LS1101HR101BZ–01 春 は あ け ぼ の。 や う や う 白 く な り ゆ く、 山 ぎ は す こ し ① あ か り て 、 紫 だち ② たる 雲 ③ の 細くたなびきたる。 夏 は 夜。 月 の こ ろ は さ ら な り 、 闇 やみ も な ほ 、 蛍 の 多 く 飛 び ち が ひ た る。 また、ただひとつふたつなど、ほのかにうち光りて行くも をかし 。雨な ど降るもをかし。 秋は夕暮れ。夕日のさして山の端いと近うなりたるに、からすの寝ど こ ろ へ 行 く と て、 み つ よ つ、 ふ た つ み つ な ど 飛 び 急 ぐ ④ さ へ あ は れ な り 。 ま い て 雁 かり な ど ⑤ の 連 ね た る が、 い と 小 さ く ⑥ 見 ゆ る は い と を か し。 日 入 りはてて、風の 音 おと 、虫の 音 ね など、 はた ⑦ 言ふべきにあらず 。 冬は つとめて 。雪の降りたるは言ふべきにもあらず、霜のいと白きも、 ま た さ ら で も い と 寒 き に、 火 な ど 急 ぎ お こ し て、 炭 ⑧ 持 も て わ た る も い と つ き づ き し 。 昼 に な り て、 ぬ る く ゆ る び も て い け ⑨ ば 、 火 ひ 桶 をけ の 火 も 白 き 灰がちになりて わろし 。 春は夜明け (が趣がある) 。しだいに (空が) しらんでいく (こ ろ )、 山 の 上 空 が 少 し 明 る く な っ て、 紫 が か っ た 雲 が 細 く た な びいている(さまは趣がある) 。 夏 は 夜( が 趣 が あ る )。 満 月 の こ ろ は も ち ろ ん 趣 が あ る が、 闇 も や は り ( よ く )、 蛍 が 多 く 飛 び 交 う( さ ま も よ い )。 ま た、 ( 蛍 が ) ほ ん の一つ二つなど、かすかに光って行くのも 趣深い 。雨などが降るのも 趣深い。 秋 は 夕 暮 れ( が 趣 が あ る )。 夕 日 が 沈 み か け て 山 の 稜 りよう 線 せん に と て も 近 く な っ た こ ろ に、 か ら す が 巣 に 帰 る と い う の で、 三 羽 四 羽、 ( ま た ) 二羽三羽というふうに飛び急ぐのまでも しみじみとした趣がある 。ま し て 雁 な ど で 列 を な し た の が、 と て も 小 さ く 見 え る の は 実 に 趣 深 い。 日 が 沈 ん で し ま っ て、 風 の 音、 虫 の 音 な ど( が 聞 こ え る の は )、 ま た 言うまでもない。 冬 は 早 朝 ( が 趣 が あ る )。 雪 が 降 っ て い る の は 言 う ま で も な く、 霜 がたいそう白いのも、またそうでなくてもひどく寒いときに、火など を急いでおこして、炭を持って行くのも、たいそう(冬の早朝に) ふ さわしい 。昼になって、生暖かく(寒さも)ゆるんでいくと、火鉢の 火も白い灰が多くなって 見苦しい 。
全
訳
「枕草子」
春はあけぼの
な お、 「 に 」 は、 識 別 に 注 意 が 必 要。 下 に 係 助 詞 や「 あ り・ 侍 り・ おはす」などが続く場合は、断定の助動詞「なり」の連用形。ここで の「に」は下に「あら」が続いているので、断定の助動詞である。 ⑧ 炭 持 て 「 も 」 は、 四 段 活 用 動 詞「 持 つ 」 の 連 用 形「 も ち て 」 が 促 音 便「 も つ て( モ ッ テ )」 に 変 化 し、 さ ら に そ の「 つ 」 が 無 表 記 に な っ た形である。 「て」は、単純接続の接続助詞。 