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Vol. 141, No. 2 YAKUGAKU ZASSHI 141, (2021) 199 プラスチック製医療機器の力学特性に対する薬剤の影響評価 迫田秀行, 相澤雅美, 上田麻子, 戸井田瞳, 植松美幸, 中岡竜介, 宮島敦子, 島由二 Symposium Review Eva

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Academic year: 2021

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国立医薬品食品衛生研究所医療機器部(〒2109501 川 崎市川崎区殿町 32526)

e-mail: sakoda@nihs.go.jp

本総説は,日本薬学会第 140 年会シンポジウム S28 で 発表した内容を中心に記述したものである.

2021 The Pharmaceutical Society of Japan ―Symposium Review―

プラスチック製医療機器の力学特性に対する薬剤の影響評価

迫田秀行,相澤雅美,上田麻子,戸井田 瞳,

植松美幸,中岡竜介,宮島敦子, 島由二

Evaluation of the In‰uence of Pharmaceuticals on the Mechanical

Properties of Polymeric Medical Devices

Hideyuki Sakoda,Masami Aizawa, Asako Ueda, Hitomi Toida, Miyuki Uematsu, Ryusuke Nakaoka, Atsuko Miyajima, and Yuji Haishima

Division of Medical Devices, National Institute of Health Sciences; 32526 Tonomachi, Kawasaki-ku, Kawasaki 2109501, Japan.

(Received August 27, 2020)

Pharmaceuticals reportedly cause damage to some polymeric medical devices that administer them. Because this phenomenon and its causes still remain unclear, in this study, all the possible combinations of polymeric materials and pharmaceutical ingredients that could cause failures were identiˆed by conducting a comprehensive analysis on a wide variety of such combinations and through veriˆcation tests using the products. The results of the simple immersion tests and the reports of clinical failures indicated that the failures were not caused by the lack of chemical resistance of the polymers but by the environmental stress cracking (ESC) induced by a combination of the stress generated in the materi-al and the interaction with a speciˆc chemicmateri-al. Therefore, we evmateri-aluated materi-all combinations that could cause ESC by de-veloping and applying a simple method for testing ESC. Polycarbonate and polyethylene terephthalate were found to be damaged by alkaline solutions and oils and fats, and surfactants solutions. These failures were also conˆrmed by the veriˆcation tests. Results from the stress state veriˆcation, fractographic analysis, and other studies conˆrmed that these failures were caused by ESC. Cytotoxicity owing to the induction of ESC was not detected in any combination. These results indicated that the residual stress generated during the manufacturing process was one of the reasons for the failure of the medical devices. This residual stress can be eliminated by employing additional processes such as anneal-ing, thereby preventing medical device failures induced through interactions with pharmaceutical ingredients.

Key words―interaction; polymeric medical device; pharmaceutical; failure; stress; cracking

1. はじめに 医薬品投与に使用される,チューブ,三方活栓等 のプラスチック製医療機器が,併用する薬剤の影響 により破損する事例が報告されている.これらの医 療機器には様々なプラスチック材料が組み合わせで 使用されている.また,それらと併用される医薬品 には,薬剤成分に加え,脂肪乳剤,界面活性剤等の 添加剤が含まれ,薬液の pH も 212 まで幅広い. さらに,これらのプラスチック製医療機器は,感染 防止のために使用される消毒用アルコール類とも接 触する.このように,医薬品投与を目的とした医療 機器に使用されるプラスチック材料と医薬品成分の 組み合わせは多種多様である. そこで,医薬品と医療機器の相互作用の全容解明 を目的として,網羅的な解析及び検証試験を実施し た.本稿では,不具合が発生し得る医薬品と医療機 器の全組み合わせ,不具合発生原因と回避策につい て紹介する.なお,本研究は,厚生労働省医薬・生 活衛生局医薬安全対策課安全使用推進室,医薬品医 療機器総合機構安全第一部医療機器安全課,日本医 療機器テクノロジー協会,日本製薬団体連合会の協 力の下に実施した. 2. 破壊機構の推定 医薬品を模した種々の疑似溶液を調製し,プラス チック製試験試料を静的条件下に最長 4 週間浸漬し て,相互作用の発生の有無を評価した.プラスチッ ク製医療機器には様々な材料が組み合わせで使用さ

