バイオマス資源の活用による地域づくりの事例調査
松本俊哉*
1 はじめに
本稿は, 日本ガス株式会社から委託された畜産系バイオマスを活用したエネルギーの域内循環に関する 研究の一環として行ったバイオマス施設の調査結果について概要を整理するものである。
バイオマスとは,生物体由来の,木質,家畜排泄物,下水汚泥,食品廃棄物等の有機性の資源であり,
メタンガス等の気体燃料,木質ペレット等の固形燃料,バイオエタノール等の液体燃料に加工され,電源 や熱源,輸送燃料として利用されるほか,飼料化・肥料化に利用きれる。このように,太陽光や風力,水 力といった再生可能エネルギーと比べて,バイオマスは資源の種類や利活用変換技術,利用形態が多様で あることが特徴である。またバイオマスはその活用が拡大することによって各種の廃棄物の再利用や減少 を促進することから,循環型社会の構築に大きく寄与するものとして期待されている。
しかし,バイオマスの活用をめく、っては他の再生可能エネルギーにはない問題が存在する。例えば,バ イオマスは広い地域に分散していることが多いため,その収集・運搬・管理にコストがかかる。バイオマ ス施設の整備に必要な初期投資や維持管理費は割高である。さらに,バイオガスを生成するメタン発酵の 過程で出る消化液の処理が必要となる。また,バイオマス資源の域内循環を成立させるには,バイオマス 施設に搬入(インプット) される資源の量と質そしてバイオマス施設から搬出(アウトプット) される 生成物の活用方法等が地域経済の特性に適合したものでなければならない。そのため,バイオマスを活用 して資源循環型の地域づくりを進めていくには, 自治体と住民,農家や地元企業といった地域社会を構成 している主体の理解と協働も必要である。
以下では,訪問調査を行った5カ所のバイオマス施設(家畜排泄物など産業廃棄物処理施設2カ所,生ご みなど一般廃棄物処理施設3カ所)について, (a)施設の概要, (b)資源循環, (c)循環型社会の構築,
といった点に絞って整理を行い,バイオマスを利用した地域づくりについて考える。
キーワード:循環型社会,畜産系バイオマス,バイオマス施設
*本学経済学部准教授
2.家畜排泄物の利活用
(1 )南丹市八木バイオエコロジーセンター(京都府南丹市)↑
(a)施設の概要
南丹市は京都府の中部に位置し, 2006年に4町が合併して誕生した人口約3.1万人の自治体である。市域 の南端に位置する八木町は,近隣の大阪府や京都市を消費地とする近郊農業や酪農が盛んで,市内の畜産 農家のほとんどが集中している地域である。南丹市八木バイオエコロジーセンターは, 1998年に家畜排泄 物の共同処理施設として運営を開始した国内では最古のバイオマスセンターであり,家畜排泄物の堆肥化
とメタン発酵によるバイオガス発電および液肥の生産を行っている。
(b)資源循環
同センターでは,町内の乳牛と肉牛の排泄物および近隣の食品工場残澄の受け入れを行っている。同セ ンター開業時と比べると,高齢化に伴う廃業により畜産農家の戸数は減少してきたが,他方で,法人化に よる経営の大規模化が進んだため家畜頭数はむしろ増加しており,家畜排泄物の搬入量は増加傾向にあ る。また,大規模経営体においては廃棄物管理が行き届いているため,搬入される家畜排泄物の質は向上
している。
同センターは,近隣に立地する食品工場の食品残置の回収も行っており,豆腐工場から出る豆かすや豆 乳,和菓子工場から出る小豆かす等をバイオマス資源として家畜排泄物と合わせて利用している。畜産農 家が持ち込む家畜排泄物の受入料金がトン当たり850円であるのに対して,施設職員が回収する食品残置 は9,000円〜11,000円といったように10倍以上の料金を設定しており, この食品残置の受け入れが同セン ターの運営を収入面で支える一因となっている。
乳牛の糞尿と食品残澄を投入してメタン発酵施設で生成されたバイオガスは, コージェネ発電に利用さ れ,電気の一部と熱が施設内の電力やメタン発酵槽の加熱に利用されている。余剰分の電力はFITによっ て売電し,年間約1000万円の収入になる。メタン発酵過程で出る消化液を脱水した脱水ケーキは堆肥化施 設で3カ月かけて熟成堆肥に加工され, トン当たり6,500円で販売している(肉牛の糞尿は,おがくず,汚 泥等と合わせて堆肥にして無料で配布されている)。消化液から1日当たり10トン回収される液肥は,水田 への散布に無料で提供され(運搬・散布料のみ徴収),畑作や家庭菜園用には安価で販売されている。
