<論文>国際語としての英語--メタ言語論の観点からの考察
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(2) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. 人 々)の 問 で の英 語 コ ミュニ ケ ー シ ョン は、 英 語 母 語 話 者 と非 母 語 話 者 との 英 語 コ ミュニ ケ ー シ ョン よ り意 思疎 通 か で き る とい う。 英 語 の 世 界 的 普 及 の 第1期 で は、 英 語 と帝 国 主 義 は不 可分 で あ った 。 第2期 に入 る と冷 戦 下 で の ア メ リ カの 国 力 的 な優 位 が 英 語=ア メ リ カ語 と して 英 語 の 影響 力 の 拡 大 を加 速 させ た 。 英 米 文 化 が マ ス メデ ィ ア を経 由 して 社 会 主 義 諸 国 に ま で拡 大 した こ と も見 逃 せ な い。 しか し今 や 第3期. とい え る状 況 に英 語 は あ る。. 冷 戦 の 終 結 と90年 代 の 世 界 的 な好 景 気 の た め に 、 英 米 の 言 語 ・文化 の 優 位 と、 過 去 の 英 米 帝 国 主 義 の 歴 史 は英 語 と は別 の 問 題 だ とい う意 識 が 生 まれ 、 そ れ ゆ え世 界 に広 ま った 「英 語 帝 国 主 義 に対 す る抵 抗 感 」 は 一気 に薄 れ た 。 Newsweek誌. の 英 語 特 集 記 事 は 興 味 深 い が 、 同 時 に英 語 学 的 な検 討 を、 次 の 二 点 にお. い て 要 す る。① 過 去 に国 際 共 通 語 と して創 出 され た 人 工 言 語 は、 も しそ れ が 普 及 す れ ば 中 立 的 な言 語 と して 、 国 際 共 通 語 と英 語 が 呼 ば れ る こ との 諸 問題 を一掃 で きた で あ ろ う に、 なぜ 人 工 言 語 は英 語 ほ ど に普 及 しな か った の か 。② 英 語教 育 と も関 連 させ て 考 えれ ば、 英 語 を どの よ うな もの と して 位 置 づ け 、 再 設 計 す れ ば、 英 語 が 万 人 に認 め られ る国 際 共 通 語 にな りう るの か 。 これ らの 問 題 を も って 、 以 下 に英 語 と英 語教 育 をめ ぐる試 論 を展 開 した い ○. 2.国. 際共 通 語 の歴 史 と論 争. 人工 的 な国 際 共 通 語 の 試 み は過 去 に幾 つ か存 在 した 。 しか し人 工 言 語 の 提 案 の 裏 に、 経 済 力 や 軍事 力 に裏打 ち され た 「国 語 力格 差 」 の 問 題 が あ るだ ろ う。 現 在 で も経 済 発 展 の め ざ ま しい 国 や 、科 学技 術 先 進 国 の 国 語 を外 国 語 と して 学 びた い とい う意 識 はあ ろ う。 た と えば 、 近 畿 大 学語 学教 育 部(2009)の. 、 筆 者 の 担 当 す る英 語 ク ラス で の ア ンケ ー ト結 果 か. ら もそ の こ とが 見 て取 れ る。(調 査 対 象 個 体 数 は97名 で あ り、 あ くまで 参 考 程 度 で はあ る が)英 語 を学 習 しマ ス タ ー した い とい う回 答 は89%で. あ っ た 。 そ の理 由 の 内 訳 は(重 複. 回 答 可 と して)「 ア メ リ カが 世 界 の 最 先 端 技 術 の 国 で あ る」 とい う 回答 が43%、. 「ア メ リ. カや イ ギ リス は経 済 的 な影 響 力 が あ り、 先 進 国 だか ら」 と い う主 旨の もの は41%で た 。 一 方 中 国 語 を学 習 しマ ス ター した い との 回答 は77%で. あ り、 そ の理 由 の 内訳 は(重. 複 回 答 可 と して)「 今 後 経 済 大 国 に な る可 能 性 が あ る 」 と い う回 答 が52%、 経 済 発 展 しそ うで就 職 に有 利 」 との 回 答 が49%で. あっ. 「近 隣 の 国 で. あ った 。 しか し同 時 に 、 「 世 界の経済大. 国 に 自 国 の文 化 や 言 語 ま で牛 耳 られ た くな い 」 とい う意 識 もあ り、 「国 際 語 と して の 人 工 言 語 」 を期 待 す る声 もあ った 。 学 生 ア ンケ ー トの 中 に、 世 界 の 言 語 や 文 化 が 英 語 や ア メ リ カ文化 に 「 侵 略 され 」、 自然 や 動 物 の 多 くが 絶 滅 の 危 機 に さ ら され て い る よ う に、 「少 数 派 の 言語 や 文 化 も絶 滅 の 危機 に さ ら され て い る」 の で 、 ア メ リ カ主 導 の 「グ ロー バ リズ ムの. 一104一.
(3) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 象 徴 み た い な 英 語 を 勉 強 し な く て は な ら な い こ と に は 抵 抗 感 と疑 問 を感 じ る 」 と の コ メ ン トが あ っ た 。 人 工 的 な 言 語 と し て 思 い つ く の が エ ス ペ ラ ン ト 語 で あ ろ う 。 エ ス ペ ラ ン ト語 (Esperanto)は. 、1887年. に ロ シ ア 領 ポ ー ラ ン ドの 眼 科 医L.L.Zamenhoffに. れ た 。 現 在 ま で に 出 さ れ た 人 工 言 語 案 の 中 で は 、 最 も有 力 で あ り83ヶ. よ っ て発 表 さ. 国 に10万. 人以 上 の. 使 用 者 が い る と い わ れ て い る 。 語 彙 を は じ め 基 本 的 な 統 語 構 造 は ラ テ ン語 や ロ マ ン ス 諸 語 を 基 本 と し て い る 。 た だ し 自然 言 語 と し て の ロ マ ン ス 諸 語 に 比 べ て 格 変 化 と活 用 形 に つ い て は、 人 工 的 な簡 便 化 の工 夫 が な され て い る とい え る。 人 工 言 語 は ま さに人 工 で あ る ゆ え に 、 英 語 を 国 際 共 通 語 とす る 場 合 の よ う な 批 判 に さ ら さ れ に くい 。 古 く は 産 業 革 命 を機 に 植 民 地 を 増 や し、 国 際 的 競 争 力 を 得 た イ ギ リ ス と 、 そ の あ と を 継 ぎ 、 イ ギ リ ス を も含 め た 一 大 英 語 圏 を形 成 した ア メ リカ の母 語 と して の英 語 を基 礎 にす れ ば 、 どん な に合 理 的 な簡 便 化 に よ る 「似 て 非 な る 英 語 」 で あ っ て も 、 「英 語 を 世 界 の 共 通 語 に 」 と い う 主 張 へ の 反 発 が あ ろ う。 そ の よ う な 反 感 が. 「完 全 な 人 口 言 語 」 に は な く 、 そ れ が 人 工 言 語 の 長 所 で あ. る 。(し か し同 時 に 、 学 習 者 が 経 済 的 な 豊 か さ を 学 習 動 機 に す る よ う な 利 点 は 、 人 工 言 語 に は 望 め な い 。)同. 様 の 人 工 言 語 の 開 発 例 は 、1951年. InternationalAuxiliaryLanguageAssociation)に こ れ は1903年. Interglossaな. よ っ て 提 唱 さ れ たInterlinguaで. に イ タ リ ア の 数 学 者G.Peanoが. ラ テ ン 語)で. あ る 。 そ の ほ か1902年. に 国 際 補 助 言 語 協 会(the. 考 案 し たLatinosineHexione(屈. に 現 れ たldiomNeutralや. 、1943年. あ る。. 折 無 しの に現 れ た. ど、 数 々 の 人 工 言 語 の 提 案 が な さ れ て きた歴 史 が あ る 。基 本 的 に これ らの. 人 工 言 語 は 、 文 法 の 簡 易 化 と語 彙 数 の 制 限 を そ の 特 徴 と し て い る 。 し か し9.11テ. ロ に は じ ま る イ ラ ク 戦 争 に 関 連 し て 、 地 球 規 模 で の 文 明 の 衝 突(で. 民 族 文 化 ・宗 教 文 化 の 深 い 対 立)の. あ り. 問 題 が 現 わ れ 、 人 工 言 語 もそ の 問 題 に 無 縁 で は な い 。. 人 工 言 語 は 、 「人 工 」 と は い え 、 完 全 な 人 間 の 普 遍 言 語 モ デ ル が 未 だ 特 定 さ れ て い な い 以 上 、 そ の 原 型 は ヨ ー ロ ッパ 系 諸 言 語 で あ り、 ヨ ー ロ ッパ 文 明 優 位 論 と無 関 係 で は な い と考 え る こ と もで きる。 人 間言 語 の原 型 とい え る 、人 類 に とっ て公 平 な普 遍 的言 語 モ デ ル に基 づ く人工 言 語 が あ れ ば 国 際 的 共 通 言 語 の 一 つ の 可 能 性 と な ろ う。 しか しそ の 実 現 の前 に 、 文 明 の グ ロ ー バ ル 経 済 化 が 世 界 を 覆 っ た た め に 、 英 語 の 世 界 的 普 及 が 世 界 経 済 と い う背 景 に 裏 打 ち さ れ て い る と の 批 判 に も か か わ らず 、 英 語 の 世 界 的 な 広 が り と い う事 実 を 、 誰 も 否 定 で き な い 。 そ こ で 現 在 の 英 語 の 改 良 ・簡 易 化 に よ る 「国 際 語 と し て の 英 語 」 と い う ビ ジ ョ ンが 生 ま れ る こ と と な る 。 英 語 の 簡 易 化 の 動 き も重 要 で あ る 。 ア メ リ カ で は1876年 Associationに. 続 き 、1906年. にSimpli且edSpellingBoardと. 一105一. のAmericanSpellingReform い う 団 体 が 綴 り字 の 面 で の 英.
