145
平成 31~令和 2 年度年度厚生労働科学研究補助金
(医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業)
総合分担研究報告(11)
わが国における免疫グロブリン製剤の需要量の変化について
研究分担者 菅河真紀子(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 ) 研究代表者 河原和夫 (東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 )
研究要旨
近年、世界においてグロブリン製剤の不足が深刻化している。我が国においても使用 量は2010年からの10年間で約1.5倍に急増しており、2019年は緊急輸入を余儀なく された。その対応策として、第二採血所の設立が法律上可能になったわけだが、設立の 条件に非営利という制限もあり、なかなか進んでいない。適応症 の拡大や治療の在宅化 等により、需要量は、増加の一途を辿っているため、採漿量の確保とともに適正使用の 推進、使用ガイドラインの作成、適応症認可規定についても対応が求められるところで ある。
使用量急増の原因究明は、今後の、適正使用の推進や使用ガイドラインの作成に必要 不可欠である。そこで急増の直前に加えられた2つの因子「CIDP進行抑制への適応認 可」と「濃厚製剤の上市」についてレセプトデータを使って分析し、急増との相関につ いて調べた。
その結果、本来、急増の原因だと思われていた CIDP に対するグロブリン製剤の使 用量は継続的に増加傾向にはあったものの認可の前後で有意な増加は認められなかっ た。しかし、濃厚製剤の上市については 10%製剤の登場によって治療時間が短縮化さ れ、入院から外来、在宅へと治療形態が変化しており、特に継続的投与を必要とする低 及び無ガンマーグロブリン血症において使用量が 有意に増加していたことが確認され た。入院によって妨げられていた隠れた治療ニーズが 、外来治療が可能になることによ って掘り起こされたものと考えられる。
今後、企業によって治療時間の短縮化が促進されると継続的投与を必要とする疾患 において更なるニーズが創生されるものと考えられる。国際的血液事業ビジネスが白 熱化する中で、企業の利益追求の影響を受けることなく正しく 需要量を把握すること が必要である。そのためには、グロブリン製剤の適正使用を推進させるとともに適応症 の認可をどこまで広げるかについての慎重な論議が必要である。
A.目的
近 年 、 グ ロブ リ ン 製 剤 の 不 足 が 深刻 化
し てい る 。 世界 に お け る 血漿 の 消 費量 は 2010年からの8年間で約1.8倍に増加し
146 た。米国では血漿の平均価格は約 20%値 上がりし使用量も2012年からのわずか6 年間で1.7 倍となっている。
1990年代に変異性クロイツヘルトヤコ ブ 病の 発 生 によ っ て 米 国 から 血 漿 を輸 入 す るこ と を 余儀 な く さ れ 、そ の 後 も米 国 に 頼り 続 け てき た 欧 州 諸 国は 、 全 世界 が
血漿の 70%を米国の売血に頼っている現
状 を危 惧 し グロ ブ リ ン 製 剤の 国 内 自給 政 策に力を入れはじめている。また、オース ト ラリ ア や カナ ダ な ど の 国々 も 血 漿の 世 界 的不 足 に よる 価 格 高 騰 を懸 念 し 、グ ロ ブ リン 製 剤 の適 正 使 用 を 呼び 掛 け 、国 内 自給体制の構築を急いでいる。
一 方 、 我 が国 は ほ ぼ 国 内 自 給 を 達成 し て いた 状 況 から 一 転 し て 、グ ロ ブ リン 製 剤の使用量急増に生産が追い付かず2019 年、緊急輸入を余儀なくされた。その対応 策の一つとして、法を改正し、日本赤十字 社(以下:日赤)以外の第二採血所の設立を 認め、原料血漿の確保を目指したが、その こ とに よ っ て海 外 企 業 の 日本 進 出 が可 能 となった。我が国は、経済力や医療水準、
インフラ整備等の条件から、血漿採取国、
製 剤購 入 国 の両 面 で 格 好 の市 場 と して 長 年 欧米 企 業 から 注 目 さ れ 続け て き た。 今 日、世界の血液製剤の原料の 7 割は売血 に よっ て 収 集さ れ た も の であ り 、 欧米 企 業 によ る 血 液産 業 ビ ジ ネ スは 年 々 白 熱 化している。今後、適応症の拡大を進める こ とに よ っ てグ ロ ブ リ ン の需 要 は 押し 上 げ られ る こ とが 予 測 さ れ るが 、 海 外企 業 の製剤は、利便性長け、国内企業の製剤よ り も競 争 力 に長 け て い る 。や が て は国 内 で 採取 さ れ た血 漿 が 海 外 企業 の 工 場で 製 剤化されることになり、国内企業は、市場 の 維持 が 難 しく な る だ け では な く 生き 残 りも難しくなるかもしれない。
