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ボーイス州の在宅介護者

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(1)

著者 三富 紀敬

雑誌名 静岡大学経済研究

3

2

ページ 1‑37

発行年 1998‑10‑10

出版者 静岡大学人文学部

URL http://doi.org/10.14945/00000652

(2)

ポーイス州の在宅介護者

は じめに

本稿 は、本誌 ほかで扱 ってきたイギ リスの在宅介護者 に関す る作業の一部である。

広大な農村地帯

ポーイス州 は、 ウェールズ東部 の州である。ダビ ド州 に次いでウェールズ第2の広 さを誇 る州 である。 これは、イングラン ドとウェールズの中で2番目に広い面積の州 とも言いかえることが できる。人 口は、11万6,801人である (91年)。 ウェールズの中で最 も少ない規模である。人 口 密度 は、おのず と低 い。1ヘクタール当た りの人員 によって示す と0.23である。これは、スコッ トラン ドのオークニー諸島をはじめ とす る4つの州のそれ (最低 0.08〜最高 0.22)よ りやや高い ものの、イングラン ドとウェールズの どの州 に比べて も目立 って低 い。 ちなみにイングラン ドの 人 口密度 は、平均で

3.61、

ウェールズのそれ も同 じ く1.37である。ヽ

この州 は、南部 のブレックノックシャー、中部のラ ドノーシャー、そして北部のモンゴメ リー シャーの3つの地域か らなる。各地域 の中心 になる町は、順 にブンコン、 ラン ドリン ドッ ドウェ ルズそれにニュータウンである。首都 は、中部のラン ドリン ドッドウェルズ町である。3地域 の うちブレックノックシャーの人 口は、4万1,488人、その中心地 ブレコン町の人 口は、8,000人 である。他の80%程、実数 にしてお よそ3万3,500人は、ブンコン町の東西 と北 に広が る村々の 人 口である。州の中部 と北部の地域 も、南部 と同様 である。地域の中核 をなす町 と言 えども、そ の人 口は、1万人 を前後する規模 である。大半の人 口は、広大 な土地 に文字通 り点在す る村落の

(3)

それである。

ところで、人々の暮 らしぶ りを推 し測 る尺度 として低賃金基準 (Low pay threshold)と い う 考 え方が、ヨーロッパ にある。 これは、フルタイム労働者の税引 き前週賃金の68%に相 当す る額

を基準 として、 これに満たない賃金 を低賃金 と定義する。 ヨーロッパ理事会 (CE)の採用す る 基準である。これによると249ポン ド97セン トの週給(週37.9時)、 時給 にして6ポン ド60セ

ン トに満たない場合 は、低賃金である。)(97年4月98年3月)。 イギ リスのボランテ ィア団体 ローペイユニ ッ ト (LPU)も 、男性 の税引 き前週賃金 (中位数)の3分2に相当す る額 を基 準 にして、これに満たない賃金 を低賃金 と定義す る。これに従 えば233ポン ド13セン トの週給(週

37.9時)、 時給 にして6ポン ド15セン トに満たない場合 は、低賃金である。

賃金水準の比較 は、ポーイス州の人々の暮 らしぶ りを検討す るに当たって有効である。州内の フル タイムで働 く男性労働者 の税引 き前週賃金 は、イギ リスの平均 (374ポ ン ド60セン ト)の 74.4%に当たる278ポン ド60セン トである (95年)。 これは、 ウェールズの平均 (331ポ ン ド40 セン ト)に比べて も84.1%の水準である。 これ らの結果 は、ポーイス州 に働 く人々の相対的な低 賃金 を示す ことによって、暮 らしぶ りの低 さを間接的 にしろ暗示する。 ヨーロッパ理事会やロー ペイユニ ッ トの考 え方 は、 こうしてポーイス州の人々の暮 らしぶ りを検討す るに当たって も有効 である。 しか し、賃金水準 はあ くまでひ とつの尺度である。 これをもって全てを語 ることにな ら ない。

賃金水準 をもって事足 りると解す るな らば、やや危険である。農業 を基盤 に成 り立つポーイス 州の検討 に当たっては、殊 にそうである。 ここでは、その裏づ け として2つの事情 を示 してお き たい。 まず、生活 に要す る費用 は、農業 を主 にす る地域 において相対的に割高である。人々の暮

らしぶ りは、同 じ可処分所得の下 においてさえ低 くな らぎるを得 ない。 さらに、サー ビスの利用 は、運営主体 のいかんを問わず農業で成 り立つ地域 において少な くない問題 を伴 う。疾病や障害 あるいは老齢 などの生活上の事故 は、地域の別 な く同 じように発生す る。 これに対応す るサー ビ スの供給 は、地域 による格差 を伴 う。農村部 におけるサー ビスの利用 は、都市 に比べて数々の困 難 を抱 える。 ポーイス州の人々の暮 らしぶ りは、 このように考 えるともっぱ ら賃金水準 とその比 較 をもって よしとす るわけにいかない。

ポーイス州の人々の暮 らしぶ りにかかわる特徴 として、 ここでは、5つの ことを指摘 してお き たい。第1に、低賃金である。週当た りの平均賃金 は、イギ リスはもとよリウェールズのそれに 比べて も低 い。第2に、小生産や小営業の存在である。 これ もイギ リスはもとよリウェールズの 中で も相対的に多い。第3に、パー トタイム比率 も同様である。季節的な失業の多 さもしか りで

‑2‑

(4)

ある。第4に、農家の所得水準の低 さ と所得確保 の不安定性である。 これは、広大な不毛地帯の 存在 と農業補助金の削減 とによる結果である。最後 に、割高 な生活費用である。 これ は、通勤費 をはじめ小売価格の高 さ、保健サー ビスの費用な どにかかわ る。農業 を主力 にす る、 しか も人 口 密度の著 しい低 さゆえに起 きる問題である。 これ らについてやや立 ち入 って述べてみたい。

中央統計調査局 『ニ ュー・ アーニ ング・ サーベイ』

(NES)は

、各年 4月 の時点 における雇用 者の賃金 と労働時間 に関す る計数 を示す。ポーイス州 における男性雇用者 の時間当た り平均賃金

は、 これによると6ポン ド57セン トである0(95年

)。 これは、イギ リスの平均8ポン ド97セ トは も とよ リウェール ズの同 じ く7ポン ド85セ ン トに比 べ て も、それ ぞれ26.6%も し くは 16.3%低い水準である。ポーイス州 に最 も近 い水準の地域 は、イングラン ドで言 えば南西部のコー ンウォール州、ウェールズに限 ると同 じく南西部 のダビ ド州である。それぞれ6ポン ド87セン ト もし くは7ポン ド58セン トである。ポーイス州のそれは、これ らに比べて も4.4〜13.3%低い水 準 にある。

