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中国における児童福祉と子育て支援に関す る基礎研究

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平成二十八年度 博士学位論文

中国における児童福祉と子育て支援に関す る基礎研究

―日本の現状を参考に―

東北福祉大学大学院 総合福祉学研究科 博士課程 社会福祉学専攻

斎 少傑

(2)

i

― 目 次

序章

1問題意識と研究目的 ………1

1.児童問題の深刻化と児童福祉制度の限界 ………2

2.子育て環境の変化と育児の矛盾化 ………2

3.児童福祉に関する研究の不十分と研究課題 ………2

4.本論文の目的と意義 ………2

2研究方法 ………4

3本論文の構成 ………6

1章 中国における児童問題と児童福祉制度の対応 1中国における児童の問題 ………7

1.児童人口の減少 ………7

2.出生性別の不均衡 ………9

3.要保護児童の増加………10

2中国における児童福祉施策の展開………18

1.児童の権利保障………18

2.児童福祉制度の展開過程………22

2章 中国における子育てを取り巻く社会環境の変化 1家族と地域環境の変化………35

1.家族形態の変化………35

2.都市化の進展と人口移動………38

3.離婚率の上昇………39

2中国における少子化の進行………42

1.人口構造の変化………42

2.合計特殊出生率の低下………43

3.少子化が社会に与える影響………47

3少子化の要因………49

1.人口抑制政策の実施………49

2.晩婚・晩産の進行………51

3章 女性の労働と子育て環境 1女性の労働環境とライフの変化………54

1.女性の労働力率………54

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ii

2.女性の就業率………55

3.女性の職業構造………57

4.女性の雇用形態………60

2男女の家事と育児時間………62

1.男女別の仕事と家事時間………62

2.男女別の家事役割分担………64

3.男女別の育児分担………65

3育児負担と親族の育児サポート………67

4章 中国における子育て支援体制の現状と課題 1保育サービスの現状と課題………70

1.保育体制の展開過程………70

2.保育サービスの形態と規模………72

3.保育に関する行政と財源………76

4.保育者の位置づけと役割………78

5.保育体制の課題………80

2子育ての経済的支援と育児休暇制度………83

1.出産・育児の経済的支援………83

2.出産休暇・育児休業制度………84

5章 考察と今後の課題 1総合考察………86

1.中国における児童福祉制度の方向………86

1.中国における少子化の深刻化と子育て支援の必要性………86

1.日中比較の重要性………87

2本研究の限界と今後への展望………89

引用・参考文献 ………90

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1

序 章

1節 問題意識と研究目的

1. 児童1問題の深刻化と児童福祉制度の限界

2014年に発表された「中国家庭発展報告書」によると,1950年代以前には1世帯あたり の家族数が5.3人,1980年代以降,世帯規模の縮小が急遽に加速し,1990年には平均世帯 人数は3.96人,2012年には3.02人にまで減少してきている。世帯数は43000万世帯 と世界全体の約5分の1を占め,うち核家族世帯が全体の約70%にあたる3億世帯に上る。

さらに,単身世帯や夫婦2人世帯が急速に増加し,2010年には,この2つの世帯の合計は 16000万世帯となり,全体の40%近くを占めた。こうした家族形態の変容に伴い,近 年,児童と子育て家庭をめぐる社会環境は大きく変化し,児童や家庭をめぐる課題は複雑 化,深刻化してきている。さらに,家庭養育機能の低下や様々な家庭問題などの影響で様々 な問題を抱える児童と児童問題が年々増えつつある。

すべての児童に良質な養育環境を保障し,児童を大切にする社会の実現が求められてい るなか,障害のある児童,保護者による適切な養育を受けられない児童(遺棄孤児)や農 村留守児童などが増加している。また,児童労働,児童誘拐,児童の虐待事件などの問題 の顕著化,児童の権利保護に関する社会の関心が高まってきている。こうした深刻な児童 問題のなか,近年,中国の児童福祉に関する研究では児童福祉関連法と児童福祉制度体系 の整備を求める声が高まりつつある。

しかし,実際に,現段階の中国の児童福祉事業の重点は狭義の児童福祉に置かれており,

児童福祉の対象はまだ全社会の児童を含める段階には達していない。つまり,困難な状況 下にある孤児,障害児,遺棄児童,浮浪児などに限定される。中国の狭義の児童福祉事業 のなかでは,児童養護施設―「児童福利院」と「里親養育制度」が中心的な役割を果たし ている。現実的には児童福祉制度における要保護児童の養護施設などの児童福祉サービス だけでは,児童福祉問題の解決には至らない。

2. 子育て環境の変化と育児の矛盾化

中国の子育ての現場では,近年の家庭を取り巻く環境の変化・不安定化による児童の成 長・発達の遅れや歪みなどさまざまな問題が現れ,不安や悩みを抱える保護者が増加して いる。このように,児童だけではなく,親・保護者への支援も求められている。たとえば,

都市部では共働き家庭が多いため,入園年齢未満の児童は祖父母に預けられることが多い。

核家族化と都市化の進行により,祖父母から育児支援が受けられない家庭が増加し,育児 問題が深刻になりつつある。女性の就業は家庭の育児機能との対立し,矛盾が顕在化して いる。

1 本研究では、児童を「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」第 1 条の定義に従い、18 歳未満の すべての者を指す。

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2

2010年の「中国女性社会地位調査」によれば,0~6歳の子どもを持つ18~29歳の都市 部女性のうち,以前は仕事していて,現在は仕事を辞めている方の割合は 26.3%である。

