Author(s)
井村, 弘子
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(7): 87-97
Issue Date
2006-03-31
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/6131
沖縄大学人文学部紀要第7号2006
介護支援専門員の抱えるストレスとバーンアウト
井村弘子 要約本研究は,介護支援専門員(ケアマネージャー)のバーンアウトの実態を検討
したものである。バーンアウト尺度の因子分析の結果,先行研究と同様,個人的
達成感,脱人格化,情緒的消耗感の3因子が抽出された。また,バーンアウト因
子得点と職場環境因子(同僚葛藤,上司葛藤,職務葛藤)得点との重回帰分析の
結果,同僚葛藤や職務葛藤は情緒的消耗感や脱人格化傾向を強め,上司葛藤は個
人的達成感を衰退させることがわかった。職場の雰囲気とバーンアウト得点との
間にも有意な相関が見られた。さらに,施設介護職員を対象とした調査結果(井
村,2005)との比較では,介護支援専門員のバーンアウト得点は有意に高いこ
とが示され,介護支援専門員の抱えるストレスの強さが明らかになった。
キーワード:介護支援専門員(ケアマネージャー),ストレス,バーンアウト
との連絡調整等を行う者であって,要介護者 等が自立した日常生活を営むために必要な援 助に関する専門的知識及び技術を有する者」 と定められている。このように,利用者の自 己実現を果たすために必要な社会資源やケア プラン作成についての専門的な知識,利用者 の権利擁護や関係機関・事業所との連絡調整に関する援助技術を持った専門職と位置づけ
されているのが介護支援専門員である。 しかしながら,現状では,サービス利用者 の増加にともない介護支援専門員は多忙を極め,-人当たりの担当件数増加,支援困難ケ
ースへの対応苦慮,主治医等との連携不足,担当者会議の時間確保不十分等がたびたび問
題視されてきた。介護保険法は2005年に大幅 に改正(2006年4月施行)され,介護支援専門員についても上記の諸問題を改善し,本来
のケアマネジメントが実現できるよう,資質 の向上,独立性・中立性の確保等を図るため, そのあり方が様々な面で見直されることにな っている。 ところで,医療・福祉・教育などの現場に 携わる対人援助職のメンタルヘルスに関して, 心身のストレスが高じると「バーンアウト 1問題と目的 社会福祉の現場において,近年「ケアマネ ジメント」という援助方法が注目されている。 ケアマネジメントとは,「利用者の生活課題と 社会資源とを調整,あるいは結びつけること により,地域での生活を継続的に支援してい くこと」(白澤他,2002)と定義されており, 利用者の立場に立ち,様々なニーズに応じて 必要なサービスをコーディネートしながら支 援していく援助技法であると言える。 わが国では,急速な高齢化問題への対応策 の一つとして,2000年から介護保険制度が始 動した。介護保険制度の目的は,「要介護者」 又は「要支援者」が,尊厳を保持し,能力に 応じ自立した日常生活を営むことができるよ う,「保健医療サービス」及び「福祉サービス」 の給付を行うことである。介護保険制度はケ アマネジメントを介護支援サービスとして制 度の中に組み込み,その担い手として介護支 援専門員(ケアマネージャー)を創設した。 介護支援専門員は,介護保険法において,「要介護者等からの相談に応じ,及び要介護者
等がその心身の状況等に応じ適切な居宅サー ビス又は施設事業を行う者,介護保険施設等 -87-(burnout;燃え尽き)」が起こりやすいこと がしばしば問題にされてきた。マスラック (Maslach,1976)は,バーンアウトを「長期 間にわたり人を援助する過程で心的エネルギ ーが絶えず過度に要求された結果,極度の心 身の疲労と感情の枯渇を生じる状態」と定義 し,バーンアウト尺度を作成した(Maslach eta1.,1982)。 井村(2005)は,特別養護老人ホームに勤 務する介護職員を対象とし,日本語版バーン アウト尺度(田尾・久保,1996)を用いて職 場環境とバーンアウトとの関連性を検討した。 