―「関西CIOコンファレンス」報告書―
中堅企業のための戦略的 IT 投資 マネジメントのバイブル(基礎編)
平成21年3月
財団法人 関西情報・産業活性化センター
K J −08M02
)
情報化による経済社会が進み,企業経営は市場の変化への対応のスピード化が求めら れております。事業構造や業務プロセスが複雑高度化し、業務処理にITが一体化されて いる今日では、企業のIT活用の巧拙が経営活動や業績に大きな影響を与えると言われて います。現在、アメリカのリーマンショックに端を発した経済問題が瞬く間に世界を駆 け巡り、各国の経済に影響を与えいろいろな業界に連鎖し、世界的な不況に陥っている ことはご承知の通りです。情報が国境や業界を超えて市場や消費者心理にまで影響を与 えていることが、この現況からも明らかとなっています。
一方、このような経営環境の中でも、ITを有効に活用して着実に業績を伸ばしている 中堅・中小企業が沢山見受けられます。では、ITを導入すれば,企業の業績や経営状況 を向上できるかというと必ずしもそうではありません。ITを導入する前に、まずは企業 が継続して儲かる仕組みとして、顧客満足につながるように業務プロセスを改革・改善 する経営戦略を立てることが必要です。IT投資は、この経営戦略を支援するために迅速 な情報伝達、情報処理・分析を行い、資源や状況の見える化などの手段のために投資を するのです。更にPDCAサイクルを回すことによって仕組みを改善し、経営戦略の実現 が確実かつ継続的なものとなります。これらの一連の取り組みを戦略的IT投資マネジメ ントといいます。
これまでにも中堅企業向けの IT経営の書は幾つか出版されていますが、ITを戦略的 に導入し、運用するというPDCAのサイクルのうち、Plan,Doの概念的な内容のもの が中心でした。本書で扱うIT投資マネジメントは、ITプロジェクトを計画、中間、事 後の3つのフェーズに大別し、特に評価と改善を強化しているのが特徴です。計画フェ ーズでは、企業の経営目標を達成する経営課題が解決されるあるべき姿を、業務プロセ スと情報の流れに照らして、新しい情報システムに実装させます。中間フェーズと事後 フェーズは、これまで日本の企業であまり実践できていなかったのですが、中間フェー ズでは、アクションプランで予め計画された時期、評価尺度でCheck(評価)し、必要 に応じて是正します。事後フェーズでは、これまでの状況と結果をとりまとめて、戦略 目標の達成状況や投資額の実績などから総合評価し、Action(次の計画にむけての改革・
改善)に結び付けることを強調しました。
本書が、文字通り「中堅企業のための戦略的IT投資マネジメントのバイブル」として 活用され、戦略的IT投資マネジメントが業務改革や意思決定の迅速化に貢献し、ひいて は業績向上や企業価値向上の一助になれば、幸いです。
なお、本書は、財団法人関西情報・産業活性化センターが財団法人 JKA(旧称:日本自転車振 興会)の補助金を受けて2008年度「関西CIOコンファレンス」の一環として開催した「IT投資 ワークショップ」(5回:2008年8月〜2009年 1 月)の企画検討委員会において作成したテキス トを基に同委員会の委員の方々に執筆いただいたものです(委員は裏面に記載)。また、本書は、
財団法人日本情報処理開発協会が財団法人JKAの補助金を受けて平成19年3月に作成した「IT 投資マネジメント評価指針に関する調査研究報告書」の成果の一部である「IT 投資マネジメント ガイドライン」を主として中堅企業向けにカスタマイズしたものでもあります。
はじめに
(IT と経営、本書の活用の仕方について)
本 書 の 使 い 方
本書は、第1部の本編と第2部資料編から構成されています。
また、本編は計画フェーズ、中間評価フェーズ、事後評価フェーズの3章立てになってい ます。資料編は、モデル企業の概要、参考資料及び参考図書の2つからなっています。
本書は、実用書につき仮想モデル(中堅食品企業)を使って一連の例示をしています。
したがって、まず最初に資料編の仮想モデル企業の概要に目を通していただくと、本編 の理解が容易になります。
第1部 第2部 本編 資料編
最初にフェーズ全体
の概要を書いています IT投資 評価の方法
第1章 第2章 第3章 計画フェーズ 中間評価 事後評価
(見開き構成)
(左ページ:理論) (右ページ:実例)
仮想モデル 企業の概要
先 に読んでいた だ きますと理解 し易くなります 仮想モデル企業
の実例
(左と対比)
理論と実例を左右 に対比しています
フェイズの流れ の中の位置付け 狙い・ポイント 理論の説明
○ 全体プロセスを下図に示します。
IT投資マネジメントは、計画(計画事前評価)フェーズ、中間評価、事後評価の3つ のフェーズから構成されます。それぞれ本編の第1章、第2章、第3章で順次、説明し ていきます。なお、「中間評価」の前に実施される「業務改革の実施」、「システム開発」
はIT投資マネジメントのプロセスの対象から外しています。
利用部門 全体マネジメント
業務 要件定義
(成果目標 含む)
企画書の作成
(費用・成果 目標含む)
プロジェクト マネジメント
全社ITマネジメント組織
実行計画書の 作成
業務改革の 実施 中間評価
事後評価の 実施 事後評価
(プロジェクト 単位)
事後評価 計画・事前評価 中間評価
経営会議
企画書の評価
経営戦略の 可視化
実行計画書 の修正
1.計画段階
業務改革した状況をIT化できるレベルまで見える化
目次
はじめに(ITと経営、本書の活用の仕方について)
第1部 本編