(4) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. 語 の 簡 易 化 を 試 み た 。 こ の 時 期 か ら ア メ リ カ 英 語 は 、 言 語 と して の 世 界 へ の 影 響 力 の 増 大 と と も に 、 国 民 の 自 信(nationalculturalidentity)の る 。 イ ギ リ ス で も19世. 紀 に 始 ま り1908年. 一 部 を なす に い た っ た よ うに見 え. にSimpli且edSpellingSocietyが. 生 まれた。英. 語 の 簡 易 化 運 動 の 意 味 す る もの は 、 ラ テ ン 語 や フ ラ ン ス 語 の 国 際 共 通 語 的 な 言 語 的 地 位 に 対 し、 英 米 文 化 圏 が 英 語 を 国 際 共 通 語 に し た い と い う 動 向 の あ ら わ れ で あ る と 考 え ら れ る 。 英 米 の 母 語 と して の 英 語 が 国 際 的 共 通 語 と な る た め に は 、 表 記 法 の 合 理 性 や 能 率 性 を 持 つ 必 要 が あ る と の 考 え が 、 英 語(主 に は 、Uppsala大. と し て 最 初 は)綴. 学 のR.E.Zachrissonが. グ リ ッ ク(Anglic)が. り 字 改 革 に 見 ら れ る 。1930年. 代. 提 唱 した 、 人 工 的 な一 種 の変 容 英 語 で あ る ア ン. 現 れ る。 第 一 次 世 界 大 戦 後 の 英 語 の 世 界 的 普 及 を うけ て 、 ア ン グ. リ ッ ク を 国 際 補 助 言 語 に し よ う と 考 え は 、 英 語 の 欠 点 と も 言 え る 、 難 し く例 外 の 多 い 綴 り 字 の 改 革 か ら 始 ま り、 国 際 語 と して の 英 語 を 目 指 した 英 語 簡 易 化 の 動 き が 活 発 に な っ た 。 語 彙 数 制 限 は 英 語 の 国 際 共 通 語 化 へ の 大 き な 方 策 で あ っ た 。BasicEnglshは Cambridge大. 学 のC.K.Ogdenが. 英 語 の世 界 的 な普 及 を念 頭 に 、 英 語 が 国 際 補 助 言 語 に. な る よ う に 考 案 した 一 種 の 変 容 英 語 で あ る 。 彼 は 英 語 が 国 際 補 助 言 語 で あ る た め に は 、 外 国 人 に も 習 得 しや す く翻 訳 しや す い 言 語 で な け れ ば な ら な い と 考 え られ た 。 こ こ に 英 語 の 概 念 が 大 き く変 容 した こ と に 注 目 した い 。 こ の 時 点 で 、 英 語 を 「英 米 人 の 母 語 」 と す る 考 え と は 別 に 、 英 語 を 学 習 者 に と っ て 「外 国 語 」 と して 学 び 「第2言. 語 」 と して 使 う 人 間 の. 存 在 が 認 め ら れ た 。 そ の よ う な 「母 語 話 者 以 外 を想 定 した 英 語 」 と い う 発 想 が 生 ま れ た こ と は 注 目 に 値 す る の で あ る 。 語 彙 数 制 限 の み な ら ず 名 詞 を 中 心 と した 語 彙 体 系 を作 っ て 、 表 現 も 「動 詞 主 導 の(微. 妙 な 差 異 を も つ 様 々 な 動 詞 を 使 い 分 け る と い う)「 英 米 人 の 母 語. と して の 英 語 」 の 在 り方 と は 別 の 、 い か え れ ば 「母 語 話 者 に と っ て 不 自 然 な 英 語 」 が 一 つ の 英 語 と して 認 め ら れ た 。 名 詞 を 主 体 と して 、 そ の 名 詞 群 と 基 本 的 な 動 詞 の 十 分 な 活 用 に よ っ て 表 現 を 形 成 す る と い う発 想 をBasicEnglishは. 持 っ て お り、 そ れ は 「国 際 共 通 語 と. して の 英 語 と は 英 語 母 語 話 者 の 言 語 で は な い 」 と い う 発 想 が 現 れ た こ と を 意 味 して い る 。 今 日 、Extendedreadingが. 英 語 教 育 で は注 目 され て い る が 、 そ の 基 本 的 な考 え 方 に は. 「段 階 化 語 彙(gradedvocabulary)」 る こ とが で き る 。BasicEnglishは い 。 彼 は 、 学 習 面 で のBasicEnglishの. が あ る 。 こ れ に 関 し て は1.A.Richardsの. 名 を挙 げ. 、 そ の ま ま 国 際 共 通 語 と して の 英 語 に な る わ け で は な 問 題 を 解 決 し英 語 教 育 へ の 応 用 を 考 え る 一 方 、 そ. の 問 題 点 を 指 摘(」 砂o〃zβ α∫ガo'o隅467E%g1∫. 曲(1944))し. た の で あ っ た 。 彼 は 「英 米 人. の 母 語 と は 別 に 国 際 共 通 語 と して の 英 語 が あ る の か 」 の 議 論 を 、 ア メ リ カ に お い て 早 く も 20世 紀 中 期 に 行 っ て い た こ と が 重 要 で あ る 。 こ の よ う に 英 米 人 自 身 が 英 語 に 関 す る 多 様 な 議 論 を行 っ て い た に も か か わ ら ず 、 日 本 で は 、 英 語 母 語 話 者 が 英 語 教 育 者 と して 「過 剰. 一106一.
(5) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. に」 評 価 さ れ て い る。 そ の結 果 、 現 代 日本 に お け る 「ネ イ テ ィブ ス ピー カ ー な らだ れ で も 教 師 」 的 な 英 語 教 育 の 実 態 が あ る。 そ の 一 方 で、 第 二 言 語 と して 英 語 を使 用 して い る Englishuserの. 評 価 は低 く、 母 語 話 者 以外 のEnglishuserか. ら英 語 を学 ぼ う とい う動 き. も 日本 で は あ ま り見 られ な い。 そ こ で歴 史 的 な 「 英 語 と国 際共 通 語 を め ぐる諸 問題 」 を、 次 章 で は 、英 語 教 育 とい う観 点 か ら整 理 して見 直 す 。 英 語 教 育 も 日本 の教 育 の一 環 で あ る か ら、近 代 日本 で あ る 明治 期 以 降 の 教 育 史 的 な観 点 か ら、 外 国 語 を含 め た 教 養 教 育 の 見 直 し を行 う(4章)。. さらに. 「 教 養 教 育 」 とい う関連 の 結 節 点 か ら、戦 後 の 大 学 教 育 に お け る教 養 教 育 の展 開 を検 証 す る(5章)。. しか し こ の よ うな 教 育 史 的 な検 討 で は 、 国際 共 通 語 と して の 英 語 教 育 の 混 乱. の真 の 問 題 を解 明 で き ない と考 え 、(5章 、6章 に お い て)「 教 育 を受 け る 主体 と して の大 衆 」 に つ い て考 察 し、 そ の 点 か ら人 間 論 へ の接 点 を探 る(6章)。. 基 本 的 に本 論 の 考 察 の. 基 盤 は言 語 論 と人 間論 で あ る。 筆 者 の提 案 す る言 語 哲 学 的 な言 語 論 の基 盤 は メ タ言 語 論 で あ る 。 これ は大 衆 の言 語 使 用 に基 づ くマ ス メ タ言 語 と、科 学 的言 語 使 用 に基 づ くア カ デ ミ ック メ タ言 語 とい う2つ の メ タ言 語 を想 定 した 言 語 論 で あ る(6章. 以 降 で 詳 細 に検 討 す. る)。 こ う して 最 終 的 に 、哲 学 的 思 索 を含 む 言 語 論 を3章 まで の 具 体 的 問題 の 受 け皿 と し て使 い 、 哲 学 的 な試 論 を交 え なが ら、 「 個 人 の 人 生 に か か わ る もの と して の英 語 あ る い は 国 際 共 通 語 」 の 教 育 と して、 英 語 教 育 は 如 何 に あ るべ きか を提 言 す るべ く結 論 を導 きた いQ. 3.国. 際 的 コ ミュニ ケ ー シ ョンの た めの 英 語 教 育 とは何 か. 外 国 語 教 育 は 世 界 中 で 行 わ れ 、 ま た 過 去 の 人 類 の 歴 史 に お い て も、 貿 易 や 交 流 の 場 で 、 通 訳 が 重 宝 が ら れ た 。 外 国 語 は も の づ く り と 同 じ く、 極 め て 実 用 的 ・実 際 的 な 「技 能 」 で あ っ た 。 そ の 後 、 教 育 や 教 養 と い う要 素 が 入 っ て き た 。 そ こ に は 教 育 が 何 の た め に 行 わ れ る の か と い う議 論 が 常 に あ っ た 。 教 育 と は 「教 養 ・知 性 の 養 成 」 な の か 「技 術 の 習 得 」 な の か 。 そ し て 教 養 ・知 性 を 考 え る に は 、 人 間 の 文 化 に 関 す る 考 察 が 必 要 で あ る 。 異 文 化 へ 興 味 と敬 意 を は ら う こ と は 一 つ の 知 性 で あ る 。 異 文 化 を 相 互 に 認 め 合 う こ と は 、 人 間 の 教 養 と し て 欠 か せ な い も の で あ る 。 二 者 択 一 で は な く 、 ど ち ら も必 要 、 と い う だ け な ら ば 簡 単 で あ る 。 しか し現 在 の 日本 の 外 国 語 教 育 の 混 乱 の 正 体 は こ の 問 題 で あ る 。 つ ま り、 外 国 語 教 育 は 教 養 教 育 な の か 、 実 学 教 育 な の か が 、 は っ き り と教 育 の 問 題 と し て 認 識 さ れ て い な い 。 そ の 問 題 を わ か りや す く、 か つ 詳 細 に 論 じ て い る も の に 伊 原 巧. 『国 際 コ ミ ュ ニ. ケ ー シ ョ ン の た め の 英 語 教 育 研 究 』2が あ る 。 今 後 議 論 す る 事 項 の 詳 細 や 関 連 す る 諸 問 題 は原 著 を参 照 され た い。 こ こで は そ の要 点 を次 の よ うに整 理 して提 示 す る。. 一107一.
