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雑誌名 鳥取看護大学・鳥取短期大学研究紀要

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鳥取看護大学・鳥取短期大学

就労支援施設利用者のニーズに基づく地域社会生活 定着度の困難性の検討

著者 中川 康江, 荒川 満枝, 木下 隆志

雑誌名 鳥取看護大学・鳥取短期大学研究紀要

号 78

ページ 15‑18

発行年 2019‑01‑11

出版者 鳥取看護大学・鳥取短期大学

ISSN 2189‑8332

URL http://doi.org/10.24793/00000094

Creative Commons : 表示 ‑ 非営利 ‑ 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by‑nc‑nd/3.0/deed.ja

(2)

鳥取看護大学・鳥取短期大学研究紀要 第78号 抜刷

2 0 1 9 年 1月

就労支援施設利用者のニーズに基づく 地域社会生活定着度の困難性の検討

中 川 康 江・荒 川 満 枝・木 下 隆 志

Yasue N

akagawa

,Mitsue A

rakawa

,Takashi K

inoshita

: A Consideration of the Difficulties of the Retention Rate of Community

Life on the Basis of the Employment Supporting Facility Users Needs

(3)

15 はじめに

 精神疾患を有する患者の治療・療養は,2012 年 の OECD Health Data の調査による欧米諸国との 比較において,日本だけ精神科病床が千人当たり 2 床を超え,精神病床の平均在院日数が 300 日を超え ているという,長期入院治療に委ねてきた経緯が存 在する1)

 1998 年に,精神障害者のニーズに基づいたサー ビスの提供を目的に,「精神障害者ケアガイドライ ン」が作成され,2005 年に障害者自立支援法,

2012 年に障害者総合支援法が成立した.このよう な法的背景において,精神障害者の地域移行化はす すめられ,精神障害者の入院期間 1 年以上の数は,

減少している1).しかし,2002 年からの 10 年間の データにおいて,退院後の家庭復帰者は 1 万 6 千人

から 1 万人弱と減少傾向にあり,転院・院内転科者 は 2 万人前後で維持したままである2).厚生労働省 が 2017 年 4 月 1 日に適用した「地域生活支援促進 事業実施要綱」の「自発的活動支援事業」の目的に は,「障害者等が自立した日常生活及び社会生活を 営むことができるよう,障害者等,その家族,地域 住民等による地域における自発的な取り組みを支援 することにより,共生社会の実現を図る.」と掲げ ている.

 鼓ら3)は「障害者の地域移行を支えるために,障 害者の地域生活支援の実態や課題を明らかにするこ とを目的にしているものは多いが,具体的な支援の 方法について提言している文献はほとんどない」と 述べ,御前ら4)は,就労支援について,「精神的安 定を保ちつつ失敗できる環境」の必要性を明示して いる.精神疾患をもつ当事者(以下,当事者と略す)

にとっての就労は,退院後の地域移行先であり,拠 りどころとする居場所である.同時に,当事者が一 般就労につくために,疾患の特性から,段階的な福 祉的就労も不可避である5).しかし地域生活支援の

就労支援施設利用者のニーズに基づく 地域社会生活定着度の困難性の検討

中 川 康 江

1

・荒 川 満 枝

1

・木 下 隆 志

2

Yasue Nakagawa,Mitsue arakawa,Takashi kiNoshita

A Consideration of the Difficulties of the Retention Rate of Community Life on the Basis of the Employment Supporting Facility Users Needs

 日本において精神疾患を有する患者の治療・療養は,長期入院治療に委ねてきた経緯が存在する.

法的背景において,精神障害者の地域移行化はすすめられているが,2002 年からの 10 年間におい て,退院後の家庭復帰者は減少傾向にあり,転院・院内転科者は維持したままである.障害者の地 域移行を支えるために,精神疾患をもつ当事者にとっての就労は,退院後の地域移行先であり,拠 りどころである.そこで,精神に障害を持つ当事者が地域での生活を定着させるため,就労支援事 業所で就労に従事する当事者の意見を,調査・分析した.

キーワード:就労支援事業所 地域生活への定着 当事者の意識 就労環境 偏見 鳥取看護大学・鳥取短期大学研究紀要第 78 号(2019)

       1 鳥取看護大学看護学部看護学科 2 芦屋短期大学幼児教育学科

(4)

中川康江・荒川満枝・木下隆志

課題を明らかにする研究は多くあるが,当事者の,

就労に関することに特化した意見・内容に関する研 究は少ない3).そこで,本研究の目的は,精神に障 害を持つ当事者が地域での生活を定着させるため に,就労支援事業所で就労に従事する当事者の意見 を,調査・分析することとした.

