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アナリシス

特集:深海へ向かう世界の石油・天然ガス開発事業

水深2,000mを超えた生産井

─油・ガス田開発の進歩

 石油開発技術は、地域的な必要性に対応して進歩し、短期間のうちに世界的に普及する傾向にある。大 水深開発は、1990年代には北海とメキシコ湾およびブラジルで進められ、その成果が西アフリカと東南ア ジアに応用されてきた。近年のエネルギー需要の増大と高油価が続く環境の中で、世界の石油・天然ガス 開発の対象は、寒冷・極地などの難開発地域や天然ガスさらに重質油へと拡大しているとともに、再び大 水深開発への関心が高まっているように見受けられる。すなわち、埋蔵量を確保するためには大水深や極 地などの開発が難しい地域と、これまで利用しにくかった資源に挑戦しなければならないという事実と、 大水深でも大埋蔵量の構造が存在するという事実に基づいて開発が進められている。歴史的に見ると、北 海、メキシコ湾、ブラジル沖、西アフリカでは、大水深開発を進めなければならない、次のような必然性 が存在している。 北 部 北 海:特にノルウェー西岸のフィヨルドは、陸から直ちに水深300mの海が広がり、そこに巨大油 ガス田が存在するとともに、ノルウェーと英国はエネルギー自給、さらに輸出を図った。 メキシコ湾:浅海域には多数のプラットフォームと陸上へのパイプライン網があり、このインフラに接続 するタイバック(Tie-back)により、大水深域油ガス田を低コストで開発できるとともに、 1980年代以降、大水深域でも埋蔵量の多い油田が発見された。 ブラジル沖:Campos Basinは大水深ほど埋蔵量が多く、南半球にあるため、ヨーロッパの冬に稼働でき ない作業船を有利に調達できる。 西アフリカ:ブラジル沖と同じ地質構造を有し(すなわち、大水深に巨大油ガス田が存在し)、南部・中 部北海での生産が縮小してきたメジャーが、歴史的な関係と地理的近さから新たな埋蔵量確 保に進出しやすい。  このような必然性の中で、1990年代以降急速に進められてきた大水深開発の技術、最新動向、今後の展 望を報告する。

1.

大水深開発技術

(1)海洋開発の現状  まず、現在までの到達点を示す(図1)。 図には、水深300m以上の開発実績が プロットされている。大水深開発は 1990年代に急速に進展し、実績の上限 をProven Technologyと見なせば、21 世紀に入り水深1,500mを何らかのコン セプトで開発できることがわかる。  このような状況を反映して大水深の 定義は変化し、90年代初頭には大水深 300m、超大水深1,000mとされたが、 現在は、超大水深を1,500mという人

Production Start Year

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 Subsea Well (SPS) Platform W at er D ep th ( m ) FPS FPSO Jacket/GBS/Tower SPAR SPS TLP Proven Technology 図1 大水深開発実績

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が多い。世界にジャケット(Jacket) プラットフォームは約7,000基あるが、 水深300m以上のジャケットはわずか 7基である。大水深を300mとする根 拠はこのあたりにある。 (2)大水深の探鉱から開発  石油ガスの開発生産技術は、探査・ 掘削・開発・生産に大別される。これ らの各技術分野で、どのような技術開 発が行われて大水深開発が可能となっ たかを考察する。 ⒜ 探査技術  探査技術の革新は、三次元地震探査 法(3D震探)の発達に代表される。探 査精度が大幅に向上し、試掘井の成功 率は、一般には、二次元(2D)震探に よる試掘成功率が20%程度であったの に対して、3Dでは30~50%程度に向 上している。さらに、最大では70~ 90%に達するともいわれている。正確 な油層構造を知ることにより、適切な 開発システムを設計し、開発コストを 削減するとともに、開発リスクを大幅 に軽減することができるようになった。  3D震探のデータの精度と情報量の 向上は、探査船の測位技術の向上、ス ト リ ー マ ー 曳えい航こう能 力 の 向 上 、 コ ン ピューターの情報処理能力の向上に よって可能となった。航行船舶の位置 は、GPS(Global Positioning System) により誤差が1m以下になり、船舶が 大型化して、6,000mのストリーマー を8~12本曳航できるようになった (図2)。データ処理技術の向上によ り、地震探査から数週間で構造を解釈 できるようになった。3D探査船は 1980年代以降数多く建造され、現在、 ストリーマーを6本以上曳航できる探 査船は38隻稼働していて、うち10本以 上は13隻、20本曳航できる船舶が4隻 ある(Offshore Magazine, March, 2006)。その成果として、北海の巨大 油ガス田の発見に続き、ブラジル沖と メキシコ湾、西アフリカの大水深海域 でも大きな発見が続いた(図3)。 ⒝ 掘削技術   掘 削 技 術 の 革 新 は 、 水 平 掘 削 (Horizontal Drilling)と大偏へん距きょ掘削 (Extended Reach Drilling)に代表さ れる(図4)。水平坑こう井せいにより生産性 と回収率が大幅に向上した。垂直坑井 に比べて油・ガス田全体の坑井数を半 分程度にまで減少できる例もあり、油 層が薄く埋蔵量が小さい油田の開発も 可能となった。水平坑井は、垂直坑井 に比べて油層内での接触面積が大きい ため、1坑井当たりの生産性は垂直坑 井の20倍程度といわれている。  大偏距掘削は、一つの場所から広い 範囲の油層に到達することを可能に し、生産処理用のプラットフォームの 数を減らし、隣接フィールドの開発を 掘削リグ 水平掘削 大偏距掘削 油層 図4 水平掘削と大偏距掘削

Discovery of Deepwater Fields

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 1980 1985 1990 1995 2000 2005 Year Water Depth (m) GOM Brazil West Africa Brazil GOM West Africa 図3 大水深油ガス田の発見 Active Section (white:ch1∼ ch96) Stretch Section (red) Research Vessel

Water Break & Depth Meter (green) Depth Controller (blue) Lead in Cable Weight Section Multi-channel Streamer Tail Bouy ch2 ch96 ch1 図2 三次元地震探査法

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可能にした。大偏距掘削の最長記録は 英国のWytchで、1998年に陸上から海 洋に向かって掘削された10.1kmであ る。また、1坑井から複数の油層に枝 分かれするマルチラテラルウェル、複 数の油層を貫くデザイナーズウェルが 採用され、経済性を飛躍的に向上させ た。BPはアラスカのPrudhoe Bay地 区において、5層を対象に五つのマル チラテラルウェルを掘削し、130km2 の油層から3,500bpdの油を生産してい る(Oil & Gas Journal, May 2, 2005)。97年11月に生産を開始した Hibernia(St. John’s Newfoundland沖 3 1 5 k m 、 水 深 8 0 m 、 可 採 埋 蔵 量 615MMbbl、13万5,000BOPD、重力式 プラットフォーム)では、海底仕上げ 井に代えて大偏距掘削井を採用するこ とで、プロジェクト全体の開発コスト を20%削減したと報告されている。  ドリルパイプの設計も改良された。 従来は10mの単管を現場接続していた が、1990年代前半にコイルド・チュー ビング(Coiled Tubing)とよばれる 小型軽量の連続チュービング(ドラム に巻き取られている)が実用化され、 掘削時間とコストを削減した。また、 ワークオーバーにも利用され、生産コ ストの削減にも寄与してきた。   M W D ( M e a s u r e m e n t W h i l e Drilling)の小型化と検知能力の向上 により、ビットの制御が向上した。掘 削方向を自由に変えて正確な掘削が可 能となり、薄い油層から効率的に生産 できるようになった。  大水深の掘削では、大容量のデリッ クを搭載した最新鋭のリグが次々と建 造されつつあり、水深3,000mの掘削 も可能となってきた。1999年から2000 年にかけて、Pride、Trans Ocean、

