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ア リア ケ ヒ メ シ ラ ウ オ の 生 態,生 活 史
田 北 徹
Studies on the Life History of Neosalanx reganius WAKIYA and TAKAHASI
Toru TAKITA
The sampling of the Salangid fish, Neosalanx reganius WAKIYA and TAKAHASI from Ariake Sound and the Chikugo River was attempted in July and August 1962 and from February to October 1965, and the life history of this fish was studied. The Chikugo River flows through Northern Kyushu and finds its way to the head of Ariake Sound.
The locality of this fish was reported as Ariake Sound by Wakiya and Takahashi and no other locality has been reported. But, according the author's sampling, this fish has not been obtained from this sound, though it was abundant in the downstream of the Chikugo River. It is considered that this fish is mainly distributed in fresh water and is rare in the blackish water at the mouth of the river and at the head of the sound.
Its spawning season seems to extend from the latter part of March to June.
The ripe eggs in the ovary count from 300 to 700.
On April 5, 1965, artificial insemination of this fish was carried out at Jojima Town which was situated about 15 km upper stream from the mouth of the Chikugo River.
The egg is demersal and adhesive, and it is provided with filaments which made up the external egg-membrane when the egg was in the abdominal cavity. It is colorless, almost spherical in shape, measuring
0 .84-1.00 mm in diameter, and has no oil globule.
The hatching took place in 248 hours after insemination at the water - temperature of 10°-14°C.
The newly hatched larva, measuring 4.20 mm in total length, had 36+15=51 myomeres (the number of vertebrae of this fish is 52-56).
The yolk sac is elongated and the anterior is larger. The anus opens posteriorly just behind the yoik sac. The melanophores are scattered on the ventral part of the yolk sac.
The 3-day-old larva was 5.42 mm in total length. The yolk was almost absorbed. The melanophores on the yolk sac remained on the ventral margin of the body and a single line of the other ones appeared on the ventral margin of the tail.
The post larvae occured in May and June in almost the same area of the river where the adults were taken abundantly.
r60 田北:アリアケヒメシラウォの生態,生活史
The larva, measuring 10.5mm in total length, is in the development of caudal fin, and its rays begin to appear ventrally to the notochord.
The larva, measuring 12.6 mm in total length has a well developed caudal fin. The notochord is curved upward strongly. lt has three files of melanophores on the margin of the abdomen.
The largest post larva captured with larval net measured 18.0 mm in total length. With this larva, the fins except pectral ones are complete. This larva so resembles to the adult in shape and coloration that the juvenescent stage is not recognized and the post larva seems to glow directly to the young.
The life span of this fish is one year. The maximum size of each sex at the spawning season is as follows.
Female:64 mm in total length Male:62 mm
緒 言
筆者は内湾における魚類の増殖生態を明らかにする目的で,九州西岸に位置する顕著な 内湾である有明海をえらび,この湾において魚類の産卵調査,魚卵および幽幽魚の採集調査 などによる研究を続けている.この内湾はこれまでに,独特な海況を示 すこと )2),および 本邦ではこの水域にのみ産する数種類の特産魚がいることが明らかにされているが3),今回 それらの待下魚の一つであるアリアケヒメシラウオN30s21α肱769α珈s WAKIYA and TAKAHAsI(Fig.1)の生態,生活史を明らかにすることが出来たので報告する.
本邦産シラウオ科Salangidaeの魚類の生活史は,シラウオ82泌29 読〃〜ys 1冠。ア 6457z
について赤根4),和気5),岡田・森3 7),
榎本8)などの報告があるが,アリ アケヒメシラウオについては1937 年に脇谷・高橋O)によって有明海 特産の新種として報告されて以来 その生態的な研究はほとんどなさ れていない.
本文に入るに先立ち,懇篤なる 御指導と御校閲をいただいた本学 部道津喜衛助教授およびこの研究 について御助言をいただいた九州 大学塚原博教授に対し,深謝の意
B
〜
Fig. 1 Adult specimens of Neosalanx reganius VVAKIyA and TAKAHASL
A: male TL 59.3mm B: female TL. 50.2mm
を表する.また,材料採集に多大の御便宜を与えられた福岡県三潴郡城島町江島藤男氏に 心から御礼申し上げる.
