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密教文化 Vol. 1967 No. 82 002上田 霊城「浄厳の三昧耶戒式の構成 P19-29」

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一 覚 彦 浄 厳 ( 一 六 三 九-一七〇二)の 戒 観 の 特 色 は、 真 言 行 者 の 受 戒 は 三 昧 耶 戒 に 始 終 し、 三 昧 耶 戒 の 中 に 顕 密 一 切 戒 を 統 摂 す る と 考 え た 点 に あ る と 思 わ れ、 い わ ば 受 戒 の 密 教 化 を 意 図 し て い た と 思 わ れ る。 こ の こ と は、 延 宝 四 年 ( 一 六 七 六 ) の 自 身 の 自 誓 受 具 は 諸 方 の 律 師 に 同 じ て 西 大 寺 派 の 軌 則 に よ つ て 行 わ れ た に も か か わ ら ず、 そ れ 以 後 諸 門 弟 の 受 戒 に は、 沙 弥 戒 よ り 比 丘 戒 に 至 る ま で 三 昧 耶 戒 の 軌 則 に よ つ て 行 な つ (1 ) た と 言 わ れ て い る こ と よ り も 窺 わ れ る。 そ こ で 浄 厳 以 来 今 日 ま で 一 派 の 人 々 に よ つ て 相 承 さ れ 使 用 (2 ) さ れ て い る 一 三 跡 琢 藏 試 L の 構 成 を 検 討 す る こ と に よ つ て、 浄 厳 の 意 図 し た 受 戒 の 密 教 化 を 探 つ て み た い と 思 う。 二 現 在 野 沢 諸 流 が 用 い る 三 昧 耶 戒 作 法 の 事 作 法 ( 歯 木 ・ 誓 水 (3 ) (4 ) (5 ) 等 ) は 略 出 経 第 四、 大 疏 第 五、 褻 曜 耶 経 召 請 品 辣 択 弟 子 品 等 に 依 つ て 編 さ れ た も の で あ り、 受 戒 作 法 の 部 分 は 不 空 の 受 菩 提 心 戒 儀 と 無 畏 禅 要 が 基 礎 に な つ て い る。 弘 法 大 師 ( 以 下 大 師 と 称 す ) の 戒 儀 も 又 右 二 本 に 依 つ で 編 さ れ た も の で あ る。 大 疏 十 七 に ﹁ 此 経 十 萬 偶 大 本。 具 有 授 此 戒 等 方 便。 今 未 到 (6 ) 此 土。 然 金 剛 頂 中 自 有 授 法。 與 彼 不 殊。 當 出 之 耳 ﹂ と 説 か れ て い る こ と に よ り、 古 来 東 密 で は 金 剛 頂 系 の 受 戒 作 法 を 以 て 金 胎 両 部 灌 頂 時 に 通 用 す る 作 法 と 考 え る。 そ こ で 水 尾 の 玄 静 (7) が ﹁ 水 尾 灌 頂 式 し を 作 つ て 胎 蔵 界 の 受 戒 作 法 と な し た こ と は 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

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-19-密 教 文 化 典 拠 な し と、 弘 融 ( 一 三 三 七代)や栄 海 ( 一 二 七八-一三 四 七 ) (8 ) の 難 じ る 所 と な つ て い る。 そ こ で 不 空 の 戒 儀 と 禅 要 を 比 較 す る に 受 戒 作 法 に つ い て も 可 成 り 相 違 し て い る。 戒 儀 が 帰 命。 運 心 供 養。 臓 悔。 受 三 帰。 受 菩 提 心 戒 の 五 門 で 終 つ て い る の に 対 し 禅 要 は、 更 に 問 遮。 請 師。 掲 磨。 結 戒。 四 摂。 十 重 戒 と 続 け て 計 十 一 門 の 構 成 を 持 ち、 十 重 の 説 相 終 つ て ﹁ 巳 受 三 聚 浄 戒 寛 ( 中 略 ) 前 錐 (9 ) 受 菩 薩 浄 戒 今 須 重 受 諸 佛 内 謹 無 漏 清 浄 法 戒 ﹂ と 述 べ て 三 昧 耶 戒 の 真 言 以 下 四 真 言 を 説 き ﹁ 是 名 真 法 戒 也 ﹂ と 結 ぶ。 帰 命 よ り 十 重 戒 ま で の 十 一 門 は 三 聚 戒 謁 磨 を 中 心 と す る 受 菩 薩 戒 作 法 で あ り、 四 真 言 が 三 昧 耶 仏 戒 で あ る と い う 二 重 受 戒 の 方 式 を 考 え て い る の が 禅 要 で あ る。 こ れ に 対 し 戒 儀 が 発 菩 提 心 の 真 言 を 受 け て 終 る こ と は、 発 菩 提 心 が 三 昧 耶 戒 成 就 と い う 考 え 方 で あ り、 菩 薩 の 三 聚 戒 受 戒 を 欠 く 一 重 式 で あ る。 三 聚 戒 を 欠 く こ と に つ い て、 三 聚 戒 と は 二 利 の 行 で あ り 菩 提 心 中 に は 二 利 を 含 む 故 に 菩 提 心 の 一 戒 に て 三 聚 戒 受 戒 を 含 む と み る (10) 説 も あ る が、 む し ろ、 三 昧 耶 戒 以 前 に 菩 薩 戒 及 び 小 戒 受 戒 の 段 階 を 予 想 し て い る の が 不 空 の 戒 儀 で は あ る ま い か。 禅 要 の 二 重 式 に 言 及 し て シ ン ジ ャ 要 秘 砂 は、 因 位 の 戒 と 仏 果 の 戒 に (11) (12) 分 け、 ゲ ン ビ ラ 紗 は 因 果 二 分 及 び 発 心 ・ 修 行 の 二 位 に 解 し、 法 明 ( 一 七 〇 六 -一 七 六 三 ) は 有 為 前 方 便 戒 と 無 為 正 真 法 戒 と (13) 解 し て い る。 大 師 の ﹁ 秘 密 三 昧 耶 仏 戒 儀 ﹂ は 不 空 の 戒 儀 と 禅 要 を 典 拠 に し て 編 さ れ た も の で あ る が、 十 重 戒 の 説 相 を 以 て 終 り、 三 昧 耶 戒 等 の 四 真 言 を 説 か な い。 あ く ま で 三 聚 戒 掲 磨 が 受 戒 の 中 心 に な つ て い る。 こ れ は 三 聚 掲 磨 を 禅 要 の 如 く 有 為 戒 と は 考 え ず に、 形 式 は 有 為 菩 薩 の 受 戒 で は あ つ て も、 密 意 に よ つ て 無 漏 三 昧 耶 戒 で あ る と 考 え ら れ た 結 果 で あ る。 顕 の 三 聚 戒 即 三 昧 耶 仏 戒 と い う 考 え 方 は、 三 昧 耶 戒 序 に 窺 わ れ る。 即 ち 秘 シ ノ ヲ ス ノ 密 三 摩 耶 仏 戒 と は 三 種 菩 提 心 で あ り ﹁ 検 二 知 自 身 心 一教 二 化 他 ヲ (14) 衆 生 こ る 二 利 行 で あ り、 行 願 心 の 中 に は 三 聚 戒 を 含 む こ と (15) テ ヲ ス ル カ ヲ ニ ニ レ ノ ヲ シ を 指 摘 さ れ、 ﹁ 以 二 深 般 若 一 観 二 無 自 性 一 故 自 然 離 二 一 切 悪 一 修 二 ノ ヲ ス ノ ヲ チ レ シ テ シ ル コ ト (16) 一 切 善 一饒 二 益 自 他 衆 生 一即 是 三 聚 妙 戒 具 足 無 レ 歓 一 と 述 べ ス ル コ ト モ て 勝 義 心 の 中 に も 三 聚 戒 を 具 足 す る こ と を 指 摘 し、 ﹁ 住 二 秘 ノ ニ シ ノ (17) 密 三 摩 地 一亦 復 如 レ 是 ﹂ と 述 べ て 三 摩 地 心 も 亦 三 聚 戒 を 具 足 す る こ と を 暗 示 す る。 三 種 菩 提 心 が 各 々 三 聚 戒 を 具 す と い う こ と は、 三 昧 耶 戒 が 三 聚 戒 で あ る と 考 え ら れ た こ と で あ り、 一 (18) 方 三 昧 耶 戒 と は 心 仏 衆 生 三 平 等 の 一 心 で あ る と 言 わ れ る こ と

