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選挙公平性への信頼低下 -- トルコ (特集 選挙の風景)

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(1)

選挙公平性への信頼低下 -- トルコ (特集 選挙の

風景)

著者

間 寧

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

251

ページ

18-21

発行年

2016-08

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00002891

(2)

  トルコは一九二三年の共和制樹 立から一九四六年まで共和人民党 による一党制を続けたが、一九四 五年に複数政党制に移行、一九四 六年総選挙から実施された。同総 選挙では共和人民党が集票操作な どによりかろうじて政権を維持し たが、次の一九五〇年総選挙では 民主党への政権交代が起きた。同 選挙直前に導入された選挙管理制 度は、ほぼその原型を保ったまま 現在まで続いている。同制度は以 下でみるように、中央での選挙管 理と地方での選挙管理長を司法府 が握り、主要政党が(得票率と関 係なく)平等に選挙管理と監視に 関わる仕組みになっている。

  選挙基本規定と選挙人名簿に関 する法律二九八号(一九六一年成 立)によると、選挙管理は、最高 選挙委員会、県選挙委員会、郡選 挙委員会、投票所委員会という階 層構造で行われる。最高選挙委員 会の委員には、最高裁判所と最高 行政裁判所から互選される一一名 (さらに委員長を選出) 、県選挙委 員会の委員には県庁所在地勤務で 最高職位の判事三名(うち最高職 位 者 が 委 員 長 )、 郡 選 挙 委 員 会 の 委員長には郡勤務で最高職位の判 事が就き、同委員は主要政党(直 近総選挙での郡得票率を基準)が 推薦する候補のなかからくじ引き で決まる。   投票所委員会の委員長は郡選挙 委員長が推薦する候補と主要政党 が推薦する候補から (投票所別に) くじ引きで決まる。同委員一二名 ( う ち 六 名 が 補 欠 ) は、 主 要 政 党 が推薦する候補から、および地区 会と村会の議員から、別々のくじ 引きで決まる。これとは別に、主 要政党と無所属候補は投票立会人 を一名ずつ送ることができる(投 票立会人が多い場合はくじにより 三名までが投票箱前に、それ以外 は投票所内に配置される) 。

  このように少なくとも形式的に は司法的独立性を持ち、政党間競 合を管理・監視に取り込んだ選挙 管理制度が導入された一九五〇年 以降、選挙不正が大きく取り上げ られることはあまりなかった。し かし最近では、選挙の公平性への 信頼が低下している。アリ・チャ ルクオールらが直近三回の総選挙 の直前に実施した全国アンケート 調査結果によれば、 該当選挙が 「公 平 に 行 わ れ る 」( 四 段 階 評 価 で 上 位 二 項 目 比 率 合 計 ) と の 回 答 は、 二〇〇七年、二〇一一年、二〇一 五年で、七〇%から、五七%、四 八%とかなり低下した(参考文献 ①) 。   それは親イスラムの公正発展党 ( A K P ) が 長 期 政 権 下 で 自 党 に 有利に選挙区を改変したこと(特 に 二 〇 〇 八 年 三 月 の 市 政 法 改 定 ) やメディアに対して(公共事業入 札での優遇というアメ、 新聞記者 ・ 編 集 者 解 任 圧 力 と い う ム チ に よ り)特に二〇一三年五~六月のゲ ジ抗議運動以降、支配を強めてき た こ と と 無 関 係 で は な い。 二〇〇二年以前は、選挙ごとに政 権交代が頻繁に起きていたうえに 連立政権が多かったため(表1) 、

特集

選挙の風景

選挙公平性

信頼低下

有権者は投票用紙の○のところに EVET(はい)という印を押す(By Maurice Flesier - 投 稿 者 自 身 に よ る 作 品 , CC 表 示 - 継 承 4.0, https://

(3)

