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プ ロダ ク ト イ ノ ベー シヨ ン 青 いバ ラ ヘ の 長 い 歩 み サ ン トリー(株)先 進 技 勝 元 幸久, Roses are red, violets are blue(1) と い う押 韻 詩 で 代 表 さ れ る よ う に バ ラ は 赤 い も の と さ れ て

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Academic year: 2021

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プ ロダ ク ト

ノ ベ ー

シヨ ン

青 いバ ラ ヘ の 長 い 歩 み

サ ン トリー(株)先

術 応 用 研 究 所

勝 元 幸久, 田 中 良 和

“Roses are red, violets are blue(1)”と い う押 韻 詩 で 代 表 さ れ る よ う に バ ラ は 赤 い も の と さ れ て い る. 一 方 で, blue roses は 不 可 能 の 代 名 詞 と も さ れ, 幾 多 の 育 種 家 の 挑 戦 を 退 け て き た. こ れ は バ ラ に は 青 色 色 素 (デ ル フ ィ ニ ジ ン) を 花 弁 で 合 成 す る能 力 が な い た め で あ る. パ ン ジ ー (Viola spp.) か ら デ ル フ ィ ニ ジ ン を 合 成 す る た め に 必 要 な 酵 素 の 遺 伝 子 を 取 り 出 し, こ れ を バ ラ で 発 現 さ せ る こ と に よ り, デ ル フ ィ ニ ジ ン を 蓄 積 す る 青 い バ ラ を つ く る こ と が で き た. 園 芸 種 の バ ラ (Rosa hybrida) は, 花 の 女 王 と も 呼 ば れ 世 界 中 で 最 も愛 さ れ て い る植 物 で あ る. バ ラ の 栽 培 の 歴 史 は5,000年 以 上 前 の 古 代 文 明 に さ か の ぼ る と も い わ れ, ク レ オ パ トラ や ナ ポ レオ ン の 王 妃 ジ ョ セ フ ィ ー ヌ も バ ラ を 愛 した. バ ラ 属 約200種 の う ち7∼8種 を 人 工 交 配 す る こ と に よ り, 園 芸 種 の バ ラ が 誕 生 し た(2). ち な み に, 今 で こ そ 当 た り前 の よ う に 目 に す る 黄 色 い バ ラ も, 19世 紀 末 ま で は 幻 の 存 在 で あ り, 中 近 東 原 産 の 黄 色 い 野 生 種 (R. foetida) の 形 質 を 導 入 す る こ と に よ っ て ‘ソレ イ ユ ・ド ー ル (1900年, フ ラ ン ス)’と い う現 代 に 黄 色 を も た ら し た 最 初 の 品 種 が 作 出 さ れ た. こ の 品 種 の 発 表 以 後, 黄 色 い バ ラ の 育 種 は 一 気 に 進 展 し, オ レ ン ジ な ど 暖 色 系 の バ リエ ー シ ョ ン も広 が り,‘ソ レ イ ユ ・ド ー ル ’は バ ラ の 品 種 改 良 に お い て 歴 史 的 な 役 割 を 果 た した と い え る. 育 種 家 の 努 力 の 結 果, 赤 ・白 ・ピ ン ク ・黄 色 な ど, さ ま ざ ま な 色 の バ ラ が 得 ら れ て い る. 