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層状コバルト酸化物単結晶において電子スピンが電気伝導をコントロールする「スピンブロッケード現象」を実証

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Academic year: 2021

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(1)

主要な研究成果

背 景

層状ペロブスカイト構造を持つコバルト酸化物RBaCo2O5+x(Rは希土類元素)は、温度変化に伴うスピン 状態の転移や金属・絶縁体転移、電荷と軌道の秩序形成、などの多彩かつ魅力的な振舞いを示すことから、最 近材料物理分野で注目を集めている。その中で電子間クーロン斥力のために電子が動けなくなってしまうよう な「強い電子相関」を持つ遷移金属酸化物が示す様々な新規な物性(例えば高温超伝導や巨大磁気抵抗)を理 解することは、中心的な問題の一つである。当所ではこれまでに、この物質の代表例である GdBaCo2O5+x (GBCO、図 1)の純良な単結晶を作製し、酸素量を変化させたときの物性の変化を調べてきた。

目 的

電子相関の強い系の一つであるコバルト酸化物において電子の持つ「スピン」と「電荷」の自由度が互いに どのように影響し合っており、それがどのような物性を生み出しているかを、電荷の輸送現象を詳細に吟味す ることによって明らかにする。

主な成果

フローティングゾーン法を用いて純良な GBCO 単結晶を作製するとともに、GBCO への酸素ドーピングを精 密にコントロールする方法を確立し、GBCO の抵抗率、ホール効果、熱起電力が示す特異なドーピング依存性 の詳細とその起源を、下記のように明らかにした。 (1)GBCO の輸送現象の振舞いは電子ドープ(x < 0.5)の場合と正孔ドープ(x > 0.5)の場合とで顕著な非 対称性を示す(図 2 および図 3)。特に、正孔をドープしていくと金属状態が現れるのに対して、電子を ドープしていっても系は絶縁体のままに留まる。 (2)上記の現象は、コバルト酸化物では強い電子相関のために「スピンブロッケード」* 1と呼ばれる量子力 学的現象が起こっていることの実験的な証拠を与える。このスピンブロッケード現象のために、コバル ト酸化物の母物質絶縁体(x = 0.5)にドープされた電子は動くことができなくなり、正孔をドープした ときとは対照的な振舞いが観測される(図 4)。 (3)スピンブロッケード現象はナノスケールの量子ドットなどでは既に観測されているが、バルクの酸化物 において、強い電子相関を起源としてスピンブロッケード現象が起こっていることが実証されたのは今 回が初めてであり、量子力学的現象が巨視的物性を支配する例の一つとして大きな物理学的意味を持つ。

今後の展開

本研究により、RBaCo2O5+xにドープされた電荷の輸送現象に関して基礎的な理解が確立できた。今後はこ の基礎の上に立って、この種の物質でドーピングを変化させたときに観測される異常に大きな熱起電力の起源 を理解し、有望な熱電物質を探索するための指針を得ることを目指す。 主担当者 材料科学研究所 材料物性・創製領域 特別契約研究員 A. A. Taskin 材料科学研究所 材料物性・創製領域 上席研究員 安藤 陽一

関連報告書 A. A. Taskin & Yoichi Ando, 「Electron-Hole Asymmetry in GdBaCo2O5+x: Evidence

for Spin Blockade of Electron Transport in a Correlated Electron System」, Physical Review Letters 95 (2005) 176603. 120

層状コバルト酸化物単結晶において電子スピンが電気伝導を

コントロールする「スピンブロッケード現象」を実証

* 1 :スピンブロッケードとは、スピン状態に関する「パウリの排他律」と呼ばれる量子力学的原理のために、スピン の空間的な配置が電荷の動きを妨げてしまう現象である。

(2)

10.先端的基礎研究/材料科学

121

電子ドープの場合

電子ドープの場合

正孔ドープの場合

正孔ドープの場合

図4 スピンブロッケード現象の概念図。絶縁体であるx=0.5のGBCOにおいては全てのコバルトイオンが3価 (Co3+)の価数状態にあるが、電子がドープされると一部のコバルトイオンが2価(Co2+)に変化する。この Co2+がCo3+と電子を交換しながら位置を変えるプロセスはスピン状態の不整合のために起こりにくい。一方、 正孔がドープされたときにできる4価のコバルトイオンCo4+がCo3+と電子を交換する際にはスピン状態の整合 性がよいため、正孔は比較的容易に動き回ることができる。 図1 x=0.5の組成におけるGBCOの構造の 模式図。この組成においてGBCOはバンド ギャップを持つ絶縁体であり、ここからx を減らすと電子が、逆にxを増やすと正孔 がドープされる。 図2 (a)xを系統的に変化させたときのGBCOの抵抗率の温度 依存性の変化。(b)代表的な温度における抵抗率のxに対す る依存性。x<0.5(電子ドープ)では抵抗率は変化しないが、 x>0.5(正孔ドープ)ではxの増加につれて抵抗率が指数関 数的に小さくなる。 図3 (a)xを系統的に変化させたときのGBCOの熱起電力の温度 依存性の変化。(b)100Kにおける熱起電力のxに対する依存性。 このデータから、x<0.5では実際に電子が、またx>0.5では正 孔がドープされていることが確認できる。

参照

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