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1 4 Saitoh et al C. biwae Jordan and Snyder Saitoh et al , 2005 IB

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琵琶湖北西部の沿岸域における

スジシマドジョウ種群の繁殖期と繁殖場所

中野 光議

1

・上原 和男

2

・浦部 美佐子

3

1滋賀県立大学大学院環境科学研究科・2新旭土地改良区・3滋賀県立大学環境科学部 Habitat and breeding season of striated spined loaches on the northwest coast of Lake Biwa

Mitsunori Nakano1, Kazuo Uehara2 and Misako Urabe3

1Graduate School of Environmental Science, University of Shiga Prefecture,

2Sinnasahi Land Improvement District, 3Faculty of Environmental Science, University of Shiga Prefecture

要旨:スジシマドジョウ種群の繁殖期と繁殖場所を明らかにすることを目的に、琵琶湖北西部の沿岸域に位置する ビオトープ池「水すまし水田」と湖岸の水生植物帯、および農業用水路において、2011 年と 2012 年、2014 年に調 査を行った。「水すまし水田」では 4 ∼ 7 月に標準体長 42 ∼ 107 mm の成魚の侵入が見られた。成魚が最も多く侵入 したのは、各調査年度で最大の降雨があった日の当日、もしくは翌日であった。6 ∼ 7 月には幼魚も採捕された。水 生植物帯と農業用水路では主に 4 ∼ 6 月に成魚が採捕されたが、幼魚は採捕されなかった。以上のことから、「水す まし水田」では、成魚の体サイズ分布に基づきビワコガタスジシマドジョウとオオガタスジシマドジョウの 2 種が 産卵を行っていると推察された。また、スジシマドジョウ種群の繁殖行動はまとまった降雨によって誘発されると 考えられる。本調査地では主に「水すまし水田」(湿地状の一時的水域)で繁殖しており、水生植物帯と農業用水路 ではあまり繁殖していないことが示唆された。   キーワード:シマドジョウ属、水生植物帯、水田、農業用水路、繁殖生態

Abstract: To examine the habitat and breeding season of striated spined loaches, we conducted field surveys on the northwest coast of Lake Biwa. Mature adult fish (42–107 mm in SL) immigrated into the Mizusumashi rice field artificial swamp from April to July, generally after heavy rains. Juveniles were captured from June to July. We found that almost all adult fish appeared from April to June, and no juveniles were captured in the emergent vegetated areas on the lake shore and in an irrigation ditch. Our results of adult body size distribution suggest that Cobitis minamorii oumiensis Nakajima and C. magnostriata Nakajima reproduce at the Mizusumashi rice field. We also show that reproduction is triggered by heavy rainfall, and that it mainly occurs in the artificial swamp in our study area.

Keywords: Cobitis, emergent vegetated area, irrigation ditch, reproduction, rice field

1〒 522-8533 滋賀県彦根市八坂町 2500 滋賀県立大学環境科学研究科

Graduate school of Environmental Science, University of Shiga Prefecture, 2500, Hassaka, Hikone, Shiga 522-8533, Japan e-mail: mitsu6812@yahoo.co.jp 2014 年 9 月 24 日受付、2014 年 12 月 16 日受理

はじめに

 スジシマドジョウ種群は、ドジョウ科シマドジョウ属 に分類される日本固有の淡水魚類である。主に西日本と 四 国、 九 州 に 分 布 し て お り( 君 塚 1987;Nakajima 2012)、滋賀県にはビワコガタスジシマドジョウ Cobitis

minamorii oumiensis Nakajimaとオオガタスジシマドジョ ウ C. magnostriata Nakajima の 2 種 が 生 息 し て い る (Nakajima 2012)。両種は形態的にきわめて似ているが、 オオガタスジシマドジョウの方が体サイズが比較的大き いことが知られている(皆森 1954;Minamori 1956;斉 藤 1984)。ビワコガタスジシマドジョウは 2 倍体、オオ

