頭 頸 部 腫 瘍30(1)1-7,2004
内視 鏡 を補助 的 に使用 した鼻副鼻腔
悪性 腫瘍手術症例 の臨床 的検 討
1)東京 慈 恵 会 医科 大 学付 属 第 三 病 院 耳 鼻 咽 喉 科 2)東京 慈 恵 会 医科 大 学 耳 鼻 咽 喉科 波 多 野 篤1)加 藤 孝 邦2)青 木 謙 祐2) 飯 野 孝2)飯 塚 雄 志2)佐 藤 英 明2) 斉 藤 孝 夫2)森 山 寛2) 論 文 要 旨 進展 した 鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に対 して は 眼 窩 内 容 や 頭 蓋 底 を含 む 腫 瘍 の 一 塊 切 除 に よ る拡 大 手 術 に よ り治 癒 率 が 向 上 した 。 近 年,内 視 鏡 手 術 は副 鼻 腔 の 炎 症 性 疾 患 に対 して か つ て の外 切 開手 術 に比 べ て よ り侵 襲 の 少 な い手 術 と して 広 く行 わ れ そ の 適 応 も拡 大 され つ つ あ る 。 今 回,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に対 して 内 視 鏡 を補 助 的 に用 い た 手術 症 例 を経 験 した 。 腫 瘍 が 固有 鼻 腔 に限 局 し,画 像 検 査 や 内 視 鏡 所 見 よ り安 全 域 を 持 っ た 切 除 が 可 能 な症 例 で は,内 視 鏡 下 切 除 も有 効 で あ る 。 また,様 々な 要 因 の た め に拡 大 手 術 が 行 え ず 縮 小 手 術 と な っ た場 合 に も,内 視 鏡 を用 い る こ とで 副 鼻 腔 深 部 に お い て 明 瞭 で 死 角 の 少 ない 視 野 が 得 られ る た め,外 切 開 を 併 用 す る こ とで 十 分 な ワー キ ン グス ペ ー ス が あ れ ば 深 部 に お け る 操作 に内 視 鏡 を併 用 す る こ と は有 効 で あ る 。 但 し内視 鏡 を 用 い て も周 囲 組 織 を含 め た合 併 切 除 を 安全 で 容易 に す る もの で は な く,内 視 鏡 は そ の 他 の 機 器 と同様 に あ くま で も手術 支 援 装 置 の 一 手 段 と して個 々 の 症例 に応 じて 用 い る べ きで あ る と思 われ る。 Key words:鼻 副 鼻 腔(sinonasal cavity),悪 性 腫 瘍(malignant tumor),内 視 鏡(endoscope),支援 装 置(assistance instrument) は じ め に 頭 頸 部 癌 に対 す る手 術 で は腫 瘍 の 一 塊 切 除 が 重 要 で あ り,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に対 して も頭 蓋 内 外 両 方 向 か らア プ ロ ーチ をす る頭 蓋 底 手 術 に よ り治 癒 率 が 向 上 して い る1)。内視 鏡 下 手術 で は 鼻 副 鼻 腔 の 深 部 に お い て も明 る く死 角 の 少 な い術 野 で の 明視 下操 作 が 可 能 で あ る ため, 内視 鏡 下 鼻 内 手 術 が 炎 症 性 病 変 に対 して 広 く施 行 され て お りその 適 応 疾 患 も良 性 腫 瘍 な どに拡 大 され つ つ あ る2)。 今 回,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に対 して 内視 鏡 を補 助 的 に用 い た手 術 症 例 を経 験 したの で,そ の有 用 性 と問 題 点 につ き 検 討 し報 告 す る。 対 象 症 例1:62歳,男 性 主 訴:鼻 閉 現 病 歴:2000年8月 頃 よ り鼻 閉 あ り,近 医 耳 鼻 科 に て 鼻 ポ リー プ を指 摘 され 紹 介 受 診 す 。 