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「幼児期の特性」と保育―『保育要領』『幼稚園教育要領』での扱い―

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(1)

    「幼児期の特性」と保育

―『保育要領』『幼稚園教育要領』での扱い―

井 口 均※

Specific characteristics of early childhood education

―The outline & The guideline for Kindergarten Education―

Hitoshi INOKUCHI

1.問  題

 『保育要領』から今日の『幼稚園教育要領』に至るまで,その内容が3度にわたり見直 されてきた。その過程で,『要領』(『保育要領』と『幼稚園教育要領』を示す)の記述は 次第に簡素化されてきた。しかし,その記述の簡素化に反して,文章表現は多義的なもの

となり,実際の実践を組立てる際に活用する文書としては非常に厄介な代物となっている。

しかも,それは単なる指導助言的な文書ではなく,1964年の『幼稚園教育要領』より官報 公示となり,教育課程に対する法的拘束力をもった文書となっただけに深刻なことである。

『要領』が様々な視点から検討・吟味されねばならない理由は,その曖昧さと同時に,そ うした拘束性にある。

 改訂が旧『要領』の問題点の改善を理由に実施される中で,『要領』は保育内容のみで なく実践のあり方についても基本的方向づけを行ってきた。故に,多くの実践者が,そこ に盛り込まれた実践の基本的方向づけを 解読 し,各園・各自の実践を具体化しようと 努力してきたのである。 56年の改訂に際しては,教育目標の具体化や小学校との一貫性 が問題にされた。 64年の場合は,六領域と小学校教科との混同や知識・技能重視への偏 りが問題にされた。そして 89年の場合は,「早期教育」や生活環境(家族,地域,自然等)

の急激な変化への対応などが問題となった。それに伴って変化した実践のあり方を特徴づ けるならば,直接経験と自然成長論を重視した子ども中心の生活保育から,到達目標を具 体的に明確化した教師主導による「一斉保育」,そして環境による教育を基調に,自発的 活動である遊びでの,一人掛とりの特性に応じた個別的指導への変化と捉えることができ

る。

 『要領」における法的拘束力の範囲をどこまでにすべきかの議論は置くとして,ここで は,その中に描かれている幼児期の重要な特性と実践の構図を検討する。本来ならば,そ れらはこれまでの様々な実践の蓄積と成果に基づき,幼児期やその教育・保育の理解を一 層深めうる内容でなければならない。とりわけ,集団生活の発展とその中での一人ひとり の成長・発達の筋道,幼児期に相応しい生活・活動づくりの内容,そして生活環境の変化

※長崎大学教育学部

(2)

に伴って生じている新たな保育課題などに対する共通理解の中身を明確に示した上で,実 践を方向づける基準として提示される必要がある。 89年改訂の『要領』の「総則」にお ける,「幼稚園教育の基本」の第ユ行目に「幼稚園教育は,幼児期の特性を踏まえ環::境を 通して行うもの」と,「幼児期の特性」ということが最初に登場してくる。その具体的内 容こそが,幼児期への理解を示すものであり,教育・保育内容や実践の組み立てに深くか かわってくると考える。その視点から,「幼児期の特性」が従来の『要領』においてどの ように記述され,扱われてきたかを検討し,その問題点を考察する。

2.『保育要領』および『幼稚園教育要領』における「幼児期の特性」

(1) 48年『保育要領1)オにおける「幼児期の特性」とは何か

 1948年(昭和23年)3月1日,文部省に設置された幼児教育内容調査委員会から,『保 育要領』が幼児教育の手引書(参考書)として刊行された。学校教育法施行規則と教育基 本法の成立を背景に,幼児の発達的特質をふまえた生活指導・環境づくりの内容と方法を 示したものである。この「保育要領』は,発達段階としての幼児期がもつ独自性や重要性 をかなり意識したものである。そのことは,記述や内容構成によってある程度裏づけるこ とができる。例えば,最初の「まえがき」において,幼児期の発達的重要性と幼児教育の 目的や方法での特殊性が指摘され,幼児期の教育がこの時期の特質を十分理解したもので なければならないことを強調している。また,「まえがき」に続き,「幼児期の発達特質」

が取り上げられ,2歳から5歳までの身体的発育をはじめ,4つの発達側面についての説 明がなされている。次の「生活指導」では,その4つの発達側面に対する指導のあり方が

さらに問題にされているのである。その後に,物的条件としての生活環境整備,日課,新 しい経験としての保育内容などの扱い方が取り上げられている。つまり,前半部分を全て 幼児期の発達特質とそれに対する指導のあり方に充てているのである。

