消費者行動モデル研究の変遷と大規模データの利活用へ向けて
Transition of Consumer Behavior Model and Looking Toward an
Efficient Utilization of Large Scale Datasets
石垣司
1∗本村陽一
1Tsukasa Ishigaki
1Yoichi Motomura
11
産業技術総合研究所 サービス工学研究センター
1
Center for Service Research,
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology
Abstract: The research of consumer model aims to explain a common fact of human behavior at consumption. Recently, large scale data of human behavior records in daily life or shopping such as POS data can be observed by a development of sensor networks or ubiquitous system. However, the affinity of the consumer behavior model and the large scale data is poor. The present paper surveys a transition of consumer behavior model and describes the looking toward an efficient utilization of large scale data with consumer behavior model.
1
はじめに
マーケット形成の主役は企業から消費者へと移り変 わっている。企業主導の大量生産・大量消費時代は終わ り、需要の飽和や顧客の要求の多様化などによりマー ケットの形成は消費者主導へと移行してきている。ま た、消費者の価値観・ライフスタイルの多様化にともな いサービスの現場では生活者起点の発想が重要となっ てきている。マーケティングの分野においてもマスマー ケティングからマイクロマーケティングへの変遷が生 じ、さらには one-to-one マーケティングの必要性が叫 ばれて久しい。一方、消費者の行動に関して普遍的な モデルを用いて説明しようと試みる消費者行動理論の 研究も古くから盛んにおこなわれている [1]。そこでは、 消費者の内的、心理的、外的状態のキーとなる概念を 中心に消費者の行動をモデル化し、その購買の意思決 定に至るまでのフローを包括的に表現しようとしてい る。そのモデルは一般的に有向または相互作用を示す 双有向のフローチャートとして表現されることが多く、 その目的は購買という行動を考察・分析することによ り、各個人によって多様な異なりを見せる消費行動の 中からも何らか普遍的な理論を発見・抽出することに ある。 現在、顧客が購買行動を行うサービスの現場におい ては、ユビキタスセンサやセンサネットワークの発展 により、POS データ、web ログデータ、各種ポイント ∗連絡先:産業技術総合研究所 サービス工学研究センター 〒 135-0064 東京都江東区青海 2-41-6 E-mail: [email protected] カードデータなどの人々の日常生活や消費活動から発 生する大量かつ大規模のデータが観測可能となってき ている。これらのデータはその分析により顧客の行動 を理解し、マーケティングへつなげるための有力な材 料として多くの企業に注目されている。しかしながら、 現在では消費者行動理論に基づいた消費者行動モデル と実現場から観測されるデータとの関連性は薄く、両 者の統合によるモノ・サービス生産への有効利用の方法 論やその必要性はほとんど議論されていない。消費者 行動理論の研究においての実データの意義は、提案さ れた消費者行動モデルの正当性の実証であり、実サー ビス現場へのフィードバックによる有効活用ではない。 マーケティングや実サービス設計で望まれている大 規模な購買履歴データの現場へのフィードバックを図 るためには、計算機の導入は不可欠である。従来の消 費者行動理論では消費者の多様な状態を考慮した購買 の意思決定メカニズムについて焦点が当てられている。 そのため、作成されるモデルは消費者の背後にある心 理状態などの潜在的な要因までも陽に取り扱っていた。 そのため、従来は計算機による演算を必要とするデー タとの親和性は非常に低かった。