UDC 621. 311. 1. 013: 537. 620. 313 . 12
論 文
空げ き磁 束による二機無 限大母線系統の
定態安定度 の監視 とその改善効果の解析
正員
松
木
純
也
(京都大)
正
員 泉
昭
文
(京都大)
正
員 岡
田
隆
夫
(京都大)
1. ま え が き 電 力 系 統 の 安 定 度 を究 極 的 に 左 右 す る の は 同 期 発 電 機 の 脱 調 で あ り,そ の 発 電 機 が 税 調 す る か ど うか の か ぎ を握 っ て い る の は 発 電 機 内 部 の 空 げ き磁 束 の 挙 動 で あ る。 し か る に 従 来,安 定 度 に 関 す る 研 究 は,数 学 的 モ デ ル に基 づ く系 統 全 体 の 安 定 判 別 に 主 眼 が 置 か れ て お り,個 々 の 発 電 機 の 空 げ き磁 束 と系 統 安 定 度 の 物 理 的 関連 に着 目 し た研 究 は ほ と ん ど行 わ れ て い な い 。 更 に 従 来, PSSな ど の 系 統 安 定 化 機 器 は,時 々 刻 々移 り変 わ る 系 統 状 態 を監 視 しな が ら適 応 的 に 制 御 す る とい う観 点 に乏 し い 。 そ の 結 果,電 力 系 統 の 現 在 の運 転 状 態 に お い て,安 定 度 が 今 い か な る 状 態 に あ る か とい う こ と に つ い て,通 常 我 々 は知 る こ とが で き な い。 従 っ て,ど の よ う な 制 御 を行 え ば 安 定 度 が どれ だ け改 善 さ れ る の か に つ い て も定 量 的 に 答 え る こ とが で きな い 。 また,各 発 電 機 が 安 定 度 的 に ど の よ う に 影 響 し合 っ て い る か に つ い て も明 り ょ う で は な い 。 そ こで,こ れ ら の 問 題 を明 確 に す る た め,多 機 系 統 とし て の 特 徴 を 有 す る最 小 系 統 で あ る 二 機 無 限 大 母 線 系 統 を対 象 と し て,発 電 機 相 互 の 安 定 度 的 関連 に つ い て,発 電 機 内 部 の 空 げ き磁 束 や 発 電 機 端 子 に お け る電 気 的 諸 量 の 測 定 結 果 を も と に,基 本 的 考 察 を行 っ た 。 す な わ ち,ま ず 著 者 らが,さ き に見 い だ し た 空 げ き磁 束 に よ る 定 態 安 定 度 の 表 現 法,監 視 法 に つ い て 述 べ る。 次 に,こ れ を 用 い て 界 磁 電 流 増 加 に よ る 定 態 安 定 度 改 善 効 果 に つ い て 検 討 す る。 こ の 監 視 法 は安 定 度 の 物 理 的 意 味 が 明 確 で あ る だ け で な く,安 定 度 余 裕 お よび そ の 改 善 効 果 が 定 量 的,視 覚 的 に と ら え られ る点 に特 色 が あ る。 2. 供 試 系 統 図1に 実 験 に用 い た 二 機 無 限 大 母 線 系 統 を 示 す 。 こ こで,同 期 発 電 機 は1号 機, 2号 機 と も,そ の 定 格 が 容 量6kVA,電 圧220V,電 流15.7A,力 率0.9, 回 転 速 度1,800rpm,ま た 界 磁 電 流 は 無 負 荷 定 格3.2 A,全 負 荷 定 格5.0Aで あ り,定 数 も 同 じ,同 一 仕 様 の 発 電 機 で, 4極 回 転 界 磁 形,突 極 形 三 相 同 期 発 電 機 で あ る。 駆 動 に は,そ れ ぞ れ 定 格 出 力15kWお よ び 11kWの 直 流 電 動 機(他 励 式)を 用 い て い る 。 両 発 電 機 は,変 圧 器 を 介 して 昇 圧 し定 格 電 圧3,300Vの 模 擬 送 電 線 路 に 接 続 され,更 に 変 圧 器 を介 し て 降 圧 し て 無 限 大 母 線(所 内 三 相 電 源210V)に 接 続 さ れ て い %リ ア ク タ ン ス は6KVA, 220Vべー ス の 値 Xd1: 1号 機 の 同 期 リ ア ク タ ン ス Xd2: 2号 機 の 同 期 リ ア ク タ ン ス Xts. Xtm・Xtr:変 圧 機 の リ ア ク タ ン ス Xe1. Xe2:線 路 リ ア ク タ ン ス Xr:補 助 リ ア クトル図1