①「幼児期の特質」にあたるもの

 『保育要領』では「幼児期の特性」という用語が直接使用されていないが,それと同義 と考えられるのが「幼児期の重要性」「幼児期の特質」である。それらは,人の一生にお ける幼児期の発達的意義,心身発達に見出される特徴,そして生活内容で見出される特徴 の3点を挙げている。

 a.幼児期の発達的意義

 『保育要領」は,当時の教育心理学の成果をふまえて,幼児期が極めて重要性であると 指摘する。例えば,「この時期において,人間の性格の基本的型がだいたい決まる」し,

この時期の世話や教育が適切なものであったか否かによって,「一生の生き方を決めるの みならず,生きがいのある一生をおくるかどうかの運命の分かれ道になる」とその重要性

を強調する。それは,この時期に形成される性格の基本的型が,「人と協同して住みよい 社会をつくろうとする意欲を持ち,自主的な考えや行いをすることができる」か否かといっ た,社会的価値に対する協同性と自主的思考・実践力の形成とみるからである。その点に,

他の時期とは異なる幼児期の重要性を見出している。

 b.心身発達に関する特徴一4つの発達側面

 心身発達では,2歳から5歳にかけての身体的発育・知的発達・情緒的発達・社会的発 達に対する,各年齢ごとの発達的傾向が具体的に整理されている。身体・生理的成長や動

(3)

作をはじめ,道具操作,事物の理解や識別,内面性の表現と抑制,そして社会的態度や自 己主張について,各年齢段階で可能となる事柄を具体的に列挙している。発達の各側面に ついて指摘されている項目内容を簡単に特徴づけるとすれば,以下のようにまとめること ができる。

 身体発育では,身体的側面と運動的側面に区分され,それぞれの発達的傾向が示されて いる。身体的側面では,体位(身長・体重など),プロポーション(身長に対する頭高の 比率低下),循環器(心臓や肺)機能,視力や歯,それに免疫力などについて,平均的な 数値が示されている。運動的側面では,粗大運動(走る,跳ぶ,投げる,片足立ちなど)

の種類の広がりや微細運動(積木,箸,ほさみ,ボタンの操作,模写など)での巧緻性が 高まり,身体と道具の操作力が年齢と共に向上することを指摘している。

 知的発達では,事物の識別・命名,数・空間・時間の理解,意図・計画に基づく問題遂 行力,会話力などについて,どの程度の知識を習得するかが示されている。想像と現実と がまだ未分化な状態にありながらも,知識・概念の世界は身近かな環境への興味と結びつ いて,具体的なものから次第に抽象的なものへと広がり,課題解決も計画性をもったもの になる傾向を指摘している。

 情緒的発達では,不安感・恐怖感をはじめ,かんしゃく,喜び,親愛の情,大人に見出 される様々な情緒が幼児期の段階で分化・出現すること,および,それらがどのような場 面・状況で,どのような行動によって表現されるかを各年齢ごとに示している。新奇場面 や大入に対する直接的な行動から,対象も限定され,言葉による間接的表現や抑制された 行動への傾向が示されている。

 社会的発達では,遊び,ルール,生活習慣,自己主張,協同性などに見られる年齢ごと の特徴が示されている。模倣遊びや反抗が強く出る段階から,自己主張をしながらも,ごっ こ遊びや簡単なルールへの取り組みへ,そして自分への自信と共に他者の受け入れや他者 への依存が可能となっていく傾向が示されている。

 しかも,こうした心身の発達特質を単に現象的・羅列的に記述するだけでなく,幼児期 に育てるべき「核」となる力が何であり,どのような生活経験によって相互連関的に育て るかを問題にしょうとしている。例えば,「幼児の生活指導」において,知的成長の最も 重要な基礎として,幼児期の計画的能力を重視し,その成長への配慮を促している。その ためには,子ども自身が取り組む活動の中で,自分のつもりや目的を表現したり,発表す る機会を積極的に与える必要性を指摘する。そうした活動をもたらし,子どもを夢中にさ せる「原動力」が興味であり,子どもの成長を支える「最も大切な要素である」としてい る。その興味を自発させ,広げるためには,豊かな環境を整えることがさらに必要となる のである。また,つもり・目的の展開を主軸にした知的発達に,重要な影響を与える条件 として,聞く態度・理解力と自立の習慣が指摘され,幼児期の知的発達を他の活動とも関 連づけて捉えようとしている。

 ただし,具体的な指導方法となると,生活の全てにおいて子どもが自己選択できる機会 を広げ,その結果を自分の責任として体験させること,あるいは大人の都合で子どもの遊 びや活動を途中でやめさせてはいけないことへの注意を喚起するにとどまっており,具体 性を欠いている。