方 法
研究材料は主として1962年7,8月,1965年2〜10月に有明海に注ぐ最大の川である 筑後川の下流で採集したものを用いた.すなわち,筑後川の河口より上流へ約7kmさか のぼったところにかかっている諸富橋(Fig.2, st.1)および,それよりさらに約8km さかのぼったところにある六五郎橋(Fig.2, st.2)で,夜間,橋の上から口径1mと
長崎大学永産学部研究報告 第21号 (1966) 161
60cmの稚魚ネットをロープでつり下げて 川におろし,この網に流れ込むアリアケヒ メシラウオを採集した.一方,昼間も同様 の採集を行なったが,この時はほとんどと れなかった.これは本種の生態に昼夜の差 があるためか,または,昼間は網から逸散 するためと思われる.筆者はこの数年間,
有明海湾興部において稚魚ネットによる採 集調査を続けており,この資料も本種の分 布を検討する材料として用いた.また,
1965年4月5日に得た完熟魚を用いて人工 授精を行ない,卵発生と前期仔魚の観察を 行なった.後期仔虫についての観察は同年 5,6月に前記の方法によって筑後川で採 集した標本により行なった.なお,採集し たアリアケヒメシラウオは全てホルマリン で固定後,計測を行なった.
o
Morodomi Bridge
Head of Ariake Sound
論ノ
St. 2
@ .Jojima
S t. 1
@]Okawa
Fig. 2 Sampling stations in the downs−
tream of the Chikugo River.
アリアケヒメシラウオについて
シラウオ科の魚類は東部アジアに分布しており,これまで知られている限りではいずれ も小型の年魚で,汽水域や淡水域に棲息しており,松原10)によると本邦には5属10種を産 するとされているが,アリアケヒメシラウオは1937年に脇谷,高橋9)によって有明海特産 の新種として報告され,筆者が採集した標本の形態はこの記載にほぼ合致した.また,シ
ラウオ類は鰭の形および智鰭基部の鱗に明らかな二次性徴が現れることが知られており,
太田11)は中海,宍道湖産のシラウオについて胸鰭,腹鰭,腎鰭の形および智鰭基部の鱗の 有無に雌雄の差が認められることを報告している.これらの二次性徴はアリアケヒメシラ ゥォについても認められたが,上記のほかにこれまでシラウオ類について報告されていな い性徴と思われるものも観察出来
た.すなわち,雄魚にのみ轡鰭基 部のほぼ中央部に黒色胞群がある
(Fig.3, A).これはかなり成長 した個体になって現れ, したが って産卵期にこれが明瞭なものが 多いが,産卵期の雄筆でも小型の 個体には現れず,成熟した雄魚の みに現れる二次性徴と考えられ
る.この色素胞群の現れ方には同 じ時期にとれた同大の轍魚でも個 体差が大きく,個体によって非常
Fig. 3 Sex dimorphism.
A: male B: female
A cluster of chromathophoreS appears
on the base of the anal fin of the male.
162・ 田北:アリァケヒメシラウォの生態,生活史
に濃く,明瞭な斑点となっているものと,色素胞がまばらに集合した状態で,よく注意し なければわからないものとがある.この特徴は本種の原記載および他のシラウオ類の形態 の記載で取り上げられてなく,また図示もされていない.
分
布
アリアケヒメシラウオの分布については,脇谷・高橋がその原記載で産地を有明海*で あるとしているが,その後,内田・塚原3)が有明海特産魚の一つとしてあげているにすぎ ず,分布の詳細については不明であるので,この点を筆者の採集結果から検討した.筆者 は前記の方法によって筑後川下流で,ほぼ周年,職種の煮魚および成魚を多く採集したが,
それとあわせて,この数年,周年にわたって有明海中央部より奥部で行なっている卵,稚仔 魚採集調査では本丸は全然採集していない.また,有明海産の他の一つのシラウオである
アリアケシラウオSa!anxα7嬬9%s∫s KISHINOUYE**は,湾奥部の河口附近で操業する 待網で多くとられているが,アリアケヒメシラウオはこの網でも漁獲されない.これらの 諸点からみると,本種は筑後川においては全生活史を淡水域でおくり,海に下ることはほ とんどないと考えられるので,その産地をこれまでのように有明海とするのは不当であり,
有明海に注ぐ河川(これまでに筆者が棲息を確認しているのは筑後川だけである)に棲む 淡水魚とすべきである.