(6) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. 外 国 語 教 育 、 と く に 英 語 教 育 に つ い て は 次 の3種 1)EF.L教. に分類 され る。. 育(EnglishasaForeignLanguageつ. ま り外 国 語 と し て の 英 語)教. 育:. 学 習 者 は そ の 母 国 に い て 、 言 語 ・文 化 環 境 も母 語 に 囲 ま れ 、 文 法 や 表 現 方 法 を 含 め た 異 文 化 を 学 び な が ら外 国 語 を 学 ぶ 。 外 国 語 の 運 用 能 力 の 習 得 よ り は 異 文 化 へ の 興 味 や 敬 意 を 学 ぶ 。 結 果 と して 実 学 と して の 効 果 は期 待 で き な い が 、 実 用 語 学 つ ま り 外 国 語 運用 能力 の養 成 を望 む 学 習 者 は、 別 途 そ の 運 用 能 力 養 成 訓 練 を受 け る こ と に な ろ う。 2)ES.L教. 育(EnglishasaSecondLanguageつ. ま り第 二 言 語 と し て の 英 語)教. 育:. 学 習 者 は 移 民 ま た は 長 期 滞 在 と い う 環 境 に あ る 。 し た が っ て 日常 生 活 の 必 要 上 、 外 国 語 を 使 う こ と を 強 い ら れ る 。 ま た 経 済 的 に 収 入 を 多 く望 め る 職 種 を獲 得 す る た め に 外 国 語 を 習 得 す る 必 要 が あ る 。 第 二 言 語 と い う場 合 、 単 に 母 国 語 に 次 ぐ2つ 言 語 と し て の 外 国 語 と考 え れ ば 、E.F.L.と. 目の. の 区 別 が つ か な く な る 。 し か し学 習 者 が. 置 か れ る 環 境 が ま っ た く異 な る 。 さ ら に 学 習 言 語 が 、 移 民 先 の 言 語 な ど特 定 の 国 の 母 語 で は な く 、 中 立 ・共 通 の 言 語 つ ま り 国 際 語 で あ る 場 合 も現 在 で は あ り う る 。 そ う な れ ば 、E.F.L.も. 、 次 に 述 べ る 国 際 語 と し て のEI.L.も. 、ES.L.と. 混 同 され る 可. 能 性 が あ り、 英 語 教 育 を 論 じ る 場 合 、 こ の 点 に 特 に 注 意 を 要 す る 。 3)E工L教 育:人. 育(EnglishasanInternationalLanguageつ. ま り国 際 語 と して の 英 語)教. 為 的 に工 夫 さ れ 創 出 さ れ た 人 工 言 語 で は な く、 自 然 言 語 つ ま り、 あ る 国 の 母. 語 が 、 そ の 通用 範 囲 の 広 さな どか ら国 際 共 通 語 的 に使 わ れ る こ とが あ る。 国 家 内 で は そ れ が 公 用 語 と 呼 ば れ よ う 。 そ の 背 後 に は 経 済 的 ・軍 事 的 ・政 治 的 ・地 政 学 的 な 理 由 が あ っ て 、 特 定 の 言 語 が 国 際 共 通 語 、 公 用 語 と 呼 ば れ る もの の 位 置 づ け を獲 得 す る 。 現 在 ま で 、 英 米 の 経 済 的 ・政 治 的 ・軍 事 的 な 優 位 と 、 英 語 自 身 の 簡 易 化 の 努 力 か ら、 実 質 的 に、 英 語 が 国 際 共 通 語 の 地 位 を得 つ つ あ る。 そ の 優 位 は人 工 言 語 を 凌 駕 し、 結 果 論 的 に と は い え 、 英 語 が 国 際 共 通 語 と して の 実 績 を 伸 ば しつ つ あ る こ と は 事 実 で あ る と い え よ う 。 以 上 の よ う な 事 情 か らEJ.L.を. 念 頭 に置 い た英 語教 育. が現 れ る こ と にな る。. 明 治 以 降 の歴 史 的 な観 点 か ら見 た 、教 養教 育 と外 国 語 教 育 の 問 題 につ い て は、 別 章 で 論 じる と して 、 日本 の 英 語教 育 の 迷 走 と混 乱 は、 第2次 世界 大 戦 後 の 「新 制 大 学 にお け る教 養 教 育 」 が 衰 退 し、 「 専 門教 育 と して の 実 学 教 育 」 が 、 高 等 教 育 に 求 め られ る よ うに な っ た 時期 か らは じま る。 そ の 経 緯 は、 次 の 通 りで あ る。. 一108一.
(7) 国際 語 と して の英 語:メ. 1)昭. 和62年. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 臨時教育審議会最 終答 申にて 「 外 国 語 と くに 英 語 の 教 育 に お い て は、 広 く. コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン を図 るた め の 国 際 通 用 語 習 得 の側 面 に重 点 を置 く必 要 が あ り、(以 下 略)」(傍 線 は引 用 者 、以 下 同様) 2)平. 成 元 年 告 示 の学 習 指 導 要 領 に お い て 「 外 国語 を理 解 し、外 国語 で表 現 す る基 礎 的 な. 能 力 を養 い、 外 国 語 で積 極 的 に コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンを 図 ろ う とす る態 度 を育 て る と と も に、 言 語 や 文 化 に対 す る 関心 を深 め、 国際 理 解 の基 礎 を養 う」 とあ る 。 3)平. 成8年 の 第15,16期. 中央 教 育 審 議 会 第1次 答 申 の 外 国 語 教 育 に 関 す る改 善 案 で 、. 「国 際 通用 語 と して の英 語 の 重 要 性 」 と 「言 語 能 力 を育 成 す る上 で 必 要 な 日本 語 能 力 の重 要 性 が 提 案 さ れ た。 4)平. 成10年. 度告示の学習 指導要領 では 「 実 践 的 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン能力 」 とい う言 葉. が 登 場 した。 5)平. 成12年. 「21世紀 日本 の構 想 」 懇 談 会 で 、 「英 語 第 二 公 用 語 論 」 が 打 ち出 され る。. 6)平. 成14年. 「「英 語 が 使 え る 日本 人 」 の 育 成 の た め の 戦 略構 想 の 策 定 に つ い て一 英 語. 力 ・国語 力 増 進 プ ラ ンー 」 が 発 表 され た。. こ れ ら は 、 政 府 ・関 係 機 関 が 国 際 化 に 対 応 す る た め 、 そ れ ま で の 教 養 部 教 育 の 一 部 で あ っ た外 国語 と くに英 語 教 育 を批 判 した もの で あ る。 そ して 国際 コ ミュ ニ ケ ー シ ョンの た め の 英 語 教 育 へ の 変 革 は 、 日本 の 国 益 を 考 え た 外 国 語 教 育 政 策 を策 定 す る 上 で 必 要 な も の で あ っ た 。 しか し問 題 は2点. あ る 。 ま ず 、 こ れ ら で 述 べ ら れ る 国 際 通 用 語 と英 語 と の 関 係. が 曖 昧 で あ る う え に 、 外 国 語 教 育 と英 語 教 育 の 関 係 も不 明 瞭 な ま ま 議 論 が 進 ん だ よ う で あ る 。 そ の 問 題 点 を 、 先 に あ げ たEF.L.、ES.L.、E.1.L.の. ①. 国 際 通 用 語 と い う概 念 は 、E.F.L.か し変 革 目標 は 、E.S.L.かE.1.L.か. 関 係 か ら 明 ら か に して み よ う 。. ら の 脱 皮 を は か る こ と を示 す よ う に 見 え る 。 し か. 、 そ の 区 別 を 意 識 して い な い 。 「国 際 」 を 協 調 す る の. で あ れ ばE.1.L.で あ る が 、 表 現 し コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン を は か る た め の 、 学 習 動 機 も学 習 環 境 も、 学 習 者 が 移 民 で も な く長 期 滞 在 者 で も な い 日本 在 住 の 学 生 で あ れ ば 、 お よ そES.L.を. モ デ ル に す る こ と 自 体 に 無 理 が あ る 。(に も か か わ らず 、E.S.L.教 育 が 混. 入 し強 行 さ れ た よ う で は あ る が)。 ②E.1.L.を. 目指 す な ら ば 、 英 語 を 英 米 人 の 母 語 と し て の 英 語 と は 区 別 し な け れ ば な ら な. い 。 極 端 に 言 え ば 、 目指 す べ き英 語 と は 、 「世 界 中 の 全 員 に と っ て 等 し く第 二 言 語 で あ る よ う な 英 語 」 で あ り、 英 語 母 語 話 者 の 干 渉 を 受 け な い 、 「中 立 に し て 中 間 的 な 言 語 と し て の 新 し い 英 語 」 で あ る 、 と言 い 切 る ほ ど の 認 識 が 英 語 教 育 関 係 者 の 問 で 共 有. 一109一.
