〈論文〉世界経済空間について
8
0
0
全文
(2) 第51巻. 1.世. 第2号. 界経 済 と経 済 空 間. 世 界 経 済 を どの よ う な視 点 か ら捉 え るか とい う こ と か ら考 え直 す た め に,世 界 経 済 に 関 す る理 論 と して 多 数 派 を 占 め る 国 際 経 済 学 を,先 ず 取 り上 げ よ う。 古 典 派 国 際 分 業 論 以 来 の 国 際 経 済 学 で は,国 民 経 済 を 基 本 的 な分 析 単 位 と して き た 。 リカ ー ドは,国 内取 引 と国 際 貿 易 に お け る差 異 を,経 済 統 合 の 有 無 した が っ て 資 本 と労 働 の 移 動 の 自 由 の 有 無 に求 め た。 国 内 す な わ ち国 民 経 済 内 で は経 済 統 合 が 達 成 さ れ て い る の で そ れ が 自 由 で あ り,し た が って 一 般 的 利 潤 率 が成 立 し価 値 は 投 下 労 働 量 に よ って 規 定 さ れ る。 他 方,国 際 間 で は経 済 統 合 が な さ れ て い な い た め そ れ は 自 由 に 移 動 で き ず,一 般 的 な 利 潤 率 も成 立 せ ず,労 働 価 値 説 も適 用 で き な い。 そ こで 提 示 さ れ た の が い わ ゆ る比 較 生 産 費 説 で あ る。 そ の 後,こ の 考 え 方 は多 数 国 多 数 財 モ デ ル へ と複 雑 化 さ れ,他 方 で は ヘ ク シ ャ ー=オ リー ン(1)定理 が 出 て く る。 後 者 は,い わ ゆ る生 産 要 素 と い う考 え方 の下 で,そ れ らの 国 際 間 非 移 動 性 を 踏 襲 し,さ らに 国 際 間 同 一 技 術 な どの 仮 定 の下 で,国 際 貿 易 パ タ ー ンは,国 際 間 の 生 産 要 素 賦 存 比 率 の 差 異 に よ って 規 定 さ れ る とす る もの で あ る。 こ うい う考 え 方 の 問題 は,そ の 前 提 で あ る と こ ろ の,国 民 経 済 を 基 本 単 位 とす る こ と か ら来 る と こ ろ の副 作 用 と して の 「空 間 的 拡 が り」 を 見 え な くす る と こ ろ に あ る。 そ れ 故, 基 本 的 に 国民 経 済 で 生 産 が 完 結 し後 は 貿 易 だ け と い う図 式 とな り,次 節 で 検 討 され る 「商 品 連 鎖 」に 関 連 す る よ う な視 点 が 欠 落 し,具 体 的 に は現 代 の多 国 籍 企 業 に み られ る よ う な, 複 雑 な生 産 の世 界 的 ネ ッ トワ ー クを 解 明 す る に は不 適 当 と な るの で あ る。 と ころ で,世 界 経 済 を 対 象 とす る が,リ カ ー ド以 来 の上 記 の 流 れ と は異 な る もの と して , ハ ル ム ス の世 界 経 済 学(2)が19世 紀 末 か ら20世 紀 初 頭 に か けて の ドイ ツの 経 済 発 展 を 背 景 と して 登 場 した。 こ れ につ い て は,先 ず 第1に,ハ. ル ム ス の 世 界 経 済 の 定 義 に お い て,交 通. 手 段 の発 展 が強 調 さ れ て お り,こ れ に よ っ て近 代 世 界 経 済 が 形 成 さ れ た と認 識 して い る点 に 注 目す べ き で あ ろ う。 す な わ ち 「世 界 経 済 と は,き わ め て 発 達 した交 通 機 関 に よ って 可 能 とな り,国 家 間 の 国 際 条 約 に よ って 秩 序 づ け られ か つ 促 進 さ れ る と こ ろ の,地 球 上 の 各. (1)実 は,オ リー ン(Ohlin[1933])は 同 時 に,立 地 論 を 国 際 経 済 に適 用 し,生 産 要 素 の 移 動 性 の 程 度 の 差 で 国 内 と国 際 の 区 別 を す る こ と に よ って 空 間概 念 を導 入 し よ う と した 試 み が あ る。 ま た ア イ サ ー ド(Isard[1956])は,古 典 派 貿 易 理 論 に輸 送 費 した が っ て輸 送 サ ー ビス 業 を導 入 した。 さ らに は筆 者(薬 師 寺[1982])は,そ れ を ベ ー ス に 比 較 優 位 モ デル を展 開 した。 ま た最 近 で は, ク ル ー グ マ ン(Krugman[1991])が 輸 送 費 を 導 入 し収 穫 逓 増 と不 完 全 競 争 に 基 づ くモ デ ル化 を 試 み て い る。 (2>生 島 広 治 郎[1974]pp,51-52.薬. 師寺 洋 之[1980コ. 1-38(290)一. [.
