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初対面会話におけるノダ文の表れ

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Academic year: 2021

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(1)

TORAMARU Masumi

Fostering Oral Expression Ability in Upper Intermediate Learner

A Formative Learning Support Approach Using Stage-by-stage Learning Processes・ ・・・・・・・173 TAKAHASHI Wataru

A Report on ”Extensive Reading Sessions in Japanese”: Looking at Three

Terms of Extensive Reading in Japanese Outside the Classroom・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・185 KUDO Kanako, IJUIN Ikuko

The Tendency of the Level Placement of ISEPTUFS Students in JLPTUFS・・・・・・・・・・・・・・・197 MIYAGI Toru, NAKAI Yoko

A Case Study of Organizational Socialization to a Japanese Company by a Former Science International Student from Vietnam: Based on the

Interviews with his Former Colleagues・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・211 MIYAGI Toru, TORAMARU Masumi, KANEKO Hiroko

Development of Short-term Study in Japan Program at JLC-TUFS:

In case of Summer Program 2015・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・227

- 1 -

初対面会話におけるノダ文の表れ

楠本 徹也

【キーワード】・ ノダ文、初対面会話、表現効果、既定的情報、内面的関与

1. はじめに

 本稿は初対面会話においてノダ文がどのように表れるかを分析する。ノダ文と は、「どうしたのですか?」「風邪をひいたのです。」のように「~のだ」(口語体では

「~んだ」)の形を有する文である。ノダ文はその使用の有無により発話意図と場 面との適合性が決まってくる。例えば、以下のノダ文と非ノダ文を比べてみる1

(1)・a・ 「いつ日本にいらっしゃいましたか?」

・ b・ 「いつ日本にいらっしゃったんですか?」

 (1a)(1b)はともに日本に来た時期を問うているもので、命題としては等値で ある。しかし、例えば、役所などで事務的に履歴を聞く場面においては非ノダ文 である(1a)が、パーティーなどで談笑している場面においてはノダ文である(1b)

が自然なやりとりとして使われるのではないだろうか。仮に、パーティーなどで の談笑場面に(1a)が使われると、単なる質疑応答になり場の雰囲気にそぐわな い発話となりかねない。その場合、ノダ文(1b)を使うと相手への関心が示され、

談笑場面にふさわしいものとなる。ノダ文は「聞き手に対して心理的働きかけを するというムード的機能」を有し、その使用により「聞き手に興味を示したり聞 き手から関心を引き出そうとする効果」が生み出される(楠本 1998:100)。それゆ えに、逆に、事務的対応が求められる場面において(1b)が使われると、話し手 に何らかの意図(例えば、書類記載上の不備があって説明を求める)が含意され、

発話が通常では見られない有標性を帯びる。

 このようにノダ文には場面に応じた自然な使い方があり、それを間違うとコ ミュニケーションの阻害要因となる。しかし、日本語教育においては、ノダ文が

東京外国語大学

留学生日本語教育センター論集 42:1~12,2016

1・ 以下、ノダ文のノダに相当する部分を太字で示す。

(2)

使われるのは行為や状態の起因を状況的に説明する、またはそのような説明を求 めるときであるという文法的解釈2をもとに、定型的な対話練習での習得が行わ れている傾向が見られ、そのため、学習者はノダ文の使用に関し既習の文や対話 以外での応用がなかなか出来ないといった結果が生じているように思える。その 一つの例として、初対面会話におけるノダ文の使用がある。

 以下、留学生パーティーを想定して初対面会話での典型的なやりとりを挙げて みる。A は日本人で B は留学生という設定である。ab のところでノダ文と非ノ ダ文を比べている。会話は、見知らぬ者同士の初めての出会いなので敬語を使っ た丁寧なものとしている。