特定の政党に有利な選挙区割りや メディア支配を行うことは難しか った。

  最近の選挙では、選挙戦での不 平等に加え、政府による介入や野 党への妨害を疑わせる事態も生じ ている。二〇一四年三月三一日統 一地方選挙では複数の選挙区で投 票日に停電が発生、タネル・ユル ドゥズ・エネルギー天然資源相は、 変電所に猫が侵入したためと説明 し た( 参 考 文 献 ② )。 二 〇 一 五 年 六 月 七 日 総 選 挙 で は( 参 考 文 献 ③ )、 躍 進 が 見 込 ま れ て い た ク ル ド系、人民の民主党(HDP)へ の妨害とみられる襲撃が多発、そ の数は選挙運動期間開始の二月一 日から五月一八日までにおきた政 党 選 挙 運 動 を 狙 っ た 襲 撃 総 件 数 一六二の四分の三を占める一二三 件に達した(参考文献④) 。   なかでも五月一八日にはセラハ ッティン・デミルタシュHDP党 首の遊説が予定されていた国内南 部アダナとメルシンにある同党事 務所に送られた花飾りに仕掛けら れていた時限爆弾が同時爆発、投 票日二日前には南東部ディヤルバ クルでの同党の選挙集会に爆弾が 投 げ 込 ま れ 二 名 が 死 亡 す る な ど ( 後 日、 犯 人 が「 イ ス ラ ム 国 」 と 繋 が り の あ る ト ル コ 人 と 判 明 )、 暴力的な「選挙の風景」が生まれ た。メディアの政府寄り姿勢も強 まっている。二〇一五年一一月一 日総選挙の選挙期間内の二五日間 で国営放送TRTを含む主要一二 テレビ局の生放送時間の一三八時 間がレジェップ・タイップ・エル ドアン大統領、二三八時間がAK P に つ い て 伝 え て い た の に 対 し、 野党についての報道は、世俗主義 の共和人民党(CHP)に三六時 間、トルコ民族主義の民族主義行 動党(MHP)に二一時間、HD Pに六時間しか割かれていなかっ た(参考文献⑤) 。

  トルコにおける選挙の公平性へ の信頼が揺らいでいることは、専 門 家 に よ る 評 価 に も み て 取 れ る。 ピッパ・ノリスが責任者を務める T he E lec to ra l I nt eg rit y Pr oje ct は、二〇一二年七月一日以降(直 近は二〇一五年一二月三〇日)の 世界の選挙における公正さを専門 家 の 評 価 に よ り 指 標 化 し て い る (参考文献⑥) 。それによるとトル コ は 全 世 界 一 三 九 カ 国 の う ち で 一 〇 一 位( 一 〇 〇 位 は マ ラ ウ イ、 一 〇 二 位 は カ メ ル ー ン )、 中 東 北 アフリカ一三カ国のうちでは中央 値の六位(五位はイラン、七位は ヨルダン)である。ではなぜトル コの順位は低いのか(各国の評価 は年別に、該当年に行われたすべ て の 選 挙 に 基 づ い て 行 わ れ る が、 トルコの年別評価は二〇一五年に 関してのみ存在する) 。   その理由は、トルコの値から世 界平均を差し引いた値が大きくマ イナスになっている評価項目とし て 現 れ て い る( 表 2) 。 そ の よ う な 評 価 項 目 投 票 の 公 平 さ( 投 票・ 集計・議席)よりも、投票前の与 野党の選挙活動(立候補・選挙活 動)に関するものに多いことがわ かる。すなわち、政党・候補が政 治放送と広告に平等なアクセスを 与 え ら れ て い な い こ と、 テ レ ビ、 新聞、ジャーナリストの選挙報道 が公平性を欠き与党を優遇してい ること、国家資源が選挙運動のた め に 不 正 に 使 用 さ れ て い る こ と、 などがトルコの該当項目での低評 表 1 トルコ総選挙での与党勝利 総選挙年月 総選挙直後の政権与党 最大与党勝利=■ 1946 共和人民党 1950 民主党 1954 民主党 1957 民主党 1961 共和人民党、公正党 1965 公正党 1969 公正党 1973 共和人民党、国民救済党 1977 共和人民党 1983 祖国党 1987 祖国党 1991 正道党 1995 祖国党,正道党 1999 民主左派党、祖国党、民族主義行動党 2002 公正発展党 2007 公正発展党 2011 公正発展党 2015.6 公正発展党 2015.11 公正発展党 (出所)トルコ総選挙結果より、筆者作成。

(4)