筑後川は九州では最大の河川で,全流程は141kmである.下流は筑後平野を蛇行し,
水は浮泥でにごり,岸に厚い泥を堆積している.本種の採集は前述のとおり,河口より約 7km(Fig.2, st.1)と約15km(Fig.2, st.2)の2地点で行なった.この両地点で大潮 の最高潮時に表層水の比重の測定を行なった結果からは河水に塩水の混入は認められなか ったが,有明海における潮の干満の影響はかなり顕著にあらわれ,大潮時の観測によると,
st.2においては,有明海の干潮時前後には約8時間にわたって河水は下流に向って流れ るが,澁潮時には約4時間にわたって河水は上流へ向ってかなりの速さで逆流する.採集 は2〜6月に成魚および仔魚を,7,8月と10月に若魚を対象として行なったが,st.1で は若魚が全然とれず,成魚,仔魚も少なかったのに対し,st.2では常に多くの漁獲があ
り,成魚と仔魚の漁獲もst.1にくらべて多かった.したがって,アリアケヒメシラウオ は周年ほぼ同じ場所,たとえばst.2のような淡水域に棲息していると考えられ,その分 布は河口近くにまでおよんでいるが,河口附近の汽水域にはすんでいないと考えられる.
筑後川における熟達の分布状態を明らかにするためには調査範囲をこれまでのものより さらに上流に拡げる必要があり,これは有明海奥部に注ぐ他の河川にも本誌が棲んでいる かどうかを明らかにすることとともに本種の分布に関する今後の課題である.
産 丁 二
脇谷・高橋9)によればアリアケヒメシラウオの産卵期は2,3月とされているが,筆者 の1965年における調査結果では3月下旬より6月で,盛期は4月であり,前記の報告とは
*有明海は深く湾入した匹湾で,狭い湾口のみで外海と連絡しており,湾奥部に筑後川を初めとす る多くの河川が流入しているため,一般に塩分が低く,特に湾奥部に塩分の低い汽水域が拡がっ ている.
**本種も日本では有明海にのみ産するとされている.
長崎大学水産学部研究報告 第20号 (1966) 163
かなりくい違っている.
1965年の産卵期に採集した成魚の体長組成は,Fig.7, B, C, Dに示すとおりであり,
体長の雌雄による差は認められなかった.このうち,体腔内の卵を腹部筋肉をとおして外 から見ることができ,成熟,または成熟に近いと思われる雌魚の体長範囲は44〜53mm
(4月5日に採集した14尾を測定)であった.雄魚は精巣が非常に小さいため,肉眼で熟 度を判別するのは困難であった.産卵初期には,小さく,未熟な個体が成熟個体に混って いるが(Fig.7, B),後期にはそれは少なくなり,体長範囲は狭くなる.このことは,産 卵初期には成長がよく,早く成熟した個体が産卵を行ない,成長のおそい個体も成熟に達
したものから次々に産卵を行ない,干魚は産卵後間もなくへい死するのであろう.
1965年2月より6月の4回の採集によっ て得た成魚の雌雄別個体数をTable 1に 示す.この結果からは,産卵期前後の性比 については,初期には雄の方が多く,終期 には雌が多くなる傾向がうかがわれる.
4月に採集した雌魚6個体について孕卵 数の計測および卵巣の重量と体重の測定を 行なった.その結果をTable 2に示す.
体長46〜56mmの雌魚の孕価数はおよそ 300〜700,体重に対する卵巣重量の割合
Table 1. Number of the adults of N. reganius caught with larval net from February to June, 1965 in the Chi−
kugo River.
Collection date
Feb.
Apr.
May
June
0だQ849自 ﹁⊥
No. of individuals
female male
16 111 15 53
7ρ0可⊥rD9自FO
(4尾について測定)は17〜30%であった.但し,これらの雌魚はほぼ完熟に近く,一部 すでに放下した個体もあるかもしれない.
Table 2. Data of fecundity.
No.
帽⊥9臼0δ4﹁0ρ0
Body
length(mm) Body
weight(g)
Gonad
weight (g) GW/BW(o/o) No. of eggs 7ρ0ρ07繹−←AU454・4反﹂5 O. 6
1.2 0.6
0. 6
O. 14 0. 20 0. 18 0. 16
370FO2132 326
740 393 455 618 434
産卵顛における採集で,口軽魚が,その仕の畦期において仔魚や老魚が多くとれた水域
(たとえばst.2)で多数とれていることからみると,本種は産卵のための特に大きな移 動は行なわず,大体,ひごろ成長をとげる淡水域*で産卵も行なうと考えられる.したが って,後述するように連単の卵は選曲の附着卵であるので,ひごろの棲息域の水底に多い 水草や砂粒等に産みつけられると思われるが,天然卵の採集は出来なかった.