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と 考 え 合 わ せ る と、 大 師 の 仏 戒 儀 に 説 く 三 聚 謁 磨 は、 顕 式 受 戒 の そ れ で は な く、 密 乗 菩 薩 不 共 の 三 聚 と 受 取 ら れ て い る よ う で あ る。 浄 厳 の 戒 式 は 禅 要 の 二 重 受 戒 の 構 成 を 持 つ て い る。 三 昧 耶 戒 の 単 受 作 法 に よ つ て、 顕 密 一 切 戒 を 総 受 せ ん と し た 浄 厳 の 意 図 が、 禅 要 の 二 重 式 に よ つ て 実 現 出 来 る と み た か ら で あ ろ う か。 不 空 の 戒 儀 や 大 師 の 仏 戒 儀 は 共 に 小 戒 或 は 菩 薩 戒 の 前 受 を 予 想 し て い る 無 為 戒 の 一 重 受 式 で あ る。 大 師 は、 三 昧 耶 戒 以 前 に 東 大 寺 戒 壇 に 於 け る 受 具 足 戒 の 必 要 を 遺 告 さ れ て い (19 ) る 。 小 野 六 帖 に 説 く 三 昧 耶 戒 作 法 は 安 流 や 中 院 の 作 法 の 典 拠 で あ る が、 禅 要 の 二 重 式 を 取 り な が ら 混 乱 が あ る。 即 ち 三 聚 鵜 (20) 磨 の 前 の 啓 白 文 に 一 某 甲 等 於 我 所 嚢 菩 薩 心 求 佛 性 三 昧 耶 戒 ﹂ と あ る の は 大 師 と 同 様 三 聚 戒 を 仏 性 戒 と 考 え て い る 筈 で あ る の に、 後 に 禅 要 所 説 の 四 真 言 を 出 す の は 無 為 戒 を 二 重 に 受 戒 す る こ と に な り、 三 聚 戒 と 三 昧 耶 戒 と の 関 係 に 曖 昧 さ が あ る。 又 元 呆 の ﹁ 伝 法 灌 頂 三 昧 耶 戒 式 ﹂ は 三 宝 院 諸 流 の 用 い る 所 で あ る が、 禅 要 を 典 拠 と す る 二 重 式 の よ う に 見 え て 実 は 初 重 の 三 聚 掲 磨 が な い。 ﹁ 今 正 至 得 戒 之 時 佛 子 至 心 可 聴 賜 磨 若 欲 受 佛 性 三 昧 耶 戒 先 可 発 無 上 之 心 無 上 之 心 者 持 五 篇 七 聚 三 聚 四 重 十 無 蓋 戒 也 其 三 聚 戒 者 摂 律 儀 戒 摂 善 法 戒 饒 益 有 情 (21 ) 戒 也 五 篇 七 聚 老 貝 足 戒 也 是 等 藏 登 壇 得 藏 之 時 巷 持 耳 ﹂ と 述 べ 次 に 四 重 十 重 戒 相 を 説 き 次 に ﹁ 可 受 持 仏 性 戒 之 時 正 来 ﹂ と し て 禅 要 の 四 真 言 を 出 す。 三 聚 通 受 の 掲 磨 と い う の は 喩 伽 ・ 地 持 ・ 理 略 等 の 掲 磨 文 を 典 拠 と し 三 説 す る の が 通 規 で あ る。 つ ま り 小 律 の 白 四 掲 磨 の 形 を 止 め て い る の で あ る。 こ の 意 味 で 延 命 院 式 に は 翔 磨 が な い。 三 聚 及 具 足 戒 は 既 に 以 前 に 登 戒 壇 得 戒 と 考 え る 点 で 大 師 と 同 じ く 小 ← 大 ← 密 の 重 楼 受 戒 説 で、 こ こ で は そ の 密 戒 を、 三 昧 耶 戒 等 の 四 真 言 を 受 け る 形 で 受 戒 す る 一 重 式 で あ る。 小 野 六 帖 や 元 呆 式 が 同 じ く 禅 要 所 説 に よ つ て い て も、 浄 厳 の 意 図 す る 所 と 同 じ で は な い。 何 れ も 重 楼 受 戒 を 予 想 し て い る。 そ れ な ら ば 大 師 の 如 き 一 重 式 に す べ き で あ る の に あ え て 三 昧 耶 戒 等 の 真 言 を 説 く 所 に、 密 戒 は 具 体 的 な 戒 相 を 離 れ て 叩几 術 化 し、 受 戒 は 功 徳 を 積 む た め と い う 傾 向 が 見 ら れ な い だ ろ う か。 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