(4)

 c,生活内容に関する特徴

 幼児の最も大切な生活は「自由遊び」であり,「一日を自由に過ごして,思うままに楽 しく活動できることが望ましい」し,「教師は幼児ひとりひとりに注意を向けて,必要な 示唆を与え,ここに適切な指導を」することによって,バランスのとれた発達を引き出す べきだとの見解を示している。そのため,1日の生活を時間割によって細切れにするので

はなく,「自由遊び」を中心に「幼児の生活に応じて日課をつくるように」しなければな らないところに,生活内容としての「幼児期の特性」を求めている。この「自由遊び」は 保育内容の1項目とレても位置づけられているが,詳しい説明はされていない。むしろ,

保育内容の項目にある,見学,ごっこ遊び,劇遊び,人形芝居,年中行事が,子どもの日 常経験を広げたり,総合化する上で重要な活動と見なされ,個別に説明されている。

 以上のことは,『保育要領」での「幼児期の特性」が何を意味しているのか,その内容 をかなり明確にしてくれている。第1は,その後の人生に重要な影響を及ぼす幼児期の性 格形成の中身である。第2は,身体をはじめとする4つの発達的側面にみられる,幼児特 有の異質性(発達特質)をさしている。この2つは幼児期の教育・保育の発達課題・内容

と密接な関係をもっている。第3は,この時期の心身発達を最も効果的に促す活動に求め られる条件としての,自発性(興味・要求からの出発)の保障である。第4は,その活動 が子どもの直接的・具体的な生活活動でなければならないということである。この2つは 幼児期の教育方法に直接関わるものである。『保育要領』は子ども自身の中で芽生えつつ ある力の伸長を促し助長することを重視している。保育内容・方法に要求されることが,

それに即したものであることを考えれば,「幼児期の特性」がこのような内容をもつのは 当然であろう。

 ②「幼児期の特質」と保育

 既に指摘した通り,ここでは「幼児期の特性」を,性格形成上の意義,発達的野特質,

および主要な生活内容としての自由遊びに見出している。図1は,『保育要領』における

「幼児期の特性」(点線),教育目標・目的(実線),保育内容(二重線)の基本的関係を図 式化したものである。

 その関係について「まえがき」は簡潔に表現している。「目標に向かっていく場合,出 発点となるのは子供の興味や要求であり,その通路となるのは子供の現実の生活である」,

その際に大事なことは,「幼児の心身の成長発達に即して,幼児自身の中にあるいろいろ のよき芽ばえが自然に伸びていくのでなければならない。教師はそうした幼児の活動を誘 い促し助け,その成長発達に適した環境をつくることに努めなければならない」という部 分である。子どもの自然な意志にもとつく多様な活動が子どもの生活の中心であり,また 指導的かかわりが成立する場でもある。それを引き出す条件として,環境づくり(運動場,

建物,遊具等)や経験づくり(保育内容)が必要となってくるのである。それは園のもつ 施設やそこで可能な活動内容をはるかに超えた直接体験をもたらし,その後の遊び活動を 活発化・多様化させると捉えているからであろう。それを個々の子どもに応じたやり方で 行うのである。それによって,教育の目標としての,幼児期の性格発達上での課題や発達 特質の助長を実現しようとしている,と見なすことができる。

(5)

r環 境rr…國一・・自由遊び・・…一1r・直接の現実生活での生活指導1r

ロ      コ  ロ      ロ  ロ      ロ  ロ

1・遊具li・興味が原動力  ii・望ましい発達のたi−i i・場 h・個々の子どもの h  め自由意志尊重 H

ロ       コ       コ

I   li つもり,意図重視ii・生活への順応  ii

…τ……

繭凹日 ュ達助長寧r

・総合的達成

・人格の基礎

…… 噤c 曝 』 ……… 腫 保育内容

楽しい幼児の経験:

=12項目.

 自由遊び以外

図1  48年『保育要領』における「幼児期の特質」と保育内容の関係

(2) 56年版『幼稚園教育要領2)』における「幼児期の特性」

 「保育要領』が作成されたその年に,「保育要領改定委員会」が文部省学校教育局初等教 育課によってすぐに設置された。その理由の一つは,『保育要領」が試案としての手引書・

参考書であり,必ずしも基準となり得ないものであった点にある。その意味では,早期の 改訂が当初から見込まれていたことになる。それから3年後の1951(昭和26)年に「幼稚 園教育要領編集委員会」が設置され,その5年後に『幼稚園教育要領』が作成された。

  56年版『要領』では,『保育要領」のいくつかの 問題点 に修正が加えられた。小学 校の教育内容と保育内容との問に一貫性をもたせたことや,教育目標をより具体化させて 指導計画につなごうとしたこと,また指導上の留意点を独自に設けて実践に際しての諸注 意を明示したこと,などがその主な特色となっている。それに伴い,「保育要領」の中で強 調されていた(理念的限界はあったが)「幼児期の重要性」や「幼児期の特質」は,同様に ふれられてはいるものの,その内容や扱われ方において,その比重が大きく低下している。