(3) 世界経 済空 間について(薬 師寺) 個 経 済 間 の 関 係 及 び相 互 作 用 の 総 体 で あ る」(3)。 さ ら に次 の よ う に 記 して い る。 「 商 品 の 価 格 に対 して 輸 送 費 が 低 下 す れ ば す る ほ ど,そ の 商 品 の 発 送 範 囲 した が って 各 個 経 済 間 の 関 係 の 空 間 的 拡 が りは拡 大 す る。 … … 今 や 全 地 球 上 の 商 品 交 換 は交 通 技 術 的 に も交 通 経 済 的 に も何 ら困 難 と は な らな くな っ た 。 … … 純 粋 経 済 的 に の み 見 て,商 品 交 換 に つ い て 全 地 球 に わ た る広 大 な 活 動 空 間 が 成 立 し,こ れ に よ って 以 前 と は根 本 的 に異 な る状 態 とな る に 至 っ て い る」ω。 この よ う に,か れ の世 界 経 済 の 認 識 に お い て は,出 発 点 を 各 個 経 済 間 の 関係 の歴 史 的発 展 傾 向 に求 め,そ の 原 因 を 純 粋 経 済 的 に は交 通 手 段 の発 達 に よ る輸 送 費 の 低 下 に よ る もの と して い る。 そ の後 か れ は,第1次. 世 界 大 戦 とそ の世 界 経 済 へ の 重 大 な影 響 に直 面 して,世 界 経 済 の. 構 造 変 動 論 を 展 開 した 。 か れ は 「 種 々 の部 分 が1つ の 全 体 に 関 連 せ しめ られ る様 式 」 と一 般 に定 義 さ れ る構 造 概 念 を用 い,「構 造 変 動 は,諸 関 係 の 変 化 に現 れ,部 分 の 秩 序 と機 能 の 状 態 の 変 化 の 現 れ で あ り,同 時 に全 体 の 形 成 的 法 則 性 の改 造 に影 響 を及 ぼ す 」 と述 べ て い る。 そ して 「世 界 経 済 の 構 造 とそ の変 動 の研 究 に は,そ の 徴 候 に と どま らず そ の原 因 に 目 を 向 け,市 場 経 済 理 論 的 … …観 点 が必 要 で あ る。 … … 人 間 と資 本 の移 動,農 立 地 移 動,生 産 方 法 の 変 化,新. 業及 び工業 の. 旧生 産 部 門 の 交 替,交 通 路 と交 通 密 度 の 変 化,経. 済 的及 び. 金 融 的組 織 形 態 の 変 化 」(5>と 記 して い る。 以 上 の よ う に把 握 され た世 界 経 済 を純 粋 経 済 理 論 的 に 考 察 す る に は,か れ に よ って十 分 に利 用 さ れ て い る わ け で は な い が,立 地 理 論 が 必 要 で あ る こ とは 言 うま で もな い で あ ろ う。 そ の 後,か. れが初 代所 長 を勤 め たキ ール大 学世 界 経 済研 究 所 の後 継者 とな った プ レ. デ ー ル(6)がそ の試 み を 行 った の で あ る が,彼 は世 界 経 済 を経 済 空 間 と 国 家 空 間,す な わ ち 一 般 立 地 秩 序 か ら成 る純 粋 経 済 す な わ ち経 済 空 間 と,貿 易 政 策 ・通 貨 政 策 等 か ら成 る 国 家 空 間 に 峻別 して説 明 した 。 