(2)・A・「中国の方ですか?」

・ B・「はい、そうです。」

・ A・ a「中国のどちらからいらっしゃったんですか?」

・ ・ b「中国のどちらからいらっしゃいましたか?」

・ B・「北京です。」

・ A・「ああ、そうですか。・a こちらでは何をなさっているんですか?」

・ ・ ・ b こちらでは何をなさっていますか?」

・ B・「○○大学に留学しています。」

・ A・ a「日本は長いんですか?」

・ ・ b「日本は長いですか?」

・ B・「いいえ、3 ヶ月前に来たばかりです。」

・ A・「へえ、それにしては日本語お上手ですねえ。」

・ B・「いえいえ、まだまだです。」

・ A・ a「今どちらに住んでいらっしゃるんですか?」

・ ・ b「今どちらに住んでいらっしゃいますか?」

・ B・「学校の寮です。」

 (2)において、A は B に出身、身分、滞在期間、住居について聞いているのだが、

2・ 典型的な例として、『初級日本語 文法解説[英語版]』(2011)のノダ文が導入される 18 課において「This・question(筆者注「~のですか」)・asks・for・an・explanation・for・what・one・

sees/hears …(略)… Statements・ending・in・~のです・are・used・to・try・to・explain・one’s・

behavior・or・a・particular・situation.」(p.92)という説明がなされている。

(3)

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使われるのは行為や状態の起因を状況的に説明する、またはそのような説明を求 めるときであるという文法的解釈2をもとに、定型的な対話練習での習得が行わ れている傾向が見られ、そのため、学習者はノダ文の使用に関し既習の文や対話 以外での応用がなかなか出来ないといった結果が生じているように思える。その 一つの例として、初対面会話におけるノダ文の使用がある。

 以下、留学生パーティーを想定して初対面会話での典型的なやりとりを挙げて みる。A は日本人で B は留学生という設定である。ab のところでノダ文と非ノ ダ文を比べている。会話は、見知らぬ者同士の初めての出会いなので敬語を使っ た丁寧なものとしている。

(2)・A・「中国の方ですか?」

・ B・「はい、そうです。」

・ A・ a「中国のどちらからいらっしゃったんですか?」

・ ・ b「中国のどちらからいらっしゃいましたか?」

・ B・「北京です。」

・ A・「ああ、そうですか。・a こちらでは何をなさっているんですか?」

・ ・ ・ b こちらでは何をなさっていますか?」

・ B・「○○大学に留学しています。」

・ A・ a「日本は長いんですか?」

・ ・ b「日本は長いですか?」

・ B・「いいえ、3 ヶ月前に来たばかりです。」

・ A・「へえ、それにしては日本語お上手ですねえ。」

・ B・「いえいえ、まだまだです。」

・ A・ a「今どちらに住んでいらっしゃるんですか?」

・ ・ b「今どちらに住んでいらっしゃいますか?」

・ B・「学校の寮です。」

 (2)において、A は B に出身、身分、滞在期間、住居について聞いているのだが、

2・ 典型的な例として、『初級日本語 文法解説[英語版]』(2011)のノダ文が導入される 18 課において「This・question(筆者注「~のですか」)・asks・for・an・explanation・for・what・one・

sees/hears …(略)… Statements・ending・in・~のです・are・used・to・try・to・explain・one’s・

behavior・or・a・particular・situation.」(p.92)という説明がなされている。

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ノダ文を使用した a のほうが使用していない b より談笑的雰囲気が醸し出されて いるのが感じられる。しかし、このようなノダ文の使い方は日本語非母語話者で ある学習者にとって分かりづらいとみえて、実際の会話では非用が目立つ。筆者 が行った小規模調査3においても同じ初対面の場面においてノダ文の非用が顕著 であった。

 初対面会話においてすべての発話にノダ文が適当であるとはいえないことにも 注意しなければならない。例えば(2)の中の「日本語お上手ですねえ」を「日本語 お上手なんですねえ」とすると、ともすると皮肉っぽく聞こえてしまうこともあ る。

 では、初対面会話においてノダ文がどのように適切に使われるのか、それを探っ ていくのが本稿の目的である。

2. ノダ文の意味・用法

 従来ノダ文はその意味機能として、話し手が自分の言動や状態に対して「説明 を与える」、または話し手が見たり聞いたりしたことに対して聞き手に「説明を 求める」(Alfonso1966、久野 1973;・野田 1997:14 より引用)ものとされていた。し かし、このような「説明」という概念では、例えば「あっ、こんなところにいたん だ」というノダ文は解明できない(野田 Ibid.)。代わって近年では、先行文・先行 文脈との「関連付け」という概念でノダ文を包括的に分析するようになってきた。

例えば、以下がある。

(3)・〈ノダ文の意味・用法〉

・  理由:今日は学校を休みました。頭が痛かったんです。

・  解釈:(泣いている子供を見て)きっと迷子になったんだ。

・  言い換え:今日、私は大学を卒業した。明日からは学生ではないのだ。

・  発見:そうか。このボタンを押せばいいんだ。

・  再認識:今日は夕方雨が降るんだった。

・  前置き:駅前で個展をやってるんですが、よかったら見にきてください。

(松岡他 2000、白川他 2001 より)

