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誰に何を聞けるかは万事塞翁が馬 (フィールドワーク心得帖 第8回)

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Academic year: 2021

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誰に何を聞けるかは万事塞翁が馬 (フィールドワー

ク心得帖 第8回)

著者

渡邉 真理子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

182

ページ

52-53

発行年

2010-11

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00004386

(2)

52

アジ研ワールド・トレンド No.182 (2010. 11)

第8回 渡邉真理子

●  そもそもなぜフィールド・   ワークをするのか   そ も そ も 、 フ ィ ー ル ド ・ ワ ー ク ( 現 地 調 査 ) は 、 な ぜ 必 要 な の だ ろ う か 。( イ ) 報 道 や 発 表 よ り も 早 くリ ア ルな 情 報 が手に 入 れ ら れ る 。( ロ ) 公 開 情 報 や 政 府 統 計 な ど で は 、把 握 で き な い 情 報 を 手 に 入 れ る こ と が で き る 。 ( ハ ) 公 開 情 報 や 政 府 統 計 な ど で は 把 握 で き な い 、 既 存 情 報 の 背 景にある 文 脈 や 構 造 を 探る こ と が で き る 。( ニ ) す で に 指 摘 さ れ て い る 状 況 が 本 当 に 起 き て い る か を 確 認 す る こ と が で き る 。 と い った と こ ろ で あ ろ う か 。 筆 者 は 、と に か く 発 表 さ れ て い な い 情 報 、情 報 の 背 景 に あ る 文 脈 と い う も の を 手 に 入 れ た い 、 と い う 気 持 ち が 強 か っ た 。 中 国 に 関 し て 、当 時 の 報 道 や 関 連 す る 調 査 研 究 な ど の 資 料 を 読 ん で も 、 そ こ で 展 開 さ れ て い る 議 論 は お 題 目 の よ う な も の が 多 く 、結 論 に い たる 論理も 怪 し げ で 何 が 本 当 な の だ ろ う か 、と い う 猜 疑 心 が 募 る ば か り だ っ た か ら で あ る 。 そ も そ も 新 聞 や 論 文 に 書 い て あ る こ と は 、 何 が ど こ ま で 本 当 な の だ ろ う ?   こ れ が 、 現 地 に 行 き た い 思 いを駆 り 立 て た 力 だ っ た 。 そ し て 、 実 際 に 当 事 者 に 話 し を 聞 い て み る と 、 読 ん だ 内 容 ほ ど で も な い 場 合 と 、書 か れている も の よ り も ず っ と すご い 場 合 の 両 方 が あ っ た 。 ●フィールドで何をするのか   で、フィールドに出て何をす る か。 ① 参 与 観 察、 ② イ ン タ ビューや見学、③データ収集の ための面談のように、実は多様 な仕事が選択肢としてはあり得 る。参与観察は、人類学者が採 用することの多い手法で、一定 期間研究対象のそばで活動しな が ら 観 察 を す る 現 地 調 査 で あ る。一番人間力というかコミュ ニケーション能力が試される一 方で、何がどの程度の期間でわ かるかについては、事前には予 測しづらい。不確実性が高く時 間と手間がかかる手法である一 方で、対象者が普段活動してい る現場に入ることで、本人が意 識していない人間関係や行動を 観察することができる。第二の インタビューや見学は、調査の 対象を訪問し、当事者に現場か ら降りた場所で、知りたい課題 について述べてもらう。当事者 の 考 え 方 に 興 味 が あ る 場 合 に は、この手法で十分である(と 参与観察をやってみたいがうま くセットできない自分に、いい わけをしている) 。第三のフィー ルドでのデータ収集とそのため の面談は、ある仮説の可否を確 認する最終的な作業と筆者は考 えている。   筆者自身は、本格的な参与観 察は経験したことがないが、イ ンタビューとデータ収集は連携 させて利用する手法だと意識し ている。ただ、この両者の関係 は二つの方向がある。 ひとつは、 ある仮説が事前にあって、それ を確認するためにデータ収集を 目的として現地に入り、インタ ビ ュ ー で 情 報 を 補 足 す る 方 法。 もうひとつは、現地でどんな問 題が存在しているのか、という 意識で、仮説とその問題の構造 そのものを探すためにまずイン タビューを行い、そこで構築さ れた仮説を確認するためにデー タ 収 集 を 後 で 行 う 方 法 で あ る。 前者は、課題が与えられその仮 説の可否を確かめることが主眼 と な り、 効 率 的 な 手 法 で あ る。 しかし、発展途上国の営みの中 に 埋 ま っ て い る 宝 を イ ン タ ビューで掘り起こし、データ収 集 で 磨 き 出 す、 と い う 後 者 は、 より贅沢な方法のように思う。 ●どうやったら 宝を掘り当てられるのか?   では、宝を掘り当てるにはど うしたらいいのか。筆者の経験 を振り返って考えると、まさに 「 人 間 万 事 塞 翁 が 馬 」 と い う こ とわざどおりのように思う。自 分でできることは万端に整えた うえで、 あとは運命にゆだねる。 準備がよければ、よい運が飛び 込んでくるし、準備が足りなけ れば、運は逃げていく。   具体的には、まず意味のある 情報を得るためには、きちんと し た 関 係 を 構 築 す る 必 要 が あ る。中国人は比較的オープンな の で、 知 人 の 紹 介 さ え あ れ ば、 初対面でも結構話しをしてくれ る。そこでお目当ての調査対象 に紹介してくれる人がいるかど うかがポイントになる。企業や 役所にポストがあって中国に来 た人は、そのポストに対応する 交渉相手や人脈があり、その日 からでも情報収集をすることが できる。けれど、 一研究者には、 そ う し た 出 来 合 の 人 脈 は な い。 あらゆる知人の紹介を頼り、相