 ①「幼児期の特質」にあたるもの

  56年版『要領』では,「幼児期の特性」に関連する記述が用語上は残されるが,内容や 位置づけは形式的なものとなっている。その点を「幼児期の重要性」「発達上の特質」「幼 稚園教育の特殊性」に見出すことができる。

 a.「幼児期の重要性」および「発達上の特質」

 まず「幼児期の重要性」という用語についてであるが,その内容説明は「性格形成の上 からは非常に重要である」という指摘のみである。また,「発達上の特質」は,領域ごと に傾向が示され,各領域での望ましい経験を選ぶ目安として一応位置づけられ,『保育要 領』で挙げられていた発達特質のいくつかが取り入れられている。しかし,H章の最後の 部分に記されている注意事項を見ればわかるように,その実質的な意義は失われていると 言ってよい。つまり,「同じ年齢の幼児でも発達の程度が違っている」ことが多いので,

「一応年齢差を区別しないで,幼児教育として一般的な観点から必要と思われるおもなも のを取り上げた」に過ぎないのだから,「特質とか経験は,幼児の生活実態に応じて,適 宜にしんしゃくして利用」すればよい程度のものなのである。

 b.「幼稚園教育の特殊性」

 その一方で,「幼稚園教育の特殊性」が強調されている。具体的には,幼稚園教育の目

(6)

的が一般的表現であったことを問題にしている。この改訂では,それをさらに具体化して 示した点に特色がある。その意味で,「幼児期の特性」が最も具体的に展開されているは ずなのだが,実際は5つ項目(健康,集団生活,自然,ことば,表現活動)の中で,さら に,細かい日常的行動が羅列されているだけである。一般的表現であった教育目標が,単 に幼児期の目標として相応しいレベルの内容に書き直されたに過ぎない。その中には『保 育要領』の発達特質として挙げられていたものも加えられている。それらの 総和 が幼 児期の特殊な教育目標として挙げられているだけである。

 ②「幼児期の特性」と保育

 ここでの「幼児期の特性」は教育目標の特殊性として具体化・分割化され,その一方で 保育内容の各領域での「望ましい経験」を選択するための目安となる,発達上の特質とし て取り上げられている。図2は, 56年版『要領』における「幼児期の特質」(点線),教 育目標(実線),保育内容(二重線),および生活経験(一点破線)の関係を図式化したも のである。

56年版『要領』では,より具体化された教育目標を達成するために,六領域に示され た「望ましい経験」をいかに組織するかが最優先的課題であった。ただし,その領域ごと の「望ましい経験」は教科的な扱いによって学習させるのではなく,「全体的・未分化的 に生活を指導する形」で行わねばならないと指摘されている。

 しかし,その「全体的・未分化的」生活指導が実際にどのような生活経験を示している のかを明らかにしていない。結果的に,特定の領域に偏らない「総合的な指導」計画の立 案化も困難な課題となる。にもかかわらず,年齢の違い,同年卸町での生活経験差,在籍 年数差,地域社会の実態,領域全体のバランス,季節など,生活経験を組織する際の着眼 点だけは沢山挙げられている。結局のところ,5目標に対応する六領域での「望ましい経 験」を個別に学習させるやり方が最もわかり易いのである。なぜならば,「望ましい経験」

で取り上げられているものは非常に具体的で,到達目標として把握し易いからである。

「総合的な指導」計画も,同様に「望ましい経験」の全体的配列・組織化の問題にすり変 わる危険性を十分もっていたのである。

目標は何か

  ll 具体的目標

r・・幼児期の重要性・・1

ロ       コ

・・ ォ格形成上重要=

■       巳 礪■巳■圏・■■■■■■■■一■■■o幽6■隔

達成手段=保育内容

 5 項 目

酎h嘉瑞 1 k難!生2」

六領域に纐1

『 一…日圃口口闘 國圏ロー瞠

r・繕繰撫一壷舗指導・・1

コ       コ コ       ロ

=・領域がまたがり,交錯   1

ロ       ロ       ロ

レ標達成は自然な生活指導で1

ロ       ロ も  ココのの      コロコココココのノ

   下朋……T

「経験の組織r r全体的・未分化的「

l11囎の睦灘灘酬

         以上に計画必到       目1着目地

5闇■■._■_._.■卍   5■■一■一6−8一●一冒一

図2  56年版『要領』における「幼児期の特質」と保育内容の関係

(7)