3・ 2015 年 11 月 16 日、東京外国語大学留学生日本語教育センター予備教育プログラムのク ラスにおいて留学生 8 名(全員日本語能力試験 N1 レベル)を対象にアンケートとロール プレイで初対面会話での発話文を調べた。

(4)

 しかし一方、関連付けを表さないノダ文も指摘されている。(白川他 Ibid.、近藤・

姫野 2012)

(4)・〈関連付けを表さないノダ文〉

・  注意・命令:(漫画に夢中の子どもに)教科書も読むんですよ。

・  決意表明:ぼく、将来医者になる。絶対になるんだ。

・  気付き:(初めて相手の英語を聞き)へえ、英語が話せるんだ。

 「説明」と「関連付け」のいずれの概念もノダ文の用法を完全には網羅できない ことが分かる4。また、本稿の考察対象である初対面会話におけるノダ文の解明 にも至らない。

 初対面会話に見られるノダ文の意味・用法にはどのような機能的原理が働いて いるのだろうか。これに関して、楠本(Ibid.:・103)ではノダ文を文や句を名詞化 するノと話し手の態度を表すダに分けた上で、「ノは前接する文や句における命 題を実体的存在として枠付け、ダとともに聞き手の認知構造に取り込むよう働き 掛けることにより、ダが状況との関わりにおいて担う意味を認知的に際立たせる」

(下線筆者)と述べている。つまり、ノダ文におけるノは前接する文や句を名詞 化することで命題内容を実体的に際立たせる働きがあるということである。この

「際立たせ」は伝達上注目の対象となり、疑問文においては話し手の興味を示し、

肯定文においては聞き手へ伝えたいという意図の強調となるのである。これによ り、初対面会話での質問においてはノダ文を使うことで話し手は聞き手に対し興 味を持っていることが示され、談話効果としての適切さが認められるわけである。

 では、実際に初対面会話においてどのようにノダ文が表れているのか、次に検 証する。

3. 初対面会話におけるノダ文の表れ―現象と考察

 初対面会話におけるノダ文の表れを検証するため、初対面会話で一般的になさ れる発話5を内容ごとに分類し列挙してみる。すべての発話は話題導入として各 話題の最初になされるとする。なお、初対面の場面はあまり親しくない、面識の

4 ノダ文の先行研究概念とその問題点に関して名嶋(2007:5-15)が詳しく述べている。

5・ 初対面会話において一般的になされる発話は、Google において「初対面会話」でキーワー ド検索し、出てきた数多くのサイトを参考にしてまとめた。

(5)

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 しかし一方、関連付けを表さないノダ文も指摘されている。(白川他 Ibid.、近藤・

姫野 2012)

(4)・〈関連付けを表さないノダ文〉

・  注意・命令:(漫画に夢中の子どもに)教科書も読むんですよ。

・  決意表明:ぼく、将来医者になる。絶対になるんだ。

・  気付き:(初めて相手の英語を聞き)へえ、英語が話せるんだ。

 「説明」と「関連付け」のいずれの概念もノダ文の用法を完全には網羅できない ことが分かる4。また、本稿の考察対象である初対面会話におけるノダ文の解明 にも至らない。

 初対面会話に見られるノダ文の意味・用法にはどのような機能的原理が働いて いるのだろうか。これに関して、楠本(Ibid.:・103)ではノダ文を文や句を名詞化 するノと話し手の態度を表すダに分けた上で、「ノは前接する文や句における命 題を実体的存在として枠付け、ダとともに聞き手の認知構造に取り込むよう働き 掛けることにより、ダが状況との関わりにおいて担う意味を認知的に際立たせる」

(下線筆者)と述べている。つまり、ノダ文におけるノは前接する文や句を名詞 化することで命題内容を実体的に際立たせる働きがあるということである。この

「際立たせ」は伝達上注目の対象となり、疑問文においては話し手の興味を示し、

肯定文においては聞き手へ伝えたいという意図の強調となるのである。これによ り、初対面会話での質問においてはノダ文を使うことで話し手は聞き手に対し興 味を持っていることが示され、談話効果としての適切さが認められるわけである。