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-21-密 教 文 化 三 浄 厳 の ﹁ 三 昧 耶 戒 式 ﹂ は 次 の よ う な 構 成 を も つ。 日 受 者 加 持 (二) 立 列 日 大 阿 登 壇 四 引 入 受 者 (五)諸 衆 三 礼 (六) 塗 香 (七) 受 者 護 身 囚 香 水 (九) 四 仏 加 持 等 (一0)振鈴 口 金 剛 線 (三) 乞 戒 頒 国 法 要 圓 礼 仏 田 説 三 昧 耶 (一六) 帰 命 (一七) 運 心 供 養 伺 俄 悔 田 受 三 帰 (二0)受菩 提 心 戒 昌 問 遮 目 請 師 目 掲 磨 (二 四 ) 四 摂 (二五) 四 障 (二六) 四 波 羅 夷 (二 七) 十 重 戒 尉 無 漏 清 浄 法 戒 昴 啓 白 (三0)告受 者 日 叩几 願 目 受 者 供 養 圏 歯 木 園 金 剛 線 (三 五 ) 誓 水 (三六) 告 受 者 (三七) 受 者 出 幕 (三八) 大 阿 解 界 下 座 岡 表 白 師 作 法 (四0)諸衆 退 出 今 (一六) 帰 命 よ り (三 一 ) 叩几 願 ま で の 受 戒 作 法 に つ い て 考 究 し そ の 前 後 の 事 作 法 に つ い て は 触 れ な い。 事 作 法 は 安 流 の 伝 法 灌 頂 三 昧 耶 戒 作 法 に 準 拠 し て 編 さ れ て い る。 面-︹日は 全 文 不 空 の 戒 儀 を 採 用 し 全 収 し て い る。 た だ 各 門 に 真 言 と 共 に 金 剛 合 掌 の 印 を 説 く の は 浄 厳 の 戒 式 の 特 色 で、 こ れ は 儀 軌 に 基 づ い て い る こ と を 真 常 ( 一 七 一 九-一八〇二) (22) も 指 摘 し て い る。 禅 要 は 真 言 も 説 か な い。 不 空 の 戒 儀 大 師 の 仏 戒 儀 は 共 に 真 言 だ け を 説 く。 浄 厳 の こ の 特 色 は 尉 の 四 真 言 に も 現 わ れ る。 弘 融 は 三 昧 耶 戒 場 で は 印 を 秘 す の が 深 理 で あ (23) る と 言 つ て い る が、 浄 厳 は 古 来 の 作 法 に 違 し て ま で 真 言 の あ る 所 に 必 ず 印 を 説 く の は 身 口 意 の 三 密 相 応 を 重 ん ず る 現 れ で あ る。 (24) 伺 に 説 く 臓 悔 滅 罪 の 真 言 は、 大 日 経 に は オ ム サ ラ バ ハ ン バ ヘ ヘ ヘ ソ ホ タ ダ カ ナ ウ バ ザ ラ ア ヤ ソ バ カ と な つ て お り 延 命 院 式 及 び そ の 系 統 は 何 れ も こ の 通 り で あ る。 受 菩 提 心 戒 儀 に は ソ ホ タ (25 ) の 句 が な い。 小 野 六 帖 及 び そ の 系 統 も ソ ホ タ の 句 を 欠 く。 浄 厳 の 戒 式 は 大 日 経 に よ つ て い る。 目 の 弟 子 某 甲 一 切 菩 薩 ○ ○ ○ ○ ○ 三 マ ゥ サ ク と 訓 ず る の は 浄 厳 の 伝 で あ る (26) (27 ) と 性 寂 や 真 常 が 指 摘 し て い る。 小 野 六 帖 は ﹁ 與 諸 菩 薩 衆 ﹂ と な つ て お り ﹁ ト ト モ ニ ﹂ と 同 学 伴 侶 の 意 に 訓 じ、 浄 厳 は 能 礼 の 義 に 訓 じ て い る こ と に な る。 禅 要 が こ こ に 発 菩 提 心 の 真 言 を 説 か な い の は 後 に 三 昧 耶 戒 等 の 四 真 言 を 説 く 中 の 第 二 に こ の 真 言 を 出 す 故 で あ ろ う。 小 野 六 帖 も 出 さ な い。 不 空 の 戒 儀 が こ れ を 説 く の は、 こ の 真 言 を 無 漏 戒 と な す 一 重 式 の 故 で あ る。 大 師 の 仏 戒 儀 が こ こ に 説 く の は 後 に 出 さ な い 故 で あ ろ う が 無 漏 戒 の 意 味 で は な い。 延 命 院 式 が 此 処 と 後 の 四 真 言 の 第 二 と の ニ ケ 所 に 此 の 真 言 を 出 (28) す こ と は 一 未 レ 得 二 其 口 伝 こ と 栄 海 は 述 べ て い る が、 浄 厳 も 又 延 命 院 式 と 同 じ く 前 後 二 所 に 説 く。 恐 ら く 受 菩 提 心 戒 儀 を