Sedoc Forex、R&D Falcon等の大手 リグコントラクターにより、26基の大 水深リグ(セミサブ16基、ドリルシッ プ10基)が建造された。リグの建造 ブームは2002年がピークで、2003年4 月現在、水深3,000ft(約900m)以上 で稼働できるリグは89基(シップ36基、 セミサブ53基)となっている。これら の大水深リグは、チェーンやワイヤ ロープによる係留ではなく、スラス ターを用いたDPS*1により位置保持を していて、IMO*2の定める冗長性の高 いDP3またはDP2のクラスを取得して いる。  最大掘削記録は、2003年のメキシコ 湾 ( G u l f o f M e x i c o : G O M ) の Alaminos Canyon Block 952における ドリルシップDiscoverer Deep seas (Transocean Sedco Forex社)の

3,051mである(図5)。 ⒞ 開発技術  開発技術の要は、石油やガスを生産 するプラットフォームの大水深対応、 フレキシブルライザーおよび海底仕上 げ井とその遠隔操作、さらに海中作業 用 の R O V ( R e m o t e l y O p e r a t e d Vehicle)等で(図6)、大水深ではこ れらの曳航・輸送・設置工事は重要な 技術である。 ① 浮遊式生産システム  ジャケットは世界中に約7,000基あ り、海洋石油ガス生産の主力となって いる。しかし、その製作据え付けコス トは、水深の増加に対して大きく増加 するため、大水深では経済性が失われ る。ジャケットの最大水深記録は、 GOMのBullwinkleの水深412mで、 1988年に生産を開始して以来、この記 録は更新されていない。その間、大水 深開発に適用されてきたシステムは、 ほとんどが浮遊式である。FPS*3 FPSO*4およびSPAR*5などの浮遊式 生産システムの係留には、ワイヤロー プ、チェーン、ポリエステルロープな どが用いられる。材料費が安く、設置 が容易で、水深が増加しても構造物の コストはほとんど変わらず、係留索鎖 のコスト増加も小さい。 0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000 3,500 1960 1970 1980 1990 2000 2010 Year W at er D ep th ( m) Exploration Drilling Platform/Floating Facility Subsea Production Well Exploration Record : 3,051m

(GOM Alaminos Canyon Block952) Drillship with DPS Discoverer Deep Seas (Transocean Sedco Forex) Producing Well Record :2,314m

GOM MC 657 Coulomb Deepest Foating Facility : 1,920m

GOM MC 474 Na Kika FPS

図5 試掘井と生産井の掘削記録

出所:"2004 Deepwater Solution & Records for Concept Selection", Offshore June 2004より作成

*1:Dynamic Positioning System(動的位置保持システム)複数個のスラスターの出力を制御して、船舶や海洋構造物を一定の位置にとどめるアクティブ な位置制御システム。

*2:International Maritime Organization(国際海事機関)国際連合の下部組織で、船舶の航路、交通規則、港湾施設の統一化を図るための統一規格の制定、 船舶や海洋構造物の安全性の基準、海洋汚染を防止するための基準などを制定している国際機関で、本部はパリにある。

*3:Floating Production System(半潜水型浮遊式生産システム)セミサブを用いた浮遊式生産システム。

*4:Floating Production, Storage and Offloading System(浮遊式生産貯油出荷システム)船舶を用いた浮遊式生産システムで、数日から数週間分の生産量 を貯蔵することができ、出荷はシャトルタンカーで行うためパイプラインが不要で、小規模油田や大水深油田に適している。

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② 係留  石油生産プラットフォームには、波 や風の中での揺れや変位を小さくし、 海底から生産される流体を輸送してい るライザーに悪影響を与えないことが 必要である。そのためには、構造物自 体が波や流れから力を受けにくいよう な構造であること、構造物を一定の範 囲内にとどめるだけの硬さと強さを 持った係留が必要となる。係留方法に は、ワイヤロープやチェーンとアン カーを用いる伝統的な索鎖係留と鋼管 による緊張係留がある。索鎖係留は FPSO、FPS、SPARに用いられてい る。緊張係留で係留されたシステムを TLP*6と呼ぶ。また、索鎖係留の大水 深対応として、1997年以降ポリエステ ルロープが利用されるようになった。 【索鎖係留】  大水深で採用されている係留は、係 留索鎖の材質と展張方法により、次の 2種類に分類される(図7)。 *  カ テ ナ リ ー 係 留 ( C a t e n a r y Mooring):チェーンの自重で復原 力を得る方法 *  トート係留(Taut Mooring):ロー プの伸びで復原力を得る方法  カテナリー係留では、チェーンとワ イヤロープおよびドラッグアンカー (Drag Anchor)が用いられる。  トート係留はアンカー部に上向きの 張力が作用し、ドラッグアンカーでは 引き抜ける可能性があるため、サク ションアンカーまたはパイルアンカー が用いられる。カテナリー係留に比べ てトート係留は浮体からアンカーまで の水平距離が短く、海底に接する部分 がないのでフローラインとの干渉を避 けることができる。係留ロープに合成 繊維索を用いると浮体の負担が少なく 敷設も容易なので、Petrobrasでは他 社に先駆けて積極的に採用している。  また、係留索鎖を浮体のどの位置に 取り付けるかにより、次の2種類の方 法がある(図9の説明参照)。 *  多点係留(Spread Mooring):浮 体の3カ所以上を索鎖で係留する *  一 点 係 留 ( S i n g l e P o i n t Mooring):浮体の1カ所をタレッ ト係留(Turret Mooring)する  多点係留は1970~80年代、水深 500m程度以下の海域で応用されてき た。係留ラインは全長がチェーンであ る。90年代に水深500~1,000mで生産 するようになると、重量を軽減するた めにチェーン・ワイヤロープの組み合 わせが用いられるようになった。さら に、水深1,000m程度以上ではトート 係留が採用されるようになった。  一点係留はFPSOに採用されている 独特の係留方法である。FPSOは大型 タンカーを改造したものが多く、長さ 300m、排水量20万トンを超えるものも ある。巨大な浮体が係留状態で受ける 外力を小さくするために、外力が最小 となる方向に追随して浮体が自動的に 回転(Weather Vane)できる機構(図8) を有している。この機構をタレット (Turret)と呼び、タレットには係留索 鎖と生産流体を輸送するフレキシブル ライザーが接続されている。すなわち、 タレットは係留により海底から多点係 留で拘束され、FPSOはタレットに一点 係留され、生産流体はタレット内部の スイベル機構を経てFPSOに送られる (図9)(図の右方の船舶は原油を輸送す るシャトルタンカーである)。

*6:Tension Leg Platform(テンション・リグ・プラットフォーム)海底に固定されたテンドンで浮体を海中に引き込んで余剰浮力をかけた半潜水式の浮体で、 上下動がなく掘削・ワークオーバーリグを搭載できる。 係留半径 ≒ 水深 係留半径 ≒ 水深 係留半径 ≒ 水深の3倍 トート係留: ポリエステルロープ カテナリー係留: チェーン・ワイヤロープ Drag Anchor 図7 カテナリー係留とトート係留 Mooring (Conventional Catenary) Flexible Riser & Umbilical Mooring (Tuat) DPS Tendon Rigid Riser ROV (Operation) Flowline Assurance Deepwater Drilling