何を聞けるかは

万事塞翁が馬

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53

アジ研ワールド・トレンド No.182 (2010. 11) 手の信頼を得て初めて、関係が 構 築 さ れ る。 ま ず、 「 お も し ろ い」 、「信用できる」と思っても らえるか、それからギブ・アン ド・テイクの関係を構築できる か、が鍵になる。最初に出来合 の 人 脈 を 受 け 継 い だ 人 の 中 に は、自分の所属先の名刺と看板 自体がギブになっていると錯覚 しているのか、テイク ・ アンド ・ テイクの人がいる。こうした人 は肝心の情報を取るのに成功し ているように思えない。 ●湖南人と A B型の女性   た だ ど う や っ た ら 堅 い 関 係 が つ く れ る の か に つ い て 考 え る と 、 最 終 的に はや は り 運 次 第 と し か い え な い 。 自 分 の 経 験 を 振 り 返 る と 、「 湖 南 人 」 と 「 A B 型 の 女 性 」 に し ば し ば 助 け て も ら っ て き た 。 一 九 九 六 〜 九 八 年 に か け て 香 港 に 駐 在 し て い た と き 、 中 国 経 済 に 関 す る 見 方 の ヒ アリ ン グ をする ためと あ る 金 融 機 関 の エ コ ノ ミ ス ト を 訪 ね た 。 そ の 後 、 私 の ほ う から 時々 訪 ね て 意 見 交 換 を し て い た が 、 あ る と き 北 京 に 行 っ て 当 時 ス タ ー ト し て い た 中 国 の 国 有 企業 向 け 不 良 債 権 処 理 方 法 に つ い て ヒ ア リ ン グ を す る つも り だ と い う 話 を し た 。 す る と 、 知 り 合 い を 紹 介 し て く れ る と い う 。 サ ン キュ ー 、 じ ゃ お 願 い 、 と 答 え る と 、 メ ー ル で 訪 問 時間 と 訪問 相 手 を指 定 し て き た 。 不 良 債 権 処 理 会 社 の 総 裁 で 、 の ち に 中 国 最 大 の 国 有 銀 行 の 頭 取 に な っ た や り 手 の 人 物 で あ っ た 。広 い 部 屋 に 偉 い 総 裁 と 小 娘 が 二 人 き り 。 こ れ は 困 っ た と 思 い な が ら も 、 開 き 直 る こ と に し た 。 先 方 に と っ て 私 は プ ロ で は な い の で 業 界 常 識 を ベ ー ス に し た 話 で は ボ ロ が 出 る と 思 い 、「 教 科 書 か ら の 理 論 で は こ う なる が 実 際 は ど う か 」 と い う 青 臭 い 議 論 を ふ っ か け る 戦 略 を 取 っ た 。 先 方 は 、 面 倒 だ と お も っ た と お も わ れ る が 、 そ れ で も 二 人 き り で 小 一 時 間 こ ち ら の 議 論 に つ き あ っ て 、 不 良 債 権 処 理 が ど うい う 内 容 で 処 理 され よ う と し て い る の か 、 そ も そ も の 問 題 の 根 源 、 法 律の 限 界 、 政 治の サ ポ ー ト に つ いて も 教 え て も ら っ た 。 お か げで 私 は レ ポ ー ト 一 冊 と 論 文 数 本 が 書 け た が 、 そ れ が 特 に く だ ん の 社 長 と 友 人 の エ コ ノ ミ ス ト に 直 接 役 だ っ た わ け で は な い 。 友 人 の エ コ ノ ミ ス ト は 、 そ の 後 も 時 々 偉 い 人 と 会 う 機 会 を セ ッ ト し て く れ た が 、 私 が 彼の 役 に 立 っ た と は 思 え ない 。 