「炭を持って」と訳す。 ⑨ ゆるびもていけ ば 「ば」 は接続助詞。 「いけ」 は四段活用動詞 「いく」 の 已然形 なので、ここでは 順接の確定条件 である。 ○ 未然形+ば → 順接の仮定条件 〈もし…ならば〉 ○ 已然形+ば → 順接の確定条件 〈…なので・…すると〉 ① あ か り て 「 あ か り 」 は 四 段 活 用 動 詞「 あ か る 」 の 連 用 形。 こ の「 あ か り 」 は、 〈 明 る く な る 〉 と い う 意 の「 明 か り 」。 〈 赤 く な る 〉 と い う 意味の「赤り」ではない。 ② 紫だち たる 「たる(たら・たり・たれ) 」は識別が必要。ここは、四 段活用動詞 「紫だつ」 の連用形に接続しているので、 完了の助動詞 「た り」の連体形である。 ○ 連用形 接続→ 完了 の助動詞「たり」 ○ 体言 に接続→ 断定 の助動詞「たり」 ○ 性質や状態を表す漢語 に付く→形容動詞の活用語尾 ③ 雲 の 「の」は格助詞。ここでは主格〈…が〉の働きをしている。 ④ 飛び急ぐ さへ 「さへ」は添加〈そのうえ…までも〉の副助詞。 ⑤ 雁など の 連ねたる 格助詞「の」は、ここでは、上の語と下の語が同 じ も の で あ る こ と を 示 す 同 格 の 働 き を し て い る。 「 雁 な ど で 、 列 を な した 雁 」となる。 ⑥ 見 ゆ る 上 一 段 活 用 動 詞「 見 る 」 と 混 同 し な い こ と。 「 見 ゆ る 」 は 下 二段活用動詞「見ゆ」の連体形で、 〈見える〉の意。 ⑦ 言 ふ べ き に あ ら ず 「 言 ふ 」( 四 段 活 用 動 詞 の 終 止 形 ) +「 べ き 」( 可 能 の 助 動 詞「 べ し 」 の 連 体 形 ) +「 に 」( 断 定 の 助 動 詞「 な り 」 の 連 用形)+「あら」 (ラ行変格活用動詞「あり」の未然形)+「ず」 (打 消の助動詞の終止形) 。「言うまでもない」と訳す。 ▼重要単語チェック▲ □さらなり=①当然で繰り返す必要のないさま ②言うまでもない □なほ=①もとのまま ②やはり ③ますます □をかし=①趣深い ②優れている ③かわいらしい □あはれなり=①しみじみとした趣がある ②かわいい ③気の毒だ □はた=①もしかすると万一 ②とはいうものの ③これもまた □つとめて=①翌朝 ②早朝 □つきづきし=ふさわしい・似つかわしい □わろし=①劣っている ②見苦しい ③みすぼらしい
■文法チェック
枕草子
LS1101HR102BZ–01 虫は、すずむし。ひぐらし。てふ。松虫。きりぎりす。はたおり。わ れから。ひをむし。蛍。 み の む し、 い と ① あ は れ な り 。 鬼 ② の 生 み た り け れ ③ ば 、 親 に 似 て こ れ も お そ ろ し き 心 あ ら ④ む と て、 親 の あ や し き き ぬ ひ き 着 せ て、 「 い ま 秋 風 吹 か ⑤ む を り ⑥ ぞ 来 ⑤ む と す る 。 ま て よ 」 と 言 ひ お き て、 逃 げ て ⑦ い に け る も 知 ら ず、 風 の 音 を 聞 き 知 り て、 八 月 ⑧ ば か り に な れ ば、 「 ち ち よ、 ちちよ」と はかなげに 鳴く。 いみじう あはれなり。 ぬ か づ き 虫 、 ま た あ は れ な り 。 さ る 心 地 に 道 心 お こ し て つ き あ り く ⑨ ら む よ 。 思 ひ か け ず、 暗 き 所 な ど に、 ほ と め き あ り き た る ⑩ こ そ を か しけれ 。 虫 は 松 虫。 ひ ぐ ら し。 