1.方法

 X 県内の B 型就労支援事業所で就労中の当事者 を対象にアンケートを作成し,無記名選択回答式調 査を行った.対象者は,研究目的に同意を得られた 47 名であった.調査期間は 2017 年 4 月 1 日から 2017 年 6 月 30 日とした.当事者が困っている内容 を明確にするため,アンケート内容は,「就労に対 する不満」,「地域で生活するために必要なもの」,「地 域で生活した際に良かったもの」,「当事者が感じて いる周囲の人からの偏見」,当事者の感情面におい て当事者自身がどう思っているか(以下,自己認識 と略す),周囲の人がどう思っていると感じている のか(以下,他者認識と略す)について,全 20 問 で構成した.

 収集したデータは,SPSS を用いて記述統計量,

属性別のχ二乗検定,及びt検定による平均の比較,

相関分析を行った.

 本研究は,鳥取看護大学・鳥取短期大学研究倫理 審査委員会の承認(承認番号 2016-6)を受けて実 施した.また,企業等との利益相反状態にはない.

 対象者の保護と安全については,身体的な危険を 伴うことはないながら,当該事業所の施設長の承諾 を得て行った.対象者には,研究終了後のデータの 破棄,研究以外の目的には使用しない旨,匿名性・

情報の保護,および回答しないことで不利益を生じ ないことの説明を行った.

2.結果

 対象者 47 名の基本属性は,男性 30 名,女性 17

名であった.表 1 に示すように,男女による年齢構 成と,疾患に罹患する以前の就業率に有意差はな かった.現在のサービスの利用以前に,就労支援事 業所について知っていた当事者は,33.3% であった.

 当事者が就労するにあたり,就労支援事業を紹介 した人は,家族・親戚が 17.5% を占めていた.支援 サービスの相談を出来る人がいると答えた当事者は 74.4% で, そ の 相 手 は, 家 族・ 親 戚 が 最 も 多 く 24.2% を占め,ついで精神保健福祉士が 16.1%で あった.

 就労形態についての満足度は,満足している人は 63.8% で,していない人は 36.2% であった.しかし 不満がある人のうち,今の状況で継続したいが 70.6% であった.不満の理由は,図 1 に示すように,

表 1  対象者の基本属性

男性 女性

年代 % %

20 代 26.7 29.4 30 代 20.0 11.8 40 代 20.0 23.5 50 代 23.3 29.4 60 代 10.0 5.9 合計 100.0 100.0

就業 はい いいえ

有り 55.2 44.8 無し 64.7 35.3 合計 58.7 41.3

図1 就労における不満(複数回答)

その他 交通の便が悪い 人間関係が難しい 工賃が低い 仕事がきつい

(%)70

0 6050 4030 2010

(5)

就労支援施設利用者のニーズに基づく地域社会生活定着度の困難性の検討

17 工賃が低い 61.5%,人間関係が難しいが 23.1% で あった.

 今まで当事者が困ったことは,「仕事」が 66.7% で,

「社会的付き合い」が 66.6% であった.図 2 の通り,

当事者が地域での生活に必要と考えているものも,

仕事が一番多かった.「地域で生活するために必要 と思うもの」と,「地域で生活してよかったもの」

において,生活するために必要不可欠なものは,同 様の傾向を示し,家族に対してはほぼ同率の割合を 示していた.また,「地域で生活するために必要な もの」として,「偏見・誤解の消失」と答えていた 人が,31.9%あった.

 当事者の自己認識と,他者認識の相違について表 2 に示す.「困っていること」にほとんど相関がみ られなかったが,その他の項目には正の相関が見ら れた.平均得点が最も高かったのは,自己認識にお ける「差別や誤解をされている」3.0,他者認識に

おける「差別や誤解をされている」2.9,他者理解 における「自分の気持ちがわからない」2.9 の順で あった.

3.考察

 今回,当事者が家庭や社会へ復帰するために必要 としている内容を分析することで,当事者が地域社 会へ移行・定着するための困難性を検討した.

 調査結果より,「仕事についての支援を求める内 容」が高いことが示唆され,「就労状況に不満」があっ ても,今後も「継続を希望」する人が多い現状が伺 える.これは就労支援事業所の現状を示すとともに,

就労支援事業所の利用は,当事者の所属感や承認欲 求の充足に繋がると考える.これらの必要性は,今 回のアンケートの際に,「僕・私は,役に立ちまし たか.」と自己承認を確認する当事者が多くいたこ とからも伺える.仕事に関する不満として挙げられ た「人間関係の不満」は,精神障害の特性を反映し ていると考えられ,利用環境による被害妄想や気分 の日内変動を配慮する当事者の工夫が必要と考える.