*筆者は1965年4月に玩種の人工授精を行ない,卵内発生の観察を行なったが,この際,水生菌の 発生を防ぐために8)受精後4日,眼球形成後の受精卵の一部を淡水で5倍にき釈した海水に入れ て飼育を続けたところ,これらの卵の大部分はふ化の数時間前に卵黄のうが破れて死亡し,1尾 の仔魚がふ化しただけであったが,この仔魚もふ化直後に死亡した.一方,同時に淡水中で飼育 した卵は正常に発生レふ化をとげた,
164 田北:アリアケヒメシラウオの生態,生活史
卵 (Fig.4)
アリアケヒメシラウオの卵は字性の附着卵で,体腔内卵の卵膜は内外二重になっており,
外側の卵膜には放射状の模様があり,水中に産み出されると,これが内側の卵膜の円錐形 突出部を中心に反転して附着糸となる.筆者が1965年4月に本種の人工授精を行なったと
ころ,大部分の受精卵は外側の卵膜が反転し て附着糸を形成したが,中には,正常に発生 を続けているのに卵膜が全く反転しないもの や,途中まで反転している卵が少数みられ た.受精卵は発生の初期には楕円形のものが 多く,発生が進むにしたがって球形になる傾 向があり,受精後2日でほとんどが球形に近 くなって,その直径は0.84〜1.Ommであっ た.囲卵腔は狭い.卵黄は無色透明で,特殊 な構造はみられない.油球はない.
Fig. 4 Photomicrograph of the developing eggs. ×40
卵 内 発生(Fig.5, a〜i)
1965年4月4日遅夕刻より5日の朝まで,st.2にある六五郎橋で稚魚ネットによって 完熟魚の採集を行ない,これを用いて人工授精を行なった.完熟雌魚は外から腹部筋肉を
とおして体腔内の卵を認められ,腹部を指で軽く押すと熟卵が流れ出る.雄魚は精巣が 小さいうえ,腹部を押しても他の多くの魚種でみられるような白色の精液が認められず,
熟度の判定が困難であったので,媒精*には大型の落魚数尾の精巣を切り出してつぶした ものを用い,湿導法で行なった.
完熟魚の採集は夜間に約9時間続け,この間,完熟魚が得られる度に前後数回の人工授 精を行なったが,いずれの場合にも受精卵が得られ,それらの発生経過はほぼ同じであっ たので,ここでは4月5日午前1時30分に媒精した受精卵について述べる.受精卵は媒精 後33時間で長崎市にある当水産学部の実験室に持ち帰ったので,その間は適時,ルーペを 用いて卵発生の観察を行なった.それによると,媒精後8時間で2〜4分割,15時間で32 分割より桑実前期,33時間で胞胚期より早いものではのう胚前期に達した(Fig.5, a).
55時間でのう胚中期より後期に達し(b),62時間で原口が閉鎖し,73時間で胚体が形成され
(c),76時間で眼胞が形成される(d).87時間でKupffer胞が出現し,筋肉節が形成され,
その数は8本を数えた(e). 1C6時間で眼球が形成される(f).胚体は卵黄のまわりを肱取り 巻き,筋肉節は22本を数えた。130時間で耳立と心ぞうが形成され(9),大部分はKupffer 胞が消失する.筋肉節は42を数えた.尾部は卵黄から遊離し,胚体は卵内で動き始める.
178時間で眼球に黄色素が現れる(h).胚体は卵内ではほぼ一周し,さかんに動く.216時 間で眼に黒色素が現れ(i),胸鰭原基が形成される.また,胚体の後頭部正中線にそって ふ化酵素腺が現れる.卵黄雲際に大形星状の黒色胞が現れる.胚体は伸長し,承引で約】.