第1章 計画フェーズ(業務改革のためのIT投資を計画します)‥‥‥‥‥‥‥1 1−1 経営戦略の可視化(戦略目標のつながりを戦略マップで表します)‥‥ 2 ・コラム1:食品トレーサビリティについて ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥11 1−2 業務要件定義(開発するシステムが具備すべき業務要件を決めます) ‥12 ・コラム2:IT投資の失敗にはどんなタイプがあるのか‥‥‥‥‥‥‥28 ・コラム3:IT投資はなぜ失敗するのか‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥29 1−3 現状システム評価(新システム構築のため現状を評価します)‥‥‥‥‥30 1−4 システム案の作成(IT動向などを踏まえてシステム案を作成します)‥34 1−5 企画書の作成(情報化戦略を実現するための企画書を作成します) ‥‥36 1−6 企画書の評価(組織内部で了承を得るために企画書を評価します) ‥‥50 1−7 実施計画の策定(開発計画書、体制、スケジュールなどを決めます) ‥54 ・コラム4:成功例から見た経営者のうまいIT活用‥‥‥‥‥‥‥‥‥56
第2章 中間評価フェーズ(実施の継続・修正を判断します) ‥‥‥‥‥‥‥‥57 2−1 中間評価の実施(実施の途中で目標達成等の見通しを評価します) ‥‥58 2−2 実施計画の修正(必要に応じて実施計画の修正をします)‥‥‥‥‥‥‥60 ・コラム5:外部専門家(ITコーディネータなど)の上手な活用法 ‥62
第3章 事後評価フェーズ(目標への達成度を評価します) ‥‥‥‥‥‥‥‥‥63 3−1 事後報告書の作成(対予算実績や目標達成度を評価します)‥‥‥‥‥‥64 3−2 事後報告書の評価・改善の指示(経営者は評価し指示をします)‥‥‥‥66
おわりに(戦略的IT投資マネジメントにおけるCIOの役割) ‥‥‥‥‥‥‥‥68 参考文献 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥69 第2部 資料編
(資料1)仮想モデル企業(大阪新世紀フード)の概要 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥73 (資料2)IT投資評価の方法 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥83
第1章 計画フェーズ
(業務改革のためのIT投資を計画します)(全体プロセスの中の位置付け)
IT部門 利用部門 全体マネジメント
業務 要件定義
(成果目標 含む)
企画書の作成
(費用・成果 目標含む)
プロジェクト マネジメント
現状システム 評価
システム 案の作成
全社ITマネジメント組織
実行計画書の 作成
業務改革の 実施
システム 開発 中間評価
事後評価の 実施 事後評価
(プロジェクト 単位)
事後評価
計画・事前評価 中間評価
経営会議
企画書の評価
経営戦略の 可視化
実行計画書 の修正
IT投資マネジメントの全体プロセスは、プロジェクトの計画・事前評価、中間評価お よび事後評価の3つのフェーズがあります。
第1章の計画フェーズでは、IT投資計画立案の手順を学びます。
IT投資は業務改革と一体で実行しないと効果を生みません。そのために、最初に行う ことは「経営戦略の可視化」です。このステップでは企業の経営戦略を明確にし、関係 者間で経営戦略を共有することが必要です。具体的には経営戦略の達成に至る活動のス トーリーを描いた戦略マップを作成します。また、目標の達成度を評価する評価尺度を 決め、実行により目標が確実に達成できるようにするためにアクションプランを作成し ます。
次に行うのは、「業務要件定義」です。業務要件定義のステップでは、戦略マップやア クションプランで設定された戦略を実現するために、新しい業務プロセスを定義・設計 します。それに対応した情報システムに求められる機能・要求を決めていきます。続い て「現状システムの評価」を行った上で、「新システム案の作成」をします。このステッ プでは、業務プロセスとその情報処理を行う新システムの整合性を確認します。
業務要件定義と新システム案を踏まえて、次に行うのは、「企画書(戦略情報化企画書)
の作成」です。これは、新規IT投資について社内で合意・決裁を得るための方針書とな ります。達成すべき成果目標を示し、そのための投資額、スケジュールなども記載しま す。経営層・IT部門・ユーザ部門によって「企画書の評価」がされます。このステップ では、新規投資に対する経営者、ユーザ部門、IT部門の社内合意を形成します。
計画フェーズの最後のステップは、「実行計画書の作成」です。承認された企画書に基 づき、システムの開発計画策定から事前評価・中間評価・事後評価までのプロジェクト 計画を作成します。また、プロジェクトの体制、実施スケジュールなども決定します。
第1部 本編
1−1 経営戦略の可視化
(戦略目標のつながりを戦略マップで表します)狙い・ポイント:
・SWOT分析により、主要経営課題・戦略目標を抽出します。
・企業の経営戦略の実現に至る戦略目標のつながりを戦略マップとして可視化します。
・戦略マップを基に、評価尺度(KPI)の設定とアクションプランを立案します。
計画フェーズには下記の7つのステップ(業務)があります。
①経営戦略の可視化、②業務要件定義、③現状システムの評価、④システム案の作成、
⑤企画書の作成、⑥企画書の評価、⑦実施計画の策定 最初の経営戦略の可視化は下記の手順で行います。
(1)事業のミッション、ビジョンの確認
ミッションは社会における企業の使命(存在理由)です。ビジョンは経営者が描く 会社のあるべき姿です。経営戦略は会社の将来像を実現するためのものであり、この ビジョンを正しく理解し、戦略目標に反映することが必要です。
(2)現状の把握:外部環境、内部環境の把握
取り巻く外部環境(経営環境の変化)と自社の内部環境(現状)を把握します。
把握すべき外部環境は、市場・顧客の変化や競合他社の動向に加え、市場や業界に
(計画フェーズの流れ)
経営戦略の可視化 業務要件定義 現状システム評価 システム案の作成 企画書の作成 企画書の評価 実施計画の策定
事例企業の会社概要
まず大阪新世紀フードの経営戦略の可視化を行います。