初 診 時 所 見:右 中鼻 甲介 に易 出血 性 で一 部 白 苔 の付 着 した腫 瘍 性 病 変 を認 め た 。 画 像 検 査:CTで は,固 有 鼻 腔 を広 く占拠 し一 部 上 顎 洞 と筋 骨 洞 に軟 部 陰影 を認 め た が骨 破 壊 は み られ な か っ た(図1-a)。MRIで は 中 甲介 に腫 瘍 性 病 変 を認め るが, 節 骨 洞 及 び上 顎 洞 はT2強 調 画 像 で は 高信 号 を 示 し炎 症 性 変 化 と思 わ れ た(図1-b)。 治 療 経 過:中 鼻 甲介 病 変 か らの生 検 に て低 分 化 型扁 平 上 皮 癌 を認 め た ため,2000年10月31日Denker手 術 また は,腫 瘍 の 局 在 と範 囲 に よ って は 内視 鏡 下 手 術 を予 定 して 手 術 を施 行 した。 手 術 時 の 内 視 鏡 所 見 で は腫 瘍 は 中 甲 介 の 先 端 に局 在 し節 骨洞 病変 は炎症性 粘膜 病 変で あ っ た(図1-c)。 内 視 鏡 下 に 外 側 の 節 骨 洞 病 変 と 共 に 中 甲 介基 部 を切 除 す る こ とで 安 全 域 を も った 切 除 が 可 能 で あ り,内 視 鏡 下 鼻 内 操 作 に よ り腫 瘍 摘 出 を 行 っ た 。 術 後 35ヶ 月 経 過 す るが,局 所 再 発 な く経 過 良 好 で あ る(図1-d)。 症 例2:59歳 女性 主 訴:鼻 出 血,鼻 閉 現 病 歴:2000年8月 頃 よ り鼻 出 血 と鼻 閉 あ り,当 科 受 診 す 。 初 診 時 所 見:左 鼻 腔 後 方 か ら上 咽 頭 に か け て易 出血 性 の腫 瘍 性 病 変 を認 め た 。 画 像 検 査:MRIで は後 部 節 骨 洞 か ら上 咽 頭 に か け て 別 刷 請 求 先:〒206-8601 東 京 都 狛 江 市 和 泉 本 町4-11-1 東 京 慈 恵 会 医 科 大 学 付 属 第 三 病 院 耳 鼻 咽 喉 科 波 多 野 篤
図1 症 例1 a鼻 副 鼻 腔CT(冠 状 断) 固 有 鼻 腔 お よ び 一部 節 骨洞 を 占拠 す る軟 部 組織 陰 影(白 矢 印)を 認 め る b副 鼻 腔 造 影MRI(冠 状 断) 中 甲介 を 中心 と した腫 瘍 陰 影(白 矢 印)を 認 め るが 周 囲 へ の浸 潤 傾 向 は認 め な い c鼻 内 内視 鏡 所 見 中 甲介 先 端 に腫 瘤状 の 腫 瘍(白 矢 印)を 認 め る d術 後 副 鼻 腔造 影MRI(冠 状 断) 中 甲 介 基 部 と筋 骨 洞 を含 め て 腫 瘍 の再 発 を認 め ない 鼻 腔 内 に 充満 し鼻 中 隔 を右 側 に 圧 排 す る腫 瘍 性 病 変 を 認 め た が,上 顎 洞 は 二 次 性 の 炎 症 性 変 化 と思 われ た。 治 療経 過:腫 瘍 の 生 検 にて 悪 性 腫 瘍(腺 癌 疑 い)の 病 理 組織 診 断 を得 た た め,結 果 及 び治 療 の必 要 性 を本 人 に 説 明 した が,漢 方 薬 治 療 を希 望 し当科 で の治 療 を拒 否 さ れ た 。2ヶ 月 後,鼻 閉 増 悪 の ため 再 来 した が,腫 瘍 は 増 大 して い た(図2-a)。 放 射 線 治 療68Gyを 施 行 後 腫 瘍 は 縮 小 し周 囲 構 造 物 へ の 浸 潤 性 病 変 は認 め な か っ た が, 鼻 腔 後 方 か ら上 咽 頭 に か け て 腫 瘍 の 残 存 を認 め た(図 2-b)た め,2001年4月19日 外 側 鼻 切 開 の ア プ ロ ー チ と内 視 鏡 を併 用 した腫 瘍 切 除 を行 っ た 。