弘前大学教育学部紀要 第79号 :69‑72 (1998年3月) Bull.Fac.Educ.HirosakiUniv.79:69‑72(Mar.1998)
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教 科 「 技 術 ・家庭 」 にお け る伝 統 技 術 の教 材 化 に関 す る研 究 第
2報 津軽 塗技 法 を導 入 した木 材 加工 用下地 充填材 の開発
St udi e so nt heTe a c hi n go fTr a di t i onalTe c hno l o gi e s i n仙eSt l b j e c t" I ndus t r i a lAr t sa ndHo me maki n g"
2.DevelopmentofaFillerfortheUsein"WoodWorking"
BasedonaTechnologyinTsugaru‑nuriLacquerware
佐藤 武司 ・肥 田野 豊 ・志村 元 ・照井 透*
TakejiSATO,YutakaHIDANO,HashimeSHIMURA andToruTERUI
論 文 要 旨
木材加工学習 においては,製作品の接合部 に隙間が生 じる,打 ち損 じによる釘穴が 目立つ, 表面 に傷 を付 けるな ど,生徒 に失敗感 を与 える事態が しば しば生 じる。 これ を救済す るために 津軽塗技法で用い られて きた 「刻苧」 を参考 に使用の容易な充填材 の開発 を行 ない,更 にその 充填及び研磨調整 の方法 について検討 した。
その結果,木粉,米糊,砥 の粉 を1:8:8の比 で混合 した場合 に 「ヒビ」や 「やせ」 の発 生が少 な く,充填材 として優れた もの となることが明 らか になった。 これ を刷毛やへ らで製作 品の傷等 に塗込み,乾燥固化後 に#120,#240,#320の紙やす りで順次研磨す ることによ り平滑 面が得 られ,良好 な塗装下地が得 られた。
この充填材 は天然素材 によるものであ り,環境負荷 の少 ない技術 とい う点で も有意義 と考 え られ る。
キー ワ‑ ド :津軽塗技法,木材加工学習,充填材,木粉,米糊
1.は じめに
木材 を生みだす森林資源 は適切 に植林,育林,伐採等 の管理 を行 なえば永続的 に供給可能で あ り, これ まで長 ら く人間社会 を支 える重要な資源の一 つであった。 また,治山 ・治水や大気 保全等の環境保全 に果 たしているその機能 も, これ まで は必ず しも十分 に認識 されていなか っ たが,近年 になって改めて評価 され るようになって きた。 しか し現実 には,乱伐や火災な どに より世界的 に森林資源 は減少の傾 向にあ り, その対策が焦眉の課題 となっている。 その一環 と して,木材 については新 たな木質材料 の開発や再利用法の開発が進 め られ, また不燃性等 これ らの資材 に欠 けていた特性 を付与す ることな ども検討 されている 1)。一方,木製品に塗装 を行 ない耐久性 や美観 を増す ことは古 くか ら行 なわれて きたが, これ は上記 の観点か らも意味 のあ ることである。 したが って,学校教育 にお ける木材加工学習 において も是非配慮すべ き点であ るが,現実 には必ず しも適切 に行 なわれているとは言い難 い。
*弘前大学教育学部技術科教室
DepartmentofTechnology,FacultyofEducation,HirosakiUniversity
70 佐藤 武司 ・肥 田野 豊 ・志村 元 ・照井 透
青森 県の代表的な伝統技術 の一つである津軽塗技法 は,木材 の塗装法 として完成 された技法 であ り2),漆の使用 は 「かぶれ」 (漆性皮膚炎)の点か ら論外 として も, その工程 には木材加工 学習 に取 り入れ ることので きる要素 をい くつ も内在 している。例 えば,著者 らは漆 の代わ りに カシュー塗料 を用いて各種 の文様 の再現や蒔絵 の製作 を試みている。 また,塗装 に使用 した刷 毛の清浄 に伝統的な技法 を適用す ることの意義 については既 に報告 している3)0
ところで,津軽塗 を始め とす る伝統的漆塗装法 において漆塗 り以前 の下地調整 の工程 (図1) こくそ