ち ょ う。 鈴 虫。 こ お ろ ぎ。 き り ぎ り す。 われから。かげろう。蛍。 (こういった虫がおもしろい。 ) みの虫は、たいへん かわいそうだ 。鬼が生んだので、親に似てこれ も恐ろしい気持ちを持っているだろうというので、親が そまつな 着物 を 着 せ て、 「 も う す ぐ 秋 風 が 吹 く こ ろ に 迎 え に 来 る つ も り だ。 待 っ て いなさい」と言い残して、逃げ 去っ てしまったのも知らないで、秋風 の 音 を 聞 き 知 っ て、 八 月 ご ろ に な る と、 「 ち ち よ、 ち ち よ 」 と 頼 り な げに 鳴く。 たいへん かわいそうである。 こめつき虫は、 また しみじみとした趣がある 。そんな(小さな虫の) 心で信仰心をおこして(額を)つけて(拝んで)歩き回っているのだ ろうよ。思いがけず、暗い所などで、ことこと音をたてて歩き回って いるのは おもしろい 。
全
訳
「枕草子」
虫は
枕草子
○ ばかり →① 程度 〈およそ…ほど・…くらい〉 ② 限定 〈…だけ〉 ⑨ ありく らむよ 「らむ」は、 現在推量の助動詞「らむ」の連体形。 「よ」 は、間投助詞。 「歩き回っているのだろうよ」などと訳す。 ⑩ ありきたる こそ をかしけれ 係り結びの法則。 ○ 係助詞「こそ」の意味→ 強調 ○ 結びの語→文末の形容詞 「をかし」 の 已然形 「をかしけれ」 。「けれ」 の部分を、過去の助動詞「けり」の已然形と解釈しないこと。 ① あはれなり 形容動詞の終止形。活用語尾「なり」の部分を、伝聞・ 推定の助動詞「なり」や、断定の助動詞「なり」と間違えないこと。 ② 鬼 の 「 の 」 は、 主 格〈 … が 〉 を 表 す 格 助 詞。 本 文 四 行 目 の「 親 の 」 の「の」も同じ。 ③ 生みたりけれ ば 「ば」は、 接続助詞。 「けれ」は過去の助動詞「けり」 の 已然形 。したがって、この「ば」は 順接の確定条件 。 ○ 未然形+ば → 順接の仮定条件 〈もし…ならば〉 ○ 已然形+ば → 順接の確定条件 〈…なので・…すると〉 ④ 心あら む 助動詞「む」は、ここでは推量の意味。 ⑤ 吹 か む を り ぞ 来 む 初 め の「 む 」 は 婉 えん 曲 きよく 、 二 つ 目 の「 む 」 は 意 志 の 意 味 で あ る。 ま た、 「 む 」 は 未 然 形 接 続 の 助 動 詞 な の で、 上 接 し て い る「来」は未然形。よって、 「 こ む」と読む。 ⑥ をり ぞ 来むと する 係り結びの法則。 ○ 係助詞「ぞ」の意味→ 強調 ○ 結びの語→文末のサ行変格活用動詞「す」の 連体形 「する」 。 ⑦ いにける 「いに」 は、 ナ行変格活用動詞 「いぬ (去ぬ) 」 の連用形。 「け る」 は過去の助動詞 「けり」 の連体形。 「にける」 の形に引きずられて、 「に」を完了の助動詞「ぬ」の連用形と解釈しないこと。 ⑧ 八月 ばかり 「ばかり」は副助詞。ここでは程度の意味である。 ▼重要単語チェック▲ □あはれなり=①しみじみとした趣がある ②かわいい ③気の毒だ □あやし=①不思議だ ②粗末だ ③身分が低い □いぬ=①去る ②(時が)過ぎ去る ③死ぬ □はかなげなり=頼りなく弱々しい様子 □いみじ=( 「いみじう」は、形容詞「いみじ」の連用形ウ音便) ①非常に ②優れている ③ひどい □をかし=①おもしろい ②趣深い ③優れている ④かわいらしい■文法チェック