二機 無 限大母線 系 統
Fig. 1. Two-machine connected to an infinite bus system.Analysis of the Monitoring and Improvement of Steady-State Stability for Two-Machine Infinitebus System by Airgap flux. By Junya Matsuki, Member, Akifumi Izumi, Member & Takao
Okada. Member (Faculty of Engineering, Kyoto University). 松木純 也:正 員,京 都大学 工掌 部電 気工学 科
泉 昭 文:正 員,京 都大 学工学 部電 気工学 科 〔現 在,三 菱電機(株)〕 岡田隆 夫:正 員,京 都大 学工学 部電 気工学 科
る。 2号 機 は,高 圧 線 路 の 中 間 点 に,変 圧 器 を 介 し て 接 続 され て い る 。 3. 空 げ き磁 束 に よ る 定 態 安 定 度 の 表 現 定 態 安 定 度 を 表 す 尺 度 と し て,安 定 出 力 限 界Pemax に対 す る現 在 の 発 電 機 出 力Peの 比 に よ っ て,次 式 で 定 義 され る安 定 度 余 裕Mpが,よ く用 い られ る。 Mp={(Pemax-Pe)/Pemax}×100(%) ………(1) しか し, Pemaxの 値 は, AVRの 動 作,運 転 方 法,運 転 状 態 な ど に よ っ て 変 化 す る た め,一 貫 し た安 定 度 の 指 標 に な ら な い 。 こ こ で は,さ き に 著 者 ら が 開 発 し た 空 げ き磁 束 を 用 い た 安 定 度 の 表 現 方 法 に つ い て 述 べ る。 <3・1> 一 機 無 限 大 母 線 系 統 の 場合(1) 発 電 機 内 部 の 空 げ き磁 束 横 軸 成 分 φq (以下,横 軸 磁 束 と呼 ぶ) を 用 い て,一 機 無 限 大 母 線 系 統 の安 定 度 余 裕Mφ は 次 式 で 表 す こ とが で き る 〔詳 細 は 文 献(1)参 照 〕。 Mφ={(φqmax-φq)/φqmax}×100(%) ………(2) こ れ をバ ー グ ラ フ と し て 図 示 す る と,図2の よ う に な る 。 φqは 最 大 値 φqmaxを も ち,こ の と き 脱 調 限 界 (定 態 安 定 度 限 界)で あ る 。 φqmaaxは界 磁 電 流Ifの 変 化(AVR動 作 な ど に よ る)に 無 関 係 に,系 統 構 成 に よ って 一 意 的 に決 ま る。 この 点 が(1)式 には な い 長 所 で あ る。 <3・2> 二 機 無 限 大 母 線 系 統 の 場 合(2) 図1の 系 統 構 成 に お い て は,ど ち らか の 発 電 機 が 安 定 度 限界 を 超 えて 脱 調 を 開 始 す る と,同 時 に他 の 発 電 機 も脱 調 を 開 始 す る 。 す な わ ち,ど ち らか の 発 電 機 が 定 態 安 定 度 限 界 に 達 し た 場 合,他 の 発 電 機 も 同 時 に 定 態 安 定 度 限 界 に 達 し て い る。 従 っ て,一 方 の 発 電 機 の 出 力 を 一 定 に保 ち,他 方 の 発 電 機 の 出 力 を 上 げ て 脱 調 に 至 らせ る 実 験 を,一 定 に す る 出 力 の値 を 少 しず つ 変 え て,繰 返 し行 う こ と に よ り,図3に 示 す よ う な 二 機 無 限 大 母 線 系 統 に 対 す る定 態 安 定 度 限 界 出 力 曲線 を描 く こ とが で き る 。 両 発 電 機 の 界 磁 電 流 の 値 を2.0, 3.2, 5.0A 一 定 と した 場 合,お よ びAVRを 装 備 した 場 合 に つ い て 示 して い る。 各 場 合 に そ れ ぞ れ 異 な る 曲 線 が 描 か れ る こ と,お よ び界 磁 電 流 が 増 加 す る に つ れ て 限 界 出 力 が 増 す こ とが わ か る。 更 に,図3を 安 定 度 指 標 の 面 か ら 考 え る と,一 機 無 限 大 母 線 系 統 で は 限 界 出 力 が AVR動 作 や 運 転 方 法 な どに よ っ て 変 化 し た の に 対 し て,二 機 無 限 大 母 線 系 統 で は,他 の発 電 機 の 出 力 や運 転 状 態 に よ っ て も変 化 す る の で,出 力 を 安 定 度 指 標 に す る こ と は で き な い こ と もわ か る。