(3) 64年版『幼稚園教育要領3)』における「幼児期の特性」

 1961(昭和36)年3月に,文部省に「教材等調査研究会幼稚園教育小委員会」が設置さ れ,そこで実態調査を踏まえた改訂作業が進められた。翌年1962(昭和37)年10月に「教 育課程審議会」へ諮問した後,再度「小委員会」において改訂案の修正を行っている。こ の改訂の意図は,幼稚園教育を小学校教育の準備教育と見なしたり,六領域を小学校の教 科と同列視する弊害を除去することにあった。そのため,基本方針における目標に関する 項目が非常に簡略化されるとともに,指導上の留意事項が整理されて最初に記述されてい る。さらに,教育目標を達成するための内容が,「望ましい経験」から「望ましいねらい」

へと変更された。それによって,各領域に示す事項の達成は総合的な経験や活動によって なされねばならないことを示そうとしたのである。 56年版『要領』まで使われていた

「幼児期の重要性」や「発達上の特質」などの用語が姿を消してしまった点で,多少の違 いはあるものの,「幼児期の特性」についての考えに本質的な違いは見出せない。

(4) 89年版『幼稚園教育要領3)』「幼児期の特性」

 「幼稚園教育要領に関する調査研究協力者会議」が1984(昭和59)年に組織され,その 翌年「教育課程審議会」が設置された。改訂作業は,前者による調査結果の報告および討 議結果をうけ,後者が1987年12月に「基準の改善について」の答申を行なった。

 この改訂の意図は,社会的環境の変化に対応できる教育への改善,早期能力開発的保育 の拡がりによる幼児教育の歪みの是正などを意図した改訂である。

 ①「幼児期の特質」にあたるもの

  89年版『要領』では,「幼児期の特性」という用語そのものが使用されいてる。『指導 書4)』の中では,それに関連した「幼児期の生活」「幼児期の発達」に関する特徴がいく つか指摘されている。それによると,生活では情緒の安定や生活習慣や遊び活動が重要で あり,発達では能動性の重視,具体性を支えにしたイメージ形成,あるいは信頼関係が形 成できている人を媒介に周囲のもの・行動を取り入れる点などに特性を求めている。それ らは,周囲の世界に対する働きかけ方と取り込み方における特徴を重視したものと言える。

89年版『要領』の中でのそれらの展開をみるためには,「幼児期の特性を踏まえ」や「人 間形成の基礎を培う時期であることを踏まえ」といった表現,あるいは「幼稚園修了まで に育つことが期待される」といった表現を手掛かりにする以外にない。具体的には「幼児 教育の基本」,「幼稚園教育の目標」,「ねらい及び内容」を検討することである。

 a.「幼児教育の基本」

 「幼児教育の基本」は3点挙げられている。それらは「幼児期の特性を踏まえ」たもの であり,その内容は「幼児期の特性」を指導原理として,表現したものである。それによ れば,第1に,情緒の安定をはかり,幼児期にふさわしい生活の申で自己を発揮できるよ うにすること。第2に,重要な学習活動であり,調和的発達の基礎となる自発的な遊びを 通して指導すること。第3に,個々の幼児の発達特性に応じた指導が必要であることを挙 げている。情緒の安定性(精神面),自発的遊び(活動面〉,個人差(発達面)の3点に

「幼児期の特性」を見出していると考えられる。

 b.「幼稚園教育の目標」

 「幼稚園教育の目標」は,「幼児期が生涯にわたる人間形成の基礎を培う時期である」こ

(8)

とを「踏まえ」,5つの目標(=「幼児期の特性」)が示されている。しかし,これらも

「幼児教育の基本」の場合と同様で,健康,人への愛情・信頼感,自然への興味・関心,

言葉への興味・関心,豊かな感性・創造性といった項目について,一般的に表現されてい るに過ぎない様々な事物や活動に対する,個人的なかかわり方を方向づける心理的構えの 育成である。

 c.「ねらい及び内容」

 ねらいと内容は,幼稚園修了までに育って欲しい発達の中身であり,それを達成するた めの指導事項として位置づけられるものである。これによって,各領域に掲げられている ものは,幼児期の発達的課題を能力別に編成したものと見なすことができる。健康,人間 関係,環境,言葉,表現の五領域に区分されて示された発達的課題は,認識的能力よりも 心情・意欲・態度に重点が置かれており,しかも幼児期独自の具体的課題を見出すことば 容易なことではない。例えば,「健康」の「内容」(7)の「幼稚園における生活の仕方を 知り,自分たちで生活の場を整える」や,人間関係の「内容」(1)の「喜んで登園し,

先生や友達に親しむ」などは,ある程度幼児期との結びつきを見出すことが可能である。

つまり,幼稚園という用語を加えることによる,行動や態度の限定がされていれば,かろ うじて幼児期の課題と気がつく程度なのである。それにしても抽象的な表現が多い。他の 領域のどの内容をみても,幼児期の独自な発達的課題に結びつくものを見つけるのは非常