さ らに か れ は前 者 の基 礎 理 論 と して の 立 地 の 一 般 理 論 を,古 典 的 立 地 理 論 を代 替 原 則 に還 元 させ て 一 般 経 済 理 論 に接 合 す る こ とに よ っ て 構 築 し よ う と試 み た。. (3)Harms,Bernhard[1912]p,15. (4)Harms,Bernhard[1912]pp.4-5. (5)ヨarms,Bernhard[1927]pp.2-4, (6)Pred6hl[1927]p.30.薬. 師 寺 洋 之[1976] -39(291)一.
(4) 第51巻. 2.立. 第2号. 地 と商 品 連 鎖. 世 界 経 済 論 に お い て は 長 い 間,ハ ル ム ス の 世 界 経 済 学 も含 め て(7),国 民 経 済 を 自立 的 な 単 位 と して 前 提 した 上 で 国 民 経 済 相 互 の 関 係 を 中 心 に論 じる こ とが 一 般 的 で あ っ た。 こ れ を 打 破 す る一 歩 は,1980年. 代 に,ウ. ォ ー ラ ー ス テ イ ン に よ って,「 資 本 主 義 的 世 界 経 済 」. を基 本 単 位 と し国 際 貿 易 に代 わ る 「商 品連 鎖 」 を 基 本 概 念 とす る世 界 シ ス テ ム論(8)によ っ て し る さ れ た 。 か れ は,世 界 経 済 を,社 会 シ ス テ ム の一 つ と して の 世 界 シ ス テ ム の,さ. ら. に は そ の一 つ と して 把 握 して い る。 そ こで は,社 会 シ ス テ ム とは 「種 々 の 部 門 や 地 域 が, 地 域 の必 要 物 を 円 滑 に ま た継 続 的 に供 給 す る た め に,他. との 経 済 的 交 換 に依 存 す る よ うな. 分 業 」 で あ り,世 界 シ ス テ ム と は 「単 一 の 分 業 と多様 な文 化 シス テ ム を 持 つ 実 体 」 で あ り, 世 界 経 済 と は,複 数 の 国 家 した が って 共 通 の政 治 シ ス テ ム を 持 た な い 単 一 の 市 場 か ら成 る もの と して 把 握 さ れ て い る。 か れ に よれ ば,15世. 紀 半 ば に北 西 ヨー ロ ッパ を 核 と して 成 立 し た資 本 主 義 世 界 経 済 は,. 19世 紀 末 に は全 世 界 に拡 が り,地 理 的 に は 中核 ・半 周 辺 ・周 辺 の3者. に分 裂 し,支 配 ・被. 支 配 の 関 係 に あ り,そ の 間 の 分 業 は不 等 価 交 換 に よ っ て特 徴 づ け られ る。 中 核 は,強 力 な 国 家 制 度 ・高 賃 金 と高 利 潤 ・資 本 集 約 的 商 品 の 生 産 を 特 徴 とす る先 進 諸 国 を,周 辺 は,弱 い 国 家 制 度 ・低 賃 金 と低 利 潤 ・資 本 集 約 度 の低 い商 品 の生 産 を特 徴 とす る発 展 途 上 諸 国 を, そ して 半 周 辺 は,そ の 中 間 的 存 在 で あ り,い わ ゆ る 中進 国 あ る い はNIESに. 該 当 す る。. か れ の 概 念 の 中 で は比 較 的 注 目 さ れ る こ との 少 な い もの で あ る が,「商 品 連 鎖 」と い う新 しい視 角 に よ る もの が あ る。 