Multi Phase Pump or Subsea Separator SCR 浮体・プラットフォームの大水深対応 海底仕上げ井とその遠隔操作 フレキシブルライザー ROV 図6 大水深開発に必要な技術

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【緊張係留】

 緊張係留(Tension Leg Mooring) は、鋼管製のテンドン(Tendon)で セミサブ型の構造物を海底から拘束す るシステムである。構造物はテンドン で海面下に引き込まれ、すなわち余剰 浮力を有し、テンドンには常に正の張 力が作用するよう設計されている。こ の張力により水平面内の復原力が得ら れる。また鉛直方向には運動しないこ とが重要な特徴である(図10)(厳密 にはテンドンの伸びと水平面内運動に よる2次的変位があるが微少である)。 ③ フレキシブルライザー(Flexible Riser)  FPSとFPSOは、係留により緩やか に拘束されているので、変位や運動が 大きい。生産流体を海底面から浮体に 送るライザーが鋼管(Rigid)であると、 荒天時に破損する。そのため、浮体の 運動や変位を吸収できるフレキシブル ライザーが採用される(図11)。 ④ 海底仕上げ井とアンビリカル  フレキシブルライザーを採用する場 合、ライザーは湾曲しているため井戸 を掘削・補修するためのパイプやワイ ヤラインを通すことができない。その ため、井戸を制御するクリスマスツ リー(Christmas Tree)は海底に設置 され、ツリーとチュービング(生産用 のパイプ)を接続する海底仕上げとい う技術が実用化されている。クリスマ スツリーのバルブ等は、アンビリカル (Umbilical Cable)(図12)から伝達 される信号と動力によって遠隔制御さ れている。 ⑤ ROV  人間の潜水作業限界は300mである。 このため、大水深では機械作業が必要 である。海底のクリマスツリーの設置 やフローラインの繋つなぎ込み、あるいは 保 守 点 検 に は R O V が 利 用 さ れ る 。 ROVの稼働水深は近年大きく向上し、 海洋石油開発・生産に用いられる大型 のWork Class ROV(図13)には、 水深1,000mで使用できるものが1,000 基程度あり、水深2,000m以上で使用 できるものは数百基以上ある。図の ROVの諸元は次のとおりである。 長さ×幅×高さ-重量  =2.46m×1.52m×1.85m-3,300kg 推力=450kg スラスター:水平4基、鉛直3基 自動制御運転モード:方位、深度 マニュピレーター:2基(17機能+ 15機能) 図8 一点係留システムの概念 潮流 Weather Vane :浮体の一点を拘 束すると、浮体 は外力が最小に なる方向に向く FPSO Shuttle Tanker Turret Catenary Chain Subsea Tree PLEM

Turret はCatenary Chainで多点係留され、 FPSOはTurretに一点係留されている

図9 FPSOの係留システム

Wind Force

Current Force Tendon Tention Restoring Force

Reaction Force

Wave Force

図10 緊張係留システム(TLP) External Themo-Plastic Sheath

Crosswound Flat Steel Armors Flat Armor Profile

Zeta Profile Interlocked Steel Pressure Layer Internal Themo-Plastic Sheath

Interlocked Steel Carcass Carcass Profile

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Perry Slingsby Systems テザーケーブル 浮力材 スラスタ 前方監視ソナー 電子機器容器 電動油圧ポンプ 7 自由度マニピュレーター TV カメラ バン / チルト装置

図13 Work Class ROV

出所:http://www.singlebuoy.com/HTML/PressRoom/Downloads.htm(右側) ⑥ 海洋工事  大水深域は一般に遠隔地である。大 型の構造物を設置する場合、天候が急 変しても簡単に避難することは難しい ため、作業は迅速に進めなければなら ない。そのために大型のクレーン船が 開発されている。世界最大のクレーン 船は7,000ton吊りのクレーンを2基有 し、1万ton級の構造物を扱うことが できる。大水深に応用されている生産 設備のうち、完成状態で曳航できる FPSOとFPSの設置要領は次のとおり で、設置作業は比較的容易である。 ① アンカー・係留ロープなどを現 地にバージ(Barge)で輸送し、 仮敷設する。 ② FPSO/FPSを現地に曳航し、仮 敷設してある係留システムに接 続する。 ③ フレキシブルライザー・アンビ リカルを展張船で繰り出し、 FPSOとPLEM*7に接続する。  GBS*8も完成状態で曳航できるが、 排水量が大きくかつ曳航抵抗が大きい ため、5~10隻のタグボートによる曳 航が必要である。しかし、現地に到着 すれば注水・着底して設置を完了でき るため、設置作業は比較的容易である。  これに比べて、ジャケットとCPT*9 等の固定式とTLPおよびSPARは、完 成状態では不安定であるため、上載構 造と主構造は別々に現地輸送・曳航さ れ、現地でクレーン船により上載構造 を主構造に搭載・結合する。SPARの 場合、手順は次のとおりである(図14)。 ① アンカー・係留ロープなどを バージで現地に輸送し、仮敷設 する。 ② SPARを現地に曳航し、到着後 注水して直立させ、仮敷設して ある係留システムに接続する。 ③ 上載構造をバージに搭載して現 地に曳航し、到着後クレーン船 で吊り上げてSPAR上に搭載・ 結合する。 ④ 井戸を掘削し、あるいは掘削し てある井戸に生産ライザーを接 続し、さらに出荷SCR*10を接 続する。 ⒟ 生産技術  油層の生産状況の的確な把握による 生産効率の向上、ガスや水の圧入によ る生産圧力の維持による回収率の増 大、長距離化するフローラインの保全 技術の進歩などにより、大水深の生産 効率が飛躍的に増加した。特に、海底 面のサブシーウェルヘッド(Subsea Wellhead)からプロセスプラット フォームまで、生産流体を多相流のま ま送る技術は重要で、DeepStar(次 項⑷-⒝参照)やPROCAP2000/3000 (⑷-⒞参照)など多くの研究開発が行 われている。  生産が開始されてから3D震探を実 施し、時系列的に比較すると、油層内

*7:Pipe Line End Manifold:海底パイプラインと構造物との接続点やパイプラインの分岐点などに設けられるマニフォールド。

*8:Gravity Base Structure(重力式プラットフォーム)フィヨルドの発達した北海で多く用いられている海洋石油・ガス生産システム。着底して掘削・ 生産を行う。

*9:Compliant Piled Tower(コンプライアント・パイルド・タワー)ジャケットと同様の骨組みの構造物であるが、はるかに細長く、波との同調を避け て波力と慣性力が相殺(そうさい)されるように設計されている固定構造物。

*10:Steel Catenary Riser:生産した原油やガスを陸上に送るラインで、パイプラインをそのままプラットフォームに立ち上げた形式。

図12 アンビリカル Power Conductor Binding Tape Signal Pair PP String Filler Hydraulic Hose

