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マイケル・ハワード党首の下のイギリス保守党教育政策

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1、はじめに  本稿は、1997 年の総選挙で労働党に敗北し、 下野した後のイギリス保守党の教育政策につい て、1997 年以後の動向をふまえ、特にマイケ ル・ハワードの下で検討が進められている教育 改革案に焦点をあてて考察することを目的とし ている。  さて、1979 年より政権を担当してきた保守 党は、1997 年の総選挙でブレアーを党首とす る労働党に歴史的な敗北をきっした。総選挙に 敗れた原因については、特にヨーロッパ政策を 中心とする党内の対立、保守党の幹部や議員を めぐるスキャンダル、サッチャー政権のかかえ ていた政治的政策的矛盾の噴出、党首の指導力 不足、その他様々な分析がなされている。総選 挙敗北後、それまで保守党を担ってきたメジャ ーが退き、若手のハーグ (William Hague) が党 首に就任した。こうして、1997 年以後、ハー グの下で保守党の建て直しが進められることに なった。  党首を引き継いだハーグは、1997 年の選挙 の敗因を分析し、政策を大幅に見直し、党のざ ん新なイメージを打ち出さねばならなかった。 同時に、保守党がかかえる様々な問題、例えば 党本部の負債、組織上の問題、党員の減少と高 齢化、党の支持基盤の拡大、などを解決し、党 の再生を図る必要があった。実際ハーグは、党 組織の問題や党の建て直しに相当のエネルギー を費やした。しかし、その政策形成能力は低下 していた。党の再建も十分にできなかった。こ うして、2001 年の総選挙において再び労働党 に破れ、スミス (Ian Duncan Smith) に党首を 譲った。しかし、スミスも党再生の期待に必ず しも十分応えることができず、2003 年 11 月 にハワード (Michael Howard) が党首に就任し た。こうして、スミスを引き継いだハワードの 下で、長期低迷を脱し、政権への復帰を目指し、 来るべき総選挙にむけて、政策の検討が本格化 してきた。  本稿は、1997 年以後野に下った保守党の教 育政策について、特にハワードの下で進められ ている改革の検討状況を考察しようとするもの であるが、それはまず、論及の空白を埋める意 図がある。1997 年以後のイギリス保守党の教 育政策を論じている文献は、管見したところで はわが国では全くない。またイギリスでも極め て少ない。一般に政権政党の政策や教育政策に ついては、資料は豊富であり論稿も多いが、下 野した場合、文献や情報量が極めて少なくなる。 次に、野党にある保守党の教育政策の検討する ことは、教育政策についての現在の対立軸を確 認する基礎を提供する意味があると考える。こ こでは、労働党や自由民主党を扱っていない ので、その比較は別に行なう必要があるが、そ の争点や立場の違いを明らかにすることができ No.54, pp. 15 − 42, 2004

マイケル・ハワード党首の下のイギリス保守党教育政策

藤 田 弘 之

A Study in the Education Policy of the British Conservative

Party under Michael Howard

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る。保守党については、長期低迷が言われてお り、近い将来に政権を担当できるかどうか明確 ではない。しかし、イギリス教育政策や教育行 政が今後向かう方向を確認するのに、1 つの素 材となると考えるのである。  考察は、2001 年総選挙の選挙綱領を検討し た後、再び保守党が関係を強めているシンクタ ンクの教育政策関係文書を検討する。その後、 スミス以後、保守党の教育政策担当部門が出し た文書を検討し、保守党の教育政策の方向を探 る。  本稿作成に際しては、イギリス保守党本部の 教育政策立案担当者より、直接資料を入手した。 また、これら関係者にインタビューを行い、ま た電話やイーメールでも情報を入手した。なお、 資料は、論文の提出期限である、2004 年 9 月 30 日までに確認したものであることを断って おく。 2、総選挙綱領に見られる保守党教育政策 (1)1997 年総選挙時の綱領  ここでは、党首ハーグの下で作成された総選 挙綱領の教育の部分について検討するが、その 前に参考のために、1997 年総選挙の際の選挙 綱領を示しておく。(1)  さて、1997 年4月2日には総選挙をひかえ、 保守党選挙公約が公表された。この選挙綱領は、 教育問題に関して、1992 年の公約とほぼ同じ、 「教育と機会」という見出しで扱っている。  公約は、子供たちの未来やイギリスの繁栄は、 子供たちの教育の質にかかっていることを述べ た後に、「我々の教育の保障」、「選択と多様性」、 「生涯学習」の3つの節にわけて、これからの 政策を提示している。  第一は、「我々の教育の保障」についてである。  これは教育水準の向上を目指すものである が、これに向けての公約の第1は、イギリスが 教育の全ての部面で国際的水準のトップクラス に位置することを確実にするように、学校業績 の国家目標を設定することである。第2は、各 学校がその業績を改善する計画を立て、また、 同種の他の学校や国家水準に関連づけて目標を 設定することを求めることである。第3は、子 どもが通う学校の業績に関して、あらゆる情報 を親に提供することである。第4は 、 業績のあ がらない学校を水準にまで引き上げる措置を取 ることである。  公約ではさらに、すでに保守党が行ってきた 教育水準向上の手段をより確実に活用すること を述べる。すなわち、 ・初等学校全国カリキュラムを改訂し、簡 素化すること ・テストは自校及び他校の業績の見直し検 討のために重要であるが、このテストの 結果の全てを公表すること ・5歳児の評価の導入を提案するほか、全 ての全国カリキュラムをカヴァーする 14 歳の生徒のテストを導入すること ・テストや試験を厳格かつ正確なものにす ること、すなわち、英語ではスペリング、 句読法、文法を重視し、算数での計算機 の使用は禁じ、テストにあたって本を参 照することは認めないこと ・Aレヴェル試験は「金の標準」に相当す るものとして堅持すること ・宗教のテストは子どもや学校の教育成果 を示し、適切な教育がなされていない学 校を明らかにすること 以上である。このようにテストや試験は教育 水準向上のための梃子として、一層重視されて いる。 公約は教育水準の改善のために取るべき一層 の措置を挙げている。すなわち、 ・成果をあげていない学校を接取し、必要 ならばそれらを閉鎖すること ・各学校が学科の成果を改善するための目 標や計画を設定し、それらを公表するこ と ・学校の独立査察官は、査察の結果、問題 のある学校の結果や改善計画を定期的に 監視すること ・学校の失敗の原因が地方教育当局にある と考えられる場合、当局は水準向上の計 画を明らかにし、こうした計画を履行す るために独立査察官に指揮された教育チ