彼 は 湖 南 省 の 貧 困 県 の 出 身 で 、 す っ か り リ ッ チ に な っ て か ら 出 身 地 の 小 さ な 子 ど も たちを毎 年 北 京 に招 い て 世 界 を 見 せ て あ げ る 活 動 を 自 費 で している と 、 の ち に 別 の 友 人 か ら 聞い た 。私 も そ の 小 さ な 子 ど も た ち の 一 人 の よ う な も の だ った の だ ろ う 。 も う 一 人 な に く れ と 親 切に し て く れ た 友 人 も 湖 南 人 だ っ たの で 、 個 人 的 に は 湖 南 人 の 義 侠 心 は 厚 い と思 い 込 む こ と に し て い る 。   ま た 関 係 を 構 築 す る 際 に は、 同性のよしみというのは、正直 とてもありがたい。同じく香港 にいたころ、広東省のある有力 家電メーカーである国有企業を 訪問することになった。当時広 東 省 政 府 に い た 知 人 を 通 じ て、 先方に連絡してもらった。その うちのひとつの会社を訪問した 際、日本語を話せる女性が出て きてその会社の訪問、役員や希 望した各部署との面談をアレン ジしてくれた。その後、お礼の メールを送ったところ、関連す る資料を多く送ってくれ、その 後時々メールで話をし、広東省 をはじめとする華南地区の企業 の動向、家電業界の情勢をいろ いろと話してくれるようになっ た。そして、思い切ってそうし た企業の訪問のアレンジを改め て頼んだところ、自分の知り合 い あ ち こ ち に 連 絡 を し て く れ、 自分の車で訪問先まで送ってく れたのである。なんでここまで 親切にしてくれるのか、と面く らい、彼女自身も友人に「あな た変わっているねえ」と言われ たらしい。とまれ、その後は日 本にくれば一緒に温泉に行って 我が家に泊まってもらい、先方 を訪問すれば一日ずっと一緒に いる友人になった。そして広東 の 家 電 メ ー カ ー 間 の 権 謀 術 数、 烏合離散の背景をいろいろと教 えてもらい、私はなんとか論文 が書けた。その後北京に駐在し たときに仲良くなり、すっかり お 世 話 に な っ て い る 女 友 達 も、 広東の彼女も AB型だった。 ●  「 使 っ て も ら え る 研 究 者 」 と し て の 準 備 を し て お く 必 要がある   以上の友人たちは、なぜか先 方が気に入ってくれた希有な例 である。けれど普通はそこまで うまくは行かない。普通、関係 を構築するには、先方に「使っ てもらえる研究者」だ、と認識 してもらえるように準備をして おく必要がある。そして、紹介 してもらった先では、話をする に値する人間だ、と理解しても らえるように、インタビューの 内容その他に関して、十分準備 しておく必要がある。そう評価 してもらえなければ、もう二度 と紹介はしてもらえないからで ある。などとしんどいことを考 えてしまうが、やはりそうやっ て現地に行くと宝がいろいろ埋 ま っ て い る の で、 フ ィ ー ル ド ワークは止められない。 わたなべ まりこ/アジア経済研究所 東アジア研究グループ長 専門分野:中国の企業・産業・経済の調査、応用ミクロ経済学(金融契約、産業組織論、 など) 近著に「中国医薬品産業―産業の全体像」「中国医薬品産業―企業の行動」(項安波・張政軍・ 陳小洪と共著)久保研介編『日本のジェネリック医薬品産業とインド・中国の製薬企業』 情勢分析レポートNo.5、『企業の成長と金融制度』(今井健一と共著)シリーズ現代中国経 済4 名古屋大学出版会、2006年7月がある。

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1 Library, Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization (3-2-2 Wakaba Mihama-ku Chiba-shi, Chiba 261-8545). 情報管理 56(1), 043-048,

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