 では、実際に初対面会話においてどのようにノダ文が表れているのか、次に検 証する。

3. 初対面会話におけるノダ文の表れ―現象と考察

 初対面会話におけるノダ文の表れを検証するため、初対面会話で一般的になさ れる発話5を内容ごとに分類し列挙してみる。すべての発話は話題導入として各 話題の最初になされるとする。なお、初対面の場面はあまり親しくない、面識の

4 ノダ文の先行研究概念とその問題点に関して名嶋(2007:5-15)が詳しく述べている。

5・ 初対面会話において一般的になされる発話は、Google において「初対面会話」でキーワー ド検索し、出てきた数多くのサイトを参考にしてまとめた。

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ない人を相手に談笑するというのが一般的であるがゆえに、基本的には丁寧な言 葉づかいが求められる。ゆえに、以下に挙げる発話は敬語を使った丁寧なものに なっているが、そのような丁寧さは話す相手や場により必ずしも一定であるとは 限らないことを予め断っておく。

(5)・初対面会話における一般的な発話6

・ a.・ 相手に関する質問:

・ ・ ①出身国:お国はどちら(なん)ですか?

・ ・      中国の方(なん)ですか?

・ ・      ([お国は/中国の])どちらからいらしたんですか?

・ ・ ②名前:お名前は何とおっしゃるんですか?

・ ・ ③身分・仕事:・ 今[こちらで/お仕事は]何をされているんですか?

・ ・ ・ ・ どちらにお勤め(なん)ですか?

・ ・ ・ ・ 今学生さん(なん)ですか?

・ ・ ・ ・ 大学はどちら(なん)ですか?

・ ・ ④日本滞在期間:・ 日本は初めて(なん)ですか?

・ ・ ・ 日本は長いんですか?

・ ・ ・ いつ日本にいらっしゃったんですか?

・ ・ ⑤住居:・今どちらにお住まい(なん)ですか?

・ ・ ・ 今どちらに住んでいらっしゃるんですか?

・ ・ ⑥趣味・習慣:・なにかスポーツは[されます/されるんです]か?

・ ・ ・ よく飲みには[行かれます/行かれるんです]か?

・ ・ ・ 休みの日は何をなさって[います/いるんです]か?

・ ・ ⑦意見・感想・嗜好:

・ ・ ・ [日本の食べ物はどうですか?/お刺身、大丈夫ですか?]

・ ・ ・ [~に興味ありますか?/~は好きですか?]

・ ・ ・ ~についてどう思いますか?

・ ・ ・ こちらの生活にはもう慣れましたか?

・ ・ ⑧日本での生活体験:

・ ・ ・ 日本はどこか旅行されましたか?

6・ 発話例における( )は発話に含めても含めなくてもよい部分、[A / B]は「A または B」

の意味である。

(6)

・ ・ ・ ~へは[行かれました/行ったことがあります]か?

・ b.・ 自己開示:・日本は初めてなんです。

・ ・ ・ 今中国語を勉強しているんです。

・ ・ ・ 今住んでいるところ、この近くなんです。

・ ・ ・ 趣味は食べ歩きなんです。

・ c.・ 話し手の意見・感想:・日本人はとても親切だと思います。

・ ・ ・ 東京はとても物価が高いです。

・ d.・ 社交辞令:・ 日本語、お上手ですねえ。

・ ・ ・ 素敵な服ですねえ。

・ e.・ 誘い:今度一緒に~しませんか。

・ f.・ 現場の状況描写:・ 今日は暑いですねえ。

      ・ すごい人ですねえ。

      ・ おいしそうな料理がたくさんありますねえ。

 まず、「a.相手に関する質問」において、「①出身国」「②名前」「③身分・仕事」「④ 日本滞在期間」「⑤住居」を聞くときにノダ文が使われるのが分かる。特に動詞文

(「日本は長いんですか?」の形容詞文も含めて)においては、これらを非ノダ文 にすると単なる質疑応答に、ともすると尋問調になりやすく、談笑的雰囲気が壊 れてしまう。名詞文においては、非ノダ文でも自然さが損なわれることはないが、

ノダ文のほうがより話し手の関心が示され談笑場面との適合性が高くなる。

 「⑥趣味・習慣」を聞く場合にもノダ文が使われる。この場合、前述の名詞文 と同様にノダ文の使用は選択的で、非ノダ文でも自然で一般的な言い方となる。

ノダ文が使われると話し手の関心が強く示され、相手を話題に引き込む意図が感 じられる。但し、「趣味は何なんですか?」のように述語に疑問詞を使ってノダ文 にすると、極めてぶしつけな質問となることに注意しなければならない。

 「⑦意見・感想・嗜好」や「⑧日本での生活体験」を聞く場合はノダ文が使われ ていない。両者の話題は、聞き手がどう考えたり感じたりするか、何が好きか、

(7)

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・ ・ ・ ~へは[行かれました/行ったことがあります]か?