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ームと協動しなければならないこと ・生徒のテスト成績を反映する厳密、かつ 効果的な教員評価制度を確立すること ・支援を要する教師を確認し、場合によっ てはそれらの教師の置き換えを可能にす ること ・ 将来の教育水準の確保のため、教員養成 のカリキュラムは伝統的な教育方法を重 視すべきであり、それには一斉授業や読 みの学習も含んでいること ・ より多くの教師が、学級での経験に焦点 を合わせた実践的な養成計画によって教 育専門職に入ることを奨励すること ・ 秩序を乱す生徒を排除し、必要な場合に 合理的な物理的抑制を使用するより大き な権限を教師達に付与すること ・ 学校は宗教教育、集団での礼拝を提供す る役割を果たすべきこと 以上のように、改善の具体的方策をより詳細 に提示している。 公約の第二は、「選択と多様性」である。 保守党は政権獲得後、全ての子供たちの多様 な才能のために、また親に選択を与えるために、 十分多様な学校を創造してきたとし、こうした 多様性を一層進めることを述べる。すなわち、 ・親が子どものために望む就学前教育を選 択することができるように、全ての4歳 児を持つ親に幼児教育のヴァウチャーを 与えること ・全ての義務教育年齢をカヴァーすべく国 庫補助席を拡大すること ・更なる教育機会をカヴァーするように奨 学金計画を拡充すること、 ・私立学校の自由と地位を保障すること ・国庫維持学校がこれまで親の支持を得て きたことを考えて、さらなる国庫維持学 校化を奨励し、これらの学校の新設、拡 充と生徒の選抜の自由を与えること ・地方当局管理下の学校が、自らの学校の 管理につき完全な責任を持つべく、自律 性を一層促進すること(すなわち、予算 の配分、教職員の雇用、生徒の入学等に つき自校統治を強化すること、校長の責 任を強化し、明確な性格を持った学校を 形成できること、幾つかの教科において 専門性を発展できること、能力により子 どもを選抜すること) ・技術、芸術、言語、スポーツなどにおけ る専門的な学校を奨励すること ・全ての学校が生徒を選抜することを認め ること ・親が望むなら全ての主要都市において学 校がグラマースクールになることを支援 すること 以上である。このようにして、保守党はそれ が導入し、また進めようとする、教育水準の向 上、教育の選択、教育の多様化等の方策は、全 ての我々の子供たちに最善の結果を生ずるもの と確信している。 第三は、「生涯学習」についてである。 これまで保守党は生涯教育という言葉を使っ てこなかったが、1997 年の公約で、lifetime learning という見出しで、これを述べている。 ただしそれは、主として 14 歳、あるいは 16 歳以上の学生、または成人を指して使われてい る。 公約では、生涯学習はイギリスにおいて現実 のものとなっており、継続教育や高等教育の改 革の結果、こうした教育を享受している人が飛 躍的に拡大したとし、これらの機会をさらに拡 大すべきことを述べたうえで、次のような提言 をしている。 ・教育や訓練の継続する機会を提供すると ともに、これらの教育や訓練が高い水準 を確保すべきこと,具体的にはディアリ ング報告の結果を待って高等教育の発展 を検討すること ・Aレヴェル、またはそれに相当する公認 の資格に通じる適当な訓練や教育を選択 できる学習クレジット (learning credit) を 14 歳から 21 歳までの学生に交付す ること ・職場に基礎を置いた近代的な徒弟制度を 雇用者に奨励すること 以上である。公約は、最後に、「競争市場は

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高い技能を要求している。イギリスが勝つこと ができるためには、学習を奨励し、人々に興味 や探求心を起こさせる機会を人々に与える必要 がある。」と結んでいる。 これにも見られるように、公約を通ずる基本 的な命題は、イギリスの経済的再生、発展、あ るいは世界市場での生き残りにあり、それに 資するように教育水準を向上させることにあ った。1992 年版と比較すると、1997 年の公 約における教育の扱いはより具体的、詳細にな っている。その内容は、1988 年法の基本的枠 組みのさらなる実質化にあるが、就学前教育へ のヴァウチャー、また 14 歳から 21 歳の生徒、 学生への学習クレジットの導入計画、学校側の 児童生徒選抜の復活の許容、グラマースクール の復活容認とこれへの支援、業績評価、査定な どの適用の強化、それに基づく是正措置の明確 化、等の点で特徴がある。 (2)2001 年総選挙綱領  すでに述べたように、1997 年の総選挙敗北 後、ハーグの下で保守党の政策の見直しが進め られた。しかし、この見直しは必ずしも順調に は進まなかった。党調査部は機能していなかっ た。またシンクタンクとの交流も十分ではなか った。様々な改革案が急いで出されたが、それ らは必ずしも一貫性がなく、また党の戦略も方 向性も明確ではなかったとされている。  この時期の保守党において、ヨーロッパをめ ぐる問題、伝統的な保守主義の原則と経済自由 主義の関係、また経済自由主義と国家の主権や 社会秩序などの社会問題との関係等についてな お意見の相違があった。しかし、それまでのよ うな鮮明な立場の相違は解消し、1997 年以後 の保守党は経済自由主義的な立場が主流となっ ていた。対立や論争は、いわば自由主義者の間 の「コップの中の嵐」といわれるものであった。  2001 年には保守党の公約の草案が、「イギ リスを信じること」というタイトルで出された。 その中では、秩序の回復などとともに、労働 党政権の下での集権化を批判し、強いコミュニ ティの回復と社会の安定を強く訴える内容が含 まれていた。すなわち、「我々のコミュニティ の感覚は、集権化の拡大と政府の規模の拡大に よって脅かされている」「強くて安定した社会 の鍵は、地方のコミュニティや制度を信じるこ とである」「 我々は、中央政府の介入の別の計 画、政治的介入の別の言い訳をして全ての問題 に応えようとする人々に抵抗しなければならな い 」 としている。(2) これは少なくともサッチ ャー政権下の保守党の立場を一定修正するもの であった。2001 年の選挙綱領では、「常識の時」 とスローガンが変更され、重点が経済問題、法、 秩序、移民問題に移るが、しかし、こうした集 権化批判は含まれ、教育の部分にも見られた。 ここで、2001 年の選挙綱領の教育の部分を見 てみよう。(3)

 「 常識の時 」(Time for Common Sense) と副 題がつけられた 2001 年の保守党選挙綱領は、 その基本的な目標として、イギリス国民の知恵、 品位、企業精神を解放することを掲げている。 そして、こうした目標は、個々人や家族に、自 らの生活や地域社会を形成する能力をとりもど すことによって達成されると述べている。その 例として、事業家が事業を確立し繁栄を創造で きるように解放すること、公的サービスの利用 者が最善のものを選択できるように解放するこ と、学校、病院、警察で働く人々を絶え間ない 政治的干渉から解放することをあげている。綱 領によれば、労働党政権は干渉、介入政権であ り、個人の自由を侵害し、国民に共通の目的意 識を提供している諸制度を弱めてきた。保守党 は、こうしたことを阻止し、イギリス国民、及 びその常識に信頼をおくことを述べている。  綱領はこうした基本的な立場に立って、教育 問題について述べている。教育問題は「家族を 育成すること」という項目で扱われている。そ れは次のようにまとめることができる。  ①納税者である親は、現在子どものためによ い学校を期待することができないが、それは労 働党が中央省から学校を管理しようとしている からである。校長や教職員は、中央や地方政府 の指示を受ける末端の単なる支店マネージャー に位置づけられる場合、学校で尊敬を得ること ができない。とくに、教職員は、無意味な事務 処理の仕事の結果、相当数が専門職を辞めてい