に困難なことである。例えば,「人間関係」の「内容」(2)の「自分で考え,自分で行動 する」,あるいは(3)の「自分でできることは自分でする」に幼児期独自の発達的課題 を読み取ることができるであろうか。それらは小学校・中学校を想定したとしても決して 違和感を感じさせない。「幼稚園修了までに育つことが期待される」としながらも,単な る方向目標でしか示されていないのである。

89年版『要領』は「幼児期の特性」を一般的・抽象的レベルでしか問題にしていない。

その姿勢は,指導方法に関する原理,教育の目的,発達内容のいずれにおいても一貫して いる。まわりの世界に積極的にかかわる活動主体として,どのようなことができる子ども を育てるかではなく,まわりの世界にかかわろうとする心情・意欲・態度をもった子ども を,個々の子どもの発達特性に応じて育てる点に重点が置かれている。その結果,幼児期 に共通して育てる必要のある具体的な発達的課題はもとより,それらが育っていく筋道も あまり問題にされていない。換言すれば,どのようなことができるか,どのような発達的 課題を設定するか,どのような筋道をたどって達成させるか,それらは個々の幼児の発達 特性によって異なるのが「幼児期の特性」であるという見方が, 89年版『要領』に当て

はまるのではなかろうか。

 ②「幼児期の特質」と保育

89年版『要領』における『幼児期の特質』は,「幼児教育の基本」,「幼稚園教育の目標」,

「ねらい及び内容」に見出された。それをもとに,「幼児期の特質」(破線),目標(実線),

内容(二重線)の関係を図式化したものが図3である。

 まず,第1の流れは,指導原理としての「幼児期の特性」(幼稚園教育の基本,環境づ くり)を出発点とする。これによって,子どもが自発的・主体的に環境にかかわり,直接 的な生活経験に取り組もうとする積極的姿勢が引き出されることとなる。第2の流れは,

教育目標・内容としての「幼児期の特性」(教育目標,保育内容)を出発点とするもので

(9)

ある。これによって,生活経験を,多様なねらいと内容を含んだものにすることが意図さ れている。その結果,これら2つの流れは,この生活経験において合流することになる。

そこでの幼児の生活経験を豊かに発展させるため,さらに個々の幼児の発達特性を考慮し ながら,必要とされる援助を行っていくことになる。その際の具体的なねらいや内容(発 達的課題)は各幼児の個別的特性を考慮して選択・設定され,その達成を可能にする環境 づくりへとさらに循環していくのである。

r・・幼稚園教育の基本一1 r・一環 境川・「

i・情緒安定をはかるil脳藤11

i・醗的野を重視U瞳籔引

コ      ロ

1・発達特性の違いに1

コ      コ

監 応じる     =

■      ■ 馬闇國國圏■■■圃圃■■■■■■■■■■■■閣■.■

 教育目標

 の コロロココの      コ

i・五項目 i

      ロ

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ロ       コ

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■       ■ 8ロー■■■■一晒ロー璽一■■」

L塑塑」→i

r…生活経験・・r r…r幼児の特性・…1

ロ       コ    コ       コ

1・活動や体験l l・個々人の遊び 1

         コ       ロ      ロ          ロ       ココ       ロ

i=ねらいや i_募・集団での遊び i i 内容が  i i   畢    i

コ      ロ      コ

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幅6印隅■口■日■■■■■■6■.    ㌔■鵬印鱈       日顧■■ρ

「教師援助「

L_._.」

保育内容

.■■繭■口■■■■■■■■■■

コ       コ ロ       ロ

1・五領域は1

ロ       ロ

i発達内容i

層       ■

■■■繭三階■■.■■■■■9■

↑…

「教師援助「

L._._.」

・五領域のねらい や内容の達成?

図3  89年版『要領』における「幼児期の特質」と保育内容の関係

 3.『要領』における「幼児期の特質」把握の変化と実践的問題

 『要領』における「幼児期の特性」把握の変化を特徴づけるとすれば,それはますます 分散化・一般化される傾向にあると指摘できる。

(1)『要領』における「幼児期の特質」把握の変化とその意味  ①分散化・一般化される「幼児期の特性」

 この傾向は,「幼児期の重要性」や「幼児期の発達特質」,あるいは「発達上の特質」の 記述内容とその位置づけに端的に示されている。「保育要領』は,理念的レベルにとどま る限界はあったが,幼児期の性格形成の視点からトータルな姿を描こうとし,その達成を 保育の中で目指そうとしていた。発達の特質についても,年齢段階ごとの特徴をふまえる ことによって,結果的には各発達面での具体的能力が形成される筋道を一連の過程として 捉える視点をもたらした。しかも,その具体的能力を共通な発達側面ごとに並列的に分類 するだけでなく,幼児期の知的発達につながる力を生活習慣の自立や遊びの中に多様なか たちで見出し,「計画能力」の基礎としての「つもり」や「自分でする=自分で考える」