三半の長さとなる.ふ化直前には胚体が卵内で1%塾し,248時間(約10日)よりふ化し
*媒精はほかに,雄魚数尾の腹部を指で強く押した後,排泄腔付近の体表を熟卵をしぼり出したシ ャーレに満たした水で洗う方法も用いたが,この場合も受精が行なわれ,正常に発生が進んだ,
長崎大学水産学部研究報告 第21号 (1966) 165
始め,これより18時間でほぼ半数がふ化した.なお,受精卵の飼育水温は初めの33時間 は10。〜13.5。C,その後実験室では14。C前後に保った.
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Fig. 5 Developing eggs of N. reganius.
a: Gastrula stage, 33 hrs. after insemination. b: Closure of blastopore,62 hrs. c:Embryo for血ation,73 hrs. d:Eye vesicle formation, 76 hrs. e: Appearance of myomeres and Kupffer s vesicle, 87 hrs. f:Optic lens formation,・106 hrs. g:
Formation of otocyst and heart, 130 hrs. h: Appearance of the xanthophores on the eyes, 178 hrs. i, Appearance of the melan−
ophores on the eyes, 216 hrs.
ふ イ ヒ 仔
魚(Fig.6, a〜d)
ふ化直後の仔魚(a)は細長く,全長4.20mm,卵黄は細長く,体長のほぼ5/sあり,.前部 はふくれてオタマジャクシ型をしている.肛門は体の前端より体長のほぼ%の位置,卵黄 後端の直ぐ後に開いている.筋肉節数は36+15ロ51(成魚の脊椎骨数は52〜56),仔魚膜
166 田北:アリアケヒメシラウオの生態,生活史,
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Fig. 6 Larvae of N. reganius.
b
at−vd: Larvae hatched out of the artificially inseminated eggs.
e一一h: Post larvae captured with larval net.
a: Newly hatched larva, 4.20mm in total length. b: Larva 2 days old, 5.08mm. c: Larva 3 days old, 5.42mm d: Larva 6 days old, 5.28 mm, e: Post larva, 7.7mm. f: Post larva,
1. Q. 5m m. g.: Post larva, 12, 6mn. h; Po$t larva, 18. Om m,
長崎大学水産学部研究報告 第20号 (1966) 167
びれは背側は細部より,腹側もほぼ同じ位置より始まって尾端で連なっている.胸鰭原基 はすでに形成されているが,口は未だ開いていない.体には眼に黒色素がある以外,色素 胞は全然認められないが,卵黄上にはその腹側に大型の星状黒色胞がかなり密にある.膜 鰭の尾部部分に不明瞭な網目状模様がみられる.ふ化直後の仔魚は,淡水をはった水深30 cm,約30 eの角型塩化ビニール製水槽中では水槽底に横たわってほとんど動かず,しば
らくして水の中層に泳ぎ上るようになるが,運動をやめるとまた水底に沈む.
ふ化後1日の仔魚は背を上にした正常な体位で上ったり沈んだりをくり返す.卵黄は細 くなり,前部のふくらみがなくなる.胸部に数個の黒色胞が現れる.
ふ化後2日の仔魚(b)は全長5.08mm,口が開き,胸鰭が出来,うきぶくろの存在が明ら かとなる.膜鰭は背側の始部が少し前進して後頭部より始まっている,この仔魚は水槽内 では,水の中,上層を活発に泳ぐ.
ふ化後3日の仔魚(c)は全長5.42mm,卵黄はほとんど吸収され,腸管の腹側に細長く 残っているだけで,腸管との境は不明瞭である.胸部腹面の黒色胞が発達し,尾部の由縁
にも黒色胞が並んで,胸部より尾部までの腹側に黒色胞が連なる.それらは腹部と尾部で は膜前上に多少張り出している.
ふ化後6日の仔魚(d)は全長5.28mm,卵黄を吸収しつくし,頭部が発達する.黒色胞 は胸部腹面,腹部腹縁,尾部腹縁に並ぶ.腹部中央および直腸部では消化管背面にも現れ
る.
1965年4月4〜5日に得た人工受精卵からふ化した正常な形の仔魚は約700尾で,これ らにふ化後2日より鶏卵黄をゆでてつぶしたものを与えたが,全然餌につかないまま,ふ 化後5〜6目でへい死する個体が増加し,8日までにほとんどがへい死した.
後 期 仔 魚 (Fig.6, e〜h)
1965年6月3〜4日に前述した六五郎橋(st.2)で成魚と同じ採集方法によって全長 7.7〜18.Ommの後期仔魚約30G尾を採集した.