青 に つ い て も, 青 色 系 バ ラ と し て 市 販 さ れ て い る 品 種 は 存 在 す る が, こ れ ら は 主 に 藤 色 系 の バ ラ の こ と を 指 す. 交 配 に よ る 青 色 系 バ ラ の 品 種 改 良 は1945年 作 出 さ れ た か す か に 薄 紫 を 帯 び た 灰 黄 白 色 の ‘グレ ー パ ー ル ’が 最 初 で あ る と い わ れ て い る. そ の 後, 1957年 に 薄 紫 ピ ン ク の ‘スタ ー リ ン グ シ ル バ ー ’が 作 出 さ れ, こ れ ら の 品 種 を 交 配 親 と し て 用 い, 多 くの 藤 色 系 バ ラ が つ く られ て い る. ま た, 近 年 で は こ れ らの 藤 色 系 バ ラ な どを 利 用 し, さ らに 育 種 を重 ね る こ とで, よ り赤 み を抑 え た 淡 い グ レー 系 の バ ラ が作 出 さ れ て お り, 品種 名 に ブ ル ー の 付 く もの も多 数 存 在 す る (図 1). しか し, バ ラ の花 弁 に は後 述 す る よ う に青 色 の 色 素 (デ ル フ ィニ ジ ン) が な い た め, 現 在 ま で 十 分 な青 い 色 の バ ラ はつ く られ て い な い.「 ブ ル ー ロー ズ」は英 語 の 辞 書 で,「 不 可 能, で き な い 相 談 」 と紹 介 さ れ て い る, 青 いバ ラ に関 す る さ ま ざ ま な知 見 ・情報 につ い て は最 相 さん の 労 作 が あ る(3). 花 の 色 の 決 ま る仕 組 み と青 い 花 の 複 雑 さ 植 物 は さ ま ざ まな 工 夫 を して花 粉 を運 ん で くれ る虫 や 鳥 を 呼 び寄 せ て い る. 花 の 色 もそ の 工 夫 の ひ とつ で, 虫 や 鳥 の 視 覚 に訴 え る べ くさ ま ざ ま な 色 の花 が あ る. 代 表 的 な花 色 の 成 分 に は, (1)黄色 ∼青 ま で の広 い ス ペ ク トル を もつ フ ラ ボ ノイ ド (通 常 は配 糖 体 と して 液 胞 に 存 在 す る), (2)黄 色 か らオ レ ン ジ色 の カ ロテ ノ イ ド (黄 色 の キ ク, バ ラな ど. 葉 緑 体, プ ラ ス チ ドに 存 在 す る), (3)一部 の 中心 子 目 の植 物 (オ シ ロ イバ ナ, サ ボ テ ンな ど) に含 ま れ るベ タ レイ ンが あ る. こ こ で は 主 に フ ラ ボ ノ イ ドに つ い て 述 べ る. フ ラ ボ ノ イ ドの 生 合 成 経 路 を図2に 示 した. フ ェニ ル ア ラ ニ ンか ら多 くの 酵 素 の 働 き に よ っ て多 様 な フ ラ ボ ノ イ ドが 合 成 さ れ る. 環 の 酸 化 状 態 に よ り, フ ラ ボ ン, フ ラ ボ ノー ル な ど に分 類 され, 紫 外 線 や ス ト レス の植 物 体 の 保 護, シ グ ナ ル 伝 達 物 質, 食 害 か らの保 護 な どの 機 能 が あ る. 近 年 で は, そ の 抗 酸 化 作 用 か ら健 康 に よ い 成 分 と して も注 目 され て い る. 花 の色 に 直 接 関 わ る有 色 の 成 分 は ア ン トシア ニ ンと総 称 され る. ア ン トシ アニ ン は, 122 化 学 と 生 物 Vol. 43, No. 2, 2005

