68-1
外ダイアフラム形式鉄筋内蔵 C F T 柱梁接合部の構造性能評価
上岡 幸太郎
1 .序
1 .1 研究背景および目的
近年 CFT 柱や外ダイアフラム形式柱梁接合部に超高
強度鋼を用いた場合の構造性能が種々の構造実験によ
り明らかにされてきている1 ) ~ 3 )
.一般に超高強度鋼
では溶接部の品質確保と施工に関して普通鋼より高度
な技術を要する.特に CFT 造柱梁接合部においては,柱
と梁あるいは接合材の接合には基本的に溶接が避けら
れないため,超高強度鋼を活用した構造形式を普及さ
せるためには新たな構法の開発も望まれる.そこで本
研究は柱梁接合部に従来鋼を,柱に超高強度鋼を用い
た構造形式の実現を目指して,新しい柱梁接合法の開
発ならびに基本的力学的性状の評価を目的として実験
的に研究を行う.
1 .2 本構法の概要
図 1 に本構法の詳細を示す.柱梁接合部は CFT 造と
相性の良い外ダイアフラムで構成される.柱梁接合部
と上下の柱材は固定用金物を介して高強度ねじ節鉄筋
で接合される.固定用金物は本構法において内蔵鉄筋
の固定や施工時の角形鋼管の設置を容易に行うために
新たに考案したものであり,突起は組立時に角形鋼管
のガイドや柱材の水平方向のずれ防止の役割を果たす.
柱材や接合部柱材の鋼管内部の端部にはリブプレート
をすみ肉溶接によって 2 段設けており,その機械的ず
れ止めによって鋼管から充填コンクリートを介して内
蔵鉄筋への応力伝達を可能にしている.内蔵鉄筋の両
端には定着板を装着することにより,支圧抵抗を期待
し,内蔵鉄筋の長さを短くすることを意図している.
3 .降伏耐力,全塑性耐力および回転剛性の評価
降伏耐力の評価は文献 4 ) により行った.
3 . 1 全塑性耐力の評価手法
( 1 ) 除荷剛性,全塑性耐力実験値の評価
実験結果から R=0.005rad の弾性載荷後の除荷時のcMj
-j 関係はほぼ安定した直線関係にあるとみなせるので,
その除荷剛性を K として定義する.ここでcMjは継手
2 .実験概要
2 .1 試験体概要
試験体の一例を図 2 ,試験体一覧を表 1 に,鋼材の
機械的性質を表 2 に示す.本実験では 7 体のト形試験
体の載荷を行ったが,本稿ではその内の 4 体を取り上
げる.全ての試験体は柱継手の全塑性化が先行するよ
うに設計されている.本接合構法は,超高強度 CFT 柱
を想定したものであるが,鉄筋内蔵 CFT 接合部の力学
性状を把握する上では普通鋼で問題ないと考え,本実
験では CFT 柱にも BCR 材を用いることとしている.実
験変数は柱材および接合部柱材の幅厚比,接合部柱材
の出寸法,定着長さである.接合部柱材の外ダイアフ
ラムから突出している部分の寸法を接合部柱材の出寸
法としている.固定用金物-定着板間の内蔵鉄筋の長
さを定着長さとし,D (鉄筋の呼び径)を基準とした
長さとした.コンクリートは No.1 には設計基準強度 Fc30
および No.5 ~ No.7 には Fc60 のものを使用した.
2 .2 加力方法
加力装置を図 3 に示す.本実験の載荷は柱両端をピ
ン治具でフレームに固定し,梁先端の油圧ジャッキに
より水平力を加える正負交番繰返し漸増載荷とする.
本実験では油圧ジャッキのストロークが減少する方向
を正方向,増加する方向を負方向とする.載荷は層間
変形角 R による変位制御とし,R= ± 0.005rad の弾性
載荷の後,R= ± 0.01rad,± 0.02rad,± 0.03rad,±
0 . 0 4 r a d の各振幅で 2 サイクル載荷を行い,正方向に明
瞭な耐力低下がみられるか,あるいは装置のストロー
クの限界に達するまで行う.梁端部および梁中央部に
は面外変形を抑制するための振れ止めを設置している.
図 1 本構法の詳細
超高強度鋼CFT柱
内蔵鉄筋
(高強度ネジ節鉄筋)
固定用金物
従来鋼梁 超高強度鋼梁or
従来鋼梁
外ダイアフラム
定着板
機械的ずれ止め
柱梁接合部
(従来鋼で構成)
A
B
B断面
A断面
68-2
図 3 加力装置
図 2 試験体の一例
( c ) 固定用金物
( b ) 外ダイアフラム
( a ) 試験体全体
表 2 鋼材の機械的性質
表 1 試験体一覧
3 . 2 回転剛性の評価手法
( 1 ) 実験値の評価
3 . 1 節( 1 ) より除荷剛性 K を回転剛性の実験値とす
る.