また,現在0~10歳の児童が3歳未満の時,昼間に主に母親が世話をした割合は46.3%,

現在11~20歳の児童が3歳未満の時,昼間に主に母親が世話をした割合は49.3%である。

つまり,10 年間で昼間に母親が3歳未満の児童の世話をする割合は 20 年前に比べて若干 減少しているが,それでも約半分の母親が昼間に 3 歳未満の子どもの世話をしている。さ らに,家庭構造の変化は出ている世代間育児にもある程度の影響が出ている。加えて,一 人っ子家庭の保育の問題と子育て問題も顕著になり,公的支援サービスが求められるよう になっている。つまり家庭の育児機能が発揮できない時に,社会的な子育て支援(保育サ ービス等)の需要が高まる。夫婦の共働きが一般的認識としている背景の中で,社会保障 システムかはまだ完全に整備されておらず,児童福祉制度の対応においても,日本と比べ ても家族・児童向けの社会的支援がまだ十分に重視されていないことが分かる。育児期に 就労する女性にとって,仕事と育児の両立が大きな課題となっている。

3.児童福祉に関する研究の不十分と研究課題

近年の中国における児童を取り巻く社会状況の変化や児童のニーズを把握し,児童福祉 に関する政策課題や,子育て支援体制のあり方を検討した研究は非常に少ない。これまで の研究の多くが児童福祉制度サービス,特に施設養護および里親制度に関する研究として 報告されている。また「児童福祉研究論文」において,その大半は海外の児童福祉関連制 度・政策の紹介という段階にとどまっている。つまり,社会環境の多様化の中で,児童福 祉ニーズを踏まえ,新たな児童問題に対応可能な児童福祉制度についても十分な議論がな されていない。

中国の児童福祉制度が諸外国と比較すると,まだ発達・整備されていない状況について,

数値的な側面から検討するのだけではなく,児童福祉問題の背景の推移や中国の社会的・

文化的要素を踏まえた児童福祉のあり方などを明確にしていく必要があると考えられる。

そして,支援を必要とする児童とその家庭の背景や状況を十分に把握することは,児童の 健全な発達環境の改善を進めていく際に必要不可欠となることは言うまでもない。一方,

近年の社会環境の急変化に伴い,家庭機能と家庭構造の変化は家庭の社会的リスクが高く,

留守児童,貧困児童,障害孤児などの要保護児童問題を発生する大きな要因と考える。以 上述べた要保護児童の家庭生活環境を保障するため,完成度の高い家庭政策を含め,児童 福祉制度・支援の在り方はもっとも重要な課題となる。さらに,乳幼児期の子どもの保育 保障を含め,社会全体の子どもを支援する子育て支援の福祉体制の構築も要請される。そ こで,持続的な社会保障制度の構築とともに,子育て世代への支援制度を検討・整備する ことは喫緊な課題と考えられる。

4.本論文の目的と意義

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3

本論文は,中国の持続的発展にとって大きなリスク要因とされている少子化問題を取り 上げ,未来を支える次世代の児童を健全に育成できる環境の整備を前提とし,中国におけ る児童福祉の現状と課題を明らかにすることを目的とする。また,中国における子ども・

子育てをめぐる社会環境の変化,政策対応のアプローチや考え方の特徴について,隣国の 日本との比較から明らかにすることである。最後に,中国における児童福祉体制の構築を 検討する際の基礎資料とすることを目的とし,同じ少子化問題が深刻している日本の育 児・子育てに関連する児童福祉政策の既存研究をレビューするとともに,中国への適応の 可能性を考察する。

(7)

4

2節 研究方法

本論文では,多様な政府統計および資料を収集・整理して,日中の比較可能な統計を用 い,両国における児童福祉政策と子育ての環境の変化を定量的に把握し,比較制度分析の 観点から分析を行った。本研究では,文献調査,統計データ分析,国際比較分析の研究方 法を使用する。分析方法は公式社会調査データの二次分析を中心に行う。質的データの二 次的利用・二次分析には,主に6つの方法があるといわれている(武田,2015)。第一はオ リジナル調査データを歴史的一次史料として用いる方法,第二は比較研究の素材として活 用する方法,第三はオリジナル調査の時期には登場していなかった新しい概念や視点で,

調査データを再解釈する方法,第四はオリジナル調査の設計・調査方法の再評価,第五は オリジナル調査の分析内容の妥当性の検証,第六はオリジナル調査データを教材として活 用する方法である。既存のデータを利用することの利点として「質の高い優れたデータ・

セットを利用できること」「調査のバックグラウンドとなる資料・情報の収集が済んでいる こと」「オリジナル調査データの追加・補足調査が可能であること」「比較研究の素材にな ること(歴史的,時間的,テーマ的)」「リサーチ・デザインや調査方法について示唆を得 られること」などである(武田,2015)。本研究で用いる主な社会調査は以下のとおりであ る。

【中国人口センサス】(中国全国人口普査)

中国の人口センサスは1953年に始まり,1990年以降は10年ごとに実施し,直近の2010 年人口センサスは 6 回目に当たる。調査は,中国国務院の下に実施本部が設置され,統計 局-統計局地方支部を通じ,約700万人の調査員により調査が行われる。中国では,季節労 働者などの移動者が多いため,普段住んでいる場所で把握する「常住地」方式を改め,2010 年人口センサスでは,調査時点にいた場所で把握する「現在地」方式に変更しました。今 まで6回の調査は 1953年,1964年,1982年,1990,2000年と2010年である。調 査は全国を550万以上の調査区に分け,第6回調査は2010111日零時を調査基準時 として行われた。公表した調査データによれば,2010111日の時点で2010年センサ スによると,中国の総人口は 13 4 千万人で世界第1位(世界総人口に占める割合は 19.4%)となっている。

【中国女性社会地位調査】(中国婦女社会地位調査)

1990年,2000年,2010年に中国全国婦女連と中国国家統計局が共同で3回の「中国女 性社会地位調査」を行っている。調査から中国における女性の教育,健康,労働,家庭,