表 2 選挙公平性評価におけるトルコの世界平均からの乖離 トルコ (A) 世界平均(B) (A-B)乖離 評価項目 選挙活動立候補・ 投票・集計・議席 4.3 3.27 1.03 在外有権者投票 ○ 4.39 3.74 0.65 選挙結果公表迅速性 ○ 3.92 3.29 0.63 選挙監視のための社会メディア利用 ○ 4.18 3.8 0.38 投票手続情報 ○ 3.15 2.81 0.34 買票行為がないこと ○ 4.53 4.21 0.32 選挙後に暴力的抗議がないこと ○ 3.73 3.49 0.24 異議の法的手段での解決 ○ 3.85 3.62 0.23 選挙後に非暴力的抗議がないこと ○ 4.02 3.83 0.19 投票手続の簡易性 ○ 3.74 3.6 0.14 野党候補立候補への障害がないこと ○ 2.96 2.82 0.14 有権者登録漏れがないこと ○ 3.22 3.11 0.11 有権者登録での正確性 ○ 3.73 3.71 0.02 投票集計の公正性 ○ 3.56 3.72 -0.16 有権者にとって真の選択が可能 ○ 2.96 3.12 -0.16 政党や候補者は結果を受容 ○ 3.04 3.2 -0.16 非資格者は有権者登録されない ○ 1.36 1.55 -0.2 インターネット投票可能 ○ 3.14 3.34 -0.19 民族的少数派の立候補機会平等 ○ 3.53 3.81 -0.28 政府が市民に対して情報提供 ○ 3.57 3.85 -0.28 国際選挙監視の自由 ○ 2.75 3.08 -0.33 選挙区割り中立性 ○ 3.14 3.54 -0.4 選挙管理委員会の公平性 ○ ○ 2.76 3.16 -0.4 選挙区割りが一部の政党に不利 ○ 3.32 3.72 -0.4 投票箱の保全 ○ 1.63 2.04 -0.41 政党・候補が透明性のある選挙活動収支報告を公表 ○ 2.9 3.31 -0.41 当局が選挙実施の公共監視を許可 ○ 3.36 3.8 -0.44 国内の選挙監視団への規制なし ○ 2.2 2.66 -0.46 政党・候補の公的助成金への平等なアクセス ○ 2.89 3.39 -0.5 政党・候補の選挙集会が自由 ○ 2.7 3.22 -0.52 選挙区割りが現職に有利 ○ 2.91 3.44 -0.53 選挙実施機関の機能評価 ○ ○ 1.8 2.4 -0.56 政党・候補の政治献金への平等なアクセス ○ 2.46 3.07 -0.61 不正投票がないこと ○ 2.63 3.29 -0.66 選挙実施機関の中立性 ○ ○ 2.11 2.8 -0.69 候補選定を党指導部が独占しないこと ○ 2.46 3.19 -0.73 障害者の投票支援 ○ 2.68 3.44 -0.76 女性の被選挙権平等性 ○ 2.83 3.62 -0.79 投票所での暴力の脅威がないこと ○ 1.87 2.87 -1 郵便による投票可能 ○ 1.34 2.42 -1.08 国家資源が選挙運動のために不正に使用されないこと ○ 1.8 2.91 -1.11 ジャーナリストの選挙報道が公平 ○ 1.56 2.7 -1.14 新聞の選挙報道に偏りがない ○ 1.51 2.73 -1.22 テレビニュースが与党を優遇 ○ 1.57 2.83 -1.26 政党・候補の政治放送と広告への平等なアクセス ○ (出所)参考文献⑥より筆者作成。抽象度の高い評価項目を除く。

(5)

価につながっている。これに対し てトルコの評価が比較的高いのは、 在外有権者投票が可能なこと、選 挙結果公表が迅速であること、選 挙監視のために社会メディアが利 用されていることなど、トルコの 選挙手続や技術教育的水準の高さ を反映する項目に限られる。