今 後 、 国 際的 血 液 産 業 ビ ジ ネ ス に巻 き 込まれることなく、国内自給を維持し、将
来 的に 安 全 なグ ロ ブ リ ン 製剤 を 安 定的 に 供 給し 続 け るた め に 、 グ ロブ リ ン 使用 量 急 増の 原 因 を究 明 し 、 賢 明な 政 策 につ な げることがこの研究の目的である。
B.方法
社 会 保 険 組合 医 科 レ セ プ ト 情 報 を用 い 75歳未満の患者約525万人の全種グロブ リ ン製 剤 の 使用 状 況 に つ いて 分 析 した 。 特に使用量の多い 4 疾患について濃厚製 剤 への 切 り 替え 状 況 と 診 療形 態 の 変化 お よ び使 用 量 の推 移 に つ い て調 べ 、 グロ ブ リ ン使 用 量 の急 増 と の 関 連性 を 探 った 。 期間は 2011年7月から 2019年6月まで の 10年間で、前年7月から当年の6月ま で を一 年 と し、 年 齢 別 母 集団 を も とに 補 正を行った数値を使用した。ただし、75歳 以 上の デ ー タ補 正 に つ い ては 、 年 齢構 成 デ ータ が 入 手で き な い 疾 患が あ っ たた め 調整を行わなかった。また、各疾患の患者 数 につ い て は難 病 情 報 セ ンタ ー の 特定 疾 患医療受給者証所持者数のデータ(2010 年~2018年)を使用し、世界の動向につい ては、The Market Research Brew, Inc の データを使用した。統計的解析は、IBM社 統計解析ソフト SPSS Statistics 26 を 使用し、増加率の検定は、ワンサンプルの t検定を行った。(p<0.01)
なお、この研究は、東京医科歯科大学の 倫 理委 員 会 およ び 利 益 相 反委 員 会 の承 認 を得て実施した。
C.結果
① 適応 症 の 追加 に 伴 う グ ロブ リ ン 製剤 総 使用量の変化
図 ① は 、 我が 国 の グ ロ ブ リ ン 製 剤の 適 応 症追 加 状 況と グ ロ ブ リ ン製 剤 総 使用 量 の 推移 を 示 して い る 。 低 及び 無 ガ ンマ ー
147 グロブリン血症(以下:PID/SID)用量変 更が追加された 2010年以降、効能が次々 に 追加 さ れ 増加 の 一 途 を たど っ て いる 。 慢 性 炎 症 性 脱 髄 性 多 発 神 経 炎(以 下 :
CIDP)の進行抑制に認可が下りた2016年
に つい て は 、大 き な 増 加 は見 ら れ なか っ
たが、10%製剤が上市した 2018年には大
きな増加がみられた。
➁各疾患別グロブリン製剤使用量の変化 図 ➁ は 、 各疾 患 別 グ ロ ブ リ ン 製 剤使 用 量の推移を表したものである。IgG2欠乏 症(以下IgG2)、CIDP、PID/SID、川崎病
(以下:KD)に対する使用量が他の疾患
に比べて多かった。この 4 疾患について みると、国内需要量が急増した 2018年に
IgG2、KD、CIDPの使用量には大きな変
化は見られなかったが PID/SIDは、大き く増加していた。CIDPについては、連続 的 増加 傾 向 にあ っ た も の の、 運 動 機能 低 下 の 進 行 抑 制 に 各 製 剤 が 認 可 を と っ た 2016 年(グ ロベニ ン®)2018 年(ヴ ェノグ ロブリ ン®)はとも に有 意な増 加 は 見られ なかった。
③IgG2治療に対するグロブリン使用量の 変化
製 剤 濃 度 別に 使 用 量 の 変 化 を み ると 、 2018 年に 5%から 10%製剤へ約 40%が 切 り替 え ら れて い た 。 診 療形 態 別 に変 化 をみると外来が増加しDPCや出来高制入 院が減少していた。しかし、使用総量には 増 加は 見 ら れず 、 む し ろ 減少 し て いた 。
(図③図④)
図①
148
図➁
図③ 0
200 400 600 800 1000 1200
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
lgG2 CIDP KD PID/SID
ITP GBS AGA/CSS PM/DM
MG Pemphigus SJS/TEN