( 2 ) 回転剛性の算定手法
継手断面に平面保持を仮定し,降伏耐力時の中立軸
を中心に継手が回転すると仮定する.引張側最外縁の
内蔵鉄筋に生じた伸びにより継手回転角の計算値を算
定する.接合部 - 柱材間応力伝達に寄与する引張側最
外縁の内蔵鉄筋の応力負担範囲を有効長さ
rlbとする.
rlb
における歪分布は
rlbの始端終端で歪が 0 となるよう
な線形分布を仮定し,その長さは鉄筋の全長
rl の半分
N
N
N
Nu s r c
c
cMu
sM
rM
cM
j
yj
r
rN
a
j
c
j
yj
r
r d
D
a
M
2
D
x
N c B nc
c
cM (
cD xn st)
cN
2
1
y
s
s
s
n
s
s
sN(
Dt2(
x
t)
t)
))
)(
(
)
(
2
1
(
D D t x t D x t
t
M s ys s s s n s c n s
s
(1) (2)
(3)
(5)
(7)
(4)
(6)
(8)
モーメント,jは継手回転角を表す.
cMj-
j 関係の骨格
曲線に対して K の 1/6 の傾きをもつ直線が接する点を
全塑性耐力の実験値とする.
( 2 ) 全塑性耐力の算定手法
耐力の算定においては継手部を RC+S 断面とみな
し,一般化累加強度により算出する.ここでは圧縮を
正とし,鋼管およびコンクリートは引張応力を負担し
ない.鉄筋の取り扱いについては加力方向に列を定義
する.全塑性時の鋼管および内蔵鉄筋の応力度は鋼材
の降伏強度,コンクリートの応力度は圧縮強度とする.
以下に算定式を示す.
ヤング係数 降伏点 引張強さ 降伏歪
[N/mm2] [N/mm2] [N/mm2] [%]
No.1,梁材 202528 371.5 515.5 0.183
No.5~7 208622 361.7 538.7 0.173
No.1 209728 403.7 510.9 0.192
No.5,7 204230 377.5 460.0 0.185
□-250×9 No.6 201939 414.5 452.2 0.206
No.1,6,7 182440 526.4 709.8 0.289
No.5 185951 537.9 721.8 0.289
SN490B 16
BCR295
SD490
□-250×6
D19
鋼種
サイズ・
厚さ・径
[mm]
使用した
試験体
ここで,
sD:鋼管の幅,st:鋼管厚さ,sy:鋼管の降
伏応力,
cB:終局耐力時のコンクリートの圧縮強度,
cD:
コンクリートの幅,
ryj:終局耐力時の j 列の鉄筋の応
力,aj:j 列の鉄筋の総断面積,dj:コンクリート圧縮縁
から j 列までの距離
ロードセル(1000kN)
串型油圧ジャッキ(1000kN)
振れ止め
1
5
6
5
2100
試験体
ピン
滑り止め
ピンローラー
+
-梁材
振れ止め
a
B
d
SN490B
PL-16(
td)
接合部柱材
内蔵鉄筋
リブプレート
375
200
60
43 55555543
250
2
0
0
=
=
8
0
=
h
d
350
19 262 19
125
5
5
5
5
5
5
PL-300×300×9
PL-220×40×9
4
0
4
0
300
3
80
5
25
1
25
4
00
5
25
1
70
0
立面図
断面図
3
80
250
梁材
固定用金物
外ダイアフラム
加力点
6
59
1565
定着板
柱材
接合部柱材
リブプレート
内蔵鉄筋
定着長さ
出寸法
1
25
柱材
(BCR295)
梁材
(SN490B) コンクリート
サイズ[mm] サイズ[mm] 出寸法[mm] サイズ[mm]
Dd[mm] Bd[mm] td[mm] a [mm] 配筋 定着長さ 圧縮強度[N/mm2]
No.1 10D 38.3
No.5 74.8
No.6 □-250×9 □-250×9 78.0
No.7 □-250×6 □-250×6 63 77.9
200 16 350 12-D19
20D
□-250×6
□-250×6
125
H-400×200×9×16 400
試験体
接合部柱材
(BCR295)
外ダイアフラム
(SN490B)
内蔵鉄筋
(SD490)
68-3
4 .実験結果およびその考察
4 . 1 継手モーメント - 継手回転角関係
図 4 に継手モーメント
cMjとピンローラ側継手回転角
prjの関係を示す.本研究では正方向載荷時に生じた継
手モーメントおよび継手回転角を正,負方向載荷時に
生じた継手モーメントおよび継手回転角を負としてい
る.図 4 中の破線は
cMy,一点鎖線は
cMuを表す.表 3 に
各耐力および回転剛性の算定値を示す.ここで
eMy
は降伏耐力の実験値,
cMyは降伏耐力の計算値,
eMuは全
塑性耐力の実験値,
cMuは全塑性耐力の計算値,
cKB Sは
回転剛性の計算値を表す.No.1 の一部の値は破壊形式
の違いに より評 価 で き な か っ た .