LS1101HR103BZ–01 雪 の い と 高 う 降 り た る ① を 、 例 な ら ず 御 み 格 かう 子 し ま ゐ り て、 炭 す 櫃 びつ に 火 お こ し て、 物 語 な ど し て 集 ま り さ ぶ ら ふ に、 「 少 納 言 よ、 香 かう 炉 ろ 峰 ほう の 雪 い か な ら む 」 と 仰 せ ② ら る れ ③ ば 、 御 格 子 上 げ ④ さ せ て、 御 み 簾 す を 高 く 上 げ た れ ば、 笑は ⑤ せ たまふ 。 人 々 も、 「 さ る こ と は 知 り、 歌 な ど に さ へ 歌 へ ど、 思 ひ ⑥ こ そ よ ら ざ り つれ 。 なほ 、この宮の人 ⑦ に は、 ⑧ さべきなめり 」といふ。 雪がたいそう高く降り積もっているのに、いつもと違って 御格 子を下ろし申し上げ て、いろりに火をおこして、よもやま話な どをして(中宮様のもとに私やほかの女房たちが)集まって 伺候して い る と き に、 ( 中 宮 様 が )「 少 納 言 よ、 香 炉 峰 の 雪 は ど の よ う だ ろ う 」 と おっしゃる ので、 (下仕えの者に)御格子を上げさせて、 (私が)御 簾を高く上げたところ、 (中宮様は) お 笑い になる 。 (ほかの)女房たちも、 「そのようなことは(私たちも)知り、和歌 な ど に ま で 歌 う け れ ど も、 ( あ な た の よ う に 行 動 す る こ と は ) 思 い つ き も し な か っ た。 ( あ な た は ) や は り 、 こ の 宮 様 の 女 房 と し て は、 ふ さわしい方であるようだ」と言う。
全
訳
「枕草子」
雪のいと高う降りたるを
枕草子
⑦ こ の 宮 の 人 に は 「 に 」 の 識 別 に 注 意 す る。 こ こ は「 人 」 と い う 体 言 に接続しているので、格助詞もしくは断定の助動詞「なり」の連用形。 断定の意味は文脈に不適切なので、格助詞である。格助詞「に」は資 格〈…として〉を表し、 「この宮様の女房 として は」と訳す。 ⑧ さべきなめり 「さべき」 は、 「さるべき」 の 撥 はつ 音便 「さんべき」 の 「ん」 が無表記になったもの。 「べき」は、適当の助動詞「べし」の連体形。 「なめり」は、 「なるめり」の撥音便「なんめり」の「ん」が無表記 になったもの。 「なる」 は、 断定の助動詞 「なり」 の連体形。 「めり」 は、 推量の助動詞の終止形。 ① 降りたる を 「を」は接続助詞。ここでは、逆接の確定条件。 ○ 連体形+を → 逆接の確定条件 〈…だが・…けれども〉 順接の確定条件・単純接続 〈…ので・…したところ〉 ② 仰せ らるれ ば 「らるれ」 は、 助動詞 「らる」 の已然形。 「少納言よ、 …」 は 身 分 の 高 い 中 宮 の 言 葉 な の で、 こ の「 ら る れ 」 は 尊 敬 の 意 で あ る。 直前の「仰せ」とあわせて、尊敬語の二重使用となっている。 ③ 仰 せ ら る れ ば 「 ば 」 は 接 続 助 詞。 こ こ で は、 助 動 詞「 ら る 」 の 已 然 形 「らるれ」に接続しているので、 順接の確定条件 である。 ○ 未然形+ば → 順接の仮定条件 〈もし…ならば〉 ○ 已然形+ば → 順接の確定条件 〈…なので・…すると〉 ④ 御格子上げ させ て 助動詞 「さす」 の連用形。助動詞 「す」 「さす」 「し む」は、 意味の識別に注意する。 単独 で使われているのでこの「させ」 は 使役 の意。筆者が、下仕えの者などに御格子を上げさせたのである。 ○ 他の尊敬語と一緒に 使われている→尊敬が多い ○ 単独 で使われている→使役 ⑤ 笑は せ たまふ 助動詞「す」の連用形。ここでは、他の尊敬語「たま ふ」と一緒に使われているので、尊敬の意と判断する。 ⑥ 思ひ こそ よらざり つれ 係り結びの法則。 ○ 係助詞「こそ」の意味→ 強調 ○ 結びの語→完了の助動詞「つ」の 已然形 「つれ」 。 ▼重要単語チェック▲ □御格子まゐる=格子をお下げする □さぶらふ=①おそばでお仕えする ②あります □仰す=おっしゃる □たまふ=お…になる・お…なさる □さへ=①その上…までも ②…でさえ ③せめて…だけでも □なほ=①依然として ②やはり ③さらに■文法チェック