す な わ ち 国 際 貿 易 とい う捉 え 方 と は異 な り,こ れ は 最 終 消 費 段 階 の 商 品 を 取 り上 げ,こ れ に 至 る ま で の一 連 の 商 品 投 入 を た ど る も の で あ り,ひ い て は 労 働 の 分 割 と結 合 の 世 界 的 な展 開 と,周 辺 か ら中 核 に 向 か う地 理 的 方 向性 を も明 らか にす る もの で あ る。. 3.多. 国籍 企業 の立地. 多 国 籍 企 業 の研 究 に つ い て は多 方 面 に わ た る膨 大 な 蓄 積 が あ る が,こ. (7)ハ. ル ム ス 世 界 経 済 学 の 流 れ に 沿 う も の は,多. し て の レ ー ベ ン ス ラ ウ ム の レベ ル に 留 ま り,こ (8)Wallerstein[1979]. -40(292)一. 少 の 進 展 は 見 ら れ る が,自. こ で は,立 地 論 に. 立 的国民経 済の拡 張 と. れ も自立 的 国 民 経 済 の 延 長 上 の 概 念 で あ る。.
(5) 世界経 済空 間について(薬 師寺) 繋 が り う る面 に焦 点 を あ て て,ヴ. ァー ノ ン,ヘ ライ ナ ー,ハ イ マ ー,ス コ ッ トの 業 績 を 取. り上 げ て み た い。 ヴ ァー ノ ンの プ ロ ダ ク トサ イ ク ル 論(9)と して 知 られ た も の は,製 品 の ラ イ フ サ イ ク ル に 対 応 した ア メ リカ 企 業 の 国 際 的 生 産 地 移 転 と そ の 理 由 が 示 さ れ た もの で あ る。 第1段 階 は 新 製 品 の 出現 時 期 で あ り,需 要 が 高 所 得 層 に 限 られ る こ と や外 部 経 済 の存 在 の た め に ア メ リカ 国 内 に立 地 が 限 られ,第2段. 階 の 成 熟 段 階 で は,大 量 生 産 に よ る規 模 の 経 済 の達 成 と. 他 の 先 進 諸 国 の 市 場 形 成 ・拡 大 を利 用 して ア メ リカ か ら の輸 出 が 増 え る。 第3の 標 準 化 段 階 す な わ ち生 産 工 程 な どの標 準 化 が 達 成 され る段 階 に な る と,生 産 コ ス ト競 争 が 激 化 し, 特 に労 働 費 用 の 削 減 が 重 視 され,そ. の た め ア メ リカ企 業 は発 展 途 上 諸 国 に 工 場 を 移 転 して. そ の 利 用 を 図 る よ う にな る。 そ こで 生 産 され た 製 品 は 大 部 分 が ア メ リカ な ど の 先 進 諸 国 に 輸 出 され,そ の 地 域 に お け る 当該 部 門 の 空 洞 化 が 生 じる。 ま た,ヘ. ライ ナ ー⑩ は,生 産 工 程 の分 割 に 注 目 し,そ れ故,本 社 と海 外 子 会 社 や海 外 子. 会 社 間 の 企 業 内貿 易 の 存 在 と そ の 根 拠,お. よ び そ こか ら生 じる と こ ろ の トラ ン ス フ ァ ー プ. ラ イ シ ング に も注 目 して い る。 生 産 工 程 間 の分 業 の 根 拠 は,労 働 費 用,輸 送 費 用,輸. 出加. 工 区 にお け る特 別 待 遇 な どの 差 異 とさ れ る。 他 方,ハ. イ マ ー は,チ. ャ ン ドラー の 企 業 組 織 の分 化 論 に も とつ いて,多. 