全長7.7mm(e):尾鰭原基が現れている.4対の鯛が明瞭であるが,これらは全て鯛蓋 より露出している.黒色胞は胸部では2列,腹部の血縁には1列に並んでいる.腸管背面 には直腸部に1個の黒色胞があるが,他はなくなっている.尾部のほぼ中央部の腹縁にも 数個の黒色胞が1列に並んでいる.
全長10.5mm(f):脊索端が上屈し,背鰭と尾鰭の淫心と智鰭の原基が現れている・胸 鰭基部に大形の黒色胞が現れている.また,胸部の2列の黒色胞は腹部へかけて体側へ伸 び始めている.
全長12.6mm(9):腹鰭原基が現れている.脊索端は上屈しているが,尾鰭は上下葉が ほぼ相称で,扁虫に鰭条が現れている.鯛蓋は伸長して鯛は2対が露出している・体の腹 側の黒色爪は胸部より始まった2列が腹縁の1列と平行して肛門の位置にまでおよび,
腹計画面には3列の黒色胞が並んでいる.尾部回縁では智歯原基および尾柄部に並んでい る.また,尾鰭基部の鰭膜にも数個の黒色胞が現れている.
全長18.Omm(h):脂鰭が現れ,各垂直鰭と腹鰭が完成している・胸鰭には鰭条が現れ 始めている.地歩が伸長して,鯉は全てその下にかくれている.尾鰭基部の黒色胞がふえ
ている,
168 田北:アリアケヒメシラウオの生態,生活史
本田は全長約20mmで胸鰭が完成し,後期仔魚期を終ると思われるが,この時期の仔 魚は体型;色彩が成魚とほとんど変わらず,したがって,本種には内田12)による稚魚期,
Hubbs13)によるjuvenile期に相当する時期はないと考えられる.なお,前記の後期仔魚 の測定はホルマリン固定標本によった.
成
長
Fig.7は1962年7〜8月と1965年2,4,5,6,10月に筑後川で採集したアリアケヒメ シラウオの体長組成を示した
ものである.前に述べたとお り,亜種の成魚の体長には性 別の差は認められなかった.
この図より明らかなように,
4,5月に生まれたアリアケ ヒメシラウオは一5,6.月に体 長10〜26mmの仔魚となり,
7,8月には体長20〜25mm,
翌年の産卵期には体長50mm 前後となる.なお,7,8月
および10月にはその年に生ま れたと思われる小型の未成魚 のみであり,前年に生まれた
と思われる大型の成魚は全然 採集出来なかった.したがっ て,本卦は生後満1年で産卵 し寿命を終る年魚で,7月以 後は,前年に生まれた成魚は 全て死滅するものと考えら れる.4〜6月に得た雌成魚 179尾,雄成魚62尾のうちの 最大型は雌は全長64mm,体 長58mm,雄は全長62mm,
体長56mmであった.
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40
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アリ り り
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Fig.7 Monthly changes in size frequency.
A:Feb. 20,1965 B:April 5,1965 C:May 18,1965 D:June 3,1965 .E:July、20, Aug.11, Aug.20,1962 F:Oct. 12,1965
議
前述したとおり,有明海および筑後川には2種類のシラウオ科魚類すなわちアリアケ シラウオとアリアケヒメシラウオが棲息している.前者はこの地方でトンサンイオと呼ば れ,福岡県,佐賀県および長崎県の一部の地先の浅海(水深1〜5m)に分布し,待網に よって盛んに漁獲iされ,食用にされている.これに対し,アリアケヒメシラウオは筆者が 筑後川で行なった稚魚ネットによる採集からみて,かなりまとまった量の漁獲も困難では ないと思われtzが,筑後川およびその附近の川には本種をとる漁法はなく,食用として利
長 崎 大 学 水産 学 部 研 究 報 告 第21号(1966) 169
用 され て い る とい う話 も聞 か な い ア リアケ ヒメ ン ラ ウオ は シ ラ ウ オ や ア リア ケ シ ラ ウ オ に くらへ る と魚 体 は小 さい か,そ れ らと変 わ らぬ風 味 か あ り,そ の 利 用 か 考 え られ て よ い と思 う た た し,こ の場 合,こ れ まて の筆 者 の 調 査 に よ る と,本 種 の 分 布 は狭 い水 域 に 限 られ て お り,し か も年 魚 て あ る こ とか ら資 源 保 護 に つ い て 特 に留 意 す る必 要 か あ る