図2
横 軸磁 束 φqによ る一機 無 限大 母線 系統
の安 定度 余裕 の表 示
Fig. 2. Stability margin representation by quadrature-axis flux ƒÓq for a one-machine
infinite-bus system. し か し,図3の す べ て の 実 験 ケ ー ス に つ い て,横 軸 に1号 機 横 軸 磁 束φq1,縦 軸 に2号 機 横 軸 磁 束 φq2を 取 っ て 描 く と,図4に 示 す よ うに 界 磁 電 流 の値 に無 関 係 に,ほ ぼ 一 つ の 曲 線 上 に あ る こ とが わ か る 。
図3
発 電機 出力 によ る二機 無 限大母 線 系統
の安定 限界 曲線 の表 示
Fig. 3. Stability limit curves represented by generator's outputs for a two-machine infinite bus system.
実態 安定 度 の監視 とその改善 効果
図4
横 軸 磁束 φqに よる二機 無 限大 母 線 系 統
の安 定 隈界 曲線 の表示
Fig. 4. Stability limit curves represented by quadrature-axis fluxes for a two-machine infinite-bus system. 従 っ て,二 機 無 限 大 母 線 系 統 の 定 態 安 定 度 は,横 軸 磁 束 φqに よ っ て 表 示 し た 限 界 曲 線 に よ っ て,界 磁 電 流 の値 の い か ん に か か わ らず,一 貫 し て 把 握 で き る こ と に な る 。 す な わ ち,現 在 の 発 電 機 の 横 軸 磁 束(φq1, φq2)を測 定 し て,(φq1, φq2)安 定 限 界 曲 線 と比 較 す る こ と に よ り,二 機 無 限 大 母 線 系 統 の 安 定 度 状 態 を 監 視 す る こ とが で き る わ け で あ る。 <3・3> 発 電 機 出 力 と横 軸 磁 束 の 対 応 関 係 図4 に示 した(φq1, φq2)安定 限 界 曲 線 に 対 し て, 2号 機 の 出 力P2を 一 定 に保 ち な が ら, 1号 機 の 出 力P1を 増 加 させ て い っ た 場 合 の(φq1, φq2)の変 化 の 軌 跡 を 図5に 示 す 。 両 発 電 機 の 界 磁 電 流 が と も に3.2Aの 場 合 に つ い て, P2を そ れ ぞ れ1, 3, 4kW一 定 と し た 状 態 で, R1を0kWか ら1kWず つ 増 加 さ せ て い っ た 場 合 に つ い て 例 示 し て い る 。 この 図 か ら 次 の こ と が わ か る。 (1) P2一 定 で あ る 限 り, P1が 変 化 し て も φq2は ほぼ ∼ 定 で あ る 。 (2) P2一 定 でP1を 増 加 ざ せ る と φq1は 増 加 して い き,脱 調 開 始 点(安 定 限 界 曲 線 上)で 最 大 と な る。 この 最 大 値 φq1maxはP2に 対 応 して 変 化 す る 。 図5 1号 機 の 出 力 増 加 に よ る(φq1, φq2) の 変 化
Fig. 5. Changes of (φq1, φq2) due to the increase of generator 1's output. (3) 一 定 と す るP2の 値 が 高 く な る ほ ど, φq2は 大 き くな る 。 また, φq1maxは 小 さ くな る。 こ の よ う な 変 化 を す る 理 由 は,前 述 の よ う に(φq1, φq2)が 図4に 示 す 限 界 曲 線 を超 え な い と い う こ との ほ か に,発 電 機 出 力 と磁 束 の 間 に は 次 式 に示 す 関 係 が あ る(3)こと か ら理 解 す る こ と が で きる 。 