図 4 よりいずれの試験体も安定したスリップ状の履
歴特性を示している.No.1 は R=0.03rad で最大耐力に
達したが,No.5 ~ No.7 は実験中には明確な耐力低下を
確認することができなかった.図 4(a)より No.1 は耐力
が最も低く,最大耐力が
cMyに近い値となっているが,
-200
-100
0
100
200
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15
eMy
eMu
prj [rad]
c
Mj
[kN
m
]
-200
-100
0
100
200
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15
eMy
eMu
prj [rad]
c
Mj
[kN
m
]
-200
-100
0
100
200
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15
eMy
eMu
prj [rad]
c
Mj
[k
Nm
]
-200
-100
0
100
200
-0.1 -0.05 0 0.05 0.1 0.15
prj [rad]
c
Mj
[kN
m
]
(a)No.1 (b)No.5
(c)No.6 (d)No.7
図 4
cMj-prj関係
-10000
-5000
0
5000
-0.05 0 0.05 0.1
pr10a
pr10c
R[rad]
s[]
-10000
-5000
0
5000
-0.05 0 0.05 0.1
pr10a
pr10c
R[rad]
s[]
-10000
-5000
0
5000
-0.05 0 0.05 0.1
pr6a
pr6c
R[rad]
s[]
-10000
-5000
0
5000
-0.05 0 0.05 0.1
pr6a
pr6c
R[rad]
s[]
(a)No.1 (b)No.1
(c)No.5 (d)No.5
図 5
s - R 関係
0
5000
10000
15000
20000
-0.05 0 0.05 0.1
E1
E7
r[]
R[rad]
0
5000
10000
15000
20000
-0.05 0 0.05 0.1
E1
E7
r[]
R[rad]
(a)No.1 (b)No.5
図 6
r - R 関係
表 3 各耐力および回転剛性の算定値
これは想定していた継手部の全塑性化ではなく,定着
板付近でのコーン破壊による鉄筋の引き抜き破壊や,
リブプレートとの接触面におけるコンクリートの支圧
破壊が先行したためと推測される.図 4 ( b ) ~( d ) より
No.5 ~ No.7 は最大耐力が全塑性耐力を上回っている.
pr10a
pr10c
pr6a
pr6c
E7
E1
20
90
90
図 7 歪ゲージ貼付位置
ここで
rdt:鋼管圧縮縁から引張側最外縁の鉄筋まで
の距離,
rE :鉄筋のヤング係数
y
c
y
c
BS
c
M
K
rb
r
y
r
y
r l
E
)
(
r t n
y
r
y
c
x
d
(10)
(9) (11)
と仮定した.以下に算定式を示す.
試験体 載荷方向
eMy[kNm]
cMy[kNm]
eMy/cMy eMu[kNm]
cMu[kNm]
eMu/cMu K [kNm/rad] cKBS [kNm/rad]
K /cKBS
正 - 145
- - 183
- - -
-負 - -145
- - -183
- - -
-正 153 148 1.03 172 190 0.91 23379 19033 1.23
負 -140 -148 0.94 -160 -190 0.84 22605 19033 1.19
正 160 148 1.08 183 199 0.92 24332 19806 1.23
負 -135 -148 0.91 -159 -199 0.80 21500 19806 1.09
正 151 145 1.04 178 187 0.95 28424 20397 1.39
負 -137 -145 0.94 -161 -187 0.86 24985 20397 1.22
No.1
No.5
No.6
No.7
68-4
5 .応力伝達機構
図 8 に本構法の応力伝達機構を示す.図 8 (a)は定着
長さの短い試験体(No.1),図 8 (b)は定着長さの長い試
験体(No.5 ~ No.7)を表している.
図 8 (a)より定着長さの短い試験体では主に①定着板
および鉄筋の節とリブプレートの間に形成される圧縮
ストラット,②鉄筋の付着,③鋼管と固定用金物間の
6 .結
本研究では外ダイアフラム形式鉄筋内蔵 CFT 柱梁接
合部の実験を行った.その結果,適切な定着長さを確
保した試験体では耐力低下は認められず,安定した履
歴曲線が確認された.各耐力および回転剛性の評価も
概ね良好であった.
【 参 考 文 献 】
1 ) 寺 沢 他 : 超 高 強 度 鋼 を 用 い た コ ン ク リ ー ト 充 填 鋼 管 柱 の
構造性能に関する実験的研究(その 1 ~ 4 ),日本建築学
会大会学術講演梗概集,C-1,構造Ⅲ,pp.1153-1160,2007.