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Table 1. Polymer Sheet Materials Used in the Present Study

Abbreviation Material Manufacturer Product name PU Polyurethane Sheedom Dus-202-CDR PE Polyethylene ChemicalHitachi EL-N-AN PP Polypropylene Sekisui Seikei Px-P-R NY 6-nylon DSM Novamid1033NY

PC Polycarbonate SumitomoBakelite Sunloid PCECG101

PVC Polyvinylchloride Morino Kako 100E

PET terephthalatePolyethylene MineronKasei P (A-PET)

PMMA methacrylatePolymethyl Nitto JushiKogyo 001

Table 2. Oils and Fats, and Surfactants Solutions Tested in the Present Study

Abbreviation Description Manufacturer Product name EDA Ethylene diamine Fujiˆlm Wako Pure Chemical 1,2-Diaminoethane

PG Propylene glycol Maruishi Pharmaceutical JP Propylene glycol PG + EDA Mixed solution of PG and EDA

BA Benzyl alcohol Fujiˆlm Wako Pure Chemical Benzyl alcohol HCO Polyoxyethylene hydrogenated castor oil Kao Corporation Emanon CH-60(K)

PS Polysorbate NOF Corporation Polysorbate 80 OO + EL Mixed solution of olive oiland egg yolk lecithin Kozakai PharmaceuticalKewpie Corporation Egg yolk lecithin PL-100MJP olive oil

SO + EL Mixed solution of soybean oiland egg yolk lecithin Kozakai PharmaceuticalKewpie Corporation Egg yolk lecithin PL-100MJP soybean oil

FLORID A drug containing miconazol,HCO, lactic acid, and saline Mochida PharmaceuticalOtsuka Pharmaceutical Normal Saline Syringe OtsukaFLORID-F 200 mg for Inj

HCO + OO Mixed solution of HCO and olive oil Sigma-Aldrich JapanKao Corporation Olive oil (23-0400-6)Emanon Ch-60(K)

All the solutions were diluted with PBS.

れているため,Table 1 に示した 8 種類の市販プラ ス チ ッ ク シ ー ト [ ポ リ ウ レ タ ン ( polyurethane; PU),ポリエチレン(polyethylene; PE),ポリプロ ピ レ ン ( polypropylene; PP ), ナ イ ロ ン 6 ( 6-ny-lon; NY), ポ リ カ ー ボ ネ ー ト ( polycarbonate; PC ), 硬 質 ポ リ 塩 化 ビ ニ ル ( polyvinyl chloride; PVC),ポリエチレンテレフタレート(polyethy-lene terephthalate; PET),ポリメチルメタクリレー ト(polymethyl methacrylate; PMMA)]を試験試料 とした.疑似溶液には,2 種の酸溶液と 2 種のアル カリ溶液,Table 2 に示す油脂・界面活性剤類のう ちエチレンジアミン(ethylene diamine; EDA),プ ロピレングリコール(propylene glycol; PG),ベン ジルアルコール(benzyl alcohol; BA),ポリオキシ

エチレン硬化ヒマシ油(polyoxyethylene

hydroge-nated castor oil; HCO) ,ポリソルベート(polysor-bate; PS ), オ リ ー ブ 油 ( OO + EL ), ダ イ ズ 油 (SO + EL),及び消毒用エタノール(EtOH,消毒 用エタノール液 IP,健栄製薬,大阪)と 70%に希 釈したイソプロパノール溶液(IP,イソプロパノー ル,富士フイルムワコーケミカル,宮崎)を用い た.浸漬終了後,各プラスチック材料の表面外観, 表面粗度及び硬度,弾性率等の力学特性を評価した 結果,NY は吸水により硬度及び弾性率が低下した が,その他の材料では浸漬前後に著明な変化が認め られなかった.また,実臨床における破損例でも, 耐薬品性の問題が考え難い組み合わせが散見され た.以上のことから,薬剤との相互作用によるプラ スチック製医療機器の破損は,プラスチック材料の 耐薬 品 性の 不 足が 原因 で はな く, 環 境応 力割 れ (environmental stress cracking; ESC)であると推定 した.ESC とは,「応力非存在下では材料に影響を 与えない液体や蒸気が,応力が負荷された状態では 材料に割れや破壊を生じさせる現象」1)である.す なわち,応力が存在する状態の材料と特定の薬剤を 組み合わせて使用することが,ESC 発生に必須の 因子である.また,その他の特徴として,通常は材 料に影響を与えないような小さな応力でも ESC は 発生すること,ESC による破断面は平滑であるこ と等が挙げられる. 3. 曲げ浸漬試験法による検証試験 Table 1 に示した 8 種のプラスチック試料を対象