しかし、センサネッ トワークの発達による購買行動履歴データの蓄積、大 規模データを扱うための機械学習や統計的処理法の発 展 [2]、グラフィカルモデル [3] に代表される計算論的 なモデリング技術、そして大規模データの実現場への フィードバックの必要性と有用性の認識によって、計 算論的な消費者モデルと大規模データの融和性は高ま りつつある。 人工知能学会研究会資料 SIG-DMSM-A803-08 (3/3)図 1: 消費者行動モデルの変遷 図 2: 心理的プロセスモデル そこで本発表では、消費者行動モデルの変遷を眺望 し、大規模実データの利活用の視点に立った消費者行 動モデルの可能性について述べる。従来の消費者行動 モデルのような“ 普遍的な購買の意思決定モデルの構 築 ”に焦点を当てるのではなく、実サービスの現場に おいて“ 実際に計算論的に利用が可能 ”であることに 焦点を当てた顧客の消費行動モデルを紹介し、その可 能性を探る。
2
消費者行動理論における消費者行
動モデル
消費者の行動については古くから経済学や心理学の 分野で研究が行われてきた。経済学の消費理論では消 費者が消費行動によって受ける効用概念の研究が生ま れ、その後のマーケティングや確率的ブランド選択モ デルに大きな影響を与えている。また、心理学では消 費行動における心理状態の研究も盛んに行われていた。 それらの流れを受け、消費者の行動自体を研究対象と する消費者行動理論の研究が生じた。ここでは、古典 的ではあるが後々までに大きな影響を与えている 4 つ の消費者行動モデルについて紹介する。図 1 にそれら の消費者行動モデルの大まかな変遷図を示す。 心理的プロセスモデル 消費者が商品の購入に至るまでの心理的プロセスを表 現するであり、広告業界に端を発する。AIDA(Attensito, Interest, Desire, Action) モデルや AIDMA(Attensito, Interest, Desire, Memory, Action) モデルなどその多 くは単純な 1 方向の定性的モデルであり、その亜流は 数多く存在する。図 2 に AIDA モデルの模式図を示す。 確率的選択モデル 刺激(入力) 物理的、象徴的、 社会的な要因 知覚構成体 注意や情報探索 学習構成体 動機や選択基準、理 解、態度、意図の形成 反応(出力) 購買に繋がる 一連の流れ 頭の中 図 3: 刺激−反応モデル 情報処理能力 動機 目標階層 注意 情報取得と評価 意思決定プロセス 消費と学習プロセス 認知的 意味づけ 記憶探索 外部探索 図 4: 情報処理アプローチ。文献??より抜粋 1960 年代に数理心理学などで開発されたモデルを消 費者行動に導入した。消費者のブランド選択行動を中 心に数理的モデルを構築し、消費者行動の理解・予測 を目的としている。学習モデル [4]、定比モデル [5]、確 率効用モデル [6] などがよく知られている。計算機環境 や計算手法の観点から 1990 年代まではロジットモデル やマルコフ行列モデルなどの線形・独立モデルが一般 的であった。近年ではベイズ理論の応用も盛んに行わ れている [7]。 刺激−反応モデル Howard と Sheth は、広告などの刺激を消費者への 入力とし、どのような反応をすることで購買行動を起 こすかをモデル化した刺激−反応モデル [8] を提案し た。このモデルでは刺激を入力が消費者の頭の中(知 覚構成体と学習構成体)を通り、その反応を出力とす る一種のオープンループの一方向ブロック線図として 表している。そこでの関心はあくまで入力と出力(刺 激と反応)の関係や入力による反応の予測であり、消 費者の内的状態の変化や心理的プロセスを陽に表現せ ずにブラックボックス化している。図 3 に刺激−反応 モデルの模式図を示す。 情報処理アプローチ 消費者の購買の意思決定プロセスを情報処理の観点 からモデル化した情報処理アプローチの Bettman モデ ル [9] がある。このモデルのアプローチはのちの消費者 行動研究に大きく影響を与えている。その特徴は意思 決定や情報収集の違いを表現し、収集した情報を消費 者の内部で情報処理的に処理し購買意志の決定が行わ れる様子をモデル化している。しかし、このモデルは 様々な消費者の内的状態を変数としてモデル化してい るためフローチャートが複雑となり、モデル全体の正 当性と説明力をデータから実証することは困難である。観測
設計
分析
適用 最適設計
ループ