(8) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. され て い る よ う には 思 わ れ ない 。 ③. 日本 語 能 力 や 国 語 力 の 重視 が 叫 ば れ るの は なぜ か 。 そ れ は学 習 者 が 、 全 力 を 自分 が 学 ぶ 外 国語 と そ の 文 化 の 理 解 、 吸 収 に 向 け るの で は な く、 日本 語 あ る い は 国 語 つ ま り 「思 考 言 語 と し て の 母 語 で 、 メ タ 学 習 的 に 異 文 化 の 理 解 と異 文 化 問 の 交 渉 や 問 題 解 決 を は か る 能 力 が 、 外 国 語 の 流 暢 な 表 出 な ど に優 先 す る と 考 え る か ら で は な い か 。 ま た そ う で な け れ ば 、 英 語 を 第 二 公 用 語 に した と こ ろ で 、 そ の 公 用 語 を 使 っ て 、 国 際 社 会 で 、 英 語 圏 の 人 間(つ. ま り英 語 母 語 話 者)を. ふ くめ た 異 文 化 の 人 間 と 、 対 等 以 上 に 論. 理 を組 み 立 て 、 説 得 し主 張 す る 、 と い う作 業 は で き な い で あ ろ う 。 そ れ を視 野 に 入 れ たEJ.L.論 ④. が 国策 と して の外 国語 教 育 政 策 に あ る とは思 え な い。. しか し な が ら 、 時 々 顔 を だ す い 様 子 か ら見 て 、E.F.L.教. 「(異)文. 化 の 理 解 」 と い う言 葉 を 、 完 全 に 捨 て き れ な. 育 に つ い て の 正 当 な 理 解 と 、 そ の う え で のE.F.L.教. 育か ら. の 転 換 を 宣 言 した 政 策 で あ る よ う に も 見 え な い 。 ⑤ES.L.の. み な らずEI.Lで. あ っ て も、 英 語 が 英 語 で あ る 以 上 、 さ らに 英 米 とい う経 済. 的 、 政 治 的 、 軍事 的優 位 に立 つ 国 の 母 語 で あ る とい う出 自 を英 語 が 持 つ 以 上 、 英 語 が 英 語 彙 帝 国 主 義 論 か ら の 批 判 を 避 け て 通 る こ と は で き ず 、 こ の 点 に お い て も、 国 策 と して の 英 語 教 育 政 策 が こ れ に 十 分 な 検 討 を し た か 、 疑 問 で あ る 。 中 村(1989)3は 語 が 高 度 の 利 便 性(通. 用 性 の 高 い 言 語 で あ る)と. 侵 略 性(強. 迫 的 な 言 語 で あ る)と. う 二 律 背 反 性 を 持 つ こ と を 指 摘 し た 。 さ ら に 津 田(1990)4(1993)5は. 英 い. 英 語 の世 界 支 配. か ら 生 じ る 言 語 差 別 や 、 言 語 間 の 不 平 等 、 不 公 平 を 指 摘 した 。 無 反 省 な 「英 語=国. 際. 語 」 とい う思 考 回 路 は、 イデ オ ロギ ー に支 え られ た 英 語 コ ミュニ ケ ー シ ョンス タ イル の 学 習 者 へ の 強 要 で あ る。 津 田 の 指摘 は、 英 語 の 非 母 語 話 者 に様 々 な不利 益 や 不 条 理 を も た ら す 、 と の 批 判 で あ っ た 。 こ の 論 争 は1990年. 代 中 期 ま で 特 に活 発 で あ っ た. が 、 そ の 有 効 性 は今 も 変 わ ら な い 。 に もか か わ ら ず 、 経 済 情 勢 悪 化 の 現 在 、 こ の よ う な英 語 帝 国 主 義批 判 は、 経 済 界 主 導 の 英 語 公 用 語 論 の ま えで 、 あ えて 過小 評価 され て い る。. 日本 にお け る(ま た教 室 で 学 習 者 が お か れ た)状 況 が 、E.S.L.的(生 活 や就 職 で 、 また そ の 全 人 生 で 、英 語 使 用 が 必 要 か つ 強 い られ る)状 況 で は な い 以 上 、 「外 国語 教 育 とい え ば 、 なぜ あ えて英 語 なの か 」 につ い て 十分 な検 討 と議 論 が な され な くて は な ら ない 。 伊 原 の 言 う よ う に 「異 常 と も言 え る英 語へ の 一極 集 中 と歴 史 上 類 を見 ない そ の 使 用 価 値 の 高 騰 は 、 本 来 イ ン グ ラ ン ドの 土 着 語 で あ った 英 語 に国 際 語 の機 能 の み を求 め る よ う に な って い る。 そ の た め 、英 語 を通 して 言 語 ・文 化 の 普 遍 性 を学 ぶ こ とが 意 味 を消 失 す るあ るい は英. 一110一.
(9) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 語 の 学 習 が 学 習 者 に 歪 ん だ 世 界 観 を 形 成 させ る ほ ど 、 外 国 語 教 育 と し て 原 理 的 に 矛 盾 し た 状 況 が 生 じ て い る 」6と い う事 態 に 陥 っ て い る 。 伊 原 の 指 摘 す る よ う に 、 日 本 の 英 語 教 育 は 、EF.L.教. 育 に 回 帰 す る の か 、EI.L.教. 育 を 選 択 す る の か 、 そ の 混 清 型 で ゆ くの か 、 の. 選 択 を迫 られ て い る。 そ れ に 加 え て 、 伊 原 の 重 要 な 指 摘 が も う一 つ あ る 。 そ れ は 国 策 と し て の 英 語 教 育 政 策 論 や 、 国 益 と し て の 国 際 化 教 育 と い う視 野 の 他 に 、 も う一 つ 学 習 者 に 関 わ る 視 点 を持 つ べ き だ、 とい う こ とで あ る 。 そ れ は 学 習 者 の 主体 側 か らみ た教 育 論 で あ る。 具 体 的 に言 え ば 、 一 人 の 人 間 が 成 長 し 自立 す る の を 助 け る 、 と い う こ とが 教 育 の 使 命 で あ れ ば 、 実 は 国 策 と し て の 外 国 語 ・英 語 教 育 論 を い く ら検 討 し て も 十 分 で は な い 。 一 人 の 生 徒 ・学 生 に と っ て 、 国 際 化 へ の 対 応 や 国 際 通 用 語 と し て の 英 語 の 重 要 性 を 強 調 し て も、 そ れ は プ レ ッ シ ャ ー に こ そ な れ 、 有 効 な 学 習 動 機 に な る と は 考 え に くい 。 学 習 者 一 人 一 人 に と っ て の 「外 国 語 問 題 」 が 「自分 の 人 生 に 関 わ る 問 題 」 と い う側 面 か ら も 考 え ら れ る べ き で あ る 。 しか し現 在 、 日本 に 於 い て 、 ま た 教 育 論 に 於 い て 、 人 生 と い う 問 題 を正 当 に 位 置 づ け た 教 育 論 は 現 れ て い な い 。 人 生 の 問 題 は 科 学 的 手 法 で 解 明 し に く く、 実 証 し に く い か ら で あ ろ うか 。 本 論 で は あ え て 、 そ の 方 向 に 英 語 教 育 と 国 際 語 の 問 題 を 展 開 し て み た い 。 そ の ま え に 英 語 教 育 を 含 め 、 「教 育 と は 教 養 の 修 得 か 、 実 用 技 能 の 習 得 か 」 を め ぐ る 思 想 の 歴 史 的 な 変 遷 を 、 そ う少 し詳 し く見 て お き た い 。. 4.日. 本 にお け る明 治 以 降 の 教 育 観 の 変 遷. こ こ で ひ とまず 、 英 語 教 育 を め ぐる 国策 や 社 会 的要 求 を ま とめ て お こ う。 日本 の外 国語 教 育 の歴 史 は、 日本 が 国家 と して の体 裁 を な し、 貿 易 を含 む海 外 交 流 を は じめ た 時期 に遡 る。 そ の時 期 、 外 国語 の教 育 や技 能 の 問題 は 、通 訳 ・通 事 とい う専 門 的職 能 の 問題 と同義 で あ っ た 。 一 方 、 教 養 ・知 性 と して の外 国 文 化 の 摂 取 や 、 そ れ に類 す る外 国 語 の 素 養 は 、 例 え ば 漢(中 国)文 化 を考 えれ ば わ か る よ う に、 実 学 とは 区 別 され るべ き もの で あ っ た。 実 学 と して の外 国語 運 用 能 力 養 成 の 問題 と、 外 国(先 進)文 化 の摂 取 に よる教 養 ・知 性 の 養 成 の問 題 は分 離 され、 あ ま り接 点 を もた な い もの と考 え られ て い た 。外 国語 教 育 の歴 史 的研 究 と して検 証 が 必 要 な 問題 で あ る。 た だ し今 回 は そ の検 証 が 中心 的 な 問題 で は な い た め、 こ の よ うな要 約 的 な認 識 を示 す に留 め る。 明 治 期 に な る と、 英 語 教 育 を含 め た外 国 語 教 育 、 さ ら にそ れ らを含 め た 「 教 育 」 とは 、 教 養 教 育 を指 し、 そ れ を 中心 理 念 と した教 育 で あ るべ きか、 そ れ と も修 養 教 育 を指 し、 そ れ を 中 心 理 念 と した 教 育 で あ るべ き か 、 に つ い て 乖 離 が お こ る。 こ の 経 緯 を筒 井 清 忠 「日本 型 「 教 養 」 の運 命 』7をも と に要 約 し検 討 を加 えた い 。. 一111一.