その結果,仕事の煩雑さや責任範囲のあいま いさなどの職務葛藤,上司・同僚等との人間 関係による葛藤,さらには職場の雰囲気など がバーンアウトの生起に影響していることが 明らかになり,勤務条件の整備や職場内の円 滑な対人コミュニケーション,仕事に対する 自律性などを促進していくことが,バーンア ウトの防止・軽減につながることを示した。 一方,「介護支援専門員の業務実態と意識に 関する調査研究報告書」(全国介護支援専門員 連絡協議会,2004)によれば,介護支援専門 員は,様々な業務に忙殺されて,利用者宅へ の訪問や担当者会議の開催など重要な業務が 十分にできていないことに悩み,制度や経営 上の課題が多いことから,現状では利用者本 位の公平・中立なケアマネジメント実践の困 難性に苦悩している実態が報告されている。 介護保険制度が社会に定着する途上にある現 在,変動的な体制の中で高齢者へのケアマネ ジメント業務を担っている介護支援専門員は, 様々な矛盾や困難にさらされ,多くのストレ スを抱えているのではないかと推察される。 本研究は,介護支援専門員のバーンアウト の実態について調査・分析した上で,介護支 援専門員の抱えるストレスの現状を検討する ことを目的とする。 設,介護老人保健施設,介護療養型医療施設), 居宅介護支援事業所等に勤務する介護支援専 門員。 (2)調査の手続き 2005年7月~8月にかけて沖縄県内4か所 で開催された「介護支援専門員(ケアマネー ジャー)研修会」の参加者で,調査趣旨に理 解を示してくれた117名の介護支援専門員に 調査を依頼した。調査は無記名で回答しても らい,研修会終了後に回収した。バーンアウ ト質問項目で回答欠損のない110名分を分析 の対象とした(有効回答率94.0%)。 (3)調査票の構成 調査票は井村(2005)とほぼ同様の内容で あり,以下の5部構成である。 ①回答者の属`性に関する項目 性別・年齢・介護支援職経験年数・勤務 形態・職位・転職希望の有無について選択 肢の中から1つ選んで回答してもらった。 ②バーンアウト尺度項目 日本語版バーンアウト尺度(田尾・久保, 1996)の17項目について,最近6か月間の 経験頻度を「ない」~「いつもある」の5 件法で評定してもらった。 ③職場ストレスに関する項目 職務状況,上司・同僚との関係などに関 する16項目について,最近6か月間の経験 頻度や各自の感想を「思わない」~「いつ もそう思う」の5件法で評定してもらった。 「同僚」については「他の職場に勤務する同 業者」も含めることとした。 ④職場の雰囲気に関する項目 職場の雰囲気等に関する4項目について, 最近6か月間の各自の感想を「思わない」 ~「いつもそう思う」の5件法で評定して もらった。 ⑤自由記述欄 業務遂行上の困難点や課題,ストレスへ の対処法などに関して各自の意見や感想を 自由に記述してもらった。 2方法 (1)調査対象 沖縄県内の介護保険施設(介護老人福祉施 -88-
井村:介護支援専門員の抱えるストレスとバーンアウト 表1バーンアウト尺度の因子負荷量(promax回転後) 因子 IⅡⅢ 質問項目 個人的達成感(α=、79) 仕事が楽しくて、知らないうちに時間がすぎることがある。 今の仕事に、心から喜びを感じることがある。 仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある。 この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。 われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。 われを忘れるほど仕事に熱中することがある。 脱人格化(α=、74) 出勤前、職場に出るのが嫌になって家にいたいと思うことがある。 自分の仕事がつまらなく思えて仕方のないことがある。 -日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある。 同僚や利用者と、何も話したくなくなることがある。 今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。 仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。 