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津波避難のための時間表示システムの設計と開発

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Academic year: 2021

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(1)Vol.2015-IS-132 No.8 2015/6/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 津波避難のための時間表示システムの設計と開発 畑山満則†1 東日本大震災を契機に津波に対するソフト防災の重要性が再認識されている.避難時間が十分にとれない集落には, 津波避難タワーが整備され,地域住民の安全を確保出来る状態が実現しているが,タワーそのものへの信頼がまだ十 分ではなく,時間的余裕があれば安心を求めて 2 度逃げできる高台に避難することを望む声がある.また,一方で, 全国各地で盛んにおこなわれている津波避難訓練では,単純に避難所に到達する自助努力の訓練だけではなく,要支 援者を想定した地域の共助を促す訓練も行われるようになっているのが現状であるが,津波到達までの限られた時間 の中での活動は,助ける側にもリスクが伴う.そこで,本研究では,限られた時間を避難対象地域で共有するための 時間表示システムの設計・開発を試みた.また,開発したシステムを高知県黒潮町万行地区の避難訓練で試用してみ たので,その結果について報告する.. 本大震災以前は,古文書など不確定性が残る資料は利用せ. 1. はじめに. ず想定を行っていたため,想定地震の大きさは過小に抑え. 東日本大震災を契機に南海トラフ巨大地震とそれに起 因する津波の想定が見直された. 1).この際に,近代で最大. られていたことから,事前に配布されたハザードマップの 浸水域を大きく超える津波が押し寄せることとなった.古. (100 年で1回程度の発生確率)に相当するレベル1津波. 文書レベルで指摘されていた貞観地震を考慮していれば,. と最大級(1000 年に1回程度の発生確率)のレベル2津波. 東日本大震災クラスの地震と津波を想定できた可能性があ. の考え方が中央防災会議より示されたが,特にレベル2津. ったことから,南海トラフ巨大地震の新想定ではこのよう. 波に対しては,ハード整備による対策では対応しきれない. な古文書レベルの資料も考慮に入れられることとなったが,. ことが確認されている.このため,あらかじめ被害の発生. これにより,1000 年に 1 度にしか起きない巨大な地震と津. を想定した上で,その被害を低減させていこうとする「減. 波の想定が作成され,その数値のみが独り歩きしている感. 災」の考え方に基づいた施策を具現化していくことの重要. もある.防災担当大臣は,この想定の発表時に「正しく恐. 性が指摘されており,とりわけ避難を中心とした命を守る. れる」ように国民にメッセージを送ったが,その意味を十. 対策が重要視されている.. 分に理解できている人は少なく,想定の大きさから,行動. 避難時間が十分にとれない集落には,津波避難タワーが. そのものを諦めてしまう人が増加している傾向にある.. 整備され,地域住民の安全を確保出来る状態が実現してい. 津波の高さについては,地震の規模に依存するため,想. るが,タワーそのものへの信頼がまだ十分ではなく,時間. 定に含まれる不確定性は否めないが,一方で津波到達時間. 的余裕があれば安心を求めて 2 度逃げできる高台に避難す. (地震発生位置から陸域に達するまでの時間)は,地震の. ることを望む声がある.また,一方で,全国各地で盛んに. 大きさに依存せず,海底地形の身に依存するため,津波の. おこなわれている津波避難訓練では,単純に避難所に到達. 高さに比べると信頼性が高い.実際,東日本大震災でも,. する自助努力の訓練だけではなく,要支援者を想定した地. 事前に到達時間を知っていた人は,その時間を目安に,救. 域の共助を促す訓練も行われるようになっているのが現状. 助活動や水防活動を打ち切り,避難できた事例が多く存在. であるが,津波到達までの限られた時間の中での活動は,. する.陸域からの遡上については,防潮堤などのハード施. 助ける側にもリスクが伴う.そこで,本研究では,限られ. 設や,建物の位置関係があり,信頼度は落ちるがこれらは,. た時間を避難対象地域で共有するための時間表示システム. 津波の到達時間を遅らせるものであるため,あらかじめ計. の設計・開発を試みた.また,開発したシステムを高知県. 算された到達時間を目安に避難行動を考えておくことは,. 黒潮町万行地区の避難訓練で試用してみたので,その結果. 津波避難を成功させるうえで十分に効果が見込めると思わ. について報告する.. れる.. 2. 津波避難のための情報. 波到達時間が事前にわかっている場合,この情報を有効に. ある程度の信頼性がある情報として,地震発生からの津. 東日本大震災時の津波避難に関しては,様々な検証がな されている.次に起こる津波災害に対しての教訓として指 摘されている事項として,特に「想定を鵜呑みにしてはな らない」ということが注目されている.ここでいう想定と はハザードマップを作る際の前提条件のことである.東日. 利用するには,地震発生時刻を知る必要がある.幸いなこ とに日本では,2007 年度より,一般の人々に向けて,緊急 地震速報が発せられるようになっている. 2).緊急地震速報. のメカニズムでは,直下型の地震に対する反応速度は大き く期待できないが,プレート型地震で,震源域までに距離. †1 京都大学 防災研究所 Disaster Prevention Research Institute, Kyoto University. ⓒ 2015 Information Processing Society of Japan. 1.