男性就業者の4人1人強 は、自営業者である(27.9%、 91年)。 これは、イギ リス とウェール ズの2倍以上の水準である (13.1%、 13.4%)。 女性 の自営業者 も少な くない (8.6%)。 これ も、

イギ リス とウェールズのほぼ2倍である(4.0%、 4.3%)。 パー トタイム比率 も相対的に高い(男 性で7.63%、 女性23.85%、 93年)。 これは、イギ リスやウェールズの水準 に比べて も高い(男 5.04%、 4.68%、 女性22.24%、 23.09%)。

自営業者比率の際立つ高 さの一因 は、農業就業者比率の高 さである(10.21%、 95年)。 これは、

イギ リス とウェールズの5倍前後 の高 さである(1.95%、 2.14%)。 ポーイス州 は、 ウェールズの 中で も農業色の強い地域である。農業 は、改 めてい うまで もな く季節的な変動 を伴 う産業のひ と つである。羊 と牛の生産 を主力 にするこの州の農業 と言 えども、 この特性 を免れるわけにいかな い。産 業上 の この特性 は、雇用形態や雇用量 の変動 に影響 を及 ぼす。季 節労働者 (Seasonal worker)や日雇労働者 (Casual worker)の 比率 は、それゆえにウェールズの中で も高い(1.55%、

0.33%、 95年)。 季節的な失業の多 さも農業生産の季節 による変動 に根 ざす。

ポーイス州の殆 どは、不利 な生産条件 の地域(Less favoured area)と して ヨー ロッパ連合(EU) の指定 を受 ける。 ここに言 う不利 な条件 とは、不毛 な土地 ゆえに期待 され る経済的な収益 も全国 平均 を下 まわ らざるを得ない とい う意味である。農業就業者の所得 は、おのず と低 い。農業生産 の主力 をなす羊 と肉牛の飼育の うち後者の市場 は、価格 と取 り扱い量の双方 において際立 った低 下 を辿 る。農地100ヘクタール当た りの肉牛頭数が、 ウェールズで最 も高い州であるだけに、か んばしか らざる市場 の影響 は、ポーイス州の農家 に一段 と厳 しい。前者の羊 を取 りま く市場 の動

(5)

きは、肉牛市場 ほ どの危機的な様相 を呈するわけでない。 しか し、 この市場 は、 ヨーロッパ連合 の共通農業政策 に大 き く左右 され る。補助金への依存度が高いか らである。その金額 は、近年減 らされ る傾向にある。農地100ヘクタール当た りの羊頭数 は、 クロイ ド州 と共 に850頭を超す。

補助金の削減 は、それだけに少な くない影響 を及ぼす0。

ポァイス州の生活 に要す る費用 は、相対的にしろ割高である。 これは、おおよそ3つの要因に よる構造的な問題である。

1に、 自家用車の購入 と維持 は、公共交通手段の乏 しさか ら必須の要件である。 自家用車の 保有 は、高い所得 と生活水準の指標 としてイギ リスにおいて もしばしば論 じられ る。世帯当た り の保有率 は、イギ リスあるいはウェールズの中で も確かに高い0(77.93%、 66.65%、 67.74%、

91年)。 その比率 は、イギ リス67州の中で5番目の高 さである0。 しか し、 これを以 って高い所 得 と生活水準の証 と見なす ことは、ポーイスJJllllに関す る限 り事実 と異なる。 自家用車 の高い保有 率 は、少な くともこの州 にあっては文字通 り自発的な選択 の結果でない。 それは、通勤や生活用 品の買物の為 に必要 に迫 られての選択である。公共交通の名 にふさわ しい手段の乏 しい中にあっ ての選択である。

州内におけるバス運行の頻度 は、表1に示す ように著 しく低 い。 ここに言 うバス運行 は、 自治 体 内の循環 を除 く全て自治体間のそれである。 日に3回以下の運行 は、 ウェールズの平均でお よ 7分1であるのに対 して、ポーイス州で3分1強にのぼる。次の ような疑間が、 この表 に 寄せ られ るか もしれない。すなわちウェールズの計数 は、首都 カーディフ市や これに次 ぐ規模 の ニューポー ト市及びスオンジー市な どウェールズを代表す る都市のそれによって全体的に底上 げ されるのではないか、 とい う疑間である。 もっ ともな指摘である。

そ こで表2を作成 してみた。表中ポーイス州 を含む4地域 は、 ウェールズの首都 カーディフ市 か らいずれ も遠 く離れ る。カーマーゼンシャー とノース・ ペ ンブルクは、 ウェールズ南西部 デイ ベ ド州のいずれ も一部である。ポーイス州の南西方向に位置する。デンビーシャーは、ウェール ズ北部のクロイ ド州の一部である。ポーイス州の北 に隣接す る地域である。ポーイス州がウェー ルズの内陸部 にあるのに対 して、他の3地域 は、いずれ も海岸部 にある。バスや鉄道 の運行の頻 度 は、 ここで もポーイス州 についてかんばし くない。表中最下欄 の平均運行 回数 は、4つの地域 の中で最 も少ない。通勤や買物 は、いきおい自家用車 をあてにしなければならない。その結果 は、

自家用車の購入 と維持 に要する費用の負担である。

2に、食料品の価格 は、都市 に比べ るとお しなべて割高である。スーパーマーケ ッ トは、南 部のブレックノ ックシャーに関す る限 り存在 しない。町や村 の個人商店で食料品 を買い入れ るこ

‑4‑

(6)

ポーイス州及びウェールズにおけるパス運行の頻度(1)等の比較

頻度0回

実 数 (路)

(%)

ポー イ ス州

lAl

j t-tvA

(B)