に用い られ る 「刻苧」 とい う技法がある。 これ は木材素地 の欠点 の補修整形 の為 に行 な うもの 節穴,傷,割裂 の部分 を刃物で欠 き取 り, その部分 に充填材 として,米糊,生漆,繊維 の 木粉 を混ぜた ものを詰 め, これが乾燥固化 したあ とに研磨調整 し,塗装 に備 える とい うも のである4J5)0
一方,木材加工学習で は,製作品の接合部 に隙間が生 じる,打 ち損 じによる釘穴が 目立つ, 表面 に傷 を付 けるな ど,生徒 に失敗感 を与 える事態が しばしば生 じる。著者 らはこれ を救済す るために次 の ような観点か ら刻苧 を参考 に使用の容易 な充填材 の開発 を行 ない,更 にその充填 及 び研磨調整 の方法 について検討 したので,本報で はその概要 を報告す る。
・厚塗 して も乾燥後 「ヒビ」が生 じない。
・乾燥後 の 「やせ」が少 ない。
・研磨調整 によ り平滑 にな り,良好 な塗膜面が得 られ る。
2.材料及び方法
木材 の試験片 として はマツ材, ラワン合 板,中質繊維板 (MDF)を用い, これ らの 表面 に三角刀で掘 り傷 を付 けた。充填材 の 材料 として は,木粉,楕米粉,梗米粉,砥 の粉 を用いた。木粉 として は鋸屑 を節 い分 け,節 い目#100を通過 し,#120で残 った も のを用いた。
充填材 の作成 は, まず精米粉 と梗米粉 を 重量比 で1:1に混ぜ,3‑ 5倍 の水 に溶 いて約60oCに加熱糊化 し米糊 とした。次 に 木粉,米糊,砥 の粉 を表1に示 した9種類 の重量比 で混合 し充填材 とした。 なお,当 初設定 したのはNo.1‑ 3で,No.4以下 はそ の結果か ら比較 のため設 けた ものである。
図1 津軽塗の工程とその下地工程に用いられる材料
作成 した充填材 は試験片の掘 り傷 に刷毛やへ らな どを使用 してやや盛 り上が るまで塗 り込 み, 室温で乾燥 させた。乾燥固化後,表面 を各種 の粒度 の紙やす りで研磨 し仕上 げた。
3.結果及び考察 (1)充填材 について
木粉,米糊,砥 の粉 の混合比 を変 えて作成 した充填材 を比較 した ところ,次 のような結果が 得 られた (表1)0
教科 「技術 ・家庭」 における伝統技術の教材化 に関する研究
まず,木紛 の量 を一定 にして これ と混合す る米糊 の量 を変 えて見 た ところ (No.1‑3), 米糊が増 えるにしたが って塗布 は容易 にな り 付着性 も向上 したが,乾燥時 に 「ヒビ」 の発 生が顕著 で,研磨後 の平滑度 も劣 った。なお, 何れ に も 「やせ」が見 られ, これ も米糊 の量 が多 い ものほ ど顕著であった。
そ こで,「ヒビ」や 「やせ」の発生 を防 ぐた めに米糊 の量 を減 らす と共 に,津軽塗 におい て下地 の仕上段 階で用い られ る砥 の粉 (図1) を混入 したのが恥.4で ある。 これ は 「ヒビ」
や 「やせ」 を生ぜず,仕上 げ面 の平滑度 も良
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No. 材 料(g) 特性評価篭 木 紛 米 糊 恒の粉 ヒ ビ.や せ平滑度
4 1 8 ( 8 ○ ○ ○
6 1 8 12 △ △ ○
7 1 【 4 6 ○ ○ ○ 8 1 50 50 ×× ×× ××
*視覚 による評価:○ :良好,△ :やや不良,×:不良
表1 充填材の組成 と特性評価 好 で,最善 の結果が得 られ た。
これ と比較 の意味 でやや米糊 を増や したN0.5と,砥 の粉 を増 や したN0.6を設 けてみたが,何 れ も多少 なが ら 「ヒビ」 と 「やせ」が生 じ,N0.4と比べて結果 は劣 った。
次 いで,N0.4と比べて米糊 と砥 の粉 を共 に減 らしたN0.7で は,充填材 としての性能 には差 は 見 られなか ったが,相対 的 に木粉 の比率が高 くなるため塗装時 に表面が粗 くなる傾 向が見 られ た。
なお,米糊 の量が多いN0.3に同量 ない しは1.5倍量 の砥 の粉 を加 えたNo.8お よび 9を設 けてみ たが, 「ヒビ」 と 「やせ」の発生 は変わ らず,平滑度 に も改善 は見 られなか った。
以上 の ことか ら,木粉 は大 きな空隙 を充填 し,砥 の粉 は木粉 の空隙 を埋 めて仕上 げ面 の平滑 度 を向上 させ る効果が あ り,米糊 は展着材 や接着剤 として機能 す るが その過剰 な添加 は「ヒビ」
と 「やせ」 の原因 となるため,木粉,米糊,砥 の粉 の混合比 を1:8:8とした場合 に総合的 に最良 な充填材 を構成 す るもの と考 え られ た。