(10) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. 日本 の 近 ・現 代 史 にお い て 、社 会 ・国 家 を リー ドす る 「エ リー ト」 と、 一 般 庶 民 と し て 労働 し生 活 す る 「大 衆 」 の 分 離 の よ う な もの はあ って も、 そ れ を西 欧 社 会 の 両 者 の 関 係 にな ぞ ら え る こ とは で き ない 。 フ ラ ンス を例 に取 れ ば 、 エ コー ル ・ポ リテ クニ ー ク を は じ め とす る グ ラ ンゼ コー ル と よ ばれ る超 エ リー ト校 が あ り、 政 官 財 界 人 を輩 出 す る。 入 学 試 験 の 難易 度 の 差 の み な らず 、 出 身 階 層 や 出 身 地 域 が か な り限 定 され て い る こ と に注 目 した い 。 こ こ に は 明 らか に特 定 ・同一 の 階 層 ・サ ー ク ル か らの 「エ リー トの 再 生 産 」 が あ り、 この再 生 産 は 国家 的 ・社 会 的 に容 認 され て い る よ う に見 え る。 日本 社 会 が 、 現 代 に至 る ま で 、特 に戦 後 きわ め て 平等 を重 ん じ、 経 済格 差 が 学 力格 差 、 学 歴格 差 に な って は な らない との世 論 が 発 生 す る こ と と対 照 的 な の で あ る。 人 間社 会 で あ るか ら、 あ る程 度 の 身 分 ・社 会 階 層 に よ る格 差 が あ るの は 当 然 あ るい は 自然 で あ る と して 、 日本 の エ リー トと大 衆 の 距 離 の 近 さ と境 界線 の 曖 味 さは 注 目す べ きで あ る。 そ こで エ リー ト主 義 に根 付 く文 化 や 知 性 を重 ん じる志 向 を 「 教 養 主 義 」 と よぶ な ら ば、 大 衆 文 化 の 中核 には 「修養 主 義 」 が あ った と筒 井 は論 ず る。 しか もそ れ は分 離 した 二 つ の 対 照 的 な 主 義 で は な い とい う。 明 治初 期 の 産 業 振 興 ・富 国 強 兵 が あ る程 度 成 果 を挙 げ、 日 本 に近代 国 家 と して の基 礎 が 出 来 上 が る と、社 会 はあ る種 の 停 滞 期 に はい り、 エ リー トの み な らず 大 衆 が 、 ま た学 生 を含 め た 青 年 層 が 、 「人格 の 向 上 」 「人 生 の 意 味 や 、 人 生 の 充 実 」 「人 間 的 成 長 」 をめ ぐる思想 的根 拠 や そ の 方 法 論 を求 め る よ う に な る。 明 治初 期 の 日本 資 本 主 義 の 原 動 力 に な った の は立 身 出 世 主 義 で あ り、 また 明 治初 期 に は 能 力 主 義 の フル稼 働 状 態 で あ った こ と に比 べ れ ば 、 明 治 末 期 は立 身 出 世 の ル ー トが 学 歴 を 通 じた 一 元 的 な もの に な る。加 えて 国 家体 制 の 整 備 ・固 定 化 に よ り一種 の 閉 塞 状 態 が社 会 に生 まれ た と き、 青 年 層 は現代 の 青 年 と変 わ ら ない 幾 つ か の 態 度 を もって 対応 しよ う とす る。 「神 経 衰 弱 型(精 神 的 に 苦 悩 し追 い 込 まれ る)、 遊 蕩 堕 落 型(遊 興 に没 頭 した 現 実 逃 避)、 成 功 青 年 型(金 銭 的 、社 会 的 な成 功 に価 値 を見 出 す)」 とい った 現 実 へ の 対 応 が 現 れ た と き一 つ の価 値 観 と して 「努 力 に よ る人格 の 修 養 」 が 重 視 され る よ う に な る。 精 神 性 を 重 視 す る点 で 武士 道 思 想 に も接 点 を持 ち なが ら、 現 代(の 学校 教 育 あ るい は高 等教 育)に 比 べ て 、 は る か に 「人 格 の 向 上 」 「人 間性 に お け る 成 長 」 「人 生 論 」 が 中 心 的 な 課 題 と な って い た 。 現代 日本 にお い て も、 以 上 に挙 げた 対 応 態 度 や価 値 観 が 、 変 形 され 現 代 的 に ア レ ン ジ され た 形 で存 在 す る。 成 功 青 年 型 の価 値 観 の根 拠 が 、 社 会 貢 献 や 福祉 、 環 境 問 題 に置 き換 わ った が 、社 会 に認 め られ 、 自分 の 満足 感 を得 た い とい う心 情 は同 質 の もの が あ る。 ま た大 学 の キ ャ リ ア プ ラ ンニ ン グ は、 実 学 的 な 装 飾 を ほ ど こ した 「人 生 論 」 で あ る。 現 代 日本 の ベ ス トセ ラ ー 図 書 は成 功 者 に み る精 神 性 を め ぐ る、 しか しマ ニ ュ ア ル 的 ハ ウ ッー 的 な ビジ ネ ス ノ ウハ ウ書 で あ る。. 一112一.
(11) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 日本 の教 育 の 問 題 と して 曖 昧 に され て残 され た選 択 の 問 題 は、 「目に見 え る形 で 実 証 可 能 な」 技 能 の 習 得 が 教 育 にお い て重 要 な の か 、 「目に見 え ず 、 実 証 しに くい が 人 生 の深 み にか か わ る」 とい う意 味 で真 の教 養 教 育 が 重 要 な の か、 で あ る。 そ して実 学 の習 得 の か な に人 格 陶 冶 が あ る とい う 「大 衆 的 な修 養 主 義 」 と、大 衆 と は一 線 を 画 し、 「文 化 ・知 性 の 高 み に価 値 を置 く教 養 主 義 」 は、 似 て非 な る もの で あ る。 筒 井 は 、新 渡 戸 稲 造 の教 育 を例 に、 日本 にお い て は修 養 教 育 が 実 質 的 に教 養 教 育 で あ り、両 者 の 間 に は対 立 で は な く、包 摂 関係 が あ り、 そ の歴 史 は包 摂 と分 離 の ダ イ ナ ミズ ム に 中 に あ っ た と論 じた 。 フ ラ ンス の17世 紀 に さか の ぼ っ て教 養 お よ び 「教 養 人 」 を考 え る と、教 育機 関 の カ リ キ ュ ラ ム 内容 の変 更 や 、 支 配 階級 に あ る諸 階級 の交 代 が あ っ た に もか か わ らず 、 エ リー ト 層 に継 承 され て きた もの は 「振 舞 い方 」 や 「態 度 物 腰 」 「 社 交対 応 技 術 」 さ ら に は 「卓 抜 さ や 微 妙 な表 現 へ の 注 目」 で あ っ た。 そ れ に 対 し、 軽 蔑 ・蔑 視 さ れ た の が 「努 力 」 「習 得」 「 学 習 」 「手 仕 事 」 「 技 巧 」 で あ っ た。 この こ とに は注 目 した い 。 現 代 日本 の 大 学 教 育 に お い て は、 教 養 人 的 資 質 は ま っ た く問 題 に され ず 、 一 方 「 技 能 と技 能 習 得 へ の努 力 」 は、 大 学 存 続 の た め の専 門=実 学 教 育 の うえ で価 値 と され賞 賛 され て い る で は な い か 。 そ して外 国語 学 習 も、 決 して教 養 の学 と して異 文 化 を味 わ い考 え る学 問 で は あ りえず 、実 学 と して習 得 す べ き技 能 学 習 と定 義 づ け られ て い る。 現 代 の英 語 ・外 国語 教 育 を め ぐる思 想 的 な環 境 は 、 明治 以 降 の環 境 を半 透 明 な相 似 構造 と して残 っ てお り、 そ の思 想 的 な課 題 は変 わ っ て い な い。 大 衆 は 、 日本 社 会 特 有 の ゆ る い 社 会 階層 差 の なか で、 学 歴 差 別 を うけ な が ら も、 立 身 出世 は可 能 で あ る 。大 衆 も望 め ば 、 人 間が 築 い た貴 重 な知 的財 産 と して の文 化 ・芸 術 ・文 学 に触 れ る こ とは可 能 で あ る。 そ れ で も現 代 の大 衆 は明 治 期 と変 わ らず 、 目の前 の遊 興 ・堕 落 に抗 い が た く、大 衆 の予 備 軍 と して の青 年 層 は、 高 い進 学 率 に支 え られ 、 また 消 費 者 と して 欲 望 を刺 激 され なが ら、 「 教 養 」 とは反 対 の方 向 に 向 か いつ つ あ る。. 5.混. 乱 の 整 理:メ タ言 語 論 の 観 点 か ら 戦 後 、 日本 の新 制 大 学 の発 足 時 、 日本 の歴 史 の 中 で形 を変 え なが ら も受 け継 が れ て き. た 「教 養 」 教 育 は人 文 ・社 会 ・自然 科 学 を含 む一 般 教 育 課 程 に組 み入 れ られ る。 そ の実 態 組 織 と して教 養 部 が そ れ を担 い 、 さ らに 人 文 学 的 教 養 は 文 学 部 に託 され る こ とに な っ た。 そ の後 、 大 学 入 学 者 が 増 え、 高 等 教 育 機 関へ の進 学 率 が 上 が る と と もに 、大 学 の大 衆 化 が 始 ま る。 大 衆 化 は学 力 低 下 を伴 っ た。 大 衆 的学 生 とそ の保 護 者 の求 め る もの が 「 手 に職 を 付 け る こ とで就 職 に も結 びつ く」 実 学 と して の専 門 ・専 攻 分 野 教 育 で あ っ た 。 そ うな れ ば 教 育 理 念 と して の 人格 の 陶冶 、 人 間 的 ・精 神 的 な成 長 、 人 間 性 の 深 み を価 値 とす る意 識. 一113一.