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発 色 団 で あ るア ン トシア ニ ジ ンが 糖 や 芳 香 族 ア シル 基 あ る い は脂 肪 族 ア シ ル基 に よ り修 飾 され て お り, 修 飾 の 多 様 性 が 花 色 の 多 様 性 の一 因 とな って い る(4). お もな ア ン トシ ア ニ ジ ン に は オ レ ン ジ色 か ら朱 色 の ペ ラル ゴ ニ ジ ン, 赤 色 か ら紅 色 の シア ニ ジ ン, 紫 か ら青 色 の色 素 デ ル フ ィニ ジ ンが あ る (図2)(4,5). シ ア ニ ジ ン, デ ル フ ィニ ジ ンを 合 成 す るた め に必 要 な酵 素 は そ れ ぞ れ フ ラ ボ ノ イ ド 3'-酸水 酸 化 酵 素 (F3'H), フ ラ ボ ノ イ ド3', 5'-水酸 化 酵 素 (F3'5'H) で あ る (図2). 青 い花 の 多 くは, デ ル フ ィニ ジ ンを 発 色 団 とす る ア ン トシ アニ ンを 含 む. 一 方 で デ ル フ ィニ ジ ンを 含 ん で い て も青 くな い花 も あ る (ゼ ラニ ウ ム な ど). 青 く発 色 す るた め に は, (1)ア ン トシ ア ニ ン の存 在 す る液 胞 のpHが 比 較 的 中 性 に近 い こ と, (2)ア ン トシア ニ ンに芳 香 族 ア シル 基 図1■遺 伝 子 組 換 え で 作 出 した デ ル フ ィ ニ ジ ン を 蓄 積 して い る バ ラ (右) と 交 配 育 種 で 作 出 さ れ た 青 色 系 の バ ラ (上段 左, 中 央) 下 段 左, 中央 は デ ル フ ィニ ジ ンを 蓄 積 して 青 い 色 を して い るパ ンジ ー 図2■フ ラ ボ ノ イ ド生 合 成 経 路 の 一 部 F3'HとF3'5'Hは フ ラボ ノ イ ドの 水 酸 化 パ タ ー ンを 決 定 し, これ らの 酵 素 の有 無 が花 色 に 大 き な影 響 を 与 え る. 多 くの青 い 花 で はF3'5'Hが 発現 して お り, そ の 結 果, デ ル フ ィ ニ ジ ンを蓄 積 して い る. F3H: フ ラ バ ノ ン3-水 酸 化 酵 素, F3'H: フ ラ ボ ノイ ド3'-水 酸 化 酵 素, F3'5'H: フ ラ ボ ノ イ ド3'5'-水 酸 化 酵 素, FLS: フ ラ ボ ノ ー ル 合 成 酵 素, FNS: フ ラ ボ ン合 成 酵 素, DFR: ジ ヒ ドロ フ ラ ボ ノ ール4-還 元 酵 素, ANS: ア ン トシア ニ ジ ン合 成 酵 素