政治参加などの状況及び変化を知ることができる。この調査は,全国30の省,自治区,直 轄市所在の 404 の県,市,区において実施された。地域と住民を分析の基本単位とし,調 査対象者は男性が8875人(45.6%),女性が10574人 (54.4%)であった。調査対象者の年齢

18~64 歳であり,調査方法は主にアンケート調査を中心とし,インタービュー,討論,

資料調査等といった補助的な方法も取られている。この調査の指標体系は,象徴指標,説

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明指標,修正指標であり,①経済,②政治,③教育,④婚姻家庭,⑤健康,⑥生活様式,

⑦法律,⑧社会的に男女区別に対する視点,以上の8つの分野を包括している。第1回の 調査で被調査対象は41556 人,そのうち男性が20770人で全体の49.98%,女性が20786 人で全体の50.02%を占めている。また,都市部が20669人で全体の49.74%,農村部が20887 人で全体の50.81%を占めている。第 2回調査で被調査対象は19449 人,そのうち男性は 8875人で全体の45.6%,女性は10574人で,全体の 54.4% を占めている。また,都市部 が 9827 人で,全体の 50.5%,農村部が 9,622 人で全体の 49.5%を占めている。第3 の調査で被調査対象者は26171人,そのうち女性が51.6%,男性が48.4%,都市部が52.4%,

農村部が47.6%を占めている(宋,2013)。

【CHNS】(中国栄養調査)

China Health and Nutrition Survey (CHNS)は,Population Center at the University of North Carolina at Chapel (CPC)とChinese Center for Disease Control and Prevention (CCDC)の機関である National Institute of Nutrition and Food Safety (INFS)が国際共同 プロジェクトとして行われているオープンコホートであり,中国での社会的・経済的変化 が,栄養や健康状態にどのように影響するかを明らかにすることを目的に1989 年に開始し た大規模社会調査である。調査対象は9つの省から都心部を含む15地域における0歳以上 4400世帯の 19000人である。調査方法は栄養,公衆衛生,経済学,社会学,中国研究,

人口統計学の研究者を含む国際チームによって3日間の面接である。2011 年までは質問用 紙を用いて自記式で調査を行われていたが,2015年からは Computer Assisted Personal Interview (CAPI)を用いて実施している。調査項目は,仕事 (就業状況,職業),所得,家 事と育児 (家事時間と 6 歳未満児童の世話の時間),身体活動,保健サービス利用率,健康 保険や医療保険利用率,健康状態,食事と運動の知識などを含めている。

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3節 本論文の構成

序章 問題意識と研究目的,研究枠組みと全体構成

序章では,まず,中国における児童福祉問題を取り上げる意義を検討するため,本研究 の問題意識を述べた。つぎ,先行研究などから得た知見より,本研究の目的を定めた。最 後に,本研究の目的を達成するために行った作業(研究方法)を述べたうえ,本論文の全 体構成を示した。

1章 中国における児童問題と児童福祉制度の対応

本章では,中国における社会環境を前提において,中国の児童問題を概観しながら,要 保護児童に注目し,中国における児童福祉制度・体系を明らかにした。また,中国におけ る児童福祉の理念と今後の方向性を考察した。

2章 子ども・子育てを取り巻く社会環境の変化

中国では最近,家族の崩壊が指摘されるようになり,さらに,核家化,晩婚・未婚化,

離婚率の上昇,少子化などの家族の基本的な構成を変化させる現象は数多い。本章はこう した子ども・子育ての環境に関する社会状況の変化を明らかにした。また,中国における 少子化の実態,発生要因と政策の動向を考察した。

3章 女性の労働と育児の両立からみた子ども・子育て環境変化

日本では,高度経済成長以降,女性の労働が質的に増大し,夫婦共働き家庭が一般した ことから働く女性の勤務時間や時間帯,職種などの勤務形態が多様化した(『国民の福祉と 介護の動向』2013/2014)。一方,これらを背景に保育需要は増加し,従来の保育所の通常 保育だけではなく,乳児保育,延長保育,一時保育,障害児保育などの多様な保育サービ スに対する重要が発生した(『国民の福祉と介護の動向』2013/2014)。一方,中国の経済社 会の成長が進むにつれ,女性は益々大きな就業負担に直面し,仕事と家庭の間のあつれき も日増しに顕在化している。仕事と家庭のバランスを欠くと,女性の就業の質に影響が及 ぶだけでなく,家庭の安定,高齢者の世話,育児などにも影響を与える。伝統的な育児は 家庭の中で行い,養育者は特に母と祖父母となる。しかし,近年の社会変化により,女性 の就業は家庭の育児機能との対立を形成して,矛盾が顕在化している。本章は統計データ を用いてマクロ視点から,「中国女性社会地位調査」などのデータを用いて,今日における 中国の女性の労働環境と生活の変化を通して,中国における育児環境について考察した。

さらに,子どもを持つ女性の就労と親世代の育児参加などに着目して分析を行った。

第4章 中国における乳幼児子育て支援体制の現状と課題

本章では,日本における子育て支援サービスの現状を概観しながら,中国の保育体制を 中心に考察した。中国の保育の歴史を振り返りつつ,乳幼児教育・保育の動向と課題につ いて検討し,今後の研究課題を明らかにした。

5章 総合考察,本研究の意義と今後の課題

本章では,中国における児童福祉制度の方向,少子化の深刻化と子育て支援の必要性と 日中比較研究の重要性の三つの側面から今後の課題について検討した。最後に,本研究の 限界と今後への展望を述べた。

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1

章 中国における児童問題と児童福祉制度の現状

1節 中国における児童の問題 1. 児童人口の減少

1-1中国の東,中,西部分布図

現在,中国は総人口の約四分の一が18歳以下の未成年者を抱えている。0歳~14歳の児 童については,中国国家統計局の統計によると,1982年から児童人口は減少する傾向に転 換された。1982年に0歳~14歳の児童人口は33725万人となり,総人口の33.45%を占め,