同センターは,地域の畜産農家と食品工場から出る廃棄物の処理を通して堆肥と液肥を地域の農地に還 元するといった機能を担っており,畜産農家と耕種農家をつなぐ役割を果たしている。
(c)循環型社会の構築
同センターは,運営開始から20年以上が経過し老朽化が進んでいるが,南丹市から年間数千万円の施設 改修費が支出されることによって存続してきた。行政として地域の畜産農家の経営を支える必要があるこ
とはもとより,循環型社会を目指すまちづくりを推進してきた前市長の佐々木稔納氏(2006年〜2018年)
の功績も大きいであろう。循環型社会の構築に向けた取り組みは,畜産系バイオマス事業だけでなく,木 質チップボイラー事業,小水力発電事業,バイオディーゼル燃料利活用事業と,幅広い分野に及んでおり,
同市は, 2015年度に「バイオマス産業都市2」に選定されている。
l 八木バイオエコロジーセンターについては,現地での聞き取りと説明資料のほか, 中村(2012),南丹市(2015a) (2015b)
(2018),菊地(2018)を参照。2 原料生産から収集・運搬・製造・利用まで,経済性が確保された一貫システムを構築し,地域の特色を活かしたバイオマス産 業を軸とした環境にやさしく災害に強いまち・むらづくりを目指す地域のこと。2013年から関係7府省(内閣府,総務省,文部科 学省農林水産省,経済産業省, 国土交通省,環境省)が共同で推進し,応募のあった地域から選定している。2019年度までに
同センターから500メートル程離れた場所にある農村環境公園「氷室の郷」には500名を収容できるホー ルがあり,災害時等の地域住民の避難所に指定されている。関西電力大飯原発の50キロ圏内にある八木町 では,緊急時の電力確保を想定して, 同センターのバイオガス発電で得た電気と温水をこれら公共施設へ 供給することを検討している。
(2)鹿屋市畜産環境センター(鹿児島県鹿屋市)3 (a)施設の概要
鹿屋市は鹿児島の大隅半島の中央に位置し, 2006年にl市3町が合併して誕生した人口約10万人の自治体 である。同市の基幹産業である農畜産業のなかでも, とりわけ養豚業の占める割合が大きく,豚の生産出 荷頭数は全国第一位の鹿児島県のなかでも最大数を誇る。 1990年代,養豚経営の規模拡大によって家畜排 泄物量が増加した結果,野積みや素堀りによる排泄物処理が悪臭や河川・地下水の汚染等の環境問題を発 生させた。そうしたなか, 自前での排泄物処理施設を整備することが困難な中小規模農家から共同処理施 設の整備が望まれ, 2001年から家畜排泄物の堆肥化と河川.地下水の汚染防止を目的として同センターが 稼働を始めた4.
(b)資源循環
同センターに搬入される家畜排泄物は,固液分離された後,固体は堆肥化処理施設へ,液体は汚水処理 施設へそれぞれ送られて処理される。当初は, メタン発酵を行って生成したバイオガスでコージェネ発電 し,電力と熱を施設内で利用していた。しかし現在では,バイオガスの生成過程で発生する硫化水素が原 因で設備の腐食が進んでしまったためメタン発酵は行っていない。
同センターを利用する養豚農家は,施設稼働当初は70戸ほどあったが, 2011年には55戸,現在では40戸 以下にまで減っている。しかし,養豚農家の戸数が減少したほどには排泄物の受け入れ量は減っていない。
豚の繁殖から出荷までを行う一貫経営から, 出荷先の食肉企業等から子豚と飼料を導入して肥育する預託 経営が増えてきたが,預託経営への切り替えは費用削減や作業軽減になるため農家は肥育頭数を増やすこ とができるからである。同センターでは,旧当たり100〜120トンの豚の排泄物を受け入れているが, 中 小規模農家の経営維持の観点から処理費用は1トン当たり1,000円程度と低めに設定しており, このことが
同センターの収支悪化の一因ともなっている5.