ω

a。 10分 お き

b。 15分 お き

C.15〜30分 お き

d.20分お き

e.30分お き

f。

60分 お き

g。 120分 お き 10回

9回 8〜10回 8回 7回 6回 5回 4〜5回 4回 3〜5回 3〜4回

S.3回 t.2〜 4回 u. 2〜3回

V.2回

W。

1〜 2回

X.1回

y.  100.0 100.0

[資]FWT Wales,Wales bus,rail and tou亘st map and guide 1998/99よ り作成。

[注](1)月曜〜土曜日の各曜日当たリバス運行の間隔もしくは回数である。

とになる。商品の品揃 えに多 くを期待で きない ことか ら、選択の幅 は狭 い。価格 は、総 じて高い。

商品の輸送 に要す る経費 を考 えただけで も、止むを得ない事態である。

3に、暖房費 は、相対的に多 くの出費 を覚悟 しなければな らない。セ ン トラル ヒーテ ィング のない住宅 は、5軒1軒を超す )(20。13%、 91年)。 この比率 は、イギ リスはもとよリウェー ルズのそれに比べて も高い(18.88%、 18.54%)。 この種の住宅 は、州の中で も北部の特 に辺ぴな 農村部 に多い。 また、 この種の住宅 は、改善の加 えられない古 くか らの住宅 の代名詞で もある。

充分な通風や断熱 を考 えに入れて設計 された住宅 ではない。暖房の効率 は、古 くか らの住宅であ

(7)

ポーイス州他3地域 におけるパス及び鉄道の運行回数別構成 と平均運行回数のlLa

 

実 数 (路)

(%)

lClン

CAl

tCl

0

1.月曜〜土曜 日の各曜日 当た り運行回数別構成

a。 1回

b.2回 C.3回

d。 4回

e.5回

f。

18 10 4

2

4 13(1)

19

20

11

5 3 35(2)

5

3

2 3

1 17(3)

6

5 7

4

4

31(4)

48 38 24 14 12 96

35。

3 19.6 7.8 3.9 7.8 25.5

20。4 21.5 11.8 5.4 3.2 37.6

16.1 9.7 6.5

9。7 3.2 54.8

10.5 8.8 12.3 7.0 7.0

54。4

20。7 16.4 10.3 6.0 5.2 41.4

g.計 232 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0

2.月曜〜土曜 日平均 運行回数

(回

)

10.5

[資]The Highways and Property Dir∝ torate T∝ hnical Services,Powys travel guides Montgomeryshire, August 1997,pp.14‑56,Camarthenshire County Council,Camarthenshire,a guide to bus services, pp.19‑114,Pembrokeshire County Council,North Pembrokeshire,book l in a series of 2,contains details of all the bus and rail services in the area, S―

ner 1997, pp.1‑37, ]〕

enbighshire County Council,Public Transport Unit,Denbighshire public transport guide,June 1997,pp.7‑62よ り作成。

[注](1)7〜

36回

である。

(2)6〜

44回

である。

(3)6〜

41回

である。

(4)6〜

35回

である。

ることか らい きおい低 い。 しか も、燃料の価格 は、配達の経費 を含む ことか ら相対的に高い。大 都市か ら遠 く離れた古い住宅であるが由に背負わなければな らない出費である。

人々の暮 らしぶ りは、医療や介護サー ビスのあ り様 にも左右 され る。ポーイス州 に個人商店 さ えな く、定期的に運行するバスや鉄道 さえもない村々 もある。医療や介護サー ビスは、 そうした 地域 にあって多 くを期待で きようか。表3は、生活関連の施設 とサー ビスについて一覧 した もの である。ポーイス州 を代表す る3つの町 とウェールズの代表的な3市とを比較 した ものである。

診療所 をはじめ病院、家事援助サー ビス会社、看護婦・ 介護者斡旋派遣会社、ナーシングホーム 及び障害者情報サー ビスは、州 を代表す る3つの町においてさえ全 く存在 しないか、あって も数 える程である。 ウェールズを代表す る3市との落差 は、歴然 とす る。 この種 の施設やサー ビスを 必要 にす る人々が、ポーイス州 にいないわけでない。年金支給開始年齢 を超す人々の比率 は、 こ

‑6‑

(8)

ポ…イス州内3町及び他州内3市における職業・ 生活関連施設及びサー ビスの状況比較

施設及 び サー ビス(1)

実 数 (力,人) 比 率 (%)

ω

ドラ ウ ンエド ル リ ズ ン 町 ド

tBlツ

一③ 一〇 一③

職業紹介・コンサルティング会社   

療 所

     

家事援助サー ビス会社 看護婦・ 介護者斡旋派遣会社 社会サー ビス・ 福祉団体 ナーシングホーム 慈 善 団 体

カウンセ リング・ 助言団体 障害者情報サービス

0.0

5。9 0.0 1.0 12.5 0.0 0.0 5.0 16.7 9.3 6.7 0.0

2.6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 5.0 0.0 7.3 13.3 0.0

1.3

5。9 6.5 2.1 25.0 0.0 0.0 15.0 0.0 10.0 26.7 8.3

223

[資料]British Telecommllnications,Yellow pages,Cardiff and SoE.Wales 1997/98,Shrewsbury,Hereford and Mid Wales 1998/99,Swansea South West Wales 1997/98よ り作成。

[注](1)『イエロー0ページ』における表記は、上から順に次の通 りである。Emplttment Agencies and Consul‐

tants,Libra五es,Clinics,Doctors(MediCal Practitioners),HoSpital,Domestic Service,Nursing Agencies and Care A̲gencies,Social Service and Welfare Organisations,Nursing Home,ChaHtable Voluntary Organisation,Counselling and Advice,Disabled lnfomation Services.

の州 においてむ しろ高い0(男8.08%、 女性13.82%、 以下同 じくイギ リス6.44%、 12.28%、

ウェールズ6.96%、 13.17%、 91年)。 これ らの人々は、住 み慣れた町や村か ら遠 く離れた都市 に 出向 くことなしにこの種 の施設やサー ビスを利用で きない。州 を代表す る3町にして この状況で ある。3町を取 りま くように点在す る村々の様子 は、想像す るにあまりある。人々の暮 らしぶ り は、賃金 をはじめ とする所得の低 さや割高な生活費 ばか りでな く、 このように乏 しい施設やサー ビスによって も枠 をはめ られ る。

ポーイス州の自然や街並みに目を転ずれば、見事 と言 う他 にない。町や村の周囲には、緑がは るか遠 くまで広が る。なだ らかな傾斜地の牧草 をはむ羊の姿 に見 とれていると、過 ぎゆ く時間 さ え忘れ させて くれ る。州の南部 に広が るブレコン・ ビーコンは、イングラン ドとウェールズで最 も美 しい11の国立公園のひ とつ としてつ とに有名である。多 くのハイカーを毎年の ように迎 え入

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れ、人々の気持 ちをなごませて くれ る。 ブレコンの人々 は、その美 しさを誇 らしげに語 る。古書 の街 として国際的にも知 られるヘイオ ンフイ町 も、この州の南東部 にある。協同組合運動の祖R・

