第 2 章
本県における選択理科の現状と課題
選択教科拡充への円滑な対応を支援するために,本県選択理科の現状や課題を把握・分析 し,今後の研究の方向性を探った。
○ 選択理科では,興味・関心・意欲を育てることが重視されがちで,科学的な思考力の育成 という点では成果を上げているとは言い難い。
○ 選択理科において,科学的な思考力などの理科の資質や能力を高めるためには,どのよう な学習内容を獲得する必要があるのかを明確にした,豊かな学習活動が展開されることが必 要である。
○ 科学的な思考力を高める価値ある選択理科の学習を実現するためには,教師の適切な指導 や援助が大変重要であり,それを支援するための教材・教具の開発や生徒用ワークシート,
教師用指導資料を作成し,提供することが急務である。
1 どのような実態調査を行ったか (1) 調査の目的
選択教科拡充への円滑な対応を支援するための基礎資料として,本県選択理科の現状や課題を 調査・分析し,生徒の主体的な問題解決活動が展開されるような選択理科学習の具体的な指導法 や教材・教具の開発に役立てる。
(2) 調査対象と調査期間 ア 調査対象
学校規模をAグループ(1〜3学級 ,Bグループ(4〜15学級 ,Cグループ(16学級以上)に) ) 分け,各グループが10校となるように,県内13の各地区から2,3校ずつ抽出して,合計30校 で調査を行った。
イ 調査期間
平成13年9月下旬〜10月中旬 (3) 調査方法
質問紙法により,調査を実施した (選択式,一部記述式)。
2 実態調査から分かったことは何か (1) 選択理科の現状(平成13年度)
ア 「学習内容を決定する際に重視したことは何か 」。
現在,学習内容を決定する際に,何を重視して決定しているのかを調査した。
(結果と考察)
・ 現在実施されている選択 理科の学習内容は,圧倒的 に生徒の興味・関心を重視 して決定されている。
生徒に主体的な問題解決 活動を行わせるためには,
興味・関心を重視すること は当然のことと思われる。
興味・関心を重視して決め られた学習内容からいかに 科学的な学習活動へと生徒を導いていけるかは,教師の指導の工夫に委ねられていると考える。
イ 現在実施されている主な学習内容
各学校において,選択理科で行われている学習内容を調査した。多くの学校において実施さ れている主な学習内容は次のとおりである。
・ べっこう飴 ・ 綿あめ ・スライム ・ シャボン玉 ・ 葉脈標本
・ ペットボトルロケット ・ 電気パン ・ 結晶づくり ・ 色ろうそく
・ 熱気球 ・ 紙すき ・ 銀鏡反応 ・ カルメ焼き ・ 河川調査
27 9
9 4
4 3 1
0 5 10 15 20 25 30
表 現 力 思 考 ・ 判 断 問 題 解 決 能 力 知 識 ・ 理 解 必 修 理 科 日 常 生 活 興 味 ・ 関 心
校
・ 夏休みの自由研究 ・ プリント学習(入試対策) など
(結果と考察)
・ ほとんどが,中学生の興味や関心を引くような内容である。しかし,上記のような学習内容を 単発的に行うのでは,いわゆる「遊び」に終わってしまい,理科の資質や能力を高めることがで きない場合が多いのではないかと危惧される。
ウ 「選択理科の学習は理科の資質や能力の育成に有効だと考えるか 」。
現在実施されている選択理科の学習が,理科において育成すべき資質や能力を育成する上で十分 な効果を発揮しているか調査することにした。その際,学校規模や教師一人が担当する生徒数と選 択理科での学習効果との相関についても調べた。結果は次のとおりである。
(結果と考察)
・ 全体の7割が選択理科の学習は有効で あると考えている。なお,選択理科の学 習が有効であると考えるか否かと学校規 模や教師一人が担当する生徒数などとの 大きな相関は見られなかった。
エ 「選択理科の有効性に対するの認識の違いと学習内容の決定の仕方には関連があるか 」。
