博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 吉 田 磨
学位論文題名
Geochemical study for dissolved methane in the high latitude ocean
〜 the Sea of Okhotsk and the Southern Ocean ‑ ‑
(高 緯度 海域 にお ける 溶存 メタ ンの 動態〜 オホーツク海・南大洋〜)
学位論文 内容の要旨
大気 中メ タン(CH4)は、 ニ酸 化炭 素や 亜酸化窒素と同様に温室効果気体であり、大 気 中濃 度は 産業 革命 以前 の700 ppbvから1000 ppbv以上増加したが、最近は増加速度 が 減少 して いる。全球的なメタンの収支を理解するためには供給源の定量化が必要で あるが、供給源や除去源の見積りには大きな不確実性が残されているのが現状である。
大気 中メ タンに対する海洋の供給源としての役割は小さいと考えられているが、そ の度合いは全自然供給源の0.005〜3%と見積値に大きな差異があり、より詳細に観測 す る必 要が ある。海洋からのメタンの逃散量は、外洋表面水のメタン濃度から主に見 積もられてきたが、外洋表面水は大気中メタンに対してわずカ;に過飽和であるに過ぎ な い。 一方 大陸棚を含む沿岸域ではかなりの程度の過飽和が報告されている。たとえ 沿 岸 域 の 面 積 が 外 洋の 面積 の10分の1しか なく ても 、過 飽和 の程 度が10倍 高けれ ば 有 意な 量と なり得る。しかしながら、メタンの逃散量を詳細に決定するほど沿岸域に おける観測は行われていない。
オホ ーツ ク海 は広 大な 大陸 棚を 有する 縁辺海の1っであり、メタンの過飽和度が高 いことによって、大気中メタンに対する重要な供給源となる。・熱分解起源のメタンが 堆 積物 から 多く染み出していると考えられているが、時空間的に詳細な観測はほとん ど行われてこなかった。
そこで、夏季オホーツク海西部においてメタンの分布や変動、大気/丶丶の逃散量を見 積 もる ため にメタン濃度を測定した。サハリン東岸の大陸棚斜面底層(約200 m)にお い て極 めて 高い濃度のメタンを観測した。アムール川河川水流入による表層の成層化 に よっ て、 陸棚上では亜表層における高濃度メタンは表層〜大気ヘ運ばれていなぃこ と がわ かっ た。 しか しサ ハリ ン東 岸の海 底が100m以下 と浅 く岸 に近 い海域では潮汐 ―203―
による鉛直混合が活発で表層水のメタン濃度も高くなっていた。陸棚斜面で観測され た極めて高濃度のメタンは、東サハリン海流の密度26.6〜26.8a8面に存在しており、
岸に 沿っ た南下 流や 岸か らそ れて 東に 向う 流れ をメタン濃度で追うことが可能であ ることが示唆された。サハリン北東岸におけるメタンフラックスは最大で8.6 moI CH4 km‑2d.1と見積もられた。オホーツク海全体の約55%に相当する夏季オホーツク海西 部(0.78Xl06 kn12)か らの メタ ンの 逃散量 はO.014 Tg CH4y.1と見積もられた。
一方外洋では亜表層にメタンの極大が存在することが知られている。水柱でのメタ ン生成は還元環境下においてメタン生成/Iクテリアのみによる。ゆえに沈降する有機 物粒 子や 動物プ ラン クト ンの 消化 管内 の微 小な 還元環境でメタンが生成しているこ とになる。そこで解氷時に生物生産が高くなることで知られている南大洋においてメ タンの詳細な動態を把握するためにメタン濃度を測定した。
南 大洋 では表 層約200mでメ タン 濃度 が最 も高 く、深度を増すにしたがって急激に 濃度 が減 少した 。高 緯度 海域 にお ける 表層100mで最 も濃 度が 高く 、飽和 度も106〜 139% と高 かっ た。 高濃度メタンが観測された高緯度海域においては、植物プランク トン の指 標とし て知 られ てい るク ロロ フイ ルaと メタ ン濃 度と の相 関が 極め て高く
(R2≧O.7)、植物プランクトン―動物プランクトンを介した生物起源メタンが水柱で生成 されていると考えられる。.また夏季南大洋におけるメタンの逃散量は1.2〜4.0 moI CH4 km‑2 d‑lと見積もられ、動物プランクトンが主な供給源となっている海域としては 極めて高い値であることが観測された。
学位論文審査の要旨 主査 教授 乗木新一郎 副査 教授 吉川久幸 副査 教授 若土正曉 副査 教授 吉田尚弘
(東京工業大学大学院総合理工学研究科)
学位論文題名
Geochemical study fordiSS01Vednlethane inthehighlatitudeOCean
〜 theSeaofokhotSkandtheSOuthernOCean 〜
