高齢者のリウマチ性関節疾患
檜垣 惠 了德寺大学・健康科学部医学教育センター 要旨 近年増加傾向にある高齢者のリウマチ性関節疾患では,生理学的・免疫学的相違のため,若年者とは 異なる発症頻度や症状の違いを示す.また,高齢者においては併存疾患や主要臓器の障害,ポリファー マシーやアドヒアランスを含むフレイルを考慮した薬物治療を行わなければならない.本稿では高齢者 に頻度の高いリウマチ性多発筋痛症(PMR; polymyalgia rheumatica), RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema),高齢発症関節リウマチ(EORA; elderly-onset rheumatoid arthritis)および結晶性関節炎の偽痛風(CPPD; calcium pyrophosphate crystal deposition)というリウ マチ性関節疾患の病態,鑑別診断および加療についてPMRを中心に概説する.さらに治療の中核となる 長期のステロイド療法の問題点に関しても記載し,高齢者患者のQOL/ADL低下を防ぐためのリハビリ テーション,栄養療法,生活指導も含めたトータルマネージメントの重要性を示す.キーワード;リウマチ性多発筋痛症(PMR),RS3PE, 高齢発症関節リウマチ(EORA),偽痛風(CPPD), ステロイド,
Principal rheumatic arthritis in the elderly
Megumu Higaki
Center for Medical Education, Faculty of Health Science, Ryotokuji University
Abstract
Geriatric rheumatology is a field of science examining the rheumatic disease affecting the elderly people. The frequent and different presentations of the disease should be noticed because of physiological and immunological changes of an inflammatory process in the elderly.
The clinical profiles, different diagnosis, and treatment of the principal arthritic diseases in the elderly people such as polymyalgia rheumatica (PMR), remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE), elderly-onset rheumatoid arthritis (EORA), and calcium pyrophosphate crystal deposition (CPPD) are described in the main content. In addition, the adverse effects of the steroid therapy for these diseases are discussed later.
Since clinical importance of these arthritic diseases for the elderly is increased, the definite diagnoses and proper clinical management would be necessary to keep quality of life (QOL) and activities of daily living (ADL) of these patients.
はじめに 近年の超高齢化社会に伴い,介護が必要になる原因として脳卒中(18.5%)や認知症(15.8%)と並ん で関節疾患(10.9%)が大きな割合を占めている.‘運動器の障害のため,移動機能の低下をきたした状 態で,進行すると介護が必要となるリスクが高まるもの’と定義されるロコモティブシンドロームは加齢 による変形性関節症(OA; osteoarthritis)をベースに骨粗鬆症,脊椎管狭窄症,サルコペニアという高 齢者特有の運動器のコモンディジーズが連鎖・複合して,痛みや機能低下,歩行障害を引き起こす.一方, 高齢者のリウマチ性炎症性関節疾患も近年増加傾向にあり,生理学的・免疫学的相違により,若年者と は異なる発症頻度や症状の違いを示すため,関節炎・関節痛の鑑別診断が重要となる1).本稿では高齢者 に頻度の高いリウマチ性多発筋痛症(PMR; polymyalgia rheumatica), RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema), 高齢発症関節リウマチ(EORA; elderly-onset rheumatoid arthritis)および結晶性関節炎の偽痛風(CPPD; calcium pyrophosphate crystal deposition)の病態,鑑 別診断についてPMRを中心に概説する.