選択理科で主体的な学習活動を展開し,理科の資質や能力を育成するためには,学習内容の充実 が必要であると考える。そこで,選択理科の学習が理科の資質や能力の育成に有効であると答えた 学校と,有効でないと答えた学校で学習内容の決定の仕方に違いがあるかについて調べた。
(結果と考察)
・ 選択理科が理科の資質や能 力の育成に有効であると答え ている学校も有効でないと答 えている学校も,学習内容決 定の際に最も重視しているの は生徒の興味・関心である。
しかし,有効でないと答え ている学校では教師主体で決 定されている割合が大きくな 資質能力の育成と選択理科の有効性
あまり有効で ない 23%
有効でない
7% 非常に有効
10%
ある程度有 効 60%
学校規模と選択理科の有効性
0% 20% 40% 60% 80% 100%
小規模校 中規模校 大規模校
有効である 有効でない
教師一人あたりの生徒数と選択理科の有効性
0% 20% 40% 60% 80% 100%
5人未満 5人以上 10人以上 20人以上 30人以上
有効である 有効でない
学習内容決定の際に重視したこと
0% 20% 40% 60% 80% 100%
有効である 有効でない
興味関心 科学的思考力 表現力 問題解決能力
知識・概念 必修教科との関連 日常生活との関連
っている。
選択理科の学習成果を上 げるためには,学習内容の 決定の際に,生徒の希望を 大切にし,必要に応じて教 師の適切な支援や指導を加 えていくことが望ましいと 言える。
オ 「選択理科の評価は,いつ,どのような方法で行っているか 」。
生徒の興味・関心に基づいた学習活動を行う場合は特に,その学習状況を的確に把握し,適切な 支援や指導を行う必要がある。そのための評価をいつ,どのような方法で行っているかを調査した。
(結果と考察)
・ 選択理科が有効であると答えた学校の約半数は,毎時間何らかの形で学習状況の評価を行って いる。評価の方法においても個票を使った評価を行っている学校が40%以上あり,より個別的に 学習状況を把握しようとしている傾向が見られる。
このことから,選択理科においても個別的に評価を行い学習の過程を評価しながら,それを支 援や指導に生かすことで学習の成果を高めることができると言える。
カ 「選択理科の学習は,指導要録に示されている4観点のうち,どの観点の育成に効果があると 考えるか 」。
学習内容の決定方法
0% 20% 40% 60% 80% 100%
有効である 有効でない
生徒の希望 生徒の希望+教師の許可 教師主導で生徒選択 教師決定
いつ評価するか
0% 20% 40% 60% 80% 100%
有効である 有効でない
毎時間全員 毎時間特記のみ 特記事項ある時のみ その他
どの観点の育成に効果があるか(選択理科が有効と答え た学校)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
知識・理解 技能・表現 科学的な思考力 関心・意欲・態度
非常に効果あり ある程度効果あり あまり効果なし 効果なし
どの観点の育成に効果があるか(選択理科が有効でない と答えた学校)
0% 20% 40% 60% 80% 100%
知識・理解 技能・表現 科学的な思考力 関心・意欲・態度
非常に効果あり ある程度効果あり あまり効果なし 効果なし 評価の方法
0% 20% 40% 60% 80% 100%
有効である 有効でない
教師が個票で 生徒の自己評価 一覧表でチェック その他
現在の選択理科の学習が評価の4観点のうち,どの観点の育成に効果があると考えているのか 調査し,分析することにした。
(結果と考察)
・ 選択理科の学習は,関心・意欲・態度の育成に最も効果があると答えている学校が多い。
科学的な思考力の育成については,あまり効果がないと答えている学校が多い。選択理科が 有効でないと答えた学校は,すべての学校が選択理科における科学的な思考力の育成に有効性 を見いだしておらず,知識・理解面の育成においても有効性を見いだしていない割合が大きい。
問題解決能力の中核となる科学的な思考力の育成や知識・理解面の育成が図られる選択理科 への改善が求められる。