1990年に31300万人に減少,総人口の27.7%となっている。1995年に33062万人,26.7%

に,2000年に28979万人,22.89%まで減っていた。2010年に実施された中国第6回全国 国勢調査結果によると,0~14歳の年少人口は 2.22億人で総人口の 16.60%であり,前回 2000年の調査時の2.89億人で総人口の22.89%と比べると,児童人口の減少は加速の一途 を辿っている。

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1-1 中国の0~14歳年少人口の現状

人口国勢調査 調査年 0~14歳年少人口 総人口に占める割合

第6回 2010 22,245万人 16.60%

第5回 2000 28,979万人 22.89%

第4回 1990 31,300万人 27.70%

第3回 1982 33,725万人 33.45%

第2回 1964 28,067万人 40.40%

出所:中国人口センサス統計資料より作成

出所:中国人口センサス統計資料より作成

1-2 中国における年少人口(0歳~14歳)の推移

また,経済的格差の影響から,地域により児童人口の割合については表 2 のように,中 部地区における児童人口が最も多く,西部地区は最少である。児童人口の地区分布は明ら かな相違がない。しかし,表 2 から,中国は経済の発達していない地域の児童の生存の状 況がもっと改善しなければならないと見られた。(尚暁援,2011)

1-2 中国・地域により年少人口指数とGDP

地域 0~14歳人口割合 (%)

年少人口指数 (%)

1人当たりGDP (元) 中部

東部 西部

32.95 34.86 32.19

23.54 19.25 29.01

16435.1 40935.1 15124.3

出所:『中国児童福利政策報告2011』P2

年少人口指数(15歳未満人口/15~64歳人口×100)

1元当たり日本円約16.48円,20171月現在

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出生率について,中国の合計特殊出生率を国連の統計で見ると,1970~1975 年平均で 4.86,1975年~1980年平均で3.32であったものが,1980年代以降は急速に低下し,1990 年~1995年平均で 1.92,2000年~2005 年平均で1.83となっている。こうした児童人口 急速に減少する一つの理由は,人口抑制政策(「一人っ子政策」)の実施である。中国では,

1970年代に,世界一の人口を踏まえ,将来にわたって安定した経済社会とするために,国 をあげて人口増加を抑制する必要性が出てきた。そうした中,1979年から,「晩婚」「晩産」,

「少生」(少なく産む),「優生」(子どもの質を高まる)を主な柱とした「計画出産」を行 う政策(「一人っ子政策」)が実施されてきた。その政策の結果は,1982年の児童人口は増 加する傾向から減少へと逆転することとなっている。

出所:『中国児童人口状況2013』より作成

1-3 中国における0~17歳児童人口の動向

2. 出生性別不均衡

出生性比(sex ratio at birth)とは,一定期間(通常は1年間)における男児出生数と女 児出生数の比である。通常,女児100人に対する男児の数で表している。一般的に女児100 人に対して男児105人前後は人口の諸指標の中で安定な数値であり,大抵104から107 では正常値範囲と見なされている。中国の出生性比について,1982年の人口センサス結果 によれば,中国の出生性比は107.6 であり,女児100人に対し,男児は107.6人である。

その後,1990年の人口センサスでは,出生性比は111.3となり,2000年の第5回人口セン サス結果ではさらに高くなり,全国の出生性比は119.9に達し,130を越える地域も現れた。

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さらに,2010年の第6回人口センサスによると,全国の出生性比は121.2に上昇している。

つまり,1980年以降の約30年間に中国の出生性比は急速に上昇し続けたのである(尹豪,

2013)。主な原因について,①農村の主要労働力は男である。②伝統的に男が両親の面倒を 見ると考えられている。③男女の社会的地位の不平等などが挙げられる。この問題の拡大 にもたらされた影響は,長期的には,深刻な結婚難をもたらす。結婚年齢に達した男性の 一部は,配偶者を得ることができない。独身男性の増加,結婚外の性的需要の増加,女性 の誘拐・売買などの社会問題も引き起こすと予想される。

3. 要保護児童の増加

日本では,要保護児童とは,児童福祉法第6条の3によれば,「保護者のない児童又は保 護者に監護させることが不適切であると認められる児童」と定義されおり,保護者が死亡,

保護者が長期療養中,拒留中である場合,保護に遺棄された児童,虐待などで児童に必要 な監護が行われていないと認められる児童が含まれる。

1-3 日本における要保護児童の定義

出所:筆者作成

第二次世界大戦直後の混乱した状況のなかで,児童福祉は貧困や親の死亡などにより保 護を必要とするようになった子どもを施設に入所させ,保護・養育することを中心として きた。近年では,少子高齢化と核家族化の進行,地域連帯の希薄化によって家族のなかで さまざまな問題を抱え込むようになってきており,そのなかで子育て機能が崩壊し,養育 拒否や児童虐待に至るケースが増えている。児童相談所の相談内容から要保護児童の実態 をみると,児童相談所に寄せられ子どもにかんする相談内容は多岐にわっているが,おお むね「養護相談」「育成相談」「障害相談」「非行相談」「保健相談」「その他の相談」に分類 されている。厚生労働省「平成21年度(2009年)社会福祉行政業務報告」によれば,2009 年度に児童相談所が対応した相談件数は37.2万件であり,うち「障害相談」が51.7%と最 も多く,次いでに「養護相談」が 23.6%であり,「育成相談」が 13.9%となっている。「養 護相談」は児童虐待,棄児,保護者の家出・死亡・離婚・傷病などであり,家族環境の問