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が 付 加 す る こ と (で きれ ば複 数), (3)フ ラ ボ ンや フ ラ ボ ノー ル とい った 無 色 の フ ラ ボ ノイ ドと複 合 体 を形 成 す る こ と, (4)アル ミニ ウ ム, 鉄 な どの 金 属 イ オ ンが ア ン トシ ア ニ ンに配 位 す る こ との ひ とつ また は複 数 の 要 因 が必 要 で あ る. た とえ ば, リン ドウ や チ ョウ マ メ の ア ン トシ ア ニ ン (図3) は複 数 の ア シル 基 が 結 合 して い る. ア サ ガ オ は シ アニ ジ ン型 ア ン トシ アニ ンで あ るが き わ め て 複 雑 な 構 造 を した ヘ ブ ン リー ブ ル ー ア ン トシ ア ニ ン (図3) を も ち, 開 花 時 に 液 胞 のpHが7.5以 上 に も上 昇 す る. ツ ユ クサ の デ ル フ ィニ ジ ン型 ア ン トシ アニ ンは, 6分 子 の ア ン トシ ア ニ ン と6分 子 の フ ラ ボ ン と1分 子 の マ グ ネ シ ウ ム イ オ ン, 1分 子 の鉄 イ オ ンが 複 合 体 を 形 成 して い る. バ ラ の主 要 ア ン トシ アニ ンは, 単 純 な シ ア ニ ジ ン ま た は ペ ラ ル ゴニ ジ ン3,5-ジ グル コ シ ドで あ る (図3). さ らに, ア ン トシア ニ ンの 液 胞 で の分 布 の仕 方 や 細 胞 の 形 態 も花 色 に影 響 す る. 植 物 は, この よ う な条 件 を巧 み に組 み合 わ せ る こ と に よ り,虫 た ち を 呼 び寄 せ る色 を つ く り出 し, 数 千 万 年 の 進 化 を生 き残 って き た. 青 い花 を つ く ろ う バ ラ, キ ク, カ ー ネ ー シ ョ ンの3種 だ け で世 界 の切 花 市 場 の 約 半 分 (卸 売 り金 額 で6,000億 円 程 度 と推 定 さ れ る) を 占 め る が, いず れ も紫 か ら青 の 品 種 が な い. 交 配 育 種 に よ り青 い 品 種 を つ くろ う とい う努 力 は され て き た が, こ れ らの 花 は シア ニ ジ ン, ペ ラル ゴ ニ ジ ンを含 む が, デ ル フ ィニ ジ ンを 含 ま な い た め に, 言 い 換 え れ ば, こ れ らの花 に はF3'5'H遺 伝 子 が 発 現 して い な い た め に 成 功 して い な か っ た. 1980年 代 か ら盛 ん に な っ た植 物 バ イオ テ ク ノ ロ ジー の技 術 を 用 い る と, 異 種 の 生 物 の遺 伝 子 を 目的 の植 物 に導 入 ・発現 さ せ る こ と に よ り, 品種 改 良 を す る こ とが で き る. F3'5'H遺 伝 子 を バ ラ に入 れ る こ と が で き れ ば, 青 い バ ラが で き る こ と は, 早 くか ら言 わ れ て い た. 後 に 共 同 研 究 開 発 を 行 な う こ と に な る Flori-図3■ア ン ト シ ア ニ ン の 構 造 A: リ ン ドウ の ア ン ト シ ア ニ ン (ゲ ン チ オ デ ル フ ィ ン), B: チ ョ ウ マ メ の ア ン トシ ア ニ ン (テ ル ナ チ ンD1), C: ア サ ガ オ の ア ン トシ ア ニ ン (ヘ ブ ン リー ブ ル ー ア ン トシ ア ニ ン), D: ア ン トシ ア ニ ジ ン3,5-ジ グ ル コ シ ド (R1=R2=H ペ ラ ル ゴ ニ ジ ン, R1=OH, R2= H シ ア ニ ジ ン, R1=R2=OH デ ル フ ィ ニ ジ ン) 124 化 学 と 生 物 Vol. 43, No. 2, 2005