調査報告

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ガタスジシマドジョウは 4 倍体であり(Saitoh et al. 1984)、オオガタスジシマドジョウはシマドジョウ C. biwae Jordan and Snyderと他種のスジシマドジョウ種群 との交雑を起源とする異質倍数体であることが知られて いる(Saitoh et al. 2000)。両種は動物地理学や琵琶湖に おける種分化の研究対象として、学術的に重要であるこ とが指摘されている(斉藤 1993)。  近年、ビワコガタスジシマドジョウの生息範囲が狭め られており、現在は北湖の西岸北部にほぼ限定されてい る。また、オオガタスジシマドジョウも同様に、生息範 囲の縮小が報告されている(斉藤 1993;琵琶湖博物館 うおの会 2007)。2 種の減少をもたらした要因として、 オオクチバスによる食害と湖岸の農業用水路の改修、魚 類 の 移 動 経 路 の 分 断 が 指 摘 さ れ て い る( 斉 藤 1993, 2005)。両種は滋賀県レッドデータブックで絶滅危惧種、 環境省レッドリストで絶滅危惧 IB 類に選定されており (滋賀県生きもの総合調査委員会 2011;環境省、http:// www.env.go.jp/press/press.php?-serial=16264、2014 年 11 月 18 日確認)、両種の保全策を議論・実施することは早 急に取り組むべき課題となっている。  斉藤・松田(1990)は、ビワコガタスジシマドジョウ は琵琶湖内および琵琶湖岸の用水路に生息し、6 ∼ 7 月 に付近の水田に遡上して産卵すると報告している。また、 オオガタスジシマドジョウについては主に琵琶湖内に生 息しており、5 ∼ 6 月に湖岸の用水路等に遡上し、周年 水のある水域の泥底に卵をばらまくと報告している(斉 藤・松田 1990)。しかし、両種の繁殖生態に関する斉藤・ 松田(1990)の知見は記述的なものに留まっており、定 量的・長期的に実証した研究は見当たらない。  本研究は、琵琶湖北湖の北西岸に位置する高島市のビ オトープ池、水生植物帯、農業用水路において、スジシ マドジョウ種群の繁殖期と繁殖場所を定量的な調査に基 づいて明らかにすることを目的に行った。

方 法

調査地概況  本研究の調査地は、滋賀県高島市新旭町針江地区のビ オトープ池「水すまし水田」、琵琶湖沿岸の水生植物帯、 および農業用水路である(図 1)。  「水すまし水田」は休耕田を利用して作成したビオト ープ池であり、2005 年 4 月 24 日に整備を終了し通水を 開始している。「水すまし水田」の面積は約 3000 m2 あり、全体的にヨシ Phragmites australis (Cav.) Trin. ex Steudが生育し、水底には泥が堆積している(図 2a)。 水深は 20 cm 未満のところが多く、最深部では約 30 cm である。「水すまし水田」の用水は横を流れる農業用水 路から堰上げにより取水し、同じ水路に排水している。 2012年 5 月 6 日に「水すまし水田」の取水口に水車を 設置し、それ以降 2012 年の通水期間は水車を利用して 農業用水路から取水した。毎年 4 月末∼ 5 月前半に取水 を開始し、7 ∼ 8 月頃まで取水している。それ以外の時 図 1.調査地の概略図(左)と位置(右)。「水すまし水田」内の矢印は用水の流れる方向を示している。 農業用水路での採捕調査は、図中に黒色で示した範囲で行った(白色はサデ網・タモ網を用 いた採捕を行った地点を示す)。