・ b.・ 自己開示:・日本は初めてなんです。

・ ・ ・ 今中国語を勉強しているんです。

・ ・ ・ 今住んでいるところ、この近くなんです。

・ ・ ・ 趣味は食べ歩きなんです。

・ c.・ 話し手の意見・感想:・日本人はとても親切だと思います。

・ ・ ・ 東京はとても物価が高いです。

・ d.・ 社交辞令:・ 日本語、お上手ですねえ。

・ ・ ・ 素敵な服ですねえ。

・ e.・ 誘い:今度一緒に~しませんか。

・ f.・ 現場の状況描写:・ 今日は暑いですねえ。

      ・ すごい人ですねえ。

      ・ おいしそうな料理がたくさんありますねえ。

 まず、「a.相手に関する質問」において、「①出身国」「②名前」「③身分・仕事」「④ 日本滞在期間」「⑤住居」を聞くときにノダ文が使われるのが分かる。特に動詞文

(「日本は長いんですか?」の形容詞文も含めて)においては、これらを非ノダ文 にすると単なる質疑応答に、ともすると尋問調になりやすく、談笑的雰囲気が壊 れてしまう。名詞文においては、非ノダ文でも自然さが損なわれることはないが、

ノダ文のほうがより話し手の関心が示され談笑場面との適合性が高くなる。

 「⑥趣味・習慣」を聞く場合にもノダ文が使われる。この場合、前述の名詞文 と同様にノダ文の使用は選択的で、非ノダ文でも自然で一般的な言い方となる。

ノダ文が使われると話し手の関心が強く示され、相手を話題に引き込む意図が感 じられる。但し、「趣味は何なんですか?」のように述語に疑問詞を使ってノダ文 にすると、極めてぶしつけな質問となることに注意しなければならない。

 「⑦意見・感想・嗜好」や「⑧日本での生活体験」を聞く場合はノダ文が使われ ていない。両者の話題は、聞き手がどう考えたり感じたりするか、何が好きか、

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どんな体験をしたかということである。これらは聞き手個人の内面的心理とそれ に関わる行動7と捉えられる。ノダ文は話し手の興味・関心を示す効果があるの で、ノダ文の使用によって話し手が聞き手の内面領域に入り込んでしまうことに なる。そのようなことは、あまり面識のない初対面の相手に対しては望ましくな いゆえに、ノダ文の使用が避けられているのではないかと考えられる。

 ここまでをまとめると、まず、「a.相手に関する質問」においてノダ文と非ノ ダ文両方の使用が見られる。ノダ文が使用されるのは、「①出身国」「②名前」「③ 身分・仕事」「④日本滞在期間」「⑤住居」を聞くときである。これらの話題は、聞 き手の身分や立場といった既定的事実に関する事柄であるという共通性を持つ。

既定的であるということは、聞き手の意志や情動の関与は含まれないということ である。それに対して、「⑦意見・感想・嗜好」と「⑧日本での生活体験」において は、問われる内容が非既定的で聞き手個人の意志や情動の内面的関与を含むもの である。この場合、聞き手の内面領域への干渉を避けるためにノダ文の使用が控 えられると考えられる。

 「⑥趣味・習慣」においては、非既定的で聞き手の内面への関与が認められる ので非ノダ文が適合するが、どう思うかといったような聞き手の内面領域へ深く 立ち入るものでもないので、ノダ文の使用も許容される。

 「a.相手に関する質問」以外を見てみると、まず、「b.自己開示」においてノダ 文の表れが顕著である。この「自己開示」は、会話の中で「実は私、……」と切り 出す文脈において行われるものであり、「私はこうである」というような既定的内 容を有する。そしてノダ文の使用により、話し手が自身に関する事柄を聞き手に 知ってもらいたいという心情的効果が表れている。そのような話し手の気持ちが 表れない「c.話し手の意見・感想」「d.社交辞令」「e.誘い」「f.現場の状況描写」