Galvanized Stell Armor Wire

Longitudinal Stripe Thermoplastic Inner Sheath

Thermoplastic Outer Sheath Binding Tape

Binding Tape PP String Filler

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の水の存在、ガスと水の比、圧力変化 などが把握できる。その情報に基づい て水やガスの圧入量を適切に設定すれ ば、回収率を増大することができる。 このような時系列的な比較を、4D震 探 と い う 。 た と え ば 、 英 領 北 海 の Foinavenでは1995年に3Dを実施し、 さらに生産開始数カ月後に再び3Dを 実施し、両者のデータを比較すれば、 回収率を40~50%から65~70%に向上 できると予測された。ノルウェーの Gulfaks、Oseberg、Statfjodの平均回 収率は60%弱と推定されてきたが、 S t a t o i l は S t a t f j o d ( 原 始 埋 蔵 量 3,680MMbbl、1979年生産開始)の回 収率を70%まで引き上げる計画を実施 している。同油田は当初、今世紀中に 生産を終了する予定であったが、マル チラテラルウェル、震探、ガス圧入な どを導入した結果、生産期間を23年間 延長し、2020年まで生産することに なった。Osebergeでは、1991年から Trollのガスを圧入して石油生産の増 大を図っており、Osebergがガス生産 を開始する2000年からは、圧入した Trollのガスも同時に生産している。 ⒠ コスト削減  コスト低減は技術革新だけでなく、 ルールや基準とも密接に関係するた め、国を含めた努力が行われている。 同時に税制面での緩和や優遇も行わ れ、英国とノルウェーでの生産量の増 大に寄与している。要素機器の仕様の 標準化、基準や書類の標準化、契約の 合理化などが行われてきた。  契約は、従来の請負契約(Lump Sum Contract)から、アライアンス (Alliance)とよばれる契約方式が多 く採用されるようになってきた。アラ イアンスでは、発注者と受注者が共同 のチームを編成し、プロジェクト全体 を管理し、リスクと利益を一定の範囲 内で共有する。組織がスリムになり、 意思決定がスムーズに行われ、無駄が 省かれる。結果として、技術移転と石 油業界の縮小につながった。 (3)大水深開発システム ⒜ 実績  2005年までに大水深に設置された生 産設備は、撤去されたものを含めて次 のとおりである。  • GBS:1基 最大水深303m North Sea

Troll East Gas, Statoil 1996年  • Jacket:7基 最大水深412m GOM Bullwinkle, Shell 1989年  • CPT:3基 最大水深535m GOM Petronius, ChevronTexaco 1999年  • TLP:20基 最大水深1,432m GOM Magnolia, ConocoPhillips 2004年 Wet Tow Upending Lifting Mating Installation Completed 図14 SPARの曳航・設置

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 • SPAR:13基 最大水深1,710m GOM DevisTower Dominion E&P 2004年  • FPSO/FSO:41基 最大水深1,853m Brazil Roncador, Petrobras 1999年  • FPS:22基 最大水深1,920m GOM NaKiKa, Shell 2004年  • SPS*11:83基以上 最大水深2,314m GOM Coulomb, Shell 2004年  深海の井戸からフローラインでより 浅海の(多くの場合既存の)生産設備 (多くの場合Jacket、浮遊式も少なくな い)につなぎ込むSPSは、浅海域のイン フラが発達している地域では、コスト 面で最も有力な候補である。シャトル タンカーで原油を出荷できるFPSOは、 インフラのない地域や遠隔地の単独開 発では有力なシステムである。FPS、 TLP、SPARはその特性に応じて採用 さ れ る 。 固 定 ・ 着 底 型 の J a c k e t 、 CPT、GBSの水深限界は300~500mほ どである。以下に、浮遊式生産システ ムに関して簡単に特徴を記す。 ⒝ FPSO  FPSO(図15)の特徴は、原油を貯 蔵しておいてシャトルタンカーに出荷 できること、超大水深にも対応できる こと、タンカーを改造して利用できる こと、大生産にも対応できること、穏 海域では多点係留によりコスト削減を 図れること(図16)、タレット係留に より厳海域でも採用できること等であ る(図17)(図は浅海域のFPSOを含む)。 ⒞ FPS  FPS(図18)の特徴は、FPSOと比 較して外力や動揺が小さいこと。その ためタレットは不要であるが、鋼管の ライザーを採用できるほどには動揺が

*11:Subsea Production System:Subsea Tie-Back Systemとも言う。サブシーウェルヘッドと浅海域にあるプラットフォームをフローラインで接続して生 産するシステム。狭義には、海底にセパレーターを設置して生産流体を油・水・ガスに分離するシステムをいう。この場合、海底面で圧力が開放され るので生産量が増加し、また水が分離されるのでハイドレート生成が緩和される。

図15 FPSOの概念

出所:Lean Meek "Offshore East" Heerema

<100m (48%) 101-300m (29%) 301-1000m (17%) >1001m (6%) unknown(1%)

(a) Water Depth Range

<50,000bpd (45%) 50,000-100,000bpd (27%) >100,000bpd (13%) unknown (15%) (b) Production Range Conversion (62%) New Build (27%) Unknown (11%)

(c) Conversion or New Build

Turret (48%) Buoy (29%) Spread (17%) Unknown (6%) DPS Assist (5%) (d) Mooring 図16 FPSOの適用範囲

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小さくないので、フレキシブルライ ザーは必要である。セミサブリグから の改造が多く(全体の90%)、改造で は次のような考慮が必要である。  •  居住区の拡大(セミサブリグ: 80~90人、FPS:90~120人)  •  安全設備(救命艇等)の収容能 力・個数の増加  •  プロセス設備、海底ウェルヘッ ド制御、発電機等のユーティリ ティーシステムの交換・増設  •  新規増設機器等に対する火災・ ガス探知装置および消火設備の 増設  •  長期連続操業(点検のためのドッ ク入りをしない)に対する安全 性の確保(累積疲労を考慮した 係留システムのグレードアップ と船体構造の補強) ⒟ TLP  TLPは、掘削・ワークオーバー装置、 プロセス装置等を搭載した浮体と、係 留用テンドンとその海底基礎、生産用 リジッドライザーおよび坑井テンプ レート等から構成される(図19)。浮 体の構造形式はセミサブと類似してい るが、係留方法が異なる。セミサブの 係留はカテナリーであるが、TLPの 係留は、TLPと海底基礎とをパイプ (テンドン)で接続し、浮体の余剰浮 力を利用して定点保持する緊張係留方 式 で あ る 。 こ れ ま で に 建 造 さ れ た TLPは合計20基あり、設計または建造 中が3基ある(図20)。実績の第1基 はConocoのHutton TLPで、1984年に 水深145mに設置された。しかし、こ の水深はTLPの利点を発揮できる水 深ではなく、テスト的な意味合いが強 く、2001年に生産を終了してすでに撤 去された。また、北海にあるHeidrun のみがコンクリート製で、その他は鋼 製である。地域的にはGOMに大多数 の15基があり、ブラジル沖のみは実績 がない(⑷-⒞参照)。 Cote d'Ivoire 2 Cote d'Ivoire 2 Egypt 1Egypt 1

Equiatorial Equiatorial Guinea 3 Guinea 3 Gabon 1 Gabon 1 Nigeria 5 Nigeria 5 Tunisia 2 Tunisia 2 Australia 7 Australia 7 China 9 China 9 Indonesia 5 Indonesia 5 Thailand 2 Thailand 2 Philippines 1 Philippines 1 Malaysia 3 Malaysia 3 New Zealand 1 New Zealand 1 Vietnam 7 Vietnam 7 Angola7 Angola7 Brazil 13 Brazil 13 Canada 1 Canada 1 Mexico 2 Mexico 2 Italy 1 Italy 1 Norway 7 Norway 7 UK 20 UK 20 Congo 2 Congo 2 South Africa 1 South Africa 1 Cote d'Ivoire 2 Cote d'Ivoire 2 Cote d'Ivoire 2 Egypt 1Egypt 1Egypt 1