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る。  ②こうした現状を打開し、親が望むような高 い水準の学校、各々伝統がある学校、はっきり した校風をもった学校、プライドを持って制服 が着られる学校を作るためには、校長に自由を 与えること、親に学校選択権を与えることが必 要である。  ③まず校長に自由を与えることであるが、保 守党は、「 自由な学校 」 を導入し、官僚統制か らイギリスの全ての学校を解放し、自らの校 風を形成する自由を認める。校長や理事は、自 らの学校を経営する完全な責任を有することに なる。すなわち、優秀な教師を褒賞する方法を 選択できること、生徒の責任などにつき家庭と 学校の同意を入学の条件にすることができるこ と、現在の規則を廃止し校長が問題のある生徒 を退学にできること、などである。ただし問題 のある生徒については、学校外に改善センター (Progress Centre) を設け、可能ならば元の学校 に戻れるように、また彼らが問題の克服のため に専門家の援助を受けられるようにする。また、 学校の財源については、政府や地方の官僚によ る浪費を避け、学校に直接提供される財源を増 やすために、生徒の数に応じて直接に学校に財 源が支払われるしくみをつくる。  ④次に、親に教育選択の自由と権利を与える ことである。現在、親の選択には制約がある。 その主な理由は、よくない学校であってもそこ に定員の空きがある場合は、その定員を充当す るために、希望が多い学校の定員が規制され、 一定数以上受け入れられないことである。この 問題解決のために、こうした規制を撤廃し、各 学校が自由に定員を増加させ、より多くの生徒 が入学できるようにする。また、学校新設の自 由を認め、教会、他の信仰団体、親の集団、慈 善基金、会社などが学校を設置できるようにす る。これらの学校は、既存の学校と同様に、生 徒数に応じた財源の交付を受ける。ただし、こ れらの学校は、既存の学校に適用されている基 準に従う必要があり、また査察を受ける。  ⑤学校に問題がある場合、これに気づくのは 官僚ではなく、親であることが多い。このため、 親が学校に問題があると考える場合、教育水準 庁の特別の査察を要求する権利を認める。教育 水準庁が、学校に問題ありと確認すれば、その 管理者を変えなければならない。これはいわば 「親による保障」というものである。  ⑥選挙綱領はこのほかに、学生の卒業後の 学費ローンの返還について、年間所得 2 万ポ ンド以上の人を対象とするよう、その条件を 緩和すること、授業料の値上げを導入しない こと、大学への政治の介入や基金不足を解消 するために、大学がそれぞれの財源を持つこと ができるように、恒常的寄付基金 (permanent endowment funding) を創設することを掲げて いる。 以上 2001 年の保守党選挙綱領を見てきた が、そのなかで、教育問題が扱われたスペース は、1997 年の綱領に比べて極端に少ない。し かし、労働党政権の集権的官僚的支配の批判、 親の選択権の拡大、校長の学校経営の自由や自 律の確保など、保守党の教育政策の基本的な方 向性を示したと考えられる。 ハーグを党首として闘われた 2001 年の総選 挙において、保守党は再び労働党に敗北し、彼 はスミスに党首を譲った。そして、彼について は、「有能なリーダーであることを証明しなか った。彼は新しい出発を託された。党の政策の イメージ、またその組織の再構築の機会を持っ た。しかし、外的制約や個人的な欠点が彼の真 の権威を失わせた。ハーグは政治的回復の多く の基本要件をもたらすことができなかった。」 と評された。また、変化する環境にその政策を 適用させることができず、明確な方針を選挙民 に示せなかったとも言われている。教育につい ては、「――保健や教育に関する積極的なまた 象徴的な政策を欠いていた。」という評価がな された。(4) しかし、上で見たように、彼の下 では具体性は欠くものの、教育政策の基本的な 立場が示され、事実こうした立場は、その後の 保守党教育政策の検討にあたり、基本的な立場 となっていったと考えられる。 3、保守党関係シンクタンクの教育改革案  次項で詳しく述べるが、スミス、およびハ ワードの下で教育政策の立案に関わり、また

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関わっている人物はいずれも、保守党関係シ ンクタンクの関係者と密接な関係を持ち、ま たこれらシンクタンクから出される教育改革 案から一定の示唆を受けていると思われる。こ うしたシンクタンクには、アダムスミス研究 所 (Adam Smith Institute)、教育政策研究セン タ ー (Centre for Policy Studies)、 ポ リ テ イ ア (Politeia)、「政策交換」(Policy Exchange) 等々 があげられる。これらのシンクタンクは、教育 政策に関して様々な文書を出しているが、それ らは親や子どもの教育選択の自由を保障するこ とを基本とする新自由主義的な教育改革を強く 主張していることで共通している。ここでは、 その中でも重要であると考えられるアダムスミ ス研究所発行の 2 つの文書について述べ、そ の後、教育政策研究センター、および「政策交 換」の文書に言及する。 (1)『ヨーロッパから学ぶ―オランダ、デンマ ークの学校制度―』(2002 年)(5) この文書は、ジャステセン (Morgens Kamp Justesen) によって著されたものであり、アダ ムスミス研究所より刊行されたレインボウ文書 (The Rainbow Papers) の中の一冊である。レ インボウ文書は他に、チャータースクール、ヴ ァウチャー計画、教育提供の多様化、親の選択 権の保障などの問題を扱っている。 この文書には、アダムスミス研究所の理事長、 バトラー(Eamonn Butler)が序文を寄せている。 それによれば研究所は、イギリスの教育の組織 や提供に新しい考えを取り入れることにより、 学校教育の水準を高めようとする「よりよい教 育のための」プロジェクトに関わっている。現 在イギリスの教育制度は、集権化が進み、現代 のより流動的で多様な変化するニーズに応えら れないこと、こうした画一的なやり方が革新的 な様々な試みを閉塞させたこと、教育サービス は提供者である地方教育当局の意向を反映する ようなものになっており、親は真の意味の選択 を否定され、それは特に不利な地域に住む貧困 家庭において顕著であること、などの問題をか かえている。こうした問題の解決のためには、 その提供形態の検討が必要となるが、このプロ ジェクトは、教育部門での多様な提供の形態に ついて検討するものである。その際、全ての人々 に対する機会の平等を保障しつつ、教育サービ スの受益者としての親にどのような権限を与え るか、個々の学校が親のニーズや求めるものに どのように応じるか、が問題となる。そして、 個々の子どもに応じ、絶えず最上の実践も求め るインセンティヴの下で、革新的な試みを行な うサービス供給形態の変化に焦点をあてるので あり、親に多様な中から現実的な選択を保障す るための、新しい教育提供の構造の検討が必要 にあるのである。バトラーによれば、この文書 は、以上のような問題に応えるべく、プロジェ クトの一環として刊行されたものなのである。  さて、ジャステセンはまず、現在イギリスの 公的な教育サービスのしくみは政府の努力にも かかわらず、その水準を向上させることができ ておらず、それは例えば、卒業生の取得資格、 読み書きなどの基礎能力などの点で多くの問 題があり、国際比較の上からもそのことを了解 することができると指摘する。そして、こうし た問題につき、特にオランダやデンマークの教 育制度とイギリスの教育制度の比較を行ないつ つ、イギリスがこれらの国の教育制度を参考に して改革を進めるべきことを主張している。  ここではまずジャステセンのまとめたオランダ、 デンマーク、イギリスの学校統治形態、また学校 選択政策の比較表を紹介し、それを参考にしてこ れらに関わる問題を整理する。(6)  比較の第 1 は、学校選択の問題である。こ の問題は 3 つの国で相当異なり、独立学校の 就学率についても異なっている。独立学校への 就学について言えば、オランダは、生徒の 70 パーセント程度が独立学校に通っている。デン マークは 12 パーセントの生徒が独立学校に通 っている。オランダの場合、親や生徒は公立学 校と独立学校のいずれも全国的に選択すること ができる。デンマークの場合、公立学校の選択 は制約があるが、上級中等職業学校の場合は自 由に選択ができる。オランダもデンマークも独 立学校についての規制はなく、独立学校を選択 した場合はその経費を政府が負担する。したが って、両国とも全ての階層の子どもが独立学校