国籍 企 業 の 部 門. 別 立 地 に つ い て の 説 明 を 試 み て い る⑪。 す な わ ち,現 業 部 門 は,原 料 や 労 働 費 用 に規 定 さ れ て 全 世 界 に拡 散 し,地 方 本 部 以 上 で は,ホ ワ イ トカ ラ ー 層 の存 在 や情 報 収 集 の た め に大 都 市 に集 中 し,さ らに世 界 企 業 レベ ル の 本 社 本 体 で は,資 本 市 場,メ. デ ィア,政 府 と の対. 面 接 触 が 重 視 さ れ る た め に一 層 地 理 的 に集 中 し,そ の 結 果,そ の 場 所 は グ ロー バ ル シ テ ィ とな る と され る。 こ の よ う に,ハ イ マ ー は,早 い 時 点 で,国 で は な く都 市 を 基 本 単 位 と し て,多 国籍 企 業 の 生 産 拠 点 の拡 散 と管 理 部 門 の 集 中 ・集 積 に よ る全 世 界 的 な 階 層 的 ネ ッ ト ワー ク組 織 を 描 き,1980年. 代 以 降 の グ ロ ー バ ル シ テ ィ論 に 繋 が る 議 論 を 供 え た の で あ っ. た。 別 の流 れ に あ る もの と して,コ ー ス や ウ ィ リア ム ソ ン等 の取 引 費 用 論 を 多 国 籍 企 業 に 適 用 した もの と して ラ グ マ ン等 の い わ ゆ る 内 部 化 理 論 の 展 開 が あ る が,こ. こで は,ス. コット. の 新 産 業 空 間 論(②を見 て お き た い。 か れ は,取 引 費 用 論 を 用 い る が,し か しそ れ を 企 業 間. (9)Vemon,R.[1965コ. ⑩Helleiner,G.K.[1981]. qDHymer,S.[1972].な に つ い て も 論 じ て お り,そ. お,か. れ は,こ. の 説 明 以 外 に,多. の 方 が 有 名 で あ ろ う が,本. q2>Scott,A.J.[1988];Scott,A.J.[1998]. -41(293)一. 国籍企業 の先進諸 国間の相互 浸透現象. 稿 の 視 角 か らは 外 れ る の で 省 略 す る。.
(6) 第51巻. 第2号. 関係 の空 間 的 近 接 性 に 向 か わ せ,集 積 の 利 益 に よ る グ ロー バ ル 経 済 の地 理 的 単 位 の 形 成 を 説 明 して い る。 す な わ ち,企 業 組 織 内部 の取 引 費 用 が 外 部 市 場 を 用 い る際 の 取 引 費 用 を 下 回 る場 合 に は垂 直 統 合 が 生 じ,前 者 が後 者 を上 回 る場 合 に は垂 直 分 割 が 生 じる。 そ して 垂 直 分 割 は外 部 との 連 携 が 必 要 と な る た め,そ れ に よ って 生 じる コ ス ト節 約 の た め に集 積 が 生 じる と され,そ. の集 積 地 が グ ロー バ ル経 済 の地 理 的 構 成 要 素 と な る と説 明 す る。. 4.結. 以 上 の概 略 的 な 議 論 を 踏 ま え て,こ. び に か え て. こで は,世 界 経 済 空 間 の解 明 す る際 の 研 究 の 方 向性. の 一 つ と して,立 地 理 論 の 再 検 討 と い う見 地 か らみ て お き た い。 