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11

題が多くを占めている。また,同報告によれば,児童相談所に附設されている一時保護所 では,年間2万人前後の子どもを一時保護している。(千葉,2011)

一方,現在の中国において,様々な児童問題が注目されている。本論文では諸問題から,

要保護児童を着目し,現状について次のように整理した。しかし,中国においては,要保 護児童という言葉はまだ一般的に使われていないが,本論文における要保護児童は家族環 境または社会的環境から養育を必要とする児童に焦点を絞る。中国社会における要保護児 童は,孤児,貧困地域の農村部等から都市に流入した浮浪児,障害児2と出稼ぎ労働者の子 どもなどを含めている。近年,エイズ発病者の残留孤児及び未成年エイズ感染者対策が重 要課題となっている。また,親の病気や薬物使用などを理由に実の家庭で養育困難な子ど もも増加している。

1-4 中国・要保護児童の基本分類と施策状況

児童類型 定義 対象範囲 人数規模 主な要因 保障施策 行政機関 孤児 定義明確 棄嬰,親の養育

困難

総人口万分の 4.44(約71万)

複雑 施設入所,

里親制度

民政部

貧困児童 標準多様 貧困家庭 貧困人口1/3 自然経済 経済的支援 扶貧機関 誘拐児童 定義明確 離婚家庭など 不明 家庭の崩壊 なし 不明 留守児童 定義明確 農民家庭 5800万人 人口移動 就学支援 教育部

浮浪児 大体明確 都市部における 浮浪児童

15万人以上 家庭の崩壊 収容施設 民政部 障害児 定義明確 障害を持つ 2006年まで約

380万人

遺伝,事故 施設入所 里親制度

民政部 被害児童 定義不明 事故,災害など

の被害児童

不明 事故,災害 なし 不明

エイズ孤児 大体明確 孤児 不明 親のエイズ感染 なし 政府保護 病気児童 定義不明 難病を持つ児童 不明 遺伝などの

病気

なし 衛生部 出所:『国家責任与児童福利』2010より作成

3.1 増える孤児

孤児は一般的に,両親・親戚などの保護者のいない未成年(18 歳未満)の者である。狭 義では生みの両親が死別,または行方不明となった未成年を指す。日本では特に戦争で戦 闘や空襲による多くの成人が死亡したため,両親を亡くし,孤児となった未成年者が続出 した.このような孤児は戦災孤児と呼ばれている。また,救護法時代の児童は,孤児,貧 児の収容施設で孤児院時代といわれていたが,最近では純粋の孤児と称せられるものは僅 少となり,大部分のものは環境上養護を必要としている児童が多くなっているのが現状で ある。

2 日本では、障害の「害」の表記については、その漢字のもつ否定的なイメージから障害者の人権をより 尊重するために「障がい」とひらがな表記を積極的に使用することが多いが、本論文では法令で使用され ている表記を用いる。

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1-5 中国・児童総人口と孤児の人数の比較

5回(2000年) 6(2010年)

児童総数 2.89億人 2.22億人 人口総数 22.8% 16.6%

孤児の人数 57.4万人(2005年) 71.2万人(2009年)

出所:『世界の福祉年鑑2012』,P419

中国における「孤児」の概念は様々な定義があるが,近年の孤児生活保障制度の構築に おいては,概ね 2 種類の概念が見られる。①「孤児基本生活保障費」で孤児の対象者は,

両親を失った児童,または両親が行方不明の児童となる。②「孤児の救助事業に関する意 見書」において,救助対象は,両親を失った児童,事実上扶養者のない児童と指摘された。

1-6 中国・孤児保護の現状

2009 2010 2011

孤児人数 71.2万人 65.5万人 50.9万人 児童福祉施設数 303ヶ所 335ヶ所 397ヵ所 入所孤児人数 7.1万人 10万人 10.8万人 社会に分散居住孤児人数 64.1万人 55.5万人 40.1万人

出所:中国民政部「社会服務発展統計公報」により作成

中国民政部2010年の統計によると,民政部に登録されている孤児の人数がここ数年で増 加してきている。2009年の孤児の人数は2005年の57.4万人から15万人近く増え,71.2 万人に達している。また,民政部2005年「全国孤児調査」の結果により,経済的発達して いない地域の孤児の割合が高く,農村部における孤児の人数は孤児総数の 86.3%を占めて いるそうである(尚,2011)。中国の内陸である河南省,山東省等の人口が多い省では農村 世帯の孤児は当該省の孤児総数の95%以上を占める。一方,北京師範大学中国公益研究院 2013年に発表した「中国児童福祉政策報告」によると,中国は毎年約10万人の児童が 遺棄されていることが分かった。現在の中国で児童遺棄の抑制や罰則体制が整備されてい ないのが,児童遺棄が減らない原因の 1 つと指摘された。また,遺棄された児童とりわけ 障害を持つ孤児への支援制度も不十分であるといえる。この調査において,中国における 孤児の年齢はその大部分が6~15歳を占めている(71.5%)孤児問題の発生理由について は,親の病気により養育不能や遺棄などの養育放棄が多く見られる。孤児の養護形態につ いては,児童福利院に入所させ,施設内養護と養育里親など家庭的養育である。

(16)

13

単位:%

出所:中国民政部2005年「全国孤児調査」の結果により作成

1-4 中国・孤児の年齢構成

単位:%

出所:中国民政部2005年「全国孤児調査」の結果により作成

1-5 中国・孤児問題の発生理由

中国では,2006年まで孤児問題の緩和・解決に焦点化した政策的関心は薄く,それに伴 い児童福祉施設・里親家庭など対応も未整備な状況である。20063月民政部「孤児救助 に関する意見書」の発表に伴い,孤児の基本生活保障や支援などを方針や施策は,多くの

