神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題
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(2) 156 発達心理臨床研究 第14巻 2008. ろうか。また小此木は、 “母子相互作用は母親の. 3.結果. 父母との関係を我が子の間で反復する。子どもは. 以下、各々の質問項目について得られた語りを. 母親が父母との間でつくりあげた対象関係の転移. 要約して記述する。尚、以下の記述の中で、対薯. 対象としての役割を担い、この役割から逃れるこ. 者の発言は「」、「」の中での対象者の発言は《》、. とができないと健全な発達が阻害される”として. 対象者が思ったことは“”、その他の人の発言は『』. いる。ANの子どもは、親の葛藤の投影に耐えら. で表記する。. れず、健全な発達が阻害された結果、ANという. (1)ケース1・Aさん. 病気を発症したものと考えられる。. ①Aさんの生育歴:子どもの頃Aは、「問題が. 以上のことを問題として、本研究では、以下の. なく親を困らさないよい子であった」と言う。両. ことを目的とした。(1)子どもがANになった:こと. 親が自営業で共働きしていたので、ずっと(親が). をきっかけとして母親が、子どもに対する思いや. 家にはいたのだが、毎日とても忙しく、「(Aが). 自分自身の問題に対してどのように気づき、さら. 母親た話したくても、いつも聞いてもらえずにい. にそれがどんなふうに変化していったのか。(2). た」。また、Aは長女ということもあり、母に色々. 現在までの母子の関係及びANという病気の発症. な仕事を任されていた。「母も長女であり、自分. や経過に対して、母親自身の被養育体験がどのよ. がリーダーシップを取らなきゃいけないという立. うな影響を与えているか。(3)(1)、(2)が、その. 場としては同じ」であった。Aはとにかく親の敷. 母親における世代間伝達の問題とどのように関連. かれたレールに沿って育った。それに不一まあま. しているのか。本研究ではこれらのことを検討し. りなかったが、門限が厳しかったので、「自由に. た上で、さらに全体をふまえて、母親への支援策. なりたい」という気持ちは多少あった。「結婚す. についても検討した。. れば自由になれると思っていた」が、結局結婚し. ても実家から近いところへ住んだ。その後、Aは. 2.方法. 長男、長女を生み育てたが、子育てをする頃、. 調査対象 A病院神経科でANと診断された患者. 「親に手伝ってもらった記憶はあまりない」と言. の母親の中で、「親の会」(A病院で月1回の頻度. う。孤独に子育でをしたが、「“自分の親もそうし. で行われている摂食障害の子どもをもつ親のグルー. て自分を育ててきたのだ”と思い、我慢した」よ. プ活動)に参加しており、母親自身も診察に来て. うである。Aは長女がANを発症してから、いろ. いる者で、その中から面接調査の協ヵ要請に同意. いろ苦しみ、悩んだ。「仕事が忙しくて娘の変化. した4名であった。その4名のプロフィールを示. を見過ごしてしまったことは反省するし、Aの環. したのが表1である。. 境襯からの伝達)を恨むこともあるし、 “なん. 調査期間 X年6月から9月であった。. で私面ここにいるんだろう”と、なぜかこの頃か. 手続き インフォームドコンセントを書面でとり、. ら娘や実母との関係、自分自身のことについて考. 1人あたり1回60∼100分程度の半構造化面接を5. えることが多くなった」と言う。. 回行った。(4人×5回=計20回、平均1人あた. ②子どもの生育歴:「娘は問題のない子、手の. り約7時間ノ5回). かからない子」で、「幼少期はよく話す子だった」. 質問内容 質問内容は、以下の5点であった。. と語る。「父母は離れていたので、預けるところ. ①母親の生育歴、②ANの子どもの生育歴、③実. もなく、常に私にくっつけていた」。しかしAの. 母に対して現在振り返ってみて思うこと、④子ど. 仕事が多忙になるにつれ、「(娘の)話を聞いてや. もに対して現在振り返ってみて思うこと、⑤摂食. る時間がなくなり、娘は小6のころからだんだん. 障害という病気は何を訴えているか. 話さなくなっていった」ようである。その後、娘. は食事を全く食べなくなり、ANを発症した。そ.