オーエ ン (Robert Owen)の生 まれたニ ュータウン町 も、 この州の北部 にある。ハイス トリー ト を中心 に広が るニュータウン町の街並みは、いかに も落ち着いた風景である。ポーイス州の自然 と街並みは、 この上 ない魅力 を旅行者 に感 じさせ る。大都市 に住むイギ リス人でさえ、 自然 と街 並みの美 しさに目を奪われてであろうか、そ こに暮 らす人々の生活 を美化 しがちである。)。 しか し、ポーイス州の人々 は、乏 しい施設やサー ビスの下で生活 を営むのである。美 しい自然の享受 と引 き換 えるには、いかに も大 きな代償である。

ボランティア団体 は、 この州 にも多い。ポーイス州 ボランティア団体協議会 (PAVO)の編集 になる『慈善・ ボランティア団体名簿―ブレックノック地域(10‑』 に紹介 される住宅、交通、保 健 な どの団体 だけで も300に近 い。 しか し、農業 を主力 にす る地域 にあってい くつかの制約 を抱

える。

1に、在宅介護者の援助団体 として全国的に有名 なクロスロー ドの地域組織 は、州 に存在 し ない。 クロスロー ドの地域組織 は、カーディフ市やニューポー ト市な どのウェールズ南部及びレ クサム町な どの北部 に集中す る(1。ことか ら、そのサー ビスは、ポーイス州 と北西部のグフイネズ 州 に届 けられない。ブレックノック在宅介護者の P.マ ッカーシー (Pat McCarthy)さ んに教 え ていただいた ところによると、 クロスロー ドの事務所 をブンコン町にも開設する為 に準備 に入っ た ところである(98年4月)。 クロスロー ドのサー ビスは、開始 された暁 にポーイス州 にどの程度 広が ることになるであろうか。 クロスロー ド・ ウェールズの財政状況の厳 しさや州南部 のブレコ ン町一箇所の事務所であることを考 えると、多 くを望むわけにいかないのではなかろうか。在宅 介護者が各地の農村 に散在す るとい う事情 もクロスロー ドの運営 に とって足枷 になるように思わ れる。

2に、住民の相談 に応ずる窓 口開設時間は、短い ことである。住民相談事務所の例 を示 そう。

その窓 口開設時間 は、ブレコン地区で週4日 13時30分、同 じ地 区のヘイオ ンフイ出張所で週 1日 2時間、モ ン トゴメ リーシャー地区で週3日 12時30分である(12、 この うち最後 の地区の それ は、96年3月までの週4日 20時間、同 じ く97年3月 までの週4日 15時間 を変更 した もので ある。その引 き金 は、 自治体か らの補助金の縮減である。 これに押 されて止むな く窓口開設時間 の短縮 に至 った ものである。他の自治体 にある住民相談事務所の窓 口開設時間を参考 までに示す と、 ロン ドン・ サ ッ トン自治区で週4日 22時間、 ロン ドン・ サザ ック自治区で週5日 18時間な どである(10。 ポーイス州の窓 口開設時間 は、 これ らに比べ ると明 らかに短い。

‑8‑

(10)

3に、ボランティア団体 の職員が事務所 の外 に出て住民の元 に出向 く回数 は、 日立 って多 く な らざるを得 ない。 ここで も例 を示 そう。ポーイス州 ボランティア協議会の情報担当職員 は、在 宅介護者 に関す る95年法 の施行 (96年 4月 1日)に当たって州 中部 の39にのぼ る村々 を訪 ね (10。 在宅介護週間に寄せ られた質問に答 え、あわせて在宅介護者の要望 に耳 を傾 ける為である。

ボランティア団体 らしい誠 実な行為である。 しか し、 この巡 回は、 よ くよ く考 えてみると協議会 の事務所 を州内に 3カ 所 しか設置で きない財政状況 に端 を発す る行為で もある。村々の巡回は、

相応の移動時間 を伴 う。在宅介護者 の声 に耳 を傾 ける時間 は、その長 さに比例 して短 くなる。

4に、交通手段の独 自の確保 を避 けるわ けにいかない。人の移動 は、ポーイス州の地域的な 特性か らして身体 に障害 を持たない人々に とって もしばしば大 きな問題である。 これ は、高齢者 や障害者 に とってはなおの ことである。 ボランテ ィア団体 は、多岐 に亘 る援助の一環 として交通 手段 の確保 を迫 られ る。一例 をあげよう。独 自に運用するマイクロバスは、州 ボランティア団体 協議会ニュータウン地域 に限って も年 に1,500回近 く利用 され る(10(95年4月 〜96年3月)。 民 に歓迎 され ることは、言 うまで もない。 しか し、 その費用 は、格安 に押 さえられた利用者負担

をもって まかなえる程安 くはない。 これ はこれで資金の持 ち出 しを覚悟 しなければな らない。

最後 に、州内のボランティア団体 の影響力 は、州外 とりわけ都市部 における同種団体 に比べ る と残念 なが ら小 さい。団体への期待 と業務量 は、州 ボランテ ィア団体協議会の代表 も認 めるよう にポーイス州で も近年高 まりをみせ る。 しか し、その資金 は、都市部 に比べ ると格段 に少 ない。

しか も、その活動 は、農村部 に特有 な人 口密度の低 さに制約 されて都市部 ほ どに効率化 されに く い。団体職員の業務処理能力の向上 と情報処理機器 の導入が、一様 に指摘 され る。 これはこれで 相応 の効率化 をもた らすであろう。 しか し、都市部の団体 と伍す程 の効率化 に目処 をつけられ る か と言 えば、農村部 の団体 に とって至難の課題 である。効率化 は、農村 における対人サー ビスの 常 としてサー ビス水準の低下 につなが りやすい ことも確かである。

ボランティア団体 の存在 とその活動 は、 このように言 うか らといって住民 に歓迎 されないわ け でない。2つの住民相談事務所だけで も年間1万3,000件近 い問い合わせ を受 け (96年4月97 年 3月)、 州 ボランテ ィア団体協議会で も同 じ く5,000件近 くの相談 に乗 ってい る(10(95年4月

96年3月)実績 を考 えれば、住民 の生活 にな くてはな らない役割 を担 うと評価す るべ きであろ う。 また、在宅介護者全国協会 ウェールズのポーイス州支部が、ブレコン町ボランティア事務所