当社の場合、すでに第50期の経営計画(3カ年計画)が策定され、経営基本方針、お よび営業本部、生産本部の基本方針が発表されています。これらを参照しつつ、中長期 的な視点に立って戦略を策定します。詳しくは、第2部資料編の「仮想モデル企業の概 要」に記載されていますので、本書全体を理解する上で必ず先に目を通して下さい。
(1)事業のミッション・ビジョンの確認の例
大阪新世紀フードのミッション、ビジョンは資料編の経営理念、基本方針に記 載されています。
(2)現状の把握の例
現状を内部環境、外部環境に区分して把握し、SWOT(強み、弱み並びに機会、
脅威)の観点からを整理します。
<表 SWOTの観点から大阪新世紀フードの現状(外部環境、内部環境)の把握>
強み(Strengths) 弱み(Weakness)
外 部 環 境
・商品開発力が強い。顧客・市場ニーズをよく把 握している。
・国内で生産している。協力工場も国内に限定。
・ISO9001シリーズを取得して品質管理に取 組んでいる。
・自社物流センターで配送しており、顧客の注文 に柔軟に対応できる。
・生産ラインの変更が容易であり、かつ、コスト ダウンを実現している。
・主要製品の約半数 は委託製造に依存してお り、リスクがある。
・他社の海外工場に比べコストが高い
・販売コストが他社に比べて高い
・トレーサビリティ運用に手間がかかっている。
・ISO14000にまだ取組んでいない。
機会(Opotunity) 脅威(Threts)
内 部 環 境
・欧米に比べ冷凍食品の普及率 が低く、拡大の 余地がある。
・中食の需要などとともに、冷凍食品の需要も伸 びると予想される。
・より簡便でよりおいしい新商品 の需要が強い。
・メーカーに対して、安全・安心へのより徹底した 取組みが求められている。
・これまでの主力商品(冷凍うどん、お好み焼 き、など)の競合が増えている。
・原材料・燃料価格の高騰
・スーパーなど顧客からの値下げ圧力が強い。
・関連法規制が強化されると管理コストなど新た な費用が発生する。
・人の採用がむつかしくなっている。
注:大阪新世紀フードのSWOTの詳細内容は資料編(資料1)を参照して下さい。
会社名:株式会社大阪新世紀フード
業種 :冷凍食品製造業(冷凍食品の製造及び販売)
所在地:大阪府東大阪市 創業 :1959 年 4 月 社員数:250 名
工場 :本社と同じ敷地内
支店・営業所:東京支店、大阪支店、名古屋支店、東北営業所、九州営業所 業績 :売上高 100 億円、経常利益 5 億円、経常利益率 5%(2008 年 3 月)
そして強み(S)、弱み(W)と機会(O)、脅威(T)の各要素を組み合わせることで、
環境変化に対応するための戦略目標を重要経営課題(CFS:Critical Success Factor) として抽出します。なお、組み合わせの時に、次に述べる4つの視点(財務、顧客、業 務プロセス、学習と成長)で整理しておくと、財務以外の視点の偏り防止、課題間の連 携や次のステップへの移行が楽になります。
図表1−1−1 SWOT分析からの重要経営課題の抽出
抽出した経営課題について、重要性の観点から評価し、重要経営課題(CSF)を抽 出します。重要性評価の観点としてビジョンとの整合性、効果性、実現可能性、緊急 性等があります。前述のビジョンとの整合性はここの評価で確保します。
SWOT 分析および重要性の評価を通じて得られた重要経営課題(CSF)を戦略目 標として抽出します。
重要経営課題の抽出 機会(O) 脅威(T)
外部環境
内部環境
強み(S)
弱み(W)
S×O:強みを活かして 機会をつかむ
W×O:弱みを克服して 機会を逃さない
S×T:弱みを克服して 脅威に対抗する S×T:強みを活かして 脅威に対抗する
(3)SWOT分析と重要経営課題の抽出の例
大阪新世紀フードのSWOT分析と重要経営課題の抽出を行います。
弱み、強みと機会、脅威を掛け合わせて下記の観点から、経営課題を抽出します。
複数の検討者がカード(ポストイット等)に成功要因を記入し、模造紙に貼り付け て議論しながら、決めていくことが多いようです。
<表 大阪新世紀フードのSWOTによる経営課題の抽出>
次に抽出された経営課題を重要性で評価し、重要経営課題(CFS)を抽出します。
<表 大阪新世紀フードの重要経営課題(CSF)の抽出>
●は、重要性評価で重要経営課題として評価された経営課題 大阪新世紀フードにおける経営戦略の可視化の例
(4)戦略マップの作成
戦略マップ作成の目的は、戦略の可視化(見える化)によって経営戦略の共有化する ことです。抽出された戦略目標をバランスト・スコアカード(BSC)の4つの視点(財 務、顧客、業務プロセス、学習と成長)から、各戦略目標間の因果関係を検討し、その 相互関係を図示します。つまり経営戦略実現のサクセスストーリー(儲けの仕組み)を 戦略マップの上にまとめていきます。ここでは、4 つの視点(財務、顧客、業務プロセ ス、学習と成長)に加えて、サクセスストーリーの縦軸として重要経営課題(CSF)を 意識して各戦略目標間の因果関係を記述します。たとえば、製品開発のプロセス、顧客 管理のプロセス、業務管理のプロセスなど、を縦の流れとして記述していきます。
BSC を導入するメリットは、ビジョンや戦略をトップから担当者に至るまで共有で き、組織と個人の目標を一致できることです。次に、BSCで設定した戦略目標をどのよ うな筋道で実現していくか、その道筋を図示して示したのが、戦略マップです。
戦略マップは、戦略目標間の関係をBSCの 4つの視点に対応させ、その因果関係と 戦略目標を実現するまでのストーリーを示します。一枚の図に示すことにより、戦略の 全体像をつかむことができ、一般社員にとっても、会社の方向性やその中での自身の役 割が理解できます。社員の意思統一、モチベーションアップを図る上でも有効なツール であるといえます。戦略マップの例は、次ページの (新大阪フードの)戦略マップの作 成の例 を参照してください。
(参考)BSC(バランスト・スコアカード)と戦略マップ