情緒的消耗感(α=、79) 体も気持ちも疲れ果てたと思うことがある。 仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。 、780 .675 .636 .632 .618 .472 600038 060633 111001 ●■●●●● 一一 -.110 .009 -.196 .045 .080 .211 384793 720032 110200 ●●●●●● 一一 265399 245165 001130 ●●●●●● 一一 一一 、724 .714 .553 .536 .503 .476 1.036 .578
慨「墨:
に保っていることが確認された。 3結果 (1)バーンアウト項目の因子構造 17の質問項目を用いて因子分析(一般化し た最小二乗法,固有値1以上の基準で因子数 決定,プロマックス回転)を行った。2つの 因子で因子負荷が0.35以上を示した3項目 (「こんな仕事もうやめたい」と思うことがあ る,こまごまと気配りすることが面倒に感じ ることがある,同僚や利用者の顔を見るのも 嫌になることがある)を削除し,再度,因子 分析(一般化した最小二乗法,3因子,プロ マックス回転)を行った結果を表1に示した。 第1因子は「個人的達成感」,第2因子は 「脱人格化」,第3因子は「情緒的消耗感」が 抽出され,先行研究とほぼ同じ構造が再現さ れた。また,信頼性検討のため,因子別のク ロンバックのα係数を求めると,第1因子 「個人的達成感」(6項目.79),第2因子「脱 人格化」(6項目74),第3因子「,情緒的消耗 感」(2項目79)となった。これらの結果か ら,各因子の尺度としての内的整合'性を十分 なお,表1で因子の負荷量が0.4以上とな った項目得点を因子別に加算し,各因子の項 目数で割った数値をバーンアウト3因子(個 人的達成感,脱人格化,』情緒的消耗感)のそ れぞれの得点とし,(2)~(5)の介護支援専 門員のバーンアウトに関する分析に供するこ ととした。 (2)個人属性とバーンアウト得点 調査対象者の特徴は以下のとおりである。 女性が圧倒的に多く(83.6%),半数以上 (64.5%)が40歳以上であった。また,介護 支援職経験年数は,「介護支援専門員」の資格 制度が発足して間もないこともあって,半数 以上の者(60.9%)が3年未満である。勤務形 態は常勤の正職員(85.5%),管理職(718%) として勤務している者が多い。さらに半数 の者(59.4%)には転職希望はなく,現状維 持を望んでいるが,介護支援職への転職(他 の職場への異動)希望のある者(11.9%)や, -89-表2個人属性ごとのバーンアウト得点 個人属性 脱人格化 MSDN 個人的達成感 MSDN 情緒的消耗感 MSDN 性別 男性 女性 年齢 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60歳以上 経験年数 2年未満 2~3年 4~5年 5年以上 勤務形態 常勤(正職員) 非常勤・パート 職位 管理職 一般職員 転職希望 転職希望なし 他の介護支援職へ転職希望 介護支援職以外へ転職希望 2.0 2.1 0.57 0.72 18 92 2.70.89 2.40.66 18 92 2.9 3.2 1.03 1.07 18 92 6190 ●●●● 2212 3766 5860 ●●●● 0000 27920 342 9536 ●●●● 2222 0.11 0.63 0.67 0.88 27920 342 5114 ●●●■ 3333 0.71 1.03 1.10 1.06 27920 342 0018 ●●GB 2221 0.78 0.67 0.68 0.63 4312 3322 4466 ●●●● 2222 0.73 0.57 0.88 0.62 4312 3322 0309 ●●●● 3332 1.16 0.92 1.04 1.10 4312 3322 2.1 1.8 0.70 0.64 94 16 2.5 2.3 0.73 0.45 94 16 3.2 3.1 1.08 0.96 94 16 2.0 2.1 0.62 0.72 31 79 2.70.86 2.40.61 31 79 3.2 3.2 1.04 1.08 31 79 823 ●●● 122 0.61 0.68 0.75 029 612 663 ●●● 222 0.74 0.78 0.56 029 612 868 ●●● 233 098 100 1.01 029 612 表中の数字は、M:平均値SD:標準偏差N:人数である。 