においてはノダ文の使用が見られない。なお、聞き手の関心を引き付けたい気持 ちが強ければ、「実は私、日本はとても住みやすいと思うんです」「実は私、ディ ズニーランドへ行ったことがあるんです」のように話し手の意見・感想や経験で 話を切り出すことも可能である。しかし、しっかりとした文脈的支持がなければ、

話の流れとしては突飛な感じがすることは否めない。

7・ 例えば、日本での体験を話題としていない文脈においていきなり「ディズニーランドへ 行ったことがあるんですか?」と聞くことはないだろう。経験や体験は個人的事柄で情 意の対象になるということで、個人の内面領域に属するものと考える。

(8)

 以上、初対面会話における話題導入の際のノダ文の表れを考察してきたが、各 話題が単文または質問と応答のペアで単発的に連続して展開することは実際の会 話としては現実性に乏しい。実際の会話においては以下のように一つの話題が導 入され、それに対し関連する質問が後続し話が展開する。

(6)・話題導入から関連質問へ

・ a.・ A・「趣味は何ですか?」

・ ・ B・「バンド演奏です。」

・ ・ A・「ああ、そうですか。どんな音楽を演奏されるんですか?」

・ ・ B・「洋楽で昔流行った曲を中心に演っています。」

・ b.・ A・「お酒はいけるほうですか?」

・ ・ B・「ええ、まあ。」

・ ・ A・「よく飲みに行かれるんですか?」

・ ・ B・「週に 1 回ぐらいです。」

・ c.・ A・「スポーツは何かやってますか?」

・ ・ B・「トレイルランニングをやってます。」

・ ・ A・「トレイルランニングってどんなスポーツなんですか?」

・ ・ B・「山道を走るスポーツです。」

・ ・ A・「へえ。今までどんな山で走ったんですか?」

 (6a)(6b)(6c)では、まず話題が導入され関連質問が後続している。このよう な先行話題に関連した後続文においてノダ文が自然に使用されるのが分かる。こ れらのノダ文は非ノダ文にしても会話の自然さは損なわれない。しかし、導入さ れた話題に対する話し手の関心を示す意味でノダ文の使用が望ましいと言える。

 先行話題に関連した後続文は質問文に限らない8

8・ 例文(7)およびその解釈において、同僚の清水由貴子先生(personal・communication2015)

より、自己開示モードであれば、話し手の意見・感想であってもノダ文が可能ではない かと指摘される。どこまでを自己開示と捉えるかが問題となるが、一つの考慮すべき点 ではある。

(9)

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 以上、初対面会話における話題導入の際のノダ文の表れを考察してきたが、各 話題が単文または質問と応答のペアで単発的に連続して展開することは実際の会 話としては現実性に乏しい。実際の会話においては以下のように一つの話題が導 入され、それに対し関連する質問が後続し話が展開する。

(6)・話題導入から関連質問へ

・ a.・ A・「趣味は何ですか?」

・ ・ B・「バンド演奏です。」

・ ・ A・「ああ、そうですか。どんな音楽を演奏されるんですか?」

・ ・ B・「洋楽で昔流行った曲を中心に演っています。」

・ b.・ A・「お酒はいけるほうですか?」

・ ・ B・「ええ、まあ。」

・ ・ A・「よく飲みに行かれるんですか?」

・ ・ B・「週に 1 回ぐらいです。」

・ c.・ A・「スポーツは何かやってますか?」

・ ・ B・「トレイルランニングをやってます。」

・ ・ A・「トレイルランニングってどんなスポーツなんですか?」

・ ・ B・「山道を走るスポーツです。」

・ ・ A・「へえ。今までどんな山で走ったんですか?」

 (6a)(6b)(6c)では、まず話題が導入され関連質問が後続している。このよう な先行話題に関連した後続文においてノダ文が自然に使用されるのが分かる。こ れらのノダ文は非ノダ文にしても会話の自然さは損なわれない。しかし、導入さ れた話題に対する話し手の関心を示す意味でノダ文の使用が望ましいと言える。

 先行話題に関連した後続文は質問文に限らない8

8・ 例文(7)およびその解釈において、同僚の清水由貴子先生(personal・communication2015)

より、自己開示モードであれば、話し手の意見・感想であってもノダ文が可能ではない かと指摘される。どこまでを自己開示と捉えるかが問題となるが、一つの考慮すべき点 ではある。