外 側 鼻 切 開 後, 上 顎 洞 前 壁 を 開放 す る と上 顎洞 内 に は腫 瘍 性 病 変 を認 め ず,眼 窩 内 側 壁 の 紙 様 板 と眼窩 骨 膜 の 間 を内 視 鏡 を用 い て 明 視 下 に剥 離 し(図2-c),上 方 に お い て は 紙 様 板 を 頭 蓋 底 近 くに て骨 折 させ,外 側 の 切 除 縁 を決 定 した 。 鼻 内 よ り内視 鏡 を用 い て観 察 しな が ら メス 及 び勇 刀 を上 顎 洞 側 よ り刺 入 して 鼻腔 外 側 壁 の 前 お よ び下縁 を切 断 した 。 鼻 腔 前 壁 の切 除縁 を上 方 に延 長 し,中 鼻 甲介 基 部 も切 断 す る こ とで鼻 腔 外 側 壁 が 開 放 され,鼻 内 及 び外 側 鼻 切 開 部 両 方 か らの ア プ ロ ーチ が 可 能 と な っ た 。外 側 鼻 切 開 に よ りワ ー キ ン グス ペ ー スが 広 くと れ る た め,深 部 操 作 に お い て は 助 手 の サ ポ ー トを得 なが ら内視 鏡,電 気 メス ま た は剥 離 子,お よ び吸 引 管 等 の複 数 器具 を用 い た操 作 が 可 能 で あ った(図2-d)。 鼻 中 隔 後 方 か ら上 咽 頭 に か け て の 残 存 腫 瘍 を骨 膜 下 に剥 離 し,腫 瘍切 除 を行 っ た 。術 後19ヶ 月 経 過 良 好 で あ っ た が,後 鼻 孔 付 近 に再 発 し, 2002年12月10日 内視 鏡 下 に 基 部 周 囲 の 粘 膜 を つ け て 再 度 切 除 した 。最 終 的 な 病 理 組 織 診 断 で は 横 紋 筋 肉腫 (胎児 型)で あ っ た た め,化 学 療 法(CYVADIC5ク ー ル)を 追 加 し2003年9月 現 在 非 担 癌 生 存 中で あ る。 症 例3:59歳,男 性 主訴:鼻 出 血 既 往 歴:20年 前 他 院 に て副 鼻 腔 根 本 術 1999年12月 内 視 鏡 下 鼻 内副 鼻 腔 手術(病 理 組 織 診 断
図2 症例2 a治 療 前 副 鼻 腔 造 影MRI(矢 状 断) 固有 鼻 腔 か ら節 骨 洞 に充 満 し上 咽 頭 に及 ぶ腫 瘍 陰 影(白 矢 印)を 認 め る b放 射 線 治療 後 副 鼻 腔 造 影MRI(矢 状 断) 腫 瘍 は 縮 小 して い る が,後 節 骨 洞 か ら後 鼻 孔 にか け て の残 存(白 矢 印)を 認 め る c手 術 所 見 内視 鏡 を用 い て 眼 窩 紙 様 板(黒 矢 印)と 眼窩 骨 膜(白 矢 印)の 間 を眼 窩 先 端 方 向 に剥 離 を行 う d手 術 所 見 内視 鏡 下 に 鼻 中 隔 後 方 深 部 に操 作 を行 う(白 矢 頭:電 気 メ ス,白 矢 印:吸 引 管) はInverted papillonma) 現 病 歴:papilloma手 術 後2000年1月 以後 来 院せ ず, 2002年8月 頃 よ り鼻 出 血 と鼻 閉 あ り,近 医 に て 中 鼻 道 に易 出血 性 の 腫 瘍 性 病 変 を認 め 当 科 受 診 と な る。 初 診 時所 見:左 中鼻 道 に 易 出 血 性 の 腫 瘍 性 病 変 を認 め た 。 画 像 検 査:CTで は,明 らか な 骨 破 壊 を認 め な い が, 前 頭,節 骨 洞 を 中心 と した 軟 部 組 織 陰 影 を 認 め,MRI で は前 頭 洞 の 深 部 に は 炎 症 性 変 化 を示 す が,筋 骨 洞 か ら 前 頭 洞 にか け て は腫 瘍 性 病 変 を認 め た(図3-a)。 治 療 経 過:腫 瘍 の 生 検 に て扁 平 上 皮 癌 の 病 理 組 織 診 断 で あ り,拡 大 切 除 の 必 要 性 を説 明 した が,飲 食 関 連 の 仕 事 を して お り頭 蓋 底 手 術 は嗅 覚 障 害 を き たす た め拒 否 さ れ た 。 