介護支援職以外への転職の希望のある者 (28.7%)もいる。属性ごとのバーンアウト得 点の平均値を示したものが表2である。 職位別のバーンアウト得点では,個人的達 成感に有意差(F=463,P<、05)が認められ, 管理職よりも一般職の方が個人的達成感の低 下が大きい傾向が示された。 また,転職希望別のバーンアウト得点では, 脱人格化と情緒的消耗感の得点で転職希望間 に有意差が認められた(脱人格化;F=5.53, P<、01,情緒的消耗感;F=102,P<、1)。下 位検定の結果,脱人格化では,現状維持群と 介護支援職外転職希望群との間に5%水準で有 意な差が認められ,‘情緒的消耗感では,3群 間の差はどの比較でも5%水準で有意となっ た。 (3)職場環境項目の因子構造 16の質問項目(同僚との関 16の質問項目(同僚との関係に関する2項 目上司との関係に関する3項目は逆転項目 であるため,逆転させた数値を入力)を用い て因子分析(一般化した最小二乗法,固有値 1以上の基準で因子数を決定,プロマックス 回転)を行った。複数の因子で因子負荷が 0.35以上を示した項目と因子負荷が035以下 の項目を削除し,再度,因子分析(一般化し た最小二乗法,3因子,プロマックス回転)を 行った結果,3つの因子を抽出した。この因子 分析結果を表3に示した。 第1因子は,「仕事のやり方や進め方につい -90-
井村:介護支援専門員の抱えるストレスとバーンアウト 表3職場環境要因の因子負荷量(promax回転後) 因子 ⅡⅢ 質問項目 同僚葛藤(α=、79) 仕事のやり方や進め方について同僚と相談できる。* 職場で何か困ったことがあれば同僚が助けてくれる。* 仕事上の悩みについて同僚に相談できない。 同僚から仕事を無理に押しつけられる。 上司葛藤(α=、81) 上司は私の意見をよく聞いてくれる。* 職場で何か困ったことがあれば上司が助言してくれる。* 上司は職員に平等に接してくれる。* 仕事のやり方や進め方について上司と意見が食い違う。 職務葛藤(α=、67) いくつもの仕事を同時にしなければならない。 直接利用者とかかわらない事務的な仕事が多い。 仕事の範囲があいまいである。 、849 .827 .706 .441 1764 0055 0000 ●●●● 一一一 -.175 .014 .170 .285 、798 .767 .757 .611 -.081 .013 -.056 .254 、159 .169 -.088 -244 838 .577 .516 -.151 .145 .057 、040 -066 .107 *は、逆転項目 項目であることから,第3因子を「職務葛藤 因子」とし,これらの項目を加算して項目数 3で割った値を「職務葛藤」得点とした。 また,信頼性を検討するために因子別の クロンバックのα係数を求めたところ,第1 因子「同僚葛藤」.79,第2因子「上司葛 藤」.81,第3因子「職務葛藤」.67,であり, 各因子の尺度としての内的整合性は,ある程 度確認された。 て同僚と相談できる(逆転項目)」「職場で何 か困ったことがあれば同僚が助けてくれる (逆転項目)」「仕事上の悩みについて同僚に相 談できない」「同僚から仕事を無理に押しつけ られる」同僚とのトラブルに関する項目であ ることから,第1因子を「同僚葛藤因子」と し,これらの項目を加算して項目数4で割っ た値を「同僚葛藤」得点とした。 第2因子は「上司は私の意見をよく聞いて くれる(逆転項目)」「職場で何か困ったこと があれば,上司が助言してくれる(逆転項目)」 「上司は職員に平等に接してくれる(逆転項 目)」「仕事のやり方や進め方について上司と 意見が食い違う」の4項目の因子負荷量が高 い。これらの項目は,上司とのトラブルに関 わる項目であることから,第2因子を「上司 葛藤因子」とし,これらの項目を加算して項 目数4で割った値を「上司葛藤」得点とした。 