 「偏見・誤解」については,良かったと感じてい る当事者がわずか 2.1%で,必要であると感じてい る者が 31.9%いた事より,当事者の地域での生活に は偏見・誤解の消失への対応が急務であることが示 唆される.さらに,「偏見」「誤解」の存在が,当事 者たちの,就労 ・ 学校生活 ・ 近所づきあいなどの社 会的付き合いへの困難感や,就労に関する不満・人 間関係の難しさへの要因の一つになっていると考え 図2 地域での生活に必要なもの・良かったもの

その他

8070

(%)

0 6050 4030 2010

偏見・誤解の消失 異性関係 近所付き合い お金 住居 仕事・働くこと 家族・親戚関係 必要と思うもの

良かったと思うもの

表2 感情面における自己理解と他者理解について 明るい

人を頼りに しないとい けない

人や社会の ために役立 ちたい

落ち着き がある

人前に出

たくない 寂しい 自信があ

集中でき ない

差別や誤 解をされ ている

困ってい

びくびく している

いらいら している

自分の気 持ちがわ からない

n数 35 32 33 33 32 33 34 34 32 34 33 34 32

自己認識平

均点 2.57 2.16 2.03 2.39 2.69 2.52 2.71 2.79 3.00 2.68 2.67 2.79 2.72 他者認識平

均点 2.40 2.28 2.24 2.48 2.69 2.73 2.76 2.62 2.91 2.68 2.82 2.82 2.91 自己認識と

他者認識の 相関係数

0.673 0.595 0.443 0.569 0.521 0.683 0.359 0.673 0.532 0.149 0.352 0.461 0.613

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中川康江・荒川満枝・木下隆志

られる.これは,当事者の妄想などで生じる,危機 的状況が原因とも考えられる.

 さらに,自己認識としては,困っていることを分 かって欲しいにもかかわらず,他者には認識されて いないという認識の相違があったことから,支援者 は,利用者への理解を深めることが必要と考える.

 現在の就労支援事業所は,2012 年成立の「障害 者総合支援法」に定められた自立支援システムの 1 つで,パン,クッキー,手芸用品など手作りのもの を「障害者施設の商品」として提供しており,事業 所間で商品や商法に類似の傾向がみられる.厚生労 働省発表の平成 27 年の就労支援事業所の平均月収 は,B型事業所では 15,033 円である.現在は,こ のような事業所でも地域の特産品との提携や事業所 の特徴などを生かして,一般企業商品同様の質の改 善や経営改革によって,賃金向上の成果を出してい る事業所もある.このように,販売方法や経営方針,

就労環境の改善など事業所経営の改善も求められる.

 本研究において,当事者が必要としている支援は,

「就労環境の改善と,それに伴う工賃の向上」とい う生活の維持の側面と,「地域の人からの偏見・誤 解の消失」という意識面の 2 側面の存在が明らかと なった.

 今後の課題としては,当事者の抱える 2 側面の困 難性の相互関係及び妥当性についての検証を進め,

具体的支援につなげることと考える.

おわりに

 今回,当事者が地域社会へ移行・定着するための 困難性を検討した結果,当事者が必要としている支 援は,「就労環境の改善と,それに伴う工賃の向上」

という生活の維持の側面と,「地域の人からの偏見・

誤解の消失」という意識面の 2 側面の存在が明らか

となった.

 今後の課題として,当事者の抱える 2 側面の困難 性の相互関係及び妥当性についての検証を進め,具 体的支援につなげることと考える.

引用・参考文献

1)厚生労働省,第 8 回精神障害者に対する医療の 提供を確保するための指針等に関する検討会参考 資料,平成 26 年 3 月 28 日,www.mhlw.go.jp/file/

05-Shingikai.../0000046405.pdf(2017. 9. 20).

2)厚生労働省,第 8 回精神障害者に対する医療の 提供を確保するための指針等に関する検討会資料 4,平成 26 年 3 月 28 日,www.mhlw.go.jp/file/05- Shingikai.../0000046397.pdf(2017. 9. 20).

3)鼓美紀他「文献研究からみる精神障碍者の地域 生 活 支 援 の 課 題 に 関 す る 考 察」,『Journal of comprehensive Welfare sciences』 vol. 3, pp. 175- 186, 2012.

4)御前由美子「精神障害者の地域生活支援をめぐ る研究―ソーシャルワークによる就労支援を通じ て―」,関西福祉科学大学大学院博士学位論文,

pp. 64-76.

5)木下隆志「就労移行支援における個別支援計画 作成のあり方について―A 市就労支援ハンド ブック作成で試みる支援体制の考察―」,日本社 会福祉学会 第 57 回全国大会,pp. 420-421.

6)公共社団法人 全国精神保健福祉会連合会(み んなねっと),池淵恵美,精神障がい者の生活と 治療に関するアンケートよりよい生活と治療への 提言,seishinhoken.jp (2017. 9. 20).

7)中川康江・吉岡伸一「看護学校生のてんかんに 関する知識・経験と態度との関係」,『米子医学雑 誌』63 巻 2 号,pp. 43-55.

参照

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