( 高 緯度海 域における 溶存メタ ンの動態 〜オホー ツク海・ 南大洋〜 )
大 気中メタン(CH4)は、二酸化炭素や亜酸化窒素と同様に温室効果気体である。
大 気中メタ ンに対する 海洋の供 給源としての役割は小さいと考えられているが、
そ の度合いは全自然供給源の0.005〜3%と見積値に大きな差異があり、より詳細 に 観 測す る 必 要がある 。海洋か らのメタ ンの逃散量 は、外洋 表面水の メタン濃 度 か ら主 に 見 積もられ てきたが 、大気中 メタンに対 してわず かに過飽 和である に 過 ぎな い 。 一方沿岸 域ではか なりの程 度の過飽和 が報告さ れている 。しかし な が ら、 メ タ ンの逃散 量を詳細 に決定す るほど沿岸 域におけ る観測は 行われて いない。
そ こで 、 夏季 オホーツ ク海西部 において メタンの分 布や変動 、大気へ の逃散 量 を見積も るためにメ タン濃度 を測定した。サハリン東岸の大陸棚斜面底層(約 200 m)に おいて極 めて高い濃 度のメタンを観測した。アムール川河川水流入によ る 表 層の 成 層 化によっ て、陸棚 上では亜 表層におけ る高濃度 メタンは 表層〜大 気 ヘ 運ば れ て いな い こ とが わ かっ た 。 しか し サハ リ ン 東岸 の 海底 が100m以下 と 浅 く岸 に 近 い海域で は潮汐に よる鉛直 混合が活発 で表層水 のメタン 濃度も高 く な って い た 。陸棚斜 面で観測 された極 めて高濃度 のメタン は、東サ ハリン海 流の密度26.6〜26.8ao面に存在しており、岸に沿った南下流や岸からそれて東に 向 う 流れ を メ タン濃度 で追うこ とが可能 であること が示唆さ れた。サ ハリン北 東岸におけるメタンフラックスは最大で8.6 mol CH4 km.2d.1と見積もられた。オ ホーツク海全体の約55%に相当する夏季オホーツク海西部(0.78xl06 km2)からの メタンの逃散量は0.014 Tg CH4y.1と見積もられた。
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一 方 外洋 では亜表 層にメタ ンの極大 が存在する ことが知 られてい る。水柱 で のメ タ ン 生成は還 元環境下 において メタン生成 バクテリ アのみに よる。ゆ えに 沈降 す る 有機物粒 子や動物 プランク トンの消化 管内の微 小な還元 環境でメ タン が生 成 し ているこ とになる 。そこで 解氷時に生 物生産が 高くなる ことで知 られ てい る 南 大洋にお いてメタ ンの詳細 な動態を把 握するた めにメタ ン濃度を 測定 した。
南 大 洋で は 表 層約200mで メタ ン 濃 度が 最 も高 く 、 深度 を 増す に した がって 急激 に 濃 度が 減 少 した 。 高緯 度 海 域に お ける 表 層100mで最 も 濃度 が 高く、飽 和度 も106〜139%と高か った。高 濃度メタ ンが観測さ れた高緯 度海域に おいて は、 植 物 プラ ン ク トン の 指標 と し て知 ぢれて いるクロ ロフイルaとメタン 濃度 との相関が極めて高く(R2≧0.7)、植物プランクトン‐動物プランクトンを介した 生物 起 源 メタンが 水柱で生 成されて いると考え られる。 また夏季 南大洋に おけ るメタンの逃散量は1.2〜4.O fTiol CH4 krTl.2d.1と見積もられ、動物プランクトン が主な供 給源とな っている 海域としては極めて高い値であることが観測された。
メ タ ンは 二 酸 化炭 素 に続 い て2番 目の 温暖化気 体であり 、地球環 境の将来 予 測にとっては、その分布や動態の研究は欠かせない。
申 請 者は 海 洋 にお け るメ タ ン の供 給 源と し て2っ あげ た 。1っは 海 底堆積物 中で 生 成 する 熱 分 解メ タ ンで あ り 、も う1っは 動物プラ ンクトン が作る生 物起 源メ タ ン である。 前者はオ ホーツク 海沿岸をフ イールド として詳 細な実験 を行 った。ま た、後者 について は南大洋において数度の観測を行った。また詳細なデ ータを得 た。得ら れた知見 はオリジナリティが非常に高いものであり、重要な 研究である。
審 査 員一 同は、こ れらの成 果を高く 評価し、ま た研究者 として誠 実かつ熱 心 であり、 大学院課 程におけ る研鑚や取得単位などもあわせ申請者が博士(地球環 境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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