(3) 高橋・辻河・高宮・植本:神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題. 157. 表7 対象者のプロフィール. A B. 年齢. 職業. 配偶者. 45. 専業主婦. 有. 47. 専業主婦. 親の会参加年数 子ども(太字がAN). 3年半. 2年. 1有. C. 42. 主婦・パート. 有. D. 51. 喫茶店経営. 無. 男(19)、女(16). 1年半. 4年目(途中2. Nほど空く). 女(19) 男(20)、男(19)、. @ 男(16) 男(29)、女(19). 子どもの病型. AN−BP. i入院歴半年) AN−R.. i入院歴1ケ月). 同居している家族. 対象者の 現在の実. @兄弟. 黷フ状態. 夫、子ども2人. 弟1人. 良好. 夫、子ども1人. 妹1人. 良好. 妹1人. 良好. AN−BP. 夫、子ども2人. AN−BP. 子ども1人. 姉1人 ほぼ. i長女)、母. i他界). i入院歴なし). i次男、三男). i入院歴なし). Qたきり. のことで実母にも責められたが、そのときに、. Aは以下のように述べている。「今までけ拒食や. 「“母と同じ育て方をしたのに、なぜ”と憤りを. 暴力や訴えに、 “なぜ、何が悪いの”と理解でき. 感じた」と言う。入院中、長女は暴れたり、過食. ずにいたが、自分で悩んで考えを整理できるよう. になったり…と様々なことがあった。長女はAに. になると、娘のつらさや寂しさが受け止められる. 攻撃を向けてくる半面、常にAがそばにいること. ようになった。何をされても、《つらかったね、. を強要した。そうしているうちに長女も回復へ向. ごめんね》と言い、抱きしめられるようになった」。. かい、現在は、「頑張って自分のペースで学校へ. 「娘にはのびのび好きなように育ってほしいと思っ. 行けている。クラスになじめず一人でいることも. ていたのに、無意識に過剰な期待を抱いていたと. 多いようだが、何も干渉せずに見ている」。「今ま. 思う。他の子の仕事もやる娘に《そんなんやらな. では、『∼だったんだよ』と娘が話すことに《で. くていい》と言えばよかったのに、《えらいね、. も∼じゃない?》とか《違うでしょ》などと否定. 頑張ってね》と励ましていた。しんどさをわかっ. するように言ってしまっていた。でも今は、娘が. ていなかった」。. 何か話してくれるときは傍で聞いて、《うんうん. ⑤摂食障害という病気は何を訴えているかlA. 》と共感するようにしている」。「娘も、『あのと. は以下のように述べている。「痩せこけた姿を見. きはひどかった、ごめんね』『お母さん私のこと. ると母親は、自分が否定されたように感じて落ち. 好き?』などと素直な気持ちを言ってくれるよう. 込む。摂食障害一ANになることで、子どもは自. になった。学校のことも話してくれている。昔の. 分の母親に、何か以前から続いている問題を訴え. 状態に戻りつつある。でもたまにしんどそうなと. ていると思う。母親の中に潜んでいる問題を意識. きもあるので、そういうときは特に何も言わず、. させようとしているのではないか」。. ただ寄り添うようにしている」。. (2)ケース2・Bさん. ③実母に対して現在振り返ってみて思うこと:. ①Bさんの生育歴:Bは小学校のときに転勤し. A自身は当時親の育て方に不満はなかったことに. て今住んでいる地域に来た。また、このころ2歳. ついて、「そのときは現状に満足していたと思っ. 下の妹が生まれた。「母は私の子育てに苦労した. ていたから。だけど、今になって、《あのとき∼. 反面、妹は簡単に育ったという意識があると思う。. が嫌だった》と反抗したいという気持ちもある。. それを私は小さい頃から感じていた。私は妹に対. でも反面、甘えたいのもある」と言う。また、. してコンプレックスがあり、羨ましかった」。ま. 「今思えば、話したくても母が時間をとってくれ. た、「両親はすごく厳しかった。それにすごく苦. なかったのが寂しかったし、長女として色々な仕. 労した。でも反抗しても、母も口数が少ないし、. 事を任されるのも嫌だったのだろう。そういうこ. 説明するのが苦手なので、納得できる答えは返っ. とを母に訴えたりしたがったが、忙しい親のこと. てこなかった」と、そのときのつらさを語る。そ. を思うと反抗できなかったので、我慢していたと. の後夫と結婚し、長女が難産の末に生まれた。里. 思う」とも言う。. 帰り出産ということで、Bだけ実家へ戻って出産. ④子どもに対して現在振り返ってみて思うこと:. した。「昼夜逆転する子だった。私も疲れてはい.
(4) 158 発達心理臨床研究 第14巻 2008. たが、その当時は母もし)たので助けてもらってい. た」。. たし、母乳も飲んでいたので娘自体はうまく成長. 現在長女は大学2年生だが、休学中だそうだ。. していた。しかし私の母乳が出なくなり、しょう. ③実母に対して現在振り返ってみて思うこと:. がなく人工乳に変えると、娘は哺乳瓶が嫌だった. Bの実母は、祖母の家を訪ねに行ったり、電話も. のか、飲まなくなり悩んだ。転勤して今住んでい. かけたことが一度も無∼・ようで、Bはそれを不思. るところへ戻ったとたんに、娘は哺乳瓶から飲む. 議だと思っていたようである。「母と祖母の間に. ようになった。それはまるで、母親の育児に対す. はたぶん複雑な事情があったと思っている」。「私. る不安を感じ取って哺乳瓶を受け付けられないと. には、母に心配かけてはいけないなという思いが. いう感じであった」。長女がANになったときは、. 昔からあった気溶する」。r私自身も育児に不安を. 「“なんでうちの子が”と思った。入院中は娘が私. 感じるタイプになったσ子育てに対してうまくい. にずっといてほしかったようなので、毎日ついて. かないと思ってしまい、どこかで“もっと頑張っ. あげていた。過食はない」。退院して現在は毎日. て育てないと”“私はちゃんと子育てをして親を. 一緒に過ごしている。「一緒にいることでしんど. 見返してやらなきゃ”というふうに思うところが. いときもある。でも何か余計なことをちょっとで. ある」と語る。「私も親に甘えてた部分もあった. も言っただけですぐ怒るので、まだうまくコミュ. と思うし、親に依存してるところもあったと思う。. ニケーションが取れない」。. 私には自立心がなかった。束縛するのを嫌がって. ②子どもの生育歴:「初歩が遅く、1歳3ヶ月. いる反面、親を頼りにしていた」と、親に対する. くらいに歩くようになった。さらに離乳食になる. 両極端な気持ちを語る。. と、あんまり食べなくなった。それで.