バイオマス施設で加工された堆肥は,資源循環の観点から見れば,そのすべてが地元で農地還元きれる ことが好ましい。畜産の盛んな鹿屋市では大規模経営体が個別処理によって生産する堆肥も供給されてお り, 当初は,同センターで生産した堆肥の利用率は低かった。その後, 同センターの完熟堆肥は水分割合 が均質な良品であるためしだいに利用を増やしてきた6.同センターは堆肥生産によって畜産農家と耕種農 家をつなぐ役割を果たしてきたといえる。
(c)循環型社会の構築
中小規模の養豚農家の肥育頭数が増えるなか,同センターの稼働率が上がらなければ,
は費用をかけて自家処理施設を整備しなければならなくなる。こうした状況ではあるが,
いずれ養豚農家 同センターは事
全国で90の市町村が選定されている。鹿児島県内では,薩摩川内市と長島町が2016年度に選定されている。
鹿屋市畜産環境センターについては,現地での聞き取りのほか,蔵ケ崎(2001),鹿屋市(2009),今野・高柳(2011),中西(2019)
を参照。肉牛の排泄物はJA鹿児島きもつきの堆肥舎で堆肥化されている。
今野・高柳(2011), 60ページ。
今野・高柳(2011), 62ページ。
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業収支の悪化等のために近年中に閉鎖が予定されている。
同センターは,公共的施設として家畜排泄物の処理費用を低く維持することによって中小規模の養豚農 家の経営を支え, また,地域の水質環境を改善する役割を果たしてきた。市財政の事情とはいえ, こうし た機能が失われることが地域社会にもたらす影響は小さくないであろう。今後は,良質な堆肥を耕種農家 に供給するための畜産農家の排泄物処理技術の向上,処理施設の整備費用に対する公的補助,畜産農家の 汚水処理に対する厳格な指導等が課題となろう。
S.生ごみ等の利活用
(1)大木町循環センター「くるるん」 (福岡県大木町)7 (a)施設の概要
大木町は福岡県南部筑後平野の中央部に位置し,人口約l.4万人の水郷柳川に隣接する農業の盛んな町 である8.従来,家庭から出る生ごみは隣接する大川市の清掃センターに焼却処分を委託してきたが,年々 処理費用が増加して町財政を圧迫するようになった。加えて, し尿や浄化槽汚泥については海洋投棄禁止 の期限が迫っていた事情もあり, ごみ減量化と生ごみ循環事業を地域住民の参加によって推進していくこ とになった。同町は循環型社会の構築を目指し, 2005年2月にバイオマスタウン構想, 2008年3月に「もっ たいない宣言」 (ゼロ.ウェイスト宣言)を公表している。
バイオマスタウン構想の中心事業として, 2006年ll月からおおき循環センター「くるるん」が稼働を始 め,生ごみ, し尿および浄化槽汚泥を受け入れて, メタン発酵によるバイオガス生成と液肥の生産を行っ ている。
(b)資源循環
家庭から出る生ごみは,町が無料配布した専用バケツに溜められ,週2回各地域に設置される収集ダル に集められたものが収集車で回収される。こうして回収された生ごみのほか, し尿や浄化槽汚泥がバイオ マス資源として利用されている。メタン醗酵によって生成されたバイオガスはコージェネ発電に使用さ れ,電気と熱は同センター内で消費し,他方,メタン発酵過程で生成される消化液から液肥を回収し(5000
〜6000トン/年), この液肥は地域の水稲栽培等に活用している。
同センターで生産した液肥を用いて栽培した米「環のめぐみ」は地元の学校給食で使用されるほか,町 民には優先的に安価で販売され, また,液肥を用いて栽培した菜の花から搾った菜種油「環のかおり」の 販売も行われている。 「生ごみ収集→メタン発酵→液肥の農地還元→地元農産物→食卓・食事→生ごみ」
といった農と食を通じた循環システムが,町民の目から見てもわかりやすいかたちで確立している。