「見解」や「通達」が出ている。これらの文章において,生活環境の改善や資金の増額な ど,積極的に孤児の福祉の充実を図るよう示されている。2010 11 月,国務院が「孤児 を対象とする児童福祉制度の強化に関わる意見書」を発表し,孤児の扶養,基本的生活,

教育,医療,就職や住宅などの保障を含む政策の強化を求めた,これは,孤児を対象とす る福祉制度への整備を意味している。中央政府はまた,孤児の生活費に充てる経費を25 元(2011 年まで 36 億元)捻出し,特に中国東部,中部と西部地区の孤児に,毎月定額の 生活費を補助することを決定した。現在の基準は,児童養護施設に入所している孤児に都 市部や農村部に問わず1人当たり1000元が支給さえる。

(17)

14 3.2 障害児

日本では,障害児の定義について,「児童福祉法」では「身体に障害のある児童,知的障 害のある児童又は精神に障害のある児童(発達障害者支援法第2条第2項)」(第4条第2 項)と定めている。身体障害には,視覚障害,聴覚・平衡感覚障害,音声・言語・そしゃ く機能障害,肢体不自由,内部障害,ヒト免疫不全ウィルスによる免疫機能障害があり,

障害の程度が最も重い1級から7級までの等級がある(千葉,2011)。厚生労働省が5年ご とに行う調査では,201112月現在,18歳未満の障害児では,0歳~9歳が39800人,10

歳~17歳が32900人と推計されている。性別については,男は50.4%であり,女は49.1%

となっている。一方,2005年に厚生労働省が行った「知的障害児(者)基礎調査」では,

知的障害児とは「知的機能の障害が発達期に現れ日常生活に支障が生じているため,何ら かの特別な援助を必要とする状態にある者」とされている。2011 12 月に厚生労働省が 行った「生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)」によれば,

0歳~9歳の在宅知的障害児は59000人であり,10歳~17歳の知的障害児は92900人とな っている。

一方,中国の「全国第2回障害児調査」の結果によると,200641日まで,0~17 歳までの障害児童は総数504.3万人であり,障害者総人口の約6.08%を占めている。また,

0~14 歳までの児童は386.78万人であり,0~14 歳までの児童総人口の4.66%を占めてい

る。また,障害種別については,図1-6のように知的障害,多重障害,肢体障害などが多く を占めている。

出所:『中国障害児現状分析と対策研究』2008より作成

1-6 中国・障害児の障害種別状況(2006年)

また,障害児の男女別については,男児58%と女児 42%と構成され(図 4),1987年の 1回全国障害者調査の男児56%,女児44%との差は顕著ではない。(1987年の障害児男 女比は126:100)

(18)

15

出所:『中国障害児現状分析と対策研究』2008より作成

1-7 中国・障害児の性別構成状況(2006年)

3.3 浮浪児の増加

中国では,都市化の進行,人口移動,収入格差などの原因によって,路上の浮浪児の数 が増えつつある。中国民政部の推計によると浮浪児は 15 万人を超えている(沈潔 2007:

40)。浮浪児の実態について,広東省の児童保護センターは年間 1000人以上の浮浪児を保 護している。同センターが実施した調査によると,浮浪児になった原因でもっとも多いの は「家庭の問題」であり,割合は約48%である。「家庭の問題」はさらに「貧困」「両親の 離婚」「両親の不仲」「虐待」に分類できる。「家庭の問題」以外の理由により浮浪児にな った児童は調査全体の22%である。「仕事をして金を稼ぎたい」「世間を見てみたい」など の理由となっている。その他,約 1 割の児童は「道に迷った」「誘拐された」などの原因 で家に帰れなくなり,浮浪児として生活している。調査対象である浮浪児の年齢は主に14 歳と15歳である。また,子ども達の知能は正常であるが,半数以上は小学校の中学年レベ ルの学力であり,読み書きが全くできない児童も存在している。

1-7 中国・浮浪児と児童保護センターの実態

施設数 入所定員 年間保護児童数

2011 241 0.8万人 17.9万人

2010 145 0.5万人 14.6万人

2009 116 0.4万人 14.5万人

出所:中国民生部「社会服務発展統計報告」により作成

このような子ども達は,義務教育を受ける権利があるが,実際のところ,生きていくこ とにさえ問題があり,勉強とは無縁となってしまう。現在,臨時措置として路上生活の子 どもの多い都市に240あまりの児童保護センターを設置し(表1-7),路上の子どもの生活 保護を行う一方,学校教育も行う。しかし,児童保護センターは,一時保護の機能しか果

(19)

16

たさないため,保護した子どもたちは児童福利院や里親家庭で養育されることもある。現 在,色々な原因で路上生活を強いられた子どもの人数が国連の統計によると,増加する一 途を辿っている。さらに,色んな犯罪に巻き込まれ,路上生活の子供を利用した犯罪が日々 増加している。浮浪児による万引き,窃盗,暴力事件などが相次いでいる。(沈潔 2007:

40)

3.4 農村地域における留守児童

中国農村部では,両親が出稼ぎに出たまま家になかなか帰らないという事情から引き起 こされる,「留守児童」問題が深刻化している。中国の農村における「留守児童」とは,農 村で両親が他の地域いわゆる都市部へ出稼ぎに行き,祖父母や親戚のもとに預けられたま ま育つ子どもを指す。留守児童になる要因については,①親の仕事が忙しくて面倒を見き れないこと②都市部での生活は出資がかさみ,子どもの養育費は農村の方が安いため③農 村から都市部へ戸籍を自由に動かせないため,出稼ぎ先で子どもの就学に大きな制限があ ることである。中国の2010年第6回国勢調査資料のサンプルデータから計算すると,中国 の留守番児童数は61025500人であり,農村児童全体の37.7%を占め,全国の児童全体