ま た全 身 検 索 中 に肺S7に 癌腫(原 発 ま た は転 移 性 の判 別 は不 可 能)を 認 め たた め,患 者 及 び家 族 と十 分 に相 談 した うえ で 内 視 鏡 を用 い た可 及 的 腫 瘍 減 量 手 術 と 放 射 線 治 療 を 併 用 す る こ と と した。 放射線 治 療38Gy後, 2002年8月27日 手 術 を施 行 した。 内視 鏡 下 に 観 察 す る と鼻 前 頭 管 は 比 較 的 広 く開 存 してお り,腫 瘍 は前 頭 洞 よ り左 篩 骨 洞 に か け て 残 存 してい たが,右 中鼻 道 は ポ リー プ様 病 変 で あ っ た 。 内 視 鏡 下 に明 視 しなが ら眼 窩 紙 様 板 と眼 窩 骨 膜 の 間 を剥 離 し,紙 様 板 を一 部 骨 折 させ 切 除 し
図3 症 例3 a治 療 前 副 鼻 腔 造 影MRI(冠 状 断) 左 篩 骨 洞 か ら前 頭 洞 を 中心 に右 側 に も及 ぶ 腫 瘍 陰 影(白 矢 印)を 認 め る b手 術 所 見 マ イ ク ロデ ブ リ ッ ダ ー(黒 矢 印)を 併 用 して 左 篩 骨 洞 か ら前 頭 洞 に残 存 す る腫 瘍(白 矢 印)を 可 及 的 切 除 した(白 矢 頭:眼 窩 骨 膜) c術 後 副 鼻 腔 造 影MRI(冠 状 断) 左 節 骨 洞 か ら前 頭 洞 に腫 瘍 の再 発 を 認 め な い d再 発 時 副 鼻 腔CT(矢 状 断) 一 部 頭 蓋 底 の骨 浸 潤 を伴 う腫 瘍 の 再発(自 矢 印)を 認 め る た 。 前 頭 洞 か ら節 骨 洞 に残 存 す る腫 瘍 病 変 は 白 色 で や や 角 化 傾 向 を示 す が 浸 潤 傾 向 はな いた め,マ イ クロデ ブ リッ ダー を用 い て 可 及 的切 除 を行 っ た(図3-b)。 前 頭 洞 深 部 の 粘 膜 に は腫 瘍 性 病 変 を認 め ず,内 視 鏡 下 の 観 察 で は 腫 瘍 は ほぼ 切 除 し得 た。 術 後 放 射 線 治療 を36Gy追 加 し 経 過 良 好 で あ った(図3-c)が,2003年3月 内視 鏡 検 査 にて 左 鼻 中 隔 上 方 か ら前 頭 洞 に再 発 を 認 め,CTに て も 頭 蓋 底 に浸 潤 傾 向 を示 す 腫 瘍 の再 発 を 認 め た(図3-d)。 再 度 本 人 及 び家 族 と相 談 の上,4月3日 脳 神 経 外 科 と共 同 に て前 頭 蓋 底 手 術 を行 っ た。 両 側 前 頭 開頭 後,硬 膜 外 剥 離 を行 った 。 節 板 付 近 に て腫 瘍 浸 潤 を認 め た た め 周 囲 の 硬 膜 を合 併 切 除 し,そ の後 側 頭 筋 膜 を用 い て 硬膜 を縫 合 閉 鎖 した 。 硬 膜 外 に前 頭 葉 を挙 上 し保 護 した後,両 側 鼻 外 側 切 開 を行 い残 存 した 眼 窩 紙 様 板 と眼 窩 骨 膜 間 を剥 離 し眼 窩 内 容 を保 護 した 上 で 頭 蓋 底 骨 と顔 面 骨 の骨 切 り を行 っ た。 上 方(内 頭 蓋 側)か ら脳 外 科 医 に よ り浸 潤 し た硬 膜 を含 め た骨 切 り線 を想 定 しつ つ,下 方(眼 窩 内及 び鼻 内 とい っ た外 頭 蓋底 側)か ら耳 鼻 科 医 に よ り内視 鏡 を用 い て腫 瘍 とそ の 周 囲 組 織 を明 視 しな が ら安 全 域 を確 認 し,同 時 に 眼窩 内 容 を保 護 し なが ら内視 鏡 の ガ イ ド光 を頭 蓋 底 側 に 向 け る こ とで 上 方 か ら の骨 切 りが よ り安 全 にで き る よ う に補 助 した(図4)。 骨 切 り後,最 後 に付 着 した粘 膜 な どの軟 部 組 織 につ い て も内視 鏡 下 に鼻 内 よ り剪 刀 な ど を用 い て 切 除 し一 塊 と して前 頭蓋 底切 除 を行 っ