Pe=Kφfφq………(3) こ こ で, Pe:発 電 機 出 力, K:比 例 定 数, φf:界 磁 磁 束, φq:横 軸 磁 束 す な わ ち,界 磁 電 流 一 定(す な わ ち 界 磁 磁 束 一 定)の も と で は,出 カ ー 定 な ら横 軸 磁 束 一 定 で あ り,出 力 が 増 加 す れ ば そ れ に応 じ て 横 軸 磁 束 は 増 加 す る こ とに な る。 な お,逆 にP1一 定 と し てP2を 増 加 さ せ て い っ た 場 合 は,下 か ら上 へ 向 か う軌 跡 とな り,上 述 と同 様 の こ とが 言 え る。 <3・4> 界 磁 電 流 増 加 に よ る 安 定 度 改 善 一 機 無 限 大 母 線 系 統 の場 合,(2)式 お よ び 図2か ら わ か る よ う に,横 軸 磁 束 φqが 減 少 す る こ と は 安 定 度 が 向 上 す る こ と を意 味 す る 。 二 機 無 限 大 母 線 系統 の場 合 も,図 5か らわ か る よ う に,出 力 増 加 と共 に,そ の 発 電 機 の φqが 増 加 し,安 定 限 界 曲 線 に 到 達 し て 後 脱 調 に 至 る こ とを 考 え れ ば,や は り φq1ま た は φq2が 減 少 す れ ば 安 定 度 は向 上 す る こ と に な る 。 ま た これ は,(φq1, φq2) の 点 が 安 定 限 界 曲 線 か ら 遠 ざ か る こ と を 意 味 す る 。 φqを 減 少 さ せ て 安 定 度 を 向 上 さ せ る に は,(3)式 よ
り界 磁 電 流 を 増 加 させ れ ば よ い こ と が わ か る 。 4. 安 定 度 改 善 効 果 の 解 析 本 章 で は,ま ず 安 定 度 改 善 実 験 の 説 明 を行 う。 続 い て,出 力 等 高 線 の 考 え 方 を 導 入 して,横 軸 磁 束 と出 力 の 関 係 を 明 確 に す る。 更 に,横 軸 磁 束 を用 い た 安 定 度 余 裕 指 標 を提 案 し,そ れ に よ る安 定 度 改 善 効 果 の 考 察 を行 う。 <4・1> 実 験 方 法 お よ び 実 験 項 目 発 電 機 の 界 磁 電 流 増 加 に よ る定 態 安 定 度 改 善 実 験 を 次 の よ う に し て 行 う。 実 験 項 目 を 表1に 示 す 。 (1) 図1に 示 し た二 機 無 限 大 母 線 系 統 に お い て, 一 方 の 発 電 機 の 出 力 は一 定 に 保 ち,他 方 の発 電 機 の 出 力 を増 加 させ る。 (2) 界 磁 電 流 の 制 御 は1台 の 発 電 機(出 力 増 加 側)に 対 し て の み 行 う 。 (3) 出 力 増 加 側 の 発 電 機 の 横 軸 磁 束 φqが, φq/φqmax=0.98に な っ た 時 点 で,出 力 増 加 側 の 発 電 機 の 界 磁 電 流 を 制 御 す る(増 加 させ る)。 (4) 界 磁 電 流 の 制 御 は,さ き に 著 者 らが 開 発 し た ASPAC (Automatic Step-out/Stability Prediction and Control:脱 調/安 定 度 予 知 制 御 装 置)(1)を用 い て 行 う。 ASPACは,発 電 機 の横 軸 磁 束 を常 時 計 測,監 視 して お り,最 大 値φqamaxに 至 ら な い よ う に 自 動 的 に 予 知 し て 界 磁 制 御 を 行 う 機 能 を も っ て い る。 例 え ば,表1に 示 し た 最 初 の 実 験 の 場 合 は,両 発 電 機 の 界 磁 電流If1=If2=3.2Aで, 2号 機 の 出 力 を 一 定 値 に 固 定 し, 1号 機 の 出 力 を増 加 さ せ る 。 1号 機 の φq1の増 加 をASPACで 計 測 し, φq1/φq1max=0.98に な っ た 時 点 でASPACか ら制 御 信 号 を 出 す 。 こ の 時 点 で1号 機 の 出 力 増 加 を 止 め る。 界 磁 電 流 の 制 御 は, 3, 2Aか ら5.0Aに 増 加 さ せ る 場 合 と, 3.2Aか ら
7.0Aに 増 加 させ る場 合 の 二 とお りに つ い て 行 う。
表1 実 験 項 目
Table 1. Test cases.