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期には用水を流さず、降雨・降雪時以外は干出している。 降雨・降雪時も含めて、非通水期間には魚類が侵入・産 卵することはできない。本調査を実施した年では、2011 年は 4 月 21 日∼ 7 月 26 日、2012 年は 4 月 25 日∼ 8 月 13日、2014 年は 5 月 8 日∼ 7 月 11 日に通水を行った。「水 すまし水田」の排水口は魚道になっており、魚類は取水 口と排水口の両方から「水すまし水田」に侵入できる。 農業用水路内に設置した 2 か所の堰の高さを操作するこ とによって、平常時には「水すまし水田」の流量がほぼ 一定になるように調節している。しかし現地での観察か ら、激しい降雨による増水時には農業用水路から大量の 水が越流し、「水すまし水田」内の流量が一時的に増加し、 流速が著しく増大する場合があることがわかっている。  水生植物帯は琵琶湖沿岸部に位置しており、底には泥 が堆積しヨシを中心とした抽水植物が広範囲に密生して いる(図 2b)。調査範囲の面積は約 3600 m2であり、水 深は 40 cm 未満である。調査範囲の大部分は秋季から冬 季にかけて干出する。  農業用水路は上記の「水すまし水田」の用排水路で、 幅が 1 m、水深が約 70 ∼ 100 cm の三面コンクリート水 路である。底面には全体的に泥が堆積し、オオカナダモ Egeria densa Planchやナガエミクリ Sparganium japonica Rothert等の沈水植物が生育している。安曇川から取水 した用水、および農業用水路内で湧いた湧水が周年流れ ている。 環境条件の調査  調査地の温度環境を把握するため、「水すまし水田」 と 農 業 用 水 路 の そ れ ぞ れ 1 地 点 に 水 温 計(Thermo Recorder TR-71Ui、株式会社ティアンドデイ)を設置し、 毎日正午から 12 時 30 分の間に水温を測定・記録した。 2011年は 5 月 2 日∼ 10 月 3 日、2012 年は 5 月 8 日∼ 9 月 25 日、2014 年は 5 月 16 日∼ 7 月 31 日の間に水温測 定を実施した。  調査地の降雨状況については、県営新旭地区揚水機場 にて測定・記録している、高島市新旭地区の降雨量のデ ータを使用した。県営新旭地区揚水機場は「水すまし水 田」から約 2.6 km 離れている。 魚類採捕  本研究で魚類採捕を実施した場所と使用した漁具、実 施期間および採捕対象魚を表 1 に示す。  本研究の調査地にはビワコガタスジシマドジョウとオ オガタスジシマドジョウの 2 種が出現することが知られ ている(渡辺 2010)。両種は形態的に非常に似ているた め(Minamori 1956;斉藤 1984)、外部形態に基づく種同 定では誤同定を行う可能性が高い。また、本研究ではス ジシマドジョウ種群の希少性に配慮し、採捕された成魚 についてはすべて生かしたまま放流し、標本を確保しな かった。そのため、本研究では採捕されたすべての個体 をスジシマドジョウ種群としてまとめて扱った。また、 雌雄の識別と抱卵の確認については、一部の個体にのみ 行った。  繁殖可能な成魚の標準体長は、ビワコガタスジシマド ジョウが 45 ∼ 60 mm、オオガタスジシマドジョウが 60 ∼ 90 mm である(Nakajima 2012)。また、本研究では標 準体長 30 ∼ 39 mm の個体が採捕されなかった(結果を 参照)。それらに基づき、本論文では便宜的に 30 mm 未 満を幼魚、40 mm 以上を成魚として扱った。  「水すまし水田」に侵入するスジシマドジョウ種群の 成魚の個体数と侵入時期、体サイズ組成を明らかにする ため、「水すまし水田」の取水口と排水口のそれぞれに 図 2.調査地の写真(2014 年 5 月 24 日撮影)。(a)は「水すま し水田」、(b)は湖岸の水生植物帯。