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全 面 採 用 し た 結 果、 こ こ に こ の 真 言 を 説 く こ と に な り、 更 に 禅 要 の 二 重 式 を 採 用 し た 為 に 四 真 言 を 出 し、 そ の 第 二 に 発 菩 提 心 の 真 言 を 再 び 説 く 結 果 と な つ た の で あ ろ う。 昌 小 野 六 帖 の 系 統 に は 問 遮 が な い の は 大 師 の 仏 戒 儀 に な ら つ た も の で あ ろ う。 仏 戒 儀 に 問 遮 が な い の は、 こ の 作 法 が 伝 法 受 明 結 縁 に 通 用 す る 三 昧 耶 戒 作 法 で あ り、 結 縁 の 人 は 器 非 器 を 撰 ば ず 受 戒 入 壇 さ せ る 立 前 か ら、 七 逆 な ど を 問 わ な い の (29) が 大 師 の 意 で あ ろ う と い う 推 論 が あ る。 梵 網 軽 戒 の 摂 化 漏 失 戒 に は ﹁ 汝 現 身 に 七 逆 罪 を 作 さ ざ る や い な や ﹂ と 問 い、 七 逆 者 に は 現 身 に 授 戒 し て は い け な い と 言 (30) い 又 得 戒 せ ず と 註 き、 悪 求 弟 子 戚 の ヰ に は、 塑 十 戒 犯 匹 十 ハ (31 ) 軽 戒 者 の 臓 悔 を 説 く が ﹁ 七 遮 に 同 じ か ら ず ﹂ と 述 べ て、 七 逆 者 だ け は 臓 悔 罪 滅 を 認 め て い な い。 禅 要 は 梵 網 経 と 同 じ く 七 逆 を 問 い 七 逆 者 に は 授 戒 す べ か ら ず と 言 い つ つ、 一 七 日 二 七 日 乃 至 一 年 繊 悔 し て 好 相 を 得 れ ば 得 戒 す る こ と を 認 め 七 逆 者 (32) も 対 衆 発 露 臓 悔 す れ ば、 重 罪 消 滅 得 清 浄 身 と な す。 浄 厳 の 戒 式 は ﹁ 若 有 三 現 身 造 二 七 逆 一 者 不 レ 鷹 レ 授 二 與 菩 薩 大 戒 一﹂ と 記 し 次 い で 殺 父 以 下 の 七 逆 を 問 う の み で 臓 悔 に は 言 及 し な い。 こ れ は 禅 要 よ り は む し ろ 梵 網 の 意 を 用 い た も の と 思 わ れ る。 大 師 の 意 は 禅 要 を 更 に 進 め た も の で あ る。 優 婆 塞 (33) 戒 経 に は ﹁汝 非 二 形 人 ﹂ 等 の 十 五 遮 難 を 問 う が、 浄 厳 は ﹁ 彼 依 レ 成 二 優 婆 塞 性 一 鯛 何 者 二 形 等 無 下 近 二 事 比 丘 比 丘 尼 哺 之 用 上 故 (34) 今 唯 用 レ 問 二 七 遮 一者 約 二 体 性 一 言 レ 成 二 戒 体 一也 ﹂ と 述 べ て、 戒 体 の 得 不 得 を 問 題 に す る 場 合 に は 七 遮 を 問 う だ け で よ い と い う 考 え を 表 明 し て い る。 目 請 師 に つ い て、 梵 網 経 は 現 前 二 師 ( 和 上 と 阿 闇 梨 ) の 受 (35) (36 ) 戒 を 説 き、 喩 伽 論 は 現 前 一 師 の 受 戒 を 説 く。 義 寂 疏 は こ の 二 説 を 釈 し て 梵 網 に 請 ず る は 和 上 と 掲 磨 阿 闇 梨 で あ り、 喩 伽 に 翔 磨 師 の み を 請 じ て 和 上 を 請 じ な い の は ﹁ 當 是 預 請 為 二 親 教 師 一 是 故 不 レ須 二 臨 レ 受 方 請 一或 即 一 人 具 兼 二 両 事 一謂 作 二 和 上 及 阿 (37) 匿 梨 一 是 故 彼 文 不 二 別 請 一 也 ﹂ と 解 し、 二 師 一 師 受 戒 を 共 に 認 め て い る。 喩 伽 論 記 は ﹁ 問 日 何 故 聲 聞 十 師 菩 薩 唯 一 答 聲 聞 戒 (38) 因 二 力 弱 一 須 レ 假 二 強 縁 一 故 須 二 十 師 一 菩 薩 之 人 菩 提 心 強 一 師 良 得 ﹂ と 述 べ て、 菩 薩 の 受 戒 は 現 前 一 師 で よ い と み て い る。 善 戒 経 一 巻 本 に は ﹁ 師 有 二 二 種 二 可 見 二 不 可 見 不 可 見 者 十 方 諸 佛 菩 薩 僧 是 可 見 者 我 身 是 於 二 可 見 不 可 見 師 邊 一是 人 得 レ (39 ) 戒 寛 ﹂ と 述 べ て 可 見 不 可 見 の 二 師 受 戒 説 を 出 す。 九 巻 本 善 戒 経 に な る と ﹁ 若 従 二 師 及 和 上 邊 一受 二 得 戒 一者 不 レ 名 二 菩 薩 戒 一 若 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