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Table 3. Results of the Bending Immersion Test Performed on Acid-alkaline Solutions L [mm] [%]e 0.5 M Acetic acid buŠer pH 2 0.5 M Phosphate buŠer pH 2 PBS pH 7

0.2 M Phosphate buŠer 0.5 M Carbonate buŠer pH 11 0.5 M Phosphate buŠer pH 12 pH 8 pH 9 pH 10 pH 11 PC 4 7.6 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 4/6 3/6 5 6.1 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 6 5.1 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 0/3 PET 4 5.3 0/3 0/3 0/3 0/6 0/6 3/6 6/6 6/6 6/6 6 3.5 ― ― ― ― ― ― ― ― 3/3 12 1.8 ― ― ― ― ― ― ― ― 3/3 15 1.4 ― ― ― ― ― ― ― ― 1/1 20 1.1 ― ― ― ― ― ― ― ― 1/1 25 0.8 ― ― ― ― ― ― ― ― 1/1

―: Not tested. Results are shown as the ratio of the number of failed specimens to the total number of tested specimens.

とし,ESC が発生する可能性のある組み合わせを 網羅的に解析した.医薬品等を模した疑似溶液とし て,酸・アルカリ溶液(Table 3),油脂・界面活性 剤類(Table 2),消毒用薬剤等[EtOH,IP,消毒 用ウエットタオル(WT,クリアパワー,白十字, 東京)]を用いた.なお,PC については,より詳 細に調査するため,HCO を含む薬剤(FLORID) 及 び HCO を 含 む 水 溶 液 に 油 脂 を 添 加 し た 溶 液 (HCO +OO)も使用した(Table 2). ESC は,一般工業製品でも発生する問題である ことから,様々な評価法が提案されている.1,2)しか し,既存の ESC 評価法は金属製治具を使用するた め,酸・アルカリ溶液に適用できない.また,一般 的に装置が大きく,試験片を機械加工で作製する必 要があり,使用する試験液量も多いことから,本研 究のような網羅的解析には適していない.そこで, 大量の試料を容易に試験でき,使用溶液量も最小限 となる簡易評価系として,曲げ浸漬試験法を開発し た.35)本法では,幅 L で切れ込みを入れた発泡ス チロール板にプラスチックシート試料を通し,湾曲 部の高さを L/2 として往復させ,各疑似溶液に浸 漬した.本試験法は,L を変化させることにより試 料に加わる力学負荷(ひずみ量)を柔軟に制御可能 である点にも特徴がある.比較的小さな変形でも折 損する PMMA は L = 5 mm,その他の材料は L = 4 mm を基本とし,一部の材料については,力学負 荷の大きさの影響についても検討した. また,柔軟性が高く,曲げにより応力を負荷でき ない PU を対象に,引張浸漬試験法を開発した.3,5) 本法では,長さ 35 mm のダンベル状試験片の両端 を金属製治具に固定し,両端を引き伸ばした状態で 金属板に固定した.酸・アルカリ溶液を用いた試験 では金属製部品を使用できないため,試験片両端を プラスチック板に接着し,その両端を引き伸ばした 状態で別のプラスチック板に固定した. 曲げ浸漬試験や引張浸漬試験で発生するひずみ量 は,通常の臨床使用で想定されるひずみより一般的 に大きく,本研究で使用した試験条件は,ワースト ケースを想定したものになっていると考えられた. 浸漬期間は,臨床におけるこれらプラスチック製医 療機器の使用期間を考慮し,最長 4 週間とした.試 験試料数は各条件 3 以上とした.浸漬終了後,中性 洗剤を用いて超音波洗浄を行い,デジタルマイクロ スコープを用いて観察した.リン酸緩衝生理食塩水 (PBS)に浸漬した試験片と比較し,差異が認めら れた場合に影響ありと判定した.その結果,アルカ リ溶液と PC 及び PET,油脂・界面活性剤類と PC 及 び PET , 消 毒 用 ア ル コ ー ル 剤 類 と PET 及 び PMMAの組み合わせで,それぞれプラスチック材 料への影響が観察された. 酸・アルカリ溶液の試験結果を Table 3 に示す. なお,Table 35 において,表中の数字の分子は影 響ありと判定された試験片数,分母は試験に供した 試験片数である.アルカリ溶液が PC に影響を与え る閾値は,pH 11 であった.また,力学負荷の大き さによる影響について検討したところ,PC は試験 した中で最大のひずみ量(7.6%)の場合にのみ破 損した.アルカリ溶液が PET に影響を与える閾値 は pH 10 であり,PC より低かった.また,力学負 荷を変更した場合,PET は試験した最小のひずみ