(12) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. は 、学 生 の 中 に も希 薄 と な る。社 会 も学 生 を、社 会 の 文 化 的 知 的 な質 を保 持 す る階 層 とみ な さ な くな る。学 生 は就 労 前 の 労働 免 除 者 た る 「モ ラ トリ ア ム」 と な り、 そ の 後 日本 の 経 済状 況 が悪 くな れ ば 、 学 生 は企 業 に と って 即 戦 力 と な るべ き社 員 予 備 軍 と考 え られ る よ う にな った 。 また学 生 は消 費社 会 に と って 重 要 な顧 客 で あ り、 私 立 大 学 に と って はそ の 財 源 とみ な され る にい た った 。 大学 内 あ るい は ア カデ ミズ ム の 内 部 で は、 学 問 の 専 門化 ・細 分 化 が徹 底 され 、 多 くの 研 究 者 で あ り大 学 教 員 た る もの は 、 非 常 に 限 られ た分 野 の 専 門家 に な る こ とに よっ て の み 、 自己 の存 在 意 義 を見 出 す 方 向 に進 ん で い る。 学 問 の 発 達 は、確 実 に 「部 分 」 と して の研 究 者 一 人 一 人 を 、知 の 「全 体 」 性 か ら遠 ざ けつ つ あ る。 人 文 的学 問 の深 化 も 「人 格 の 完 成 」 に結 びつ か な くな る。 大 学 教 員 の 行 う学 術 研 究 が 、 緻 密 に実 証 的 に な る ほ どに 、 「 何 のた め に」 とい う根 源 的 な問 い を遮 断 して 、 問 い の 探 求 の た め の 「プ ロセ ス ・方 法 」 だ けが 肥 大 化 す る。 こ う して教 育機 関 と して の 大 学 は、 人 間 の教 育 と して の 教 養=人 格=人 間 教 育 の何 た るか を さ え、 問 わ な くな って い る。 大 学 に成 果 主 義 が 横 行 し、相 対 的 に実 用 ・実 学 的 な研 究(と 教 育)が 評 価 さ れ 、哲 学 ・ 文 学 ・史学 な どの 人 間 学 ・人 文 学 は 過小 評価 され る。 実 用 性 か らみ て社 会 的 に評価 され る べ き医療 技 術 を例 に考 えれ ば よい 。 遺伝 子 操作 や臓 器 移植 、脳 死 な ど 「人 間 と は何 か 」 に か か わ る 問題 へ の 解 答 は、 実 学 技 術 論 の 内部 か ら は得 られ な い で は ない か。 結 局 、 「医 療 の倫 理 とい う人 文教 養 と して の 知 」 にそ の検 討 を ゆだ ね ざ る を得 ない の で あ る。 医 療 に限 らず 、 経 済 の 原 動 力 と な る技 術 研 究 の み に 高 い 評 価 を与 え なが ら、教 養 を軽 視 す る こ と が 、社 会 の 悪 い 方 向へ の 変 容 を促 して い る こ と を指 摘 す る声 は ま だ少 ない 。 民 主 主 義社 会 で あ れ ば、 ま た 日本 が 西 欧 型 市 民 社 会 と して歩 み だ した以 上 、 「 市 民 と して の大 衆 」 の 人 間 的 質 が低 下 す る こ とは 、 大 衆 迎合 社 会 を生 み 、 愚 衆社 会 を生 み 、 さ ら に は全 体 主 義 的 管 理 社 会 を よ しとす る思 潮 に結 びつ くの で あ る。 この こ と を前提 に英 語 の 国 際 語 化 の 問 題 と、 英 語 教 育 にお け る 「英 語 をめ ぐる言 語 哲 学 的 ビ ジ ョン」 を独 自の観 点8か ら整 理 して み よ う。 そ の 観 点 とは メ タ言 語 論 的 言 語 哲 学 論 の そ れ で あ る。簡 単 にそ の フ レ・ 一 ム ワー ク を説 明 しよ う。 メ タ言 語 とは 自然 言 語 に対 す る 定 義 説 明 の た め の 言 語(使 用)を さす こ と は英 語 学 ・言 語 学 上 の 定 義 とか わ ら ない 。 しか しこ こで 人 間論 を これ に加 え れ ば 、 人 間 は言 葉 に よ る定 義 ・説 明 を した が る動 物 で あ る、 とい う こ とが で き る。 人 間 が 言 葉 を使 用 す る動 物 で あ る以 上 、 強 迫 的 に人 間 は 自分 を取 り 巻 く世 界 と、 す べ て の 対 象 に 「これ は何 か 、 言 葉 で 言 え ば何 な の か 」 とい う意 識 を持 ち、 そ れ が で き ない場 合 、 そ れ は 人 間 に と って根 源 的 な不 安 と な る。 人 間 の 文 明 ・文 化 の 進 化 の歴 史 は 、 数 式 や化 学 式 を含 め た 「言 語 に よ る世 界 の 定 義 の 歴 史 」 で あ った 。 つ ま り人 間. 一114一.
(13) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. の歴 史 は メ タ言 語 の歴 史 で あ っ た。 しか しメ タ言 語 を め ぐっ て 、近 代 科 学 の発 達 と と もに 亀 裂 が 生 じ る 。 そ れ は 専 門 技 術 者 を ふ く め た 知 識 人(エ. リ ー ト)と 大 衆 と の 分 離 を 意 味 す. る 。 先 に 述 べ た よ う に 大 学 を 始 め 、 人 間 の 知 は 総 合 的 ・整 除 的 ・合 理 的 体 系 と し て 整 理 さ れ、 専 門 分 野 も ま た 同 様 で あ る。 そ の 管 理 運 営 は学 術 研 究 組 織 つ ま り ア カ デ ミ ズ ム に よ っ て 行 わ れ て い る 。 そ の な か で 研 究 者 と し て の 人 間 一 人 は あ ま りに も簸 小 で あ る 。 も は や 一 分 野 の エ キ ス パ ー トで あ っ て も、 人 間 の 知 全 体 の エ キ ス パ ー トで あ る こ と は 不 可 能 で あ る 。 こ の よ う な 一 種 の 絶 望 感 に 裏 打 ち さ れ た 諦 め は 、 大 衆 に 、 別 の メ タ言 語 を与 え る こ と と な る 。 世 界 の 出 来 事 を も っ と簡 単 な 言 葉 で 言 い 表 す 方 法 は な い の か 。 体 系 化 さ れ た 正 確 な 言 語 使 用 を 強 い ら れ る ア カ デ ミ ッ ク メ タ言 語(学. 術 用 語 と科 学 的 説 明 の 世 界)の. 世界. が 存 在 す る 一 方 で 、 き わ め て 曖 昧 で あ り な が ら、 大 衆 の 誰 に で も、 読 み 書 き が で き れ ば 、 そ れ 以 上 の 教 育 の 必 要 も な く使 用 で き る メ タ言 語 の 世 界 が 、 社 会 に 存 在 し て い る 。 そ れ を マ ス メ タ 言 語 世 界 と よ ぼ う。 具 体 的 に い え ば テ レ ビ や 、 週 刊 誌 か ら得 ら れ る 社 会 の 出 来 事 や 噂 で あ る 。 こ の 二 つ の 言 語 世 界 を 軸 に 、 「国 際 社 会 で 必 要 な 英 語 」 を め ぐ る 英 語 教 育 の 混 乱 を考 え て み よ う。 そ の 考 察 の 中 に は、 す で に述 べ た教 養 の 問 題 が 関 連 して くる一 方 で、 英 語 論 や メ タ言 語 論 を超 え て、 哲 学 的人 間論 が 見 え る はず で あ る 。教 育 の 問題 は 、実 は科 学 的 な知 とア カ デ ミズ ム の 内部 で の み論 じ られ るべ きで は な い の で あ る 。 「英 語 」 と い う言 葉 や 、 そ れ に ま つ わ る 多 くの 言 葉 ま た は 命 題 、 た と え ば 「英 語 力(が 生 き て い く う え で 必 要 だ)」、 「国 際 的(に. 一 番)通. 用(す. る)語(は. 英 語 だ)」 が 大 衆 社 会. で も流 通 し て い る 。 こ こ で 重 要 な の は 、 す で に 述 べ たE.F.L.、E.S.L、EI.L.を と説 明 と議 論 は(無. 効 と は い わ な い ま で も)限. め ぐる定 義. 定 的 で あ る、 とい う こ とで あ る。 た しか に. 3種 の 英 語 の 区 別 と選 択 の 議 論 は 、 専 門 分 野 と し て の 英 語 教 育 研 究 に お い て は 重 要 で あ り 必 要 で あ る 。 し か し 人 間 と い う具 体 的 実 体 的 存 在 を 相 手 に 実 践 さ れ る 教 育 、 言 い 換 え れ ば 生 身 の 生 徒 ・学 生 を 前 に 実 践 さ れ る 教 育 の 現 場 で 起 こ る 事 態 の 考 察 に 、 ア カ デ ミ ッ ク メ タ 言 語 と し て 存 在 す る 「国 際 語 と し て の 英 語 論 」 は 、 限 定 的 な 有 効 性 し か 持 た な い と考 え ら れ る 。 そ の 理 由 は 簡 単 で 、 学 習 者 た る 生 徒 ・学 生 も 、 教 育 に 自分 の 子 弟 を あ ず け る 保 護 者 た る 大 衆 も 、E.F.L.な. ど の 何 た る か を 知 らず 、 ま た 知 る 必 要 も な い か らで あ る 。 こ の こ と. は 大 衆 を 蔑 視 す る も の で は な く、 ア カ デ ミズ ム と し て の 教 育 論 に 謙 虚 さ を 求 め る も の で あ る。 マ ス メ タ 言 語 領 域 で は 、 「英 語 と は 何 か 、 英 語 を な ぜ 学 ぶ の か 」 の 定 義 が 、 多 様 で 曖 昧 で あ っ て い い と い う の で は な い 。 む し ろ そ れ は 危 険 で す ら あ る 。 筆 者 の2009年 生 へ の ア ン ケ ー トで 、 「英 語 学 習 は あ な た に と っ て 必 要 か 」 と の 問 い に92%がYESと た え 、 「英 語 は な ぜ 必 要 か 」 と の 問 い(自. 由 記 述)に. 一115一. 度 担 当学 こ. は 、 要 旨 と し て 「今 後 の 国 際 社 会 で.