(BVB)の一角 を借 りて手掛 ける活動 は、会員である在宅介護者か ら好意的な評価 を受 けている こと。つも忘れずに紹介 してお きたい。

(11)

 

在宅介護者の承認 と援助の開始

ポーイス州の在宅介護者 について検討する為 にも、ひ とまずポーイス州 を含むウェールズの在 宅介護者 について考 えてみたい。

保健・社会保障大臣が議会 に提供 した自書『人々の介護―向 こう10年の コ ミュニティーケアー』

(89年)は、 ウェールズのコミュニテ ィーケアに独 自の章 を立 てて次の ように述べ る。「殆 どの 人々の介護 の大部分 は、その家族や友人 によって担われ続 ける。障害や疾病 を抱 える肉親や友人 あるいは隣人 を在宅で看 るウェールズ人 は、中央統計調査局『国勢調査』85年版 を基 に推計す る とお よそ29万人 である。 この在宅介護者のお よそ60%は、女性である(10。

自書 は、在宅介護者の規模 と役割 を強調 した上で、続 けて援助 の必要性 について提言す る。 自 書の提言 は、コ ミュニティーケアに関す る90年法 として実 を結ぶ。そこで、次の ことが問題 にな る。すなわち、自書の公刊 と90年法の制定 は、ウェールズの在宅介護者 にどのような影響 を与 え たであろうか。一つの有力な見解 は、在宅介護者全国協会 ウェールズのそれである。この団体 は、

ウェールズ在宅介護者同盟 (WCA)の代表 と協議の上で下院 ウェールズ問題委員会 (WFC)│こ 覚 え書 きを提出す る。9(92年 1月

)。 その中で「在宅介護者の援助 は、自書の公刊 とこれに続 く90 年法 の制定 に もかかわ らず これ といった変化 を示 さないの 」と評す る。在宅介護者 と日々接 しな が らその声 に耳 を傾 けてきた団体 による評価であるだけに、無視す るわけにいかない見解である。

しか し、在宅介護者の援助 は、州 レベルの動 きをやや立 ち入 って検討す ると若千の変化 を確か めることがで きる。その要因は2つある。その1つは、政府の指導である。政府 は、90年法の施 行 (93年 4月)を前 にして自治体社会サー ビス部の指導 に乗 り出す。指導の基調 は、先の自書 に おける考 え方である。いまひ とつは、ボランテ ィア団体 による要求の体系化である。ウェールズ 在宅介護者 キャンペー ン(WCC)は、 ウェールズにおける在宅介護者の承認 と援助の拡充 を最大 の目標 に、18のボランティア団体 を以て発足す る。87年6月の ことである。在宅介護者の援助 に 関す る要求の体系化 は、この団体 によって翌88年になされ る。これに沿 う運動がウェールズの各 地で展開 され、州や市町村の政策担当者 もこの要求 を無視 しえな くなる。第1の要因が、政府 に よるいわば上か らの指導であるのに対 して、第2の要因は、 ボランティア団体 によるいわば下か らの圧力である。

さて、在宅介護者の負担 と要求 は、 ウェールズにおいて も専門的な調査研究や討論会の主題 と して しばしば取 り上 げ られ る。筆者 の知 る限 り1982年以降の ことである。お よそ3つの流れが

‑10‑―

(12)

あった ように考 えられ る。第1に、大学の専門研究者や病院の医師 による調査研究であるK21、 宅介護者 に関する調査の空 白を強 く意識 しなが ら、在宅介護者が何の援助 もなしに介護 と格闘す るさまを調査結果 に即 して描 く。第2に、 ウェールズ庁(WO)ソ ーシャルワーク部主催 の討論会 である。幼。そこでは、在宅介護者の役割 を確認す ると共 に、援助サー ビスの現状 を洗い出 しなが ら必要 な政策方向について模索す る。第3に、 ボラ ンティア団体 に よる調査研究 と討論会 で あ る。つ。 そこでは、在宅介護者の負担 を在宅介護者 自身の「生活の質」 といつた視角か ら洗い出 し なが ら援助 の乏 しさを指摘 し、あわせて体系的な要求の定式化 を試 みる。

これ らの作業 は、その主体 こそ異なるものの幾つかの問題 を共通 に指摘す る。 それは、在宅介 護者 の負担の大 きさ、在宅介護者への援助 の乏 しさ及 びサー ビス拡充の必要性、 これ らである。

在宅介護者 は、 ウェールズ とイ ングラン ドあるいはスコッ トラン ドの別 を問わず、 また、都市 に居住す るか農村 に生活す るかの別 もなしに、3つの共通す る負担 を抱 える。第1に、金銭的な 負担である。公的な手 当ての額 は、いか にも少 ない。介護 に要す る費用 をまかな うに足 る額 に程 遠 い。介護の負担 に押 されて仕事 を辞 めなければな らない ことも、 さしてめず らしくない。い き おい貯 えに手 をつけざるをえない。仕事 をやめた場合 は、年金の受給 に要す る勤続の要件 さえ満 た されない こともある。介護の負担 は、そうす ると生涯 にわたる。仕事 を続 ける場合でさえ、昇 進 に影響 しない とい う保障 はない。負担 は、 この場合 にも介護 に直接携わる期間 に止 まらず生涯 に及ぶ。第2に、実際的で 日常的な負担である。 日々の介護作業 に向 きあ うことか ら生ず る。援 助 は不充分である。か りに存在 して も、援助 に関す る情報が不足す るという問題 もある。結果 は、

援助 な しの介護である。第3に、情緒的な負担である。在宅介護者 は、被介護者 と向 きあうこと と引 きかえに自身の社会生活の一部 もし くは全部 を犠牲 にす る。 しか し介護 は、妻や娘の ご く当 た り前の仕事の一部 と見 なされ、 これ といった認知 を受 けることもなかった。被介護者への責任 感 を強 く持 ち続 けると同時 に、将来 に対 す る―抹の不安やや り切れなさが脳裏 をかすめる。

在宅介護者 の負担 は、 ウェールズの各地 に代表 され る農村部 において これ らに止 まらない。

ウェールズの専門研究者やボランティア団体 の作業 によって確かめ られ るように、都市部の在宅 介護者 にはない追加的な負担 を背負 う。

まず は、サービスにかかわ る。サー ビスは、都市部 に比べて も全般的に不充分である。職員の 実労働時間 は、移動 に要す る時間の長 さに応 じて短 くなる。都市部 に比肩す るサー ビスを提供す る為 には、相対的 に多 くの職員 を充てなければな らない。 しか し、 これは、 自治体財政の現状 に 照 らして選択 されない。 コミュニティー・ サー ビスに要す る費用 は、都市 に比べ ると割高で もあ る。職員の移動 を例 に とって も長 い距離 と時間 を走 らなければな らない。 これはこれで費用の負