0 200 400 600 800 1000 1200
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage(kg)
5% 10% 20%
149
図④
④KD 治 療 に 対 す る グ ロ ブ リ ン 使 用量 の 変化
製 剤 濃 度 別に 使 用 量 の 変 化 を み ると 、 2018 年に 5%から 10%製剤へ 32%切り
替 えら れ て いた 。 診 療 形 態別 に 変 化を み ると外来はほとんどなく(0.006%)DPC
が 95%をしめていた。総使用量は 7.5%の
増加が見られた。(図⑤図⑥)
図⑤ 0
200 400 600 800 1000 1200
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
Outpatient DPC Hospitalization
0 100 200 300 400 500 600 700
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
5% 10%
150
図⑥
図⑦ 0
100 200 300 400 500 600 700
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
Outpatient DPC Hospitalization
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
5% 10% 20%
151
図⑧
⑤CIDP 治 療 に 対 す る グ ロ ブ リ ン 使 用量 の変化
CIDPの「筋力低下の改善」、および「運 動 機能 低 下 の進 行 抑 制 」 に対 し 適 応認 可 を 取 得 し て い る グ ロ ベ ニ ン®と ヴ ェ ノ グ ロブリン®の 2 製剤について CIDP に対 する製剤別使用量、合計使用量、医療形態 別使用量の各々について分析した。
1.製剤別使用量と合計値の変化
グロベニン®は認可を取得した2016年 に 使用 量 が 大き く 増 加 し てい た 。 また ヴ ェ ノ グ ロ ブ リ ン®も 進 行 抑 制 の 認 可 と
10%濃厚製剤の上市が重なった2018年に
非常に大きく増加していた。しかし、2製 剤 の合 計 値 をみ る と お 互 いの 増 減 が打 ち 消 され 、 ど ちら の 年 も 目 立っ た 増 加は な く 輸 入 製 剤 の ハ イ ゼ ン ト ラ®や ピ リ ビ ジ
ェン®(計15507g)を合わせても有意な
増加は見られなかった。図⑦⑧
2 .各 診 療 形態 に お け る 製剤 別 使 用量 の 変化 図⑨
2016 年(グロベニン®が初めて CIDP の 進 行 抑 制 に 対 す る 認 可 を 得 た 年 ) と 2018 年(ヴェノグロブリン®の同認可の
取得と 10%濃厚製剤の上市が同時に行わ
れ た年 ) の 使用 量 の 変 化 につ い て 着目 し た。
外来:2016 年グロベニン®、2018 年ヴ ェ ノ グ ロ ブ リ ン®ど ち ら も 認 可 取 得 年 に 非常に大きく増加していた。
DPC:2016年は2製剤ともに大きな増加
はみられなかった。2018年はヴェノグロ
ブリン®が大きく増加したが(p<0.01)
グロベニン®は大きく減少した(P<0.01)。
入院:2016 年グロベニン®は、非常に大 き く 増 加 し た(P <0.01)が ヴ ェ ノ グ ロ ブ リン®は減少した。2018年は、10%製剤が 上 市し 、 外 来治 療 が 可 能 にな っ て いる に もかかわらず2製剤共に増加した。
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900 1000
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
Venoglobulin® Glovenin® Total
152
図⑨
3.CIDP 進行抑制に対する投与速度(時 間)の比較
表①は、CIDPの進行抑制に対して認可 を取得している 4剤について、体重 50Kg の 患者 の 場 合の 投 与 最 低 必要 時 間 等を 表 したものである(準備等の時間は含まれて いない)。グロベニン®5%は2日に分けて 投与した場合、初日に 3.2 時間 2 日目に 2.8時間、1日で治療する場合は 6時間必
要である。ヴェノグロブリン®10%は初日 2.2 時間、2日目1.4 時間、1日治療の場 合は 3.6時間必要である。ピリビジェン®