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Table 4. Results of the Bending Immersion Test Performed on Oils and Fats, and Surfactants Solutions

Solution PC PET PG 8.5% + EDA 0.14% 1/3 3/3 PG 7.0% + EDA 0.15% 3/3 ― PG 5.0% + EDA 0.1% 0/3 ― PG 7% 0/6 4/6 PG 5% ― 0/3 EDA 0.15% 0/6 3/3 EDA 0.02% ― 3/3 EDA 0.01% ― 0/3 BA 2% 3/3 3/3 BA 1% 0/3 3/3 BA 0.05% ― 0/3 HCO 6% 0/15 3/3 HCO 0.02% ― 3/3 HCO 0.01% ― 0/3 PS 8% 1/3 3/3 PS 3.2% 0/3 3/3 PS 0.2% ― 3/3 PS 0.1% ― 0/3 OO 10% + EL 5% 2/3 3/3 OO 2% + EL 1% 1/3 3/3 OO 1% + EL 0.5% 0/3 3/3 OO 0.125% + EL 0.0625% ― 3/3 SO 10% + EL 5% 2/3 3/3 SO 2% + EL 1% 3/3 3/3 SO 1% + EL 0.5% 0/3 3/3 SO 0.125% + EL 0.0625% ― 3/3 FLORID 2/6 ― HCO 6% + OO 1% 5/6 ― HCO 6% + OO 0.1% 1/6 ― ―: Not tested. Results are shown as the ratio of the number of failed specimens to the total number of tested specimens.

Table 5. Results of the Bending Immersion Test Performed on the Combination of PET and PMMA, and Disinfectants

L [mm] e [%] EtOH IP WT PET 6 3.5 3/3 3/3 ― 10 2.1 3/3 3/3 ― 20 1.1 3/3 3/3 ― PMMA 5 4.3 3/3 3/3 3/3 10 2.2 3/3 3/3 ― 20 1.1 3/3 3/3 ― ―: Not tested. Results are shown as the ratio of the number of failed specimens to the total number of tested specimens.