Equiatorial Equiatorial Equiatorial Guinea 3 Guinea 3 Guinea 3 Gabon 1 Gabon 1 Gabon 1 Nigeria 5 Nigeria 5 Nigeria 5 Tunisia 2 Tunisia 2 Tunisia 2 Australia 7 Australia 7 Australia 7 China 9 China 9 China 9 Indonesia 5 Indonesia 5 Indonesia 5 Thailand 2 Thailand 2 Thailand 2 Philippines 1 Philippines 1 Philippines 1 Malaysia 3 Malaysia 3 Malaysia 3 New Zealand 1 New Zealand 1 New Zealand 1 Vietnam 7 Vietnam 7 Vietnam 7 Angola7 Angola7 Angola7 Brazil 13 Brazil 13 Brazil 13 Canada 1 Canada 1 Canada 1 Mexico 2 Mexico 2 Mexico 2 Italy 1 Italy 1 Italy 1 Norway 7 Norway 7 Norway 7 UK 20 UK 20 UK 20 Congo 2 Congo 2 Congo 2 South Africa 1 South Africa 1 South Africa 1 図17 稼働中のFPSO

Floating Production Vesse l Semisubmersible Hull Oil/Gas/Water Separation Subsea Wellhead Control Accommoadtion Heliport Flare

Flexible Risers/Umbilicals Riser/Umbilical

Midwater Arch (Buoyancy Tank) Riser Base

Mooring Line Wellhead Base Satellite Wellhead Flowline

Water Injection Line

Control Umbilical

Wireline Workover Riser/BOP Floating Production Vesse l

Semisubmersible Hull Oil/Gas/Water Separation Subsea Wellhead Control Accommoadtion Heliport Flare

Flexible Risers/Umbilicals Riser/Umbilical

Midwater Arch (Buoyancy Tank) Riser Base

Mooring Line Wellhead Base Satellite Wellhead Flowline

Water Injection Line

Control Umbilical Wireline Workover Riser/BOP 図18 FPS Semisubmersible Hull Tendon Production Riser Foundation Pile Accommodation Topsides (Production/Utility) Well Foundation Template Export SCR (Steel Catenary Riser)

Crane Deck

(10)

⒠ SPAR  SPARの特徴は上下動が極めて小さ く、TLPと同様クリスマスツリーをプ ラットフォーム上に搭載し、掘削・ワー クオーバーができることである。Oryx が1996年に、GOMのNeptune(Viosca Knoll 826、水深588m)に世界初の生 産用SPARを設置し、97年より生産を 開始した。構造物の大きさは、長さ160 ~200m、直径20~40mの巨大なシリン ダーである。生産用SPARの実績は、 GOMのみで13基(図21、図には最大 水深1,710mのDevis Towerがない)あ る。最初の3基はシリンダー構造で あったが、4基目以降は下部が減揺機 能を兼ねたトラス(Truss)構造となっ ており、Truss SAPRとよばれる。そ のほかにユニット建造によるコスト削 減を図ったCell SPARがある(図21の Red Hawk)。  係留はポリエステルロープによる トート係留か、チェーン・ワイヤロー プ に よ る ト ー ト ・ カ テ ナ リ ー 係 留 (Taut Catenary Mooring)である。 (4)地域的特徴  地域により、気象・海象と経済・社 会・文化が異なるため、開発・生産方 式と技術の採用方針などが異なる。 ⒜ 北海  北海の開発は、1980年代に水深 100m以下の南北海から開発が始まり、 90年代に水深300m程度の北部北海が 開発された(図22)。北部北海は世界 で最も海象が厳しく(図23)、北欧は 環境配慮基準が厳しく、また、物価が 高い。しかし、巨大油ガス田が多く生 産性が高いため、世界の他の地域と比 べて1.5~2倍のコスト高でも経済的 生産が成り立っている。  そして、厳しい海かい象しょうと大水深という 条件を克服するために、さまざまなシ ステムが考案され、FPS、GBS、TLP などは最初に北海で採用された。地勢 図20 稼働中・計画中のTLP

出所:Offshore Magazine, October 2005, "2005 World Survey of TLPs," TLWPs

図21 稼働中のSPAR

出所:"Technologies and Products: Floating and Fixed Facilities", Technip

図22 北部北海と北太平洋の開発 3 2 1 4 5 6 7 8 9 10 1112 13 14 15 16 17 18 Ormen Lange

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上の利点と当時の鋼構造建造技術の不 足を補う観点から、コンクリート製の GBSが多く採用されているが、コンク リート製のFPS(Troll West)とTLP (Heidrun)もある。ただし、大水深 用のコンクリート製GBSはノルウェー のフィヨルド(静穏で水深300mに達 する深い港湾)という特殊な条件の中 で開発されたもので、他の海域に簡単 に応用できるわけではない。なお、水 深300m以上のGBSはHordaの1基だ けであるが、世界全体では約40基あり、 そのうち約10基はノルウェー海域に、 約15基は英国海域にある。  また、ヨーロッパの開発では、政府 と企業が一体となったコスト削減プロ グ ラ ム C R I N E ( イ ギ リ ス ) や NORSOK(ノルウェー)が実施され、 数十パーセントのコスト削減に成功し ている。この努力がNorth Atlanticの 開発を可能にした。  北海では90年代後半以降、新規油ガ ス田の発見が減少したため、開発企業 はGOMと西アフリカに活動範囲を広 げている。また、コスト高の単独開発 を避けて複数油ガス田の段階的開発や 既存設備へのタイバック(Heidrun NordやSnorre Nordなど)が試みられ ている。さらに、4D震探、水圧入、 多相流ポンプの採用などにより、可採 埋蔵量の増加を図っている。  より困難な開発への挑戦も続けられ ている。ノルウェーのNyhamnaから Sleipner Platformを経て英北東部の Easingtonガス受け入れプラントに、 世界最長の1,200kmのLangled Pipeline でガスを輸送するOrmen Langeを開 発中で、北極圏のバルト海など流氷域 の開発も検討されている。 ⒝ GOM  SPSが最も多く採用されている海域 はGOMである。GOMでは水深180m (600ft)以下に多数のジャケットがあ り(総数約4,000基)、そこで処理され た油やガスは陸上へパイプラインで送 られている。このインフラに接続(タ イバック)すれば、より大水深域油ガ ス田を低コストで開発できる。  そのための共同研究DeepStarが 1992年より始められた。目標は、水深 600ft(約180m)の既存設備に半径60 マイルで接続できる水深6,000ft(約 1,800m)までを効率的に開発し、単 独開発では採算にのらない50MMboe の油田を段階的に開発することである (図24)。  このプロジェクトには石油企業20社 ( P a r t i c i p a n t s ) と メ ー カ ー 6 0 社 (Contributors)が参画している。大 水深開発の進展と技術的成功に伴い、 Phase-3(1996~97年)では目標水深 は2,000mに上方修正され、さらに Phase-4(89~99年)では1万ft(約 3,000m)あるいは1万2,500ft(約 0 5 10 15 20 25 30 35 0 10 20 30 40 50 60 70 80

Wind Speed (m/sec)

Max. Wave Height (m)

North Sea, GOM, Strong Typhoon SEA

Mild South America Mild SEA, West Africa, Brazil Non-Typhoon SEA

Mediterranean

Weak Typhoon SEA, Mediterranean, South America GOM, Typhoon SEA, Australia

Hmax = 12m Hmax = 16m Hmax = 19m Hmax = 23m Hmax = 30m 図23 世界の海象 図24 GOMの開発

(12)