図4 頭 蓋 底 手 術 術 中写 真 上 方 の 内頭 蓋底 側(黒 矢 印)よ り骨 切 りを行 う際 に, 下 方 の鼻 内 よ り内 視 鏡(白 矢 印)を 用 い て 眼 窩 骨 膜 を保 護 し安 全 と思 わ れ る 骨 切 り線 に対 して 内 視 鏡 の 光 源 を用 い て 誘 導 を 行 う た 。 考 察 鼻 副 鼻腔 悪 性 腫 瘍 の 治 療 で は,腫 瘍 の一 塊 切 除 が 重 要 で あ り,周 囲 組織 に浸 潤 した 症 例 で は,眼 窩 内 容 及 び頭 蓋 底 を含 ん だ 拡大 切 除 を行 う こ とで 予 後 の 向 上 が み られ て きた1)。しか し拡 大 切 除 術 で は顔 面 の 整 容 面 に 問 題 点 が あ り,顔 面 深 部 に お け る操 作 で は 鼻 腔 粘 膜 や 静 脈 叢 か ら の 出 血 も重 な り視 野 の 悪 い 術 野 で の 操 作 を行 う こ と も あ る 。 近年 内視 鏡 を含 め た 手 術 支 援 機 器 の進歩 は著 しく, 内視 鏡 を用 い る こ とで 明 る く明 瞭 な視 野 が得 られ る ため, 鼻 副 鼻腔 領 域 で は 炎 症性 疾 患 に対 して 内視 鏡 下 鼻 内 副 鼻 腔 手 術 が広 く行 わ れ て お り2),そ の 適応 も 眼 窩 周 辺 疾 患 や 良性 腫 瘍 に 拡大 され つ つ あ る3,4)が,悪 性 腫 瘍 に 関 し た報 告 は少 な い5,6)。今 回,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に 対 し て 内視 鏡 を補 助 的 に 使 用 した 手 術 症 例 を経 験 し,そ の利 点 及 び 問 題点 に つ い て 検 討 した 。 内視 鏡 の利 点2,3)は,明 る く明 瞭 で 死 角 の 少 な い 視 野 が 得 られ る こ とで あ る 。 この た め鼻 副 鼻 腔 深 部 にお い て も病 変 の局 在 及 び 進 展 範 囲 の 詳 細 な 評 価 が で き,MRI な どの 画像 検 査 を用 い る事 で 病 変 の 進 展 範 囲 の よ り詳 細 な診 断 が可 能 とな る。 顕 微 鏡 に比 して狭 い 空 間で も視 野 が 良 い た め,狭 く深 い 鼻 副 鼻 腔 深 部 で も剥 離 切 除 等 の操 作 が 可 能 で あ る 。 また,CCDカ メ ラ を用 い た モ ニ タ ー 上 で の 画像 観 察 に よ り術 者 と助 手 や 看 護 師 を含 め た多 く の 人 が 同一 画 面 を同 時 に見 る こ とが で きる た め,手 術 の 理 解 と精度 の 向 上 及 び 医 学 教 育 的 な側 面 か らの利 点 もあ る 。 一 方,欠 点 は 内 視 鏡 を保 持 す る た め術 者 は片 手 操 作 を余 儀 な く され る こ と,内 視 鏡 下 にお け る器 具 操 作 へ の 慣 れ お よび術 野 で の 器 具 操 作 に お け る ワ ー キ ン グ ス ペ ー ス の 問 題 で あ る 。 複 数 の 器 具 を用 い る 際 に は助 手 の介 助 が 必 要 とな り,狭 い鼻 内 で の器 具 操 作 が 困難 な場 合 は外 切 開 を併 用 して ワ ー キ ング スペ ー ス を広 くす る こ とが 必 要 と な る 。 ま た,狭 い空 間 で は少 しの 出血 が 視 野 を 著 し く悪 くす る た め,出 血 し易 い鼻 粘 膜 に対 して は 少量 の 出 血 で もバ イ ポ ー ラ な どを用 い て そ の つ ど止 血 を 行 い 可 能 な 限 り出血 の少 な い術 野 で の操 作 を行 うこ とが 重要 で あ る。 