現場でのデータの取得 データの分析 モデルの構築および 分析結果に基づく改良 モデルの現場への適用 によるサービスの運用 図 5: サービス生産性向上のための最適設計ループ 図 4 に情報処理アプローチによる消費者モデルの模式 図を示す。 その他にも効用の概念に疑問を呈した Holbrook and Hirschman の体験主義アプローチによる消費者モデル [10]、刺激−反応モデルと情報処理モデルの両者を取り 入れようと試みた Howard のニューモデル [11]、広告情 報により態度や知識が形成されていく様子をモデル化 した Mitchel モデル [12]、情報処理モデルに依拠しなが らも広告研究の文脈で精緻化した Petty and Cacioppo の精緻化見込みモデル (ELM)[13]、ELM の態度形成の さらなる精緻化を目指した Maclnnis and Jaworski モ デル [14] など、数多くのモデルが提案されている。こ れらの変遷については [15] が、また、比較的新しい消 費者行動の視点については [16] が詳しい。3
実サービスと大規模データ
3.1
消費行動から発生する大規模データ
現在のサービス現場では ID 付き POS データ、クレ ジットカード、ID 付き電子マネーなどの ID 付きの日 常生活の行動履歴を大量データの集積も盛んに行われ ている。POS システムを採用しているスーパーなどの 小売店では、店舗営業終了後に数十ギガバイトにも及 ぶ 1 日間の全ての販売記録がデータセンターへと送ら れる。また、web ログデータも、web ページ閲覧者の 行動分析により顧客の行動を理解し、マーケティング へつなげるための有力な材料として多くの企業に注目 されている。そのため、データの収集は常時行われて おり、分析対象のデータ量は大量となる.しかしなが ら、これほどの大量のデータは従来の主成分分析や因 子分析のような単純な統計手法を用いての解析は困難 を極める。そのため、大量のデータを収集するための システムインフラの開発と維持のみにコストを費やし、 集めたデータの分析・活用という点では十分な費用対 効果が得られていないのが多くの企業の現状である。3.2
サービス産業の生産性
日本においてサービ産業は就労人口ベースで約 7 割 を占める重要な産業であるにもかかわらず、製造業と 比べて生産性の低さが指摘されている。そのため、サー ビスを科学的・工学的にとらえるため、東京大学人工物 研究センターや産業技術総合研究所サービス工学研究 センター [17, 18, 19, 20] などの研究機関が日本国内で も誕生し始めている。図 5 に産業技術総合研究所サー ビス工学研究センターが提唱するサービス生産性向上 のための最適設計ループを示す。この PDCA サイクル を機能させることによりサービスの生産性向上を目指 すものである。 筆者らはサービスの生産性向上への取り組みについ ての実態を知るため、複数の成功的に経営されている 企業への聞き取り調査を行っている。ここではスーパー マーケットを例に挙げ、その報告をする。ここでは、生 産性の向上に成功している3つのスーパーマーケット (山梨県一帯に展開し成功的なポイントカード活用を 行っているオギノ、北関東一帯で展開するライフスタ イル提供型スーパーマーケットであるヤオコー、福岡 県柳川市にある1店舗の個店経営ながら近接した大手 GM を撤退に追い込んだスーパーまるまつ)を例にあ げ説明する。これらのスーパーマーケットは、規模、経 営形態、広報方法、理念、企業戦略などが大きく異なる にもかかわらず成功的な企業として知られている。表 1 にそれぞれの変数(事項)についてまとめた。そこか らは共通性を探し出すことは難しい。 聞き取り調査の結果を図 5 に示すサービス設計のプ ロセスに適用する。その結果を表 2 に示す。そうする と、デバイスや方法は異なるにもかかわらず何らかの 形ですべてのプロセスが実行されていることが見て取 れる。 事実、多くの企業ではこのような PDCA サイクルは 形成されておらず PD(Plan and Do)の繰り返しのみ を行っている。地道に PDCA のサイクルを構成し、実 験による仮説検証を繰り返している企業のサービス生 産性が高くなるのは当然の帰結であろう。3.3
属人的な努力の限界
しかしながら、サービス現場での属人的な努力には 数量と規模の限界が存在し、小規模である間には高品 質のサービスを提供できていた企業でも規模拡大に伴 うサービス品質の低下を引き起こす場合がある。サー ビス品質の達成がサービス提供を行う個人に依存して いるため、規模の拡大に対しサービス提供者の質が追 従できないために起こる現象である。(ヤオコーの高い サービス品質が保たれているのは各店舗の店長に大き な権限が与えられ、実質の個店経営に近い形態をとっ表 1: 変数に注目した各企業の取組と施策 オギノ ヤオコー まるまつ 企業規模 大規模展開 大規模展開 1店舗経営 店舗管理 集中管理 各個店管理 1店舗管理 顧客管理 ポイントカード × ポイントカード チラシ ○ ○ × 主な意思決定の支援 POS データ パートの意見 POS データ 顧客への付加価値 ポイント還元 ライフスタイル提案型 ポイント&特典還元 .. . ... ... ... 