BSC(バランスト・スコアカード)は、ハーバードビジネススクールのロバート・S・
キャプラン教授とコンサルタント会社社長のデビット・P・ノートン氏により、新たな 業績評価システムとして開発されました。戦略的マネージメント・ツールとして近年脚 光を浴びており、BSCを活用することにより持続的成長を実現する戦略ストーリーを可 視化することができます。
BSC のビジネスモデルでは人材育成は企業の成長の源泉として位置づけられていま す。つまり、①人材を育成し、②業務プロセスを改善・改革すると、③その結果、ビジネ ス活動の顧客満足度が向上し、④経費が削減できると共に売上が増加して収益が向上し
(4)戦略マップの作成の例
抽出された大阪新世紀フードの重要経営課題(CSF)を戦略目標としてBSCの 4 つの視点で戦略目標間の因果関係を仮設し、戦略マップに矢印で表現(非財務の3つ の視点を通じた利益増大に至る戦略ストーリーを見える化)します。
戦略マップの作成にあたっては、重要経営課題(CSF)抽出で、重要経営課題とし て評価した項目を軸にストーリーを描いていきます。大阪新世紀フードでは、①新製 品開発、②顧客管理、③業務管理の3つが重要経営課題の柱となりますので、この3 つを軸としたストーリーを描きます。
<図 大阪新世紀フードの戦略マップ>
大阪新世紀フードにおける経営戦略の可視化の例
戦略マップ
財 務 の 視 点
顧 客 の 視 点
業 務 プ ロ セ ス の 視 点
学 習 と 成 長 の 視 点
売上の拡大 コスト削減
新商品(改良商品)
での売上拡大
利益の増大
食の安全・安心 への顧客満足度 機能向上した
新商品の提供
顧客問合せ・クレーム への迅速な対応 新商品の迅速
な市場投入 トレーサビリティ情報 の容易な登録
需要予測の 精度向上 生産効率の
向上
商品開発部門
のスキル向上 食の安全・安心
に関する学習 TQCの推進
在庫数の 削減
顧客情報の 共有化
(5)評価尺度の設定、アクションプランの立案
各戦略目標に対する実施の進捗を管理するための評価尺度(KPI:Key Performance Indicator)を設定し、戦略目標を確実に達成するためのアクションプランを立案し、重 要経営課題(CSF)を具体的な活動にブレークダウンさせます。設定した評価尺度で実 施状況を定期的(四半期毎、月毎等)にモニタリングし、必要に応じて実施活動の修正 を行います。
図表1−1−2 評価尺度(KPI)とアクションプランの設定例
評価尺度(KPI)の設定、アクションプランの立案にあたっては、上記のような管理 表を作成します。戦略目標に対応した評価尺度(KPI)を設定し、現在値と目標値を定 めます。これを達成していくための行動方針であるアクションプランを立案します。さ らに1年目、2年目など中間地点での目標値も定め、定期的にモニタリングし達成度を 評価します。評価尺度(KPI)やアクションプランの例は、「KPI(評価尺度)とアクシ ョンプランについて」(P10)を参照してください。
大阪新世紀フードにおける経営戦略の可視化の例
(5)評価尺度(KPI)設定、アクションプラン立案の例
前項で作成した戦略マップ上の各戦略目標に対して、その達成度合いをモニタリン グ・評価するために、評価尺度(KPI)を設定します。また各戦略目標に対して、具体 的な目標値を設定します。その際、現在の実績値も記録します。次に、その目標値を 確実に達成するために実施計画(アクションプラン)を立案します。
<表 大阪新世紀フードのKPI設定とアクションプランの立案>
100億円 120億円 5.0%
生産工程の見直し、改善を行う。
5時間 4.5時間 売上の拡大
新商品(改良商品)での売上拡大 新商品売上比率 売上高
戦略目標 評価尺度(KPI) 現在
利益の増大 売上高経常利益率 2.5%
同上 売上高販売管理比率 20.0%
20.0%
コストの削減 売上総利益率 22.5%
食の安心・安全への顧客満足度 顧客満足度 − ランク4 以上
機能向上した新商品の提供 新商品市場ランキング入数 2 5
トレーサビリティ情報の容易な把握 トレーサビリティ情報回答時間 1時間 1分
新商品の迅速な市場投入 新商品開発期間 5ヶ月 3ヶ月
在庫数の削減 期末在庫高 9億円 7.5億円
顧客問い合わせ・クレームへの迅速な対応 コールセンターでの1次対応完了率 50%
需要予測の精度向上 需要変動情報の伝達速度 −
同上 調理・加工から冷凍保管までの 生産リードタイム短縮
同上 原材料の納品から生産までの 滞留時間短縮
本社工場 で取得 商品開発部門のスキル向上 顧客訪問件数 1/年 1/月
1件/
課単位 顧客情報の共有化 顧客情報登録件数 0 100/月 学
習 と 成 長 の 視 点
TQCの推進 TQC発表テーマ数 0
環境に関する学習 ISO2200の取得 − 視点
財 務 の 視 点
顧 客 の 視 点
業 務 プ ロ セ ス の 視 点
- 現状より、20%滞留時間を削減する。
EDIなどを活用し、取引先との緊密な連携を行う。
−
バーコードを活用し、システム化を行う。
商品開発部門の業務改革を実施する。
80%
生産・販売部門での情報共有を進める。
FAQの充実、DB化。
生産・販売部門での情報共有を進める。
20%
1週間 目標値
−
広報活動を充実させる。
(5段階評価の顧客アンケートを実施し、ランク4以上をめざす。)
アクションプラン
− 30.0%
19.0%
24.0%
TQCを開始する。
1年目で、1件/部単位を実現し、3年目で1件/課単位を実現する。
顧客訪問計画を作成し、実施する。
プロジェクトチームを発足する。
顧客情報の登録を義務づける。
生産効率の向上 生産計画の週次見直し品目数 − 100
戦略マップや評価尺度、アクションプランはテンプレートやサンプルが多く公開さ れています。これらを参考にして作成すると作業を効率的に進めることができます
(「KPI(評価尺度)とアクションプランについて」参照)。なお、上記アクションプラ ンは項目のみ記載していますが、正式にはスケジュール、責任者等を5W1Hで記載し ます。