症 例1は,中 甲介 の先 端 に発 生 し固有 鼻 腔 内 に 限 局 し た症 例 で あ っ た 。腫 瘍 の 基 部 は 中 甲介 で あ り,術 前 の 画 像 検 査 及 び 内視 鏡 所 見 よ りあ る程 度 の 安全 域 を持 っ た 切 除が 可 能 と考 え られ た 。 固 有 鼻腔,内 側 の節 骨 洞 及 び 上 顎 洞 の 内側 壁 に と ど まる もの に対 して は,内 視 鏡 と手 術 器 具 の ワー キ ング ス ペ ー ス が得 られ れ ば,技 術 的 に は 内 視 鏡 を 用 い た腫 瘍 切 除 が 可 能 で あ り,良 性 腫 瘍 に対 して 鼻 内 手術 も行 わ れ て い る4)。悪 性 腫 瘍 で は 個 々 の 症 例 に 対 して術 前 の 画像 検 査 お よび 内視 鏡所 見 を用 い て よ り慎 重 な検 討 が 必 要 と され る が,鼻 中 隔 や 鼻 甲介 等 の 固 有 鼻 腔 に 限 局 した 症例 に お い て 安 全 域 を含 め た腫 瘍 切 除 が 可 能 と判 断 さ れ れ ば 内 視鏡 下 手術 は 有 用 と思 わ れ る。 症 例2及 び 症例3に お い て は 患 者 の 希 望 の ほ か,肺 病 変 の存 在 とい っ た 様 々 な 理 由 に よ り当 初 は 局 所 病 変 の 進 展 度 か ら必 要 と思 わ れ る 拡 大 切 除 が 必 ず しも施 行 で きず, 治療 態 度 と して や や 姑 息 的 に な ら ざ る を得 な か った 。 当 科 に お け る 鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 進 展 例 に対 す る基 本 的 治 療 方針 は,術 前 放 射 線 治 療 後,拡 大 腫 瘍 切 除 と一 期 的 再 建 手術(必 要 に よ り遊 離 組 織 移 植 と頭 蓋 外 板 な ど を用 い た 硬 性 再 建)を 施 行 す る こ とで あ る。 安 全 域 を持 っ た悪 性 腫 瘍 の 拡大 切 除 の た め に は眼 窩 内 容 合 併 切 除 や 開頭 手 術 が必 要 と され,前 述 の ご と く拡 大 切 除 が 施 行 で き な い場 合 は,あ る 意 味 にお いてQOLを 保 持 しつ つ,治 療 態 度 と して 姑 息 的 に な ら ざ る を得 な い場 合 が あ る 。安 全 域 が 十分 で なか った り,腫 瘍 が 一 塊 で な くpiece mealに 切 除 され る こ と等 の 問 題 点 は あ るが,一 塊 で な くと も可 及 的 に腫 瘍 を切 除 し,放 射 線 治 療 な ど他 の治 療 法 を併 用 す る こ とで あ る程 度 の 治 療 効 果 とQOLの 改 善が 期 待 で き る もの と思 わ れ る。 ま た,鼻 副 鼻 腔 とい う狭 く深 くて 複 雑 な 空 間 にお い て は,安 全 域 を持 っ た切 除 と周 囲組 織 へ の 副 損 傷 の 防 止 の た め及 び視 野 の面 か ら も広 い術 野展 開 が 必 要 と され るが,い か に術 野 を広 く展 開 して も深 部 に お い て は,暗 く死 角 の た め に観 察 しに くい 部位 が存 在 す る。 こ れ に対 して 内視 鏡 を用 い る こ とで,安 全 域 と副 損 傷 に 関 して は変 わ らな い ま で も,深 部 に お い て 明 る く死 角 の 少 ない 明 視 下 操 作 が 可 能 とな る 。 この 点 が 内視 鏡 の 最 も よい 点 で あ る とい え る。 この ため,ワ ー キ ングスペ ー ス を得 るた め に必 要 な範 囲 で外 切 開 を 追加 し,ま た 拡 大 切 除 時 にお け る深 部 操 作 や死 角 とな る 部位 の 操 作 に内 視 鏡 を併 用 す る こ と は 有用 で あ る と思 われ る 。症 例3に 行 っ