を相互に関連づけていた。そうした発想は,自由遊びを中心にした子どもの生活での指導 を重視しながら,「楽しい幼児の経験」として,ごっこ遊び,劇遊び,行事などの総合的 活動に積極的に取り組ませようとしていた点にも現れている。

 既に見た通り,その後の「幼児期の重要性」は,一般的に「性格形成上重要である」と

(10)

指摘されるだけの状態から,一度はその記述さえも消えるが,再び「人間形成の基礎を培 う時期」として復活し,5項目の教育目標へと引き継がれていったのである。その5項目 は,いずれも「基礎」「芽生え」「態度」「感覚」「感性」といった漠然としたものである。

 「幼児期の発達特質」の場合も,まず年齢別区分がなくなり,発達的側面による分類か ら領域別分類へと解体・分散化されていった。その上,その「ねらい」や「内容」として 取り上げられた発達内容は,目標と同様の心情・意欲・態度といった方向目標を中心とし

たものとなっている。

 ただし,「要領』において,全ての「幼児期の発達特質」が発達過程や筋道を失ったわ けではない。前述の『指導書」には,大まかではあるが,園生活で予測される「幼児の生 活する姿」が「発達の過程」として5段階にまとめられている6)。これは,どちらかと言 えば,個々の子どもの対人的・集団的活動における発達的筋道を,いくつかの下位的行動 特徴と対応させながら,長期的見通しとしてまとめたものといえる。あくまでも参考資料

であるとことわっている以上,ここでも参考程度にとどめておきたい。

 ②その意味

 分散化・一般化がもたらす1つの重要な意味は,子どもの発達が相対化されることであ る。ここで言う相対化とは,発達の問題が三児との関係(=比較)において見出される

違い としてしか問題にされなくなることである。別な言い方をするならば,個々の子 どもの発達を,幼児期独自の共通な発達課題によって捉える必要がなくなるのである。た とえ,砂遊びをしなくても,サッカー遊びを避けても,粘土づくりを嫌ったとしても,自 分の興味・関心を向ける対象があり,自主的な活動が何らかのかたちで展開している限り,

それは生活経験の違いから生じる個人差や発達的特性の違いとしての意味しかもたないこ とになる。発達課題も個々人の発達特性に応じて設定されることになる。「幼児期の重要 性」や「発達特質」が一般化され,方向目標的な内容に分散してしまったことによる当然 の帰結であろう。

 さらに,参考資料として取り上げた「幼児の生活する姿」に関して,本文中に,その

「発達の過程は幼稚園の実情によって様々なもの」となることを当然のこととして容認す る注釈が記されている。そのこと自体,暗中の第5段階は決して到達目標ではないことを 間接的に表現していることになる。どの段階を目指すのか,各園の実情に応じて自由に選 択しても,何ら差し支えないのである。幼児教育の 大綱化 と言っても言い過ぎにはな らないかも知れない。その点で,発達の相対化は保育レベルの町回拡大にもつながってい く可能性をはらんでいる(実際は,追認?)。

(2)一実践的問題

 子どもの発達の相対化は,幼児期の共通課題の具体化とその達成を可能にする筋道に対 する認識を弱める傾向をもつため,保育実践にかかわる様々な問題をもたらすであろう。

例えば,ある子どもを「もっと工夫できる子ども」に育てたいと考えても,そのための保 育の具体的課題を堅い出すためには,工夫することがどのような発達的特性をもっている のか,幼児期での現われ方は具体的にどのようになっているのかを把握していない限り,

環境設定を含めた援助のあり方を見出せないのではなかろうか。とりわけ,発達面でのひ 弱さを抱えている子どもに対しては,そのひ弱さの発達的特性をどのようにおさえるかが

(11)

重要であり,教師の丁寧な働きかけと他の子どもからの働きかけを意識的に組織していか ない限り,子ども自身の意欲さえも引き出すことが困難な場合が多いのである。

 また,相対化は,子どもの生活内容・経験の多様化や総合化を見通す点でも決定的な弱 点をもっている。子どもの生活は,基本的生活(主に,身辺処理の自立)をはじめ,日常 の遊び,長時間におよぶ組織的・総合的活動(園全体での行事,劇遊びなど),飼育,栽 培,具体的な知識・技能の獲得に取り組む活動など,様々な経験を通してこそ:豊かな発達 が可能となる。これらの多様な活動を,個々の子どもの自発的な興味・関心のみに依存す ることによって,自然発生的に発展させることができるとは到底思えない。生活体験の異 なる個々の子どもの興味・関心からだけでは,共通な文化的要求や組織的役割分担を必要 とする生活要求が自然発生しないからである。