「KPI(評価尺度)とアクションプランについて」
戦略目標を設定すると、次に必要なのは、それをどう実行していくかです。また、実 行した結果、戦略目標がどこまで達成できたのかを評価する必要があります。戦略目標 には、財務の視点の目標のように、定量的に数値で表現できる目標もありますが、他の、
学習と成長の視点などでは、定量的に数値で達成度を評価するのが困難です。そこで必 要なのは、達成度をKPI(評価尺度)として、定量的に評価する方法です。評価尺度を 設定することにより、定性的にしか評価できない項目についても、定量的に達成度を評 価することが可能となります。KPIには、例えば下記のようなものがあります。なお、
KPIの詳細な例は、参考文献「IT投資マネジメント評価指針に関する調査研究報告書」
(P69)に記載されています。
図表 1−1−3 KPI(評価尺度)の例
社員1人当たり総資産(総資産/社員数 ) 財 総資産収益率(収益/総資産)(%)
務 新規商品や新規ビジネスからの利益 総資本利益率(%)
顧客1社当り年間売り上げ高(年間売上高/顧客数)
顧 顧客満足指標(ヒアリング)
客 顧客訪問回数(回数)
顧客ロイヤリティ指標(競合他社への注文/自社の受注)
プ業 納期厳守率
ロ務 発注から納期までのリードタイム セ 新規商材開発リードタイム ス 平均意思決定時間
学 社員1人当たり教育費 習 社員1人当たり提案件数 成 と 社員1人当たり教育時間 長 業務改善報告書提出件数
KPI(評価尺度)とともに作成するのが、アクションプランです。いくらいい戦略目
標を作成し、評価尺度を決めても、それを実行しなければ成果は生まれません。アクシ
コラム1:食品トレーサビリティについて
本書の事例に出てくる「トレーサビリティ」は、食品業界にとっては業界全体の大きな 課題の一つとなっています。そもそも「トレーサビリティ」とは何かですが、品質管理の
ISO9000シリーズでは次のように定義されています。
標準機または計測器が、より高位の測定標準によって次々と校正され、国家標準・
国際標準につながる経路が確立されていること。
トレース(trace=追跡)+アビリティ(ability=できること)=トレーサビリティで、
追跡可能性と訳されています。つまり、メーカーであれば、生産工程においてどこの材料 や部品を使ったのか、どのように加工処理されたのか、そしてどのような配送ルートで市 場へ出荷されたのかということを追跡できることを指します。
食品トレーサビリティとは、食品におけるトレーサビリティ(追跡可能性)のことです が、農林水産省の「食品トレーサビリティシステムの導入手引き」によれば、「生産、処理、
加工、流通・販売のフードチェーンの各段階で、食品とその情報を追跡し遡及できること」
とされています。その対象範囲は、農場・漁場の生産業者から食品加工業者、卸売業、小 売業まで、食品が食卓に届けられるまでのすべての経路が対象になりえます。食品添加物 も対象に含まれます。
なぜ食品トレーサビリティが今日の食品業界の課題になったのかと言えば、最初はBS E(牛海綿状脳症、狂牛病)に感染した国産牛が発見されたことから始まりました。また、
牛肉をはじめとして多くの食材の分野で産地表示偽造など事件が相次ぎ、「食」の信頼性、
安全性を損なうものとして社会問題化したことで、食品業界全体の問題に発展しました。
こうした状況を解決するために食品トレーサビリティの確立が求められているのです。
メーカーの取り組みでは、石井食品、キューピーなどの事例が有名です。食品包装容器 に印字された「品質保証番号」をホームページで入力すると、原材料名や収穫日・製造日 などの詳細情報が表示される仕組みを構築しています。
卸売業の例では、青果物EDI協議会が流通履歴をトレースする仕組みの研究と実証実 験を行っています。また、小売業の例では、生協(消費者生活協同組合)やイトーヨーカ 堂などが、生産者の顔が見える仕組みを構築して食品の安全性をアピールしています。
こうしたトレーサビリティの仕組みを本格的に構築するには、コスト面など大きな負担 がかかります。中小事業者にはハードルが高いかも知れませんが、
まずはきちんとした生産および流通取引の記録をとることから 始めるのが基本になります。「いつ、何を、だれに対して行った のか」という日誌を作成することで、最低限のトレーサビリティ は可能になるでしょう。本書の事例でも、ベーシックな管理シス テムの構築に主眼を置いています。
ボクはどういう経路 でタコヤキ等の材料 になって食卓に届け られるのかな?
(1)業務要件定義の手順
前節で立てた経営戦略を実現するためには、従来の業務プロセスや組織構造等を改革す ることが必要です。IT 導入はそのための実現手段ですので、前提としての新しい業務要件 を定義しなくてはなりません。その作業として、①現状業務の把握、②あるべき姿の業務 プロセスの設計、という手順で進めていきます。
上記の手順を、社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「エンドユーザに よるビジネス・システム定義の進め方」のフレームワークを借りて解説します。
JUAS は企業の情報 化システム化を体系的 に進めるために、ビジ ネス・システムの構造 を把握するモデルとし
1−2 業務要件定義
(開発するシステムが具備すべき業務要件を決めます)狙い・ポイント:
経営戦略を実現するための新しい業務プロセスを定義・設計し、新業務プロセスにお ける情報システムに求められる新たな機能・要求を明らかにします。
(計画フェーズの流れ)
経営戦略の可視化 業務要件定義 現状システム評価 システム案の作成 企画書の作成 企画書の評価 実施計画の作成
図表1−2−1 JUAS業務システム定義体系(2004年版)
ビジネス機能構成表:ビジネス機能の大分類から詳細分類の展開を表現 対象範囲のビジネスプロセス定義