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(7)・「私、日本に来て 3 ヶ月になるんですが、日本人はとても親切だなあと思 うんです。というのは、先日知らない人に道を聞いたら、目的地まで連れ て行ってくれたんです。」

 (7)では「日本に来て 3 ヶ月になる」という話題導入のあとにノダ文が述べ立て9 として連続して表れる。話し手の聞いてほしいという気持ちが強く感じられる。

このように導入話題に関連した後続文にノダ文が使われるのである。

4. 初対面会話におけるノダ文の表れ―まとめ  これまで考察してきたことをまとめる。

(8)・ノダ文におけるノの「際立たせ」機能→・発話の中での注目の対象を顕在化        ↓

       ・ 聞き手に対する心理的働きかけ

 まず、ノダ文におけるノの「際立たせ」の機能が発話の中で注目すべき対象を 顕在化する。それが聞き手に対する心理的働きかけとなり、初対面会話において は相手への関心を示すという表現効果を生み出す。このようなノダ文の機能が発 現する条件として、話題導入の際の聞き手への質問内容が聞き手の身分や立場と いった、聞き手の内面的関与がない既定的事実に関する事柄であること、そして 話し手の述べ立てにおいては自己開示即ち自己アピールの行為性を有することが ある。また、先行話題に関連する後続文においてもノダ文の使用が認められる。

 以下、初対面会話におけるノダ文の表れをまとめて図示する。

(9)       ・ 聞き手の

   発話方法  発話形式・ 情報内容・ 内面的関与・ ノダ文の使用    話題導入   質問・ 既定的・ 無・ 有       ・ 非既定的・ 有・ 無          述べ立て・ 自己開示的・ ・ 有        ・ (アピール)

   話題展開  質問・述べ立て       ・ 有

9・ ここでは問いかけ文以外の文を「述べ立て」とする。

(10)

5. おわりに

 初対面会話でのノダ文の表れを検証した結果、ノダ文の使用を動機づける条件 として、話題導入の際の質問において問われる内容が既定的事柄で聞き手の内面 的関与を有しないこと、および質問以外の発話文では話し手が述べる内容が自己 開示的であることが認められた。また、話題導入に続く関連質問や述べ立てにお いてもノダ文の使用が見られた。そして、非既定的で聞き手の内面的関与を含む 内容の質問が話題導入となる場合はノダ文の使用は許容されないことが分かっ た。

 初対面における実際の会話においては、ノダ文が聞き手に対する心理的働きを 表し、それが聞き手との積極的なコミュニケーションを促進する反面、聞き手の 内面領域に深く入り込んでしまいコミュニケーションを阻害してしまう場合もあ る。良きコミュニケーションのためにノダ文と非ノダ文の適切な選択が必要とな る。その選択に本稿での考察結果が役立つものと期待する。

 人間の発話行為は多様かつ可変的であるがゆえに、発話条件を明確に規定する のは難しい。語用上の選択においても明確には二分できずグレーゾーンが存在し 得る。ノダ文と非ノダ文の選択においても同じことが言える。話し手と聞き手の 関係性や心理状態、そして発話現場の状況が大きく影響する。細かいところで本 稿の検証結果との齟齬が生じることもあるだろう。それらを踏まえた上で、ノダ 文の使用条件をさらに絞っていくためにコーパスなどでのさらなる検証を試みて いきたい。

参考文献

奥田靖雄(1990)「説明(その 1)―のだ、のである、のです―」『ことばの科学 4』むぎ書 房

楠本徹也(1998)「ノダ文におけるノの認知作用に関する一考察」『東京外国語大学留学 生日本語教育センター論集』第 23 号,99-109.

久野暲(1973)『日本文法研究』大修館書店

近藤安月子・姫野伴子(2012)「第 4 章第 25 課『のだ』」『日本語文法の論点 43 ―「日本 語らしさ」のナゾが氷解する―』研究社

白川博之(監)庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(著)(2001)『中上級を教える 人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク

田野村忠温(1990)『現代日本語の文法Ⅰ―「のだ」の意味と用法―』和泉選書

(11)