(0.8%)でも破損し,PC とは異なる結果が得られ た. 油脂・界面活性剤類の試験結果を Table 4 に示す. PC は油脂及び界面活性剤の濃度が概ね 1%以上の 場合に破損した.HCO 単体では,PC は破損しな かったが,薬剤成分を含む FLORID や,HCO に オリーブ油を添加した HCO + OO では,PC は高 頻度に破損した.したがって,PC は HCO 単体よ りも,HCO と脂溶性薬剤からなる乳剤により破損 に至る影響を受けることが判明した.PET は,そ れぞれ 0.1%未満の油脂及び界面活性剤でも影響を 受けることが確認された.ただし,少数の深いク ラックが発生する PC と異なり,肉眼では白濁に見 える多数の細かな筋が観察された.これらの亀裂 は,濃度の低下に伴い連続的に数が減少し,深さも 浅くなった.このような変化が実製品の破損につな がる可能性については現時点で不明であり,材料の 破損の原因となる濃度閾値の決定は困難であった. 4. 消毒用アルコールによる影響 消毒用アルコールは,力学負荷が少ない場合でも PETと PMMA に影響を与えることが確認された (Table 5).PET は,明確なクラックが発生せず, 肉眼観察により白濁様の多数の細かな筋が観察さ れ,直ちに材料の破損に至るか判断することが困難 であった.一方,PMMA は,明確な破損,変形を 生じた.ただし,PMMA とアルコール類の組み合 わせは,耐薬品性的に不適とされていることから, PMMA に対する影響は ESC と断定できない. PMMAは,消毒用アルコール類に加え,非アル コール系の WT との接触でも影響を受けることが 判明した(Table 5).PMMA をコネクタ等に使用 する医療機器はほとんど存在しないことから,実臨 床において発生する輸液ラインの清拭に伴う部材の 破損との関連性は極めて低いと考えられる.しかし, PMMA は輸液ライン以外の部材として使用される こともあるため,アルコール綿等による医療機器の 清拭には十分な注意が必要になると思われる. PC と PET を対象として,感染防止のためのア ルコール清拭作業の影響に関して追加検討した.実 際の清拭作業では感染防止の目的で手袋を着用し, 作業による力学負荷や手袋からの溶出物による影響 も考えられるため,ゴム製又は PE 製手袋を装着 し,手袋表面に EtOH を塗布後,発泡スチロール 板に L = 4 mm で固定した PC と PET 試験片の屈 曲部を軽くこすることで EtOH を一様に試験片に

(5)

Fig. 1. Scheme of a Cross Section of the PC Connector Frac-tured in the Clinical Setting

塗布した.試験片は 4 週間固定し,試験期間内に疑 似清拭作業を 10 回実施した.清拭試験を行った PC では,摩擦に起因すると思われる曲線状の細か い傷が観察されたが,クラック等の発生は認められ なかった.PET の場合,肉眼で白濁が観察され, 顕微鏡下では,曲げ浸漬試験の場合と類似した細か い白い筋が多数観察された. PC については,アルコール類による影響を詳細 に調査するため,JIS K 6251 の 3 号形ダンベル試 験片6)を作製し,EtOH 又は IP に 24 時間浸漬後, 100 mm/min の条件で引張試験を行った.しかし, いずれの溶液でも,降伏荷重,破断荷重及び破断伸 び等の力学特性に,未浸漬試料との顕著な差異が認 められなかった.PC 製医療機器は,添付文書でア ルコール類との併用について注意喚起されている製 品も多いが,曲げ浸漬,清拭及び引張浸漬のいずれ の試験においても,影響は認められなかった.消毒 用アルコール類による清拭は,通常,コネクタ部の 確認や着脱作業と同時に行われる.後述のように, コネクタ部の脱着は,応力発生部に薬剤が接触する 要因になり得る.したがって,他の薬剤による影響 や着脱作業による破損が,消毒用アルコール類の影 響による破損と誤認されている可能性も考えられた. 5. 生物学的安全性 医薬品との相互作用により,医療機器を構成する プラスチック材料の化学構造や表面特性が変化する 場合,その生物学的安全性に影響する可能性も考え られる.そこで,医療機器の生物学的安全性評価に おける基本的な試験項目の 1 つである細胞毒性試験 として,チャイニーズハムスター肺線維芽細胞 V79 を用いたコロニー形成試験を実施した.7)その結 果,疑似溶液により影響が認められたすべての組み 合わせにおいて,新たな細胞毒性は発現しないこと が確認された.したがって,ESC が発生する組み 合わせでも,医療機器の細胞毒性に影響を及ぼす化 学的変化は生じないことが示唆された.8) 6. プラスチック製医療機器を用いた破壊機構の 検討 プラスチック製医療機器の破損機構を解明するた め,実臨床においてアルカリ性薬剤との併用により 破損した PC 製コネクタの分析を行った.破損を生 じたコネクタは,いくつかの部材の組み合わせで構 成されていた.破損した部分は,大径の管状部材の 内側に小径の管状部材が挿入されている構造になっ ていた(Fig. 1).破損は,主に外側の管状部材で 発生しており,破面は ESC に特徴的な平滑な破面 を呈していた(Fig. 2).9)破壊起点は,挿入された 内側の管状部材の端部近傍にある外側の管状部材の 内壁側と推定された. これと同型のコネクタを入手し,未接続の状態で 流路内にアルカリ性疑似溶液を充填した結果,試験 開始から 2 日後に破損が認められた.破面観察をし たところ,破壊起点や破面特徴が,実臨床で破損し た試料と完全に一致した.また,コネクタを接続し ない状態で破損が再現されたことから,製造段階で 発生した応力が残存するものと推定された. そこで,残留応力を熱により除去するアニーリン グ処理を行った結果,ESC を引き起こす強力な薬 剤2)の 1 つとされる四塩化炭素を注入しても破損し なくなった.したがって,本事例は,製造時に大小 2 つの管状部材を嵌合させる際,コネクタの外側の 管状部材が外側に押し広げられる方向に応力が発生 し,その部位にアルカリ性溶液が接触したことに起 因する ESC であると断定された. PC製三方活栓についても,四塩化炭素を用いて 応力状態の検証を行った.PC 製三方活栓の流路内 に四塩化炭素を注入すると,瞬時に破損した(Fig. 3).しかし,三方活栓を分解し,コックを取り外し た状態では,四塩化炭素に浸漬しても破損しなかっ た.これらの結果から,PC 製三方活栓の場合は, 製造時の残留応力ではなく,コックをテーパー状の はめあいに嵌合することより応力が発生し,ESC の原因となることが判明した. 構成品として PC 製及び PET 製コネクタを有す る 8 種類の製品(Table 6)に四塩化炭素を接触さ せ,ESC の発生有無とその条件等について検討し