3,750m)まで目標を高めた研究が進 められてきた。その結果、2002年には BPがKing’s Peak(水深1,890m)で、 TotalFinaElfがAconcagua(2,146m) で 、 M a r a t h o n が C a m d e n H i l l s (2,197m)で生産を開始した。これら はCanyon Expressと呼ばれ、浅海の MC261 Canyon Stationにタイバック されている。このようにGOMでは水 深2,000mの開発が可能となっている。 ⒞ ブラジル沖  ブラジルの海洋石油生産の舞台と なってきたCampos Basin(図25)の 特徴は、大水深域ほど埋蔵量が大きく、 油ガス層の海底面下深度が比較的浅 く、重質成分の含有量が大きいことで ある(図26)。  当初ヨーロッパ(北海)の技術を導 入したが、北海に比べれば海象の強さ が半分程度(従って、荷重は1/3程度) のCampos Basinにおいては過大設計 となっていた。また、導入した技術は ブラックボックスであることが多かっ たため、ブラジルは独自の技術開発を する必要に迫られた。  このため、1980年代に水深1,000m を 開 発 す る た め の 研 究 プ ロ グ ラ ム PROCAP1000を実施し、92年からは 2000年までに水深2,000mを開発でき るさまざまな技術を開発するProcap 2000を実施した。主要なテーマは、 FPSOとFPSの大水深係留システム、 大水深・長距離フローラインでの温度 低下に対する流路保全技術(Wax析 出、Hydrate生成を防止)、多相流輸 送とSubsea Separation等である。そ れらの成果として、1980年代以降、 Shellと競って、大水深の掘削・仕上 げおよび生産などの記録を次々と塗り 替えてきた。さらに、2003年からは水 深3,000mを目指すPROCAP3000が実 施されている。目標は①Extended Reach, Multilateral and Design/ I n t e l l i g e n t W e l l s 、 ② D r i l l i n g /

Completion in Ultra Deepwater、③ Hydrate and Wax Mitigationなどで、 対象鉱区はRoncador(水深1,500~ 2,000m)Marlim Sul(水深1,100~ 1,500m)などである。

 また、Campos Basinの北にある Espirito Santo Basinと南にあるSantos Basinでも可採埋蔵量10億バレル級の 構造が発見され、開発が進められよう としている。ブラジルでは長い間、国 営企業Petrobrasがヨーロッパの技術 を導入して、石油会社としては単独で 開発を進めてきたが、ブラジル経済の 低迷のため、1997年以降外国企業の開 発を積極的に受け入れるようになっ た。ブラジルの海洋石油開発の特徴は 次のとおりである。 ① 長期的に人員と予算が確保された計 画的研究開発プログラムに支えられ てきた。 ② 海象が穏やかなため(図23)、大水深 の係留システムの設計が容易である。 ③ 改造FPSや改造FPSOを多用し、初 期投資が少なくかつ資金回収が早い。 ④ Petrobrasが多数の油・ガス田を段 階的に開発しているため、設備の使 い回しができる。 ⑤ 長期リースにより、リグや作業船な どを廉価で調達できる。 ⑥ 冬期に海洋工事のできない北海の作 業船を廉価で調達できる。 ⑦ 先端技術を積極的に大水深開発に応 用するため、安全性の確保がおろそ かになっている面がある。 ⑧ 貯留層は非凝結-凝結砂岩で浸透性 はよいが、油層が海底面に近く、流 図25 ブラジルCampos Basinの開発

出所:Oil & Gas Journal / Aug 9, 2004

図26 ブラジルの石油・ガスの特徴

(13)

動点が低いためフローラインでパラ フィンやアスファルトが析出しやす く、流路保全技術が重要である。 ⑨ そ の た め 、 最 先 端 技 術 を 用 い た Phased Development(段階的開発) を行い、適切な油層評価を行うこと により、開発リスクを軽減している。 ⒟ 西アフリカ  西アフリカでは、1970年代から80年 代にかけて、RD/Shell、Chevron、 Mobil、Elf、ENIなどの欧米企業によ り、アンゴラ、ナイジェリア、コンゴ、 ガーナ、ベニン、コートジボワールな どで数多くの油田が発見された。  1990年代に入ると、世界的な大水深 探鉱は西アフリカにも及び、水深が浅 く海象が温暖な海域で開発を進めてき た伝統的な企業とともに、Exxon、 BP Amoco、Statoil、Norsk Hydro、 Ocean Energy、Ranger Oil等の新規 企業も探鉱に成功し、その結果、西ア フリカはカスピ海等とともに極めて大 きな未探鉱の有望海域と考えられるよ うになった。  西アフリカの大水深の有望性は、ブ ラジルのCampos Basinと比較して推 定できる。すなわち、ジュラ紀から白 亜紀にかけて分離した南アメリカと西 アフリカは、その生成堆たい積せき盆地が対称 に配置されていて、コンゴ、ガボン、 アンゴラに連なるLower Congo Basin とブラジルのCampos Basinは多くの 共通する地質的特徴を備えている。  西アフリカの開発で重要なことは、 この海域の海象が世界的に見て極めて 穏やかなことである(図23)。厳海域 のFPSOは、外力を軽減するために船 体が鉛直軸周りに回転できるタレット 構造と、生産流体のスイベル機構を採 用しているが、西アフリカでは多点係 留が可能な海域が多く、高価なタレッ トとスイベルのコストを軽減できる。  たとえば、Zafiro FPSOは、サイズ が318m×56m×27mで170万bblの貯油 機能を有するULCC*12クラスの巨大な 浮体であるが、水深181mに12点係留 されている。  西アフリカで先駆的な活動を行って きたElfは、3,000mを念頭に置いた探 鉱を進めており、海象が特に穏やかな 西アフリカが、最初に水深3,000mに 達する可能性は高い。 ⒠ 東南アジア・オセアニア  東南アジアでは、①アジア地区の大 水深掘削リグの数が少ない、②浅海域 の海洋油田が発達してないため単独油 田開発となる場合が多い、③可採埋蔵 量の大きい油田が少なく、随伴ガスが 多いため投資が巨大になりやすい、④ 政情が不安定な地域がある、等の事情 により、開発された大水深油ガス田は、 水深310mのLiuhua11-1と水深348mの Lufeng 22-1など限られていた。  21世紀に入り、Unocalがインドネシ アのマカッサル海峡のWest Seno(水 深975m、油6万bpd、ガス150MMscfd) で、2基のTLPとFPSOおよびパイプラ インによって2003年に生産を開始した。 フィリピンPalawan島の北西の水深 850mにあるMalampayaでは、Shellが Malampayaの7坑とCamagoの2坑の Subsea Wellを開発し、天然ガス生産シ ステムの操業を2001年に開始した。生 産されたガスは2(本)×16"(径)× 30km(長)のガスパイプラインで水深 43mのGBSに接続し、ここで処理され たガスは24"(径)×504km(長)のパイ プラインでルソン島の発電所に送られ る。オーストラリアでは、北西部の沖 合で大水深開発が盛んになりつつある。 Woodside EnergyはSamsungの水深 350~900mに拡がるEnfield(WA-271P 鉱区、埋蔵量146MMbbl)用のFPSOを 発注し、2006年から10万bpdの生産を 開始する予定である。  また、この近くには日本企業もガス 田を保有し、2010年以降の生産開始を 目指している。

*12:Ultra Large Crude Carrier:積載量30万トン以上の超大型タンカー。

2.