- 10 - 5. おわりに

 初対面会話でのノダ文の表れを検証した結果、ノダ文の使用を動機づける条件 として、話題導入の際の質問において問われる内容が既定的事柄で聞き手の内面 的関与を有しないこと、および質問以外の発話文では話し手が述べる内容が自己 開示的であることが認められた。また、話題導入に続く関連質問や述べ立てにお いてもノダ文の使用が見られた。そして、非既定的で聞き手の内面的関与を含む 内容の質問が話題導入となる場合はノダ文の使用は許容されないことが分かっ た。

 初対面における実際の会話においては、ノダ文が聞き手に対する心理的働きを 表し、それが聞き手との積極的なコミュニケーションを促進する反面、聞き手の 内面領域に深く入り込んでしまいコミュニケーションを阻害してしまう場合もあ る。良きコミュニケーションのためにノダ文と非ノダ文の適切な選択が必要とな る。その選択に本稿での考察結果が役立つものと期待する。

 人間の発話行為は多様かつ可変的であるがゆえに、発話条件を明確に規定する のは難しい。語用上の選択においても明確には二分できずグレーゾーンが存在し 得る。ノダ文と非ノダ文の選択においても同じことが言える。話し手と聞き手の 関係性や心理状態、そして発話現場の状況が大きく影響する。細かいところで本 稿の検証結果との齟齬が生じることもあるだろう。それらを踏まえた上で、ノダ 文の使用条件をさらに絞っていくためにコーパスなどでのさらなる検証を試みて いきたい。

参考文献

奥田靖雄(1990)「説明(その 1)―のだ、のである、のです―」『ことばの科学 4』むぎ書 房

楠本徹也(1998)「ノダ文におけるノの認知作用に関する一考察」『東京外国語大学留学 生日本語教育センター論集』第 23 号,99-109.

久野暲(1973)『日本文法研究』大修館書店

近藤安月子・姫野伴子(2012)「第 4 章第 25 課『のだ』」『日本語文法の論点 43 ―「日本 語らしさ」のナゾが氷解する―』研究社

白川博之(監)庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(著)(2001)『中上級を教える 人のための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク

田野村忠温(1990)『現代日本語の文法Ⅰ―「のだ」の意味と用法―』和泉選書

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寺村秀夫(1984)『日本語のシンタクスと意味Ⅱ』くろしお出版

東京外国語大学留学生日本語教育センター(2001)『初級日本語 文法解説[英語版]』

凡人社

名嶋義直(2007)『ノダの意味・機能 関連性理論の観点から』くろしお出版 野田春美(1997)『「の(だ)」の機能』くろしお出版

益岡隆志(1991)『モダリティの文法』くろしお出版

松岡弘(監)庵功雄・高梨信乃・中西久実子・山田敏弘(著)(2000)『初級を教える人の ための日本語文法ハンドブック』スリーエーネットワーク

三上章(1953)『現代語法序説―シンタクスの試み―』くろしお出版 1972 復刊 Alfonso,・Anthony・(1966)・Japanese Language Patterns Vol.1,・Sophia・University.

付記

 本稿は、第 4 回中日韓朝言語文化比較研究国際シンポジウム(2015.8.18・延辺大 学、中国)での口頭発表をもとに加筆・訂正したものである。

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How to Use “No da” Sentences in the First Meeting Conversation

KUSUMOTO Tetsuya

Key Words: “No da” sentence, First meeting conversation, Pragmatic function, Factual and established infomation, Intervention in personal domain

This paper discusses how a sentence which is structured as “……no da.” (thereafter called a “no da” sentence) is used in the first meeting conversation conducted at an informal occasion as in a party.

A “no da” sentence grammatically functions to make its propositional part stand out and pragmatically serves as an attention getter. When it is used for a conversation in an informal setting, it produces the atmosphere of chatting, which builds a close relation between the speaker and the listener. When it is used inappropriately, however, the reverse effect is invented.

It is observed that, in initiating a topic, a “no da” sentence is used when a question asked by a speaker contains the topic of listener’s personal matters such as name, origin, status, job, period of stay in Japan, and residence, all of which are factual and established matters. On the other hand, in a question asking about the speaker’s thought, feeling and experience, a “no da” sentence is not allowed to use because it may intrude the listener’s private domain.

A “no da” sentence is also used in an affirmative form when the speaker talks about himself/herself as if he/she elucidates. Besides, questions and statements following a topic introduced are structured as a “no da” sentence.

An appropriate use of a “no da” sentence is important for a learner of Japanese to communicate effectively. A further analysis using corpus is expected to prove the property of a “no da” sentence discussed in this paper.

参照

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