(2) 今後の選択理科の在り方についての教師の意識
ア 「選択理科の学習で身に付けさせたい資質や能力は何か 」。
評価の4観点のうち,今後,選択理科ではどのような資質や能力を身に付けさせたいか調査し,
分析した。
(結果と考察)
・ 選択理科の学習が有効である と考える学校と有効でないと考 える学校のいずれも,今後,選 択理科において科学的な思考力 を育成することの必要性を十分 認識している。
イ 「選択理科を拡充する際の課題は何か 」。
平成14年度から選択理科の開設可能学年や授業時数,内容等が拡充されるのを受けて,選択理 科を拡充する際に課題となることを自由記述の形式で調査したところ,表の4点に集約された。
(結果と考察)
・ 現在の選択理科の学習が理科 の資質や能力の育成に有効でな いと考える学校の半数が,学習 内容の充実が今後の課題である と考えている。また,有効であ ると考えている学校でも,学習 内容の充実の必要性を認識して いる。
選 択 理 科 で 育 て た い 資 質 や 能 力
0 % 2 0 % 4 0 % 6 0 % 8 0 % 1 0 0 % 有 効 で あ る
有 効 で な い
関 心 ・意 欲 科 学 的 な 思 考 力 技 能 ・表 現 知 識 ・理 解
選択理科を拡充する際の課題
0% 20% 40% 60% 80% 100%
有効である 有効でない
学習内容 設備や教材不足 教員や時数の不足 教師の力量
(3) 調査結果分析のまとめ
選択理科の現状と今後の選択理科の在り方についての調査から,次のようなことが言える。
○ 選択理科が理科の資質や能力の育成に有効か否かについての認識は,学校規模や教師一人あた りが担当する生徒数とあまり関連がなく,担当する教師の指導の在り方によるのではないかと考 えられる。
○ 現在実施されている選択理科の学習内容は,興味・関心を高めるのには効果があるが,科学的 な思考力の育成には十分な効果が得られていない。
○ 選択理科で生徒の主体的な学習活動を促し,理科の資質や能力を育成するためには,学習内容 の決定が生徒主体で行われることが大切である。
○ 生徒主体で学習内容の決定が行われたとしても,現在の選択理科の学習は科学的な思考力の育 成に効果を上げていない。興味・関心に基づいた学習内容を科学的な探究活動へと変容させ,科 学的な思考力を高める内容にするためには,見通しをもった学習計画の立案が不可欠であり,教 師の積極的な支援や指導が必要であると考える。
○ 選択理科の学習成果を上げるためには,学習過程におけるきめ細かな評価を行って,生徒の学 習状況を把握し支援や指導を行う必要がある。毎時間,生徒の個票を用いて個別的に評価するな どの工夫が必要である。
○ 選択理科の学習を充実させる上で,科学的な思考力の育成は重要であり,そのためには,選択 理科の学習内容をより充実させる必要があると考えている教師が多い。特に,現在の選択理科が 資質や能力の育成に有効でないと考えている教師は,学習内容の充実を重要な課題として認識し ている。学習内容の充実を図るためのより具体的な指導資料を提供する必要がある。
(4) 研究の方向性
以上のような実態を踏まえ,科学的な思考力を高める価値ある選択理科の学習を支援するために,
次のような構想で研究を進めていくことにした。
・ 生徒自身の力で価値ある課題を決定させるための指導手順を明らかにする。
・ 価値ある課題設定を促す,生徒への観察,実験に関する効果的な情報提供の方法を明らか にする。
・ 見通しをもった学習計画を立てさせるために有効な指導の在り方を明らかにする。
・ 科学的な思考力を高めるための学習内容及び教材・教具を開発する。
・ 開発した教材・教具の有効性について検証する。
・ 教材・教具に改善を加え,授業で活用できるような生徒用ワークシート及び教師用指導資 料を作成する。
・ 研究の成果を電子情報化し,必要に応じてパソコンから引き出せるように資料提供の方法 を工夫する。