(13)

担 を伴い、提供 され るサー ビス当た りの単価 を押 し上 げる。サー ビスは、 こうした ことか ら都市 に比べて全般的に圧縮 され る。 また、交通 にかかわ る。交通手段 は、全体的に不足する。農村 に 住 む女性の60%は、自動車の運転免許 を持たない。在宅介護者のおよそ3人2人は、性別 に女 性であることを思い起 こしたい。 さらに、農村 にあったサー ビスの不足 にもかかわ る。サー ビス は、都市の先駆例 をモデルに設計 され る。サー ビスは存在 して も、農村の被介護者や在宅介護者 には利用 しに くい。 しか も、在宅介護者 とこれを取 りま く地域 の環境 という制約 もある。介護 に 対す る責任感 は、農村 において総 じて高い。 自助的な努力 に対す る周囲の期待 も、相対的に大 き い。 これはこれで在宅介護者の責任感 を陰に陽に下支 えする。サービスヘの期待 は、意識すると 否 とにかかわ りな く低 くなるの も止むを得ない。

ウェールズにおける在宅介護者の負担の大 きさや援助の乏 しさは、在宅介護者の証言。のによっ て確かめることがで きる。

証言

ウェールズ東部 のグワィネズ州 に住 む女性の証言である。

私 は、4人の子供 を抱 えています。下の3人は、ご く普通の明 るい子供です。11歳になる一番 上 の息子 は、知的障害児であると共 に身体障害児で もあ ります。で も、 この子 はとて も明 る く、

気立て も申 し分あ りません。衣服 の着脱や体の清拭、排便 あるいは食事 な どに介助 を要 します。

一人で遊 ぶ ことも出来 ませんか ら、一緒 になって遊 びに興 じなければな りません。私がなぜ子供 の介護 を手掛 けるか と言 えば、彼 は、私の息子だか らです。下の3人の子供が大 きくなるにつれ て、一番上の息子 との発育ぶ りに大 きな差が出来 ました。一番上の息子 は、いつ まで も赤子のよ うです。私 は、4人の子供 と一緒 に外出すると2つの全 く別の速度 にあわせなければな りません。

言葉 に言い表せない程疲れ ます。

……かな りの数の女性 は、介護 に生活の全てを捧 げます。女性 は、それで もなお介護の役割 を 快 く引 き受 けるように期待 され ます。社会 は、在宅介護者の行為 に賛辞 を惜 しみません。しか し、

どうい うわけか僅かなお金 しか支給 され ません。

……サー ビスに関す る私の体験 は、色々です。『ウェールズ援助戦略』は、徐々にではあるもの の確かに発展 してきました。障害 を持つ息子が学校 に登校で きるのは、とて も良い ことです。……

しか し、緊急用のベ ッ ドは寄宿寮 にあ りません。……かつて一時休息計画 を利用 した ことがあ り ます。で も、 この計画 は現在では縮小 されています。かな りの資金不足 に起因す ると聞いてい ま す。私 は、会合 に出席する時な どに介護者 を捜 し出 してお金 を支払います。介護者 を見つけるの は、 もちろん私の仕事です。一時休息 は、 とて も大切です。他の3人の子供 を世話す る為 に一息 つかなければな りません。私 自身の為の時間 も必要です。一時休息サー ビスは、利用 しやす く信

‑12‑

(14)

頼度 も高 くあってほしい ものです。……知的障害者の介護 には、緊急時のサー ビス も是非共必要 です。……在宅介護者のグループやボランティア団体が、地域 にあ ります。 しか し、多 くの在宅 介護者 は、農村部の常 として交通手段 の確保 されない限 リグループに加われずに、一人ぼっちの ままです。 ソーシャル ワーカーや他の専門職者 との恒常的な接触 は、 とて も大切です。多 くの在 宅介護者 は、 これを高 く評価 しています。……在宅介護者 は、他の人々の役 に立 とうとす るな ら ば、 自分 自身の生活 を取 り戻 さなければな りません。サー ビスの設計 は、在宅介護者 と要介護者 双方のニーズに目を配 ってほしい ものです。

証言

ウェールズ北部 のクルーイ ド州 に住 む女性 の証言である。

私 は、64歳にな ります。クルーイ ド州の山岳地帯 に住んでい ます。けいれん性 の対不全麻痺 と して知 られ る症状 の夫 を介護 しています。夫 は、歩 くことさえ出来 ません。夫の 日常生活 に係わ る殆 どを介助 しています。私 は、88年に足 を骨折 しましたのでグラン・ クルーイ ド病院 に2週 入 りました。夫 は、 この間 自力で何 とか生活 しなければな りませんで した。 自治体の社会サー ビ ス部 はもちろん病院の社会事業班 も、 この時 に何 ひ とつ援助 して くれ ませんで した。2週間が過 ぎようとする頃 になって、 クルーイ ド州 は、 ホームヘルプ・サー ビスについて提案 してきました。

時間当た り3ポン ド25セン トの自己負担 を条件 にしての ことです。私が、介護者手当を受 け取 っ ていることを理由にした負担です。私 と夫 は、 これを負担す るだけの余力 を残念 なが ら持 ちあわ せ ませんで した。結局、私の孫が失業中の身であ りなが らイングラン ド中部のウエス トミッ ドラ ン ド州か らやって来て、 3ヶ 月間手助 けして くれ ました。私 は、住んでいる地域 になに程かの施 設やサー ビスのない ことに慣 りさえ感 じます。村 は、街の通 りに電灯 を付 けただけです。 それ も 88年の ことです。在宅介護者の為 の金銭的給付があまりにも低い額であることに、腹立た しいお もいです。私 は、一時休息 を取 った ことがあ ります。これは、家族 によって提供 された機会です。

コミュニティーに一銭た りとも負担 をお願いしたわけではあ りません。で も、社会サー ビス部 は、

「 ライフライン」 と呼ばれ る緊急用の電話 を設置 して くれ ました。 これは、私 をとて も元気づ け て くれ ました。

証言

同 じ くクルこイ ド州の女性 による証言である。

私 は、75歳にな ります。ずっ と独身です。今 は、一人暮 らしで健康 を害 してい ます。かつて在 宅介護者であった者の一人です。両親が、1960年代 に他界す るまでずっ と世話 をして きました。