LS1101HR104BZ–01 は し た な き も の。 異 こと 人 ひと を 呼 ぶ に、 我 ぞ と さ し 出 い で ① た る 。 物 な ど 取 ら す る を り は ② い と ど 。 お の づ か ら 人 の 上 な ど う ち 言 ひ、 そ し り ③ た る に 、 幼き子ども ④ の 聞き取り ④ て 、その人のあるに言ひ出でたる。 あはれなる ことなど、人の言ひ出で、うち泣きなどするに、げにいと あ は れ な り な ど 聞 き な が ら、 涙 の つ と 出 で 来 ⑤ ぬ 、 い と は し た な し。 泣 き 顔 つ く り、 け し き 異 に な せ ⑥ ど 、 い と か ひ な し 。 め で た き こ と を 見 聞 くには、まづ、ただ ⑦ 出で来にぞ出で来る 。 きまりが悪い もの。別な人を呼ぶのに、自分だと(思って)現 れ出てしまったの。物などを与える場合は ますます (きまりが 悪い) 。たまたま人の身の上などを言い、悪口を言ったところ、 (その 悪口を)幼い子供が聞き覚えて、その人がいるときに言い出したの。 しみじみと悲しい ことなどを、人が言い出し、泣いたりするときに、 本当にとても悲しいことだなどと聞きながら、涙がすぐに出てこない のは、非常にきまりが悪い。泣き顔をつくり、 態度 を違ったように変 える(=しんみりとした態度をとってみる)けれども、たいして 効き 目がない 。 すばらしい ことを見聞きするときには、何はともあれ、た だ(涙ばかりが)どんどんと出てくる。
全
訳
「枕草子」
はしたなきもの
枕草子
⑥ 異になせ ど 「ど」 は接続助詞。四段活用動詞 「なす」 の已然形 「なせ」 に接続している。 ○ 已然形+ど →逆接の確定条件〈…だが・…けれども〉 ⑦ 出で来にぞ出で来る 「に」 は格助詞で、 前後に同じ動詞 (カ変動詞 「出 で 来 」) を 重 ね て 意 味 を 強 め て い る。 現 代 語 の「 泣 き に 泣 く 」 な ど と 同じ用法。また、文末の「出で来る」は、 強調 の係助詞「ぞ」の結び で、 連体形 になっている。 ① さし出で たる 「たる(たら・たり・たれ) 」は識別が必要。この「た る」は、下二段活用動詞「さし出づ」の 連用形 「さし出で」に接続し ているので、完了の助動詞「たり」の連体形。 なお、 連体形で文が終止しているのは、 「たる」のあとに「人」 「の」 などの体言に当たる語が省略されているためである。 ○ 連用形 接続→ 完了 の助動詞「たり」 ○ 体言 に接続→ 断定 の助動詞「たり」 ○ 性質や状態を表す漢語 に付く→形容動詞の活用語尾 ② い と ど 〈 ま す ま す 〉 と い う 意 味 の 程 度 の 副 詞。 こ こ で は、 直 後 に 形 容詞「はしたなし」が省略されていると考える。 ③ そしり たるに 四段活用動詞「そしる」の連用形「そしり」に接続し ているので、 この「たる」は完了の助動詞「たり」の連体形。 「に」は、 接続助詞である。ここは単純接続の意。 ○ 連体形+に →逆接の確定条件〈…だが・…けれども〉 順接の確定条件/単純接続〈…ので・…したところ〉 ④ 子 供 の 聞 き 取 り て 「 の 」 は 格 助 詞 。 