Title
Phosphorylated retinoid X receptor α loses its heterodimeric
activity with retinoic acid receptor β( 内容の要旨(Summary) )
Author(s)
吉村, 光太郎
Report No.(Doctoral
Degree)
博士(医学)甲 第732号
Issue Date
2007-11-21
Type
博士論文
Version
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12099/23101
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氏名(本籍) 学位の種類 学位授与番号 学位授与日付 学位授与要件 学位論文題目 吉村 光太郎(岐阜県) 博 士(医学) 甲第 732 号 平成19 年11月 21 日 学位規則第4条第1項該当 PhosphorylatedRetinoidXReceptorαLosesitsHeterodimericActivity WithRetinoic Acid Receptor β
審 査 委 員 (主査)教授 森 脇 久 隆 (副査)教授 森 秀 樹 教授 吉 田 和 弘 論文内容の要旨 【背景・目的】 肝細胞癌(以下HCC)は近年の診断法や治療法の発展にもかかわらず,いまだその予後は十分 に改善されていない。HCCの予後を不良とする主因の一つとして,HCCは一般的に慢性肝炎や 肝硬変を母地として高い確率で発生し,また例え根治的治療を施行し得た場合においても高頻 度に再発をきたすという臨床的特徴があげられる。一方,この臨床的特徴(高い発生・再発率) は,明らかなHCCのハイリスクグループ(慢性肝炎,肝硬変,HCC治療後)を対象にした有効な 化学発癌予防法の開発が,この悪性疾患の予後改善に直結する可能性を示唆するものである。 また同時に,HCCに対する有効な化学予防薬の開発のためには,肝発癌の基本的メカニズムの 解明を進め,その標的となりうる「key molecule」を同定していく必要があると考えられる。 レチノイン酸受容体(RAR)およびレチノイドX受容体(RXR)は核内受容体familyの一員 であり,1igand(レチノイン酸)存在下に標的遺伝子の転写を調節する。具体的には,RXRとRAR は1igand存在下にheterodimer を形成し,DNA上の応答配列であるレチノイン酸応答領域 (RARE)に結合後,その下流に位置する遺伝子の発現を調節する。これらの標的遺伝子は,分 化・増殖・死(apoptosis)といった細胞の基本的活動を制御するため,レチノイドおよびその 核内受容体の発現・機能異常は,正常な細胞機能からの逸脱,すなわち細胞の異型化・不死化 と密接に関係していると考えられている。我々は今まで,ヒトHCC組織および細胞株において, レチノイド核内受容体蛋白RXRαが異常リン酸化修飾を受けていることを報告してきた。すなわ
ちHCC細胞において,RXRαはRas/MAPK/Erk signaling pathwayにより特定のアミノ酸残基
(serine260/threonine82)に恒常的なリン酸化を受け,ユビキチン/プロテオソーム系による分 解から逃れて細胞内に異常蓄積し,正常RXRαの働きをdominant negativeに阻害することが, 肝発癌の主要なメカニズムの一つである可能性を明らかにしてきた。しかしながら,リン酸化 されたRXRαがその機能を喪失する詳細なメカニズムについては,いまだ十分に検討されていな い。 そこで今回我々は,RXRαのserine260/threonine82残基をaspartateに置換したリン酸化型 mutantRXRα(T82D/S260D)と,同アミノ酸残基をalanineに置換した非リン酸化型mutantRXRα (T82A/S260A)をそれぞれ定常的に発現する細胞株を作製し,RXRαの異常リン酸化修飾が RXRα/RARβの二量体形成能および肝発癌に及ぼす影響について比較検討した。
【方法】