さらに,高齢者では併存疾患や主要臓器の障害,ポリファーマシー やアドヒアランスの問題を含むフレイルを考慮した薬物治療および運動療法,栄養療法のトータルケアが 必要であることを述べる.一方,上記疾患の主たる薬物治療である長期のステロイド療法の問題点に関し ても記載する. 1.リウマチ性多発筋痛症(PMR; polymyalgia rheumatica) PMRは,50歳以上の高齢者に肩,腰周囲の筋肉痛を起こす原因不明の慢性炎症性疾患で,男女比は1:2 から1:3で女性に多く,発症年齢のピークは70-80歳とされる.米国では50歳以上の人口10万人につき約 740人(男性530人,女性930人)がPMRを有し,生涯で女性の2.4%,男性の1.7%が罹患するとされ,欧 米ではRAの次に多いリウマチ性疾患である2).一方,欧米のアングロサクソンと比べて頻度が低い我が 国でも近年増加傾向にあり注目すべき疾患である.HLA-DRB1などの遺伝的背景と共に,腫瘍壊死因子 (TNF)-α,インターロイキン-1受容体アンタゴニスト(IL-1Ra)及びIL-6 などのサイトカイン,さらに は慢性ストレスによる視床下部―下垂体―副腎系(HPA axis)の異常によるコルチゾールの低下が示唆 されている3). 1)症状 肩痛が最も頻度が高く(70-95%),次いで頸部・臀部の痛み(50-70%),さらに大腿の疼痛,朝のこ わばりを認める.これら左右対称性疼痛の発症は比較的急速(急性から亜急性)で,数日から数週間のう ちに安静で改善しない腕挙上や起き上がり動作時の痛みが起こる.筋力低下や筋萎縮は認めないが,起 床,物を持ち上げる,手を伸ばすなどの動作が困難となり,徐々に移乗,トイレ,歩行,階段昇降,着替 えなどのBADL(basic ADL)に支障をきたす.全身症状としての微熱(80%),食欲不振(60%),体重 減少(50%),全身倦怠感(30%),抑うつ症状(30%)や寝汗も認める.約20%前後の患者では失明の原 因となる側頭動脈炎(TA; temporal arteritis)などの大動脈弓頭蓋枝の巨細胞性動脈炎(GCA; giant cell arteritis)を合併するので,顎跛行,頭皮の圧痛,頭痛,視力低下や複視の症状にも注意が必要である4) .
2)臨床検査
Table 1 Profiles of PMR patients (n=47) Male Female Number (PM:RS3PE) 20 (14:6) 27 (25:2) Age 72.6 (55-87)* 73.9 (56-86)* ESR (M1-11, F1-20 /h) 76 (50-120) 89 (49-123) CRP (<0.03 mg/dL) 7.1 (1.8-28.7) 4.8 (0-25.8) MMP-3 (M37-121, F17-60 ng/mL) 239 (87-2780) 193 (54-1380) Hb (M13.5-17.5, F11.5-15 g/dL) 11.6 (9.3-14.2) 11.2 (8.4-14) ALP (100-300 IU/L) 247. 5(161-876) 254 (128-550) Pl t (14-40x104/μl) 28.0 (17.8-78.2) 32. 2(19.6-60) *Median (Distribution) is shown.
項目 加点(USなし) 加点(USあり) 朝のこわばり(>45分) 2 2 臀部痛または動きの制限 1 1 RF陰性、ACPA陰性 2 2 肩と腰以外の症状がない 1 1 USで肩おおよび股関節の滑液包 1 USで両側の肩の滑液包炎 1 スコア4点以上((USなし)、スコア5点以上(USあり)でPMRと診断 表2 EULAR/ACRによるPMR暫定診断基準(2012) 前提条件;60歳以上、両側肩痛、CRPまたは血沈の亢進 US(関節エコー);三角筋下滑液包炎、二頭筋腱鞘滑膜炎、肩甲上腕筋滑膜炎、 股関節滑膜炎、転子部滑液包炎 ロテアーゼ(MMP)-3の上昇もRAと同様に認めることがある.東海大学において我々が経験したPMR 患者の臨床プロファイルを示す(表1).関節エコーでは70%に両側性の三角筋下滑液包炎を認めた.一方, GCAを疑う場合は側頭動脈エコーやMRIによる動脈壁の肥厚の確認やPET-CTも有用である5). 3)診断 病態の特徴として1.50歳以上,2.血沈が40mm/h 以上,3.1か月以上続く近位筋群(肩,上腕,頸部, 骨盤帯)のうち2か所以上の両側性痛みとこわばり,4.その他の筋骨格の症状を起こしうるリウマチ性 疾患がない,5.1時間以上の朝のこわばり,6.プレドニゾロン20mg 以下での速やかな改善,が挙げら れる6).EULAR/ACRの診断基準(表2)では肩関節の上腕二頭筋の腱鞘滑膜炎,三角筋下滑液包炎,股 関節の大転子部滑液包炎,坐骨結節や恥骨結合および寛骨臼の関節包外の炎症の超音波検査も加味して診 断する7) .また,GCAを疑った場合は血管エコーやMRIによる側頭動脈の評価に加えて側頭動脈生検が 診断のゴールドスタンダードとなる.