古 典 派 国 際 分 業 論 以 来 の 国 際 経 済 学 で は,国 民 経 済 を 基 本 的 な 分 析 単 位 と して きた が, そ の副 作 用 と して 「空 間 的 拡 が り」 を 見 え な くす る とい う欠 点 が あ った 。 そ れ 故,国 民 経 済 で生 産 が 完 結 し後 は貿 易 だ け と い う 図式 とな り,「商 品 連 鎖 」に 関 連 す る よ う な視 点 が欠 落 し,具 体 的 に は現 代 の 多 国籍 企 業 に み られ る よ うな,複 雑 な 生 産 の世 界 的 ネ ッ トワ ー ク を 解 明 す る に は不 適 当 とな る の で あ る。 これ と は異 な る 流 れ と して,ハ ル ム ス の 世 界 経 済 学 が19世 紀 末 か ら20世 紀 初 頭 にか け て の ドイ ツ の経 済 発 展 を背 景 と して 登 場 した が,か れ の世 界 経 済 の定 義 に お い て は交 通 手 段 の 発 展 が 強 調 さ れ て お り,こ れ に よ っ て 近 代 世 界 経 済 が 形 成 さ れ た との 認 識 に あ る よ う に,最 初 に世 界 経 済 の一 体 性 の 認 識 の 萌 芽 が あ り,さ らに は 後 継 者 の プ レデ ー ル は,世 界 経 済 を 経 済 空 間 と国 家 空 聞,す. な わ ち一 般 立 地 秩 序 か ら成 る 純 粋 経 済 す な わ ち経 済 空 間. と,貿 易 政 策 ・通 貨 政 策 等 か ら成 る 国 家 空 間 に 峻 別 す る と い う と こ ろ ま で 進 ん だ 。 しか しな が ら,い わ ば膀 の尾 と して,国 民 経 済 を 自立 的 な 単 位 と して前 提 した 上 で 国民 経 済 相 互 の 関 係 を 中 心 に論 じ る と い う傾 向 が 残 って い た が,続 い て 前 進 した の が,1980年 代 の ウ ォー ラ ー ス テ イ ンに よ る 「資 本 主 義 的 世 界 経 済 」 を 基 本 単 位 と し国 際 貿 易 に代 わ る 「商 品 連 鎖 」 を 基 本 概 念 とす る世 界 シ ス テ ム論 の登 場 で あ った。 「商 品 連 鎖 」 とい う概 念 は 国 際 貿 易 と い う捉 え方 と は異 な り,こ れ は最 終 消 費 段 階 の 商 品 を取 り上 げ,こ れ に至 る ま で の 一 連 の 商 品 投 入 を た ど る もの で あ り,ひ いて は 労 働 の 分 割 と結 合 の世 界 的 な 展 開 と, 周 辺 か ら中 核 に 向 か う地 理 的 方 向性 を示 す もの で あ っ た。 一 方,資 本 主 義 世 界 経 済 は,地 理 的 に は 中 核 ・半 周 辺 ・周 辺 の3者. に分 裂 し,支 配 ・被 支 配 の 関 係 に あ り,そ の 間 の分 業. は不 等 価 交 換 に よ って 特 徴 づ け られ る と い う図 式 は,新 最 後 の 一 押 し と な っ た の が,多. し い展 望 を 開 く もの で あ った。. 国 籍 企 業 に よ る世 界 的 生 産 の ネ ッ トワ ー ク の 登 場 で あ 一42(294)一.