第3因子は「いくつもの仕事を同時にしな ければならない」「直接利用者とかかわらない 事務的な仕事が多い」「仕事の範囲があいまい である」の3項目の因子負荷量が高い。これ らの項目は,職務に関して困難と感じている (4)職場環境とバーンアウト バーンアウトの生起に関わる職場環境の要 因を確認するために,バーンアウト因子の得 芦点それぞれを従属変数,職場環境因子の得点 を独立変数として重回帰分析(一括投入)を 行った。表4に,標準偏回帰係数を示した。 個人的達成感については,「上司葛藤」が 有意な負の影響力を持つことがわかった (t=-.2.27,P<、05)。 脱人格化関わる要因は,影響力の強い順に, 「職務葛藤」(t=3.44,P<01),「同僚葛藤」 (t=2.43,P<、05),「上司葛藤」(t=2.04,P<、05) という結果が得られた。 -91-
表4バーンアウト得点を従属変数とする重回帰分析(標準偏回帰係数) 職場環境因子 バーンアウト 個人的達成感脱人格化 情緒的消耗感 、348*** 、144 .287** 同僚葛藤 上司葛藤 職務葛藤 説明率(R2) 、040 -.237* 、105 225* 188* 、297** ,053 260 、325 *p<、05**p<01***p<、001 表5職場の雰囲気とバーンアウトとの間の相関係数 職場の雰囲気に関する質問項目 ( 個人的達成感 ンアウト 脱人格化情緒的消耗感 職場はあたたかくてなじみやすい雰囲気である。 、067 -210* -.335** 職場で自分の考えや工夫をいかすことができる。 247** -.229* -209* 職場には気軽に意見が言える雰囲気がある。 、158 -.365** -872** 仕事を通して自分が成長できる。 、349** -.215* -.045 *p<05**p<、01 バーンアウト尺度の因子分析において施設介 護職員(n=341)と介護支援専門員(n=110) 双方で抽出された因子に共通の項目(個人的 達成感6項目脱人格化4項目’情緒的消耗 感2項目)の得点を分析の対象とし,因子ご とに加算して各項目数で割った数値をそれぞ れのバーンアウト得点とし,図1に示した。 各得点の平均値の差についてt検定を行った 結果,個人的達成感と情緒的消耗感について は,1%水準での有意差が見られた(t=5.62, df=449,P<、01;t=2.81,df=449,P<,01)。 同様の手順で施設介護職員と介護支援専門 員の職場環境得点(同僚葛藤4項目上司葛 藤4項目,職務葛藤3項目)を求め,その比 較を行った(図2)。各得点の平均値の差につ いてt検定を行ったところ,職務葛藤得点につ いてのみ有意差が(t=409,df=449,P<、01)見 られた。 一方,情緒的消耗感は,「同僚葛藤」 (t=3.94,P<001),「職務葛藤」(t=3.49,P<、01) の影響力が強いことが示された。 (5)職場の雰囲気とバーンアウト 職場の雰囲気とバーンアウトとの関連を調 べるために,両者の相関係数を求め,その値 を表5に示した。 職場の雰囲気に関する質問項目得点とバー ンアウト3因子得点との間には,それぞれ 1%~5%水準で有意な正(個人的達成感) 又は負(脱人格化,‘情緒的消耗感)の相関が 認められた。 (6)施設介護職員との比較 施設介護職員と介護支援専門員のバーンア ウト得点の比較を試みた。施設介護職員につ いては,井村(2005)の調査データを用い, -92-
井村:介護支援専門員の抱えるストレスとパーンアウト 3.5 3 2.5 2 □施設介護職員 圖介護支援専門員 1.5 1 0.5 0 個人的達成感脱人格化情緒的消耗感 図1施設介護職員*と介護支援専門員のバーンアウト得点 *井村(2005)のデータから算出 3.5 3 2.5 □施設介護職員 図介護支援専門員 2 1.5 1 0.5 0 同僚葛藤上司葛藤職務葛藤 図2施設介護職員*と介護支援専門員の職場環境葛藤得点 *井村(2005)のデータから算出 (7)自由記述欄の内容 25名の介護支援専門員から回答が得られ た。記載内容(一部については筆者がまとめ たもの)は以下のとおりである。 ケアプラン作成やカンファレンス,モニ タリングに十分に時間をかけられない。 施設勤務であり,兼任業務(相談員など) と本来業務(ケアマネジメント)の兼ね 合いが難しい。どちらも中途半端になり がちである. 勤務時間内に業務が終了しないので,残 《業務量や多忙に関する記述》 ’担当しているケース数,業務量が多く, -93-