2 ) 平 出 他 : 超 高 強 度 鋼 を 用 い た コ ン ク リ ー ト 充 填 鋼 管 柱 の
構造性能に関する実験的研究(その 5 ~ 7 ),日本建築学
会大会学術講演梗概集,C-1,構造Ⅲ,pp.1111-1116,2008.
3 ) 竹 中 他 : 超 高 強 度 鋼 を 用 い た 柱 梁 接 合 部 実 験 ( そ の 1 ),
日本建築学会大会学術講演梗概集,C-1,構造Ⅲ,pp.755-756,2008.
4 ) 上 岡 他 : 内 蔵 鉄 筋 を 接 合 材 と し て 用 い る コ ン ク リ ー ト 充
填角形鋼管柱梁接合部に関する実験的研究 (その 3 ),日
本建築学会研究報告,九州支部,2 0 1 5 . 3
No.6 は No.5,No.7 と比較すると耐力が最も大きく,また
2 サイクル目のスリップがあまり発生せずに早期に剛
性が上昇しており,幅厚比の減少の影響が表れている.
表 3 より
eMy,eMuおよび K はいずれも正側載荷時のもの
が負側載荷時のものより大きいが,これは先に正側載
荷時で鉄筋が降伏するため,その後の負側載荷時では
バウシンガー効果により鉄筋の剛性が減少し,加えて
継手の剛性も減少するためと考えられる.正側載荷時
ではいずれの試験体も降伏耐力では
cMyは
eMyを過小評
価し,全塑性耐力では
cMuは
eMuを過大評価する結果
となったが,誤差は 1 ~ 2 割程度であり,概ね評価で
きていると考えられる.回転剛性では
cKBSは K を過小
評価する結果となり,誤差は 2 ~ 4 割程度であったが,
これは
cKB Sの算出において降伏に至るまでの剛性の低
下を考慮していないためだと考えられる.
4 .2 鋼管歪 - 層間変形角関係
図 5 に鋼管歪
s と層間変形角 R の関係を示す.図 7 に
歪ゲージの貼付位置を示す.図 7 の歪ゲージ名称にお
いて”a”は材軸方向,”c”は材周方向の歪を測るゲー
ジであることを表す.ここでは引張歪を正としている.
図 5 よりどちらの試験体も材周方向の歪はほぼ常に引
張歪が発生している.これは充填コンクリートの割裂
および圧縮ストラットの形成による面外方向への板曲
げが作用していると考えられる.図 5(a)(c)より,No.5 に
比べて No.1 は材軸方向に大きな引張歪が出ている.こ
れは No. 1 では鉄筋の引き抜き破壊が発生し,鋼管に
も引張力が作用したためと考えられる.図 5(d)より No.5
では材軸方向に大きな圧縮歪が生じており,継手の接
合部側で降伏耐力および終局耐力が決定したものと考
えられる.
4 .3 内蔵鉄筋歪 - 層間変形角関係
図 6 に内蔵鉄筋歪
r と層間変形角 R の関係を示す.図
中の一点鎖線は鉄筋の降伏歪の値を表している.ここ
では引張歪を正としている.図 7 に歪ゲージの貼付位
置を示す.図 6(a)より No.1 では実験終了時まで鉄筋は
降伏に至っていない.図 6(b)より No.5 は R=0.02rad で引
張側最外縁の鉄筋が降伏に至るが,これは継手が
eMy
に 至 る 時 期 と一致している.
図 8 応力伝達機構
( a ) 定着長さの短い試験体(N o . 1 )
( b ) 定着長さの長い試験体(N o . 5 ~ N o . 7 )
M
圧縮ストラット
テコ反力
テコ反力
Q
鋼管と固定用金物間の
圧縮伝達
付着
M
Q
引き抜き
定着板の支圧抵抗
鋼管と固定用金物間の
圧縮伝達
圧縮ストラット
付着
M
Q
M
Q
全塑性化
圧縮伝達,④テコ作用による反力(テコ反力),⑤定着
板の支圧抵抗によって,鉄筋からコンクリートを介し
て鋼管に応力伝達によって抵抗し,最終的に鉄筋およ
び定着板が引き抜けて破壊が生じたと考えられる.②
鉄筋の付着および③鋼管と固定用金物間の圧縮伝達は
引き抜き破壊が大きく進展した際には生じなくなるも
のと考えられる.
図 8 (b)より定着長さの長い試験体では主に①鉄筋の
節とリブプレートの間に形成される圧縮ストラット,
②鉄筋の付着,③鋼管と固定用金物間の圧縮伝達に
よって抵抗し,最終的に継手断面が全塑性化するもの
と考えられる.