は、初日 1.5時間、2日目1時間、1日治 療の場合は 2 時間必要である。ハイゼン トラ®は、1時間に50mL迄という制限が あるため初日も2日目も 2 時間必要であ る。
0 50 100 150 200 250 300 350
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
Venoglobulin® : Hospitalization Glovenin® : Hospitalization Venoglobulin® : Outpatient Glovenin® : in:Outpatient
Venoglobulin® : DPC Glovenin® : DPC
153
表①
⑥PID/SID に対する濃度別、治療形態別 使用量の変化と患者数の変化
図 ⑩ お よ び 表 ➁ は 製 剤 の 濃 度 別 に
PID/SID に対する使用量を表したもので
ある。PID/SID に対しては、全ての製剤 が 認可 を 取 得し て い る の で、 濃 度 別に 全 製剤を分類し合計値を算出した。2018年 ヴェノグロブ リン®に 10%製剤が出 たこ
とにより 10%製剤のシェアは大きく飛躍
し 総使 用 量 につ い て も 、 大き な 増 加が み
られた。20%製剤=皮下注製剤ハイゼント
ラ®(CSL)の使用量となるが、これにつ
いても、認可のおりた 2013年より大きく 使用量を伸ばしている。ハイゼントラ®は、
唯一 在 宅投 与 が可 能 な グロ ブ リン 製 剤で、
CIDP の 進 行 抑 制 に も 使 用 さ れ て お り 2014 年からの 4 年間で総使用量が約 27 倍に増加している。
治 療 形 態 別使 用 量 の 変 化 に つ い ては 、 10%濃 厚 製 剤 の 上 市 を 機 に 外 来 で の 使 用 が急増していた(図⑪)。総患者数につい て は大 き な 変化 は 見 ら れ なか っ た が、 外 来 のの べ 患 者数 は 急 増 し てお り 一 人当 た りの平均使用量は大きく増加していた。
Take two days Take a day
5%Glovenin® 2016.12 Takeda Donation blood
1000m g/kg/ever
y 3–4 weeks
869g
First 30 minutes is 0.01 mL / kg / min, then up to 0.06 mL / kg / min. Next time from that speed
day1 : 3.2h
day2 : 2.8h 6h
10%Venoglobulin® 2018.2 JB Donation blood
1000m g/kg/ever
y 3–4 weeks
869g
First 60 minutes is 0.01 mL / kg / min, then up to 0.06 mL / kg / min. Next time from that speed
day1 : 2.2h
day2 : 1.4h 3.6h
10%Privigen® 2019.3 CSL
Include non- donated
blood
1000m g/kg/ever
y 3–4 weeks
869g
First 30 minutes 0.005 mL / kg / min, then up to 0.08 mL / kg / min, next time from that speed
day1 : 1.6h
day2 : 1h 2.6h
20%Hizentra® 2019.4 CSL
Include non- donated
blood
20~400㎎
/kg/every 1week
1040g Up to 50 mL per hour
day1 : 2h
day2 : 2h 4h
* Maximum annual usage of 50 kg patients The minimum administration time Preparation Obtained
authorization Sales
Donation blood or
not
Dosage used
Annual usage*
Administration rate
154
図⓾
図⑪ 0 2000 4000 6000 8000 10000 12000
0 100 200 300 400 500 600 700
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Number of patients