業や休日出勤を余儀なくされている。自 宅に持ち帰る仕事が増えた。 他職種との業務の役割分担があいまいで ある。雑多な仕事を押しつけられている ような気がする。 年中自転車操業の状態で,仕事のことが いつも頭から離れない。 サービス提供事業主,主治医などの理 解・協力が得られないことが多い。 他職種との連携の取り方がうまくいかな いと,ストレスを感じることがある。 研修会)での1情報交換や,同業者間で愚 痴をこぼしたりすることがストレス解消 につながっている。 ● 《要望・その他》 ・研修会を頻繁に開催してほしい。 ・日常業務について情報交換ができる交流 会・連絡会があればいいと思う。 ・援助困難事例検討や,アセスメントの方 法など,実務に即結びつくような具体的 な研修を実施してほしい。 ・離島で勤務し,研修等の機会が少ないの ではないかと心配していたが,むしろ同 業者問の連帯は非常に強く,支えになっ ている。研修会も毎月1回確実に開催さ れており,たいへん心強く感じている。 《利用者等に関する記述》 ・ケアプランやサービスの内容を利用者の 家族に説明する際,なかなか理解しても らえない。家族から苦`情を持ち込まれる。 ,家族の要望と利用者の意向調整が,思う ようにいかない。 ,家族関係がうまくいっていない場合,家 族のトラブルに巻き込まれそうになり, 非常にストレスを感じる。 4考察 疲れ果ててもう働けない,といった「’情緒 的消耗感」が高じ,クライエント(利用者等) と必要以上に距離を取ったり熱心に関わるこ とを避けたりするようになる「脱人格化」が 進むと,かつては仕事から得られていたはず の「個人的達成感」の衰退が起こる。このよ うな一連の感情・行動の変化がバーンアウト 症状である。 日本語版バーンアウト尺度(田尾・久保, 1996)を用いて介護支援専門員のバーンアウ ト構造を検討した結果,個人的達成感,脱人 格化‘情緒的消耗感の3因子が抽出された。 因子間相互の関連性に若干問題は残したが, 本研究においても,マスラックら(Maslach etaL,1982)が定義した3因子とほぼ同じ構 造が再現されたと考えられる。 介護支援専門員のバーンアウト3因子それ ぞれの得点を算出し,属↓性ごとにバーンアウ ト得点を検討したところ,属性間で有意差が 見られた項目は,職位別の個人的達成感(管 理職>一般職),転職希望別の脱人化(介護支 援職外転職希望>現状維持)と,転職希望別 の情緒的消耗感(介護支援職外転職希望>介 護支援職内転職希望>現状維持)であった。 《仕事のやりがいや喜びに関する記述》 .どんなにつらくとも,人の役に立つ仕事 だと考えて,乗り切っている。 ・利用者や家族の笑顔,感謝の言葉などを 糧にしている。 ・困難なことも多いが,たいへんやりがい を感じる仕事である。 ,他職種と連携してケアできたときに充実 感を味わう。 《ストレス解消法等に関する記述》 ・仕事とプライベートの時間を意識的に分 けるようにしている。 ・趣味の時間,一人で過ごす時間を大切に している。 ・介護支援専門員が-人しか配置されてい ない「一人職場」なので,他の職場の同 業者へ電話をし,相談に乗ってもらった り,アドバイスを受けたりしている。 ・月例会(毎月開催されるケアマネジヤー -94-
井村:介護支援専門員の抱えるストレスとバーンアウト 気のある職場で,自分の考えや工夫を活かし たり気軽に意見を言ったりすることができ, 仕事を通して自分が成長できると感じている 人は,総じてバーンアウト得点は低かった。 カラセクら(Karasek,eta1.,1990)が提唱 した「JDCモデル(Jobdemands-control model)」が示すように,メンタルヘルスの維 持には職場における自律性が重要と考えられ る。それに加えて,受容的で自由に発言でき る雰囲気などを確保していくことが,バーン アウト防止・軽減につながると言えよう。 