も元気だっ. ④子どもに対して現在振り返ってみて思うこと:. た。また、娘はもらった人形が気に入り、私より. 幼少期のころについては、「手のかからない子だ. もその人形になついていた」。幼稚園の頃にバレ. という意識はなかった。妹へのコンプレックスを. エとピアノを習い始め、小学校にあがると、「毎. どう解消すればよいかわからなかったので、それ. 日娘に勉強を教えるようになった。娘は小学生の. を娘に当ててしまったという面もある」と語る。. とき通いだしたお絵かき教室が大好きだったが、. 長女が発病してから、は、「とにかく不安でいっぱ. 小3のときに私がやめさせて塾へ行かせた」と語噂. いだった。自傷もし始めたときに、何でこんなこ. るQ‘. とするのという怒りがあり、娘に寄り添えなかっ. 友人関係については特に問題はなかったが、. た」。その後、「生育歴を振り返ることが多くなる. 「一人の子と友達になるとずっとその子とべった. し、親の会に出て、自分のあり方を反省すること. りという感じ。また、真面目な子だったので、先. が多くなった」と語る。. 生に気に入られ、クラスの子の面倒を見させられ. 現在思うこととしては、「娘は言いたいことが. ていたが、あると.き娘が吐き気を訴えた。その頃. 言えるようになってきた。娘が何かを言っている. から、娘は精神的に嫌なことがあると、吐き気が. ときは傍にいるようにしている。」と語る半面、. したり、頭痛を感じるようになった」。「娘は自己. 「私が下手なことを言うと、娘は怒り出したり、. 主張が下手な子であり、学校であったこともあま. パニックになったり自傷もしたりするので、娘と. り話さなかった」。. の関わり方がまだわからない」と不安感もいまだ. 高2の夏体み前あたりから長女はしばしば不登. 存在しているようである。. 校となり、食べなくなる。「発症して3ヶ月くら. ⑤摂食障害という病気は何を訴えているか:B. いは固形物を食べずにスープなどを飲んでいた」。. は以下のように述べている。「人間食べなければ. 「「食べると学校に行けない』といい\私が何か. 生きていけないのに、それをやめてしまうという. 口答えすると自傷(リストカット)をする様になっ. ことの恐ろしさ。大事にされたい、いつまでも病.
(5) 高橋・辻河・高宮・植本:神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題 159. 気でいて、いつまでも母親に大事にされたいって. 次男が高2のときにまず長男が摂食障害になった. いうのがあると思う。子どもが病気になったら、. そうである。「長男は、祖父が来ると2階にいっ. “そんなに自分の子育ての仕方が悪かったのか”. て暴力をふるう。そρとき次男が家庭を守り、明. と思って悲しくなる」。. るくしてくれていた」。しかし、「次男が高2の終. (3)ケース3・Cさん. .わりころから、・にきびができてきて、肌を気にし. ①Cさんの生育歴:Cは二人姉妹の長女。妹は. 始めた。その後、高3の春の試合の後に、レギュ. 活動的で言いたいことが言えていたが、反対にC. ラーになれなくて落ち込んで。そのころから『う. は内気だったようである。家族については、「父. るさい黙れ』などと暴言を吐くようになったし、. が厳しかった。だから反対に、私は自分の子ども. 部屋に閉じこもるようになった」。「それで食事も. には干渉せずにと思っていたが、うるさく言って. 食べなくなりヤサプリメントをたくさん買ってい. いる自分に後で気付いた」。「母はパートでときど. た。水はがぶがぶ飲んで、七味とか辛いものをとっ. き仕事に行っていたが、家にほとんどいた。父に. て、夜尿もあった」。. 必ず告げ口をしていた」。. 次男はなんとか高校を卒業し、家の近くにある. Cの実母は教育的だったので、Cは学校から帰っ. 大学へ進んだそうである。「このときの過食は、. てくると机に座らされて、授業であったことを話. 冷凍していたパンとかを全部食べていて、冷蔵庫. さなければいけなかったようである。また、高校. を空にしていた。サプリメントを取り、無理やり. 2年生の後半で今までと違う部活に入ったそうで. 排出していた」。だが現在、過食の量は少なくな. ある。「この部活は、親にも反対されたが入って、. り、就職活動に励むことができているそうである。. ものすごく楽しいと思えた。なんか自分と違うの. ③実母に対して現在振り返ってみて思うこと:. になれて、それがすごくうれしかった」。. 「自分の親に対しても、いろいろと言えるように. その後Cは公務員として仕事をしていたが、そ. なったと思う。今までは、子どもたちも祖父母に. こで夫と出会って結婚したそうである。「やっぱ. 言われて嫌がっているとは思わなかったので、何. り自分の子どもは自分で育てたかったが、結局パー. も祖父母に口出しできなかった」と語る。. トに出た。今になって公務員に戻りたい気持ちは. 自身については、「普段優しいのも父親だった. ある」。「家が実家と近かったので、私がフルタイ. ので、外へ遊びに行くのも中学生くらいまでは父. ムで働いていたこともあり、父母は子守をしに来. 親と行っていた。母親は外へ出る方ではなくて、. ていた。子どもはかわいがってくれたし、私の子. 休みの日でも掃除したりしているので。だかウどっ. 育てにうるさくはなかった」。. ちかっていったら父っ子だった」。「次男にはrお. そして現在、「小さい頃は強かった母も今はそ. 母さん口調がおばあちゃんにそっくりやで』・と言. うでもないと思う。しかし今度は私が母に似てき. われるので、やっぱり(実母と)似てるところが. て、一言多い性格になってきていると思う」と語. あるんだなと思う」と語る反面、「私を育ててき. る。. てくれたことに関しては感謝しているし、そこま. ②子どもの生育歴:Cの次男は、早産だった。. で不満もない。息子たちの世話も行きすぎたこと. 「保育園のころから、わりかしぜんぜん手のかか. もあるが、感謝しているし、そんなに(親への気. らない子だった。甘えることもなく、親離れして. 持ちは)変化してはいないかな」と述べている。. るんじゃないかと言われるくらいだった」。高校. また、現在、「あの綺麗好きの祖母が犬を飼って. に入ってから、「次男は『ほっといてくれ』と言. いる。さびしくなったから飼ったといっている。. い出した。でも一番楽な子どもだった。ムードメー. 母にも何か深い思いがあったのだろうと今なら思. カーだったし、祖父母が遊びに来たときは祖父母. いやれる」と語る。. と話したりお茶をだしたりと、気を使っていた」。. ④子どもに対して現在振り返ってみて思うこと:.