注:(1)( )内 は限 界 出 力 纏 を示 す 。
(2) 出 力 増 加 側 の 発 電 機 の 横 軸 磁 束 φqが φq/φqmaax=0.98に な っ た時 点 で.出 力 増 加 側 の 発 電 機 の 界 磁 電 流Ifを 制 御 す る(増 加 さぜ る)。
(3) 各 実 験 と も, 3.2Aか ら5.0Aお よ び7.0Aに 増 加 させ る2ケ ー ス を 行 う。
<4・2> 界 磁 電 流 増 加 に よ る 横 軸 磁 束 の 変 化 上 記 の 実 験 結 果 の う ち,(ⅰ) If1を3.2Aか ら7.0 Aに 増 加 さ せ た 場 合 と, (ⅱ) If2を3.2Aか ら7.0A に 増 加 さ せ た 場 合 の, If増 加 前 後 の(φq1, φq2)の変 化 を 図6に 示 す 。 増 加 前 に安 定 限 界 曲 線 上 に あ っ た △の 点 は,破 線 上 の ○ の 点 に 移 動 す る 。 す な わ ち,界 磁 電 流 増 加 に よ っ て, (φq1, φq2)が安 定 限 界 曲 線 か ら離 れ て 内 側 へ 移 動 し,安 定 度 が 改 善 さ れ た こ とが わ か る 。 同 図 よ り,安 定 度 改 善 効 果 は, 1号 機(無 限大 母 線 か ら遠 い ほ う の 発 電 機)よ り も2号 機(無 限 大 母 線 に 近 い ほ う,線 路 中 間 に あ る発 電 機)の 界 磁 電 流 を 増 加 さ △:界 磁 電流上昇前 単 位Wb ○:界 磁電機上昇後 (a) If1増 加, (b) Tf2増 加 図6 界 磁 電 流 増 加 前 後 の(φq1, φq2)の 変 化 Fig. 6. Changes of (φq1, φq2) before and after the increase of field currents.
実態安 定度 の監視 とその改善 効 果
図7 (φq1, φq2)図 面 上 の 出 力 等 高 線 Fig. 7. Contour lines of outputs on (φq1, φq2) plane. せ る ほ うが 大 き く,ま た 界 磁 制 御 す る発 電 機 の 出 力 が 大 きい ほ ど(す な わ ち φqが 大 き い ほ ど)効 果 も大 き い とい う こ と が わ か る。 ま た 図 示 し て い な い が,界 磁 電 流 の 変 化 量 を 大 き くす る ほ ど 当 然 効 果 も大 き い 。 <4・3> 界 磁 電 流 増 加 に よ る 出 力 等 高 線 の 変 化 (φq1, φq2)図面 上 に,実 験 か ら求 め た 出 力P1, P2の 等 高線 を描 く と図7の よ う に な る 。 出 力 が大 き く な る に従 っ て,等 高 線 の 間 隔 は次 第 に 狭 くな っ て い る の が わ か る 。 さて,図6(a)の1号 機 の 界 磁 電 流If1を 増 加 さ せ た 場 合 を例 に と っ て,こ の と き 出 力 等 高 線 が ど の よ う に変化 す る か を 以 下 に 考 察 す る。 図6(a)か ら わ か る よ う に, If1を 増 加 させ た 場 合, φq1は減 少 す る。 出 力P1が 変 わ らな い の に φq1が 減 少 す る と い う こ と は,あ る 出 力P1の 等 高 線 がIf1の 増 加 に よ っ て(φq1, φq2)の図 の φq2軸 の ほ う へ 移 動 す る とい う こ と で あ る。 か つ ま た 前 述 の よ う にP1が 大 き い ほ ど φq1の 減 少 の 割 合 は 大 き く な る の で, P1が 大 きい ほ ど1号 機 の 出 力 等 高 線 は φq2の ほ うへ 大 き く 移 動 す る こ と に な る。 す な わ ち, 1号 機 の 出 力 等 高 線 は,界 磁 電 流 増 加 に よ っ て φq2軸方 向 へ 圧 縮 さ れ,こ の 圧 縮 の 度 合 はP1が 大 き い 出 力 等 高 線 ほ ど大 き く な る。 以 上 の 概 念 は 図8に 表 さ れ て い る。 す な わ ち 図8に お い て,実 線 で 描 か れ た 出 力 等 高 線 がIf1増 加 前 の も の で あ り,破 線 の 出 力 等 高 線 がIf1 増 加 後 の1号 機 の もの で あ る。 ま た,一 点 鎖 線 で 描 か れ た 曲 線 は,安 定 限 界 曲 線 上 の(φq1, φq2)点が, If1増 加 に よ り移 動 し た 先 の(φq1, φq2)点 を結 ぶ 曲 線 で あ る。 な お,図 を繁 雑 に し な い た め に, 2号 機 の 出力 等 高 線 の 変 化 は 省 略 し て い る 。 図8 界 磁 電 流 増 加 に よ る 出 力 等 高 線 の 変 化 Fig. 8. Changes of contour lines of outputs due to the increase of field currents.