表1 当 科 に お い て 過 去 に内 視 鏡 下 減 量 手術 と放 射 線 治 療 を併 用 した 鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍14症 例 た ご と く,頭 蓋 底 手 術 の骨 切 り時 に鼻 内 よ り内 視 鏡 の 光 源 を用 い て 内 頭 蓋 底 側 よ り行 う頭 蓋 底 骨 の 骨 切 りを補 助 す る事 も有 用 で あ った 。 過 去 我 々 の 施 設 にお い て,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 の 治 療 に 対 して 年 齢 や 全 身状 態 な ど様 々 な要 因の た め に拡 大 切 除 を行 わ ず 内 視 鏡 を用 い た可 及 的減 量 手 術 と放 射 線 治 療 を 併 用 した 症 例 は14例 あ っ た(表1)。 この 治 療 方 法 に 関 して は,症 例 数 が まだ 少 な く観 察 期 間 も平 均15.7ヶ 月 と短 い た め 治 療 成 績 に関 して の 一 定 の 結 果 は出て いな い。 全14例 中 上 顎 癌 の1例 と筋 骨 洞 癌 の1例 で は5年 以 上 非 担 癌 生 存 し経 過 良 好 で あ っ たが,観 察 期 間 中7例 に局 所 再 発 を 認 め た 。 術 後 は 内 視 鏡 検 査 と 細 胞 診 お よ び MRIな どの 画 像 検 査 を用 い て 厳 重 に経 過 観 察 を 行 い 局 所 再 発 の 早 期 発 見 に努 め,再 発 時 に手 術 可 能 な症 例 に対 して はsalvage手 術 を行 う よ う に して い る 。 し か し, 内 視 鏡 観 察 を行 って も深 部 に再 発 す る症 例 で は早 期 発 見 は困 難 で あ り,発 見 時 に は進 展 して 局 所 制 御 が 不 可 能 な 場 合 が 多 い 。 実 際,局 所 再 発 した7例 中4例 にsalvage 手術 を行 い,上 顎 洞 の 内 側 や 下 後 方 に再 発 した2症 例 と 頭 蓋底 手術 を行 った1例 はsalvageで きた が,上 顎 洞 深 部 に再 発 した1例 はsalvageで きず,眼 窩 近 傍 や 前 頭,節 骨 洞 及 び 上 顎 洞 の 深 部 に再 発 した3例 を含 む 計4 例 は 局 所 制 御 で きず 死 亡 して お り,内 視 鏡 減 量 手 術 の 適 応 には慎 重 を要 す る と思 われ る。 拡大 手術 に お い て は 周 囲 組 織 を剥 離 保 護 す る事 で,安 全域 を含 め よ り安 全 な 腫 瘍 の 一 塊 切 除 が 可 能 と な るが, 内視 鏡 を用 い る 事 で 深 部 にお け る視 野 は良 くな る もの の, 安 全域 の 拡 大 と手術 操 作 の 副 損 傷 に関 して は変 わ る もの で は な い 。狭 い ワー キ ン グス ベ ー ス で の 内 視 鏡 下 操作 に 必 要 以 上 に固 執 す る と,よ り副 損 傷 の 危 険度が 増す た め, 手術 所 見 に よっ て は 拡 大 した 外 切 開 術 へ 変 更 す る こ と も 含 め て術 前 の イ ン フ ォ ー ム ドコ ンセ ン トを行 い手 術 に望 む べ きで あ る と考 え る。 内 視 鏡 は視 野 の展 開 に お い て有 用 な 道 具 で あ り,そ の 他 マ イ ク ロ デ ブ リ ッダ ー や 手術 用 の ナ ビゲ ー シ ョン装 置 等 の手 術 支 援 器 具2)を 併 用 す る こ とで よ り細 か な操 作 が 可 能 とな っ て くる 。 