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密 教 文 化 (40) 従 二 十 方 佛 菩 薩 邊 哺所 二 受 得 一者 乃 名 二 菩 薩 戒 一﹂ と 明 言 す る。 不 可 見 の 仏 菩 薩 を 請 じ て 受 戒 す る の が 菩 薩 戒 で あ る と い う 考 え 方 で あ る。 大 乗 本 生 心 地 観 経 に な る と 現 前 伝 戒 師 と 不 可 見 の 五 師 を 具 (41) 体 的 に 説 く よ う に な る。 仏 説 観 普 賢 菩 薩 行 法 経 に は 冥 ( 不 可見)の五師 を 説 い て 現 (42) 前 師 を 用 い ず と 言 い 謁 磨 を 白 せ ず と い ケ。 そ の 冥 の 五 師 と は、 釈 迦 を 和 上 と し 文 珠 を 阿 闇 梨 と し 弥 勒 を 教 授 師 と し 十 方 諸 仏 を 証 戒 師 と し 大 徳 諸 菩 薩 を 伴 侶 と す る も の で あ る。 こ の 冥 の 五 師 説 が 後 世 の 通 受 式 に 採 用 さ れ て い く。 禅 要 は 普 賢 観 経 の 冥 の 五 師 を 説 き つ つ、 弥 勒 を 説 か ず 四 師 に な つ て い る。 曇 寂 ( 一 六 七 四-一七四二)は ﹁ 禅 要 は 何 が 故 (43) に 此 の 一 法 を 閾 く や ﹂ と 言 う。 慧 光 と 性 寂 は 漏 脱 と 考 え 真 常 は 略 摂 と み る。 (44) 叡 尊 の 三 聚 通 受 の 法 則 は 善 戒 の 現 不 現 の 二 師 受 戒 説 を 採 用 し、 そ の 乞 戒 詞 が 現 前 師 を 請 ず る 為 の 詞 で あ り、 次 の 請 冥 五 師 が 不 現 前 の 五 師 を 請 ず る も の で あ る 。 冥 の 五 師 は 全 く 普 賢 観 経 の 説 に よ つ て い る。 延 命 院 式 も 又、 西 大 寺 派 の 通 受 式 と 同 様 現 不 現 の 二 師 を 請 (45) ず る。 略 出 経 第 四 の 文 意 を と つ て 結 頒 し た ﹁ 乞 戒 ノ 頒 ﹂ が 現 前 師 を 請 ず る 為 の も の で あ り、 問 遮 の 次 の 請 師 に 不 現 前 の 五 師 を 請 ず る。 冥 の 五 師 は 普 賢 観 経 の 説 に よ り つ つ、 釈 迦 を 大 日 に 改 め、 同 侶 に 金 剛 薩 垣 等 の 一 切 秘 密 行 の 菩 薩 を 請 ず る よ う に 改 め て い る の は 密 教 化 の 現 れ で あ る 。 浄 厳 の 戒 式 が 請 師 に 於 て は 全 面 的 に 延 命 院 式 を 採 用 し て い る の は、 そ れ が 顕 式 を 密 教 化 し た 形 に な つ て い る か ら で あ る。 小 野 六 帖 は 楡 伽 の 如 く 現 前 一 師 の 受 戒 で あ る。 冥 の 五 師 を 請 じ な い こ と に つ い て ゲ ン ビ ラ 紗 は、 乞 戒 頗 に 於 て 現 前 師 に 対 し て 大 日 金 薩 等 の 観 想 を な す べ き で ﹁ 是 可 見 不 可 見 不 二 隔 (46) 別 一 生 佛 不 二 深 秘 之 観 心 也 ﹂ と 解 し て い る。 目 三 聚 通 受 の 翔 磨 を 乗 す る こ と に よ つ て 顕 密 一 切 戒 を 総 受 し ( 摂 律 儀 に 七 衆 戒、 摂 善 法 戒 饒 益 有 情 戒 に 梵 網 喩 伽 及 び 四 重 十 重 等 の 密 戒 を 摂 す ) 尉 の 無 漏 戒 に 於 て 三 昧 耶 戒 の 翔 磨 を 重 ね て 乗 す る と い う の が 浄 厳 の 二 重 式 の 構 成 で あ る。 三 聚 通 (47) (48) (49) 受 の 謁 磨 文 は も と 喩 伽 論、 地 持 経、 本 業 経 に 出 て い る。 菩 薩 (50) 戒 謁 磨 文 は 玄 奨 が 鍮 伽 の 菩 薩 地 中 よ り 謁 磨 だ け を 別 出 し た も (51) の 故 両 者 同 文 で あ る。 西 大 寺 派 の 従 他 授 戒 作 法 の 掲 磨 文 は 喩

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伽 の 掲 磨 を 用 い る。 た だ ﹁ 従 今 身 蓋 未 来 際 於 其 中 間 不 違 失 能 持 否 答 云 能 持 ﹂ の 文 は 喩 伽 に な く、 本 業 経 の 文 を 取 入 れ た の (52 ) か も 知 れ な い。 西 大 寺 派 の 自 誓 受 戒 作 法 は 楡 伽 巻 四 十 一 の 自 (53) 誓 受 謁 磨 文 を 全 文 用 い る。 安 流 中 院 流 西 院 流 大 伝 法 院 流 等 の 三 昧 耶 戒 作 法 は 何 れ も 喩 伽 の 従 他 掲 磨 文 を 採 用 す る。 喩 伽 ・ 地 持 ・ 本 業 の 掲 磨 は 何 れ も 大 乗 化 さ れ て い る が、 な お 掲 磨 の 前 に 受 者 に 告 げ る 文 を 置 き、 掲 磨 を 三 唱 す る 形 式 を 用 い て 小 律 の 白 四 掲 磨 の 形 式 を 止 め て い る の で あ る が、 禅 要 は 掲 磨 文 に 続 い て 結 戒 門 を も う け る こ と に よ つ て 一 層 小 律 の 形 式 を 止 め る。 今 一 例 と し て 曇 無 徳 律 部 雑 掲 磨 に よ る に、 ﹁大 徳 僧聴⋮⋮中略⋮⋮白如 是 ﹂ ま で が 一 白 に 当 り 続 い て ﹁ 大

僧聴⋮中略⋮誰不忍者

(54) 甲 受 具 足 戒 寛 和 上 某 甲 僧 忍 黙 然 故 是 事 如 是 持 ﹂ の 誰 不 忍 者 説 ま で を 三 説 反 復 す る の が 三 掲 磨 で あ り、 以 下 是 事 如 是 持 ま で を 一 唱 す る の が 通 収 の 語 で あ る。 禅 要 の 結 戒 門 は こ の 通 収 の (55) 語 に 当 る。 但 し 通 収 の 語 も 又 三 説 と な す の は 小 律 を 誤 解 し て い る。 大 師 の 仏 戒 儀 は 一 部 語 句 を 改 め る だ け で 禅 要 の 掲 磨 を と り、 結 戒 門 を 分 出 し な い で 掲 磨 の 後 に 続 け 一 説 と 改 め た こ と は、 白 四 掲 磨 の 形 式 に よ り 近 づ い た こ と に な る。 不 思 議 に 思 わ れ る の は、 三 聚 戒 の 順 序 を 摂 律 儀 戒 ・ 饒 益 有 情 戒 摂 善 法 戒 と 転 倒 し て い る こ と で あ る。 禅 要、 喩 伽 等 は 律 儀 善 法 有 情 の 順 に す る の が 通 例 で あ る。 又 掲 磨 の 終 り が ﹁ 始 従 今 日 蓋 未 来 際 ﹂ と な つ て い る の は 禅 要 に は 不 説 で あ る。 小 乗 が 一 期 を 限 量 と す る 戒 で あ る の に 対 し、 尽 未 来 際 を 期 す 大 乗 戒 の 特 色 を 大 師 は 現 わ さ れ た の で あ ろ う。 大 師 の 仏 戒 儀 の 掲 磨 文 を ご く 一 部 ( 此 諸 仏 子 等 を 此 仏 子 某 甲 ) 改 め た だ け で 三 聚 戒 の 順 序 も 転 倒 し た ま ま 採 用 し て い る の が 叡 尊 の ﹁ 伝 法 灌 頂 三 昧 耶 戒 詮 要 私 記 ﹂ で あ る。 こ の 作 法 は 他 は 凡 て 延 命 院 式 に よ り な が ら 掲 磨 だ け は 大 師 の 仏 戒 儀 に よ つ て い る。 延 命 院 式 に は 三 聚 の 掲 磨 を 欠 く こ と を 看 取 し た 結 果 と 思 わ れ る。 浄 厳 の 戒 式 の 掲 磨 は 全 文、 詮 要 私 記 の 通 り で あ る。 従 つ て 大 師 に 典 拠 し た と 考 え て も よ い。 た だ 三 聚 戒 の 順 序 だ け は 通 例 の 順 序 に も ど し て い る。 今 一 つ 浄 厳 の 掲 磨 に は 禅 要 や 仏 戒 儀 は 勿 論、 喩 伽 ・ 本 業 に も な い 告 弟 子 の 和 辞 が あ る。 即 ち 第 一 掲 磨 を 唱 え 了 て 受 者 に 告 げ る 和 辞 と 第 二 の 掲 磨 了 て 受 者 に 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