21.88%を占めている3。2005年の全国1%抽出調査で計算したデータと比べて,この5

年間に全国の農村で留守児童が約 242 万人増えている。彼らは,肉親の愛情や平等な教育 が十分に受けられないなどの様々な課題を抱えている。20135月全国婦女連合会が発表 した『全国の農村の留守児童,都市と農村の流動児童の状況に関する研究報告』によれば,

205.7万人の留守児童は独居状態である。

20105月に中国の全国婦女聯合会の『農村留守児童家庭教育活動調査分析報告』によ ると,①出稼ぎ期間が1年以上の保護者が 60%以上占め,保護者と留守児童とを結ぶ主な 連絡方式は電話であった。連絡を取る頻度は,毎日1回が32.9%,毎週1回が39.9%,毎

月一回が21.1%,毎年 1回が4.9%,全く連絡がないが1.3%であった。②父母が身近にい

ないことで,41.5%の留守児童は孤独を感じ,26.9%の留守児童は勉強を見てくれる人がい ないと考え,15.4%の留守児童は誰も世話をしてくれる人がいないと考えている。これらを 総合すると,父母の愛情と保護が長期にわたって不足しているために,留守児童たちは深 刻な愛情不足に陥っている。③20%の父母は留守児童が1歳になる前に出稼ぎに出ており,

そのうちの30%は留守児童が生後 1カ月の時に出稼ぎに出て行っているため,相当数の留 守児童は母親不在で十分な授乳を受けておらずその成長発育に影響が出ている。

3.5 「エイズ」被害児童

エイズ孤児とは,本人は感染していないが,両親のどちらか,あるいは両方がエイズで 亡くなった児童のことを指す。この他,「エイズの被害を受ける児童」には,HIV陽性の児 童や準エイズ孤児などが,含まれる。HIV 陽性児童とは,母体からの感染や輸血などの医

3 201359日に中国・全国婦女連合会が発表した『全国の農村の留守番児童、都市と農村の流動児童 の状況に関する研究報告』に基づく

(20)

17

療行為によりエイズに感染した児童を指す。中国では,父親か母親をエイズで亡くした15 歳以下のエイズ孤児が7.6万人に達している。エイズウィルス感染者の増加に伴い,エイズ の被害を受ける児童の数も増えている。現在,中国ではエイズの感染が拡大しており,感 染者の多くが子どものいる年齢になっている。そのため,感染者数よりさらに多い数の児 童が,エイズにより間接的な被害を受けていることになる。国連児童基金会の研究結果に よると,2010年までに,約49.6万人~89.9 万人の児童がエイズ被害児になると予測して いる。今後,エイズの被害を受ける児童に目を向け,差別や蔑視をなくして,社会の支援 体制を確立することが必要である。

(21)

18

2節 中国における児童福祉施策の展開 1. 児童の権利保障

1-8 児童の権利に関す国際的動向

年別 動向

1601 「救貧法」制定(イギリス)

1801 「使徒の健康と徳性を守るための法律」制定(イギリス)

1834 「新救貧法」制定(イギリス)

1884 民間組織の児童虐待防止協会設立(イギリス)

1889 「児童防止並びに保護法」制定(イギリス)

1908 「児童法」制定(イギリス)

1909 1回ホワイトハウス会議(アメリカ)

1922 「児童保護法」制定(ドイツ)

国際連盟「世界児童憲章」

1924 国際連盟「児童の権利に関すジュネー宣言」

1930 「児童憲章」制定(アメリカ)

1946 「要養護児童に対する処遇に関するカーチス報告書」(イギリス)

1948 「児童法」成立(イギリス)

国連総会「世界人権宣言」採択

1959 国連総会「児童の権利に関する宣言」採択 1960 脱施設化運動(アメリカ)

1978 ポーランドが国連人権委員会に「子どもの権利に関する条約草案」を提出 1979 国連総会「児童福祉年」採択

1989 国連総会「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」採択 1990 子どものための世界サミット

1994 国連総会「国際家族年」採択

「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」を日本が批准 1996 「子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議」開催

2000 国連総会「児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関 する条約の選択議定書」採択

2001 2回子どもの商業的性的搾取に反対する世界会議開催 2002 国連子ども特別総会

2005 「児童の売買,児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約 の選択議定書」を日本が批准

出所:千葉喜久也『児童・家庭福祉論』第2版,2011,P37より作成

児童の権利に関す国際社会の動きをみると,1924年には,国際連盟によって児童の権利 に関するジュネーヴ宣言として知られる 5 か条からなる児童の権利宣言が採択された。そ の後,1959には,児童の権利に関するジュネーヴ宣言と 1948 年に国連によって採択され た世界人権の流れを踏まえた「児童権利宣言(児童の権利に関する宣言)」が採択された。

その後,198911月の第44回国連総会で“Convention on the Right of the Child”が採

(22)

19

択された。日本政府は「児童の権利に関する条約」と翻訳したが,“Child”を「児童」と 訳したことに異議が唱えられ,現在では子ども自身の立場に立つ「子どもの権利条約」と も呼ばれ,国もその使用を認めている。「子どもの権利条約」は 18 歳未満のすべての子ど もを対象とするものであり,子どもの人間としての権利や自由を尊重し,子どもに対する 保護と援助を促進することを目標としている。「子どもの権利条約」制定の動きは,1979 年に国連の国際児童年が決まったことを契機として活発化し,草案審議が国際連合ワーキ ンググループにおいて開始された。その後,約 10 年の検討期間を経て,1989 年に最終草 案が提出され,国際総会で採択された。日本は19945月,158番目に批准している。条 約では,子どもの養育及び成長・発達に対する第一義的な責任者は保護者にあり,保護者 が養育責任を果たすために,国の援助や家庭環境の重視,子どもにとって最善の利益など が協調されている。(千葉,2011)