(2) Vol.2015-IS-132 No.8 2015/6/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report がある地震では,地震発生前に緊急地震速報が届くことが. . 訓練用の津波警報を発信するサブシステム. 期待できる.さらに,気象庁では,地震計ネットワークか. 前者は,スマートフォン用のインタフェースと据え置き. らの情報を集約し,地震発生から 3 分以内に津波警報を発. 型電光掲示板のインタフェースの 2 種類を実装している.. することとなっている.これらの情報を組み合わせて使う. スマートフォンインタフェースは WebSocket の機能が利用. ことで津波避難に有効が作れると考えた.. できることが必須であり,そのため,RFC 6455(すなわち Sec-WebSocket-Version 13)に対応している Web ブラウザで. 3. 時間表示システムの開発 (1) システム設計. あることを動作環境の制約とした.具体的には,Windows 環境下での Internet Explorer,FireFox,Google Chrome,Google Android 環境下での Google Chrome,Apple iOS 環境下での. 津波到達までの時間を事前に知っておき,地震発生から. Safari がサポート対象となる.スマートフォンインタフェ. の時間と比べることで避難の精度を向上させることを目的. ースの画面イメージを図1に示す.このタイマーは津波警. として,それを支援するシステムの設計を行うことした.. 報をトリガーに動くため,地震発生から津波警報が届くま. 検討課題と設計指針を下記に示す.. での時間は,特にカウントは行われず,津波警報が届くと,. [課題1]. 地震発生からの経過時間を初期値としてカウントアップが. カウントダウンにすべきか?カウントアップにすべきか?. 行われる.. 到達時間が事前にわかっていれば,あと何分後に津波が 到達するというようにカウントダウン型の時間提示が考え られるが,到達時間にも不確定性が含まれていること,残 り時間が短くなると,避難者の心理に影響し,冷静な行動 がとれなくなる可能性があると考えた.そこで,純粋に地 震発生からの経過時間のみを提示するカウントアップ方式 を採用することとした. [課題2] システム動作のきっかけは何にすべきか? 地震発生からの経過時間ということで,緊急地震速報を システム動作のきっかけとすることが考えられるが,南海. 図1. スマートフォンインタフェースの画面イメージ. トラフ地震に代表されるような巨大地震の場合,本震に伴 って複数回にわたる余震が発生することとなる.一般向け. 後者は,本番の巨大地震・津波時のみでなく,訓練でも. の緊急地震速報は, 「地震波が2点以上の地震観測点で観測. 利用できるように開発したサブシステムである.図2に画. され,最大震度が5弱以上と予測された場合」に発表され. 面イメージを示す.地震発生時間と警報コード(大津波警. ることとなっているため,多くの余震でも,緊急地震速報. 報:53,津波警報:50 など)を設定し,送信ボタンを押すこ. が発表されることとなる.さらに,プレート型地震の場合. とで,訓練用の警報を発しすることができる.. は,東日本大震災のようにほぼ同時に複数個所で地震が起 こる場合もあるが,これらが時間差で起こる場合もあり, 最初に緊急地震速報を発表した地震が津波の原因とはなら ない場合も存在する.そこで本システムでは,緊急地震速 報ではなく,津波警報を利用することとした.気象業務支 援センターは「気象庁防災情報 XML」3)を民間事業者へ配 信する事業を行っているが,この情報には,津波発生の起 因となった緊急地震速報電文の地震識別番号が含まれてお り,この識別番号を手繰れば,原因地震の発生時刻を求め ることができることを利用することとした. (2) システムの実装 本システムは,以下の2つのサブシステムからなる Web アプリケーション(Tsunami KUR Timer(仮称))として実 装した. . タイマーインターフェースへの初期値設定とカウン トアップ開始のトリガーを引くサブシステム. ⓒ 2015 Information Processing Society of Japan. 図2. 訓練用津波警報送信サブシステムの画面イメージ. 2.