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密 教 文 化 告 げ る 和 辞 で あ る。 三 掲 磨 の 間 に 和 辞 を 入 れ る 形 式 は、 前 引 の 曇 無 徳 律 部 雑 掲 磨 を 始 め 小 律 の 白 四 掲 磨 十 師 受 戒 に は 見 当 ら な い。 西 大 寺 派 の 通 受 式 に は 出 て く る が 文 言 が 浄 厳 の 戒 式 (56 ) と 大 い に 異 な つ て い る。 実 範 の ﹁ 東 大 寺 戒 壇 院 受 戒 式 ﹂ は 十 師 に よ る 別 受 作 法 で あ る が、 こ こ に 採 用 さ れ て い る 和 辞 が 浄 厳 の も の に 非 常 に よ く 似 て い る。 四 分 律 行 事 紗 に 明 か さ れ て (57 ) い る 掲 磨 間 の 和 辞 が、 二、 三 の 語 句 以 外 は 全 く 浄 厳 の そ れ と 同 文 で あ る こ と に 気 付 く。 行 事 紗 に ﹁ 救 摂 三 有 衆 生 ﹂ と あ る の を 浄 厳 は ﹁ 救 摂 無 飴 衆 生 ﹂ と 改 め、 ﹁ 護 持 三 世 仏 法 ﹂ の 句 を ﹁ 護 持 最 上 乗 教 ﹂ と 改 め て い る だ け で あ る。 密 教 化 し な が ら 行 事 紗 を 採 用 し て い る 浄 厳 の 態 度 が 窺 わ れ る と 共 に、 四 分 律 を 始 め 小 律 に は 説 か な い 和 辞 を 行 事 紗 に よ つ て 採 用 し た 処 に 浄 厳 の 行 事 紗 重 視 の 態 度 が 窺 わ れ る。 (二 四)-(二 七 ) は 説 相 で、 浄 厳 の 戒 式 は 全 文 大 師 の 仏 戒 儀 を 典 拠 と し て い る。 但 し 仏 戒 儀 は 四 威 儀 を 余 分 に 説 く 点 が 異 な る。 説 相 の 中、 四 摂 及 十 重 戒 は 禅 要 よ り 具 文 を 引 用 す る。 (58) 大 疏 十 七 に 十 重 戒 の 異 説 を 出 す が 仏 戒 儀 は 禅 要 に 基 づ く。 四 障 は 大 疏 九 に 三 昧 耶 の 四 義 に 違 越 し て は な ら な い こ と を 説 (59 ) く 文 を 典 拠 と す る が 四 障 の 語 は 大 師 の 発 明 で あ る。 四 波 羅 夷 (60) (61) (62) は 大 日 経 具 縁 品、 受 方 便 学 処 品、 略 出 経 巻 四 に 出 す が、 仏 戒 儀 及 び 戒 式 が 直 接 典 拠 と し て い る の は 大 疏 九 の 三 昧 耶 偶 の 釈 (63 ) 文 で あ る。 四 威 儀 は 経 疏 に も 略 出 経 に も 説 か な い 大 師 の 独 創 の よ う に 思 わ れ る。 阿 娑 縛 抄 第 二 ﹁ 三 摩 耶 戒 儀 ﹂ に ﹁ 四 律 (64 ) 儀 ﹂ と し て 説 く 文 が 全 く 大 師 の 四 威 儀 の 説 相 と 一 致 す る。 尉 こ こ に 説 く 戒 式 の 文 及 び 三 昧 耶 戒、 発 菩 提 心、 発 本 覚 種 智 心、 入 秘 密 漫 茶 羅 の 四 真 言 は 禅 要 に 基 づ く。 禅 要 は 印 を 出 さ な い が、 浄 厳 は 之 を 説 く こ と 前 述 の 通 り で あ る。 こ の 印 明 を 以 て 三 昧 耶 戒 の 掲 磨 と 考 え 前 の 三 聚 戒 の 掲 磨 に 対 し て い る こ と は ﹁ 顕 ノ 戒 ハ 大 小 共 二 掲 磨 ヲ 以 テ 授 ク 今 密 ノ 戒 ハ 三 昧 耶 (65 ) 戒 ノ 印 明 即 チ 掲 磨 ナ リ ﹂ と 浄 厳 が 自 ら 語 つ て い る こ と よ り 明 ら か で あ る。 有 為 戒 と 無 為 戒 の 二 重 式 受 戒 に 発 想 し た 浄 厳 の 創 見 と 考 え る べ き で あ ろ う。 梵 網 経 に は 戒 師 の 語 を 解 せ ざ る 者 は 得 戒 せ ず と 説 く こ と よ り、 印 明 の 実 義 を 解 せ ざ る 者 は 三 昧 耶 戒 体 を 発 得 せ ず と い う の が 浄 厳 の 結 論 で あ る。 昴 と 国 は 延 命 院 式 の 文 言 と 同 文 で あ る。 た だ 延 命 院 式 は 啓 白 の 終 り に 告 受 者 文 を 続 け る 点 を 異 と す る。 (三)几願 は 延 命 院 式 の ﹁ 仏 名 ﹂ に 当 り 殆 ん ど 同 文 で あ る。 従 つ て こ れ は 他 流 に 於 て ﹁ 仏 名 ﹂ と 名 付 け て い る も の で あ る。