(6) 160 発達心理臨床研究 第14巻 2GG8. 次男を育ててきたことに関しては、「もし子ども. Dは高校生の頃、素行が悪くなったようである。. が女の子だったら、自分がされていたのと同じよ. Dが実母の前に座ると、実母はすっと立ち、どこ. うに育てていたと思う。子どもは男の子だから、. かへ去るそうである。「母はすごく私のことを嫌っ. ちょっと育て方が違うようになったと思う。私自. ていると思っていた」。しかしDはふっきれず、. 身も男っぽいのでよかった」と語る。. 母に好かれたいと思っていたようである。. 祖父母との関係については、「祖父母から(次. Dからすると、結婚した頃が1番親子関係がよ. 男は)期待されている子みたいだったのでほった. かったようである。「でも家を出てから、私の体. らかしている部分もあるが、そのへんがちょっと. 調が悪くなって、常にお腹を下すようになった。. 重荷だったのだなと思う」。「今思えば、自分が育っ. 結局ホームシックが原因だった」。Dが子どもを. た環境と自分が育てている環境が一緒だったなと. 生んだとき、「母は1度見舞いにきただけだった。. いう感じがする。言葉使いも『祖母と一緒や』と. 母に嫌われているという思いが向こうにも伝わっ. 言われる」。また、「次男はずっと手のかからない. ていたと思う」と母親への否定的な思いを述べる。. 子だと思い込んで、どこかで楽をしていた分、しっ. Dが結婚してから約3年後1ピ、父が亡くなる。そ. かり育てなきゃいけないんだなということがわかっ. の後Dは32歳で長女を生み、さらに41歳のとき、. た。あの子が親離れをするまでは、甘えられるの. 姉が急死し、Dは甲状腺の病気と、不安神経症に. もいいかなと思えるようになった」「次男は今、. なる。また、その翌年、Dの母親は脳梗塞で倒れ. 思ったことをぶつけてくる。前だったら強い母親. たそうである。「この頃色々さかのぼって考える. になろうとしていたが、その母親(C)が次男を. ようになり、その度に母のことを嫌になった」。. 規則がらめにしていたような気がする」と語る。. Dは長女がANになってから、親の会へ参加し. ⑤摂食障害という病気は何を訴えているか:C. 始める。「聞くという態度をもつ練習にもなった」。. は以下のように述べている。「一“子どもが高校生. そして現在、母とDと娘が3人で同じ家に住んで. になったら、やっと私も楽できる”と思っていた. いるそうである。「結局、3人が3人とも精神的. が、それをストップさせるたあに子どもは病気に. に自立できていないと思う。娘の病気は、受け入. なったのでは、と思う」。排出することに関して. れていくしかない」と語る。. は、「もともと薬を飲まない次男が大量にサプリ. ②子どもの生育歴:「小学校3∼6年生のとき. メントを摂取していたので、“自分の命がどうなっ. は私が娘に期待して、学校から帰ってきたらすぐ. てもいい”と思っていたのではないか」。. 宿題をやらせていた。毎日部屋に監禁してドリル. (4>ケース4・Dさん. をやらせていた」と自身の厳しさを語る。「娘が. ①Dさんの生育歴: 「生まれたとき父が45歳. 中1のころ、素行が悪くなった:。私の過干渉もそ. で、母は20歳だった。父は再婚か再々婚」。母親. の時期より始まった。その西中3の夏ころに、娘. との関係について、「母は一生懸命教育するわけ. は急激にやせてきた」。また、夫がアルコール中. もなく、全体的には子どもの世話をしないので、. 毒とい.うこともあって、Dと夫の仲が悪く、、長女. 年子の姉と二人で何でも自分たちでやっていた」。. が中3の頃にDと娘の二人で家を出て、Dの実家. 「母と話したりしたことはない。また、母は姉を. へ行ったそうである。「その後、立場が逆転して、. 置いて私だけを産婦人科に連れていったことがあっ. 私は娘のいいなりになった。ただ高校へは行かせ. た。今思えば中絶していたのだと思う。それで親. ようと思った」。「この頃私は娘に執着してしまっ. を否定的に思うようになった。まるで「何かあっ. て、あの子がいなくなったら私自身が困ると思っ. たらこの子が自分の面倒を見七くれるのではない. ていた。また、娘は私の布団に入ってきて、一緒. か』という期待を母がもっていたことを表してい. に寝るようになった。そして高校をやめたのと同. るように思、う」と語る6. 時に自傷行為も始まった」と語る。.