表 2: サービス設計プロセスに注目した各企業の取組と施策 オギノ ヤオコー まるまつ 観測 POS データの活用 パートの意見の活用 POS データの活用 分析 POS データに基づく顧客分析 地域密着のための分析・適応 POS データに基づく需要予測 再設計 分析に基づく商品管理 気づきによる商品棚割管理 POS データ解析と経験の併用 適用 実験検証 実験による仮説検証 実験による仮説検証 ているためと考えられる)。そのため、サービス提供者 の経験と勘に依存しない科学的・工学的なサービス生 産性向上のためには、実サービスから観測されるデー タを用いる必要性が生じる。しかし、大規模データを 用いるためには消費者の行動をモデル化する必要があ る。消費者行動理論における消費者行動モデルは普遍 的な消費者の購買意志決定のメカニズムに着目し、そ の原理を追求することを主な目的としている。そのた め、消費者の内的な状態や状態の変化を引き起こす媒 介変数は高度に抽象化されている。そのようなモデル をサービスの現場に適用するには困難が多い。それゆ え、消費者の行動を包括した普遍的なモデルの構築は、 現在のサービス産業が必要としている小規模なセグメ ントや個人を対象としたマーケティングには適してい るとは言えない。
4
消費者行動モデルと台規模データ
の統合手法
それでは、どのようなモデルが大規模実データの有 効活用に適しているのだろうか。第一に、大規模・大量 のデータを取り扱うためには計算機の導入は必須であ る。計算機を利用するためには、想定する消費者モデ ルは計算可能でなければならない。また、消費者の購 買行動や意思決定のような複雑で不確実性の高い現象 を再現するためには、消費者の直接観測することが出 来ない内的・心理的状態を潜在変数として記述し、具 現化して取り扱う必要がある。そのとき決定論的アプ ローチでは、多数の IF-THEN ルールや複雑なフロー チャートを用意したとしても例外や外れ値は枚挙に暇 ない。加えて、ノイズや不確定な要因を扱うことがで きないため、非決定論的な確率モデルの枠組みが要請 される。以下ではその 2 つの条件を満たすグラフィカ ルモデルであるベイジアンネットワークと状態空間モ デルによるアプローチを紹介する。4.1
ベイジアンネットワークによるアプロー
チ
ベイジアンネットワークは対象とする確率変数間の 関係を、確率変数のノードと変数同士の依存関係を確 率的なネットワークとしてモデル化したものである。そ の確率ネットワークはグラフ構造として表現すること が可能で、視覚的に表現・理解し易く、グラフィカル モデルによる確率推論の手法を直接応用することがで きる。また、そのグラフ構造は情報量規準 [21] などに よりデータから自動的に探索・構築することも可能で あるし、設計者の経験や物理的・社会的な法則をモデ ル内に取り込み柔軟に決定することも可能である。図 6 にベイジアンネットワークのグラフ構造と条件付き 確率表の一例を示す。 グラフのネットワークが木構造である場合、ある変数 に観測が得られたは目的とする変数の周辺分布を、同 時分布を分解した条件付き確率の和と積の計算の順番 を交換することで効率的に計算することができる。ま た、モデル全体の同時分布の確率が最大となる変数の・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・ ・ ・・・ 図 6: ベイジアンネットのグラフィカルモデル 図 7: 状態空間モデルのグラフィカルモデル 組み合わせも動的計画法を用いることで効率的に計算 可能である [2]。図 6 の様なグラフ構造の場合、ノード を無向として考えるとその構造にループをもつ。この ようなグラフでは、何らかの近似的な確率推論を行う 必要があるが、Junction Tree アルゴリズムや Loopy BP などの複数の有効なアルゴリズムが知られている。 このように柔軟な確率モデルでは、消費者の状態を 計算論的に変数として取り扱うことが可能である。か つ、効率的な確率推論のアルゴリズムも開発されてい るため、ベイジアンネットワークの消費者行動の理解 への研究は広く行われるようになってきている [22]。消 費者の行動履歴データから消費者の行動モデルを作成 し、その行動・内的状態を予測することで消費者が欲 している情報を提供するリコメンデーションシステム を、携帯電話による映画推奨コンテンツ、カーナビゲー ションによる立ち寄り先推奨コンテンツなどに応用さ れている [22, 25, 26]。
4.2
状態空間モデルによるアプローチ