なお,施設介護職員を対象とした調査結果 (井村,2005)との比較では,介護支援専門 員のバーンアウト得点は有意に高いことが示 され,介護支援専門員の抱えるストレスの強 さが明らかになった。ただし,施設介護職員 と介護支援専門員はどちらも高齢者の介護支 援に関わる仕事に従事しているが,職務の内 容・勤務形態・資格取得の方法やそれまでの キャリアなど,様々な面で相違点も多い。特 に,施設内で勤務する介護職員と,要介護者 宅への訪問や関係機関とのやり取りが業務に 含まれる介護支援専門員にとって,「職場環境」 の範囲や意味づけは大きく異なるため,バー ンアウト生起の背景について同じ要因だけで 論じることは難しい。また,多くの介護支援 専門員が介護保険施設や居宅介護支援事業所 に所属して活動していることから,所属する 法人等の利益とサービスを受ける利用者の利 益との板ばさみに合い,公平・中立な立場を 保ちながら業務を遂行することが困難である といった,現行の制度下における介護支援専 門員が抱えているジレンマの特殊性も看過で きない。 一方,対人援助職のストレスは人間関係か ら発することが多いが,ストレスを感じてい る人に支援の手を差し伸べる機能もまた,人 との関係の中にある。支えてくれる人間関係 (ソーシャル・サポート)がストレスの影響を 緩和し,ストレスに対処する力を与え,心身 の健康を維持・促進することは,近年の研究 から明らかにされている(浦,1992)。本調 一般職の方が管理職よりも個人的達成感が 衰退しやすい(バーンアウトしやすい)傾向 が示されたことについては,異なる立場・役 割・待遇等が,仕事に対する責任感や動機づ けの違いを生じさせ,そのことが職務上の満 足感や達成感の相違につながる可能性がある と考えられよう。 転職希望別のバーンアウト傾向については, 看護婦(師)を対象とした久保ら(1994)の 研究,施設介護職員を対象にした井村(2005) の調査などでも同様の結果が示されている。 先行研究同様,介護支援専門員においても, 「現状維持希望」から「今の職場(部署)を変 わりたい」,「今の仕事をやめたい」というよ うに離職希望の程度が高じるにつれて,バー ンアウト得点も高くなっていくことが明らか になった。 次に職場環境要因に関する因子分析の結 果,バーンアウトに関わりの深い要因として, 同僚の理解・援助不足や同僚とのトラブルに 関する「同僚葛藤」因子,上司の部下に対す る受容・理解不足や上司とのトラブルにまつ わる「上司葛藤」因子,職務上の困難`性に関 する「職務葛藤」因子の3因子を抽出した。 バーンアウト3因子の得点それぞれを従属 変数,職場環境3因子の得点を独立変数とし て重回帰分析を行った結果,個人的達成感 (衰退)については「上司葛藤」が,脱人格 化には「職務葛藤」が,’情緒的消耗感は「同 僚葛藤」と「職務葛藤」が,それぞれ関連性 が強いことが示された。 ブルッキングスら(Brookigs,eta1.,1985) は,情緒的消耗感と脱人格化は職場環境がス トレッサーとなって生起する感情であり,個 人的達成感の衰退はサービス関係(利用者と の関係など)の中から喚起される感情である として,両者を区別して論じている。本研究 の結果もバーンアウト3因子を引き起こす背 景要因がそれぞれ異なる可能性が示されたが, 詳細については今後の分析が必要である。 さらに,職場の雰囲気とバーンアウトとの 関連を見ると,あたたかくなじみやすい雰囲 -95-
査回答者の自由記述欄の内容を見ると,個人 的に交流のある同業者との良好な関係や,地 域内での研修・連絡会等を通して築いた同業 者間のネットワーク等がソーシャル・サポー ト源となり,ストレス緩和に効果的であるこ とを示唆する記述が散見される。 以上の点を考慮すると,介護支援専門員の バーンアウト生起の背景要因や,その防止・ 低減策を考えていくためには,クライエント (要支援・要介護者やその家族等)や関係機関 (サービス提供事業主や主治医等)との関係, 職業的倫理上のジレンマ,ソーシャル・サポ ートとの関連などを加えたより詳細な検討が 必要である。勤務実態に見合った新たな調査 項目を設定し,介護支援専門員の業務遂行上 の困難`性とメンタルヘルスとの関連を分析し ていくことは,今後の課題である。 