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表1、オランダ、デンマーク、イギリスの学校統治形態、学校選択政策の原則の比較 オランダ デンマーク イングランド及びウエ ールズ 学校選択の可否 可。全国規模で自由な 学校選択が可能。 私立学校、及び後期中 等職業学校について自 由な選択可。公立学校 は地方自治体の政策に より、通学区や地方自 治体の区域の制約があ る。 原則は、公立学校は学 校への登録は可能。実 質上、親の選択は地方 教育当局により、また 学校の供給の規制によ って制約がある。 政府による生徒1人当 たりの教育費負担に基 づく独立学校の選択の 可否 可 可 否、私立学校は授業料 を徴収する。地方教育 当局の公的部門の学校 の中の宗派学校の一部 は可。 政府の財政支出を持っ て私立、独立学校の新 設の可否 可。独立した非営利組 織、 親 ま た は 教 師 は、 学校を設立でき、また 最低基準を満たす限り、 政府の財政支援を受け る。 可。独立した非営利組 織、 親 ま た は 教 師 は、 学校を設立でき、また 最低基準を満たす限り、 政府の財政支援を受け る。 否。定員確保規則によ って学校の設立、拡充 に制限あり。 全国カリキュラムの存 否 在 否。初等、前期中等学 校において、助言的ガ イドライン。 在。後期中等学校のグ ラマースクールについ ては在。 在 全国テストの存否 在 在 在 学校への組織上または 管理上の権限委譲の存 否 在。私立学校の場合管 理機関への移譲。公立 学校の場合、自治体が 全体的責任を持つ。 在。 私 立 学 校 の 場 合、 管理機関への移譲。公 立学校の場合、地方当 局が全体的な責任を持 つ。 地方教育当局は全体的 な責任を持つ。地方教 育当局、学校、理事会、 校長の間で責任の配分 がある。 学校の自治を保障する 規則や原則の存否 在。私立学校は憲法上 の組織の自由によって 守られている。 在。私立学校は、憲法 の原則、また団体主義 の 原 則 (corporatist) に よ っ て 守 ら れ て い る。 地方のコントロールの 伝統は、公立学校を中 央政府の規則から守っ ている。 否 学校財政問題 お金は生徒数に応じて 支払われる。 私立学校、職業学校の 場合、お金は生徒数に 応じる。公立学校の場 合、地方自治体から移 譲される予算。 予算の移譲及び公式に 基づく財政。 政府の経費負担率 100% 私立学校の場合、80-85 % 100%

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に通えるようになっており、両国の学校選択政 策は、親や生徒に広い選択を与えるものである。  こうした両国の体制は、イギリスとは著し く相違する。イギリスの場合、独立学校を選択 した親は、その経費を全て自分で払わなければ ならず、政府からの支援は全くない。したがっ て、一種の“階級的アパルトヘイト”が生じて いる。イギリスでは公立学校について開放登録 制が導入されたが、実際上は地方教育当局の入 学政策によって、親や生徒の学校選択は著しく 制約を受けており、また定員確保規則 (Surplus Places Rule) などによって学校の新設も厳しく 制限されている。通常生徒の学校への配分につ いて、親より地方教育当局がはるかに大きな発 言権を持っており、真の選択は全くなく、選択 については「官僚的パロディ」があるにすぎな い。  第 2 は、教育サービス供給の問題である。 学校選択の自由の前提条件として、親が幅広い 選択メニューを与えられることが必要であり、 既存の学校とともに他の学校を設置する自由、 学校の新規参入が認められる必要がある。オ ランダやデンマークの場合、原則的に誰でも新 しい学校を設置することができる。営利を求め る会社が政府から財政支援を受けることはない が、親や教師、非営利組織は、一定の生徒の登 録数を確保するなど最低限の要件を満たせば新 しい学校を設置することができ、政府から財政 支援を受けられる。このように自由に学校を提 供できる政策は、競争のメリットの面を生かす ことができ、これによって問題のある学校は排 除された。オランダの場合、競争はイデオロギ ーの問題ではなく、全ての学校で当然のことと 受け取られている。親は、学校が提供すること に満足できなければ、ごく簡単に子どもがその 学校をやめ別の学校を選択する権利を行使でき る。学校は従ってお互いに競争することを強い られ、生徒を獲得できるよう学校教育の質を高 めざるをえないのである。デンマークの場合、 公立学校間の競争はほとんどない。しかし、公 立学校は、独立学校の拡大にともなう実質的な 競争にさらされる。独立学校は、他の独立学校 および公立学校との競争に直面する。したがっ て、間接的な方法ではあるが、競争は公立学校 に及ぶのである。現在いくつかの自治体で生徒 の登録数の応じて財源を与える方法を導入する ことによって、公立学校間での競争を促進しよ うとしている。オランダ、デンマークともに供 給サイドを自由化する政策を導入した結果、比 較的大量の、多様な、また競合する独立学校部 門が生じ、選択に当たって親に多様な学校を提 供し、その結果教育サービスの質を改善するこ とにつながっている。  こうした制度に対して、イギリスの場合、定 員確保規則があり、優良な学校の拡大や新設は 著しく制限されている。定員確保規則とは、如 何にその学校が人気がなくても、またそれが提 供する教育が不十分であり不適当であっても、 近隣の学校に欠員があれば新しい学校を設置す ることも、また希望者の多い学校の定員を増や すこともできないという規則である。こうして、 健全な競争、高い質の教育サービスが抑止され るのである。たとえ需要があっても学校の新設 はできず、また既存の優秀な学校の拡大をする こともできず、問題の多い学校は、「保護され た繭の中で」教育を続けることが認められてい るのである。  第 3 は、学校を多様化する反面で、学校の 規制の問題がある。学校に対する規制について、 3 つの国ともにそれが存在しているが、あり方 は異なっている。教員の給与や勤務条件につい て、3 つの国ともに全国的な合意事項と中央政 府の規則がある。オランダやイギリスの場合、 全国カリキュラムが教えられるべきコースにつ いて詳細な規則を課している。ただ、イギリス の場合、全国カリキュラムの規制の程度は進ん でおり、教師は特定の項目をどういう方法で教 えるかについての指示まで受けるような状況に なっている。イギリスの学校や教師は、デンマ ークやオランダよりも相当程度厳格に規制を受 けている。そして、イギリスの教師が教育の官 僚化の重圧を主な理由として、その職を離れる 傾向が続いている。デンマークの場合、初等学 校や前期中等学校では全国カリキュラムといっ たものはない。ここでは教育省が教える内容に ついて大まかなガイドラインを提示している。 ほとんどの学校がこのガイドラインに従ってい るが、一定の学校では、新しいことを始めたり、