技術開発と基準

(1)技術開発(課題)  一般論としては、需要が強ければ技 術は必然的に開発される。たとえば、 北海、メキシコ湾、ブラジル沖で、困 難と思われた大水深技術が短期間のう ちに開発された原因は、国や多くの企 業が大水深開発の必要性を明確に意識 したからである。しかし、技術開発は リスクを伴うため、石油ガス開発企業、 メーカー、船級協会等多くの関連組織 による共同事業として実施されること が多い。水深2,000mを開発できる現 在、水深3,000mが次のターゲットで ある。しかし、それを超える水深4,000 ~5,000mに石油やガスが存在すると 考えている人は多くないようである。 むしろ、これまであまり手をつけられ てこなかった極地・寒冷地の開発が、 大水深開発と並ぶターゲットとなるよ うに思われる。  ちなみに、石油開発はリスクの多い 仕事であるため、石油業界は一般に保 守的で、Proven Technologyを最重要 視して開発計画を策定することが多い。 いわゆるメジャーのうちBP-Amocoと Exxon-Mobileはこのタイプである。  これに対して、High Risk High Returnの考えから積極的に新技術を 採用してきたのはShell、Chevron、 Texacoなどであり、Petrobrasあるい

(14)

*13:最大暴風条件において、100年に1回起こるという再現期待値。

*14:Mobile Offshore Drilling Unit(移動式掘削構造物)セミサブリグ、ドリルシップ、ジャッキアップリグなど移動できるリグの総称。 は中小の開発企業であった。  大水深に応用されてきた生産システ ム は 、 水 深 記 録 順 に S P S 、 F P S 、 FPSO、SPAR、TLPの5種類である。 SPSの主要な設備は海底面のウェル ヘッドと浅海域の生産設備まで生産流 体を輸送するフローラインであるが、 ウェルヘッドを水圧3,000m対応にす ることは難しいことではなく、フロー ラインの敷設もPipe Lay Vessel(パ イプライン敷設船)の増強で対処でき ると考えられる。したがって、より大 水深になるほどSPSの有利性は強まる と考えられる。  FPSとFPSOおよびSPARはいずれ もロープなどで係留される。ロープ係 留(大水深ではTaut Mooring)も水 深3,000mへの応用はさほど難しくは ないと考えられる。ただし、フレキシ ブルライザーを採用しているFPSOと FPSは、その大水深対応(軽量化と高 強度化)が必要である。TLPの最大水 深実績は1,432m(GOMのMagnolia TLP)であり、鋼管テンドンの採用限 界は水深1,500m程度と考えられてい る。水深が増加するとテンドンの重量 が大きくなり、それを支えるために TLP自体も大きくなり、構造物が大き くなれば外力も大きくなり、再びテン ドンを強く(大きく)しなければなら ないという悪循環に陥るからである。  このような浮体構造に関する技術課 題を含めて、水深3,000mへの課題は 次のように考えられる。 ① フレキシブルライザーの軽量化・高 強度化(複合材料、高張力鋼) ② TLPのテンドンの軽量化・高強度化 (複合材料、チタン合金) ③ 防熱・加温による流路保全(Flow Assurance) ④ 大水深の生産性向上を図る海底セパ レーターの開発(P.8 *11参照) (2)基準  海洋構造物は種々の規格や基準・規 則に基づいて設計・建造され、操業中 も点検・保守される。国が定める基準 は国際基準を参照・採用している場合 とそうでない場合があり、大きく異な ることがあるが、主要国の船級協会の 基準はさほど変わらない。しかし、解 釈の違いなどがあり、世界共通という わけではない。 ⒜ ハリケーンKatrina /Ritaの影響  2005年8月、GOMを襲った二つの ハリケーンKatrinaとRitaは多大な被 害をもたらした。その実態は次のとお りで、基準の適切な運用と臨機応変の 改正が必要なことを明らかにしたが、 現時点では実現されていない。 ① 両ハリケーンはGOMで探鉱・生産 活 動 が 活 発 に 行 わ れ て い る 水 深 2 , 0 0 0 m 級 の G r e e n C a n y o n と Mississippi Canyonの外側にある Walker RidgeとAtwater Valleyに 達したとき風速175MPH、最大波高 約26mに達した。これはAPI(米国 石油協会)の100年ストーム*13の設 計波高より15%高い。 ② 海洋構造物は100年ストームで設計 されるが、セミサブリグなどの移動 式リグ(MODU*14)は万一の時は 避難できるという考え方から、10年 ストームで設計されていた。 ③ 両ハリケーンにより、113の石油・ 天然ガスの海上生産プラットフォー ムが破壊(全損又は修復困難な被害) され、その他53の施設が損害(修復 可能な被害)を受けた。 ④ 稼働していたMODUのうち、6隻 のドリルシップはハリケーンの進路 から離脱できたが、係留されていた セミサブMODUは、Ensco 7500を 除いて乗組員が避難し、MODUは 現 地 に 残 さ れ 、 そ の う ち 1 9 の MODUの係留索が破断し、一部の アンカーを引きずって漂流し、フ ローラインやパイプラインを損傷さ せた。そして、これらのMODUは 沈没し、あるいは座礁した。 ⑤ 浮遊式生産プラットフォームで甚大 な被害を受けたものは、Mars TLP とTyphoon TLPである。Marsはリ グが転倒したが、原因はTemporary RigのためTLPの主構造に溶接され ていなかったことである。Typhoon は転倒したが原因は調査中である。 ⑥ TLPは一般にテンドンに接続した 状態では安定であるが、テンドンが 切れた状態では不安定である(転覆 する)。 ⑦ このような状況に対してAPIでは、 MODUの係留とTLPの自立安定性 の基準を改正することを検討した が、2006年6月の委員会では改正さ れていない。 ⒝ Decommissioning(廃鉱撤去)  1980年代から本格化した海洋石油ガ ス開発は、現在に比べれば環境への配 慮を欠いていた。主要な問題は、掘削 屑をプラットフォームの下に投棄した ことと、撤去しにくい構造物を設置し たことである。  掘削屑には20年を経ても放射性物質 やオイルベースマッドが含まれ、撤去 すればその過程で一部を海中放散する ことになり、新たな汚染をもたらす。 現在は、掘削屑の海中投棄は禁止され、 またすべての海洋構造物は撤去可能な ように設計することを義務づけられて いる。大水深では浮遊式が主流である ため撤去は比較的容易と考えられる が、設計時には十分な配慮が必要であ る。 ⒞ 基準の動向  船舶と海洋構造物の基準は異なる歴

(15)

*15:Hazard Identification:リスク分析を行い、リスクレベルを許容値以下に抑える手法。

*16:As Low As Reasonably Practicable:実現可能な限りリスクを最小化する概念。可能という言葉には技術と経済性が含まれていて、技術的安全性・実 現性と経済性(企業が耐えられるか)を考慮して、リスクを許容レベル以下に抑えるような設計・対策を講ずる。許容レベルの判断は、企業(当事者) と国または必要に応じて国民(利害関係者)が協議する。

*17:P.6 *8の「Gravity Base Structure」のGBSとは異なる。

3.