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gene 社 (当 時 は Calgene Pacific 社 (オ ー ス トラ リア)) は, 1987年 に設 立 さ れ, 青 い バ ラ や 日持 ち の す る カ ー ネ ー シ ョ ンの 開発 を 目指 して い た. 同 じ こ ろ, サ ン トリー で は, 将 来 の 事 業 候 補 に花 ビ ジ ネ ス を 挙 げ, 1989年 にペ チ ュニ ア の 新 品 種 サ フ ィニ ア を 発 売. 翌 年 の 大 阪 花 博 覧 会 も あ り, サ フ ィ ニ ア は 園 芸 ブ ー ム の 火 付 け役 とな った. 交 配 育 種 だ け で な く, 何 か 画 期 的 な こ と を や ろ う と考 え て お り, 青 いバ ラ も ひ とつ の 開 発 タ ー ゲ ッ トで あ っ た と こ ろ に, Calgene Pacific 社 か ら青 いバ ラ の プ ロ ジ ェ ク トが持 ち 込 ま れ, 共 同研 究 開 発 を 開 始 し, サ ン トリー か ら研 究 員 も派 遣 した. F3'5'H遺 伝 子 の 取 得 F3'5'Hは, チ トク ロ ー ムP450 (プ ロ トヘ ム を 含 み, モ ノオ キ シゲ ナ ー ゼ反 応 を主 に 触 媒. 通 常 小 胞 体 で 機 能 す る) に属 す る酵 素 で あ る こ と は 当時 知 られ て い た が, 植 物 のP450遺 伝 子 の 報 告 は ア ボ カ ドのP450遺 伝 子 が1 種 報 告 さ れ て い た に過 ぎ な か っ た. 動 物 な ど のP450も 含 め, ア ミノ酸 配 列 を 比 較 す る と, 配 列 が 保 存 され て い る領 域 が あ る. この領 域 に対 応 す る オ リゴ ヌ ク レオ チ ド を 合 成 し, ペ チ ュ ニ ア 花 弁 で 発 現 し て い る 遺 伝 子 の cDNAを 鋳 型 に し, PCRでP450断 片 を 増 幅 し, これ を 用 い て ペ チ ュニ ア 花 弁cDNAラ イ ブ ラ リー を ス ク リー ニ ング し, P450ホ モ ロ グを 得 る. こ れ らを も とに プ ラ イ マ ー を再 度 デ ザ イ ン し, PCRを 行 な う. こ う した 手 順 を 繰 り返 す こ と に よ り, 約20種 のP450 cDNAと, 約100 種 のP450様 のPCR断 片 を得 た. 当 時 は, 植 物 のP450 が 植 物 種 あ た り260∼500種 も あ る(6)と は 思 い も し な か っ た の で, な ぜ こん な に あ るの だ ろ う と首 を ひ ね っ た もの で あ る. こ れ らのP450遺 伝 子 を酵 母 で 発 現 さ せ 酵 素 活 性 を 測 定 した. 酵 母 は単 細 胞 で あ る が真 核 生 物 で あ る の で, 植 物 のP450で も発 現 で き る (当 時 は ま だ 発 現 で き る はず と い う段 階). 酵 母 でF3'5'H活 性 を 示 した 遺 伝 子 を, F3'5'H活 性 を 欠 損 して い る ペ チ ュニ ア に導 入 し た と こ ろ, そ の欠 損 を 相 補 した の で, F3'5'H遺 伝 子 の ク ロー ニ ン グ に成 功 した と判 断 した(7). バ ラの形 質転換 法の開発 植 物 の細 胞 は 分 化 全 能 性 が あ り, 1つ の 細 胞 か ら元 の 植 物 に戻 る こ とが で き る と教 科 書 に は記 載 され て い る. しか しな が ら, この 分 化 の 過 程 を効 率 よ くか つ 再 現 性 よ く行 な う た め に は, 用 い る組 織, 栄 養 素 の 種 類 と濃 度, 