(c)循環型社会の構築
「くるるん」はごみ処理のためだけの施設ではなく,循環型社会や自然環境の理解を深めるための公共 施設として環境学習室を併設している。2010年4月には, 「くるるん」の隣接地にインフオメーシヨンセン ターや農産物直売所,地産地消レストランを備えた「道の駅おおき」をオープンさせ,当該エリア全体を,
同町が目指す「循環のまちづくりの拠点施設」としている。通常, ごみ処理施設は地域住民にとって迷惑
7 大木町バイオマスセンター「くるるん」については,現地での聞き取りと説明資料のほか,大木町(2005),畑中・遠藤・塩屋・
中村(2014)を参照。
8 2005年時点で,大木町の畜産農家は養豚農家が3件あったが,発酵床方式により糞尿を堆肥化するシステムが導入されている。
施設として認識されるが, 「くるるん」はむしろ住民に歓迎される福利施設となっている9。
大木町では, 1990年代から循環型社会を目指して,資源ごみの分別収集,住民団体との共同による町 の温泉施設への太陽光発電所の設置等さまざまな取り組みが自治体と住民との協働によって進められてき た。2019年2月に町長に就任した境公雄氏は,環境課長を務めた元町職員で, 「くるるん」を推進してきた キーパーソンでもある。循環型社会の構築に向けた地域づくりを進めていくうえで, 自治体と住民との協 働はもちろん大切であるが,首長や自治体職員がイニシアチブを発揮することの意義も大きいといえよ
う。
(2)みやま市バイオマスセンター「ルフラン」 (福岡県みやま市)'0 (a)施設の概要
みやま市は福岡県の南西に位置し, 2007年に3町が合併して誕生した人口約3.6万人の自治体である。農 業と水産業が盛んなことから市内には食品工場が多く,地域産業との連携によるバイオマスの活用が課題 とされてきた。元々, 同市は生ごみを焼却処分していたが,焼却灰埋立場の延命化のためにごみの減量化 が必要となった。また,隣接する柳川市との共同事業である新規焼却場の建設費の抑制といった財政的な 要請もあり,生ごみの資源化を行うバイオマスセンター「ルフラン」が2018年に設置された。
「ルフラン」は,バイオマス事業で先行した大木町の「くるるん」のシステムを雛形としており, 同市 では「ルフラン」の整備に向けて,住民向けの生ごみ収集モデル事業や農家向けの液肥散布モデル事業等 を実施し,バイオマス資源の質の管理や生成物である液肥の理解と普及に努めてきた。
(b)資源循環
「ルフラン」では,生ごみ, し尿,浄化槽汚泥に加えて,大木町の「くるるん」では受け入れていない 食品工場残置の受け入れも行っている。メタン発酵施設で生成きれるバイオガスはコージェネ発電に利用
され,その電気や熱は施設内で自家消費されている。
液肥は年に20000トンが生産され, 同センター施設内と市内に設置きれたサテライト液肥タンクに貯留 されて使用し,農業が盛んな地域であるため液肥の散布対象となる農地は十分に確保されている。また,
家庭菜園等での液肥利用を促進するために小学校区(市内16カ所)に液肥タンクを設置し,佐賀大学農学 部と連携した液肥の家庭菜園用施肥方法の手引きを作成して配布する等,液肥利用の促進・普及にも力を 入れている。液肥を使って栽培した菜の花から搾った菜種油を商品化する等,大木町に倣った循環システ ムの確立も進められている。
(c)循環型社会の構築
大木町と同様,みやま市においてもバイオマス施設を循環型社会に向けた拠点施設として活用するとり くみが進められている。 「ルフラン」は廃校となった小学校の跡地に建設されており, 旧校舎の教室をバ イオマス研修室,食品加工室, シェアオフイス, カフェスペース等の地域住民が集い学ぶ賑わい施設にリ ノベーションして活用している。バイオマス施設を循環のまちづくりの拠点施設にすることは,資源循環 を地域社会に根付かせていくための積極的な試みだといえる。