(7) 高橋・辻河・高宮・植本:神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題 161. 現在は、「娘は大学に楽しく通っているよう。. いる点については、.「どうしてそれを小さいとき. 朝起きられなかったり、下剤のせいでトイレに閉. にしてやれなかったんだろう、根本的に子育ての. じこもって遅刻したり、途中で帰ってきたりなど. 仕方が間違っていると思った」「私は娘の行動を. はよくある。毎日街まで私を呼び出し、下剤を買. 冷静に見守るということがとても難しいと思って. い、お茶をしながら一緒に帰るというのが今の日. いる」「“あのときこうしていたら…”というの. 課」。. をたくきん考えていたが、あのときいろいろ悪い. ③実母に対して現在振り返ってみて思うこと:. ことをしていだからこそ今があるのかなと思う。. 「母は私に甘えたい気持ちがあると思う。今、母. 私も高校のとき素行が悪かったけど、今思えばあ. との関係は悪い。もっとぶつかればよかったと思. れがあったから、生きてこれたのかなと思う」と. う。自分のコンプレックスが処理できていない。. 語る。. 嫌われているという感覚があったから、こっちも. ⑤摂食障害という病気は何を訴えているか:D. 嫌いというふうに思っていた。今思えば、母には. は次のように述べている。「自分のことを見てよ、. 怒ってほしかったというより、ほめてほしかった. というサインだと思う。もし体重が元に戻って、. と思う」と言吾る。. 元気になってしまったら、母親が手放すだろうと. また、「私が病気になったのも、母のせいだと. 思っている」。「お乳を飲むようにしがみついてい. 思った。そして娘も病気になったこともあって、. る感じである。母親のお乳が、愛情がその子にとっ. これらのことは世代連鎖だと思った。そして、連. てもう満杯だと思えるようになったら、その子は. 鎖なら、どこかで立ちさらないといけないとも思っ. 母親の元から出て行くと思う」。. た。しかし、母に対しては、やっぱり受け入れら れない、好きになれないと思う面がある。わずら. 4.考察. わしく思ってしまう自己嫌悪と、優しくしてあげ. (1)個々のケースについて. なければならないけどできないというジレンマに. (i)ケース1. 今は悩まされているところ」と語る。. Aも実母も長女で『手のかからないよい子』だっ. ④子どもに対して現在振り返ってみて思うこと:. た。“長女はしっかりとして何でもやるという’役. 「娘が小さい頃、私は仕事をしていたので忙しく、. 割を果たず’という母の考えがAに伝達されて. 娘の話を聞いていなかった。また、娘が年頃になっ. いることが推測される。また、Aは子育ての一番. て、BFの話など、私が聞きたくないような話を. つらいときに親に手伝ってもらえず、1人で苦労. すると、私は聞いていないように、していた。また、. するが、「自分の親もそうしてきた」と思い、そ. 娘がドジした話などにはいらいらを感じていた。・. の思いを我慢=抑圧してしまうのである。ここに、. そのようなことも本当は肯定的に受け止めてあげ. うまく相互作用ができていなかったAと親の関係. る必要があると思った」。「とんでもない父や夫が. が見て取れるだろう。そしてAは、つらさを感じ. いたけど、亡くなったりして、その大変な思いが. ている自分に実母が構ってくれなかった寂しさか. 娘にいった」と語る。. らか、長女を常に自分の傍にいさせて、長女と密. ANになってからのことについては、「その後、. 接な関係にいた。これは、A自身が幼少期に満た. それまで手がかからなくて、ほったらかしだった. せなかった実母への依存欲求について、長女を無. のが、病気になって、娘のほうに集中力がいった」。. 意識的に自分の母親と見立てて自分の傍にいさせ. 「親の会や診察を受けて、まだわけがわからない. ることで、長女との間でそれを充足させようとし. が、今振り返ると、二人で一緒に治そうという気. ていたと考えられる。Cramer、 B.(1989)言葉. が起こったし、お互いが成長していったと思う」. を借りると、“子どもをもつ計画がはらんでいる. と語る。また、現在、娘の話を聞くことができて. のは、このような長い間埋もれていた過去の経験.
(8) 162 発達心理臨床研究 第14巻 2008. を、子どもとのことを通してきっともう一度取り. (i)ケース2. 戻すに違いないという期待である”ということに. Bは、長女を産む際は実母にも子育てを協力し. も当てはまるだろう。. てもらえたようで、このときの母子相互作用はう. 逆に長女は、Aにい?も密着にされている状態. まくいっていると推測できる。しかしここでは逆. だったので、Aと離れて自分の領域を探索するこ. に長女の問題が起きる。「人工乳に変えると、娘. とができなかったのではないだろうか。これは、. は哺乳瓶が嫌だったのか、飲まなくなり悩んだ。. 渡辺(2000)における、、『個体化への確立』がき. 転勤して今住んでいるところへ戻ったとたんに、. ちんとなされていなか?たことを表していると考. 娘は哺乳瓶から飲むようになった」。これについ. えられる。. 七は、Har1QW(1985)の理論を引用して説明でき. これらのことから、このケースにおいては、依. ると思われる。長女は、Bに対して、 Bの母親ら. 存と自立における葛藤が代々伝達されていると考. しい温かさを求あていたのだろう。だが、「今住. えられる。Aは長女を無意識的に自分の母親と見. んでいるところへ戻ったとたんに飲むようになっ. 立てて自分の傍にいさせることで、依存欲求を充. た」のは、なぜなのだろうか。実家において、B. 足させようとしていた。反面、長女が優等生にな. は実母から援助を受けることで、子どもの頃に与. ることを期待し、無意識的に頑張らせていた。そ. えられなかった親からの愛情を感じており、Bは. の後、長女は食事を拒否することで、この世代間. 愛情を長女ではなく実母に対して無意識的に向け. 伝達の問題を表面に現そうとする。Aは長女が. ていたのかもしれない。それを感じ取った長女が、. ANになったことで、苦しみ、悩むが、しだいに. Bの愛情を自分に向けさせたいという思いで、. 自身のことについて振り返り、伝達されていた葛. 「哺乳瓶を受け取らない=食を拒否する』という. 藤に気づいて理解を得るようになる。ANという. 反抗を行ったのではないだろうか。. 