アカデミックアワー研究報告
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スポーツ団体における女性スポーツの普及・推進に向けた取り組みと 活動実態に関する研究報告
―滋賀県スポーツ団体に着目して―
佐藤 馨
1)Research Regarding an Approach to the Promotion Campaign for Women’s Sport and the Current Situation in Japan: A Case study of Shiga Sport Associations
Kei Sato
Key words:promotion, women, sports, leadership
1.研究の目的
本研究は,様々なスポーツ団体における女性ス ポーツの普及・推進活動への取り組みと実際の活 動状況を調査し,日本オリンピック委員会(JOC)
による全国調査結果等と比較することにより,そ の取り組みを検討・評価することを目的とする。
2.研究方法
1)調査対象:滋賀県下約50のスポーツ団体 2) 調査方法:滋賀県体育協会を介し,各スポー
ツ団体に調査票の配布・回収を実施 3)調査期間:2007年10月12日~26日 4)回収率:52.9%
3.結果および考察
1)スポーツ団体における女性の比率
(1)競技者・団体数における女性の比率
滋賀県のスポーツ団体における競技者および団 体の女性比率をみると,競技者は35.3%,団体・チ ームは29.9%であった(図1)。一方,JOCの調査に よれば(図2),競技者は31%,団体・チームは72
%であり,滋賀県では競技者における女性の比率 は全国平均を上回ったものの,団体数は大幅に少 なかった。
(2)指導者・審判における女性の比率
滋賀県において女性指導者・審判の占める割合 は,指導者が13.3%,審判が8.2%であった。これ を全国調査でみると,指導者が21.8%,審判が19.1
%であった(図1,2)。滋賀県のスポーツ団体で
男 女 0%
(n=37,601)競技者
(n=1,591)指導者
(n=1,336)審判
団体・チーム
(n=488)
20% 40% 60% 80% 100%
図1.滋賀県における登録人数の男女比
64.7% 35.3%
86.7% 13.3%
91.8% 8.2%
70.1% 29.9%
男 女 0%
(n=5,284,203)競技者
(n=145,589)指導者
(n=131,575)審判
団体・チーム
(n=168,171)
20% 40% 60% 80% 100%
図2.JOC 加盟団体における登録人数の男女比(JOC, 2004)
69.0% 31.0%
78.2% 21.8%
80.9% 19.1%
28.0% 72.0%
は,競技の普及・推進に直接関わる指導者や審判 において女性の比率が全国平均を下回っており,
今後,早急に指導者や審判の育成が必要になるで あろう。
(3)スポーツ団体における役員の女性の比率 滋賀県のスポーツ団体における女性役員の比率 は10.5%であり,一方,全国調査における女性役 員の比率は5.7%であった(図3,4)。滋賀県のス ポーツ団体における女性役員の比率は,全国平均
1)生涯スポーツ学科
びわこ成蹊スポーツ大学研究紀要 第7号 140
男女
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図3.滋賀県における団体役員の男女比
(n=1,157)役員合計 会長・理事長
(n=52)
副会長・副理事長
(n=17)
専務理事(n=46)
常務理事(n=247)
(n=695)理事
89.5% 10.5%
100.0% 0.0%
96.6% 3.4%
89.1% 10.9%
91.9% 8.1%
86.6% 13.4%
男女
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図4.JOC 加盟団体における団体役員の男女比(JOC, 2004 より改変)
(n=1,123)役員合計 会長・理事長
(n=60)
副会長・副理事長
(n=137)
専務理事(n=48)
常務理事(n=203)
(n=675)理事
94.3% 5.7%
96.7% 3.3%
97.1% 2.9%
97.9% 2.1%
96.1% 3.9%
92.7% 7.3%
よりも若干高いことが分かった。
2)女性スポーツに関する取り組み
(1)内部委員会の設置状況
滋賀県のスポーツ団体において最も設置率の高 い委員会は「普及」の62.9%,以下「競技力」51.4
%,「審判」51.4%,「指導者」45.7%であった(図 5,6)。一方,全国調査では「普及」の74.6%,
以下「審判」72.9%,「競技力」69.5%であった。
滋賀県における各委員会の設置率の低さは,団体 規模に起因すると考えられる。また,女性スポー ツに関する課題に取り組む場として女性委員会が あるが,滋賀県では20%,全国では20.3%と特に 違いはなかった。今後,女性スポーツ全般の問題 に取り組むためには,女性委員会の設置率を押し 上げることが重要であろう。
(2)女性スポーツに関する課題
女性スポーツに関して,各団体どのような取り 組みを行っているのか見ると,滋賀県では検討を 要する課題として上位に位置したのが「セクシャ ルハラスメント防止の整備・普及(37.8%)」「女 性とスポーツに関する他団体とのネットワーク・
情報交換(37.8%)」「練習施設,大会会場におけ る託児所の整備・充実(37.8%)」であった。一 方,全国調査では「女性とスポーツに関する研究 への支援・助成(42.4%)」であった。以上の結果 から,滋賀県において女性スポーツに関する課題 解決には,団体統括組織によるネットワークづく
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図5.滋賀県における競技団体各種内部委員会の設置率
(n=37)
51.4%
競技力向上
62.9%
普及
51.4%
審判
17.1%
広報
45.7%
指導者
20.0%
医科学 2.9%
ドーピング
31.4%
財務
25.7%
ルール
20.0%
女性
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図6.JOC 加盟団体における競技団体各種内部委員会の設置率
(JOC, 2004 より改変)(n=37)
69.5%
競技力向上
74.6%
普及
72.9%
審判
67.8%
広報
67.8%
指導者
57.6%
医科学
50.8%
ドーピング
59.3%
財務
49.2%
ルール
20.3%
女性
りや情報発信が必要であると思われる。
4.まとめ
本研究は,滋賀県における女性スポーツの普 及・推進活動への取り組みと実際の活動状況を調 査し,JOCによる全国調査結果等と比較すること でその取り組みと検討・評価した。結果は以下の 通りであった。
1)滋賀県のスポーツ団体では,女性役員の比率が 全国平均よりも高く,女性の登用に積極的である ことが分かった。
2)女性指導者・審判は,全国平均を下回ってお り,今後,女性指導者・審判の増員を図り,こう した女性達を人々が日常的に目にする機会を増や すことが重要である。
3)女性スポーツの普及・推進するためには,各ス ポーツ団体の努力だけでなく,団体統括組織から の情報提供や団体間のネットワークづくりが重要 になると考える。このことが国内外を問わず女性 スポーツへの取り組みに関する情報を共有できる 契機となり,スポーツ界全体で女性スポーツの普 及に貢献できるのではないだろうか。
引用文献