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Fig. 2. Fracture Surface of the PC Connector Fractured in the Clinical Setting

The thin arrows indicate the direction of the crack growth. Reprinted from Bull. Natl. Inst. Health Sci., 137, 4051 (2019).

Fig. 3. Three-way Stopcock Made of PC Fractured by the In-troduction of Carbon Tetrachloride

た.製品 G は,上流側のメスコネクタから下流側 のオスコネクタまでが一体となった,フィルター単 体の製品である.その他の製品は,上流側のコネク タ又はびん針,流路となるチューブ,下流側のコネ クタから構成され,流路中にフィルター,ローラー クランプ,三方活栓等が含まれるものもあった. これらの製品は,四塩化炭素の流路内への導入で 破損する製品(C,E,F,G)と,流路外での四塩 化炭素の接触がないと破損しない製品(A,B,D, H)に分類された(Table 6).また,コネクタの接 続がなくても破損する製品(B,C,E,G)と,コ ネクタを接続することで応力が発生し破損する製品 (A,D,F,H)に分類された.前者は製造時の残 留応力が存在する製品,後者はコネクタ接続により 応力が発生し,ESC の原因となる製品と考えられ た.特に,製品 C,G では,製造時に発生した応力 が流路内面に残留していると考えられ,接続の有無 にかかわらず,流路内に四塩化炭素を導入すること により破損した.製品 A,H は,接続後に四塩化 炭素を流路内に導入しても破損しなかったが,オス コネクタの外周に四塩化炭素を付着させた後に接続 すると,破損した.オス・メスコネクタの接続で は,メスコネクタの内面に ESC の原因となる引張 応力が発生する.この部分は,オスコネクタの外面 と接しており,接続後に溶液を流路内に注入して も,通常,溶液が接触しない.しかし,コネクタの 脱着を行ったことにより,両者の接触面に溶液が付 着し,ESC が発生したものと考えられた.製品 D は,外部に四塩化炭素が付着した状態で接続操作を 繰り返した場合に破損した.本例の場合は,接続操 作自体で負荷された力が ESC の原因となったもの と考えられた. 7. プラスチック製医療機器と医薬品を用いた検 証 プラスチック製医療機器と ESC の原因となり得 るアルカリ性医薬品や油脂・界面活性剤類を含む医 薬品を用いた検証を行った.実製品を使用した検証 試験では,Table 6 に示す AH のプラスチック製 医療機器を環状に接続し,それぞれの医薬品を流路 内に充填した後,ペリスタポンプを用いて,一定速 度で 14 週間循環させた.医薬品は 1 週間ごとに交 換し,液漏れ等の破損の有無を目視で確認した. Table 7 に試験結果を示す.アルカリ性薬剤で は,製品 C,E,G で破損が発生した.早期に破損 した製品 C と E については,pH 11 の医薬品で再 試験し,製品 C で破損が再現された.界面活性剤 類を含む医薬品では,製品 A,B,C,D,F,G で 破損が認められた.脂肪乳剤では,低速(0.3 mL/