図8を 用 い て,界 磁 電 流 増 加 に よ る 安 定 度 改 善 効 果 を出 力 の 面 か ら検 討 す る と次 の よ う に な る。 す な わ ち,定 態 安 定 度 限 界 に あ る発 電 機 の界 磁 電 流 を増 加 さ せ る と,安 定 限 界 曲 線 上 に あ っ た(φq1, φq2) 点 は 一 点 鎖 線 の 曲 線 上 に移 動 す る。 この と き,一 点 鎖 線 曲 線 と安 定 限 界 曲 線 と の 間 にP1=6kW, 7kWの 出 力 等 高 線 が 新 た に生 じ て くる。 ま た,出 力 等 高 線 の 格 子 点 で 言 え ば,(P1, P2)=(6, 0),(7, 0),(7, 1),(6, 1), (6, 2),(5, 2),(5, 3),(9, 4)の 八 つ の 点 が 新 し く生 じ る 。 す な わ ち,(φq1, φq2)が減 少 す る と,そ の 分,出 力 余 裕 が 増 加 す る。 ま た(φq1, φq2)の減 少 量 が 大 き い ほ ど, また は 原 点 方 向 へ の 移 動 距 離 が 大 き い ほ ど,出 力 余 裕 も増 加 す る こ とが わ か る。 更 に 図8よ り,安 定 限 界 曲 線 に近 い 所,す な わ ち P1, P2が 大 き い 所 ほ ど(φq1, φq2)の移 動 距 離 が 大 き く, 出 力 の 小 さ い 所 で は,(φq1, φq2)の移 動 距 離 も小 さ い こ とが 確 か め られ る。 <4・4> 安 定 度 余 裕 指 標 と そ れ に よ る安 定 度 改 善 効 果 の 考 察 前 節 で 述 べ た よ うに,界 磁 電 流 増 加 に よ っ て 安 定 限 界 曲 線 上 の(φq1, φq2)点が,安 定 限 界 曲 線 よ り遠 ざ か れ ば,そ の 移 動 後 の 点 と安 定 限 界 曲 線 との 間 に 新 し くP1ま た はP2の 出 力 等 高 線 が 生 じ て 〔ま た は(P1, P2)の 格 子 点 が 新 し く生 じ て 〕,出 力 面 か ら 見 て も安 定 度 が 向 上 す る こ とが わ か る 。 従 っ て,出 力 を 計 測 あ る い は 監 視 し な くて も, φq1, φq2の 動 き を と ら え て い れ ば,(φq1, φq2)点 と安 定 限 界 曲 線 との 距 離 だ
M1={(φq1max-φq1)/φq1max}×100[Z] M2={(φq2max-φq2)/φq2max}×100[Z]
図9 横 軸 磁 束 φqに よ る 二 機 無 限 大 母 線 系 統 に お け る 安 定 度 余 裕 表 示 法
Fig. 9. Stability margin representation by φq for a two-machine infinite-bus system.
① 初期状感 ② 出力上昇 ③ 制御開 始点 ④ 安定度改変後 図10 界 磁 電 流 増 加 に よ る 安 定 度 余 裕 の 向 上 Fig. 10. Improvement of stability margins due to the increase of field current.