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袋網ウケ(円錐型で全長 2 m、最大部の直径 40 cm、網 目 4 mm、左右にそれぞれ高さ 60 cm、長さ 2 m の袖が 付いているもの)を設置し、侵入してきた成魚を採捕し た。袋網ウケは取排水口のそれぞれを塞ぐように設置し た。2011 年の調査では、午後に取水口と排水口のそれ ぞれにウケを 1 個ずつ設置し、一晩放置して翌日の午前 中に回収し、採捕された成魚の個体数を記録した。この 採捕調査は 2011 年 4 月 23 日∼ 7 月 25 日の間に 3 日も しくは 4 日に 1 度の頻度で実施し、合計 25 回行った。 2012年には、降雨があった日の夕方から 3 日間、取水 口と排水口のそれぞれにウケを 2 個ずつ設置し、毎日午 前に捕獲物を確認した。採捕は合計 6 回行い、ウケの捕 獲物を確認したのはそれぞれ 4 月 25 ∼ 27 日、5 月 4 ∼ 6日、5 月 15 ∼ 17 日、6 月 18 ∼ 20 日、7 月 4 ∼ 6 日、 7月 12 ∼ 14 日であった。ただし、水車の設置により取 水口から魚類が侵入することができなくなったため、5 月 15 日∼ 7 月 14 日に行った採捕調査では原則として取 水口にはウケを設置しなかった。6 月 19 日の夜は台風 の接近により、激しく雨が降って一時的に農業用水路の 水量が増加し、水路の側面を越流して取水口から「水す まし水田」に流入することが考えられたため、6 月 19 日の夕方から取水口にもウケを設置し、6 月 20 日に捕 獲物を回収した。採捕された成魚については個体数を数 え、標準体長を測定した。  「水すまし水田」における幼魚の出現時期と体サイズ 組成を明らかにするため、2014 年 5 月 25 日、6 月 7 日、 6月 21 日、7 月 4 日に金魚網(フレーム幅 15 cm、網目 1 mm)を用いた採捕を行った。採捕は「水すまし水田」 の 8 地点で行い、約 50 cm の距離を素早く 2 回、泥ごと すくい取った。6 月 21 日と 7 月 4 日には、8 回のすくい 取り調査では採捕された個体数が少なかったため、金魚 網およびタモ網を使用した補助調査も行った。補助調査 では時間およびすくい取り回数は任意とした。本調査地 の農業用水路はスジシマドジョウ種群の他にシマドジョ

ウ Cobitis biwae Jordan and Snyder の生息が確認されてい るが(中野光議 未発表)、沖山(1988)に基づき、採捕 された幼魚の体側と尾鰭の斑紋、および体サイズ組成(結 果を参照)から、採捕された幼魚をスジシマドジョウ種 群と同定した。採捕された幼魚については、99%エタノ ール中で液浸標本とし、後日実験室で標準体長を 1 mm 単位で測定した。ただし、液浸標本にすることによって 標準体長が生体時より若干縮んだ可能性がある。  水生植物帯における成魚の出現時期と個体数消長を明 らかにするため、2012 年 5 月 5 日∼ 10 月 29 日に水生 植物帯の 4 地点にウケを 1 個ずつ設置し、原則として 1 週間に 1 度の頻度で捕獲物を確認した。採捕された成魚 については個体数を計数し、標準体長を測定した。  また、幼魚の出現時期と体サイズ組成を明らかにする ため、2014 年 5 月 8 日、5 月 24 日、6 月 7 日に水生植 物帯の 8 地点において、金魚網を使用して「水すまし水 田」と同様の方法で採捕を行った。また、5 月 8 日には タモ網、5 月 24 日と 6 月 7 日にはサデ網を用いて 30 分 間の採捕を行った。ヨシが生育して調査地が覆われ、調 査地点まで安全に近付くことができなくなったため、6 月 8 日以降には採捕を行うことができなかった。  農業用水路における成魚の出現時期と個体数消長を明 らかにするため、2011 年 11 月 20 日∼ 2012 年 10 月 29 日の約 1 年間、農業用水路の調査範囲(図 1 左図中に黒 色で示した部分)にモンドリ(半円柱型で全長 63 cm、 高さ 37 cm、横幅 55 cm、網目 5 mm)を 6 個設置した。 モンドリでは水路を塞ぐことをしなかった。設置したモ ンドリを原則として 1 週間に 1 度の頻度で引き上げ、捕 獲物を回収した。また、成魚および幼魚を採捕するため、 調査範囲内の 5 地点に長さ 10 m の区画を設置し、2011 年 12 月 10 日∼ 2012 年 4 月 21 日の間はサデ網(網目 3 mm、間口サイズ 1 m、深さ 80 cm)、2012 年 4 月 28 日 ∼ 10 月 22 日の間はタモ網(網目 1 mm、深さ 40 cm、 口径 35cm × 30cm、柄の長さ 1.3 m)を使用し、区画ご 表 1.採捕調査を行った場所と使用した漁具、および採捕実施期間。成魚は標準体長 40 mm 以上、幼魚 は標準体長 30 mm 未満の個体とした。 調査場所 使用漁具 実施期間 採捕対象魚 「水すまし水田」 ウケ 2011年 4 月 24 日∼ 7 月 25 日 成魚 2012年 4 月 25 日∼ 7 月 14 日 成魚 金魚網・タモ網 2014年 5 月 25 日∼ 7 月 4 日 幼魚 水生植物帯 ウケ 2012年 5 月 6 日∼ 10 月 29 日 成魚 金魚網 2014年 5 月 8 日∼ 6 月 7 日 幼魚 サデ網・タモ網 2014年 5 月 8 日∼ 6 月 7 日 成魚・幼魚 農業用水路 モンドリ 2011年 11 月 20 日∼ 2012 年 10 月 29 日 成魚 サデ網・タモ網 2011年 12 月 10 日∼ 2012 年 10 月 22 日 成魚・幼魚