私 は、両親が亡 くなった後、高齢者の居住介護施設 に職 を見つ け、 そ こで働 きました。悪性腫瘍 の手術 を受 けたのち退職 しなければな りませんで した。施設で15年働 いた ことにな ります。私 は、

退職 してか らとい うもの貧 しい生活 を余儀 な くされ ました。老齢基礎年金 に加 えて僅かばか りの

(15)

老齢退職手当を受 け取 りました。 これは、通常 よりもかな り低 い額です。有給の介護労働者 とし て僅かに15年の就労期間 しかなかったか らで しょうか。平屋建 ての住宅 を保有 していた ことも災 い したのか もしれ ません。僅か とはいえ6,000ポン ドの貯 えを持 っていた ことも、悪い結果 につ なが った ようです。公的な所得補償 は、 これ らの為 に受給で きなかったのです。

証言

ウェールズ南東部のサウスグラモーガ ン州 に住む女性の証言である。

私 は、父が1985年 12月 に105歳で他界す るまでずっ と父の世話 を続 けて きました。16歳か ら 介護 を担い ました。父 は、第一次大戦 に参戦 して障害者の仲間入 りをしました。 その後十二指腸 潰瘍 を患 って入退院 を繰 り返 した りしました。95歳の時に重い肺炎 を患いました。それか らとい もの一人で歩 けな くな りました。私 は、5年程前 に老齢退職 をす るまでず っ と働 いてい ました。

働 きなが ら父の世話 に当た りました。2人の姉が週 に 1日 手伝 いに来て くれ ました。 これだけで は足 りないので、週3日昼間だけのお手伝いに来て もらいました。仕事の都合で会議 に出席 しな ければな らない時な ど、夕方にもお手伝 いに来て もらいました。私 は、老齢退職で仕事 をやめて か らは2人の姉の力 を借 りずにやっていけました。で も、お手伝 いには週1‑2回来 て もらって い ます。昼間に来て もらうだけですが、 このお陰で一時休息 をとることがで きます。かってホー ムヘルプ・サー ビスを申し込んだ ことがあ ります。 しか し、断 られ ました。 この種のサー ビスは、

その当時男性の在宅介護者 にだけ認 め られ、同 じ介護者であるといえども女性 に給付 されなかっ たのです。私 は、別の機会 に再度 申し込みました。すると週4時間のサー ビスが認 め られ ました。

しか し、 これ も間 もな くして週2時間 に切 り下 げ られ ました。私 は、父の最期 を自宅 で看取れた ことをこの上な く嬉 しく思います。しか し、父の最後の10年間 とい うもの睡眠 もままな りません で した。 日中 といえどもひ とつの ことに集中す るの も容易であ りませんで した。本 を読んだ り趣 味 に興ず ることな ど、全 く問題 にな りませんで した。

援助 とその拡充 についての提言 は、サー ビスの現状 に対す る批判 を踏 まえなが ら相次いで試 み られる。最 も早い提言 は、1982年の在宅介護者会議 (AC)などによるそれである。 この団体 は、

雇用機会均等委員会 の報告書 『誰れが在宅介護者 を介護す るか一高齢者 と障害者 を介助す る人々 の為の機会―(25」 (82年 )を も参考 にしなが ら、一時休息の保障 をはじめ介護者手当の引 き上 げ、

カウンセ リングや助言サー ビスの新設及 びホームヘルプ・ サー ビスの拡充 な どについて提言す る。0。 しか し、 この提言 は、最 も早 くになされた とい う時期的な制約か らであろうか体系的な内 容でない。

やや まとまりのある提言 は、4年後 の86年になされる。つ。それは数 にして11項目に亘 る。内 容 の上で は、ニーズのアセスメン トか ら一般開業医への在宅介護者の登録、被介護者 と在宅介護

‑14‑

(16)

者のニーズに柔軟 に対応す るサー ビスの編成、サー ビス と手 当てに関す る情報の普及、在宅介護 者への介護技術訓練、一時休息機会 の保障、終末期 の被介護者 を看 る人々への特別 な援助 の開始 な どである。 これ は、 ウェールズの調査 を踏 まえた提言 としては最初の まとまりのある内容であ る。 その後の提言 に継承 され る内容 も少な くない。 ウェールズ大学医学部高齢者介護研究班 に籍 を置 く一研究者の作業である。ボランティア団体 の提言 に少な くない影響 を与 えた とはいえ、 自 治体 の政策 に直接の影響 を及ぼすわ けでない。

提言 は、翌87年にもなされ る。看護職者 によるそれである。

D。

コ ミュニティーケアの殆 どは、

「家族介護者」に担われ るとして、 その特有 なニーズ と配慮の必要性 を指摘す る。提言 は、11項 目である。 それは、一時休息の保障 をはじめホームヘルプ・ サー ビスの拡充、情報の提供 あるい は相談や助言機会の確保 な どを含む。地域看護 に携わ る専門職者の提言 として傾聴 に値す る内容 である。先の提言 と共 に後の作業 に継承 される。

ウェールズ在宅介護者 キャンペー ンによる88年の提言 は、本格的な調査 に基づ く成果である。

5つの領域 の20項目に及ぶ●

0。

体系的で濃やかな日配 りの き く内容であることか ら、自治体 の政 策 に直接の影響 を及 ぼす。 ウェールズにおける在宅介護者援助の歴史 にとって、画期的な提言で ある。 その内容 は、おお よそ次のようである6

(1)一

時休息

 

居住介護施設の利用 による一時休息 は、在宅介護者の選択 に委ね られていない。

居住介護施設 に関す るまとまった情報 もないのが現状である。この種の施設 におけるサー ビスは、

在宅介護者 と被介護者のニーズに合致 しない。社会サー ビス部 は、 これ らの現状 を見直 さなけれ ばな らない。 自宅の利用 による夜間の一時休息サー ビスは、存在 しない。 自宅の利用 による時間 帯 を問わない一時休息 は、早急 に整備 されなければな らない。 ボランティア団体への資金の助成 は、多 くの場合 に短期間である。団体 によるサー ビスは、 この為 に計画的に提供 されに くい。 こ うした現状 は再検討 され、見通 しを持 って運営で きるように資金 を手当て しなければな らない。