ビジネス機能関連図:全社のビジネス機能を表現
ビジネス連携図:基本的な商流/物流/金流と関連組織機能との連携を表現
ビジネスルール定義書:企業/事業の規定/基本商習慣
システム化目標定義書:今回対象機能の狙いと目的
全社ビジネス機能中の企画対象業務機能の位置づけとそのビジネスフォーメーション
ビジネス機能構成表:ビジネス機能の大分類から詳細分類の展開を表現 対象範囲のビジネスプロセス定義
ビジネス機能関連図:全社のビジネス機能を表現
ビジネス連携図:基本的な商流/物流/金流と関連組織機能との連携を表現
ビジネスルール定義書:企業/事業の規定/基本商習慣
システム化目標定義書:今回対象機能の狙いと目的
全社ビジネス機能中の企画対象業務機能の位置づけとそのビジネスフォーメーション
大阪新世紀フードの業務要件定義のプロセスを、「JUAS業務システム定義体系」をも とに示すと、下図のようになります。
経営戦略
①現状ビジネス機能関連図
②現状機能間業務フロー
③現状ビジネス・リソース
④現状ビジネス・ルール
⑤現状業務ルール 現状把握(As-Isプロセス)
方針決定・問題点の特定
①経営改革の範囲確定
②新ビジネス連携図
③新ビジネス・ルール
⑥新業務ルール 作り込み(To-Beプロセス)
あるべき姿への要求
④新詳細業務フロー
⑤新機能情報関連図 重要経営課題(CSF)
経営者の思い・経営ビジョン
<図 業務要件定義の作成ドキュメント>
出所:「CIO育成ケース研修」(2005年、独立行政法人情報処理推進機構)より加工
各プロセスで作成するドキュメントは、以下の内容になります。
現状把握をした後に、経営者の思い・経営ビジョンや重要経営課題(CSF)を踏まえ て、あるべき姿のプロセスを設計していきます。
現状把握のプロセス
① 現状ビジネス機能関連図:現状ビジネスの領域・全体像などの機能を把握するた めの図
② 現状機能間業務フロー:現状の機能間業務フローを把握するための図
③ 現状ビジネス・リソース:現状ビジネスの人・物、金・情報等のリソースを把握 するための図
④ 現状ビジネス・ルール:現状ビジネスの商習慣(ルール)を把握するための図
⑤ 現状業務ルール:現状ビジネスの業務ルールを把握するための図
あるべき姿の設計のプロセス
① 経営改革の範囲決定:システム作りの前提条件を含む範囲確定の共有化
② 新ビジネス連携図:ビジネス機能に関連する情報の基本的な流れを示した図
③ 新ビジネス・ルール:経営改革を実現するための業務機能間の新しいビジネス・
ルール
④ 新詳細業務フロー図:現行業務フローの問題点を改善した詳細な業務フローを示 した図
⑤ 新機能情報関連図:新しい機能と機能の関係における情報の流れを示した図
⑥ 新業務ルール:新ビジネス・ルールに準拠した業務ルールを示した図
(2)現状業務の把握
「JUAS業務システム定義体系」に従って、分析および各ドキュメントの作成方法を 説明します。まずユーザの立場で現状業務を把握します。下記の5つのドキュメントを 使って分析、整理して業務の見える化をします。
①ビジネス機能関連、②機能間業務フロー、③ビジネス・リソース、④ビジネス・ル ール、⑤業務ルール
この分析の目的は、下記の把握・管理が出来るようにすることです。
・企業/事業の基幹業務構造の認識
・基幹業務上の問題点
・基幹業務上での競争優位性/差別化の作り込み
・基幹業務の組織設計の基本認識
・業務システム/情報システムの構造
ここで、基幹業務システムとは、販売管理、仕入管理、生産管理、在庫管理など、企 業活動の基幹部分を形成する業務の事を指します。
①現状ビジネス機能関連図
全社のビジネス機能を現状ビジネス機能関連図として記述します。これは全社の現状 業務の機能を構造的に図示したものです。
図表1−2−2 ビジネス機能関連図の記述
・企業/事業活動を次の視点から分割し、ビジネス機能として認識 し、記述する。
各ビジネス機能名をブロック内に記入し、ビジネス機能間における 最も強い関係を線で結んだブロックの構成図で記述する。
・企業/事業活動上のビジネス機能を把握し、職務/機能、業務遂 行責任範囲等を明確にし、分業と協業の構造を把握する。
・企業/事業目標遂行の一貫した業務連携として、全業務を構造的 に把握し、ビジネスフォーメーション確信の検討に役立てる。
記述要 領 記述様 式 目的
ビジネス機能関連図 様式名
・企業/事業活動を次の視点から分割し、ビジネス機能として認識 し、記述する。
各ビジネス機能名をブロック内に記入し、ビジネス機能間における 最も強い関係を線で結んだブロックの構成図で記述する。
・企業/事業活動上のビジネス機能を把握し、職務/機能、業務遂 行責任範囲等を明確にし、分業と協業の構造を把握する。
・企業/事業目標遂行の一貫した業務連携として、全業務を構造的 に把握し、ビジネスフォーメーション確信の検討に役立てる。
記述要 領 記述様 式 目的
ビジネス機能関連図 様式名
①現状ビジネス機能関連図の例
ビジネス機能関連図を利用して、大阪新世紀フードのビジネス領域の機能の全体像を 把握します。
<生産>
商品開発
<販売> <購買>
顧 客 仕入先︵商社・産地中卸業者︶ 協力工場
人事給与 経営管理
財務会計
品質管理 生産計画 生産管理 調理加工
在庫管理
発注処理 入荷・検品 売掛管理
受注処理 出荷・販売
買掛管理 需要予測
運送会社
原価管理
<図 大阪新世紀フードの現状ビジネス機能関連図>
②現状機能間業務フローの例
また、上記の現状機能間(受注〜配送・納品)における業務処理フローを描くと、下 図のようになります。
運送会社 仕入先 配送センタ 協力工場
資材課 生産統 工場
営業 括部
顧客 運送会社 仕入先
配送センタ 協力工場 資材課
生産統 工場 営業 括部
顧客
営業/受注/生産/調達/配送/納入関連業務
受注登録 在庫確認 契約条件設定
ピッキング 製造完了報告
生産計画
調達処理
製造着手指示 スケジューリング
資材在庫確認 仕入商品
自社商品 在庫不足
◎ 納品 リピート発注