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Table 6. Polymeric Medical Devices Used for Veriˆcation Tests, Their Components, and Their Failure Caused by the Carbon Tetrachloride

Product

Product composition Form of contact

Necessity of

connection Failed componentand its material Upper end Major components Lower end Internalloading droppingExternal

A Female connector(PC) Filter, Y-site Male connector(PC) No failure Failure Needed Female connector(PC)

B Male connector(ABS) Filter Male connector(PC) ― Failure Not needed Male connector(PC)

C Upper end adapter(PC) Male connector(PC) Failure Failure Not needed Upper end adapter(PC)

D Spike Drip chamber,roller clamp Male connector(PC) No failure Failure Needed Male connector(PC)

E Spike

Drip chamber, roller clamp,

three-way stopcocks (PC), ˆlter

Lower end cannula

(PC) Failure ― Not needed stopcocks (PC)Three way

F Female connector(PET) Filter Male connector(PC) Failure ― Needed

Female connector (PET) Male connector

(PC)

G Female connector(PC) Filter Male connector(PC) Failure ― Not needed

Female connector (PC) Male connector

(PC) H Female connector(PET) Filter, Y-site Male connector(ABS) No failure Failure Needed Female connector(PET)

―: Not tested. The major materials used for some components are indicated in brackets. ABS: acrylonitrile butadiene styrene.

Table 7. Pharmaceuticals Used for Veriˆcation Tests and Reproduction of Failures of Polymeric Medical Devices Caused by the Circulation of the Pharmaceuticals

Product name Manufacturer Description ingredientsTarget A B C D E F G H Note

Diluent for Flolan

for injection GlaxoSmithKline As provided Alkaline(pH 12) ND ND 3 d ND 3 d ND 21 d ND ― < 5 d ― ND ― pH 10.5511.72pH 10.011.8 ND ND ― ND ND 28 d ND pH 10.0211.92 THAM Injection

SET PharmaceuticalOtsuka 50 mL of THAM forinjection + 450 mL of diluent Alkaline (pH 11) ― ND28 d NDND ― ― pH 10.2110.51― pH 10.2110.58 AMINOPHYLLINE Intravenous Solution 2.5% ``Mita''

Kyorin Rimedio As provided EDA ND 17 d 17 d ND ND ND 7 d ND

FLORID-F 200 mg for Inj. Normal Saline Syringe Otsuka Mochida Pharmaceutical Otsuka Pharmaceutical 20 mL of FLORID-F + 55 mL of normal saline HCO 7 d ND ND 7 d ND 21 d 7 d ND Ancaron 150 mg for Inj. Otsuka Glucose Injection 5% Sanoˆ Otsuka Pharmaceutical 6 mL of Ancaron + 20 mL of glucose solution PS 11 d13 d ND ND ND ND 14 d ND Intralipos Injection

20% PharmaceuticalOtsuka As provided SO ND ND ND ND ND ND ― ND 0.3 mL/minFlow rate: (standard) ― ― 5 d ND ― ― ― ― Flow rate: 1.4 mL/min ND: Not detected. ―: Not tested. Leakage from the air vent ˆlter.

