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開発途上国における水と衛生

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Academic year: 2021

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水は、われわれの生活や活動を支える最も基本的な要素の一つである.水は、生命を維持する上に必要なだけでなく、清 潔で快適な日常生活を営み、生産活動を行う上でも必要不可欠である.そのため、人々は水との深い関わりあいを持ちなが ら、生活の基盤を築き、文明や文化を育んできた.そして、今日においても、水は様々な形で人々の生活や活動に重要な役 割を果たしている. このように重要な資源である水を必要に応じて常に確保することは、時にはわれわれにとって大きな負担である.地球上に は、水の豊かな地域もあれば、水に乏しい地域もある.中でも水に乏しい地域では、水を確保するために多くの労力が費や されている.手近に水が得られない場合には、水汲みが家事労働のうち大きな割合を占める.しかも、世界的にほぼ共通し て水汲みは主婦の仕事とされており、主婦は苛酷な労働を強られている.また、多くの地域では、これまで水を確保するた めに激しい争いが繰り返されている.水資源をめぐる国際的な紛争の勃発も今後大いに懸念されているところである. さらに、水の量を確保することと併せて、水の質を確保することは極めて重要である.病原性微生物などによって汚染さ れていない清浄な水を確保することは、健康な生活を営む上での基本的な要件である.例えばわが国においては、衛生的な 水の確保が公衆衛生の向上に大きな役割を果たしてきた.しかし、開発途上国においては、今日なお、衛生的な水の確保が 困難なため、多くの人々の生命が、コレラ、赤痢、腸チフスなどの水系感染症によって脅かされている.また、今、バング ラディシュやインドなどでは、広範な地域で井戸水が高濃度のヒ素によって汚染されており、ヒ素中毒患者が多発するとい う極めて深刻な事態が発生している.開発途上国におけるこれら状況は、衛生水準の低さだけでなく貧困や都市化ともまた 深く関わっている. 今日、わが国では、開発途上国などとは状況が全く異なるが、飲み水と健康に関する一般の関心はこれまでになく高い.ダ イオキシンや環境ホルモンなど、新しい汚染物質が次々と話題に上るようになってきている.このような傾向は、一方では非 常に好ましいことであるが、他方では不安が先立つあまり、生半可な知識に基づいて行動するような場合もないとは言えな い.そのため、正しい知識の普及を図り、正確な情報を伝えるといったことは、わが国においてもますます重要になってきて いる.そして、それと同時に、飲み水と健康に関して何が基本的に大切かを、改めて問い直してみることが必要である. 最近わが国では、新興・再興感染症という耳慣れない言葉がよく用いられる.新興感染症とは、これまでによく知られて いなかった新しい感染症といった意味である.また、再興感染症とは、以前から知られており、わが国など先進諸国ではそ の後時代も移り変わってとうの昔に忘れ去られていたが、再び最近になってその存在が無視できなくなってきている感染症と いった意味である.これらの言葉にはなかなか馴染めないが、そのことはともかくとして、今になってこのような形で感染症 に対する再認識を、強く迫られていることだけはたしかである.このことは、われわれに対する警鐘として真摯に受け止めて おかなければならない. 近頃では、海外との交流も盛んになり、それとともに海外で感染症に罹る人も多くなっている.輸入食品による感染症の 発生も無視できなくなってきている.わが国の安全保障を図るためには、近隣諸国の政情の安定が不可欠である.これと全 く同様に、日本国民の衛生確保を図るためには、世界の国々における衛生水準の向上が不可欠である.もちろん、それ以前 のこととして、開発途上国において感染症のために毎日多くの尊い命が失われている現状に、われわれとしても決して無関心 ではいられない.そして、開発途上国においては、多くの場合、これらの感染症は水の衛生と深い関わりを持っている. 命の水とよく言われる.このような考え方は古今東西を通じて共通している.しかし、開発途上国では命を支える衛生的 な水を得ることすら、容易ではないという現実がある.21 世紀を目前に控えた現時点において、水と衛生との関わり合いを 世界的な視野のもとに考え直してみることは、今後の公衆衛生のあり方を考える上で大きな意義があると言えよう. 角井 信弘 229

J. Natl. Inst. Public Health, 49 (3) : 2000

<巻 頭 言>

開発途上国における水と衛生

国 包 章 一

参照

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