(3) Vol.2015-IS-132 No.8 2015/6/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report. 4. 防災訓練での適応. ブシステムの地震発生時間をセットする.次に町役場から. 2015 年 4 月 4 日に高知県黒潮町万行地区で行われた「抜き 打ち避難訓練」で利用された.この訓練は,訓練日と訓練 を行う時間帯(13:00~13:30)は,事前に告知するものの, いつ訓練が始まるかは告知せず,地域の防災行政無線や, 地域の全世帯に配布されている屋内告知端末を通じて,行 政からの発せられるサイレンを合図に,参加者が,合図を 受けた場所から,自分が想定している避難場所に避難する. サイレンは,緊急地震速報を示すものと,津波警報を示す ものの 2 回が発せられ,その間隔は 2 分 40 秒とした.ス マートフォン版のシステムは,当日午前中に行われた勉強 会で紹介され,利用方法が説明された(図3).. 津波警報を意味する情報が発信される.これと同時に訓練 用津波警報が送信され,スマートフォンインタフェース, 電光掲示板インタフェースの時計がカウントアップを始め る.避難者は,これらの情報を聞き,自分の判断で避難を 開始することとなる. 訓練参加者は,58 名であった.システムの稼働要件を満 たすスマートフォンを所有しているユーザが少なかったこ とと,地震発生の情報で避難を開始した人が多かったため, 提案した Tsunami KUR Timer を見ながら,避難した人は少 なかったが,訓練後に感想を聞いてみると,地震発生から の時間を知ることができることには好意的な意見が大半で あった.. 5. おわりに 本研究では,津波避難を支援するカウントアップタイマ ー(Tsunami KUR Timer(仮称))の設計・開発と,高知県 黒潮町万行地区での防災訓練での利用について報告した. 開発したシステムの特徴は,津波警報発表時にのみ動作し, 原因となる地震発生からの経過時間を示すことである.こ の情報と,事前に知らされた津波到達までの時間を組み合 わせることで,安心を求める避難(山への避難)から安全 を確保する避難(タワーへの避難)への切り替えを支援す ることを実現可能とした. 今後の課題として,スマートフォンでの利用を考える際 図3. スマートフォンインタフェースの説明の様子. また,電光掲示板は,畑山ら. 4)で行われた避難シミュレ. ーションの結果,山側に行くか,タワーに引き返すかを判 断するポイント(地区の出口にあたる場所)に設置した(図 4).. に,スマートフォンを通じて受け取る緊急地震速報や津波 警報をトリガーとしてスマートフォンで利用できるように することが考えられる. 謝辞. 本研究は,文部科学省からの支援を受けた「巨大. 地震津波災害に備える次世代型防災・減災社会形成のため の研究事業-先端的防災研究と地域防災活動との相互参画 型実践を通して-」,内閣府戦略的イノベーション創造プロ グラム(SIP)「レジリエントな防災・減災機能の強化」に おける研究課題「津波避難訓練および支援ツールの開発研 究」,科研費基盤研究(A) (一般) 「新しい津波避難支援ツ ールの開発に関するアクションリサーチ-巨大想定に挑む -の成果の一部である.. 参考文献. 図4. 設置された電光掲示板システム. この際の各端末と人の動きは図5に示すシーケンス図 のようになる.まず,町役場から緊急地震速報を意味する 情報が発信される.これをうけて,訓練用津波警報送信サ. ⓒ 2015 Information Processing Society of Japan. 1) “中央防災会議防災対策推進検討会議南海トラフ巨大地震対 策検討ワーキンググループ:南海トラフ巨大地震対策について (最終報告),内閣府防災情報のページ, http://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/taisaku_wg/pdf/20130528_honbu n.pdf, 2013(2015 年 5 月 15 日確認) 2) 藤縄幸雄,目黒公郎(監修):緊急地震速報―揺れる前にでき ること,東京法令出版,2007. 3) 気象庁:気象庁防災情報 XML フォーマット,平成 22 年 8 月 6 日,http://xml.kishou.go.jp/jmaxml_20100806_format_v1_1.pdf (2015 年 5 月 15 日確認) 4) 畑山満則,中居楓子,矢守克也:地域ごとの津波避難計画策定. 3.

(4) Vol.2015-IS-132 No.8 2015/6/13. 情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report を支援する津波避難評価システムの開発,情報処理学会論文誌, 55 巻,5 号,1498~1508,2014.. Tsunami KUR Tsunami KUR Timer Timer イベント 黒潮町役場 送信設定 受信スマホ (防災無線) 端末 0’00” 緊急地震 緊急地震速報 地震発生 速報発表 訓練開始の アナウンス. 時間セット. 2’40” 3’00”. 津波警報 発表. 町民館 (町民). 町内 (町民). 音を聞く. 音を聞く. 身を守る. 身を守る. 音を聞く. 音を聞く. 電光掲示板. 避難所. Timer開始 津波警報 避難のアナウンス. 経過時間受信. 避難. 表示板 カウント 開始. 避難. スマホを見ながら避難 個人のスマホで見れる人は 見ながら避難 表示板を通る人は 避難先選択 個人のスマホで見れる人:Timerの時刻を記録 個人のスマホで見れない人:時計の時刻を記録. 22’00”. 図5. ⓒ 2015 Information Processing Society of Japan. 到着者と 時刻記録. 防災訓練時のシーケンス図. 4.

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