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とに 10 分間の採捕を行った。この採捕は月に 1 ∼ 2 度 の頻度で行った。農業用水路において採捕されたスジシ マドジョウ種群については個体数を計数し、標準体長を 測定した。  「水すまし水田」と水生植物帯、および農業用水路で 行ったいずれの採捕調査でも、使用したウケとモンドリ の中には魚類のエサを入れなかった。

結 果

環境条件の測定結果  「水すまし水田」において5∼7月に測定された水温は、 2011年が 16.5 ∼ 32.1℃、2012 年が 14.8 ∼ 27.3℃、2014 年が 19.0 ∼ 28.4℃であった(図 3)。また、農業用水路 の 水 温 は 2012 年 が 14.1 ∼ 20.3 ℃、2014 年 が 14.9 ∼ 19.3℃であった。  2011 年 4 ∼ 7 月で最も日降雨量が多かった日は 5 月 29日(日間 110.5 mm)であり、2 番目は 5 月 11 日(同 98.5 mm)、3 番目は 5 月 10 日(同 72.0 mm)であった(図 4a)。2012 年 4 ∼ 7 月で最も日降雨量が多かった日は 6 月 16 日(同 55.5 mm)であり、2 番目は 7 月 21 日(同 54.0 mm)、3 番目は 6 月 17 日(同 46.5 mm)であった(図 4b)。 スジシマドジョウ種群の採捕結果  「水すまし水田」に侵入する成魚は、2011 年には合計 188個体、2012 年には合計 432 個体が採捕された。2011 年の採捕調査で最も成魚の個体数が多かったのは 5 月 29日であった(図 4c、e)。前々日および前日の 5 月 27 日・ 28日には 8.0 mm の降雨があり、当日の 5 月 29 日には 110.5 mmの降雨があった。2 番目に多く成魚が採捕され たのは 5 月 12 日であり、前々日の 10 日には 72.0 mm、 前日の 11 日には 98.5 mm、当日の 12 日には 6.0 mm の 降雨があった。2012 年の採捕調査では 6 月 20 日に最も 多くの成魚が採捕された(図 4d、f)。その日は合計 317 個体が採捕されたが、そのうちの 225 個体(71%)は取 水口で採捕された。前日の 6 月 19 日には 60.0 mm の降 雨があった。2 番目に多くの成魚が採捕されたのは 5 月 4日であり、前々日の 5 月 2 日には 25.0 mm、当日の 5 月 4 日には 1.5 mm の降雨があった。  2012 年に「水すまし水田」で採捕された成魚の標準 体長の範囲は 42 ∼ 107 mm であった(図 5)。4 月 25 ∼ 27日の調査では 45 ∼ 95 mm、5 月 4 ∼ 6 日の調査では 42∼ 100 mm、5 月 15 ∼ 17 日の調査では 46 ∼ 90 mm、 6月 18 ∼ 20 日の調査では 42 ∼ 107 mm、7 月 12 ∼ 14 日の調査では 70 mm の個体が採捕された。取水口と排 水口間で、採捕された成魚の体サイズ組成には差異が見 られなかった。  2014 年に「水すまし水田」で行った、金魚網を用い たすくい取り調査および補助調査では、6 月 7 日に 5 個 体(標準体長 11 ∼ 13 mm)、6 月 21 日に 5 個体(同 13 ∼ 20 mm)、7 月 4 日に 18 個体(同 12 ∼ 26 mm)の幼 魚が採捕された(図 6)。5 月 25 日の調査では 1 個体も 採捕されなかった。現地での目視により、2014 年 6 ∼ 7 月の間、スジシマドジョウ種群の幼魚は「水すまし水田」 の全面にわたって生息していたことが観察された。また、 金魚網を用いたすくい取り調査では、スジシマドジョウ 種群の他に、フナ属魚類、ナマズ Silurus asotus、コイ Cyprinus carpioの幼魚がそれぞれ合計 40 個体、2 個体、 図 3.「水すまし水田」および農業用水路において、5 ∼ 7 月の 12時∼ 12 時 30 分に測定された水温。実線は「水すまし水 田」、破線は農業用水路の水温を示す。(a)は 2011 年、(b) は 2012 年、(c)は 2014 年の測定結果。