病気をきっかけとして、Aと長女の相互作用がう. Bの母親は、実母(Bの祖母)と関係がよくな. まくとれるようになっていき、本来の母子関係が、. かっ允と思われるが、この関係は、Bと母親との. 成り立っていくようになる。また、病気を通して、. 間にもそのまま転移されていると思われる。「お. Aと実母との関係も変化していった。Aは、自分. 互い必要以上なことに踏み捧まない親子」として、. の中に潜んでいた葛藤を母親に実際に訴えてみた. 言いたいことが言えない関係にいたのである。河. が、受け入れられなかった。しかしそこでまた苦. 合(1980)は、“親に認められないと感じた子ど. しむのではなく、それはそれとして理解し、自身. もは、その敵対感情をきょうだいに向けて発散さ. の内面の中に肯定的に取り込み、『抑圧』ではな. せようとする”と述べている。妹が親から自由な. く、『統合』と言う形でうまく処理したのであろ. 存在であったために、逆にBは母親から離れられ. う。そして、Aは母親や長女と一体化した形から、. なかったのではないだろうか。Bは、祖母との関. A自身として自立することができた。これは、. 係がよくない母親のことを気遣い、母親と自分を. Winnicott、 D.(1951)が述べる、“原初的同一化”. 一体化させていたと考えられる。しかし逆に考え. から分化していくことができた状態とも言えるだ. ると、母親がBと一体化させてBを離さないよう. ろう。以上のように、Aは、 “母親が無意識に. にしていたのかもレれない。これは、“子どもは、. 『子ども』に放り込んでいたものを自分の物語と. 母親の内心の空虚を埋める対象となっており、一. して引き受けたとき、投影同一化の世界は自ずか. 体感的に取り込まれていた”(橋本、2000)状態. ら克服され、母親は個としての視点を獲得した”. であると思われる。そしてその状態は今、Bと長. (橋本、2000)というプロセスをたどることがで. 女の問にも存在しているのだろう。. きたと思われる。. Bは長女や実母との関係についても、自虐的に なっている部分が多い。親に対して「ああしてほ.
(9) 高橋・辻河・高宮・植本:神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題 163. しかった』などという真の感情の露呈はあまり見. いた」ように、 “夫への依存欲求”が実母の中に. られていない。“語りが深まらず停滞すると、子. は強く存在していたのだろう。それを感じていた. どもの問題が起こる” (橋本、2000)と述べられ. Cは、自分よりも父親に依存する母親を見て、. ているように、長女のAN症状や自傷行為はまだ. “父親のようになれば母親が依存欲求を向けてく. 完全に回復に向かっていない。長女も“依存を望. れるかもしれない”と考え、父親に同一化しよう=. みつつ、依存することで母親に圧倒され飲み込ま. 男性性を得ようとしていたのではないだろうか。. れることを恐れ、常に母親との距離のとり方に悩. また、Cが、家族の中で代々続いてきた厳格さを. み、混乱している”(館、2005)状態であり、治療. 無意識的に次男へ投影し、我慢させてしまったこ. 的退行が起こっていると考えられる。しかしこの. とを思えば、そこに世代間伝達の問題が存在した. 状態にある長女をBは、「一緒にいたほうがいい. といってもよいかもしれない。しかし、「(親への. かなと思っている」と述べているように、常に抱. 気持ちは)変化してはいないかな」と述べている. える一holdingすることで、長女に安心感を与え、. ことには少し違和感を覚える。ここには、子ども. 依存欲求を満たし、個体化への確立の準備をさせ. が男の子であるという、“母親との性差”が関連. ようとしているのではないか。また、それと同じ. しているのではないだろうか。. ようにB自身も、実母や長女との一体的関係から. Cと次男の関係は、“母親は結局、息子の中に. 目立する準備をしていると考えられる。橋本. 自分と違う他者を発見する。息子は母の世界から. (2000)は、 “母親の「語られなかった物語」が. 出ることによって、性同一性を手に入れる”(橋. 開示さ、れたとき、母は子との融合的な語りから自. 本、2000)という状態に達していると推測できる。. ずから分離する”と述べているように、Bが今後、. Cが、「もし子どもが女の子だったら、自分がさ. 自身の心の深層に辿り着いて自覚できるようになつ.. れていたのと同じように育てていたと思うけど男. たとき、Bも長女も個としての視点を獲得し、親. の子だから、ちょっと育て方が違うようになった. 子間の葛藤から抜け出すことができるのではない. と思う」と述べていることからも、』元来、Cと次. だろうか。. 男は男女という性差があるからこそ、伝達されて. (m)ケース3. きた問題やC自身の中に存在する葛藤が大きく投. Cが部活で男役を楽しんでいたことや、違う場. 影されなかった、と考えられるのではないか。. 面で、「私自身も男っぽいのでよかった」と語っ. また、橋本(2000)は、“母娘関係の場合、一. ていることから、Cの中には男性性に同一化して. 体感的弓びつきのレベルはいっそう深く、娘が性. いる部分があったと考えられる。また、母親より. 同一性を確立するためには母との同一化が不可欠. も父親と過ごす時間が多かったこと、母子相互関. というむずかしさをはらんでいる”と述べている。. 係よりも父子相互関係の方がうまく行われていた. Cは男性性を強くもっているのではないかと上記. ことも述べている。河合(1980)は、“母親があ. に述べたが、Cが本来もっている女性性を確立す. まり母性的でなく、母・娘結合が弱いときは、父. るためには、Cは母親との同一化が必要であった。. 親は無意識的に母性的役割を演じてしまうことに. 今回、次男のAN発症を通して、 Cが実母との関. なる。このようなとき、父・娘関係は極めて深い. 係を考え、理解していく上で、Cが実母とうまく. ものとなり、両者ともに離れ難くなる”と述べて. 同一化し、Cの中の女性性が確立されてきたと考. いる。. えられる。一方、実母は“代わりの移行対象を. また、Cは父親とともに過ごす時間が長かった. 新たに求めることが母親の自立を促進させること. ために、父親から男性性を取り入れて同一化する. になる”(橋本、2000)とあるように、犬をCや孫. 機会が多かったのかもしれない。しかし、Cの実. の代わりに依存する対象どして置き、「 ゙らとの依. 母の観点から考えると、「父に必ず告げ口をして. 存関係から献身的な母親として、自立しようとし.