ここではベイジアンネットワークと同じく柔軟な記 述を可能とする確率モデルの一つである状態空間モデ ルとそのデータとモデルの統合手法についてを紹介す る。状態空間モデルは時系列モデルの変数の推定を目 的として使用されることが多く、効率的な非線形確率 推論手法の登場により非線形・非正規的な時系列モデ ルを取り扱うことができる枠組みとして注目されてい る。状態空間モデルのグラフィカルモデルを図 7 に示 す。状態空間モデルはシステムの時間発展を記述する システムモデルと、そのシステムからどのように観測 データが発生するかを記述した観測モデルにより構成 される。このモデルは非決定的な確率モデルとして利 用される場合がほとんどである。それらの確率的変動 は、システム発展に伴うノイズと観測データに加わる ノイズとして取り扱われる。 モデル内の状態変数は、ある時刻に与えられたデー タとモデルの整合性を図りながら確率分布として推定 される。そして、その状態変数からモデルに従い未来 (過去)の予測を行う。そして、その未来(過去)にお いて新たなデータを観測したときに再びその時点での 状態変数をデータとモデルの整合性を図りながら確率 分布として推定する。このように各時刻において確率 的に出現率が高くなる状態変数の推定を行うことがで きる。このようにしてデータとモデルの統合が行われ る。 状態空間モデルの歴史は古く、1960 年代の現代制御 理論の登場に端を発する [27]。しかし、その枠組みは 線形・正規モデルであった。拡張カルマンフィルタ [28] など 1 次近似的に非線形性を取り扱う手法も存在した が、非線形性・非正規性が強いモデルは取り扱うこと はできなかった。しかし、1990 年代に Gordon[30] と Kitagawa[29] によって独立に提案された粒子フィルタ [31, 32] の登場により、強い非線形性・強い非正規性を もつ状態空間モデルであっても、それらの状態の確率 分布を乱数により与えられる粒子のヒストグラムとし て近似することにより推定する手法が提案された。こ の手法はマルコフ連鎖モンテカルロ法 [33] の発展との 相乗効果もあり、非線形な時系列解析、信号処理、画 像処理などの分野で意欲的に応用されていった。しか しながら、消費者行動分析の観点では、実際の小売店 から得られた ID 付き POS データをデータの時系列性 に着目して解析した [34, 35] などの研究があるが、こ れらの研究は始まったばかりでありマーケティングや サービス工学の分野では今後はますます重要性が増し ていくであろう。5
予測モデルから制御モデルへ
大規模データの利活用による消費者行動の計算モデ ル化は、実サービスの現場において消費者行動の予測 と制御を実現する可能性をもつ。顧客の行動を予測す ることでよりきめ細やかな個客としてのケアが可能と なり、付加価値の提供につなげることができる。また、 サービス提供者もサービス投入量を事前に最小限に調 整することができる。予測によりサービス生産性の評価 関数に現れるサービス価値とサービス労働投入量を同 時に最適化できる可能性がある。さらに制御では、サー ビス提供者がサービス受容者に影響を与える変数を操 作し(小売サービスでの具体例ではチラシや値引きな ど)、そのサービス需要者の行動(来店行動など)を制 御することで、サービス提供者が持つ最大限のサービ ス提供能力を最小のサービス投入量で実現できる可能 性もある。 そのための方法論として我々は大規模データと消費 者行動モデルを融合する、データ同化型サービスシミュ レータの開発に取り組んでいる。そこには、顧客の行 動履歴から発生する大規模データと顧客の認知構造を 取り入れた消費者行動モデルを機械学習と統計的モデ リングの手法を用いることで、データ同化的にサービ スの顧客行動シミュレータを構築するものである。そ のためには課題として、消費行動に影響を与える変数 や境界条件の洗い出しを行い、消費者行動研究の知見 に基づく消費者認知構造の計算モデル化を行う必要が ある。またその発展として、状況依存性も含めた購買 行動の計算モデル化を行う。そこでは、プロスペクト 理論などの消費者心理を反映する心理学的な知見を取 り入れる必要がある。大規模データからの確率的な因 果関係抽出も有効なデータとモデルの融合のために必 要となるであろう。加えて、大規模実データを提供し てくれる企業との共同研究や大規模なアンケート調査 などを行う必要もある。6
おわりに
本発表では実サービス現場で観測される顧客行動大 規模データを活用するための消費者行動モデリングに ついて述べた。日本は製造業に比べサービス業の生産 性の低さが指摘されており、今後は属人的ではなく科 学的・工学的見地に基づいたサービス生産性の向上が 必要とされるだろう。顧客行動モデルと大規模実デー タを統合し両者のフィードバックによる実サービスへ の有効活用を行うための研究は近年始まったばかりで あり、サービス生産性向上の必要性からも今後はます ます研究が盛んになるであろう。参考文献
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