受注 新規発注
受注
OEM商品
出荷処理 配送
●
月次販売予測
在庫有り
生産計画確認 納期回答 在庫無し
◎ 納期回答
発注
商品移動 保管
配送委託
●
受注 入荷検品 入荷 出荷
在庫有り
完成商品 材料
材料入庫 材料保管 出荷指示
在庫確認
在庫有り
在庫 不足
<図 大阪新世紀フードの現状機能間業務フロー>
③現状ビジネス・リソース
ビジネス・リソースは、一般的に次のような経営資源として体系的に整理し、ビジネ ス活動上の基本要件を認識できるように定義します。
・
ビジネス関連基本情報(顧客、パートナー、商品/サービス等)・
商流(引合、見積、契約、納期納品など)・
物流(入荷・出荷、在庫移動、包装梱包、輸送配送など)・
金流(販売請求、仕入支払、経費など)・
人材(個人認証、個人権限など)・
施設/設備(設備能力、生産管理など)④現状ビジネス・ルール
ビジネス・ルールとは、上位ビジネス・プロセス内や下位ビジネス・プロセス間での権 限、規約、判断基準等を定義し、整理したものをいいます。
一般的にビジネス・ルールは、事業活動や経営資源に関する以下の内容があります。
・
役割分担上のルール(職務分掌規程、業務規程等)・
職務遂行上の権限ルール(権限規程、管理責任等)・
人材・スキルによる資格/生産性上のルール(職能管理規程、人事考課規程 等)・
設備/部材・資材の管理ルール(設備管理規定、在庫管理規程等)・
経理処理ルール(経理規程、購買管理規程、売上請求管理規程等)・
顧客管理ルール(顧客情報管理規程、機密管理規程、与信管理規程等)⑤現状業務ルール
また、業務ルールとは、ビジネス・ルールに準拠し、下位ビジネス・プロセス内の業務 処理上の権限、規約、判断基準等を定義し、整理したものをいいます。ビジネス・データ の処理や判断ルール等を考慮し、抽出することにより業務ルールを定義することもでき ます。
③現状ビジネス・リソースの例
大阪新世紀フードの現状のビジネス・リソースのうち、基本リソースを図示すると次 のようになります。
消 費 者 商社・卸・スーパー等 仕入先協力工場等
顧客 営業拠点
営業所
営業本部
生産本部
総務部
本社
物流センター 東北
九州 東京
支店 管理本部
大阪 名古屋
第一工場
(粉物商品)
第二工場
(練商品)
経営企画室
生産統括部 物流拠点
営業統括部 研究開発部
運送会社
資材課 製造拠点
<図 大阪新世紀フードの現状ビジネス・リソース(基本リソース)>
④現状ビジネス・ルール及び⑤現状業務ルールの例
次に、重要経営課題(CSF)に関連する主要業務に注目して、現状のビジネス・ル ール及び業務ルールを整理します。また、これに対応する現状システムの状況もここで 整理しておくと、現状システムの役割が理解でき、後の「現状システムの評価」(P30〜
P33)が行いやすくなります。
<表 現状ビジネス・ルール、業務ルールと対応するシステム状況>
(なし。生産担当が生産計画をもとにE XCELで作成。)
(4)詳細な生産日程計画は、生産担当が生産設 備の負荷状況などを勘案して決める。
製造指示で、作業指図を出力し、実績入 力で、生産実績を登録する。
(5)生産は作業指図に基づいて行い、その担当 者はその実績を報告する。
(なし。)
(6)商品開発手順は、研究開発部がとりまとめ た「商品開発規定」に基づく。
受注登録で、ピッキングリストを物流セ ンターに出力する。
出荷検品で、納品書・送り状など必要な 帳票を出力する。
(3)電話・FAX・EDIなどで午前中に受注 した注文は、ピッキングしてその日の夕方配送す る。在庫がない場合は営業からお客様に連絡する。
生産計画作成で、商品ごとの数量と納期 を入力し、原材料の所要量計算を行う。
(2)生産計画は月次で作成する。生産数量は、
計画作成時の在庫と、営業部門が作成した月次の 販売予測の数量に基づいて決定する。
生産実績入力で、賞味期限、使用原材料 コードを登録する。
原材料入荷検品時に、納品情報を登録す る。
(1)お客様から商品の原材料の問合せがあった 場合は、商品の袋に印字されている賞味期限から、
いつ調理・加工した商品か調べ、その時に使用し た原材料を特定する。その原材料の納品情報から、
いつ、どこから購入した原材料か調べる。
システムでの対応 現状のビジネスルール・業務ルール
(なし。生産担当が生産計画をもとにE XCELで作成。)
(4)詳細な生産日程計画は、生産担当が生産設 備の負荷状況などを勘案して決める。
製造指示で、作業指図を出力し、実績入 力で、生産実績を登録する。
(5)生産は作業指図に基づいて行い、その担当 者はその実績を報告する。
(なし。)
(6)商品開発手順は、研究開発部がとりまとめ た「商品開発規定」に基づく。
受注登録で、ピッキングリストを物流セ ンターに出力する。
出荷検品で、納品書・送り状など必要な 帳票を出力する。
(3)電話・FAX・EDIなどで午前中に受注 した注文は、ピッキングしてその日の夕方配送す る。在庫がない場合は営業からお客様に連絡する。
生産計画作成で、商品ごとの数量と納期 を入力し、原材料の所要量計算を行う。
(2)生産計画は月次で作成する。生産数量は、
計画作成時の在庫と、営業部門が作成した月次の 販売予測の数量に基づいて決定する。
生産実績入力で、賞味期限、使用原材料 コードを登録する。
原材料入荷検品時に、納品情報を登録す る。
(1)お客様から商品の原材料の問合せがあった 場合は、商品の袋に印字されている賞味期限から、
いつ調理・加工した商品か調べ、その時に使用し た原材料を特定する。その原材料の納品情報から、
いつ、どこから購入した原材料か調べる。
システムでの対応 現状のビジネスルール・業務ルール
(3) あるべき姿の業務プロセスの設計
業務のあるべき姿とそれを支援するための新しいシステムを構想するため、下記の6 つのドキュメント等を用いて行います。
① 経営改革の範囲確定、
② 新ビジネス連携図、
③ 新ビジネス・ルール、
④ 新詳細業務フロー、
⑤ 新機能情報関連図、