Globulin usage (kg)
5% 10% 20% Number of patients
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018
Globulin usage (kg)
Outpatient DPC Hospitalization
*
*P<0.01
155
表➁
D.考察
① IgG2 および KD に対する使用量の
変化
IgG2については、濃厚製剤への切り替 え が行 わ れ てお り 、 外 来 への 患 者 の移 行 は 認め ら れ たが 、 使 用 量 全体 の 増 加は み られなかった。また、KDについては、外 来 への 移 行 は見 ら れ ず 、 濃厚 製 剤 への 切 り替えはDPCまたは入院において行われ ていたが KD の場合は、患者の多くが乳 幼 児で あ る ため 治 療 時 間 を短 縮 す る目 的 で 切り 替 え られ た も の と 考え ら れ る。 全 体 使用 量 の 増加 も 有 意 な もの で は なか っ た(P=0.52)。以上の結果よりこの 2疾患 は 、グ ロ ブ リン 不 足 を 引 き起 こ し た直 接 の要因ではないと考えられた。
➁ CIDP 進 行 抑 制 に 対 す る 使 用 量 の変 化
今 回 の 国 内グ ロ ブ リ ン 需 要 量 の 急増 に つ いて 、 直 前に 進 行 抑 制 の適 応 が 認可 さ れた CIDP の使用量が影響していると言 われてきた。確かに、認可を取得した直後、
そ の製 剤 の 使用 量 は 増 加 して い た 。し か し、他方の使用量がその分減少しており、
合 計値 に つ いて は 、 有 意 な増 加 に はな っ て いな か っ た。 診 療 形 態 の切 り 替 えに つ
いては、先行研究「難治性免疫性神経疾患 に お け る 高 額 薬 剤 の 使 用 に つ い て―包 括 医 療に お い て負 の イ ン セ ンテ ィ ブ が働 い ているか」にみられるようにDPC入院は、
採 算分 岐 点 まで 入 院 を 引 き延 ば さ なけ れ ば 採算 が 合 わな い と い う 問題 が あ った の で 、そ れ を 避け る た め に 外来 へ の 切り 替 えが 積 極的 に 行わ れ た もの と 考え ら れる。
しかし、出来高制入院や外来については、
薬 剤、 診 療 形態 の 切 り 替 えは 見 ら れず 、 10%ヴ ェ ノ グ ロ ブ リ ン®の 上 市 は 使 用 量 全体 に あま り 影響 を 及 ぼし て いな か った。
以上の結果より CIDP の使用量も直接の 要因ではないと考えられる。
③ 濃 厚 液 開発 に よ る 治 療形 態 の 変化 と 新しい治療ニーズの創生
濃 厚 製 剤 の開 発 や 点 滴 速 度 の 高 速化 に よって CIDP や PID/SID の治療形態は、
入 院か ら 外 来、 さ ら に 在 宅へ と 変 化し て いた。とくに、PID/SIDにおいては、10%
製 剤の 上 市 後、 外 来 で の 一人 当 た りの 使 用量が急増していた。これは、継続的治療 が 必要 な 患 者に と っ て 入 院治 療 は 日常 生 活 の大 き な 妨げ に な っ て いた が 治 療の 外 来 化、 在 宅 化が 進 ん だ こ とに よ り あら た な 治療 ニ ー ズが 創 生 さ れ たこ と を 物語 っ Year 5% ( Kg ) 10% ( Kg ) 20% ( Kg ) Total ( Kg ) Usage per person ( g )
2012 43.7 0.0 0.0 43.7 45.7
2013 31.4 15.5 2.8 33.3 33.0
2014 30.3 12.2 10.1 * 32.6 34.2
2015 34.2 22.8 20.9 38.5 34.4
2016 33.0 53.2 48.9 43.2 42.4
2017 22.7 82.4 50.3 36.0 31.5
2018 21.7 302.9 * 70.3 59.0 * 53.0 *
*P<0.01
156 ている。
治 療 時 間 の短 縮 化 は 、 市 場 競 争 にお い て 重要 な 因 子で 、 そ れ は 濃厚 製 剤 の開 発 や 、投 与 時 間の 高 速 化 に 大き く 影 響さ れ る。新しく認可を取得した CSLのピリビ ジェン®10%は、国産のグロベニン®5%
に比べ投与に要する時間が約3分の1で、
グロベニン®では、3時間の外来が2回必 要な治療が2時間の外来1回で完了する。