(14) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. は 英 語 が どこで も通 用 しそ う」 「英 語 が 使 え ない と仕 事 を得 られ な い 」 とい う意 見 が70% を こ えた 。 しか し重 要 な の は そ の 意 見 で は な く、 そ れ らの 意 見 を述 べ た 学 生 の 英 語 実 力 テ ス トの成 績 が 上 位 か ら下 位 ま で広 く分 布 して い た こ とで あ る。 下 位20%の. 成 績 群 に含 ま. れ る学 生 の 、70%以 上 が 「英 語 の 必 要性 を肯 定 」 して い るの で あ る。 この 意 味 は何 か 。 た しか に これ は 高校 まで の 学校 教 育 や 、 受験 体 制 、 さ ら に保 護 者 か らの 「英 語 が で きない と 困 るぞ 」 とい うマ ス メ タ メ ッセ ー ジ の刷 り込 み の 結 果 と考 え られ る。 そ れ に加 えて 、 英 語 の 成 績 は下 位 の 学 生 で も、 「 実 際 に 自分 が 英 語 を使 う可 能 性 が な い の で 英 語 を学 び た くな い 」、 「日常 生 活 で外 国 人 と英 語 で 意 思疎 通 す る場 面 が ない の に英 語 を学 ぶ 意 味 は ない 」 と 言 い切 る意 見 は1%に. 満 た な い もの で あ っ た。 と ころが 実 際、1984年 の 筆 者 の ク ラス ア ン. ケ ー トの記 述 をみ れ ば 、 「自分 の 人 生 に英 語 は 要 らな い 」 と堂 々 と記 述 す る学 生 が8%は 存 在 した の で あ る。 これ は時代 の 変化 とい う よ り、 学 習 者 の 意 識 下 の 「英 語 習 得 へ の 強 迫 観 念 の 高 ま り」 や 「あ るべ き 自分 と現 実 の 自分 の 、 英 語 能 力 をめ ぐるギ ャ ッ プが 広 が った こ と」 を意 味 して お り、 これ は望 ま しい傾 向 で は な い。 そ の 点 か ら言 え ば 、 英 語 科 カ リ キ ュ ラ ム で、 英 語 母 語 話 者(ネ イ テ ィ ブ)教 師担 当 ク ラス の増 加 や 、 「日本 語 禁 止 的 英 語 使 用教 育 ゾー ン」 の 設 置 は、 む しろ 問 題 の 本 質 を覆 い 隠 す 。 学 習 者 は英 語 に親 しむか に見 えて 、 じつ は 内 面 で 英 語へ の劣 等 感 を募 らせ 、 自己 像 の ギ ャ ッ プ に悩 み 、 学 習 意 欲 を減 退 させ て ゆ く。 そ れ な らば い っそ1980年 代 の よ う な、 「自分 の 人 生 で 英 語 は不 要 」 と言 い 切 る 「逞 し く健 全 な英 語 否 定 論 」 も英 語 教 育 論 に は不 可 欠 で あ り、 「 英 語 にNOと. い え る学. 生 」 が 消 えた こ とは憂 慮 す べ き事 態 で あ る。. 6.人. 間 論 へ の展 開. 教 育 論 を 正 し く考 え る た め に は 、 「人 間 の 定 義 」 に つ い て 考 え る べ き だ ろ う。 人 間 と は 何 か 、 生 き る とは 、 死 とは 、 生 ま れ 、 育 ち、 老 い る とい う人 生 と は何 か を 問 うべ きで あ る 。 自 分 と は 何 か を 問 う視 点 が 教 育 論 に盛 り込 ま れ な け れ ば な ら な い 。 そ れ で は 既 存 の 教 育 学 ・教 育 理 論 は ど う か 。 現 代 の ア カ デ ミ ズ ム と して の 「教 育 」 が 「科 学 」 を 標 榜 す る 以 上 、 個 別 事 象 の み な ら ず 、 個 別 事 象 か ら仮 説 を た て 、 実 証 した 結 論 と して の 一 般 ・普 遍 理 論 を 重 要 と 考 え る 。 科 学 的 教 育 論 で は 生 徒 ・学 生 は 集 団 と して の 彼 ら 、 平 均 値 ・偏 差 値 と い う デ ー タ と して の 彼 ら 、 傾 向 や 特 性 と して の 彼 ら と して 認 識 さ れ る 。 科 学 は 人 間 一 般 を 抽 出 し、 定 義 す る こ と は で き る が 、 生 き て 、 今 こ こ に 居 る の は 「人 間 一 般 と して の 私 」 で は な く、 個 別 の 私 で あ り、 私 の 人 生 を生 き る 私 で あ る 。 一 般 と して の 人 間 と 、 個 別 と して の 人 間 の 関 係 を ど う 考 えれ ば い い の か 。. 一116一.
(15) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 言 語 学 者 フ ェ ル デ ィ ナ ン ・ ド ・ソ シ ュ ー ル9が 提 唱 し た 、 ラ ン グ と パ ロ ル と し て の 言 語 の あ り方 を ひ とつ の モ デ ル あ る い は メ タ フ ァ ー と し て 考 え る 。教 育 学 上 の 生 徒 ・学 生 の 姿 は 一 般 論 と し て の そ れ で あ る 。 しか し一 般 論 は 理 論 の 次 元 に し か 現 出 し な い 。 実 体 と し て は パ ロ ル の 形 を と る が 、 そ の 抽 象 的 原 型 は ラ ン グ で あ る ゆ え に 、 パ ロ ル は 一 定 の 形 を保 ち つ つ 、 そ の バ リエ ー シ ョ ン は1回 は1回. の 現 出 ご と に 異 な る 。 ラ ン グ を楽 譜 に 喩 え れ ば 、 パ ロ ル. ご と の 演 奏 で あ る 。 演 奏 は 多 様 で あ る が 、 楽 譜 の 解 釈 に よ り成 り立 つ よ う に 、 一 定. の型 を外 れ る こ とは な い。 たぶ ん教 育 学 的 な教 育 論 の発 想 は こ こま で で あ る。 あ る い は教 育 政 策 と して の教 育 の姿 が こ れ で あ る 。 しか し考 え て み た い 。 ラ ン グ は 、 パ ロ ル な し に は 実 体 の 姿 を持 ち 得 な い と い う意 味 で 、 ラ ン グ の 価 値 が パ ロ ル を 上 回 る こ と は な く 、 ラ ン グ とパ ロ ル に 上 位 ・下 位 の 関 係 は な い 。 そ の 意 味 で は 、 学 生 一 般 と学 生 個 人 の 関 係 、 ラ ン グ とパ ロ ル の 関 係 を 、 生 物 の 系 統 性 と個 別 性 、 あ る い は 生 物 種 と 生 物 個 体 の 関 係 に 喩 え る こ と が 可 能 で あ る 。 生 物 個 々 は 、 細 胞 分 裂 か ら胎 児 を 経 て 、 個(=子=一. 個 体)と. して誕 生 す る ま で に 、生 物 の歴. 史 的 進 化 の 過 程 を た ど る 。 個 体 に は 生 物 種 の 歴 史 が 埋 め 込 ま れ て い る 。 過 程(=歴. 史)は. 個 体 の外 側 に あ る と同時 に、 個 体 の 内側 に在 る。 そ れ らは相 似 形 の 関係 で あ る。 相 似 形 の 原 型 は 型 で あ る が ゆ え に 実 体 で は な い 。 型 は 形(=実. 体)と. な る こ とに よ っ て 意 味 を も. つ 。 外 側 に 向か うこ とは 、 同 時 に 内側 に 向 か う こ とで あ る。 現 在 と い う 人 間 の 歴 史 の 一 時 点 に お い て 、 人 間(一. 般)が. 学 ぶ べ き こ と と は 何 だ ろ う。. そ れ を 教 育 目標 と呼 ぼ う と、 学 習 指 導 要 領 の こ と を 指 す と言 お う と 、 同 じ こ と で あ る 。 問 題 は そ れ ら 目標 を 達 成 し、 全 体(total)の. 中 で の あ る 位 置(成. 果)を. 示 し、 「人 類 が 進 歩. 発 達 の 歴 史 を 歩 ん だ よ う に 、 個 人 も個 人 の 進 歩 の 歴 史 を 辿 る た め の 社 会 的 な 仕 掛 け 」 が 教 育 で あ る 。 こ れ は ラ ン グ 的 発 想 の 教 育 観 で あ る 。 し か しパ ロ ル 的 に 発 想 す れ ば 、 「教 育 と い う社 会 的 仕 掛 け 」 が 習 得 す る よ う に 求 め た 内 容 は 、 個 人 の 生 活=人. 生 の 中 で 経 験 され 、. 個 人 の 中 に組 み 込 まれ て ゆ くこ とに こそ 教 育 の 意 味 が あ る。 そ の 点 で は教 育 とは 人 間 に とっ て 、 小 さな 意 味 しか もた な い 。 そ れ なの に教 育 に 人 間 が 過 剰 な期 待 をす る の は なぜ か 。 ひ とつ に は 、 現 実 社 会 の な か で 教 育 機 関(学. 校 な ど)が. 学 歴 を個 人 に付 与 し、 そ の付. 与 さ れ た 肩 書 きが 実 生 活 に 、 た と え ば 収 入 格 差 な ど の か た ち で 影 響 を 与 え る か らで あ る 。 ま た 教 育 機 関 で 得 た 技 能 が 、 実 社 会 で の 収 入 源 と な る か ら で あ ろ う。 教 育(機. 関)が. 建前. 上 、 自 ら の 教 育 理 念 と し て 謳 う 「人 間 的 成 長 」 は 学 校 で 起 こ る の で は な く、 個 人 の 人 生 と 個 人 の 思 考 の 中 で お こ る 。 学 校 と い う現 場 で は 、 生 徒 ・学 生 個 々 が ほ ぼ 相 似 形 で 、 学 習 内 容 を 習 得 し て い くが 、 そ の 中 に 差 が あ り、 そ れ が 成 績 評 価 と し て 現 れ る 。 し か し重 要 な の は 成 績 評 価 の 差 や 順 位 で は な く、 パ ロ ル 的 に 演 奏=経. 一117一. 験 され 、個 人 の 人生 の 中 で意 味 付 け.