け で,出 力 も 考 慮 に 入 っ た 安 定 度 の 表 現 が 可 能 と な る 。 これ を 利 用 し た安 定 度 余 裕 指 標 の 一 例 と し て,こ こ で は 各 発 電 機 の 安 定 度 余 裕 を,次 式 に よ っ て 表 す こ と に す る。 ま た,そ の 概 念 図 を 図9に 示 す 。 M1={(φq1max-φq1)/φq1max}×100(%)…(4) M2={(φq2max-φq2)/φq2max}×100(%)…(5) こ こで,各 記 号 は 図9に 示 す とお りで あ る 。 な お,(φq1, φq2)点 と安 定 限 界 曲 線 と の 「最 短 距 離 」 で,二 機 無 限 大 母 線 系 統 の 安 定 度 余 裕 指 標Mを1個 定 め る こ と も可 能 で あ る が,こ こ で は 計 算 が よ り簡 単 で あ り,か つ 各 発 電 機 ご との 安 定 度 余 裕 と改 善 効 果 も 大 ま か に把 握 で き る,(4),(5)式 の 形 の指 標 に つ い て 検 討 し た 。 ど の よ う な指 標 が 最 善 の もの で あ る か に つ い て は} な お今 後 の 課 題 と した い 。 こ の よ う な表 示 法 を利 用 した 実 験 例 を図10に 示 す 。 こ こ で 実 験 は次 の よ う に し て 行 っ た 。 す な わ ち, 1号 機 の 出 力P1=2kW一 定 で, 0.5s後 か ら, 2号 機 の 出 力 をP2=4kWか ら 徐 々 に 増 加 さ せ, M2≦15%に な っ た と こ ろ で, 2号 機 の 界 磁 電 流If2を3.2Aか ら 5.0Aに 増 加 させ る 。 こ の と き,図 に 示 さ れ て い る よ う に, 2号 機 の 安 定 度 余 裕M2の み で な く1号 機 の 安 定 度 余 裕M1も 改 善 さ れ て い る こ とが わ か る 。 5. む す び 以 上,本 論 文 で は発 電 機 の 空 げ き磁 束 に 着 目 して, 二 機 無 限 大 母 線 系 統 の 定 態 安 定 度 の監 視 お よ び そ の 改 善 効 果 に つ い て,実 験 的,解 析 的 に 考 察 を 行 った 。 まず, (1) 両 機 の 横 軸 磁 束 を 用 い て,定 態 安 定 度 曲 線 を 描 く こ とが で き,こ の 曲線 は 両 機 の界 磁 電 流 の 変 化 の 影 響 を 受 け ず 一 定 で あ る 。 (2) 従 っ て,両 機 の横 軸 磁 束 を計 測 す る こ とに よ り,安 定 度 余 裕 の 監 視 が で き る。 こ と を明 らか に し た 。 続 い て,こ れ を利 用 して (3) 横 軸 磁 束 を制 御 す る こ と に よ り,安 定 度 を改 善 す る こ と が で き る こ と を,出 力 等 高 線 の 考 え 方 を導 入 して 説 明 した 。 (4) 横 軸 磁 束 を用 い た 新 し い 定 態 安 定 度 余 裕 指 標 を提 案 し,そ れ に 基 づ き安 定 度 改 善 効 果 を考 察 し た。 今 後 の 課 題 と して,発 電 機 が3機 以 上 の 系 統 の 安 定 度 の 監 視 ・制 御 法 に つ い て 検 討 し て い く予 定 で あ る。 な お,本 学 卒 業 研 究 と し て 御 協 力 い た だ き ま し た 大 田 茂 君(現,四 国 電 力)に 感 謝 の 意 を 表 し ます 。 (平 成 元 年3月27日 受 付,同 元 年8月2日 再 受 付) 文 献
(1) C. Uenosono, et al.: "Development and testing of an automatic stability prediction and control (ASPAC) for a synchronous generator by air gap flux", IEEE Trans. Power Apparatus Syst., PAS-101, 719 (1982)
(2) 松 木 ・原 田 ・松 本 ・岡 田:「 二 機 無 限 大 母 線 系 統 に お け る定 態 安 定 度 の 実 験 に よ る 解 析 」,電 学 論B, 105, 363 (昭60-4)
(3) 上 之 園 ・松 木 ・岡 田:「 空 げ き磁 束 に よ る三 相 同 期 発 電 機 の 脱 調 現 象 の 解 析 」,同 上B, 100, 41 (昭55-1)