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1個体採捕された。  水生植物帯において 2012 年 5 ∼ 10 月に行ったウケに よ る 採 捕 調 査 で は、5 月 6 日 に 1 個 体( 標 準 体 長 73 mm)、5 月 17 日に 10 個体(同 44 ∼ 94 mm)の成魚が 採捕された(図 7)。また、2014 年 5 ∼ 6 月に金魚網と タモ網、サデ網を使用して行った採捕調査では、幼魚は 採捕されなかった。  農業用水路において 2011 年 11 月∼ 2012 年 10 月に行 ったモンドリによる採捕調査では、2012 年 2 月 7 日に 1 個体(標準体長 72 mm)、5 月 31 日に 2 個体(同 66・88 mm)、6 月 21 日に 5 個体(同 69 ∼ 94 mm)、7 月 4 日 に 1 個 体( 同 72 mm) が 採 捕 さ れ た( 図 8a)。 ま た、 2011年 12 月∼ 2012 年 10 月にサデ網もしくはタモ網を 用いて行った採捕調査では、4 月 28 日に 4 個体(同 73 ∼ 94 mm)、5 月 19 日に 1 個体(同 45 mm)、6 月 7 日 に 4 個体(同 60 ∼ 77 mm)、6 月 27 日に 1 個体(同 71 mm)が採捕された(図 8b)。農業用水路ではいずれの 採捕調査でも幼魚は採捕されなかった。

考 察

「水すまし水田」におけるスジシマドジョウ種群の繁殖  「水すまし水田」では 2011 年 4 月 24 日∼ 7 月 7 日、 および 2012 年 4 月 25 日∼ 7 月 12 日にスジシマドジョ ウ種群の成魚が採捕され、2 年ともほぼ同時期であった。 また、2014 年には 6 月 7 日∼ 7 月 4 日に 10 ∼ 14 mm の 幼魚が採捕され、5 月末∼ 6 月にかけて成魚が産卵して いたことが推察された。斉藤・松田(1990)はビワコガ タスジシマドジョウの繁殖期を 6 ∼ 7 月、オオガタスジ シマドジョウの繁殖期を 5 ∼ 6 月と推定している。また、 北原(2007)はオオガタスジシマドジョウの繁殖期を 5 ∼ 6 月と推定している。本研究の結果はこれら先行研究 と一致している。ただし、2012 年 4 月 25 日に、「水す まし水田」の排水口に設置したウケで採捕された雌成魚 (標準体長 94 mm)の腹部を圧迫したところ、卵を放出 したという事例があった。そのことから、一部の成魚は 4月末∼ 5 月前半に産卵している可能性がある。  「水すまし水田」に侵入した成魚の個体数は、2011 年 図 4.高島市新旭地区の 4 ∼ 7 月の降雨量(県営新旭地区揚水機場の測定値)、および「水すまし水田」の取水口 と排水口に設置したウケで採捕された成魚の個体数。(a)は 2011 年、(b)は 2012 年の降雨量、(c)は 2011 年の取水口、(d)は 2012 年の取水口、(e)は 2011 年の排水口、(f)は 2012 年の排水口で採捕された個体数 を示す。(c)∼(f)図中の横線はウケを設置した期間を示す。図中の矢印は「水すまし水田」への取水を開 始した日を示している。