  選 挙 へ の 信 頼 が 低 下 す る な か、 有 志 が 組 織 化 し て 選 挙 監 視 団 体 「 票 と そ の 先 」( Oy ve Ötesi ) を 結成、二〇一四年三月統一地方選 挙以来、投票呼びかけ運動、候補 者紹介ビデオ作成公開、選挙監視 を行っている。選挙監視の対象は 初回はイスタンブル県のみに限ら れていたが、二〇一五年六月総選 挙では全国八一県のうち四六県の 一七三郡で五万五〇〇〇人のボラ ンティアが(自ら選んだ)政党な いし無所属候補の投票立会人とし て投票監視と集計結果照合を行っ た。   投票監視では、選挙法の規定に 反する行為を記録した。特に多か った事例は、投票者への付添人が 投票を誘導することだった。集計 結果照合では、同団体ボランティ アが記録した投票所単位の集計結 果 を( 中 立 性 を 持 た せ る た め に、 インターネット上での呼びかけに 応じた第三者に入力してもらった う え で )、 最 高 選 挙 委 員 会 が 公 表 した投票所別集計結果と照合した。 これまで同団体が監視した選挙で 組織的な不正行為や前述した二つ の集計結果で不自然な乖離はなか ったことは報告されている(当然 ながら、それが監視効果のためな の か ど う か は 断 定 で き な い )( 参 考文献⑦) 。   このように、トルコではAKP 政権が投票や集計に組織的に介入 してはいないものの、選挙運動や 選挙報道で野党に不利を強いるこ とにより選挙の公平性を損ねてい るとの印象は強まっている。選挙 監視でその存在感を発揮した「票 とその先」が、与党有利に展開す る選挙運動・報道に風穴を開けら れるかどうかは未知数である。む しろ同団体は、市民の政治参加を 多様な領域へ広げること、すなわ ち選挙監視の「その先」を見据え ている(参考文献⑧) 。 ( は ざ ま   や す し / ア ジ ア 経 済 研 究所   中東研究グループ) 《参考文献》 ① A li Ç ar ko ğlu a nd S . E rd em A y ta ç , "H a z ir a n 2 0 1 5 Se çim ler in e G id er ke n K am uo yu D in am ik le ri, " A çık T op lu m V ak fı, 5 M ay ıs 20 15 . h ttp :// w w w .ac ik to plu m va kfi .or g.t r/ t u r k iy e _ k a m u o y u _ arastirmasi_2015-tr.php   ② "E ne rji B ak an ı T an er Y ıld ız : T r a fo y a k e d i g ir d i, " C um hu riy et , 1 N is an 2 01 4. 二〇一五年六月総選挙では猫が 変電所に迷い込まないようにし ようというキャンペーンがイン ターネット上で張られた。 ③ 二〇一五年六月七日と一一月一 日 の 総 選 挙 に つ い て は、 拙 稿、 トレンドリポート「二〇一五年 六月トルコ総選挙――公正発展 党政権の過半数割れと連立政権 模 索 ――」 ( ア ジ 研 ワ ー ル ド・ ト レ ン ド   二 〇 一 五 年 一 〇 月 号 )、 お よ び「 二 〇 一 五 年 一 一 月トルコ総選挙:議会過半数を 取 り 戻 し た 公 正 発 展 党 政 権 」 二 〇 一 五 年 一 一 月( http:// w w w .id e.g o.j p /J ap an es e/ R es ea rc h /R eg io n /M id _e / R ad ar /T ur ke y/ 20 15 11 17 .ht m l ) を参照。 ④ "B iri ko nu ştu b iril er i v ur du ," Cumhuriyet , 19 Mayıs 2015. ⑤ "T R T 'n in p ar til er e ay ırd ığ ı sü re ler a çık lan dı," H ur riy et , 2 7 E ki m 2 01 5. h tt p:/ /w w w . h u rr iy e t.c o m .t r/ tr tn in -pa rt ile re -a yi rd ig i-s ur el er -aciklandi-40006512 ⑥ E lec to ra l I nte gr ity P ro jec t ホ ー ム ペ ー ジ https://sites.google. co m /s ite /e le ct or ali nt eg rit y project4/home ⑦ Oy ve Ötesi ホ ー ム ペ ー ジ http://oyveotesi.org/ ⑧ S e rc a n Ç e le b i, "C iv ic E ng ag em en t in T ur ke y ’ s D em oc ra cy : T he C as e of "O y ve Ö te si, " T ur kis h P oli cy Quarterly, 13(4), Winter, 2015, pp . 7 1-7 8. htt p:/ /tu rk ish po lic y. com/author/620/sercan-celebi 特集:選挙公平性への信頼低下―トルコ―

表 2 選挙公平性評価におけるトルコの世界平均からの乖離 トルコ (A) 世界平均(B) 乖離 (A-B) 評価項目 立候補・選挙活動 投票・集計・議席 4.3 3.27 1.03 在外有権者投票 ○ 4.39 3.74 0.65 選挙結果公表迅速性 ○ 3.92 3.29 0.63 選挙監視のための社会メディア利用 ○ 4.18 3.8 0.38 投票手続情報 ○ 3.15 2.81 0.34 買票行為がないこと ○ 4.53 4.21 0.32 選挙後に暴力的抗議がないこと ○ 3.73 3.49 0.

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