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延 命 院 式 を 始 め 他 流 の 作 法 に は 仏 名 の 次 に 必 ず ﹁ 回 向 ﹂ が あ (66 ) る。 小 野 六 帖 は 三 昧 耶 戒 等 の 四 真 言 終 つ て ﹁ 所 修 功 徳 ﹂ と あ る の は 回 向 の 意 で あ る。 浄 厳 の 戒 式 に は 回 向 が な い。 大 師 の 仏 戒 儀 は 最 後 に ﹁ 次 可 レ 有 二 廻 向 一 所 修 功 徳 云 云 ﹂ で 終 る。 之 に つ い て 法 明 は 二 本 無 二 此 十 飴 字 一 宜 レ 従 二 彼 本 一此 本 恐 後 (67) 人 所 レ 加 當 レ 付 二 刀 子 一 耳 ﹂ と 判 じ て い る が、 浄 厳 も 又 こ の よ う な 考 え を 持 つ て い た の で は な か ろ う か。 ( 法 明 は 霊 雲 寺 第 四 世 で 浄 厳 の 孫 弟 子 に 当 る 人 で あ る ) 四 以 上、 三 昧 耶 戒 式 の 構 成 を 検 討 す る こ と に よ つ て 浄 厳 の 意 図 し た 受 戒 の 密 教 化 を 探 つ た が、 そ の 戒 体 論 を み る こ と に よ つ て こ の こ と は 一 層 確 あ ら れ る。 紙 数 の 都 合 で 概 観 に 止 め た い。 浄 厳 の 戒 体 論 は ﹁ 三 昧 耶 戒 印 明 等 秘 訣 ﹂ ﹁ 梵 網 経 古 記 撮 要 冠 註 ﹂ の 中 で 展 開 さ れ て い る。 三 平 等 の 一 心 即 ち 菩 提 心 が 三 昧 耶 戒 の 戒 体 で あ る と な す 点 は 大 師 の 継 承 で あ る が、 自 宗 所 立 の 菩 提 心 は 本 有 常 恒 の 実 法 サ ナ ガ ラ で あ り ﹁ 諸 法 直 是 レ 菩 提 心 ﹂ で あ る 故 に、 一 度 三 昧 耶 戒 の 掲 磨 を 乗 し て 戒 体 を 発 得 す れ ば ﹁ 法 界 ノ 万 法 挙 テ 戒 体 ト 成 ル ﹂ と 論 ず る の は 六 大 周 遍 の 法 界 が、 一 法 を も 漏 失 す る こ と な く そ の 場 に 於 て 三 昧 耶 の 戒 体 で あ る と い う こ と に な り、 阿 字 本 (68) 不 生 の 立 場 か ら 論 じ た も の と 思 わ れ る。 こ れ は 大 日 経 及 び 大 (69) 疏 の 意 を 承 け た も の で あ る。 而 も 三 昧 耶 戒 体 は 梵 網 経 の 一 非 青 黄 赤 白 黒 非 色 非 心 非 有 非 無 非 因 果 法 ﹂ の 文 に 尽 く さ れ る と (70) す る の は、 梵 網 経 は 金 剛 頂 経 浅 略 之 行 相 と 言 う 義 訣 の 文 に 基 づ い た こ と と、 大 日 経 の ﹁ 如 来 応 正 等 覚 非 青 非 黄 非 赤 非 白 非 (71) 紅 紫 非 水 精 色 云 々 ﹂ の 文 が 梵 網 経 と 同 旨 で あ る こ と に 着 目 し た の で は な い か と 思 わ れ る が、 梵 網 経 重 視 で あ る と 共 に、 心 地 法 門 も 又 大 日 所 説 の 三 昧 耶 仏 戒 で あ る と し て 自 宗 に 包 摂 せ ん と し た も の で あ る。 三 昧 耶 戒 体 を 本 有 常 恒 の 菩 提 心 と 見 る こ と に よ つ て、 青 黄 等 の 顕 色 に 偏 せ ず、 色 心 不 二 の 故 に 非 色 非 心 で あ り、 万 法 即 戒 体 の 故 に 非 無 で あ り、 万 法 の 外 に 戒 体 な し と み れ ば 非 有 と な り、 因 果 不 二 な る 故 に 非 因 果 で あ る。 梵 網 経 は 否 定 的 表 現 を 用 い る が、 こ れ を 肯 定 の 立 場 か ら 説 け ば、 三 昧 耶 戒 体 と は、 色 ・ 心 で あ り、 有 ・ 無 で あ り、 因 ・ 果 で あ り、 無 表 で あ り、 無 作 で あ る。 つ ま り 顕 の 大 小 権 実 に 談 ず る 戒 体 論 は ノ 凡 て 包 摂 さ れ る。 そ こ で 浄 厳 は 次 の 如 く 詠 嘆 す る。 ﹁ 常 途 大 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