2014年,みやま市は「バイオマス産業都市」に選定された。 「みやま市バイオマス産業都市構想(バイ オマス活用推進計画)」では,上記のバイオマスセンターのほか,紙おむつの資源化,バイオディーゼル 燃料の製造,海苔の資源化等のプロジェクトを検討課題として挙げている。2018年には,大木町とバイオ
9 畑中ほか(2014), 210ページ。
10みやま市バイオマスセンター「ルフラン」については,現地での聞き取りと説明資料のほか,みやま市(2014)を参照。
マス施設メンテナンスの相互支援を含む「持続可能な循環型社会の構築に係る包括協定」が締結され,互 いの強みを活かしながら自治体連携の下で循環型社会の構築が進められている。
(3)そおりサイクルセンター大崎有機工場(曽於郡大崎町)'1 (a)施設の概要
大崎町は鹿児島県の大隅半島の東に位置する人口約l.3万人の農畜産業の盛んな町である。ごみ焼却施 設を持たないため埋立処分場の延命化という問題に直面した大崎町は, ごみの減量化を進めるために,
1998年から資源ごみの分別回収とリサイクルを徹底して行う 「大崎リサイクルシステム」を導入した。
2004年からは, 「分別したら資源(堆肥)になる」とのことから,町内全域で生ごみの回収も行われている。
曽於市,志布志市および大崎町の2市1町は一般廃棄物および産業廃棄物の収集と処理を(有)そおりサイ クルセンターに業務委託しており, そのうち,大崎町の家庭と事業所の生ごみや草木剪定くずが,そおり サイクルセンター大崎有機工場で堆肥化されている。
(b)資源循環
町内の家庭と事業所から発生する生ごみは専用の収集バケツで回収され, 1カ月に約100トンが工場へ搬 入される。生ごみは,剪定草木を細かく破砕した草木チップと混ぜて発酵させ,約4カ月半をかけて全量 を堆肥化し5キロ100円で販売している。この堆肥は町民が購入して利用するだけでなく,そおりサイクル センターの農業部門で有機野菜の生産に使用されたり,同町と町民(衛生自治会)の「菜の花エコプロジェ クト」の畑でも使用されているため,堆肥の需要は十分に確保されている。
生ごみというバイオマス資源の流れを追えば,有機野菜や菜種油を使った食事後の生ごみが有機工場へ 回収されてそこで堆肥となり,その堆肥を使用して生産された農作物が食卓に上がる, といった資源循環 システムが出来上がっている。このことは,堆肥と液肥の違いはあるが,先に見た大木町やみやま市と同 様に,循環型社会の構築に向けた住民の意識を向上させることにつながるものだといえよう。
(c)循環型社会の構築
先に見た「大崎リサイクルシステム」を確立する過程で,行政(大崎町) ・住民(家庭事業所) ・企業 (リサイクルセンター等)の問での協働・連携の関係が築かれてきた。とりわけ, ごみの分別収集を始め るにあたって,町は150地域で約450回の説明会を実施して住民の理解を得ることに尽力し,現在でも毎年,
地域リーダーの研修を続けている。こうして構築されてきたリサイクルシステムは, 当初の目的であった 埋立処分場の延命化に加えて,ごみ処理経費の節約や資源ごみ売買益金の発生,雇用の増加にもつながり,
全国的に高く評価されている。現在, 同町の「ごみリサイクル率」は80%以上であり,その率は12年連続 日本一を記録している。こうしたリサイクルシステムの実績と経験は, インドネシアにおける資源循環型 まちづくりの指導・援助にまで普及活動の場を広げている。
畜産業の盛んな同町では,家畜排泄物の処理も課題となっている。現在,町内には共同の堆肥化施設等 がないため各畜産農家において個別処理が行われているが,施設の老朽化や畜産農家の高齢化によって排 泄物処理の外部委託が要望されており,家畜排泄物のバイオマス資源としての活用(メタン発酵)が検討 課題とされている'2。