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また適当と考えるコースを提供している。ただ、 学校の説明責任は存在しており、学校が失敗し ないこと、また全国的な基準を満たすように、 全国テストが存在している。 第 4 は、学校の自律性の確保である。オラ ンダやデンマークの場合、独立学校は教育の課 程、その管理や組織について実質的な自律性を 持っている。独立学校は、設立に際してイデオ ロギーや宗教の原則について決定できる。そし てそれにふさわしい方法で教育目標の追求をす ることができる。これら両国においては、教育 の領域への政府の介入について憲法上また制度 上の制約がある。これら両国では、その程度は 若干違うが、独立学校については、学校の自律 性が保障されており、生徒数に応じて政府から 財政支援を受けるが、集権的な、トップダウン の管理システムによって抑圧を受けることはな い。 イギリスの学校の場合、これと対照的である。 中央からの官僚的な支配を受け、学校では重圧 となっている。1988 年法で設置された直接国 庫補助学校 (Grant Maintained School) の場合 でも、十分な自律性を確保できなかった。イギ リスの場合、一定の政治的歯止めが必要であり、 学校に多様性、自律性を与えることが必要にな る。 第 5 は、教育財政の問題である。イギリス の場合、独立学校に対して政府が財政支出を していないが、それはEU諸国では少数派に属 する。公立学校財政についても、複雑な財政交 付方式に基づき、また包括的補助金による古典 的な政治的官僚的な制度によって行なわれてい る。オランダやデンマークの場合、親の学校選 択と生徒一人当たりの財政負担を結びつける方 法をとっている。デンマークの場合、後期中等 職業学校については登録生徒数に応じて政府か ら財源が交付される。独立学校の場合も、生徒 一人当たりの額に登録生徒数を乗じた額が交付 される。公立学校の場合は、別に算定される従 来からの定額予算が交付される。オランダの場 合全ての学校は、貧困家庭出身の生徒の割合に ついて一定の配慮を加えた上、生徒数に応じて 予算が交付される。デンマークの場合、親は学 校に寄付をすることができるが、特別費用を徴 収されることはない。オランダの場合、独立学 校は政府が学校教育費の 80 − 85 パーセント を負担し、残りを親が負担することになってい る。しかし、貧困家庭の場合は、無月謝席や親 の負担免除を申請することができる。イギリス の場合、特別の場合を除いて、貧困家庭は私立 学校を選択し、子どもを通わせようと思っても 政府から何の支援を受けることもできない。 第6は、政府の教育費負担と教育費のコント ロールの問題である。自由な学校選択制を導入 した場合、政府の教育への負担が増加するとい う懸念がある。しかし、オランダ、デンマーク 両国とも、学校選択を拡大した結果、政府負担 が著しく増加することにはなっていない。両国 とも、中央による財政負担方式をとっており、 この方式が親の学校選択権を奪うことなく、中 央政府の教育費負担を一定にコントロールして いる。 第 7 は、こうした制度に基づく教育の成果 の検証である。デンマークやオランダと比較し た場合、教育支出と教育の成果との間に明確な 相関はない。イギリスとオランダでは、GDP 比で言えば、同程度の支出を行なっているが、 オランダの方が成果をあげており、数学や理科 で言えばヨーロッパでもトップグループに属す る。オランダの場合、テスト結果では、独立学 校の方が成績がよい。デンマークの場合、独立 学校の生徒が地方の公立学校の生徒よりも成績 がよい。ここでは、独立学校の場合、成績がよ いだけではなく、親の満足度も高い。重要なの は、オランダ、デンマーク両国ともに独立学校 の高い質の教育は、富裕層の特権となっていな いことである。独立学校は政府の支援を受け、 接近の平等が図られている。全ての家族は、富 やその出身関係なく、独立学校を選択できるよ うになっており、全体的に教育制度がイギリス のように階級を反映したものになっていない。    以上、オランダ、デンマーク、イギリスの 3 国を比較したのち、ジャステセンは、「オランダ、 デンマークの教育制度からの教訓は、以下のこ とを示唆するものである。すなわち、教育の市 場型の制度(すなわち、自律性、選択、競争) は、親の選択についての納税者の支援と結びつ

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くとき、質、アクセス、効率、応答性などの全 体的な目標を達成することに向けたイギリスの 努力において大いに参考になりうる。イギリス の学校の提供と財政負担の比較的小規模な改革 は、ここでも同じ効果の一定のものを達成する ことができるのは疑いないと思われる。」と述 べている。(7) ジャステセンは、以上のような考察を基礎に、 イギリスにおいて学校選択の公的障害を取り除 くこと、すなわち、学校選択を強化すること、 税金で支援される教育の中で、学校の設立、管 理、拡大を自由化すること、を主張している。 そして、イギリスで必要な改革として次のよう な点を指摘している。 ・ 親の学校選択の表明を認め、地方教育当 局による学校配分のコントロールをやめ ること ・ 親が全ての学校への無制限のアクセス権 を与えられる場合、全国規模の選択計画 を導入すること ・ 親や生徒に独立学校を選択できることを 認め、政府はそうした選択をした場合財 政負担をすること ・ 定員確保規則を廃止すること ・ 教育関係企業、非営利団体、親、教師な どが新しい学校を設立する権利を保護す ること ・ 新設学校が政府の財政支援を受ける資格 を満たす最低要件を定めること、またこ れらの要件をアウトプットの業績測定に 焦点をあてること ・ デンマークの例にならい全国カリキュラ ムを廃止すること。そして、学校の革新 や多様化を認め、試験制度によるアウト プットの測定により基本的な共通水準を 確保すること ・ 地方の自律性を確立すべく、全ての学校 に自治機関としての法的地位を与えるこ とにより地方教育当局から全ての学校を 解放すること、親や共同体に最終的な統 制を認める学校管理委員会を強化し、そ の脱政治化をはかること ・ 学校の基金を生徒一人当たりの積算基金 を導入することによって親や生徒の選択 や優先に直接基づくようにすること、た だし、低所得家族や不利な条件の下にあ る地域へはより多くの支援を与えること ・ ほとんどの学校基金の財源として税金を 充当すること、全国的な制限を設け、学 校は全体予算の配分のために競争するよ うにすること ・ 親や会社、私的による財政的寄付を学校 になすことを認めること ・ 教育改革に関して政党を超えた合意を目 指すこと、学校は将来についての政治的 に不確実性のない環境で自由に経営する ことができるべきこと  ジャステセンを続ければ、こうした改革の基 本は、自由な学校選択を、生徒一人当たりの積 算基金に基づく学校財政の公的負担と結びつけ ることである。すなわち、学校の予算を、直接 生徒を獲得し、また保持する数に応じて交付す ることにすることである。また、いろんな組織 や親、教師に、学校新設や既存の学校の拡大を 認める供給サイドを自由化する政策によって、 こうした選択や財政の改革は競争を活発にし、 また学校の応答性を強化する。オランダやデン マークにおいて見られるように、選択や競争、 地方の学校の自律性を強化する一方、教育の提 供を、規則や教育財政から分離することによっ て、今日のイギリスの伝統的な中央集権的な、 またトップダウン形式の統制機構を変え、より よい結果を得ることができる。消費者に焦点を あてた行政の推進は、公的サービスの他の部分 と同様に、教育において適当である。 彼はこのように述べ、ヨーロッパ、特にオラ ンダやデンマークの消費者中心主義の、開放的 で、多様な教育制度を取り入れ、学校の提供、 財政、規則などにおける国家の役割を再定義す ることによって、イギリスの教育を変えること ができると主張するのである。   (2)『よりよい教育を提供すること―教育改善 のための市場原理による解決―』(2003 年)  トゥリー (J.Tooley)、ディクソン (P.Dixon)、 スタンフォード (J.Stanford) によって著された