ピリビジェン®は、PID/SIDに対する治療 に も認 可 を 取得 し て お り 、継 続 的 治療 に 一 回 20g を 投 与 す る 場 合 、 グ ロ ベ ニ ン
®5%は 183 分(約 3 時間)最低必要である が、ピリビジェン®は、61 分(約1時間)
で治療が完了する。
今回、CIDPにおいて新たな治療ニーズ が生まれなかったのは、1999年、先に認 可を取得した グロベニ ン®5%が 90%市 場 を押 さ え てお り 、 そ の 後も シ ェ アを 守 り続けたためだと考えられる。今後、グロ
ベニン®に 10%製剤 が 開発されたり 外来
に お い て ヴ ェ ノ グ ロ ブ リ ン®10%製 剤 や ピ リ ビ ジ ェ ン®10%製 剤 が シ ェ ア を 広 げ たりしてくると PID/SIDと同じく進行抑 制 治療 に 新 たな ニ ー ズ が 創生 さ れ るこ と が考えられえる。
継 続的 治 療 には 多 く の グ ロブ リ ン が消 費 さ れる こ と も重 要 な ポ イ ント で あ る。 他 の 疾患 の 症 状改 善 に 対 す る投 与 用 量は 、 400m g/kg×5 日間 と なっ てい るも のが 多く、標準的な男性では(体重を平均体重
61.9kg と仮定すると)約 124g程度であ
る。
しかし、CIDP の進行抑制や PID/SID の継続的治療投与は、1000㎎/kg体重 ま たは 200~600mg/kg 体重を 3~4 週間隔 で 投 与 す る た め 、 標 準 的 な 男 性 の 場 合 CIDP で年間最大 1076g、女性の場合は
885g使用することとなる。仮に CIDP 全
ての患者が 3 週間おきに進行抑制治療を
行ったと仮定すると、(平成 30 年度の患 者数 4315人、男女患者比 1.6:1)年間 約 4.3t の 消 費 と な り 現 在 の 国 内 総 使 用 量の 3 分の 2 以上の量になる。SID/PID の 患者 に つ いて も 母 数 が 大き い こ とや 、 年 々患 者 数 が増 加 し て い るこ と を 考慮 す ると 今 後さ ら なる 需 要 増加 が 予測 さ れる。
海外でもCIDP、PID/SID患者のグロ ブ リン 使 用 量の 急 増 が 注 目さ れ て いる 。 アメリカでは PID/SIDの使用量だけでも 2012年からの6年間で1.25t増加してい る。海外企業は、多額の設備投資に乗り出 しており米国の血液産業ビジネスは2024 年までに約 4 兆 8100 億円に達すると推 計されている。
E.結論
今 回 の 分 析で グ ロ ブ リ ン 使 用 量 急増 の 主 な要 因 は 、濃 厚 製 剤 の 上市 に よ る治 療 時 間の 短 縮 化で あ る こ と が判 明 し た。 我 が 国の グ ロ ブリ ン 需 要 量 は、 今 後 ます ま す 増え 続 け るこ と が 想 定 され る が それ に 対 して ど の よう な 対 策 を たて る か は重 要 な 課題 で あ る。 血 漿 の 不 足に 対 す る対 応 策は概ね次の 3つが考えられる。
① 日赤 が 今 まで 通 り 採 血 事業 を 独 占的 に 運 営し 事 業 改善 に よ っ て 必要 量 を 収集 す る。
➁ 第二 採 血 所を 設 立 し 、 日赤 以 外 の施 設 が運 営 する 採 血所 で 血 漿収 集 に力 を 入れ、
必要量を確保する。
③ 不足 分 の グロ ブ リ ン 製 剤を 海 外 から 輸 入する
まず、日赤が事業の改善を図り、血漿収 集 の効 率 化 に力 を 入 れ る 案で あ る が、 今 後、このまま使用量が増大すると、収集力 に は限 界 が ある の で 抜 本 的な 改 革 を考 え
157 なければ解決には至らない。また、適正使 用 を推 進 し 使用 量 を 調 節 する 対 策 も並 行 して進める必要がある。
次に、第二採血所設立案であるが、これ についても課題は多く、設立、運営の経済 的 負担 や 今 後の 見 通 し を 考え る と 現実 的 に 難し い 。 日本 の 国 民 が 日赤 以 外 の採 血 所 に行 く 動 機付 け を 作 る こと も 大 きな 課 題 の一 つ で ある た め 、 米 国で 認 め られ て い る売 血 制 度の 導 入 に つ いて 海 外 企業 か ら 要請 を 受 ける こ と も 想 定し て お かな け ればならない。また、有償採血を導入した 場 合、 無 償 採血 の ド ナ ー が減 少 し 輸血 製 剤 事業 に 影 響が 及 ぶ 危 険 性が 有 る こと も 考えておく必要がある。海外では、有償採 血 の制 度 を 認め た こ と に よっ て 、 無償 採 血 の事 業 が 立ち 行 か な く なっ て い る国 々 も出てきている。