(16) 教 養 ・外 国語 教 育 セ ン ター紀 要. され るそ の 事 実 に こそ 、 教 育 の 最 大 の 意 義 が あ る。 これ を歴 史 の 中 で 考 えて み れ ば 、 人 類 の 歴 史 は、 だ れ か 一 人 の優 れ た 個 人 が 発 明 し、 発 見 し、創 造 す る こ とで 進 歩 して きた よ う に見 え るか も しれ ない 。 しか しこれ は歴 史 の まや か しで あ る。 知 の 総体 は 、偉 人 ・天 才 の 業 績 の 総体 で は ない 。 歴 史 とは、 歴 史 上 偶 然 にそ の発 明 な ど をそ の 個 人 が な しえた と、 ア カデ ミズ ムや何 らか の 権 威 制 度 組 織 が 認 め 、 そ の よ う に して 歴 史(そ れ も現 存 す る勝者 側 の書 い た歴 史)に 残 され た事 柄 の総 体 で しか な い 。 た ぶ ん偶 然 に世 界 の ど こか で何 人 か の 人 間 が 、 同 時 に同 じ発 明 発 見 を して い た に違 い ない 。 こ の考 え を敷 街 す れ ば 、 時代 を超 え て 人 間 は、 あ る 時期 、 あ る場 所 、 あ る状 況 で 、 人 類初 の 発 明 発 見 と同 じ発 明 発 見 を、 個 人 の 歴 史 と して は 「自力 で 初 め て 成 し遂 げて 」 い る にち が い ない 。 結 果 と して の 発 明 発 見 の順 位 にた い した 意 味 は ない 。 そ れ を学 ぶ の が 教 育 の 意 味 で は な い か 。 特殊 な場 合 を除 い て 、 学校 教 育 の 現 場 で 、 ア カデ ミズ ムが 認 定 す る 新 発 見 や 新 発 明 が起 こ る必 要 は な い の だ。(成 果 主 義 と経 済 的競 争 原 理 に毒 され た現 代 の 学 校 ・大 学 は そ れ を求 め る か も しれ ない が 。)学 校 で 起 こ るべ きは 、 個 人 が 、 人 間 が 過 去 に歩 ん だ 成 長 の 過程 や 知 的 な発 明 発 見 を、 パ ロル 的 に、 自分 の 人 生 の 中で 、 自分 の 演 奏 と して行 えば い い の で あ る。 生 物 の 原 理 の よ う に、系 統 発 生 は個 体 発 生 の なか で 繰 り返 され て い るの で あ るか ら。 こ う考 えた と き に教 育 は、 そ して この 論 考 で 考 え る人 間 観 と世 界 観 は、 従 来 の教 育 論 を 超 え る こ とが で き る。 人 間 は 地 球 上 の 生 物 の 中 で も っ と も生 物 的 に 逸 脱 し、劣 っ た種 で あ って も、 最 も発 達 した種 で は な く、 人 間 を地 球 上 、 きわ め て 弱 く劣 った 生 物 種 の ひ とつ と して 考 え る こ とが で きた 時 に、 人 間 は 正 当 な人 間 観 を得 る。 そ れ は人 間 とい う種 と して い ず れ は死 、 つ ま り滅 亡 消 滅 の 時期 を もた な けれ ば な ら ない 、 とい う考 えで あ る。 これ を 当 然 と考 え る 人 間 は多 くな い か も しれ な い。 現 代 教 育 の 歴 史 観 は 人 間 の 歴 史 を線 形 的 な、 過 去 か ら未 来 へ伸 び る進 歩 の歴 史 とみ て い るか らで あ る。 そ の 歴 史 観 に は死 が な く終 わ り が な い 。 そ れ は個 人 の 短 い 一 生 で は す ぐに、 必 ず 訪 れ る 「老 い と死 か ら 目 をそ らす 」 考 え で あ る。教 育 が あ た え る歴 史 観 や 世 界 観 は、 時 間 と して の 「歴 史 」 で は な く、 老 い と死 で 終 わ る 「人 生 」 を教 えな い 。 そ の た め に現 代社 会 は老 い と死 と人 類 の 終 末 とい う問 題 に教 育 は答 え られ な い で い る。科 学 的技 術 の最 先 端 は、 そ れ 自体 の 哲 学 ・倫 理 ・教 養 を もた な い(あ るい は あ えて捨 象 した)が た め に、 人 間 の 人 生 の 老 い と死 につ い て 語 る言 葉 を もた ない で は ない か 。 制 度 と して の学 校 に依拠 しない 教 育 と は何 か 。鶴 見俊 輔 はそ の 著 書 「 教育再定義への試 み』10で、 自己 教 育 とい う考 え を提 出 して い る 。 人 間個 々 は 、 そ の 人 生 を 自分 の歴 史 と し て 、 自分 で 発 見 し経験 し、 あ る種 の技 能 ・能 力 を獲 得 し成 長 す る。 そ して 病 を得 、 老 い て. 一118一.
(17) 国際 語 と して の英 語:メ. タ言 語 論 の観 点 か らの考 察. 死 に 向か う。 鶴 見 に よれ ば、 こ の な か で学 校 や教 師 や親 は、 子 供 の養 育 や教 育 の 中 で 、子 供 に傷 や 痛 み を与 え るが 、 そ れ らを契 機 に子 供 は 自分 を教 育 し、創 る の で あ る。 そ う考 え れ ば、 教 育 の意 味 を決 して過 剰 過 大 に考 え る こ とは で きな い。 生 物 種 と して 人 間 は きわ め て未 熟 で あ る。 人 間 は、 未 完 成 の生 物 と して生 まれ 、親 と くに母 親 との 関係 か ら人 間 関係 の取 り結 び方 を経 験 す る。 そ れ以 降 も、 生 物 、動 物 と して は 当然 なが ら、偶 然 の事 故 や不 幸 で 、 心 身 と もに傷 を負 い なが らそ の生 の道 筋 を歩 む。 子 供 の うち の死 もあ りうる。 人 間 を含 め た生 物 あ る い は宇 宙 の動 きは科 学 者 か らみ れ ば合 理 的 で あ ろ うが 、人 間 的 に み れ ば 偶 然 性 に支 配 され、 不 条 理 で あ る。 偶 然 は未 知 の必 然 で あ り、 そ の必 然 た る科 学 的法 則 性 を発 見 す る のが 科 学 で あ る と考 え る の は、 科 学 の傲 慢 で は な い か 。基 本 的 に生 物 個 々 の生 は 「偶 然 」 で あ りなが ら、 そ の偶 然 の タイ ミ ング で成 長 を助 け る のが 教 育 で あ り、教 師 の 役 目 と鶴 見 は考 え る。 産 業 革 命 期 以 降 の大 量 生 産 に よる規 格 品 の管 理 生 産 の思 想 は 、学 校 教 育 に一 斉 授 業 や 管 理 教 育 と して大 き く深 く根 付 い て しま っ た。 そ の 時点 で 、生 徒 ・学 生 個 々が 、 偶 然 に支 配 さ れつ つ 、学 生 が 成 長 を契 機 ご とに 人 間 の発 見 の歴 史 を体 験 しゆ くと い う教 育 観 は消 え去 り、 学 習 とい う技 能 習 得 の結 果 の測 定 と評 価 の教 育 が 始 まっ た の で あ る。 原 点 に も どろ う。 外 国 語 の 習 得 は 、行 動 と して は反 復 、 訓 練 、 暗 記 な どの 要 素 か らな り、 中級 程 度 ま で の語 学 力 の獲 得 は 、学 習 時 間 に正 比 例 す る で あ ろ う。 そ こか ら先 で 、現 代 の教 育 論 は、 ぶ れ始 め る。 メ タ学 習 論 的 に い え ば 、反 復 学 習 の仕 方 、暗 記 の工 夫 の み が 中心 の外 国語 教 育 議 論 が 展 開す る。 言 語 教 育 政 策 的 に は 、学 校 で カ リキ ュ ラ ム どお りの学 習 活 動 が 行 わ れ る こ とを前 提 に話 が は じま り、 そ の教 育 成 果 の評 価 と改 善 を も とに 、 次期 政 策 の議 論 が 進 む。 教 育 研 究 とい え ば、 教 授 方 法 の有 効 性 を調 査 し実 証 して 、教 授 方 法 の 優 劣 を 中心 に議 論 が 進 む。 教 育 論 議 は、 マ ス コ ミ報 道 に よっ て、 歪 め られ、 あ る い は過 剰 に単 純 化 さ れ て、 大 衆 に批 判 的 メ ッセ ー ジ と して流 布 され る。 そ の一 例 が 「日本 で は学 校 で英 語 を10年 学 ん で も英 語 が 使 え な い 」 とい うマ ス メ タ メ ッセ ー ジ で あ る。 も ち ろ ん 、 マ ス メ タ言 語 で あ る か ら、 真 偽 性 の検 証 は行 わ れず に、 流 通 し、 消 滅 す る の で あ る。 こ の よ うな外 国語 学 習 を と りま く環 境 の 中 で 、外 国語 学 習 を どの よ うに考 え れ ば い い の か。 試 案 を のべ よ う。. 1外. 国 語 学 習 の 目標 や 成 果 に 一 定 の ガ イ ドラ イ ン の 設 定 を 行 っ て も 、 ガ イ ド ラ イ ンへ の. 到 達 を 個 人 に 強 制 し な い 。 そ れ を 自分 の 人 生 の 中 に ど う位 置 づ け る か 、 を学 習 者 自 身 が 考 え る こ と(メ. タ 学 習 的 に 、 自分 を 外 か ら み て 、 自分 で 決 め る こ と)を. 外 国語 学 習 の最. 大 の 意 味 と 考 え る 。(教 員 の 「教 育 力 」 を 、 目標 へ の 到 達 率 、 そ れ も多 くの 生 徒 ・学 生. 一119一.
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