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この文書は、同じくアダムスミス研究所の「よ りよい教育プロジェクト」の一環として発刊さ れたものである。ここで著者は、教育改革の基 礎となる平等、自律性、多様性という 3 つの 核になる原則を検討した後に、市場原理に基づ く幾つかのアプローチとその効果を検討し、最 後に市場原理に基づくイギリス教育の改革の提 案を行なっている。以下、この文書を整理する。 (8) 今日、教育への市場的アプローチは世界で一 般的になっており、子どもや親に恩恵をもたら すことが明らかになってきた。すなわち、教育 水準の改善、不利な状況にある子どもの教育へ のアクセス強化、選択、多様性、健全なるイノ ヴェーションの発展、教育制度へのより大きな 投資などである。しかし、イギリスは遅れてい る。イギリスがこうした革新的な制度を取り入 れ、教育政策を解放する時期が来ている。 こうした改革を考えるとき、特に次の 3 点 を目標にして行なわれるべきである。すなわち、 第1は、問題を生じ、惰性に陥っている学校に いるすべての生徒が、容易に別の学校に移れる ことを保障することである。(全ての者のため の機会の平等の原則)、第 2 は、別の学校への 転校のシステムによって、問題の公立学校の教 育改善を促すことを確実にすることである。(教 育水準向上の原則)第 3 は、新しい教育供給 者が参入できるように奨励すべく、非公的部門 を刺激すること(選択、多様性、革新の保障と ともに、公的部門の教育水準引き上げのための 競争を奨励すること) こうした目標を達成するために、次の 3 つ の改革が提案できる。その第 1 は、Aプラス 計画とも呼ばれるもので、対象を絞った教育ヴ ァウチャー計画である。すなわち、現在問題の ある公立学校で学ぶ生徒に転校の機会を与える ものであり、彼らにヴァウチャーを支給し、教 育改善の希望がもてる私立学校への転校を可能 にするものである。このヴァウチャーは、イギ リスの既存の独立学校の他、新たに設立される 私立学校で使用可能にするものである。これに より、既存の公立学校の教育改善に刺激を与え、 また学校の新規参入を可能にしようとするもの である。 第 2 は、普遍的ヴァウチャー計画である。 すなわち、生徒にスエーデン型のどこでも利用 可能な学校選択権を交付し、学校選択の自由を 保障し、学校間の競争を刺激し、教育の水準を 高めようとするものである。 第3は、教育税クレジットとも言われるもの で、私立学校に通う生徒を持つ親に一定の認め られた額まで所得税の減税を提供しようとする ものである。これにより、私的教育へのインセ ンチヴが高まるであろう。  これらのいずれの提案を採用するとしても、 これらの改革は教育機会を多様化すること、公 的機関は財政を負担するが、それのみが教育を 提供できるという原則を改めることが前提とな る。このような提案を採用することにより、次 のようなことが生じる。 第 1 は、公的部門と私的部門の間の障壁が 壊れることである。第 2 は、スエーデンやド イツに見られるように、公的部門の改革によっ て可能になるよりも、急速に多様化を拡大でき ることである。第 3 は、公立学校が新しい考 えを早く取り入れ、また親の要求に応えるよう になることを刺激するようになることである。 以上述べたヴァウチャーを基本とする上の 3 つの提案には反対がある。これまでもヴァウチ ャー計画については反対があり採用されなかっ たが、現在次のような状況を指摘することがで きる。 第 1 は、今日世界ですでに多様な実践があり、 多くの証拠がある。これらを冷静に検討するな らば、ヴァウチャーのプラスの影響を了解する ことができることである。 第 2 は、これらの提案が拒否された 1980 年代と異なり、これらの政策について、政党間 で歩み寄りが見られる状況にあることである。 第 3 は、旧来のヴァウチャーという用語が、 学習経費 (learnig accounts) とか、パスポート とか言う用語で表され、新たな装いで論じられ ていることである。 第 4 に、特に 1980 年代のヴァウチャー批 判の最大のことは、これが公費を増加させる恐 れがあるという点であったが、しかし、海外の 実践を見る限り、コスト増につながっておら

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ず、教育費のコントロールが可能であることで ある。 第 5 に、2000 年以後の世論調査で、低所得 層が独立学校の教育を受けられるよう公金で援 助することを支持する立場が 60% を越えたこ とである。すなわち、これは対象を絞ったヴァ ウチャー、または税クレジットを支持する意見 である。また、成人人口の 50%以上がお金に 余裕があるならば、子どものために独立学校を 選択するであろうと答えている。こうした支持 は、すべての政党の支持者に見られる。こうし たデータを見る限り、対象を絞ったヴァウチャ ーや普遍的なヴァウチャーへの支持は高まって いると考えられる。 以上のように論じつつ、この文書はイギリス が早急に以上の提案を基礎とした教育改革を行 うよう提案している。 (3)『よりよい学校と病院――なぜ親や患者の 選択が機能するのか――』(2004 年)  この文書は、2004 年 6 月に政策研究センタ ーから発刊されたものであり、最近のセンタ ーの位置を確認できる。著者はブラックウエル 卿 (Lord Blackwell) である。ブラックウエルは、 1995 年から 1997 年まで、メジャー政権下で 首相政策顧問部の長を務めた人物であり、現在 政策研究センターの議長である。彼は、財政学、 経済学を専攻し、ペンシルバニア大学から経営 学修士号(MBA)を受けており、1995 年まで、 経営コンサルタント会社であるマッキンゼー社 に勤務していた。そして、実業界に広い人脈を 持つ人物である。 この文書は、はじめに近年政策研究センター は、教育や保健に関する多くの文書を出版し てきたが、それらは教育や保健の抜本的な改革 の必要性を訴え、議論の先陣を切ってきたこと を述べている。著者によればこれらの政策提案 は、政府は学校や病院を細部まで管理しようと すべきではないこと、親や患者は、自分達の望 む学校や病院を選択する自由を持つべきである こと、学校や病院は、親や患者の要求に応じる 自由を持つべきであること、の 3 つの原則を 基礎とすることで共通している。ブラックウエ ルもまたこの基本原則に基づき、教育や保健の 改革を提言している。以下この文書の主張を整 理する。(9)    ブラックウェルは、大要以下の点を主張する。 ・ 近年、教育や国民保健サービスへの政府 支出が増大したが、現在のサービス提供 の構造や管理のシステムは変わらず、成 果をあげていない。政府は、これらの成 果をあげるために、中央政府の介入や統 制が増大している。特に、教育について 言えば、計画、新規事業の導入、目標設 定、テスト、全国カリキュラムの規制化 などである。しかし、これらは親が望む ような教育の質的水準の向上にはつなが っておらず、教師などの負担が過重とな っている。 ・ 保守党は、生徒や患者の選択の自由に関 する政策を公式に決定した。それは、一 定の制約はあるものの、公的部門でも、 私的部門でも、個々人が選択した学校や 病院において、彼らに付与される公的基 金を使用する権限の行使によって、こ うした選択を保障しようというものであ る。現政権も保健や学校の選択の自由を 極めて限定的ながら、認めようとする動 きにある。 ・ しかし、選択の自由を与えることはすべ てではない。親や患者は、よりよい病院 や学校を望んでおり、親や患者が選択し ようとするこうした学校や病院の供給が 不可欠である。望ましい学校や病院の供 給が抑制されておれば、選択の便益は幻 想である。また業績の悪い学校や病院に は改善に向かうなんらかの圧力が必要で ある。 ・ こうした点で、学校や病院は中央から官 僚機構によって統制されるもであっては ならず、地方の需要に応えるため、自由 でなければならない。専門職がその管理 と責任を持つべきである。また、よい病 院や学校は拡大することを認められ、需 要が十分満たされない場合は、新規参入