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および 2012 年ともに調査期間中で最大の降雨があった 日の当日、もしくは次の日に最も多かった。そのことか ら、一時的水域におけるナマズの侵入(Maehata 2007) やアユモドキの産卵(Abe et al. 2007a, b)のように、ス ジシマドジョウ種群の「水すまし水田」への侵入および 産卵は、日間 40 mm 以上のまとまった降雨により誘発 されると考えられる。  2012 年に行ったウケ採捕調査では、標準体長 42 ∼ 107 mmの成魚が採捕された。標準体長 60 mm 未満の成 魚はビワコガタスジシマドジョウ、60 mm 以上の成魚 はオオガタスジシマドジョウの可能性が高いことから (Nakajima 2012)、2 種ともに成魚が「水すまし水田」に 侵入していたと考えられる。また、4 月∼ 6 月のいずれ の採捕調査でも標準体長 40 ∼ 100 mm の成魚が採捕さ れたことから、両種の繁殖時期は概ね重なっていると推 察される。ただし、これらの成魚の 92%は標準体長 60 mm以上の個体であったことから、「水すまし水田」に 侵入した成魚の大部分はオオガタスジシマドジョウであ ったと考えられる。 繁殖場所  水生植物帯において 2012 年 5 ∼ 10 月に行った採捕調 査では、5 月に合計 11 個体の成魚が採捕されたのみで あった。2012 年には「水すまし水田」では 6 月 20 日に 最も多くの成魚が侵入したが、この時期には水生植物帯 では成魚は採捕されていない。また、2014 年には「水 すまし水田」では 6 月 7 日に幼魚が採捕されたが、水生 植物帯では同日までの採捕調査で幼魚が採捕されなかっ た。それらの結果から、「水すまし水田」と比較して、 水生植物帯では成魚および幼魚の出現時期と出現個体数 が限られており、スジシマドジョウ種群の産卵は限られ ているか、もしくは行われていないと推察される。琵琶 湖の沿岸部におけるスジシマドジョウ種群の繁殖場所お よび繁殖時期について、今後さらに調査を進める必要が ある。  農業用水路において 2011 年 11 月∼ 2012 年 10 月に行 った採捕調査では、主に 4 ∼ 6 月に成魚が採捕された。 斉藤・松田(1990)は、オオガタスジシマドジョウは周 年水のある泥底の用水路で産卵すると述べている。本研 究で調査を実施した農業用水路は周年通水し、底には泥 が堆積しており、斉藤・松田(1990)の記述に該当する 環境であるにも関わらず、幼魚が採捕されなかった。ス ジシマドジョウ種群は、本調査地の農業用水路ではほと んど産卵していないと考えられる。本調査地の農業用水 図 5.「水すまし水田」の取水口と排水口に設置したウケで、2012 年に採捕された成魚の標準体長の分布。白色 は取水口、黒色は排水口で採捕された個体を示す。(a)は 4 月 25 ∼ 27 日、(b)は 5 月 4 ∼ 6 日、(c)は 5 月 15 ∼ 17 日、(d)は 6 月 18 ∼ 20 日、(e)は 7 月 12 ∼ 14 日に採捕された個体の測定結果。