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min)で試験した場合は破損しなかったが,実臨床 に近い流速(1.4 mL/min)では,製品 C で破損が 再現されたことから,流速や内圧が影響した可能性 も考えられた.医薬品を用いた検証試験における破 損部位は,いずれも,四塩化炭素を用いた検証試験 における破損部位と一致した. 8. 回避策の検討 本研究では,相互作用し得るプラスチック材料と 薬剤成分について網羅的に解析し,不具合発生のリ スクがある組み合わせを特定した.また,ESC が それらの不具合の主要な発生機構の 1 つであること を明らかにした.ESC は,特定のプラスチック材 料と薬剤成分の組み合わせで発生し,プラスチック 材料に応力が生じるとともに,その部分に原因とな る薬剤成分が接触した場合に発生する.したがって, ESC を生じ得る材料と薬剤の組み合わせで使用し たとしても,応力の発生又は応力発生部位への原因 となる薬剤成分の接触がなければ,ESC の発生は 回避できる. 根本的な対策は,ESC を生じ得る材料を医療機 器に使用しないことであり,薬剤成分によるプラス チック製医療機器の破損を回避するために,設計段 階において最初に検討されることが望ましい.しか し,他の性能を犠牲にすることなく製品化すること は,実際には難しいものと思われる. プラスチック製医療機器に発生する応力として は,製造時の残留応力と接続操作に伴い発生する応 力がある.残留応力は,アニーリング等の処理を施 すことにより除去することが可能である.一方,接 続操作に伴う応力の発生は回避できないが,薬剤成 分が応力発生部位に接触しないようにすることで, ESCは回避できる.例えば,テーパー状の接続部 のメスコネクタでは,通常,ESC の発生部位に接 続状態では溶液が接触しない.そこで,ESC の原 因となり得る薬剤成分を含む薬剤は回路接続後導入 し,それが回路内に残存している間は脱着操作を行 わないことで,ESC の発生を回避できる可能性が ある.このように,医療現場において医薬品と医療 機器の相互作用に伴う不具合の発生のリスクを認識 し,その回避のための対策を講じるためには,医薬 品及び医療機器の製造販売業者から医療従事者への 情報提供や,医療従事者の教育訓練が重要である. 利益相反 開示すべき利益相反はない. REFERENCES

1) Narusawa I., ``Plastic no Kikaiteki Seishitsu,'' Sigma Shuppan, Tokyo, 1994, pp. 163176. 2) Honma S., Japan plastics, 55, 8796(2004). 3) Sakoda H., Aizawa M., Ueda A., Toida H.,

Uematsu M., Nakaoka R., Miyajima A., Haishima Y., Bull. Natl. Inst. Health Sci., 137, 4051 (2019).

4) Sakoda H., Hiruma H., Aizawa M., Nakaoka R., Miyajima A., Haishima Y., Abstracts of papers, the 29th Bioengineering Conference, Nagoya, January 2017, 2G26.

5) Sakoda H., Hiruma H., Aizawa M., Nakaoka R., Miyajima A., Haishima Y., Abstracts of papers, the 30th Bioengineering Conference, Kyoto, December 2017, 1H15.

6) JIS K 6251:2010, ``Rubber, vulcanized or thermoplastics  Determination of tensile stress-strain properties,'' 2010.

7) ISO 10993-5:2009, ``Biological evaluation of medical devices Part 5: Tests for in vitro cytotoxicity,'' 2009.

8) Miyajima A., Hiruma H., Sakoda H., Aizawa M., Ueda A., Nakaoka R., Haishima Y., Ab-stracts of papers, the 45th Annual Meeting of the Japanese Society of Toxicicology, Osaka, July 2018, P136.

9) Narusawa I, ``Koubunshi no Fractgraphy,'' Science & Technology Co., Ltd., Tokyo, 2011, pp. 102120.

Table 2. Oils and Fats, and Surfactants Solutions Tested in the Present Study
Table 3. Results of the Bending Immersion Test Performed on Acid-alkaline Solutions [mm]L e [%] 0.5 M Aceticacid buŠer pH 2 0.5 M PhosphatebuŠerpH 2 pH 7PBS
Table 5. Results of the Bending Immersion Test Performed on the Combination of PET and PMMA, and Disinfectants
Fig. 1. Scheme of a Cross Section of the PC Connector Frac- Frac-tured in the Clinical Setting
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