緊急時の一時休息サー ビスは、拡充 されて しか るべ きである。家族的な雰囲気で運営 され る一時 休息計画 は、 ウェールズはもとよ リイ ングラン ドやスコッ トラン ドの経験 も含めて体系的な調査 の対象 として取 り上 げられなければな らない。デイセ ンターの利用 による一時休息 も、調査の主 題 として取 り上 げ られ るに値する。ともあれ一時休息の現状 は、不充分であ り、在宅介護者のニー ズ を独 自に考慮するに至 っていない。社会サー ビス部 は、在宅介護者の権利 に関する政策 を定 め、

一時休息 に関す る基準 をその一部 として明示 しなければな らない。

(2)専

門的な在宅サー ビス

 

作業療法士などの専門職者の員数 は、少ない。 そのサー ビス もおの ず と薄い。在宅介護者 によるサー ビスの利用 は、いかにもむずか しい。受給 の基準 も判然 としな

(17)

い。主要なサー ビスの受給基準が、在宅介護者の為の一貫 した政策 に沿って定められ周知 されな ければな らない。

(3)在

宅介護者の為の情報源

 

サー ビスに関す る情報 は、専門職者の手 に握 られ ることか ら、専 門職者 と接触す ることなしに入手するわ けにいかない。 この種の接触 は、危機的な状況 に至 って ようや くなされ ることが多いの も現状である。在宅介護者 むけの情報 について一貫 した政策 を持 つ自治体 は、 ウェールズにひ とつ としてない。社会サー ビス部 は、全ての専門職者が在宅介護者 サー ビス を熟知す るように保健部 と協力 して取 り組 まなけれ ばな らない。全 ての在宅介護者が サー ビスについて知 り、関係す る情報 を入手で きるようにしなければな らない。『在宅介護者情報 便覧』 を公刊で きるように、予算 を手 当て しなければな らない。 キングス・ ファンドセ ンターの 発行 になる便覧(30(88年)は、大 いに参考 になる。サー ビスの効果的な伝達方法 について研究す

ることも欠かすわけにいかない。

(4)在

宅介護者 に関す る情報

 

この種 の情報 は、既 にサー ビスを受 けている在宅介護者 に関す る それに限 られ る。サー ビスを受 けていない人々の確認 は、至難の課題である。 しか し、 この種の 情報 は、 より良いサー ビスを立案す る為 の基礎資料 として効果 を発揮す る。 よ り良い情報の収集 は、す ぐれた計画 を立案す る為の一歩である。効果的な確認方法の開発 にむけた研究 に着手 され てしか るべ きである。情報の保存 と活用 に関す る指針の策定 も望 まれる。

(5)在

宅介護者への継続的な援助

 

早期 のカウンセ リングは、行われていない。最初 に接触 した 専門職者が、在宅介護者のカウンセ リングを行 うように体制 を整 えなければな らない。在宅介護 者のグループは、有益である。 ウェールズで は、残念 な ことにあ まり発展 していない。社会サー ビス部 は、地域の在宅介護者 グループに資金 を含む援助の手 を差 しのべて しか るべ きである。在 宅介護者全国協会 ウェールズの設立が、提案 されている。 これへの資金の援助 もなされ るに値す る。在宅介護者への訓練機会 は、 ウェールズにない。介護技術 な どに関する訓練機会が、整備 さ れなければな らない。

この提言 は、前述 したように州の政策 に直接の影響 を与 える。表4は、高齢者 の コ ミュニテ ィー ケアに関す る下院 ウェールズ問題委員会 の91年11月 13日 付 の質問に対す る州社会サー ビス部 と保健局 の回答状況 を要約 した ものである。在宅介護者 にかかわ る施策 の現状 を9つの事項 に 沿 って、一覧することが出来 る。質問は、90年法の施行(93年 4月)よ りやや以前 における現状 の把握 を目的にす る。回答 は、91年12月 〜92年2月の期間に寄せ られ る。回答 は、 ウェールズ 在宅介護者 キャンペー ンの提言 に直接 に言及 して、提言 に示唆 された施策 であることを伺わせ る 例 も含 まれ る。提言 と内容の上で重 な りあ うことか ら、なん らかの影響 を受 けた と推測 され る回

‑16‑

表 1  ポーイス州及びウェールズにおけるパス運行の頻度 (1)等 の比較 頻度 0回 数 実 数 (路 線 ) 比 率 (%)ポー イ ス州 lAl j  t-tvA(B) ω ③ a。 10分 お き b。 15分 お き C.15〜 30分 お き d.20分 お き e.30分 お き f。 60分 お き g。 120分 お き 10回 9回 8〜 10回 8回 7回 6回 5回 4〜 5回 4回 3〜 5回 3〜 4回 0 0 0 0 1 1 3 0 1 0 3 S.3回 t.2〜 4回 u. 
表 2  ポーイス州他 3地 域 におけるパス及び鉄道の運行回数別構成 と平均運行回数の lLa 回   数 実 数 (路 線 ) 比 率 (%)ポーイス 州 0 カ ーマーゼ ンシlャ ③ ノースブルクペ lClン デ ンビーシヤ0ー 計 0 CAl ③ tCl 0 ③ 1.月 曜〜土曜 日の各曜日 当た り運行回数別構成 a。 1回 b.2回 C.3回 d。 4回 e.5回 f。 他 1810424 13(1) 192011 53 35(2) 5 3231 17(3) 65744 31(4) 4838
表 3  ポ…イス州内 3町 及び他州内 3市 における職業・ 生活関連施設及びサー ビスの状況比較 施設及 び サー ビス (1) 実 数 (力 所 ,人 ) 比 率 (%)ブコレン町ωドラウ ンエドル リズ ン町 ド tBlツ ニ ュータウン町③ カー ディフ市0 スウ ン オージ市③ ニー ュポー市ト0 0一③ 0一〇 ③一③ 職業紹介・コンサルティング会社 図   書   館 診 療 所 医    師 病    院 家事援助サー ビス会社 看護婦・ 介護者斡旋派遣会社 社会サー ビス・ 福祉団体 ナ
表 4  ウエールズ諸州の高齢者 を看 る在宅介護者に関するコミュニテ ィーケアの現状 (lX幼 実施事項 州 ポーイス州 ク ルーイド州 ミ ドグラモーガン州 グフイネズ州 サウス・グラモーガン州 グ ウラエモ ス1トガ・ン 州 ダ ィベド州 グエ ント州 病院退院/施設退所指針の作成 一時休息指針の作成 コミュニティーケア提供施設等一覧の作成 在宅介護者 を含むアセスメン トの実施 ケアプランの伝達 在宅介護者情報便覧の作成 在宅介護者電話サー ビスの開設 在宅介護者計画の策定 コ ミュニティーケア計画

参照

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