な お,ア リアケ シ ラ ウ オ とア リアケ ヒメ ンラ ウ オ とは 有 明海 奥 部 の珂 口 附近 の水 域 て は ほ とん と棲 息 域 を接 し,前 者 は 淡 水 魚 と して,後 者 は 産 卵 期 に の み川 を さか の ほ る海 産 魚 と して の生活 をお こな って お り,両 種 の 生 態 生 盾 史 の 比 較 研 究 は有 明海 の魚 類 の 生態 研 究 の 面 か ら興 味 あ る今 後 の課 題 て あ る
要 約
筑 後 川 下 流 て ア リア ケ ヒ メ ン ラ ウオ の採 集 お よ ひ人 工 受 精 を行 な い,そ の 生 態 生 活 史 を 明 らか に した
ア リア ケ ヒ メ ン ラ ウオ の成 魚 て は雄 の み の臀鰭 基 部 に黒 色 胞 群 か 現 れ るか,こ れ は これ まて の ンラ ウ オ類 の 性 徴 に 関 す る報 告 の 中 て取 り上 け られ て い な い第 二 次 性 徴 と考 え られ る
原 記 載 て は本 種 の棲 息 地 は有 明海 と され て い るか,筆 者 の これ ま て の調 査 て は,本 種 は 筑 後 川 に多 く分 布 し,一 生 を淡水 域 て お く る と考 え られ る
産 卵 期 は3月 下 旬 よ り6月 て あ る 孕 卵 数 は300〜700,卵 は沈 性 の 附 着 卵 て,外 卵 膜 に 放 射 状 の 模 様 か あ り,水 中 に産 み 出 され る と これ か反 転 して 附 着 糸 とな る
1965年4月5日 に筑 後 川 下 流 の何 口 よ り約15kmの 地 点 て完 熟 魚 を採 集 し,人 工 授 精 を 行 な った 受 精 卵 の卵 径 は084〜10mm,卵 膜 と卵 黄 は 無 色 透 明 て,油 球 は な い 受 精 卵 は 水温10° 〜14°Cに お い て 媒 精後248時 間 て ふ化 し始 め た
ふ 化 直 後 の 仔 魚 は 全 長420mm,卵 黄 は細 長 く,体 長 の ほ ほ5/8あ り,そ の 直後 に 肛 門 か 開 い て い る
1965年5,6月 に 筑 後 川 下 流 て 後 期 仔 魚(全 長6〜18mm)を 採 集 した 全 長180mm の仔 魚 は胸 鰭 以 外 の鰭 条 が 完成 して い る 仔魚 の色 素 胞 は 黒色 胞 か 眼,体 の 腹 面 お よ ひ尾 嗜 基部 に現 れ るた け て,そ の他 の体 部 に は現 れ な い
天 然 て は4,5月 に 生 まれ た ア リアケ ヒ メ ン ラ ウオ は翌 年 の産 卵 期 に 体 長50mm前 後 と な って産 卵 し,産 卵 後 へ い死 す る 筆 者 か これ ま て に採 集 した最 大 型 は雌 は全 長64mm, 体 長58mm,雄 は 全 長62mm,体 長56mmて あ った
文 献
1)水 産 庁 有 明 海 角 業 調 整 事 務 局 有 明 海 水 産 要 報,1,2,2〜19(1952) 2)福 岡 県 水 試 有 明 海 千 月 利 用 研 究 報 告,15〜217(1929)
3)内 田 恵 太 郎 ・塚 原 博 日 本 生 物 地 理 学 会 報,16〜19,292〜302(1955) 4)赤 根 金 太 郎 大 正11年 秋 田 水 試 事 業 報 告,ユ41〜143(1923) 5)和 気 友 之 助 大 正11年 島 根 水 産 事 業 報 告,103〜104(1923) 6)岡 田 弥 一 郎 ・森 浩 一 郎 魚 雑,5(3,4,5,6),99〜105(1957)
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170 田北:アリアケヒメシラウオの生態,生活史
10)
11)
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松原喜代松:魚類の形態と検索,1,211〜215,(1955)
太田繁:水研,41(1),17〜25(1951)
内田恵太郎・道津喜:衛:対馬暖流開発調査報告,2,9(1958)
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