植 物 ホ ル モ ンの 種 類 と濃 度 な どの パ ラ メ ー タ ー を 最 適 化 す る必 要 が あ る. そ のパ ラ メ ー タ ー は植 物 種 の み な らず 品 種 や 植 物 の生 育 条 件 に も大 き く依 存 す る. ま た, 植 物 細 胞 へ の 遺 伝 子 導 入 に は ア グ ロバ クテ リウ ム とい う土 壌 細 菌 が よ く用 い られ る が, この 細 菌 が 感 染 しや す い条 件 や 遺 伝 子 の 入 った 形 質 転 換 細 胞 を選 抜 す る条 件 も植 物 種 や 品 種 に よ っ て大 き く異 な る. 導 入 す る 遺 伝 子 は, 染 色 体 上 に 取 り込 ま れ る 場 所 に よ っ て発 現 す る レベ ル が 大 き く異 な る た め, 目的 とす る 形 質 を もつ 系 統 を得 る た め に は 多 くの組 換 え 体 を取 得 す る必 要 が あ る. バ ラ の 場 合 も, 多 くの 品 種 に適 用 可 能 で, 一 度 に多 数 の 組 換 え 体 を取 得 で き る効 率 の 良 い形 質 転 換 系 を 構 築 し, ル ー チ ン ワ ー ク と して 確 立 す る ま で に は, 地 道 な努 力 と工 夫 の 積 み 重 ね が 必 要 で あ った. デ ル フ ィニ ジ ンが バ ラ で蓄 積 ペ チ ュニ ア のF3'5'H遺 伝 子 を構 成 的 な あ るい は花 弁 特 異 的 な プ ロ モ ー タ ー に連 結 し, バ ラ に導 入 した. 6∼9 カ 月 後, よ うや く咲 い た バ ラ は色 の 変 化 は な い上 に デ ル フ ィニ ジ ンは ま っ た く検 出 さ れ な か った. バ ラ花 弁 に デ ル フ ィニ ジ ンが な い の は3',5'-脱 水 酸 化 酵 素 が あ る た め で は な い か と い う心 配 す ら した. 日本 とオ ー ス トラ リア で 手 分 け して デ ル フ ィニ ジ ンを 生 産 して い る花 か らF3' 5'H遺 伝 子 を 取 得 し, バ ラ に導 入 した. な お, F3'5'H遺 伝 子 は種 が違 っ て も相 同 性 が高 い の で, た や す くク ロー ニ ン グ で き る. ペ チ ュニ ア2種, トル コギ キ ョウ, リン ドウ, チ ョウ マ メ, サ イ ネ リア な ど のF3'5'H遺 伝 子 を 試 した が, デ ル フ ィニ ジ ンは検 出 で きず, パ ン ジ ー の 同 遺 伝 子 を導 入 した場 合 に は じめ て 大 量 の デ ル フ ィ ニ ジ ン が生 産 さ れ た. こ の と きの バ ラ の 色 は, シア ニ ジ ン とデ ル フ ィニ ジ ンが 混 じ った, 黒 っぽ い もの で あ っ た. 青 さを磨 く バ ラ と い って も遺 伝 的 に多 様 で あ る た め, デ ル フ ィニ ジ ンが ど の程 度 蓄 積 さ れ るか, デ ル フ ィニ ジ ンが 蓄 積 し た場 合 に ど の程 度 青 く見 え るか は, バ ラ の 品 種 に依 存 す る. 多 数 のバ ラの 品 種 の 中 か ら “青くな る素 質 ”を もつ バ ラ を 探 し出 す た め, 京 成 バ ラ 園芸 株 式 会 社 の 協 力 も得 て, 約300品 種 の 市 販 品 種 あ る い は 試 作 品種 の 解 析 を行 な った. そ の結 果, フ ラボ ノ ー ル を 多 く含 み, 花 弁 のpH が 高 く, F3'H活 性 が低 い と思 わ れ る 品種 を 選 抜 し, 40 品 種 以 上 の バ ラ に パ ン ジ ー のF3'5'H遺 伝 子 を 導 入 し た. こ れ ま で に10,000系 統 以 上 の 形 質 転 換 バ ラ を 作 出