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が認められ、新しい学校や病院の設立が 認められるべきである。一定の条件の下 で、学校や病院の供給の自由と個人の選 択の自由がセットになったものでなけれ ばならない。  彼はこうして、個々人に付与されたサービス を受けるためのヴァウチャー、またはそれに相 当するものとセットになった親や患者の学校や 病院の選択の自由を主張している。彼はこうし たことについて、想定される様々な疑問に答え るという形で教育選択の自由とその実質化の方 策をさらに詳細に述べている。そして最後に、 「保健や教育における選択は、単に理論的なも のではない。学校から集権的国家官僚制を取り 除き、専門職に、親や患者が望む質のサービス を運用する自由を与えることは改革に必要なこ とである。こうした提案はいかにして業績の真 の改善を行うかについて実際の経験によって裏 付けられている。それらは公正なものであり、 現在裕福なもののみが享有しているレヴェルの 選択の自由を、恵まれない人々にもたらすもの である。同様のアプローチが海外で試行された 場合は、どこでも、それはより効果的で評判の よいものであった。現在必要なすべてのことは、 それを実施に移すという構想力と大胆さを持っ た政府である。」と結論している。(10) これら の主張は、後述する保守党の政策文書と極めて 類似している。 (4)『学校選択に賛成――国内及び海外での学 校選択計画からの教訓――』(2004 年) こ の 文 書 は、2004 年 4 月 に「 政 策 交 換 」 というシンクタンクから発刊されたものであ る。この 「 政策交換 」 というシンクタンクは、 2002 年 4 月に設立されたものであり、アダム スミス研究所や政策研究センターに比べて、非 常に新しい団体である。「政策交換」の文書に よれば、それは全ての政党からも、また正統と 見られている如何なる考え方からも独立したシ ンクタンクであり、右や左という古い考え方を 認めない。この団体は、コミュニティ、個人の 自由、政府の役割の限定、国民の自己信頼、企 業文化等々を基礎とした自由な社会を建設する ため、新しい政策についての考え方を提起する ことを目的として設立されたものである。すな わち、「我々は自由な社会における強力なコミ ュニティを信頼する。これは市民が国家からの 不必要な介入なしに幸福を追求できる社会とい う意味である。家族、近隣、職場、信仰、過去 などの自然の共同体が繁栄する社会である。そ れは幸福な人が余り幸福でない人々に機会を拡 大するために活動し、弱者に対して援助を提供 する社会である。イギリスの公的サービスに存 在する問題に新しい解決を発展させ、世界のよ り多くの人々に対して自由社会の強力なコミュ ニティの恩恵を拡大する方法を探究することを 目的としている。」(11) これからわかるとおり、 国家の介入を限定し、公的サービスを見直し、 個人やコミュニティの活動を基礎に社会を考え ようとするのである。  「 政策交換 」 は、これまでに地方財政、賃金 問題、暴力や犯罪による犠牲者問題、経済問題、 EU の問題、警察問題、など多様な文書を発刊 しているが、教育問題については、ホックレイ (Tony Hockley) とニエト (Daniel Nieto) によっ て著された、この『学校選択に賛成――国内及 び海外での学校選択計画からの教訓――』とい う一冊しか発刊されていない。  さて、この文書は、「 如何にして普遍的な学 校選択が現実になされるかという問題ほど政策 立案者にとって重要な問題は少ない。」 という 下院議員、ドレル (Stephen Dorrell) の序文か ら始まっている。(12) ドレルによれば、現在、 自由な学校選択の問題が改めて重要な問題にな っており、中産階級にとって当然である学校選 択の自由を全ての家庭に及ぼすことが重要な問 題であると指摘している。この文書は、イギリ スで過去行なわれた就学前教育のヴァウチャー の実践の他、スエーデン、オランダ、アメリカ(ミ ルウオーキー州、メイン州、ボストン)での教 育ヴァウチャーの実践を、学校の新規参入、コ スト等 8 つの観点から分析評価したものであ る。そして、イギリスに参考になる点について 論じたものである。以下、この文書を整理して おく。(13)

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・ 今日では多くの国でヴァウチャー計画が 導入されてきたが、イギリスでは教育ヴ ァウチャーに関する議論は、イデオロギ ー的な常套文句で論議され、こう着状態 にある。学校選択の自由の拡大は、教育 政策の重要な課題になっているが、イギ リスでは、これは進まず、実施すること が困難な状況にある。 ・ イギリスにおいては、独立学校に子ども を通わすことができる親、また希望する 学校の校区で家を購入し、転居するこ とが可能な親が選択の自由を持ち、大多 数は学校選択に実質的に大きな制約があ る。したがって学校選択は少数の裕福な ものの問題になっており、不平等である。 ・ 学校選択を主張するとしても、学校の多 様性や定員には規制が加えられており、 選択は実質的なものにはなっていない。 実際には、ほぼ同様な方法で、同様な教 育をしている、同じような規模の、同じ ような学校が存在している。学校の唯一 の違いは、入学を認められる生徒の社 会経済的階層に相違があることだけであ る。 ・ 現在こうしたイギリスの制度は批判され ており、状況を変えるのにヴァウチャー 計画は有効である。しかし、これについ ては、社会的分離を促進するという批判 がある。しかし、学区制に基づく学校へ の入学は、子ども人生の将来のチャンス を考える場合、その家族の住む住所によ って大きく影響を受けるもので不公正で ある。ヴァウチャーによって、学校選択 の自由を与えることは、家庭の恵まれな い状況を改善する有効な手段である。 ・ 学校選択やヴァウチャーの問題は以前か ら議論されてきたが、いま新たに再び広 く議論されており、例えば、現在多くの 問題をかかえた公立学校をどうするか、 希望者の多い学校の定員をどう増やす か、学校の新設をどう奨励するかなどと の関わりで議論されている。 ・ イギリスでも学校の多様化の試みはある が、それらは中央の官僚が計画し、地方 当局がそのモデルを修正する形になって おり、教育サービスの利用者の望むもの になっていない。 ・ 先述のように、学校選択の拡大は現在党 派を超えて政治的に大きな問題になって いる。海外でのヴァウチャーの実践を分 析の結果からみると、公的、また私的な 教育提供者の両者を含めた教育ヴァウチ ャー計画は、多様な状況の中で成果をあ げており、問題のある学校を改善し、特 に地方の公立学校の質的向上につながっ ている。ヴァウチャーは全ての人々によ りよい教育の機会を提供でき、教育選択 の拡充を検討する際に有効であると思え る。  この文書は以上のような点を述べ、最後に、 「スエーデンやオランダ、アメリカの学校選択 の経験では、それが単にイデオロギー的な空想 ではなく、子供たちに明らかな便益を提供する ことができ、親の間でも支持されており、ヴァ ウチャーは十分機能する政策であることが実証 された。我々の研究の次の段階は、国際的なケ ーススタディから引き出した結論を鑑みて、イ ギリスで学校選択がどうすれば最もよく実施さ れるかを検討することである。」と結論し、イ ギリスでヴァウチャー計画の具体化する必要性 を主張している。(14) 4、ハワード党首の下の保守党教育政策立案 (1)保守党の教育政策形成 2001 年の総選挙で保守党が敗北した後、党 首に選任されたのはスミスであった。彼は保 守党の再生を期し、下野後弱体化した党の政策 形成能力を高めるべく、党本部に新たに政策担 当部 (Policy Unit) を設置した。この責任者に 選任されたのは、クラーク (Creg Clark) であっ た。彼の下にはテート (John Tate) が選任され た。そして、彼らが実質的に教育政策の立案 にあたったのである。スミスはさらに、労働 党政権の教育政策を検証し、学校や大学など