マネジメント中央法規 田尾雅夫1995ヒューマン・サービスの組 織一医療・保健・福祉における経営管理一 法律文化社 田尾雅夫・久保真人1996バーンアウトの 理論と実際誠信書房 浦光博1992支えあう人と人一ソーシャ ル・サポートの社会心理学一サイエンス 社 牛越博文2005介護保険のしくみ日本経 済新聞社 全国介護支援専門員連絡協議会(編)2004 介護支援専門員の業務実態と意識に関する 調査報告書 謝辞 調査にご協力いただいた介護支援専門員の 方々に,心からお礼申し上げます。 文献 Brooking,』.B,Bolton,B、,Brown,CE.,& McEvoy,A1985Self-reportedjob burnoutamongfemalehumanservlce professionaLjOurnaIq/UccUpationaI Behauior,6143-150. 井村弘子2005介護職員のメンタルヘル スー職場環境とバーンアウトとの関連一 沖縄大学人文学部紀要第6号79-89. Karasek,R、A、,&TheorelLT、l990HealthU Luork:stress,producttDttuandthe reconstructionq/morkmgl旅.New York:BasicBooks・ 久保真人2004バーンアウトの心理学一 燃え尽き症候群とは-サイエンス社 Maslach,C・l976Burned-out、Human Behavior,5,16-22. Maslach,C、,&Jackson,SE・l982The MqsIachBurnoutInDentorg・Palo A1to,CA:ConsultingPsychologistsPress・ 清水隆則・田辺毅彦・西尾祐吾2002ソー シャルワーカーにおけるバーンアウトーそ の実態と対応策一中央法規 白澤政和・渡辺裕美・福富昌城2002ケア -96-
Stress and Burnout in Care Managers
Hiroko IMURA
Abstract
Factors related to burnout in care managers were investigated. Similar to preceding studies, factor analysis of a burnout scale extracted three factors: personal accomplishment, depersonalization, and emotional exhaustion. Multiple regression analysis of the burnout factor and the office environment factor (conflicts with colleague, conflicts with boss, and job conflicts) indicated that conflicts with colleague and job conflicts increased emotional exhaustion and depersonalization, whereas conflicts with the boss decreased personal accomplishment. Moreover, significant correlations were found between the office atmosphere and the burnout score. It was also shown that the burnout score of care managers were significantly high compared to that of care workers in nursing home for the aged, as indicated in a preceding study (Imura,2005). These results suggest that care managers have considerably stress.
Key words: care manager, stress, burnout