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路には湧水が湧いており、スジシマドジョウ種群の繁殖 期にあたる 5 ∼ 6 月の間、農業用水路の水温は 14.1 ∼ 19.3℃の範囲であり、「水すまし水田」よりも 0.7 ∼ 8.3℃低かった。ビワコガタスジシマドジョウとオオガ タスジシマドジョウの受精卵は 20℃でも正常に発生で きることが明らかになっているが(皆森 1954)、農業用 水路の低温環境が、「水すまし水田」と比較して成魚の 繁殖場所や幼魚の生存場所として適していない可能性は ある。  「水すまし水田」と水生植物帯、および農業用水路に おける成魚および幼魚の出現状況から、本研究の調査地 では、スジシマドジョウ種群は主に「水すまし水田」で 繁殖していると考えられる。北原(2007)は、静岡県で は、人為的に移入されたオオガタスジシマドジョウが灌 漑期にのみ通水する農業用水路で繁殖していることを明 らかにしている。「水すまし水田」も北原(2007)の農 業用水路も、一時的水域であることが共通しており、こ れらの研究結果は、オオガタスジシマドジョウが周年水 のある水域で産卵するという斉藤・松田(1990)の記述 と異なっている。オオガタスジシマドジョウが産卵場所 として一時的水域を選好しているのか、それとも植生や 底質等の他の環境条件によって産卵場所を選好している のかについて、今後詳細に調査する必要がある。  斉藤・松田(1990)は、繁殖期以外の時期にはビワコ ガタスジシマドジョウは本湖および沿岸域の用水路、オ オガタスジシマドジョウは主に本湖に生息していると述 べている。本研究では 2011 年 11 月∼ 2012 年 10 月に農 業用水路で採捕調査を行ったが、繁殖期にあたる 4 ∼ 7 月以外の時期には、2012 年 2 月に 1 個体(標準体長 72 mm)が採捕されたのみであった。この個体は標準体長 からオオガタスジシマドジョウと推察される。本調査地 はビワコガタスジシマドジョウの生息個体数が少なく、 本研究の採捕努力量では採捕できなかった可能性がある。

今後の課題

 調査地周辺には多数の水田があるが、これらの水田は 琵琶湖逆水の利用、および水田と農業用水路との落差に より、農業用水路から水田内に魚類が侵入することが困 難になっている。スジシマドジョウ種群の成魚の産卵・ 幼魚の成長場所を確保するために、水田に両種が侵入で きるようにすることが必要である。今後さらに多くの水 田で魚道の設置等を行うことが望ましい。  ビワコガタスジシマドジョウとオオガタスジシマドジ ョウの種間での生態的差異について明らかにすること は、両種の保全策について具体的に検討する上で重要で ある。しかし、ビワコガタスジシマドジョウとオオガタ スジシマドジョウは外部形態が類似していることから 図 6.「水すまし水田」において 2014 年の調査で採捕された幼 魚の標準体長。(a)は 6 月 7 日、(b)は 6 月 21 日、(c)は 7月 4 日に採捕された個体の測定結果。調査日間で採捕努 力量が異なることから、個体数をサイズクラスごとの割合 に変換した。 図 7.水生植物帯において 2012 年 5 月 6 日∼ 10 月 29 日に設 置したウケ(4 個)で採捕された個体数。白色は標準体長 40∼ 59 mm、黒色は標準体長 60 mm 以上の個体を示す。

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(Minamori 1956;斉藤 1984)、本研究のように野外で多 個体を採捕・測定する調査を行う場合、現地での素早い 目視同定は誤同定を起こす確率が高い。また、スジシマ ドジョウ種群は種群内で雑種個体ができることが交雑実 験より明らかになっており(皆森 1951)、野外で交雑し ている可能性があるが、目視同定では雑種個体を見分け ることができない。さらに、仔稚魚については目視同定 はほぼ不可能である。今後、集団遺伝学的な手法を用い て種判別を行いながら、琵琶湖やその周辺水域において 両種の生態を調べることが不可欠である。そのような手 法によって得られた知見に基づき、スジシマドジョウ種 群の生態に関する既存の知見を再検討する必要がある。

謝 辞

 本研究を行うにあたり、新旭町針江地区の阿南健次氏 と阿南妙子氏には、調査の便宜を図っていただいた。滋 賀県湖北農業農村振興事務所田園振興課の本田幹雄氏お よび新旭土地改良区の皆様には、現地での調査にご協力 いただいた。滋賀県立大学の皆川明子助教には、本研究 を進める上で有意義なご助言をいただいた。2 名の査読 者には建設的なコメントをいただいた。ここに記して、 深く感謝の意を申し上げる。

引用文献

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たり 10 m2)の結果。(b)中の灰色は採捕を行わなかった

(10)

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参照

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