるのは 5 人に 1 人と示しているが,年々増加傾向が見られることをふまえると,抑うつ に対してのスクリーニング,また一次予防といった働きかけは今後必要になると考えられる。 家族パターンについては,父子・母子家庭が全体の 12.5%という数の多さに筆者は大変に驚かされ た。これは今回の調査協力校のうち校区内に,生活保護者を対象にした宅舎があるといった地域差が 十分に考えられるにしても,離婚率が増加している現在においてはそう外れてはいない数値であると 考える。今回の調査においては,父子・母子家庭に特有とされるような抑うつ・不安の高さは見られ なかった。それどころか,抑うつ得点に関しては両親がいる家庭の,非バランス群よりも低い結果が 得られた。調査に使用した尺度による影響も考えられるが,父子 • 母子家庭の子どもの精神的健康性ひ いては強さが示されたように考える。抑うつ状態に関しては,子どもが自分の中に父母の別離を消化 できていなければ,抑うつ状態を誘引することも考えられるが,今回の調査においては子どもの中に 現在の親子関係が強く内在化していることから,抑うつへの耐性があるのではないかということが推 察される。 家族の認知については,大半の児童が現在の家族に対し,父,母,自分の心的距離が近く,また満 足していることが示された。しかしながら,家族成員間に偏りがあることや,不満があることも示さ れ,抑うつ状態,不安感に影響を与えることが示された。これは家族に対しての心理的表象を,子ど もが内在化していることを示し,子どもの認知能力の高さ,また心因性の症状を起こしうることを示 唆すると考える。家族の認知についても,現実に認知している家族形態だけではなく,家族に対する 満足度による影響が示されたことからも,子どもの抑うつ状態,不安感に対する対処時には症状に加 え,認知的側面に対するケアが児童相手であっても必要なのではないかと考えられる。 抑うつ,不安,ストレスに対するケアにおいては,クライエントの認知スタイルを足がかりに行う 認知療法や,認知行動療法が数多く施行されている。今回の調査結果より,子どもの抑うつ状態,不 安感に対するケアにおいて,薬物療法やカウンセリングに加え,子どもの理想の認知の修正や,現実 枠の再設定といった認知枠へのアプローチを示唆する結果を示せたのではないかと考える。子どもの 表象維持能力が低いことは,今までに発達的見地より示されているが,情報量が増えてきている現在 において,子どもの表象能力の発達が促進されていると推察されること,また心的表象の内在化が難 しいことから,逆に現在の子どもが認知する表象を尊重するアプローチが必要とされているのではな いかと考える。
注 本論は,京都教育大学教育学研究科学校教育専修の藤森崇志君が,2005 年度に提出した修士論文 を基に,加筆・修正したものです。藤森君は,2006 年 2 月 11 日に交通事故により 25 才の若さで亡 くなりました。修士論文発表会も終わり,卒業式を間近に控え,いよいよ社会人としてのスタート という時に,志半ばで逝ってしまいました。藤森君と,彼をそれまで育ててくれたご両親に本論を 捧げたいと思います。 引用文献 亀口憲治 1997 家族の問題 人文書院. 草田寿子 2002 家族関係単純図式投影法―家族アセスメントの視点から― 「人間科学研究」文教大 学人間科学部,Vol.24,pp.5-10. 黒田祐二・桜井茂男 2003 中学生の友人関係場面における目標志向性と抑うつとの関係に介在するメ カニズム : ディストレス / ユーストレス生成モデルの検討 教育心理学研究 51(1) pp.86-95 佐藤寛 • 新井邦二郎 2003 子ども用抑うつ自己評価尺度(DSRS)の因子モデルの検討 筑波大学心理学研究 Vol.25,pp.123-128. 菅原ますみ • 八木下暁子 • 詫摩紀子・小泉智恵・瀬地山葉矢・菅原健介・北村俊則 2002 夫婦関係と児 童期の子どもの抑うつ傾向との関連―家族機能および両親の養育態度を媒介として ― 教育心理 学研究 Vol.50,pp.129-140. 曽我祥子 1983 日本版 STAIC 標準化の研究 心理学研究,Vol.54〔4〕,pp.215-221. 高岡健・高田知二 2002 青年期に映る「うつ」の時代−摂食障害,不登校,自殺企図を伴う「うつ」 教育と医学 50(5) (通号 587),418-427, 教育と医学の会 編 / 慶應義塾大学出版会 高橋良臣 1998 登校拒否の子どもの抑うつ傾向(5) 月刊学校教育相談 12(14) pp.50-52 辻井正次・堀篤実 2002 現代の子ども達と抑うつ 教育と医学 Vol.50〔5〕. 傳田健三 2002 子どものうつ病,金剛出版. 傳田健三 2005 子どものうつ病―その心に何が起きているのか―,児童青年精神医学とその近接領 域 Vol.46〔3〕,pp.248-258. 傳田健三・賀古勇輝・佐々木幸哉・伊藤耕一・北川信樹・小山司 2004 小・中学生の鬱状態に関す る調査 Birleson 自己記入式抑うつ評価尺度(DSRS − C)を用いて− . 児童青年精神医学とその 近接領域 Vol.45〔5〕,pp.424-436. 西出隆紀・夏野良司 1997 家族システムの機能状態の認知は子どもの抑うつ感にどのような影響を 与えるか 教育心理学研究,Vol.45,pp.456-463. 村田豊久 1989 児童・思春期の抑うつ状態に関する臨床的研究 . II. CDI を用いての検討 厚生省「精 神・神経研究委託費」63 公 -3 児童・思春期精神障害の成因及び治療に関する研究 pp.69-76 村田豊久 1993 子どもの " 抑うつ " 児童心理 47(10) pp.985-989 金子書房 村田豊久 1996 学校における子どものうつ病 -Birleson の小児期うつ病スケールからの検討 - 最新精 神医学 1 pp.131-138 矢川晶子 2001 児童期の自己制御と不安感との関係 和歌山大学教育学部紀要 教育科学 Vol.52, pp.155-167.
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