(10) 164. 発達心理臨床研究 第14巻 2008. ているのではないだろうか。. ようとすると、「執着してしまって、あの子がい. (iv)ケース4. なくなったら私自身が困ると思っていた」とある. Dの母親は、中絶という身体的にも精神的にも. ように、Dはそれをさせないようにした。このよ. うらいことを行うために、Dを一緒に病院へ連れ. うなことから、Dにも長女との分離不安一長女の. て行き、そのつらさをDの中へ投影し、和らいで. 影に潜む、自分の母親との分離不安一が深く存在. いたと思われる。幼いDだからこそ、まだ母親か. していると考えられる。. ら内面的にも離れられずに一体化しやすい状態に. しかしその後、Dは自分のことを振り返って考. あったので、母親は自分の感情を投影しやすかっ. えるようになり、現在は“問題を自覚化させ、意. たのだろう。:そのような負の感晴を投影され続け、. 識の中に統合していくことによって、母親の精神. 表面の生活上では干渉どころか世話も十分にされ. 的健康が回復し、子どもを守ることのできる親に. ずにDは育った。そしてDは母親と距離を置くよ. なっていく”(田中、2004)というプロセスを経. うになる。しかし一方で、「母に好かれたいと思っ. ている途中であるといえるのではないか。. ていた」ように、母親からもらえずにいた愛情を. ただ、Dがいまだに嫌いな母親と共に暮らして. どこかで求めていたと推測される。そしてそれを. いるのはなぜな㊧だろうか。やはり、“母親に愛. 訴えるために、“素行の悪さ”をDは表面上に見. されたい欲求”や、“葛藤を解決したい”という. せ始めたのではないだろうか。. 思いが強く残っており、それをまだうまく処理で. その後Dは長女を産み、世代間伝達の問題が長. きていないから、ということが理由として挙げら. 女にも影響していく。Dは実母と同じように、仕. れると思われる。田中(2004)は、‘‘関係性の複. 事が多忙で子育てを十分にできずにいた。まさに. 雑さの中で、親がどうであれ、子どもはそこから. 実母とDの関係が長女との関係に転移されている。. 自分の人生を自分でつむいでいくしかない”と述. そして姉が急死することで、今まで自身の苦し. べている。これは、Dと長女両者に対して課せら. みやつらさ、不安を姉とDに投影していた母親は、. れるごとであると思われる。それらをうまく行っ. それらをDにしか投影できなくなったのである。. ていくことができるようになれば、1っ屋根の下. 「すべてのことがDにのしかかり」、Dはついに甲. で生活する“母親一D一長女”において伝達され. 状腺の病気と不安神経症を発症する。これについ. てきた問題も変化し、3世代の関係性もよい方向. てDは、「嫌われていると思っていた」から「大. 今変わっていくのではないか。. 嫌いになった」というように、母親に対して投影. (2)母親への支援策. 同一化していた感情を自覚できるようになったと. 本研究において、対象者である母親たちが自身. 思われる。. の中の奥深くに存在する思いに気付き、世代問伝. その後長女は、ANを発症し、過食嘔吐をする. 達の問題を少しでも意識できるようになるために. ようになる。「その頃に私の布団に入ってきて、. は、様々な角度からの援助が必要であると考えら. 一緒に寝るようになった」ということから、長女. れる。その支援策の中ではまず、母親に対する個. はDに対して退行するようになり、長女の依存と. 人面接(カウンセリング)が重要なものの1つと. 分離不安の問題が改めて顕在化する。しかし、こ. して挙げられるだろう。. の問題は長女だけではなく、Dにもまだ存在して. 面接過程の中で母親は、はじめは子どもの問題. いたといえる。Dは自分の母親との間に融合関係. のみを語るが、その後、抑圧されていた気持ちや. を得られてこなかったこともあって、その思いを. 問題に段々と気付いていき、理解を得ていくよう. 長女に投影し続けた。つまり、融合関係を強制的. になるというプロセスを辿ると推測できる。だが. に長女に求めていたと推測される。だが長女の素. このように辿るまでには、母親の中にも不安や否. 行が悪くなり、長女が強制的な融合関係から脱し. 認の感情が起こり得る。よって面接においては、.