しか し,こ れ らの 器 具 は あ くまで 手 術 の い ろ い ろ な段 階 に お い て用 い る 一 手段 と して 使 用 す るべ きで あ り,そ の利 点 と欠 点 を 理 解 した 上 で 術 者 が 個 々 の症 例 の 必 要 とな る 部位 に対 し て 用 い るべ き もの と考 え る 。 以 上,鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 症 例 に お け る 内視 鏡 治療 の 適 応 を考 え る と,固 有 鼻 腔 内 に 限 局 し諸 検 査 に よっ て安 全 域 を持 った 切 除 が 可 能 と考 え られ る場 合 や,鼻 副 鼻腔 深 部 病 変 に対 す る組 織 検 査 にお い て 有 効 と思 わ れ る 。 よ り 進 展 した 病 変 に対 して は 内視 鏡 を用 い る事 の み で 安全 性 や 根 治 性 が 著 し く良 くな る事 は な い が,個 々 の症 例 に お い て 手術 中 の 深 部 操 作 な ど に 内視 鏡 を上 手 く用 い る事 は 有 用 と思 わ れ る。 ま と め 鼻 副 鼻 腔 に発 生 した悪 性 腫 瘍 に 対 して,内 視 鏡 を補 助 的 に用 い た 手 術 例 を経 験 した 。腫 瘍 が 固有 鼻 腔 及 び正 中 に近 い 節 骨 洞 に存 在 す る場 合 は,内 視 鏡 下 切 除 も有 効 で あ る 。 内 視 鏡 を用 い る こ と で副 鼻 腔 深 部 にお け る 明 瞭 な 視 野 が 得 られ るた め,十 分 な ワ ー キ ン グ スペ ー ス が あ れ ば 深 部 操 作(剥 離,切 除,骨 切 り等)の 際 に 内視 鏡 を併 用 す る こ と は有 用 で あ る 。現 時 点 で は,内 視 鏡 は そ の他 の 機 器 と同 様 にあ くまで も手 術 支 援 装 置 と して視 野確 保 や 深 部 操 作 に用 い るべ き で あ る と思 われ る 。 文 献 1)行 木 英 生,宮 川 昌久 他:鼻 副 鼻 腔 悪 性 腫 瘍 に 対 す る 頭 蓋 底 外 科 の 遠 隔 成 績 と予 後 因 子,頭 頸 部 腫 瘍 23:212-220,1997. 2)森 山 寛:内 視 鏡 下 鼻 内 副 鼻 腔 手 術 ―進 歩 と定 着―, 耳 喉 頭 頸68:287-298,1996.
3) Nicolai P. Berlucchi M. et al: Endoscopic surgery for juvenile angiofibroma: when and how. Laryngoscope,
113: 775-782, 2003.
4) Wormald PJ. Ooi E. et al: Endoscopic removal of sinonasal inverted papilloma including endoscopic medial maxillectomy. Laryngoscope, 113: 867-873, 2003.
5) Stammberger H. Anderhuber W. et al: Possibilities and limitations of endoscopic management of nasal and paranasal sinus malignancies. Acta Otor-hinolaryngol Belg 53: 199-205, 1999.
6) Kuhn UM. Mann WJ. et al: Endonasal approach for nasal and paranasal sinus tumor removal. ORL J