一方,中国政府は幅広く議論した上に,1992年に,「子どもの権利条約」を批准した。「子 どもの権利条約」に従い,中国政府は「90 年代中国児童発展綱要」を発表し,中国におい てはじめての児童を主体にする国レベルの計画綱要になっている。「90年代児童発展綱要」

に「児童を最優先」にする理念を明らかにした。その後,2002 12 月に「子どもの売買 及び子どもポルノに関する子どもの権利条約選択議定書」,そして20082月に「武力紛 争における子どもの関与に関する子どもの権利条約選択議定書」を批准した。

1-9 中国における児童の生存・発達状況

2000 2010 嬰児の死亡率 32.2% 13.1%

5歳以下の児童死亡率 39.7% 16.4%

妊産婦死亡率 53.0/10万 30.0/10 就学前教育入園率 35.0% 56.6%

小学就学率 99.7%

中学課程就学率 100%

高校課程就学率 82.5%

出所:『世界の福祉年鑑』2012,P419

中国「90 年代児童発展綱要」は「児童を最優先」の理念を明らかにし,母子保健・衛生 と教育などの法制整備に関する具体的な数値目標が設定された。具体的な内容としては,

人口・計画生育,乳児・妊婦保健と栄養,生活環境の改善,義務教育の普及,地域・家庭 政策,困窮児童の保護と児童権利の保障の 7 つの領域で主な目標とそれぞれの施策を示さ れた。この計画が発表されて約10年が経過した2000年,中国はこれまでの経緯を踏まえ,

改めて「中国児童発展綱要2001-2010」を発表した。この新しい綱要に児童を最優先にす る理念をより明確・具体化され,児童の生存,発達,保護および児童の利益を優先にする

(23)

20

ことが,基本理念として明記されている。さらに,この 10 年間に主に児童の健康,教育,

保護,環境整備という 4 つの分野において,具体的な達成目標が提示された。また,主な 児童問題(児童生存・発達の地域格差,児童貧困,移動人口の児童の教育・保護,エイズ 児童など)を取り上げ,とくにより効果的な対策をとっていく必要があることが強調され た。「中国児童発展綱要」の発表により,児童の生存・発達を保障することを実現しただけ ではなく,中国における児童福祉施策の設計・実施に大きな意味を持っている。21 世紀に 入ると,特に2003年以降,中国の各級政府は里親養育,義務教育,未成年の思想・道徳構 築,出稼ぎ労働者子女の義務教育保障,孤児・障害児のある児童の支援,孤児の救済,エ イズ児童の支援,服役者の子女の支援,少年・児童の人身安全と心理的健康等,児童の生 存・発達に役立つ一連の法規や政策文章を集中的に公表した。こうした児童福祉政策の着 実な改善により,中国の児童福祉事業の制度化の水準は向上し,実際に多くの児童の福祉 を保障,健全な発達を促進した。

その後,2011 年には「中国児童発展綱要 2011-2020」を公表され,21 世紀初頭の 10 年間の児童問題を取り上げた。主に児童生存・発達の地域格差,義務教育の地域格差,幼 児教育資源の不足,新生児障害率の増加,出生人口性別比のアンバランス,貧困家庭児童,

孤児,遺棄児,障害児,浮浪児の救助,児童の権利保護などが強調された。また,2011 からの10年間,児童の生存・発達を保障することに加えて,健康,教育,福祉,社会環境,

法律保護の 5 つの発展分野および各分野においての主な目標と計画的な対応が取決められ た。「90年綱要」においては,単純に児童に関する7つの方向的な目標と施策を提示された が,「2001-2010 綱要」は児童健康指標の向上,都市部高校教育の普及,児童の保護に関 する法的整備,児童の発達の環境の改善という基本目標の上に,児童と健康,児童と教育,

児童と法律,児童と環境という四つの分野に具体的な目標と施策を示された。「2011―2020 綱要」はさらに,①児童の合法的な権利を法において保障する,②児童権利とニーズを考 慮して公共資源を最優先にする,③児童の心身の発達および児童の利益を最優先にする,

④児童の平等な権利と機会を保障する,⑤家庭や文化活動,社会において児童が参加でき る環境を作るという5つの原則を打ち出した。「90年綱要」と「2001-2010綱要」におい て,児童の権利を保障するという基本理念は明記されたが,具体的な施策はなかった。「2011

-2020年綱要」では,児童の権利保障を原則の一つにし,より明確な児童参与権(意見を 表明する権利,表現の自由)を明記され,児童の生存,発達,保護される権利とともに,

重視すべきと強調された。最近の動向については,2011 年『2011~2020 児童発展綱要』

によれば,新たに2011年からの10年間,児童の生存・発達を保障することに加えて,「① 児童の合法的な権利を法において保障する,②児童の権利とニーズを考慮して公共の資源 を優先的に活用する,③児童の心身の発展および児童の利益を最優先にする,④児童の平 等な権利と機会を保障する,⑤家庭や文化活動,社会において児童が参加できる環境をつ くること」を基本原則に,児童福祉の充実を図ろうと考えていく。しかし,現在の児童の 権利に関する法規では,子どもの権益を保護する具体的な条項と規定が存在していない。

また,抽象的な権利を強調し,具現性に欠けている。

図 2-13  日本と中国少子化の推移  一方,図 2-13 は中国における合計特殊出生率および人口動態の長期推移を表している。 1970 年まで,合計特殊出生率はおよそ 6.0 の高い水準である。その後,計画生育政策が影 響し,合計特殊出生率が低下し続け 1992 年に初めて人口置換水準を下回り,合計特殊出生 率は 2.05 になっている。さらに, 1995 年の合計特殊出生率は 1.86 になり, 2000 年代に入 ってからは 1.4 となっている。その後,各年人口センサスの全国人口抽出調査に基づいた

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