(11) 高橋・辻河・高宮・植本: 神経性食欲:不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題 165. このような母親の苦悩を受け止め、共感・受容す. 〔引用文献〕. ることで混乱を落ち着けさせることが必要である. Winnicott DW(1951):Transitional o切ects and. と考えられる。. transitional phenomena. In跣πo〃9乃1)αε漉。’∫c∫’o. さらに、本研究における母親たちは、『ANの親. P5ア訥。一珈α加ぬLondon:Hogarth.北山修(監訳). の会に参加している」という点でも共通していた。. (1990):「移行対象と移行現象」『児童分析か. 親の会の意義は、多くの研究報告から述べられて. ら精神分析へ』岩崎学術出版社. いる。例客ば安川・高宮(2005)によると、.親の. 小此木啓吾:1994 世代間伝達 ク.ラメール著.. 会は“集団の中で新たに参加したまだ初期の母親. 小此木啓吾・福崎裕子訳 ママと赤ちゃんの心. に自分自身の体験を語ることにより自身も新たな. 理療法 第2章 注3 pp60−61.朝.日新聞社(C. 気づきを得る、などセルフヘルプ的な意味”をも. ramer、 B. Profbssio且Bebe Calmann−Levy、 Paris.. っといわれている。. 1989). このほかにも、家族全体に対する心理教育的な. 加川真弓(2006):強迫的性格をもつ摂食障害女. アプローチ(家族教室など)の必要性もあるだろ. 子への心理療法過程一摂食障害例において強迫. う(西園、2001)。また、低年齢化する摂食障害. 的な生き方をあつかう意味一 心理臨床学的研. の問題に関しては、ANの子どもがまだ学生であ. 究24(5)、PP57i−582.. ることも多いので、支援としては医療機関だけで. 梶巌・並木正義(1986):母子関係からみた神. はなく、教育機関も重要であると思われる。特に. 経性食欲不振症一母子一体感を得ることの重要. 担任や養護教諭、スクールカウンセラーらが母親. 性について 心身医学 26(4)、pp333−342.. の不安(特に子どもの学校生活に関して)を受け. 河合隼雄G980):家族関係を考える 講談社現. 止め、支持的に接することで母親も安心して学校. 代新書. に子どもを預けられ、.その間少しでも子どもと距. 切池信夫(2006):摂食障害 精神医学、48(4)、. 離をとることができ、自分の気持ちを落ち着ける. pp356−369.. ことができると思われる。また、様々な援助機関. 館 直彦(2005):摂食障害の精神病理一対象関. を利用する際、情報の乏しさのためにどの機関を. 三論の視点からの理解一 思春期青年期精神医. 利用すればよいか困惑する母親に、彼らが橋渡し. 学15(2)、PP 145−154.. 役となって助言し、支援することも可能である。. 田中千穂子(2004):「世代間伝達」の功罪(特. (3)今後の課題. 集母子愛着をめぐって)教育と医学、52(5)、. 本研究において目的を検討していくためには、. pp401−410,(教育と医学の会編/慶鷹義塾大学. 母親1人1人の語りを深く聞き取り、その内容を. 出版会). 詳細に考察していくことが必要だと思われた。ま. 西園マーハ文(2001):家族は摂食障害とどう向. た、 “親の会に参加し、かつ個別面接にも来てい. き合うか こころの科学 98、pp2−9. る者”という限られた対象ゆえに、対象者として. 橋本やよい(2000):母親の心理療法一母と水子. 選出されたのは4名という少人数であった。. の物語一 日本評論社. しかし4名という少人数ではやはり信頼姓に限. Harlow HF、 Mears C(1985):ヒューマン・モデ. 界が生じることも考えられる。よって今後の課題. ル:サルの学習と愛情 梶田正巳(訳) 黎明. としては、対象者を増やすなどをして研究の幅を. 書房. 広げ、ANの母親における世代間伝達のパターン. 藤山直樹(1992):子どもの心的変化の「容れ物」. を見つけることを検討していきたい。. としての親面接について 思春期青年期精神医 学2(2)、pp 199−210.. 真野初美・佐藤和子(2002):中学校・高等学校.
(12) 166. 発達心理臨床研究 第14巻 2008. におけるアンケート調査より 東海学校保健研 究26(1)、pp49−57.. 安川智子・高宮静男(2005):神経性無食欲症の. 子どもをもつ母親の心理的変化過程精神科治 療学20(8)、pp827−834.. 渡辺久子(2000):母子臨床と世代間伝達 金剛 出版.
(13) 高橋・辻河・高宮・植本:神経性食欲不振症の子どもをもつ母親の語りからみた世代間伝達の問題 167. Problems of intergenerational transmission view6d in narrative by the mothers who have children with anorexia nervosa. Ayumi TAKAHASHI*, Masato TSUJIKAWA*, Shizuo TAKAMIYA*.*&Masaharu UEMOTO*** ・Hy。9。 U。iversity. **Nishi−Kobe Medical Center ***Kobe−shi nurse University. The puΦose of this study is to fbcus the mothers who have children with anorexia nervosa(AN)and to consider the problems of intergenerational transmission in which the mothers have been entangled. The method.is. to have丘ve interviews by half s血cture飴㎜ula with each of the 4 mothers. They have chil山len with AN and have participated in self」help group fbr parents as well as taken counseling sessions. They are asked how they had. changed their fbelings towards their children and their o㎜mothers. As a result, it indicates that relationship disturbance between the mothers and the childlen have. been transmitted throμgh intergeneration. Moreover, it clarifys that the mothers can build up desirable relationships with their children by looking back the past while. taking the opport㎜ities of chikken,s AN and then renecting on their unconscious艶elings towards their mothers.. Key Word:anorexia nervosa, intergenerational transmission, mother三child relationship experience being brought up.
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