今回我々は,2種類の蛋白間の相互作用(interaction)を測定するのに有用なFluorescenceResonance Energy Transfer(FRET)法と免疫沈降Western Blot法を用いて,リン酸化修飾を受 けたRXRαと正常RARβの間における二量体形成能について検討した。また,リン酸化型RXRα,お
よび非リン酸化型RXRαを,それぞれ過剰発現させた細胞におけるRAREの転写活性(promoter
-29-activity),細胞増殖能の変化,apOptOSisの誘導効果について比較検討した。同様に,肝癌細 胞株HuH7において非リン酸化型RXRαを過剰発現させ,RAREおよびレチノイドX受容体応答領域 (RXRE)の転写活性,細胞増殖能の変化,足場依存性の回復についても併せて検討した。
【結果】
FRET法および免疫沈降WesternBlot法にて,リン酸化型RXRαを強制発現させたHEK293T細胞で は,RXRα/RARβの二量体形成能が低下・喪失するのに対し,非リン酸化型RXRαを強制発現させる ことで,この二量体形成能の低下が著明に改善・回復することが確認された。また,リン酸化 型mutantRXRαを導入した同細胞では,RAREの転写活性が低下しているのに対し,非リン酸化型 mutant RXRαを導入することによってこの転写活性が克進し,1igand(9cisレチノイン酸)反応 性の回復も認められた。さらに,非リン酸化型mutantRXRαを導入した同細胞では,細胞増殖の 抑制効果,apOptOSisの誘導効果がIigand依存性に認められた。HuH7においても同様に,非リン 酸化型mutantRXRαを導入することによって,RAREおよびRXREの転写活性の冗進,腫瘍細胞増殖 抑制効果,および足場依存性の回復が認められた。【考察・結論】
今回我々が注目したRXRは,レチノイド依存性にRXR自身とhomodimerを,またRARと heterodimerを形成するのみならず,ビタミンD受容体,甲状腺ホルモン受容体,あるいは peroxisomeproliferator-aCtivatedreceptor(PPAR)といった多彩な核内受容体とheterodimer を形成し,様々な重要な遺伝子の発現を制御することで,核内受容体ネットワークにおいて 「master regulator」としての役割を果たしている。我々は,今回のリン酸化型あるいは非リ ン酸化型RXRαを用いた実験にて,①リン酸化型RXRαを過剰発現させた細胞では,RXRα/RARβ二量 体形成能および転写活性が低下・喪失し,aPOptOSisの誘導低下や細胞増殖克進状態が起こるこ と,②反対に,非リン酸化型RXRαを過剰発現させることで,これらの異常が著明に改善・回復 し,HCC細胞にapoptosisの誘導と細胞増殖抑制効果,および足場依存性の回復が認められるこ とを明らかにした。 今回の実験結果は,核内受容体蛋白RXRαのリン酸化修飾に伴う機能不全(二量体形成能の低 下)が,RXRαを介した正常な細胞増殖・apOPtOSis制御の破綻を引き起こし,最終的には肝発癌 に関与しうる可能性,言うなれば,HCCがレチノイド受容体を中心とした核内受容体の,蛋白レ ベルでの修飾に伴う機能異常に起因する「核内受容体病」として捉えられる可能性を示唆する ものであると考えられた。今回の我々の発見は,RXRαの機能不全・異常リン酸化修飾の解除を 標的とした,新たなる肝発癌予防法の可能性を切り開くものであり,今後,肝癌の化学予防研 究を進めていく上で,非常に意義深い結果であると考えられた。 論文審査の結果の要旨 申請者 吉村光太郎は,レチノイドⅩ受容体がリン酸化を受けた場合,他の受容体との二量 体形成能を喪失し,これが転写調節機能の不活化につながることを蛋白レベルで証明した。 この知見は基礎腫瘍学の発展に少なからず寄与するとともに,臨床腫瘍学へのトランスレー ションを行なう上で重要な1つのステップであると認める。 [主論文公表誌]Phosphorylated Retinoid X ReceptorαLosesits Heterodimeric Activity with Retinoic Acid Receptorβ
Cancer Science98(12),1868-1874(2007).