日本の進路

 冒頭述べたように、容易に開発でき る場所や資源は多くないため、大水深 開発が注目されているが、日本国内を 見れば8,000mを超える日本海溝が 200km沖に存在するとともに、経済水 域が広いため、1,000km離れた東シナ 海には水深100mに有望なガス田が存 在する。  多くの国にとって大水深は遠隔地で あるが、日本では浅海域が遠隔地にも あるという特殊な事情があり、開発に は種々の条件をクリアしていかなけれ ばならない。 ①大水深天然ガス開発  サハリンは浅海を開発しているが、 日本企業が東南アジア・オセアニアで 開発するガス田は大水深域にある。  天然ガスは埋蔵量偏在が小さく、石 油に比べて炭酸ガス放出割合が小さい ため、開発に拍車がかかり、従来の L N G の 他 に G T L 変 換 、 C N G 輸 送 、 NGH輸送の研究が進められている。  その技術を大水深に適用するときに は、FLNG等の浮遊式システムが有望 となる。FLNGの要素技術はLNGプラ ント、FPSO、LNGタンカーで、いず れも日本が世界有数の実績を有する。 得意の技術分野に絞って開発を進める ことは重要な観点である。リスクの少 ない分野から始めて、技術を完成させ、 新たな埋蔵量の確保につなげることが 得策である。  しかし、組み合わせ技術としては新 技術であり、それなりのリスクを伴う ことも事実である。新技術を採用しな い限り技術発展は期待しにくく、した がって日本が有利にエネルギーを確保 することも容易でなくなる。そのた め、コンソーシアムによるリスク分散 史を持つ。船舶建造には長い歴史があ り、実績に基づいて設計基準が整備さ れてきた。多くの場合、経験則に解析 的・実験的知見を加味している。  そのため、1960年代に船舶が大型化 したときに経験則がカバーしきれずに 多数の事故を起こしたが、その後、基 準が改正され基準の不備による事故は なくなっている。そして、設計基準に 基づけば荷重計算や安全率計算をしな くても設計できるようになっている。  海洋構造物は船舶と全く異なる構造 であったため、試行錯誤で設計・建造 が行われてきたが、ノルウェーの船級 協会DNVと米国の船級協会ABSを中 心に基準が整備されてきた。しかし、 種々の型式の構造に対応しなければな らないため、考慮すべき荷重とその計 算方法および安全率等を定め、これに 基づいて設計者が条件設定・解析・設 計を実施するDesign by Analysisとい う手法を採用してきた。また、海洋で 最大の問題である海象条件のデータ蓄 積も進められてきたが、必要なすべて のデータが完備されているわけではな い。今でも未知の部分が存在し、新し い型式の構造物・係留方式も開発され つつある。  基準ではカバーしにくい新技術を採 用するとき、いかにリスクを小さくす るかという観点からHAZID*15と呼ば れる手法が採用されるようになった。 構造物の操業中の危険因子(リスク) を洗い出し、その被害の発生確率と被 害の大きさを推定し、その積としての 被害度が許容できるかどうかを判定 し、許容できなければ設計を改善する (対策を講ずる)という手法である。  許容レベルに対する考え方には個人 差・企業差があるので、ALARP*16 い う 概 念 が 取 り 入 れ ら れ て い る 。 ALARPでは、経済条件も一つの指標 であり、ヨーロッパではこの考え方に よる開発あるいは撤去計画の公表と議 論(Public Consultation)という道筋 が法律化されている。   海 洋 構 造 物 に 採 用 さ れ て き た Design by AnalysisやALARPの概念 をさらに進めて船舶設計にも取り入れ ることがIMOで検討されている。そ れは目標を決めて、トップダウンで枠 組みを決めて、これを満たすような設 計を行う手法と定義され、Goal Base Standard(GBS*17)と呼ばれている。 手法の応用にはさまざまな方法が考え られる。  たとえば、目標をリスクという物差 しで規定するリスクベースアプローチ もGBSの一つである。つまり、GBSを リスクベースアプローチで構築した場 合、リスクが物差しになり、そこには ALARPの概念が含まれ、ALARPに 従って判断されることになる。  このように、基準は設計者の技量と 裁量にますます委ねられる傾向にあり (もちろん設計結果は承認を受けなけ ればならないが)、真に技術力を有す るエンジニア、環境・社会などへの配 慮を適切に考慮できる大局観が求めら れている。

(16)

と、新技術採用への国のインセンティ ブが重要と考えられる。 ②大水深の資源量の把握  これまで、日本には石油資源はあま り存在しないと言われてきた。しか し、広い経済水域のすべてを調べた上 の結論ではなく、たとえば、東シナ海 のように遠隔地ではあっても、浅い海 に相当の資源があることが明らかに なっている。そのような場所が他にも 存在する可能性は否定できない。  日本の海象は厳しく、ごく近くに日 本海溝が走る特殊な環境であるが、大 水深の厳海域を開発することが可能と なった現在、自国の資源量を正確に把 握することは最も経済的なエネルギー 調達につながる。そのためには、在来 型の資源のみでなくメタンハイドレー トのような非在来型の資源を含めて、 日本の経済水域の資源量を早急に調べ る必要がある。 ③自主開発原油の重要性  1978年と83年の2回にわたるオイル ショックを克服するために、エネル ギーの安定供給という観点から、自主 開発原油の増大が進められてきた。日 本の資金と技術により海外の石油・ガ スを開発し、輸入の道が途絶えないよ うにすることである。  自主開発原油の輸入割合は、1982年 には9%程度であったが、90年代後半 には15%程度に達し、その後急落し 2002年には10%程度になった(図 27)。急落した原因は、権益喪失や油 田の生産終了などであるが、油田の寿 命は十数年からたかだか数十年である ので、一定の輸入量を確保するために は不断の開発努力が必要なことを示し ている。  旧石油公団の解散を機に自主開発原 油の増大方針は放棄され、お金で石油 を買うことが国策となっている。その 努力は民間に委ねられ、たとえばサハ リン2の開発に見られるように、政府 は金融機関を通じて開発に融資するこ とを主眼にしているように見受けられ る。近年の石油価格の上昇は投機によ る側面があることは確かであろうが、 基本的には中国などの使用 量の増大と生産余力の少な さに起因しているので、石 油危機の発生を否定するこ とはできない。そのために は自主開発原油の増加は必 須で、大水深や極地・寒冷 地の開発が活発となる傾向 の中で、日本が独自の技術 開発をして、自主開発原油 を増加させることが必要と 考えられる。 ④寒冷地の開発に対する国の関与  大水深というテーマからは離れる が、日本近海には寒冷地に大きな埋蔵 量があり、すでに開発が始まっている が、スムーズに進行しているわけでは ない。寒冷地は環境が脆ぜい弱じゃくであるとと もに、自然環境のベースラインデータ が極めて少ないため、適切な開発を行 うことは容易ではない。自主開発原油 の増加と産油国との協調の観点から、 民間が行う開発に対しても、政府が ベースラインデータの収集と、環境・ 社会に配慮した開発をスムーズに進め るためのガイドラインを策定すること が必要である。 * 文中に出てくる単位については、巻 末の単位一覧表を参照。 執筆者紹介 佐尾 邦久(さお くにひさ) 1971年、東京大学工学系大学院船舶工学修士課程修了後、三井海洋開発㈱に18年勤務し、作業船と掘削リグの研究開発・設計・建造に携わっ た。1989年㈱海洋工学研究所を設立し、海洋石油開発・生産に関する広範な調査・研究開発を石油公団(現JOGMEC)および多数の企業 と実施してきた。本稿は、その成果に基づくもので、この機会を与えられたことに感謝するとともに、今後とも多くの方に役立ちたい。 趣味は、ハンドボール(年間20試合くらい)、100坪ほどの畑での野菜栽培とその料理、それからお酒と体を使うことが多い。 参考文献 海洋石油ガス開発全般にわたる解説:「海洋工学ハンドブック」第3版(JOGMEC石油・天然ガス開発技術調査グループ編、 2005年3月、CD-ROM、希望者に無償配布) 0 5 10 15 20 1980 1985 1990 1995 2000 2005 年 年間輸入量の対全日本輸入量 ( % ) 図27 自主開発原油の輸入割合 出所: 「我が国石油・天然ガス開発の現状」平成15年10月、石 油工業連盟データより作成

参照

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