llそおリサイクルセンター大崎有機工場については,現地での聞き取りと説明資料のほか,八木(2014)を参照。
12大崎町(2015), 27, 37ページ。
5. まとめ
バイオマスが,太陽光や風力,水力といった他の再生可能エネルギーと異なる点は,その多くが人々の 生活や産業活動を通して排出される廃棄物であることである。加えて,家畜排泄物や生ごみ・し尿・下水 汚泥といったバイオマスをバイオガス発電に利用する場合には, メタン発酵に伴って生成される消化液か ら回収した液肥を散布するための農地の確保が必要となる。家畜排出物から生産される堆肥についても同
じことがいえる。
八木バイオエコロジーセンターの運営が順調である理由は,施設に搬入(インプット)される資源の量 と質,それと施設から搬出(アウトプット)される生成物が地域の産業に適合しているからである。域内 で排出される廃棄物(家畜排泄物や食品残置)の処理を環境に負荷をかけずに行う一方,地域の耕種農家 が必要とする堆肥や液肥を安価に提供することによって畜産農家と耕種農家を結びつけ,そのことが地域 の農畜産業の持続可能性を支えることにつながっている。
大木町,みやま市,大崎町のバイオ関連施設はいずれも,住民にとって身近なごみ減量化の要請から始 まり,各自治体はそれまで焼却処分してきた生ごみを分別収集することによってバイオマス資源を確保 し,域内循環システムに投入することになった。大木町とみやま市がし尿や浄化槽汚泥も合わせて利用し てメタン発酵処理を行って液肥を農地還元しているのに対して,大崎町ではメタン発酵処理は行わず,堆 肥化といった手段を用いて資源循環を行っている。生ごみという共通するバイオマス資源であっても,地 域の特性や条件に応じた資源の利活用変換技術や利用形態がありうるということである。ただしいずれの 場合も,バイオマス施設へインプットする資源の量と質,施設からアウトプットされる生成物の活用方法 が考慮されなければならない。生ごみやし尿等の量は主に地域の世帯数によって決まるが,バイオマス施 設が効率的に運用きれるのに適した搬入量が安定的に確保されなければならないし,同時に,生産される 堆肥や液肥の需要先が確保されていることも必要である。この点,いずれの自治体においても生ごみの分 別収集と,堆肥・液肥の活用を促進する努力を行っており, こうしたとりくみは循環型社会構築の先進的 な事例として評価できる。
調査を通して,バイオマス施設が公共施設であることの意義について示唆していただいた。民間企業が 生産活動から排出される廃棄物をバイオマスとして活用する場合, 自社の事業の内容や規模に応じたバイ オマス施設を整備すればよく, 自己完結的なバイオマス事業といえる。公共施設の場合は事情が異なる。
自治体には廃棄物処理や環境保全といった地域社会が抱える問題の解決にとりくむ責任があり, このこと からバイオマス施設の整備費や運営費の支出を含めた持続性が求められる。ここに,循環型社会構築の観 点からバイオマス施設を地域の公共財として考察を深める意義があると考える。
バイオマス施設は資源循環だけでなく,雇用の創出という点からも地域づくりに活用されることが望ま しいことは言うまでもなく, また,バイオマス施設整備に必要な資金調達のあり方や施設運営に関わる収 支等についても重要な課題である。こうした点について聞き取り調査のなかでうかがった事柄もあるが,
本稿では触れることができなかった。別稿での課題としたい。
謝辞
本研究は, 2019年度日本ガス株式会社の委託研究費を受けて実施したものである。
<参考文献〉
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蔵ヶ崎浩一(2001) 「『鹿屋市畜産環境センター』について」 『ちようせい』第27号
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