さ ら に 、 不足 分 を 輸 入 で 賄 う 方 法で あ るが、海外は 20%の皮下注製剤の開発や 点 滴速 度 の 高速 化 に 成 功 して お り 国内 製 剤 より も 競 争力 に お い て 大き く 勝 って い る。日本の場合、成分採血にはコストがか か るた め 、 全血 採 血 か ら 血漿 を 採 取す る 方 法が 好 ま れる が 、 点 滴 速度 を 上 げる た めに は 成分 採 血に 切 り 替え る 必要 が ある。
全 血採 血 と 同じ 規 定 で 成 分採 血 を して い る限り、コストの低減は難しく、利便性の 面 で競 争 力 が劣 っ て い る ため 、 適 応症 認 可 を受 け た 海外 製 剤 は 急 速に 日 本 市場 に 浸透している。今後、輸入を進めると海外 製 剤に 需 要 が集 中 し 、 国 内産 の 血 漿で 利 便 性の 劣 る 国内 製 剤 を 製 造し 続 け るこ と に 矛盾 が 生 じて く る こ と も考 え ら れる 。 製 造技 術 や 品質 、 製 造 コ スト な ど の面 で 優 れて い る こと を 考 慮 す ると 今 後 は、 海 外 のプ ラ ン トに 委 託 し て 製造 す る 動き も 出てくるかもしれない。
し か し 、 海外 企 業 の 生 産 能 力 や 抽出 率 が 明ら か に され て い な い 限り 、 日 本の 血
漿 で 作 ら れ た も の が 100%日 本 に 戻 っ て くるという保証はない。また、新しく改定 さ れた 「 血 液製 剤 の 安 全 性の 向 上 及び 安 定供 給 の確 保 を図 る た めの 基 本的 な 方針」
31 年度版において、国内産原料血漿の配 分決定に関して「公正かつ透明な」審議を 踏 まえ る と いう 重 要 な 文 言が 敢 え て消 さ れていることも気になる。
製 造 を 海 外に 頼 る 体 質 を 作 っ て しま う と 国内 企 業 の脆 弱 化 を 招 き、 災 害 時の 安 定 供給 に も 対応 で き な く なる ば か りか 、 今後 世 界的 に グロ ブ リ ンが 不 足し た 場合、
海 外か ら 調 達す る こ と が 困難 に な るこ と も想定される。海外では、そういう事態を 回避 す るた め 使用 量 を 需要 量 とみ な さず、
適 正使 用 を 徹底 し 、 生 産 可能 量 か ら割 り 出 した 数 字 で需 給 計 画 を 立て て い る国 が 増 えて い る 。血 液 産 業 が 過熱 し た アメ リ カ の売 血 で 集め た 血 漿 に 頼っ て い る現 状 を 危惧 し 、 国内 自 給 に 切 り替 え る 政策 を とっている国も少なくない。
今、日本は、血液事業において大変大き な 岐路 に 立 たさ れ て い る 。我 が 国 が今 後 ど のよ う な 方針 を 選 択 す るべ き か 、大 変 難 しい 問 題 であ る が 世 界 的に 血 漿 が不 足 し てい る 以 上、 使 用 量 の 適正 化 は 喫緊 の 課 題で あ ろ う。 海 外 で あ まり 認 可 がみ ら れない CIDP 進行抑制や、PID/SID のよ う な継 続 的 使用 に つ い て は、 特 に 使用 ガ イ ドラ イ ン の作 成 を 急 ぎ 過剰 使 用 が行 わ れないよう対策を急ぐべきである。また、
海 外の 白 熱 化し た 血 液 産 業ビ ジ ネ スに 需 要 を煽 ら れ るこ と が 無 い よう 、 適 応症 認 可を 決 定す る 際に も 充 分な 論 議を つ くし、
医 療費 の 限 界を も 踏 ま え て慎 重 な 判断 を するべきである。将来にわたって、安全な 血液製剤が安定的に供給できるよう、今、
賢明な選択が求められている。
158 F. 健康危機情報
特になし
G.研究発表 学会発表
1,グ ロ ブ リ ン 製 剤 の 需 要 と 適 正 使 用 に 関 する研究
菅 河真 紀 子 (東 京 医 科 歯 科大 学 大 学院 医 歯学総合研究科)、河原和夫和夫(東京医 科 歯 科 大 学 大 学 院 医 歯 学 総 合 研 究 科 ) 2020 年 5 月 19 日 日本輸血細胞治療学 会