⑥ 新業務ルール
①経営改革の範囲確定
現状分析で作成し定義したビジネス機能、ビジネス・リソース、ビジネス・ルールを 参照し、今回の経営改革の構築対象とするビジネス機能または業務処理範囲を明確にし ます。
・
全社のビジネス機能の中での今回の検討対象範囲の確認(ビジネス機能関連図を 参照)・
検討対象範囲の業務処理(ビジネス機能)に関連する外部/内部との間の基本的 な情報(商流に関する情報とビジネス上で必要な情報)、物流、金流の連携の確定(ビジネス連携図を参照)
・
検討対象範囲の業務処理(ビジネス機能)に関連するビジネス・ルールの定義と 業務システムへの反映方法を確定(ビジネスルール定義書を参照)以上の作業を通して、ビジネス・システムの情報化の範囲、狙い、目標、課題の共通 認識を経営者、事業責任者、業務担当者、情報システム部門、システムベンダ間で共有 できるようにします。
大阪新世紀フードが取り組むべき業務改革の範囲について、これまでの現状分析と、
重要経営課題(CSF)を考慮に入れて検討します。
ここでは重要経営課題の内、下記の4つを取り上げて説明いたします。
4つの重要経営課題(CSF)
・新商品の迅速な市場投入を図る。
・食品トレーサビリティ・システムを構築し、食の安全・安心に対する信頼を 高める。
・生産工程の見直しと、取引先との効率的な受発注体制を構築し、生産効率の 向上を図る。
・需要予測の精度を向上し、在庫の削減、コストの削減を図る。
①経営改革の範囲の確定の例
基幹業務の抜本的な改革と、取引先を含めたSCM(サプライ・チェーンマネジメント)
の観点での取り組みが必要です。
改革対象となるビジネス・システムの範囲を、ビジネス機能関連図の上に示すと、次 の図の通りです。
<生産>
商品開発
<販売> <購買>
顧 客 仕入先︵商社・産地中卸業者︶ 協力工場
人事給与 経営管理
財務会計
品質管理 生産計画 生産管理 調理加工
在庫管理
発 注 入荷・検品
売掛管理 買掛管理
需要予測
運送会社
原価管理 受 注
出荷・販売
今回の経営改革範囲
<図 大阪新世紀フードのビジネス・システム企画の範囲>
②新ビジネス連携図
的確な経営改革を展開するためには、経営改革を行おうとするビジネス機能に関連す る情報の基本的な流れを把握する必要があります。
ビジネス機能に関連する組織間において、ビジネス活動における商流、物流、金流お よび基本的な情報の流れを明らかにしたモデルが、ビジネス連携図です。
図表1−2−3 ビジネス連携図の記述
・検討対象ビジネス機能群の関連する基本リソース(商流、物流、
金流、施設/設備、組織等)の連携を記述する。
・検討対象ビジネス機能群が、社外の組織と連携する商流、物流、
金流、施設/設備、組織等を記述する。
・検討対象ビジネス機能群が、社内のビジネス機能間で分担する情 報/役割を記述する。
各組織機能(ビジネス機能)名をブロック内に記入し、その間の商 流、物流、金流および基本的な情報の流れを連携図で記述する。
検討対象ビジネス機能群に関連する商流、物流、金流を明確にし、
ビジネス機能に関連する組織機能との関連として商流、物流、金流 および基本的な情報の流れを定義し、ビジネス遂行上の基本ビジネ スフォーメーションを把握する。
記述要 領 記述様 式 目的
ビジネス連携図 様式名
・検討対象ビジネス機能群の関連する基本リソース(商流、物流、
金流、施設/設備、組織等)の連携を記述する。
・検討対象ビジネス機能群が、社外の組織と連携する商流、物流、
金流、施設/設備、組織等を記述する。
・検討対象ビジネス機能群が、社内のビジネス機能間で分担する情 報/役割を記述する。
各組織機能(ビジネス機能)名をブロック内に記入し、その間の商 流、物流、金流および基本的な情報の流れを連携図で記述する。
検討対象ビジネス機能群に関連する商流、物流、金流を明確にし、
ビジネス機能に関連する組織機能との関連として商流、物流、金流 および基本的な情報の流れを定義し、ビジネス遂行上の基本ビジネ スフォーメーションを把握する。
記述要 領 記述様 式 目的
ビジネス連携図 様式名
出所: JUAS「エンドユーザによるビジネスシステム定義の進め方」より
②新ビジネス連携図の例
このモデル企業のケースでは、まず次の2本部および3拠点と、主要な3つの外部環境 の基本リソースを想定します(新設または業務拡張の部署があります)。
消 費 者
商 社
・ 卸
・ スー パー 等
仕 入 先
協 力 工 場 等 顧客 営業拠点
営業所
営業本部
生産本部
総務部
本社
物流センター 東北
九州 東京
支店 管理本部
大阪 名古屋
第一工場
(粉物商品)
第二工場
(練商品)
Web受注 センター
経営企画室
生産統括部
物流拠点
営業統括部 研究開発部
運送会社
資材課 トレーサビリティ
管理センター
製造拠点
<図 大阪新世紀フードの新基本リソース>
次に、その商流、物流、金流および必要な情報の流れを明らかにするモデルを検討し、
新ビジネス連携図を以下のように作成しました。(本例では、金流は割愛しています。)
卸・商社
スーパー
給食会社 等
消費者 運送会社
営業拠点/
本社営業本部
Web受注 センター
(含むEDI機能)
製造拠点 第一工場 第二工場 生産統括部 資材課(Web 購買)
配送センター
仕入先 協力工場
凡例 商流
物流 外部組織
内部組織
産地 トレーサビリティ
管理センター
契約先 委託加工発注
加工食品
食材/商品発注 受注加工納期
食材/商品納期 食材産地情報
食材/商品 需要予測
受注 出荷案内
受注情報
受注情報 納期回答 見積照会、納入依頼
商品情報、
見積提案、売買契約
納入検収、クレーム
配送送り状
商品搬入 納入情報
商品配送 配送指示 出荷案内
出 荷 予 定 情 報
製 品 移 転
産 地 情 報 食品履歴問合せ
食品履歴
情報 食品履歴情報
納入情報
顧客
POS 情報
研究開発部
販売分析 在庫情報 生産情報
<図 大阪新世紀フードの新ビジネス連携図(営業本部、生産本部の機能)>