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し, そ の 花 を評 価 した と ころ, これ らの 中か らア ン トシ ア ニ ジ ンの う ち デ ル フ ィニ ジ ンの 比 率 が ほ ぼ100%の バ ラ を取 得 す る こ とが で き た. この バ ラは, 従 来 の バ ラ の 品 種 に は な い青 い色 を 呈 して い た (図1). こ の 青 い バ ラ は 遺 伝 子 組 換 え 植 物 で あ る の で,「 遺 伝 子 組 換 え生 物 等 の使 用 等 の規 制 に よ る生 物 の 多様 性 の確 保 に 関 す る法 律 (通 称 カ ル タ ヘ ナ 法)」 に従 い, 生 物 の多 様 性 な どへ の影 響 を 調 べ た上 で, 2007年 の 販 売 を 目指 し て い る. な お, 4倍 体 の栽 培 バ ラ と2倍 体 の野 生 バ ラ の 間 に 自然 条 件 で交 雑 が 起 こ る こ と は な い と考 え られ る. ま た, 交雑 が 行 な わ れ た場 合 で あ って も交 雑 種 は 稔 性 が な い と考 え られ る (岐 阜 大 学 福 井 博 一 教 授, 私 信). 組 換 え カ ー ネ ー シ ョン の 発 売 1995年 に は, ペ チ ュ ニ ア のF3'5'H遺 伝 子 な ど を発 現 させ, デ ル フ ィニ ジ ン含量 が ほ ぼ100%の 青 色 カ ー ネ ー シ ョ ン ‘ムー ン ダ ス ト’の 開 発 に Florigene 社 が 成 功 し, 国 内 で も1997年 の 秋 に 販 売 した. 発 売 の 際 に は, 新 聞 各 紙 で カ ラ ー 印刷 さ れ た が, 淡 い青 紫 色 で あ っ た た め 色 が再 現 で きず, ま た照 明 に よ って は 青 み が な くな る た め,「 ピ ンク です ね 」 と言 わ れ て, 少 し悔 しい 思 い を し た. そ の 後, 濃 く品 種 や形 態 の 異 な る品 種 も増 え, 現 在 北 米 を 中 心 に ビ ジネ ス が軌 道 に乗 り, 日欧 で も好 評 を い た だ い て い る. 日本 で は図4に 示 した5品 種 の 販 売 許 可 を得 て い る. これ を 含 め, 遺 伝 子 組 換 え 技 術 で 花 の色 を 換 え る研 究 が数 多 く報 告 され て い る(8). 今 回 の 成 果 は, 日豪 の長 年 に わ た る共 同研 究 の 結 果 で あ り, 青 いバ ラ を つ く りた い と い う研 究 者 一 人一 人 の 願 い が 結 実 した もの で あ る. 企 業 と して の 研 究 で は あ る が, 短 期 の 利 益 や 損 得 を越 え た 研 究 者 の 純 粋 な 気 持 ち と そ れ を応 援 して くれ た社 内 外 の 皆 様 に 感 謝 した い. ア ン トシア ニ ンや花 の色 に関 す る研 究 レベ ル の高 い 日本 で, 夢 の青 い バ ラ を 咲 か せ る こ とが で き た こ と は, 基 礎 か ら 応 用 ま で の 高 い レベ ル の 日本 の 研 究 ・技術 を広 く示 しえ た好 例 で あ ろ う. もち ろん, 現 在 の 色 (青 紫 色) に満 足 して い る わ けで は な く, 前 述 の青 い 花 に な る条 件 を バ ラで 再 現 で き る よ う努 力 を 続 け て い る. タ イ トル の青 い バ ラへ の長 い歩 み は ま だ 終 着 点 に は 至 っ て い な い. ま た, 今 回取 得 した バ ラ の デ ル フ ィニ ジ ンを合 成 す る能 力 は, 次 世 代 に 伝 わ る こ とを確 認 して い る. 今 まで は ペ ラ ル ゴニ ジ ン と シ ア ニ ジ ン, 黄 色 の カ ロテ ノ イ ドで 発 色 して き たバ ラの 花 の 色 が, 今 後 は も っ と多 様 に な る と期 待 して い る. 100年 後 に どん な 花 の色 の バ ラ が 咲 い て い る か 大 い に楽 しみ で あ る. そ の こ ろ に は戦 争 や 環境 汚 染 が な くな り, 世 界 中 で 青 い バ ラが 楽 し まれ て い る こ と を 期 待 して い る. 図4■デ ル フ ィ ニ ジ ンを 蓄 積 して い る 遺 伝 子 組 換 え カ ー ネ ー シ ョ ン ‘ムー ン ダ ス ト’を 用 い た フ ラ ワ ー ア レ ン ジ 参 考 ・http://www.suntory.co.jp/company/research/blue-rose/ bluerose.html ・http://www.florigene.com.au 文 献 1) http://www.nhk-book.co.jp/magazine/series/ language/handson/0304.html 2) 大 場 秀 章:“バ ラ の 誕 生 ”, 中 公 新 書, 1997. 3) 最 相 葉 月:“青 い バ ラ ”, 新 潮 文 庫, 2004. 4) 斎 藤 則 夫: 蛋 白 質 核 酸 酵 素, 47, 202 (2002). 5) 星 野 敦: 蛋 白 質 核 酸 酵 素, 47, 210 (2002).

6) M.A. Schuler & D. Werck-Reichhart: Annu. Rev. Plant Biol., 54, 629 (2003).

7) T.A. Holton, F. Brugliera, D.R. Lester, Y. Tanaka, C.D. Hyland, J.G.T. Menting, C. Lu, E. Farcy, T.W. Steven-son & E.C. Cornish: Nature, 366, 276 (1993).

8) 田 中 良 和, 勝 元 幸 久: 蛋 白 質 核 酸 酵 素, 47, 225 (2002)

参照

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