2,我が国の今後の血液事業体制に関する 研究
菅河真紀子、河原和夫、松井健、長谷川久 之、小暮孝道、熊沢大輔(東京医科歯科大 学大 学 院医 歯 学総 合 研 究科 ))、金 谷 泰宏
(東海大学)2019年 10月23-25 日本公 衆衛生学会
3,E型肝炎の感染状況と施策に関する一 考察
菅 河真 紀 子 (東 京 医 科 歯 科大 学 大 学院 医 歯学総合研究科)、河原和夫和夫(東京医 科 歯科 大 学 大学 院 医 歯 学 総合 研 究 科) 佐 川公矯(福岡県赤十字血液センター)2019 年 10月2-4 第43回日本血液事業学会 4、血漿分画製剤の安定的供給 Mini-Pool Fractionation 方式の検証
菅 河 真 紀 子(東 京 医 歯 大 医 歯 学 総 合 研 究 科) 河原和夫 (東京医科歯科大 大学院 医歯学総合研究科)谷慶彦(大阪府赤十字 血液センター)2018年10月 日本公衆衛 生学会
5,ドイツに学ぶ血液事業政策
菅 河真 紀 子 (東 京 医 科 歯 科大 学 大 学院 医 歯学総合研究科)2018年10月第42回日 本血液事業学会
6,採血基準における ALT の cut off 値に 関する分析
菅 河真 紀 子 (東 京 医 科 歯 科大 学 医 歯学 総 合研究科)、河原和夫(東京医科歯科大学 医歯学総合研究科)2017 年 10 月 日本 公衆衛生学会
7,血液事業に対する国民の意識について 菅 河 真 紀 子(東 京 医 科 歯 科 大 学 医 歯 学 総
合研究科) 河原和夫(東京医科歯科大 医
歯 学 総 合 研 究 科) 池 田 大 輔(東 京 医 歯 大 医歯学総合研究科) 佐川公矯(福岡県赤 十字血液センター)2016年8月1日 第 40 回日本血液事業学会
8,市町村の献血推進活動に関する論点 菅 河 真 紀 子(東 京 医 科 歯 科 大 医 歯 学 総 合 研究科)、河原和夫 (東京医科歯科大 大学 院医歯学総合研究科)2015年8月1日 第 39 回日本血液事業学会
論文発表
1,Makiko Sugawa, Kimitaka Sagawa, Katsunori Oyama, Tomoko Henzan, Kazuhiro Nagai, Kazunori Nakajima, Kazuo Kawahara:Increased use of immunoglobulin preparations and its factor in Japan.Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy,67(1):9- 20,2021
2, Kazuhiro Nagai, Makiko Sugawa, Yasushi Miyazaki, Kazuo Kawahara:
Crisis Management of The Supply Chain of Blood Products in Japan.
Japanese Journal of Transfusion and Cell Therapy,66(4):634-642,2020
3, Daisuke Kumazawa, Makiko Sugawa, Kazuo Kawahara: Assessing blood donation applicant characteristics to optimize the promotion of apheresis.
Journal of Medical and Dental Sciences.vol.67,2020
4,Woonkwan Hyun, Kazuo Kawahara, Miyuki Yokota, Sotaro Miyoshi,
159 Kazunori Nakajima, Koji Matsuzaki, Makiko Sugawa.The Possibility of Increasing the Current Maximum Volume of Platelet Apheresis Donation.
Journal of Medical and Dental Sciences.65:89-98, 2018
5,Daisuke Ikeda, Makiko Sugawa and Kazuo Kawahara:Study on Evaluation
of alanine Aminotransferase(ALT) as Surrogate Marker in Hepatitis Virus Test . Journal of Medical and Dental Sciences63:45-52, 2016.
H,知的財産権の出願・登録状況 なし