(7) 世 界経済空 間 につ いて(薬 師寺) る。 ま ず,ヴ. ァー ノ ンの プ ロ ダ ク トサ イ ク ル論 で は,製 品 の ラ イ フ サ イ ク ル す な わ ち成 熟. 度 と生 産 工 程 の 標 準 化 の 変 化 を軸 と して,そ れ に対 応 した 多 国籍 企 業 の 国 際 的 生 産 立 地 の 変 化 を 説 明 した もの で あ るが,そ. の説 明 因子 と して,各 国 の マ ク ロ 的 な 要 素 に着 目 し,賃. 金 水 準 の他 に,所 得 ・消 費 水 準 の違 い を挙 げ て い る点 に特 徴 が あ る。 ま た,ヘ 多 国 籍 企 業 内生 産 工 程 間 分 業 論 は,そ の根 拠 は,労 働 費 用,輸 送 費 用,輸. ライ ナ ー の. 出加工 区 にお け. る特 別 待 遇 な どの 差 異 を 挙 げ て い る。 他 方,ハ. イ マ ー の多 国 籍 企 業 内部 門 別 立 地 論 は,国 で は な く都 市 を 基 本 単 位 と し,多 国. 籍 企 業 の 生 産 拠 点 の拡 散 と管 理 部 門 の集 中 ・集 積 に よ る全 世 界 的 な 階 層 的 ネ ッ トワー ク組 織 に つ いて の説 明 を試 み,前 者 は 原 料 や 労 働 費 用 に規 定 さ れ,後 者 は,ホ ワ イ トカ ラ ー層 の 存 在 や 情 報 収 集 の 容 易 さ,さ らに世 界 企 業 レベ ル の 本 社 本 体 で は,資 本 市 場,メ デ ィ ア, 政 府 と の対 面 接 触 が 要 因 とな る と さ れ て い る。 ス コ ッ トは,グ ロー バ ル 経 済 の 地 理 的 単 位 と して新 産 業 空 間 を 提 唱 し,そ の 形 成 を企 業 間 関 係 の空 間 的 近 接 性 に よ る集 積 の利 益 に も とつ く もの と して い る が,そ. こで 用 い られ て. い る取 引費 用 基 準 は,企 業 組 織 内 部 の 取 引 費 用 が 外 部 市 場 を 用 い る 際 の 取 引 費 用 を 上 回 る 場 合 に は垂 直 分 割 が 生 じる が,そ の 際 の コ ス ト節 約 の た め に集 積 が 生 じ,そ の集 積 地 が グ ロー バ ル 経 済 の地 理 的 構 成 要 素 とな る とい う もの で あ る。 こ の よ う に,ハ ル ム ス,プ. レデ ー ル,ウ. ォ ー ラー ス テ イ ン に よ って,世 界 経 済 あ る い は. 世 界 経 済 空 間 の 定 義 が 進 展 した が,そ の 内 容 に豊 か さ に欠 くき らい が あ った よ う に お も わ れ る が,そ の 後,多 国籍 企 業 の 発 展 を 受 け て,ヴ ァー ノ ン,ヘ ラ イ ナ ー,ハ イ マ ー,ス コ ッ トら に よ って,世 界 経 済 空 間 の レベ ル で の 現 実 的 立 地 展 開 を 解 明 す る試 み が 進 展 して き た 。 しか しな が ら,そ れ ぞ れ 独 立 に展 開 さ れ て き た と は い え,ま た 現 実 か ら出 発 して い る 利 点 が あ る と は い え,全 体 と して み れ ば い さ さ か理 論 の体 系 性 ・単 純 性 に欠 け る よ う に お もわ れ る。 そ こ で,一 つ の 方 向 と して,古 典 的 立 地 論 を立 地 因 子 か ら は じめ て 再 検 討 す る こ とか ら考 察 を す す め る こ と に よ って,現 代 世 界 経 済 に 適 用 で き る もの に再 構 築 して い る こ と が望 ま れ て い る よ う に お もわ れ る の で あ る。 具 体 的 に は稿 を 改 め て 論 じた い 。. 参. 考. 文. 献. Harms,Bernhard[1912]"WeltwirtschaftundWeltschaftslehre"WeltwirtschaftlichesArchiv Bd.1 Harms,Bernhard[1927]"StrukturwandlungenderWeltwirtschaft"Weltwirtschaftliches ArchivBd.24. 一43(295)一.