(2)充填法 について
津軽塗技法で は刷毛 と並 んで木製 のへ らがその腰 の強 さを生か して有効 に用い られて きた。
その一 つ として,木地 の凹部 にへ らで刻苧 な どの充填材 を埋 め込 む ことを 「こき塗 りす る」 と い うが, この方法 は上記 の充填材 を製作品の接合部 に生 じた比較的大 きな隙間や深 い釘穴 へ詰 める方法 として適 してお り,周囲 と段差 のない平面 を容易 に形成 で きる ことが明 らか になった。
また,比較 的浅 い傷 や木材細胞 の空隙 による表面 のざらつ きな どは,充填材 を刷毛塗 りした 後, それ をへ らで凹部へ寄せ るように しご くことによ り埋 めることがで きた。
なお,乾燥後 に 「やせ」が生 じた場合 には,更 にその部分 に充填材 を筆 でやや盛 り上が る程 度 に塗布 し,乾燥後 に研磨 す るる ことによ り完全 な平面が得 られた。
この充填材 は本来製作品の部分的な補修 を目的 に開発 した ものであるが,塗装 の下地材 とし て全面 に塗布 す ることも試 みた。 その結果,一度 に厚塗 りす ることを避 け,薄 く塗布 して乾燥 させ,研磨 して毛羽 を取 る ことを繰 り返 す と,良好 な塗装下地 が形成 され る ことが明 らか にな った。
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(3)研磨法 について
乾燥 固化 した充填材 は表面が粗 く, この うえに直接塗装 して も良好 な塗膜面 は期待で きない。
これ を平滑 にす るには紙 やす りによる研磨 が適 当であるが, その場合粒度 の選択 には十分 な配 慮が必要で ある。 す なわち一般的 に粒度 の大 きい紙 やす りほ ど研磨 の効率 は高 まるが製作品の 表面 に傷 を付 ける恐れが生 じる。 そ こで各種 の粒度 の紙 やす りを様 々な組合せで用 いて結果 を 比較 した ところ, まず#120で表面 を均 し,次 いで#240で概 略 を整 え,最後 に#320で仕上 げるこ
とによ り良好 な平滑面が得 られ,塗装時 の毛羽立 ち も少 ない ことが明 らか になった。
4.おわ りに
近代技術 はその発展 の中で,合成樹脂類 を始 め機能性 に優 れた様 々 な新素材 を産 み出 して き た。 それ らは分解 や変質が少 ないな どの特徴 を持 つが,大量 に生産 ・消費 ・廃棄 され る ことと 相侯 って, その及 ぼす 「環境 負荷」の大 きさが問題 となってい ることは周知 の事実である。 そ の ような状況 の下で,一般的 に資源 の有効利 用が図 られてお り環境負荷 も少 ない伝統技術 に改 めて着 目し,特 に学校教育 の場 で取 り上 げる ことの意義 ない しは必要性 について は前報6)で述 べた とお りである。
本報 で報告 した木材加工用 の下地充填材 は津軽塗技法 で用 い られて きた刻苧 を応用 して木粉, 米糊,砥 の粉 といった天然素材 を材料 としてお り,充填材 としての機能,特 に教材 としてのそ れ を十分 に有 してい るのみな らず,上記 の視点 に もかなった もの と考 えられ,広 く使用 され る
ことを期待 したい。
本研究 の遂行 に当たって は元青森県工業試験場主任研究員藤 田清正氏 か らご指導 ・ご助言 を 賜 わ った。 また,本研究 の一部 は平成7‑ 9年度文部省科学研究費補助金 (基盤研究B)(課題 番号07458041) の助成 を受 けて実施 された ものであ る。 ここに記 して謝意 を表す る。 なお,本 報 の概 要 は日本産業技術教育学会第15回東北支部大会 (平成9年12月7日,弘前市) において 発表 した。
文 献
1)桑原正章 :もくざいと環境.海青社,1994.
2)佐藤武司 :津軽塗.津軽書房,1977.
3)佐藤武司 :中学校における日本の伝統的木材加工技法指導の教育的効果について‑刷毛清浄法‑.
弘前大学教育学部教科教育研究紀要,1:31‑35,1985. 4)岡田 譲 :日本の漆工.小学館,1975.
5)沢口悟‑ :日本漆工の研究.美術出版社,1966.
6)肥田野 豊 ・志村 元 ・佐藤 武司 ・照井 透 :教科 「技術 ・家庭」における伝統技術の教材化に 関する研究 第1報 伝統技術の教育的意義.弘前大学教育学部紀要,79:69‑72,1998.
(1998.1.5受理)