図1.PMR症候群
側頭動脈炎(TA) PMR 巨細胞性血管炎(GCA) PMR PMR PMR 症候群 末梢浮腫伴う RS3PE 高 齢 発 症 RA (EORA) 傍腫瘍症候群Table 3 Response to PSL in PMR patients (n=47) Total PSL (mg) Number MTX(n) Comments Exellent <2000 14 0 tapered to 0 within 24Mo
Good 4000 12 1 <5mg within 24Mo Fair 6000 12 6 5-7.5mg within 24Mo Poor >8000 3 3 >10mg after 24Mo not yet determined 6 within 6 Mo 図1.PMR 症候群 4)加療10) 低用量ステロイド療法が有効であるが,再発率は30-50%程度と高い.プレドニゾロン(PSL)15mg(10 -20mg)/日で開始するが,側頭動脈炎を合併した場合は中等量~大量(40-60mg/日程度)のステロイ ドが必要となる.少量ステロイド内服に速やかに反応し,数時間から数日で痛みやこわばりが大幅に改善 するのが特徴的である(3日以内に50-70%の改善).72時間で症状が改善しない場合や反応が悪い場合は 血管炎や傍腫瘍症候群も疑う.1週間以内に症状が改善しない場合は,PSLを5-10mg/日程度増量か分割 投与する.初回PSL量が15mg/日の場合,2-3週間初回量を用いた後,12.5mg/日を2-3週,次に10mg/ 日を4-6週,それ以降は4-8週毎に1mg/日ずつ減量する.最終的に約1年でステロイドを中止可能な例も あるが,症状の再発により少量のステロイドを内服し続ける必要がある場合も多い.ステロイドの副作用 が懸念される場合や減量が難しい場合は4-6mg/週1回程度メトトレキサート(MTX)を併用する.我々 の症例におけるステロイド反応性は,2年間で良好な反応を示した症例,低用量プレドニン継続が必要な 症例,反応が悪くMTX併用が必要であった症例はそれぞれ約3分の1ずつであった(表3).TNF-d阻害剤 infliximabの有効性は認められていないが,近年IL-6阻害剤tocilizumabが有効であるデーターが我々を含 めて蓄積されている.
2.RS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)
押すと引っ込む著明な手足浮腫(pitting edema)を伴う予後良好な(remitting),血清陰性(RFが陰性) (seronegative),対称性(symmetrical),の滑膜炎(synovitis) である.診断基準として,60歳以上の高
る11,12).頻度はPMRの3分の1で,手のこわばりや肩・腕の痛みも生じるのでPMR症候群の一つと考えら れる13).PMRと比較して男性,喫煙者,うつ病の頻度が高いと言われる.手足浮腫の機序につては血管 内皮細胞増殖因子(VEGF)の関与が指摘されている.検査では炎症反応高値 抗核抗体陰性,RF陰性 で,画像(関節エコー・MRI)で両手伸側の腱鞘炎を認める.低用量のステロイド治療に迅速に反応する が,ステロイド反応性が悪く,易疲労感,体重減少,食欲不振がある場合は悪性腫瘍(前立腺がん,胃が ん,大腸がん,肝がん,血液腫瘍)による傍腫瘍症候群を考慮しなければならない.手浮腫の鑑別として は混合性結合組織病,手根管症候群,複合性局所疼痛症候群,アミロイド関節症,ライター症候群や乾癬 性関節症などのSNSpAも挙げられる14).