 最後に,一人ひとりの発達特性に応じながら援助することが,子どもに対するかかわり 方の一つとして重要であることを認めた上で,そのことの難しさを指摘しておきたい。そ のかかわりが,子どもの求めに応じて,必要な道具や環境づくりを援助する場合は,何も 問題はない。既に子どもの側にはっきりした目的(困難さ)が自覚されており,そのもと で援助を主体的に受け入れようとする準備状態ができているからである。しかし,子ども が教師や大人に求める援助は,全てがそのような,本来の意味でのはっきりした援助ばか りではない。様々な甘えや不安であったり,わざわざ目の前で教師の嫌がることをするこ とにより,一旦相手を突き放すことで自分への援助を相手に読み取らせようとしたり,自 分でも困っているのだが,相手に何をどのように話して援助を求めたらいいのかわからな いで困っている場合など,いろいろである。子どもの一つひとつの行為をその子の生活文 脈に位置づけて,意味づけなければわからないことの方が多いのではなかろうか。砂場で 毎日一生懸命トンネルを一人で作っているからといって,必ずしも本人は充実した遊びに 没頭しているとは限らない。日頃休みがちなため,気後れもあって集団になじめず,その 寂しさを紛らすために必死にやっていることもある。それぞれに異なる対応や援助が求め

られていることを見落としてはならない。

1)文部省 2)文部省 3)文部省 4)文部省 5)文部省 6)文部省

『保育要領』 1948

『幼稚園教育要領』 1956

『幼稚園教育要領』 1964

『幼稚園教育要領』 1989

『幼稚園教育指導書』 フレーベル館 1990 前掲書 109ページ

(表は次ページに掲載)

(12)

(1) (H) (皿) (IV) (V)

一人一人の遊びや教師 周囲の人や物への興味 友達とイメージを伝え 友達関係を深めながら 友達同士で目的をもつ との触れ合いを通して幼 や関心が広がり、生活の 合い共に生活する楽しさ 自己の力を十分に発揮し て幼稚園生活を展開し深 稚園生活に親しみ安定し 什方やきまりが分かり自分 を知っていく時期 て生活に取り組む時期 めていく時期 ていく時期 で遊びを広げていく時期

ア 新しい生活に緊張感 ア 教師の言動に敏感で ア いつも一緒に遊ぶ友 ア 友達と遊びの進め方 ア 一つの目的に向かっ や不安感があり、教師 教師の意図に沿った動 達ができるが、それぞ などを相談しながら自 て学級の友達を一緒に と共に動こうとする。 きをしょうとする。 れの自己主張が強くな 分たちで遊びを展開し 協力して活動を展開す

イ 家庭で親しんだ玩具 イ 他の幼児への関心が

る。 ようとする。 ることができる。

や遊具などをもったり 強くなり、いつも一緒 イ 友達の遊びからの刺 イ 遊びの内容が豊かに イ 身近に起こる出来事 使ったりして遊ぼうと にいたい2〜3人の友 激を受けて遊びが広が なり、工夫したり試し などに関心をもって自 する。 達ができてくるととも る。 たりすることを楽しむ。 分たちの遊びに取り入 ウ 他の幼児とのつなが に、トラブルも起こり

ウ 知的好奇心が高まり、 ウ 想像をめぐらしなが れることが盛んになる。

やすくなる。

りはあまり見られず、 身近な事象に興味をもつ ら様々な表現活動を楽 ウ 遊具や用具などを自 自分が安定できること ウ 新しい素材や遊びが てかかわる。 しむ。 分たちの活動に合わせ

で遊ぼうとする。 提示されると興味をもつ て、様々に組み合わせ

エ ルールのある遊びに エ グループ同志でゲー 工 固定遊具やボールな て取り組もうとする。

興味をもつようになり ムなどを好んで行う。 て使おうとする。

どを使ったり、追い駆 工 遊びの中でおしゃべ 楽しんで参加する。 工 幼稚園生活の中で、

けっこをするなど休を りが多くなる。

オ 自分の身の回りのこ

オ 当番活動など、自分

@の役割を果たそうとす ある程度の見通しをもつ 動かす遊びを好む。

オ 戸外で活動すること とは大体できるように る。 て活動を展開する。

を好み、休を動かして なり、援助があれば皆 オ 必要に応じ指示に従

表現することを喜ぶ。 と一緒に生活する場を うなどの集団行動がと

整理しようとする。 れるようになる。

力 幼稚園での生活の什

姿 方が大休分かり、自分

の身の回りのことは自 分でしょうとする。

参照

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