こ こ で は 、 主 格 〈 … が 〉 の 働 き 。 「て」は、単純接続の接続助詞。 「子供 が 聞き覚え て 」と訳す。 ⑤ 出 で 来 ぬ 「 ぬ 」 は 識 別 が 必 要 な 語。 こ の「 ぬ 」 は、 カ 行 変 格 活 用 動 詞「出で 来 く 」の 未然形 「出で来」に接続しているので、打消の助動詞 「ず」の連体形である。 ○ 未然形接続 → 打消 の助動詞「ず」の連体形 ○ 連用形接続 → 完了 の助動詞「ぬ」の終止形 ▼重要単語チェック▲ □はしたなし=①中途半端である ②きまりがわるい ③無愛想である □いとど=①ますます ②その上さらに □あはれなり=①しみじみとした趣がある ②かわいい ③気の毒だ □けしき=①態度・顔色 ②機嫌 ③きざし □かひなし=①効き目がない ②仕方がない ③とるに足りない □めでたし=すばらしい・立派だ・すぐれている■文法チェック
LS1101HR105BZ–01 にくき もの。急ぐことある折に 長 なが 言 ごと する 客 まら 人 うと 。あなづりやすき人なら ば、 「 後 のち に 」 と て も ① や り つ べ け れ ど 、 心 恥 づ か し き 人、 い と ② に く く む つかし 。 硯 すずり に 髪 の 入 い り て ③ す ら れ た る 。 ま た、 墨 の 中 に、 石 の き し き し と き し み鳴りたる。 も の う ら や み ④ し 、 身の上嘆き、 人の上言ひ、 露 つゆ 塵 ちり のことも ゆかしがり 、 ⑤ 聞 か ま ほ し う し て 、 言 ひ 知 ら せ ぬ を ば 怨 ゑん じ、 そ し り、 ま た、 わ づ か に 聞き得たることをば、われもとより知りたることのやうに 異 こと 人 ひと にも語り 調 しら ぶるも、いとにくし。 ねぶたしと思ひて 臥 ふ したるに、蚊の 細 ほそ 声 ごゑ にわびしげに名のりて、顔の ほどに飛びありく。 羽 は 風 かぜ ⑥ さ へ そ の 身 の ほ ど に あ る ⑦ こそ 、 いと にくけれ 。 また、物語するに、さし 出 い でして、われひとりさいまくる者。すべて さし出では、 童 わらは も大人も、いとにくし。 にくらしい もの。急ぐことがある時に長話をする客。軽く扱っ て よ い 人 な ら ば、 「 あ と で 」 と 言 っ て 行 か せ て( = 帰 ら せ て ) しまうことができるけれども、 こちらが気おくれするほど立派な 人(の 場 合 ) は、 ( 帰 ら せ て し ま う こ と も で き な い の で ) た い そ う に く ら し く 不快だ 。 硯 に 髪 が 入 っ て す ら れ た の。 ま た、 墨 の 中 に、 石 が( 入 っ て い て ) きしきしときしんで鳴っているの。 (人を)うらやみ、 (自分の)身の上を嘆き、人の身の上を言い(= 噂 うわさ を し )、 ほ ん の ち ょ っ と し た こ と も 知 り た が り 、 聞 き た が っ て、 言 って知らせないのを恨み、非難し、また、ほんの少し聞き得たことを、 自分がもとから知っていることのように他の人にも調子づいて語るの も、たいそうにくらしい。 眠いと思って横になったところに、蚊が細くかすかな声でさびしそ うに鳴いて、顔のあたりに飛び回る。羽風までもその からだ相応 にあ るのが、たいそうにくらしい。 また、話をするときに、でしゃばって、自分ひとりさきばしる(= 話の先回りをする)者。すべてのでしゃばりは、子供も大人も、たい そうにくらしい。