3.高齢発症RA(EORA; elderly-onset RA)
図 2. 偽痛風 (CPPD) 図2. 偽痛風 (CPPD) 左膝関節の腫脹および関節軟骨石灰化 療法である温熱療法は筋肉の緊張緩和や局所血流の改善により疼痛や腫脹を改善させる.一方,運動療法 は関節可動域改善,筋力増強,障害関節の修復のために行われるが,関節運動負荷が過度だと関節破壊が 進行するので,痛みが翌日に残らない程度に関節を伸ばすストレッチ運動が勧められる.絶対安静では1 日約5%筋力が低下し,骨塩量も週当たり0.9%失われるとされるので,筋力増強訓練も必要となる.関節 の動きを最小限としたまま筋肉の収縮を繰り返す等尺性運動が行われる.温水プールの水中歩行では浮力 により股関節の体重負荷は首(90%),胸(60%),臍(50%)と軽減され,温水による温熱効果とマッサー ジ効果,鎮痛効果もある.テニスボールなどによる握力訓練や,電気刺激による筋の収縮訓練も筋力増強 効果がある.さらに近年,マシーンを用いて楽な姿勢で軽い負荷を少しずつ反復して増やして筋力や姿勢 を改善させる有酸素運動のパワーリハビリが注目されているが,入浴より心臓への負担が少なく,運動リ スクもなく,うつ状態の改善も期待され,EORA患者への適応が考えられる.さらに,光線療法は温熱作 用と組織修復作用があり,了德寺大学で開発されている遠赤外線を用いた体表面ピンポイント温熱療法も 関節疾患への今後の活用が期待される20). 一方,高齢者ではビタミンDやCa 補給が不十分であるため,栄養療法やサプリメント使用も重要である.
4.偽痛風(CPPD; calcium pyrophosphate crystal deposition)
リウマチ性多発筋痛症 (PMR) RS3PE 高齢発症RA(EORA) 若年発症RA (YORA)* 偽痛風(CPPD) 発症状況 急激 通常急激 急激 急激・緩徐 急性 性差 (男*女) 女性 (1*2) 男性 (2*1) 女性(1*2) 女性 (1*2.6) 女性 発症年齢 50歳以上(70歳代) 50歳以上(70歳代) 65歳以上 30-50歳 65歳以上 罹患関節 肩、股、手、膝 手指、足趾 大関節 手首、手指、足趾、膝 膝、手首 滑膜炎 中等度 中等度から強度 (腱鞘滑膜炎) 通常強度 通常強度 (関節炎が主体) 末梢関節炎 時に 有 有 有 無 圧痕浮腫 無 有 軽度 軽度 無 筋肉痛 有 有りうる 有 有りうる 無 骨びらん 無 無 有 有 無 リウマチ因子(RF) 陰性 陰性 陽性(50-60%) 陽性(70-80%) 陰性 抗CCP抗体 陰性 陰性 陽性(60-70%) 陽性(80-90%) 陰性 MMP-3 増加 増加 増加 増加 ? ALP 増加 増加 ? ? ? HLA DR4(DRB1*0401,DRB1*0404) B7 DR14(DRB1*1402)DR4(DRB1*0403) DR4(DRB1*0405,DRB1*0401) ? 予後 2年以上で寛解 3ヶ月~3年で寛解 進行群と良好群 骨破壊進行性 良好 ステロイド反応性 劇的効果、再発有 劇的効果 不完全 不完全 改善 *比較参考 表5 高齢者のリウマチ性関節疾患の鑑別 するためにドラッグデリバリー技術(DDS)を用いたステロイドナノ製剤の開発を行ってきたので参考 にされたい26,27). おわりに 高齢者における頻度の高いリウマチ性関節疾患の病態,鑑別に関してまとめた(表5).今後はこれら高 齢者の関節疾患の病態がさらに解明されて鍵となるサイトカインなどの分子が解明されオーダーメードの 特異的な治療法が開発されることも期待される.一方,現状ではこれらの疾患治療の中核となるステロイ ドの使用に関しては十分な注意が必要である.また,高齢者では有害事象のマネージメント,痛みのケア, 骨粗鬆症のケア,機能障害の評価を的確に行い,薬物治療のみならず,リハビリテーションなどの運動療 法,栄養療法,生活環境整備などのフレイル予防のトータルなマネージメントが必要であることを銘記さ れたい28). 文献 1) 上野征夫,檜垣 惠 (2018)関節炎の鑑別診断 内科121(3),385-388.
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