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の重要な領域について新しい政策を検討するた めに、2003 年 1 月に、教育委員会 (Education Commission) を発足させた。この委員会は委員 長バルチン (Sir Robert Balchin) の下で検討を 始めた。(15) スミスの下では、保守党関係の シンクタンクとの関係も親密になり、こうした 団体との交流も活発になった。 党内では党の再生策や政策の方向性について 立場の違いが存在していたが、スミスの下では、 ヨーロッパ問題や税、秩序や犯罪の問題に比し て、公的サービス問題に重点が置かれ、特に保 健や教育の問題が重視された。そして、労働党 の下でのサービスの集権化を批判し、社会的弱 者の支援、分権化の推進が強調された。分権化 については、地方の団体やヴォランタリー組織、 近隣社会の役割を重視し、トップダウンによる 公的サービスの独占的な提供ではなく、予算や 執行を病院や学校、ケアーセンターの現場に任 せることを主張した。また、社会的弱者につい ては、保守党が打倒する 5 つの巨大な悪として、 学校の失敗、犯罪、保健の低い水準、児童の貧 困、老齢者の不安定を上げ、このために 21 に 及ぶ政策を提言した。 スミスのこうした姿勢にもかかわらず、やが てその指導力が疑問視され、2003 年 11 月の 党首選挙ではハワードが選ばれた。しかし、ハ ワードはスミスと必ずしも大きな立場の相違 はなく、教育政策に関しては、基本的に彼の 立場を引き継いだ。ハワードは、影の内閣の教 育・保健問題担当として、ヤオ(Tim Yeo)を 選任し、その下に専ら教育問題を担当するコリ ンズ (Tim Collins) を置いた。保守党の本部に 関しては、スミスが設置した政策担当部を、新 たに設置した保守党調査開発部 (Conservative Research and Development Department) と 一 体化した。そして、この部長に先のクラーク を選んだ。教育問題については、クラークの下 に教育担当としてテートと、新たにクルーガー (Daniel Kruger) が配置され、彼らが実質的に 政策の立案を行なうことになった。保守党の教 育政策は、スミスによって設置されていた教育 委員会も引きつづき検討を続けており、これか らの支援も受けることになった。(16) さて、他の政策とともに教育政策の立案にも 関わっているクラークは、ケンブリッジ大学で 経済学を専攻した後、ロンドン政経大学で博士 号を取得した。そして、アメリカの企業戦略関 係の会社であるボストン・コンサルティンググ ループで働いた後、BBC の営業政策担当長に なった。そして、2001 年に保守党本部に政策 担当部長に任ぜられ、2003 年に調査開発部長 になったのである。彼は、政策研究センター、 経済問題研究所、「政策交換」、アダムスミス研 究所などのシンクタンク関係者と密接な関係が ある。 保守党教育政策の立案は、実質的にテートと クルーガーによって行なわれ、クラークがこれ をチェックしている。このように教育政策に深 く関わっているテートは、エセックス大学にお いて政治学を学んだ後、オックスフォード大学 で修士号をとった。そして、経営コンサルティ ング会社であるマッキンゼー社に勤務し、保健、 通信、個人資産などに関わる仕事に携わった後、 保守党政策担当部の副部長に任ぜられたもので ある。彼もまた、クラークと同じく、政策研究 センター、「 政策交換 」、アダムスミス研究所 の関係者と緊密な関係を持ち、それらから情報 を吸収しているという。クルーガーは、エジン バラ大学において歴史を学び、オックスフォー ド大学にて 18 世紀政治史で博士号を取得した 後に、政策研究センターの研究主任になり、保 健、ヨーロッパ問題、経済問題などを担当した。 そして、2003 年に保守党本部に入ったのであ る。 以上見たように、ハワードの下で実質的に教 育政策の立案にあたっているのは、いずれも経 済自由主義の立場に立ち、またこうした考えを 主張するシンクタンクと密接な関係を持った人 物である。 (2)保守党の教育政策文書  上記のように、スミス、ハワードの下での保 守党教育政策の検討は、実質的にクラーク、テ ートが中心となって行い、後にクルーガーが 加わった。2002 年以後、彼らが中心となって まとめた主な文書として、『置去りにされてい る子どもたち』(2002 年 9 月)、『未熟練労働

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―技能教育の危機―』(2002 年 10 月)、『どの 子も置去りにしない―前進の方法―』(2002 年 12 月)、『全体的政策−労働党指令国家―』 (2003 年 )、『学生の公正な扱い』(2003 年 5 月)、 『生徒達の公正な扱い』(2003 年 7 月)、『選択 の自由―教育問題―』(2004 年 6 月)をあげ ることができる。ここでは、5 つの文書を要約 し、『全体的政策−労働党指令国家―』と『選 択の自由―教育問題―』は別に詳しく論じる。    ①『置去りにされている子どもたち』(17) この文書は、特に都市部の児童の教育問題を 扱っている。これによれば、まず、都市部の教 育が危機的状況にあるとして、GCSE の結果な どに見られるように成績が非常に悪いこと、学 校の規律が非常に悪く、教師への攻撃が頻発し、 彼らの離職の大きな原因にもなっていること、 教師の欠員の比率が非常に高いこと、不利な状 況にある児童の教育的配慮が極めて不十分であ ることなどの問題点を指摘している。 次に、都市部の教育の成否に関わることとし て、教育への支出は主要な要因ではないこと、 学校教育の革新においてリーダーシップや学校 経営の自由が重要であること、学校規律の乱れ は校長権限の侵害による面が多いこと、政府が 行っている達成目標の設定とそれによる管理の しくみに問題があること、親の学校経営への参 加が重要であることを指摘した。 以上を述べた後に、次のように結論している。 都市部の教育が成果に乏しいのは、財政支出が 主な問題ではなく、規律の悪化、教師の不足、 当局による細部に及ぶ学校の管理などの問題が あるからである。都市部の学校が再生するため には、学校の自律性やリーダーシップの自由を 含め、教育の改善に関係ある諸要因が、政府の 教育への集権的なアプローチ、また詳細な管理 によって侵害されないことが重要である。 ②『どの子も置去りにしない―前進の方法 ―』 この文書によれば、「ボーンマスでの 2002 年の党大会において我々は“信頼する”という 共通のテーマを掲げ一連の教育の提案をした。 我々は学校が自らの予算を管理することを信頼 する、教師や理事が高い水準の規律を設定する ことを信頼する、親が子どもに最善の教育を選 択することを信頼する。この信頼というテーマ は我々の提案の全てに通じるものである。」と している。(18) この文書は、イギリス及び海外における最善 の実践を検討した結果であるとし、具体的には、 多くの学校を訪問すること、教師として時間を 費やすこと、コミュニティのグループと出会う こと、デンマーク、ドイツ、オランダ、アメリ カなどを含む他の諸国を訪問することなどによ って検討した結果であるとしている。 この文書は、これらをふまえ教育を改革のた めに次のような提案をしている。 第 1 は、校長が高いレヴェルの規律の水準 を設定することに信頼を与えることである。 その内容は以下の通りである。 ・ 校長や理事会による退学の決定が最終 決定であることを認め、退学の再審査の ための独立出訴審判所 (independent  appeals panels) を廃止すること ・ 家庭と学校間の生徒の行動や出席等に関 する合意事項が実効性を持つことを認め ること  第 2 は、親が自分の子どものため最善の教 育を選択することに信頼を与えることである。 その内容は以下の通りである。 ・ 生徒が広い範囲の学校で教育を受けられ るように公的奨学金 (state scholarships) を確立すること ・ 公費の支出と公的な教育の提供の間の独 占的な関係を壊すこと ・ 信託団体、親、さらに他の集団が、優れ た新しい学校を設立することを認め、そ れが生徒に交付された公的奨学金を受け 取れること  第 3 は、独立した試験制度を信頼できるよ うに再構築することである。 その内容は以下の通りである。 ・ 資格やカリキュラムに関わる当局を政府 から独立させること ・ 試験の負担を軽くするために AS レヴェ

参照

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