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密 教 文 化 ノ バ ク テ ヲ テ ス ル カ ノ バ ク シ テ ノ ニ 小 乗 談 如 下 認 二 鼻 牙 尾 等 一錯 為 中 大 象 全 身 上 密 教 如 三 白 日 中 カ ニ ル カ ヲ ク ス ノ ノ ヲ ノ フ ニ ル カ ナ へ 明 見 二 大 象 一 普 該 二 彼 諸 教 義 一所 レ 謂 横 統 一 切 佛 教 寒 有 二 所 以 一 レ ハ チ ノ ト ノ ハ テ シ テ ス 乎 哉 然 乃 自 宗 戒 体 與 二 彼 大 小 権 実 一 或 同 或 異 都 混 同 異 髪 存 四 句 ナ シ ス 皆 亡 百 非 都 絶 大 哉 真 言 自 宗 之 戒 体 矣 ﹂ 大 師 は 十 住 心 論 に 於 て 一 切 仏 教 を 位 置 づ け 密 教 に よ つ て 包 摂 せ ん と さ れ た 。 そ れ と 同 じ こ と を 浄 厳 は 、 三 昧 耶 戒 体 論 に 於 て 意 図 し て い た よ う で あ る 。 註 (1)慧光 著 ﹁ 自 誓 受 +必 劉 律 儀 間 訣 ﹂ 七 丁 右 照 遍 著 ﹁ 戒 律 要 義 集 ﹂ 全 集 五 ・ P 四 一 八 (2)浄厳 元 禄 六 年 著 ・ 寛 延 元 年 写 本 河 内 延 命 寺 蔵 内 題 ﹁ 灌 頂 者 受 三 昧 耶 戒 作 法 ﹂ (3)大正 十 八・P二四八下-二五二下 (4)大 正 三 十 九・P六二六中-六二七中 (5)大正 十 八・P七六二-七六三 (6)大正三 十 九 ・ P 七 五 七 中 (7)真言宗 全 書 に 収 載 (8)弘融﹁ シ ン ジ ャ 要 秘 妙 ﹂ 大 仏 全 ・ P 九 八 下 栄 海 ﹁ ゲ ン ビ ラ 鋤 ﹂ 大 仏 全 ・ P 三 二 八 上 (9)大正十 八 ・ P 九 四 四 上 (10)﹁ゲ ン ビ ラ 紗 ﹂ 大 仏 全 ・ P 三 二 三 下 (11)大仏全・P九九上-下 (12)大 仏 全 ・ P 三 六 四 上 (13)﹁秘密 三 昧 耶 仏 戒 儀 資 乗 記 ﹂ 五 丁-六 丁 (14)弘法 大 師 全 集・和五・P二八 (15)右 同・P二七-二八 (16)右同・P一三八 (17)右同・P二八 (18)弘法 大 師 全 集 ・ 和 七 ・ P 三 二 九 (19)右同 ・ P 二 六 五 (20)大正 七 十 八 ・ P-〇二上 (21)写本 流 布 、 教 舜 著 ﹁ 伝 法 灌 頂 私 記 巻 中 ﹂ は 延 命 院 式 に 同 じ (大 正 七 十 八 ・ P 七 六 一 上 ) (22)諸儀 軌 稟 承 録 ( 八 葉 学 会 本 ・ 九 丁 左 ) (23)シン ジ ャ 要 秘 妙 ・ 大 仏 全 ・P-〇〇上 (24)出罪 方 便 真 言 大 正 十 八 ・ P 四 六 中 (25)大正 七 十 八 ・ P-〇一下 (26)性寂 ﹁ 秘 密 儀 軌 随 聞 記 ﹂ 真 言 宗 全 書 三 ・ P 八 上 、 真 常 ﹁ 秘 密 儀 軌 伝 授 口 決 ﹂ 真 言 宗 全 書 十 ・ P-六上 (27)大 正 七 十 八 ・ P-〇二上 (28)ゲ ン ビ ラ 紗 ・ 大 仏 全 P 三 三 五 上 (29)法 明 ﹁ 秘 密 三 昧 耶 仏 戒 儀 資 乗 記 ﹂ 四 一 丁 右 、 真 常 ﹁ 諸 儀 軌 宣 示 承 録 ﹂ 八 葉 学 会 本 一 二 丁 左 (30)大 正 二 十 四・P-〇〇八中-下 (31)右同P-〇〇八下 (32)大 正 十 八・P九四三上-中

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(33)﹁受戒品 第 十 四 ﹂ 卍 蔵 十 七 ・ 二 ・ 二 六 丁 (34)梵網経古 記 撮 要 冠 註 ・ 写 本 河 内 延 命 寺 蔵 (35)大正二 十 四 ・ P 一 〇 〇 八 下 ( 悪 求 弟 子 戒 ) (36)卍蔵 二 十 ・ 六 ・ 一 九 二 丁 左 ( 喩 伽 論 巻 四 十 ) (37)続蔵六十 ・ 一 ・ 一 〇 〇 丁 右 上 ( 義 寂 疏 巻 三 ) (38)続蔵七 十 六 ・ 一 ・ 五 六 丁 左 上 ( 喩 伽 論 記 巻 十 九 ) (39)卍蔵十 七 ・ 一 ・ 五 九 丁 左 下 (40)卍蔵十 七 ・ 一 ・ 三 三 丁 左 (41)卍蔵十 五 ・ 八 ・ 七 一 五-七 一 六 丁 (42)卍蔵十 一 ・ 四 ・ 二 五 丁 右下-左上 (43)﹁伝法 灌 頂 理 記 ﹂ 国 訳 密 教 本 ・ P 五 〇 五 (44)﹁諸授 戒 作 法 ﹂ 真 言 宗 伝 燈 会 発 行 参 照 (45)大正十 八 ・ P 二 四 八 下 (46)大仏 全 ・ P 三 五 〇 上 (47)喩伽論 巻 四 十 ・ 卍 蔵 二 十 ・ 六 ・ 一 九 三 丁 右 上 (48)菩薩地 持 経 巻 五 ・ 卍 蔵 十 七 ・ 一 ・ 八 二 丁 左 上 (49)菩薩理 路 本 業 経 巻 下 第 七 ・ 卍 蔵 十 七 ・ 二 ・ 一 八 三 丁 右 上 (50)卍蔵十 七 ・ 二 ・ 二 一 六 丁 右 上 (51)﹁諸授 戒 作 法 一 秩 ﹂ 真 言 宗 伝 燈 会 本 (52)写本 西 大 寺 蔵 ・ ﹁ 自 誓 受 三 聚 戒 作 法 ﹂ 写 本 河 内 延 命 寺 蔵 は 同 一 本 (53)卍蔵二 十 ・ 七 ・ 一 九 九 丁 右 下 (54)大正二 十 二 ・ P一〇四二下 (55)大正 十 八 ・ P 九 四 三 下 (56)大仏全・ P 二 一三 (57)大正四 十 ・ P 二 九 下-三〇上 (58)大正三 十 九 ・ P 七 五 七 下-七五八上 (59)大正三 十 九 ・ P 六 七 五 上 (60)大正十 八・P一二中 (61)大正十 八 ・ P 四 〇 上 (62)大正十 八 ・ P 二 五 二 中 (63)大正 三 十 九 ・ P 六 七 一 上-下 (64)大仏全 ・ P 九 〇 (65)﹁三昧 耶 戒 印 明 等 秘 訣 ﹂ 写 本 流 布 (66)大正七 十 八 ・ P-〇二下 (67)秘密 三 昧 耶 仏 戒 儀 資 乗 記 七 九 丁 右 (68)具縁品﹁ 住 此 戒 者 以 身 語 意 云 々 ﹂ 大 正 十 八 ・ P 六 上-中 (69)大疏巻 五 ﹁ 此 戒 梵 云 三 聴 羅 云 々 ﹂ 大 正 三 十 九 ・ P 六 二 九 中-下 (70)金剛頂 経 義 訣 ・ 続 蔵 三 十 七 ・ 二 ・ 一 五 八 丁 右 上 (71)大正 十 八・P-下 筆 者 昭 和 二 十 五 年 度 高 野 山 大 学 卒 現 河 内 延 命 寺 住 職 浄 厳 の 三 昧 耶 戒 式 の 構 成

参照

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