(8) 第51巻 Helleiner,G.K.[1981]1碑. 第2号. α一か 配 乃η4ε 侃4∫hθD6v8Zo卿gCo〃. 雅 秀 訳[1982]『. 多 国 籍 企 業 と企 業 内 貿 易 』. η∫r'6∫,Macmillan.(関. 下 稔+中. Hymer,S.[1972]Themultinationalcorporationandthelawofunevendevelopment ηo履c∫. αη4肋. 〃40π1θ. 村. ミ ネ ル ヴ ァ 書 房) .Eco.. γ(Bhagwati,J.W,ed.),Macmillan.. Isard,LW.[1956],LocationandSpace-Economy. ,MITPress.(木. 内 信 蔵 監 訳[1964]『. 立 地. と. 空 間 経 済 」 朝 倉 書 店) Krugman,P.[1991]Gε08rα 『脱. 擁y研4τ. 影α4ε,MITPress. .(北. 村 行 伸+高. 橋 亘+姉. 尾 美 起 訳[1994]. 「国 境 」 の 経 済 学 』 東 洋 経 済 新 報 社). Ohlin,B。[1933]1膨rr88'oη [1980]『. αZ侃41漉rη. 傭oη α♂ η04ε,HarvardUniversityPress. .(木. 村 保 重 訳. 貿 易 理 論 』 ダ イ ヤ モ ン ド 社). Pred6h1,[1927]A那. ∬ θη瞬r'8c乃 φ,Vandenhoeck&Ruprecht. Scott,A.J.[1988〕. ハセw1η 伽 ∫〃∫αZ5ρ αcε5,Pion.. Scott,A.J.[1998コRθ8∫oη3α. ,Gottinge11.. η4漉6Wbr14Ecoηo配y,OxfordUniversity. .. Vernon,R.[1965]Internationalinvestmentandinternationaltradeintheproductcycle. .. QuarterlyJournalofEconomics,PP,190-207. Wallerstein,1.[1979]翫6C4ρ 麻 沼 賢 彦+金 生 島 広 治 郎[1974]『. ∫ ∫α1∫ ∫'WbrZナ. 井 雄 一 訳[1987]『. εcoηo配y,CambridgeUniversityPress. 資 本 主 義 世 界 経 済1』. 世 界 経 済 学 著 作 選 集 』 第 皿 巻pp.51-52,白. .(齋. 名 古 屋 大 学 出 版 会) 桃 書 房 。. 薬 師 寺 洋 之[1976]「. プ レ デ ー ル 教 授 の 世 界 経 済 講 座 変 動 論 」 『世 界 経 済. 薬 師 寺 洋 之[1980コ. 「世 界 経 済 学 と 国 際 経 済 学 」 『世 界 経 済 研 究 年 報 』No.1.. 薬 師 寺 洋 之[1982]「. 比 較 優 位 と 輸 送 費 用 」 『世 界 経 済 研 究 年 報 』 第3号. 薬 師 寺 洋 之[1982]「. 多 角 的 比 較 優 位 と 輸 送 費 用 」 『商 経 学 叢 』 第29巻. 一44(296)一. リ ポ ー ト 』No. 。 第2号. 。. .26.. 藤 浩 司+.
(9)
関連したドキュメント
例えば,わが国の医療界と比較的交流の多い 米国のシステムを見てみよう.米国では,卒後 1 年間のインターンの後, 通常 3
オープン後 1 年間で、世界 160 ヵ国以上から約 230 万人のお客様にお越しいただき、訪日外国人割合は約
当第1四半期連結累計期間の世界経済は、新型コロナウイルスの感染状況が小康状態を保ちつつ、経済活動が本
The future agenda in the Alsace Region will be to strengthen the inter-regional cooperation between the trans-border regions and to carry out the regional development plans
奥村 綱雄 教授 金融論、マクロ経済学、計量経済学 木崎 翠 教授 中国経済、中国企業システム、政府と市場 佐藤 清隆 教授 為替レート、国際金融の実証研究.
バク・ヒョンス (2005,第4 章) では,農林漁 業の持つ特性や政治的な理由等により,農林漁
現在もなお経済学においては,この種の利益極大化が,企業の一般的な追求目
Trade Liberalization”, in Bhagwati (ed.), supra note 48, pp. Parry (ed.), The Consolidated Treaty